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永遠の扉
作者の都合により名無しです
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart78【創作】
漫画雑誌に出したアンケートが確実に集計されるように考えるスレ

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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart78【創作】
127 :永遠の扉[sage]:2018/02/17(土) 23:47:42.56 ID:6JFt3+FR
第101話 「その名は──…」

 沼津からそう遠くない新月村の温泉といえば火傷などの皮膚疾患によく効くとマニアの間で大評判だ。

 しかし錬金戦団の面々がこぞって集結しつつあるのは慰安旅行のためではない。亜細亜方面の戦闘部門最高責任者で
もある大戦士長・坂口照星が新月村郊外に監禁されている為だ。

 新月村。沼津にほど近い山間に存在するこの村には温泉以外にも更に1つ、有名な呼び名がある。

『地図から消えた村』

 現在でこそ東海圏から気軽に日帰りできるアクセスを有している新月村だが、ネット界隈では一時期、地図から消えた村
としてややオカルティックな扱いを受けていた。

 普通、地図から消えた村といえば眉唾物で伝奇的な物が多い。大量殺人があったとか、双子を生贄にする奇祭にしくじり
壊滅したとか、トラウマ的な幻影が住む者を衰弱死させるとか、とにかく寓話的な理由で消え去ったとされる物が多いのだが、
新月村の場合はやや違う。

 一時期だが、本当に、「地図から消えた」のだ。消えていた、というべきだろうか。何にでもマニアはいるもので、明治政府
発行の地図を精査した者がいる。彼または彼女は最初純粋に、明治期初頭各年の地図をタネに廃藩置県やそれに準ずる
統廃合の様子を眺めて楽しんでいたのだが、あるときちょっとした調べ物の為に明治9年から12年までの地図の、沼津付近
のコピーを縦に並べて学術研究に勤しんでいたところふと気付いた。「明治11年の地図にだけ……温泉で有名な新月村が
……ない?」と。
 ただないだけなら当時日本を再構成していた動きの1つに巻き込まれたのだろうと納得できたが、しかし翌年、つまり明治
12年に地図には新月村、ちゃんと載っていたのである。書き漏らしだろうと思いつつもそこはマニア、地図から消えた地名に
纏わるドラマがあるなら知りたいと、徹底解明の構えであちこち巡り資料を集めた結果、真実に、そう、様々な意味での……

『真実』

に行き当たる。

「反政府勢力が、占領……? 2年も……?」

 当時の新月村に向かった者が悉く行方不明に……といった瓦版だけならよくある怪奇話と一笑にも伏せるが、三島某という
新月村出身の人物が兄や両親を殺された憎しみも露に当時の状況を綴った文章を見つけては流石にちょっと信じざるを得ない。

 極めつけは月岡津南なる人物である。津南。美術史を学ぶ者にとっては馴染み深い名前である。明治初頭、伊庭八郎な
どの錦絵で大人気を博した男である。彼に纏わる逸話は多いが、歴史学者に言わせると眉唾ものであるらしい。

 曰く、あの赤報隊の生き残り。
 曰く、絵師をやめる直前、政府機関の襲撃を目論んだものの、伝説の人斬りに阻まれた。
 曰く、たった3発で甲鉄艦を大破轟沈せしめる炸裂弾を作った。
 曰く、その時の戦いで反政府勢力の首魁が、頭部が左右に断裂するほどの打撃を受け死亡した。

 などなど。

 いずれも学術的な観点からすると怪しいと言われており、特に3つ目などはファンの間でも「現在でもそんな爆薬ねえしww
明治で作れるとかないないありえないww」と一笑に付されるありさまだ。

 ともかくその津南、大久保利通暗殺の少し前、絵師からブン屋に転向している。
 それがなぜ新月村と関わってくるかというと、調査能力ゆえのジャーナリズムであろう。
 津南、新月村の住民達に対し、今で言う原告代表の弁護士めいた立場を引き受けていたという。
 この点が、彼が赤報隊の生き残りであったとする説の裏づけである。

 つまり、新月村を見捨てた挙句その事実への謝罪や保障を遅々として行わなかった政府が、赤報隊を利用するだけ利用
して斬り捨てた時の姿に……カブって見えたのではないか。そう推測する津南の研究家は、少なくない。
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart78【創作】
128 :永遠の扉[sage]:2018/02/17(土) 23:48:43.35 ID:6JFt3+FR
 地図マニアには赤報隊生き残りの深い機微までは分からない。
 とにかく津南は新月村代表として裁判に勝つ為さまざまな情報を集めた。
 三島某の手記もまたその1つであるという。そういった政府を弾劾するための証拠集めが、文献編纂が、巡り巡って地図
マニアが新月村の隠された『真実』に行き当たるから歴史というのは奇妙である。




「そして…………占領中、村人さんたちが心根の醜さを…………露呈しまくってたせいで……解放されてからも…………
人間関係が……荒れまくってた……そう、です。占領されたり……荒れたり…………今から私たちとレティクルが…………
ドンパチやったりで…………負の念が……すごい、とこ、です。ラマリス……生まれまくり、です……!」
「ラマリスがよく分からん! というか貴様、全然報告になっとらんわ!!」
「ここは、新月村付近の……山あい……で」
「うん場所は分かっているから! 状況を教えろ鐶頼むから!」
「……それは、無銘くんの、龕灯(がんどう)……。6つあるうち貸してくれた……1つ、からの、ヘリにも実は積み込んでいた
龕灯、からの、映像中継を見た方が…………早い、のでは…………?」
 背後から飛びかかってきた10数体の自動人形が、虚ろな目の少女の腕部によって胴どめに両断され……爆発した。
 彼女の手は鳥の翼だった。機械仕掛けの怪鳥のように、平たい合金で骨を組まれた銀色の翼になっていた。それで人形
たちが斬られ爆散する様を、少女の背後で浮遊する高さ30cmほどの龕灯(ロウソクを使った懐中電灯の一種)の前にうっ
すら浮かぶスクリーンは見つめ続けていた。
「ふう。忙しい、です」
 しゅっと手を人間のそれに戻した少女──鐶──は遅れて落ちてきた携帯電話をキャッチして通話に戻るが
「貴様の状況はだいたい把握した! 我が知りたいのは他の戦況! どうなっている!!」
 大声に、「声……おおきい、です。私がお姉ちゃんだったら、おこ、ですね」と耳をジンジンさせながら、何が嬉しいのかエ
ヘラと笑った。
「ええいなんで貴様は我と電話すると何でも喜ぶ!! どうなんだ戦況は!!
「どう……と言われても」
 直立のままシュっと一瞬その場で消えた鐶。地面が爆ぜた。巨大なマサカリが直撃したのだ。土砂が舞う中、シャっと縦線
を迸らせながら実像を結んだ鐶は、飛びまわし蹴りの姿勢になっており──…

 背後の自動人形の首が、消し飛んだ。

 藍色のミニスカートから伸びるなよなかな白い足は、ふくらはぎの辺りから、戦闘兵器の工学的な意匠を凝らした猛禽類
の鉤爪になっている。
 みずから起こした蹴りの風圧の中、インディゴブルーのミニスカートと、真赤な三つ編みを揺らしながら、どこまでもボーっ
とした少女は、告げる。
「他の部隊と……合流する前に……奇襲されたので…………ここ以外の戦局とか……分からないの……ですが」
「だから! そういった状況だからこその緊急通電とかないのか!!?」
「え……。私、戦士さんたちに…………電話番号……教えてません、よ……?」
「ちーがーう!! 同行してる火渡赤馬に、救出作戦の総指揮官に! 何か連絡はと!! ああもうこやつ鈍い!!!
戦えばめちゃくちゃ強いのに、鈍い!!!」

「……光ちゃんマイペースね」
「この冥王星の幹部の自動人形、自動養護施設でやりあった時より何故かけっこう強くなってんだけどなあ……。ダース単
位でも敵になってねえとか、どんだけ」
 無限増援とかの。矢と戦輪でそれぞれ応戦中の背中合わせな男女が呟いた。少女は桜花、少年は剛太。


「魔術を見せてやるぅ!! ……です」


 身長3mほどの筋骨隆々な自動人形が、背後からの鉄砲水にドンと押された。バランスを崩したところで、傘のごとくに
羽根を丸め旋転する鐶の体当たりを浴び……しばらく火花を散らし削られていたが、胴体を貫通され、爆発した。

「時間も私も、止められはしない! です……!」

 しゅるしゅると翼をほどきながら着地した鐶は、爆光を背負って何やら、決めポーズを。二度目の決定的な爆発が人形を
木っ端微塵に吹き飛ばした。
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129 :永遠の扉[sage]:2018/02/17(土) 23:49:11.87 ID:6JFt3+FR
「わー。さっきまで桜花とゴーチンがめっちゃ苦戦してた巨漢の自動人形、電話片手で一蹴したぞ……」

 ヒキガエルのような声で囁くピンク色のキューピーもどきはエンゼル御前。
 桜花の自動人形で、今は背後をぷわぷわしてる。

「ここらへん大きな川だったんだなあ昔。年齢操作で激流を復活させて」
「隙を作ったところを鳥への変形能力でトドメ。きっとカサゴね。本来は翼で日陰を作る水鳥……だったかしら」
「てかひかるんのセリフ、絶対脈絡ないだろ……

 炎上するヘリを龕灯は映す。創造者たる無銘は電話で、言う。

「その前で今震えているヘリパイロットが、飛行型の自動人形……冥王星の幹部の手勢の急襲であやうく殺されかけた所
までは聞いている。コックピットを潰されながら軽傷で助かったのは幸運だが、とにかく合流地点へ降りるつもりだったヘリ
は墜落! 慌てて飛び出した貴様らは」
「はい……。更に追撃され……ました」
「だから自由落下中、トリ型たる貴様に乗って合流地点へ急行といった最善手は潰された訳だ! で! 合流地点からはや
や離れた場所で冥王星の幹部の武装錬金の波状攻撃を受けているのが今!」

 その通り……です。さすが無銘くん、鋭い、ですと嬉しそうに笑う鐶。
 だが向こうの声は急に曇る。

「……。と、いうかだ、貴様。さっきから栴檀どもの姿ちっとも見えんが、どうなってる」
「え……? はぐれちゃって……ます……が」
「はぐれ……って! お前なーー! なんでそういう大事なこと後回しにする!! あやつらけっこうお前の面倒見てるんだぞ!
姉のことだって気にかけてるし! ちょっとぐらい心配しなきゃ可哀想だろうが!!」
「……あ、いえ……心配してます……けど……。無銘くん賢いから……てっきり、龕灯の映像で気付いてるかなあ……と」

 ああもうこやつホント緊張感ないなあという忍び少年の泣き声が、携帯電話のスピーカーでくぐもった。

 剛太と桜花は嘆息する。

(あいつら……大丈夫かな)
(ヘリから飛び出したの、咄嗟だったものね……)

 脱出途中、銃撃型の人形から、とっさに剛太をかばった香美。攻撃自体は貴信の鎖で弾いたが、その拍子に下を見て
しまったのが悪かった。

「ぎゃ! ぎゃー!! 高いし! 怖い怖い怖いご主人怖いここめっちゃ怖いし!!」
『落ち着け香美!! ちょっと踏ん張れば鐶副長が乗せて』」

 くれるといいかけた所で、彼らは飛行型自動人形の猛然たる体当たりを食らい、弾き飛ばされた。咄嗟に伸ばした鎖があ
と一歩のところで剛太の手には届かないほど遠くへと、二心同体のネコと飼い主は飛ばされた。

(野郎。俺の名前ぜんっぜん覚えられねえ癖に余計なことしやがって……)
「あら。単独行動になったから狙い撃たれそうで不安? 香美ちゃん、ホムンクルスなのに……」
「べ! 別にあんな奴のことなんざ心配してねえし! 俺が一番心配なのは先輩!」
「でしょうね」。ふふっと笑う桜花は何か見透かしているようで、だから剛太はバツが悪い。
「……。ただまあアレがきっかけでくたばられても夢見が悪いつうか。いや! そんなんより核鉄だろ問題は!! あいつら
の核鉄取られたらただでさえ強いマレフィックどもがダブル武装錬金とかしかねないぞ! 俺が心配してんのはそこだ!」
「はいはい」
 ただ微笑する桜花に「笑ってねえで次! 来たぞ!」と叫ぶ剛太。視線の先には地面を隆起させ現れる自動人形。


 人形。人形。自動人形。

 山あいの、緩やかな勾配に両側を挟まれたその道は蛇のようにくねっている。そこめがけ地下から木々の間から、ぬろ
ぬろと自動人形が出てきては一団を攻撃するのである。
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart78【創作】
130 :永遠の扉[sage]:2018/02/17(土) 23:49:29.93 ID:6JFt3+FR
「確かクライマックス=アーマード……だったな。この自動人形どもの元締めは」

 呟く青髪のセーラー服少女の360度の全周囲から長短さまざまな自動人形が十数体、飛びかかった。

「敵の狙いは疑うまでもなく各個撃破。大戦士長奪還のためやってきた私たち戦団の各支隊が合流する前に叩く……。最
善手だな」

 空を舞う人形の群れは、明らかに少女めがけ落ちていく。手にした剣や銃は小柄で細身の女子高生を引き裂くに
十分だ。

「人数の多い私たちに無限増援を差し向けてきた所を見ると、他の部隊にも相性で勝る幹部が差し向けられていると見る
べき」

 黒々とした敵意の、無数の影が頬を覆う中、斗貴子という名の少女は事もなげに進む。
 青銀色の曲線が空間を駆け抜けた、幾つも、幾つも。それに薙がれた自動人形たちはヘラを入れられた粘土細工のよ
うに手を、足を、首を、さまざまな部位を切り飛ばされ、力なく落ちていく。ギィヤィン、ギィヤィン。胴田貫で兜を割るような、
気魄の籠もった、しかし恐ろしく早い流線が斗貴子の周囲で迸るたび迫りくる自動人形たちは戦闘能力を失い散っていく。

「際限なく湧いてくる人形どもは厄介だが……」

 光は、大腿部に着装した金具から起こっていた。自律飛翔する無数の円月刀を暴走させたような有様だった。メタリック
ブルーとプラチナホワイトで構成された薙ぎ払い曲線の乱舞がザクザクザクザクと金属の兵卒を屠っていく。

「もっとも私と火渡戦士長と分断までは目論んでいない以上、どうせ向こうも本腰ではない。こちらも練習と行かせて貰う」

 物言わぬ機械仕掛けですらたじろぐ絶対の威圧感を漂わせながら、少女は静かに呟く。

「試してみるか。剛太に教わった、生体電流のエネルギー放出転換を」

 停止し、首をもたげた処刑鎌の表面のあちこちで、僅かだがスパークが、弾けていく。


「おおー。斗貴子の介、バルスカでサンライトハート操作の練習するらしいね。音楽隊リーダーが複製予定の突撃槍は確か
に最終決戦の決め手候補だからねー、序盤からやっとくに越したことないよ」
「のん気に解説してる場合か!!」
 人形の攻撃をぎゃーっと避けた眼鏡の青年が、狂ったような形相で何度も何度もチェーンソーを振り下ろし、反撃を試み
る。が、刃はチュイイインと細かな破片を飛ばすばかりでいっこう完全破壊に至らない。
「くっそ! 逆向(さかむかい)サンの武装錬金は攻撃した者を165分割する筈なのに! 全ッ然切れないし!」
「もともと震洋の介の武装錬金じゃないからねー。てかそのうち、真なる武装錬金も目覚めるよ」
「……。それなあ。音楽隊の副長のキドニーダガー見てると、なんかなあ、取られてるって気がするんだけど……」
「前世の記憶的なあれかも知れないねー」
「じゃなくて! 見てないで助けろよ!!」
 あいよー。怒鳴られたアーミールックの女性は、震洋が苦戦していた人形を巨大な盾で殴り飛ばした。何本もの木の倒れ
る音の後、彼らからはかすんで見えるほど遠くの巨岩の上の方で人形らしき物体が砕け飛んだ。
「……特性抜きでその攻撃力かよ」
「まあね。鍛えてるから♪ その点、震洋の介とは逆かなあ」
「うるさい殺陣師盥(たてし・たらい)! 僕は搦め手でこそ輝くタイプなんだぞ! 訳も分からず連れてこられた戦いでいき
なりこんな沢山相手に戦えとか……! だいたい僕は桜花秋水みたいに綺麗事言って戦士に属した覚えもないんだよ!」
「まあ別に抜けたきゃ殺陣師サンそれでもいいけどさあ」
 大地を揺るがす轟音と、肉を焼き尽くしそうな熱風と共に震洋の目に映ったのは、勾配の上で膨れ上がる直径100mほ
どの紅蓮の火球。
「あのヒト相手にするよりは、楽でしょ、人形」
「…………」
 眼鏡の少年は、黙りこくった。
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart78【創作】
131 :永遠の扉[sage]:2018/02/17(土) 23:49:49.72 ID:6JFt3+FR
「へっ。無限増援だか何だか知らねェが、相手が悪かったな」

 火球が止んだ森の中。炭化した木々のふもとに自動人形の残骸が転がる中、めらめらと燃える煙草を一服しながら凶笑
したのは火渡赤馬。

「五千百度で蒸発させるまでもねえ。幾らでもやれるぜ!」
「ですが幹部本人が現れていない以上、向こうも足止め程度のつもり……。戦力の逐次投入は愚といいますが、無限増援
を持つ冥王星の幹部が、広域殲滅力に秀でた火渡様に挑む場合は違います。戦士・斗貴子たちだけではやや手に余る程
度の手勢を繰り返し繰り返し小出しにするのは寧ろ正しい。総ての戦力を一気に差し向けるとたった一発のブレイズオブ
グローリーで全滅、させられますから。だから決戦は挑まず逐次投入で足止めする方が戦略上、正しいかと」

 ガスマスクの少女から二酸化炭素の風が吹く。延焼と山火事を防いでいるのだ。

(だろうな)。反論された格好の火渡だが、凶悪な面相とは裏腹に怒らない。

(足止め程度でも戦略的にゃ冥王星の幹部の方が癪だが勝ってる。何故なら──…)


「大駒3人! 私のスーパーエクスプレスでこの上なく釘付けにしているからです!」

 どこかの暗い空間で冴えない眼鏡のロング黒髪アラサー女子が元気よく片手を上げた。

「そう! 私まだこの上なく誰にもダメージ与えられてはいませんが、大戦士長代行として坂口照星さん救出作戦の最高責
任者になっている火渡さんと、名にしおう斗貴子さんと、音楽隊の副長たる鐶さんを戦団本体から切り離せているアドバン
テージは大きいのですこの上なく!! 指揮官の現着を少しでも遅らせれば戦士さんたちは混乱! 斗貴子さんと鐶さん
さえフリーならそんな混乱などこの上ない実力で建て直せるかもでしょうけど、だからこそ! ここでの私の足止めっ! こ
の上なく! 活きるのです!」

 頭を失い惑乱する戦士たちが来援を受けられなければ、実力で勝るレティクルの幹部たちはますます戦力を削りやすく
なる。

「ひいては照星さん救出という戦団の戦略目標も挫けます! ぬぇーぬぇっぬぇっ、私は冴えないアラサーですが、年齢ゆ
えに戦略的な攻め方ぐらい知っているのです! ここで火渡さんと鐶さん、指揮官と実力者を足止めしておくのは戦略的に
有効! 殺せなくても仲間が目減りする時間が稼げればレティクルの戦略目的に対しこの上なく! 有効!」

(……対してレティクルが足止めに使っている戦力は、末席もいいところの冥王星の……幾らでも増産できる雑兵ときて
やがる! 気にいらねェな)

 飛車と角のみならず金や桂馬さえ歩に抑えられている現状に目を剥き歯噛みした火渡。咆哮、した。
「おいテメぇら! いつまでもやりあってんじゃねえ! さっさと合流地点行くぞ!」
「い、行くったって、この自動人形どもけっこう強いんスよ! 斃しながらじゃとても!」
「るせえ新米! クソ弱えテメエと元L・X・Eの野郎ども、あとそこでガタガタ震えてやがる役立たずなヘリのパイロットはト
リ型にでも乗って先へ行け!」
「今の頭数でも波状攻撃に悩んでいるのに人数を減らす……? あ、いや、逆か」
 文句を言いかけた震洋は口を噤む。
「そーなのだよ少年! 火渡の介の火力なら、むしろ味方は少ない方がやりやすい! 君たち攻撃力ひっくい組が去れば
炎はより加速度的に人形どもを消滅するヨー。そしたら今より効率的に捌けるのだぜ! 膠着なぞ終わるのだぜ!」
 ふふんと解説する黒タンクトップ少女。
「つーワケだトリ型。とっとといま使命した連中乗せて飛びやがれ
「……さっき、離脱を試みた時、は…………数の暴力で……邪魔された……のですが……」
「あん時は全員がチンタラ搭乗しようとしてたからだ! だが今度は津村と殺陣師が離陸まで直掩! 俺と毒島は中遠距
離の敵どもがテメエらにちょっかい出せねえよう掃討! それだけしてやって離陸できねえつうなら殺す!」
 それなら戦艦被弾させるな的なSRポイント、取れます……と虚ろな目のトリ少女、無意味に拳を固めたが
(……あれ? なにかとても大事なこと……忘れているような…………)
 小首をかしげる。

「トリ型どもがこの場を離れたら直掩2人はそのままツーマンセルで人形どもを制圧しつつ前進! 殿(しんがり)は俺と毒
島! 今回はケツ持ってやる以上、ちゃんと働けよ津村! ヘマしたらブチ殺す!!」
「……了解」
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart78【創作】
132 :永遠の扉[sage]:2018/02/17(土) 23:51:30.25 ID:6JFt3+FR
 ヴィクターIII再殺に際し行った裏切りをいまだに根に持たれているのを直感した斗貴子だが、強張りは薄い物ですむ。
 桜花は侖(つい)ずる、火渡の指揮を。
(粗暴なようでいて理に叶った采配ね。戦力で劣る私と剛太クンとあと2人をただ先行させるだけなら無謀だけど、輸送する
のがメチャクチャ強い光ちゃんなら……警護も可能、と。しかも方向音痴って欠点を、私たちのナビで補えもする)
 桜花は殺陣師なる新顔の戦士の実力は知らないが、斗貴子が相方になる以上、心配はないと分析する。何より斗貴子に
「ま、お互い頑張るかね?」と先輩風を吹かせている以上、

(……かなりの実力者、でしょうね)

 と推察する。

 巨鳥の形態になる鐶の背中に他の2人ともども乗りながら、桜花はしかし、思う。

(光ちゃんの速度なら合流地点までは1分もかからないでしょうね。けど……問題はこの瞬間的な分断を敵が狙っているか
どうか……ね。私なら他の戦士と同行している火渡戦士長がこういう判断を降すところまでは読める。凄まじい火力ゆえに
射程内から弱い味方を放逐したがるってところまでは……読める。だから孤立した弱い戦力から削るっていう基本的なこと
ぐらい……ちょっと頭のいい幹部なら考える)
(だな)。剛太も桜花の顔色に頷く。
(鐶は確かに強ぇけど、敵幹部は、マレフィックは鐶が2人がかりでも勝てるかどうかだ。残念だけど俺と早坂と、あと鈴木
とかいう元信奉者じゃ、3人合わせても鐶にゃ勝てない。つうか鈴木以外の2人に先輩とブラボーと、根来と千歳さんを足し
てやっと引き分けギリギリの勝利ができたのが鐶……だし。ヘリパイロットはまあ、戦力外だし)
 つまりマレフィック本人が、奇襲のおこぼれを奇襲してくれば……
(私がいる以上、即死はないです……が、持ちこたえられるのは3分ぐらい……でしょうか。特に…………お姉ちゃんが
……出てきたら…………私は…………絶対に動揺……します……)
 鐶の義姉、リバースは敵の幹部である。
(……錬金の戦士に、おとうさんと、おかあさんを殺されたって……そうレティクルに吹き込まれて…………騙されている、
ことを……伝えれば…………仲直りできるかも…………知れませんが…………。でもお姉ちゃんは……私と…………
戦いたがっているようで……)
 説得は難しいと、鐶はそう認識している。

 では先行は死兵なのか?

 違うであろうと思案したのは、斗貴子。
(……むしろ火渡戦士長は奇襲を奇襲しようとしているのかもな)
 いかにも打ちごろな囮に食いつく幹部の柔らかい脇腹を狙っているのではないか……とする彼女の思案は……正解。
(毒島の噴出する超高圧水素ガスに乗って火炎同化すりゃあトリ型だろうが一気に追いつけるんだよこっちは。新米ども
はエサさ。狙い撃ちに出張ってきた幹部どもを叩くためのエサ)

 何処までも凶(わる)い顔つきで、微笑する火渡。

(ま、いけ好かねェが音楽隊の副長が同行している以上、俺が追いつくまでの数秒で全滅ってこたぁねえだろ)
(ちなみに高速で遠ざかる鐶さんたちへの水素ガスの照準セットは、ガスマスクの、伸縮可能な望遠レンズで行います)

 毒島のそれは再殺騒ぎのころ披露したエアリアルオペレーターの一機能である。

 ああそういうコンボね、剛太が納得し、桜花も腑に落ちたところでしかし異議は唱えられた。

「……ベスト・アンサーではないな……です……!」

 鐶の反論に火渡の形相が引きつったのは、一見おとなしげな三つ編み少女にまたも反撃をされたからでもあるが、むし
ろそれより、彼の戦略構想の主幹を占める航空戦力が不随に陥りかけている実務的な不快感もこそ、大きい。

「貴信さんたち…………。はぐれちゃった2人を回収しないまま……合流地点へ飛ぶのは……どう、なのでしょうか……?
貴信さんと、香美さんを…………置き去りにするのは…………私……、したくない、です……!」
 ギリっと歯軋りした火渡に、斗貴子が(いや鐶、それは既に解決しているから、言い募ると火渡戦士長の機嫌がだな)と
仲裁に入ろうと考えた瞬間である。鈴木震洋が発言したのは。
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart78【創作】
133 :永遠の扉[sage]:2018/02/17(土) 23:51:51.34 ID:6JFt3+FR
                                                  めじるし
「あのネコ型なら探さなくても近づいてくるだろ。火渡……戦士長があれだけデカい火球を何発も何発も吹き上げたんだぞ、
木星の幹部との戦いの終わりしなブレイズオブグローリーを見たネコ型の主人なら、何もせずとも向こうから寄ってくる」

 一座は、固まった。

(……なんだこいつ。いかにも勉強以外なにもできなさそうな癖に鋭ッ! てかコイツなんなんだ? メイドカフェでの騒動ん
ときチラっと顔見た気するけど……どういう奴だ?)
(意外だな。イオイソゴとの戦いを判断材料にしているとは。ついさっきの、自分は参戦していなかった戦いを……)
(そりゃあ負けたとはいえ、学校での大決戦のとき、一度は武藤クンと津村さんを弁舌1つで追い込んでたもの)

 頭いいのよ鈴木震洋はと元同輩の桜花に言われては、剛太も斗貴子も納得せざるをえない。

「でも……貴信さんたち……ここへ来る途中も…………ここに来て…………火球を追っていく間も…………単独、で……
幹部に狙われやすいのは……確か……なのでは……」
「他の戦士なら確かにそうだけど」、鐶を背後から肩越しに抱いた桜花は言う。「貴信クンたちは火星の幹部が執心している
んでしょ? だったら他の幹部は言い含められている筈よ。『俺の獲物だ、手を出したら殺す』って」
「まあそれでもディプレスだっけかの火星の幹部と、決闘する羽目にゃなるかも知れねェけど、どーせそれはいつかやる
ことだろ? ネコ型も飼い主も、それは覚悟っつうか、そのためにお前ら音楽隊に入ったって話なんだから……」
「……なるほど…………。『無事に合流できるかの是非じたいは怪しい』、ですが……『貴信さんたちが望まぬ戦いで斃され
る』ことは……回避…………できるの……ですね……」
 剛太の中継ぎで、鐶は整理がついたようだ。
「ディプレスさんと……戦うなら…………加勢したいのが…………本音…………ですが……、貴信さんたちの持つ因縁を
…………考える……と、易々とは……割り込めない……ですし……。私……だって、お姉ちゃんとの決着は……なるべく
一対一が……いい、ですし」
「そーいうの思えるの、お前らが強いからだって。俺ぜってえ嫌」
「剛太クンの言うとおりね。私なんかが単独行動したら他の幹部、きっと放っておかないでしょうね。

(だからこそ火渡様はあなたたちを囮にしようとしてますし。鐶さん以外の、特にレティクルの幹部と因縁のない桜花さんたちを)

 毒島が思う中、斗貴子は、ごちる。

「ともかく、当面の目的は錬金戦団各部隊との合流、だな」

 てめえが仕切るな。火渡は荒み切った眼差しで斗貴子を睨み、檄を飛ばす。

「いいかてめぇら! あくまで最終目的はロートルの奪還だ!! 合流程度でつまずいて足引くんじゃねえぞ!!」



 鐶・剛太・桜花・震洋・ヘリパイロット組……急行開始。


「というか、我の龕灯はどうすればいいのだ? 鐶らについていくべきか、地上進撃組に同行するべきか……」
「私の方にしろ。ただ浮いているだけの龕灯だ、ヘリのような密閉空間ならともかく、生身で高速飛翔する鐶にはどの道つい
ていけない」

 無銘がここまで黙っていたのは銀成残留組ゆえだ。龕灯で決戦場の様子を見る、従軍記者程度の立場だから、方針を
決める話し合いに口を出す権限がないと弁え黙っていた。そんな彼に斗貴子が対処する中、総髪の戦士長は、炎を燃や
す。

(来い幹部。奇襲しな。削りごろの雑魚戦力が別行動だぜ、仕掛けて来い)

 高速で合流地点めがけ飛んでいく鐶。

 梢の中でそれを見つめる双眸は、双子星の満月のごとく爛々と輝いており──…
漫画雑誌に出したアンケートが確実に集計されるように考えるスレ
28 :作者の都合により名無しです[sage]:2018/02/17(土) 23:57:53.11 ID:6JFt3+FR
てs


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