- 【2次】漫画SS総合スレへようこそpart75【創作】
122 :永遠の扉[sage]:2014/04/15(火) 21:05:41.98 ID:np05BWmY0 - では痴漢対策はどうすればいいか?
「大声をあげるとか……だが、それも難しい。というか異性の戦士長には分からない機微がある」 「私……とか…………桜花姉さん……とか……相談に……乗ります」 という訳で女性陣預かり。 「ところでブラボー。他にはどんな護身術があるんスか?」 やられ役の1人、ニキビの多いロンゲ君が手を挙げると防人は胸を張った。 「簡単だ。まず夜道を1人で歩かない。治安の悪い場所にも近づかない。雑踏ではちゃんと前を見てゆっくり歩く。人にぶつ からないように……な!」 「そんなん技じゃないですよ」。ただの注意だ、生徒達はどっと笑った。防人は説教臭さを消すために大げさな身振りを交えた のでそれがおかしかったのだろう。 「ならカツアゲを8割無事でやり過ごす方法とかどうだ」 「何をするんですか?」生徒の問いに答えて曰く「道具を用意する」。 「道具?」 「そ。3000円もあれば調達できる」 「まさか催涙スプレーとかいうオチじゃないでしょうね?」 「いや、そういう攻撃をすると奴らは逆上する。身を守るためのグッズで敵意を買うのはブラボーじゃない。俺のいう護身術は もっと穏便に済ませるものだ」 具体的には? 防人はニカっと笑った。 「ダミーの財布を用意する。1000円ぐらいの奴だ。そこに2000円詰めておけば相手はだいたい納得する」 「あげるのかよ!」 茶髪の少年が立ち上がり鋭い声とともに裏拳をやると一座はまたどっと沸いた。 「まあ、2000円やって済むならそれでいいだろ。ケガしたらもっと損するぞ」 「それで納得しなかったら……本命の財布見つけそうな時はどうします?」 「予め靴下に1000円札を忍ばせておく。そしていかにもトラの子という感じで渡せばほぼ確実だ」 「どこまで用心深いんスか」 「てかブラボー、けっこう体格良くて強そうなのに言うコトしょぼい!」 そういってやられ役たちはまた笑う。ブラボーは頭に手を当て大仰に目を泳がせてみせた。 「まあ、アレだ。迂闊に手を出すとやばいからな。自分がケガするコトもあるが、それ以上に傷害とか殺人は罪が重い。 敵に勝ったはいいがその後の社会生活まで影響が及んだらシャレにならない。賠償金とかどう払えばいいって話だ」 「あー」。 生徒達は一瞬ハっとした顔をするが「まあ、そうですけど」、とりあえず笑う。 「……そうだな。一般人は私たちと違う。敵は人間で、だから殺せば罪になる。戦士長はそうならないよう教えているんだ」 「究極の……護身……ですね」 斗貴子と鐶は頷きあった。 「で! ダミーの財布を確実に渡すにも演技力がいる! 演技もまた体を使う行為だ。つまりキミたちが今回の役目を果た せば……アクションをうまくこなせば、それは巡り巡って身を守る楯となる!」 「誰がうまいコトを言えと!」 「はいはい。ノせられてあげますよー」 そういって生徒達はまた練習に戻る。 (だいぶいい関係を築きつつあるな) 斗貴子がそう見た頃──… 空き教室で秋水とまひろとヴィクトリアは悩んでいた。 「ちーちんがびっきーの正体に気付いたみたいだけどどうしよう」 太い眉をハの字にするまひろは困り果てていた。 「事実をありのまま話す他ない」 秋水は端正な美貌を一層鋭くしながら答える。 「どうでもいいけどどうしてアナタたちそんな離れて座っているのよ」 ヴィクトリアは、ツッコんだ。 2人は同じ列に座っているが、机3つ分ほど開けて相対している。 しかもまひろは椅子に後ろ向きで腰掛けている。ロングのスカートがいろいろ無理のあるコトになっていた。 秋水は黙然と黙り込み 「迂闊に偽れば君の友人の心証が悪くな「いや流すのも偽るってコトじゃない。答えなさい」
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123 :永遠の扉[sage]:2014/04/15(火) 21:06:21.20 ID:np05BWmY0 - 話題を逸らそうとするが阻まれる。
「わ、私が悪いんだよ……」 おずおずと手を挙げるまひろの丸い顔は薄いフレッシュピングである。 「秋水先輩が後ろに座ったときビックリしてついココまで来て」 「呆れた。アナタまだビクついているの? いいじゃない。自分で昨日言ったんでしょ。早坂秋水が好きかも知れないって」 「びっきーーーー!!」 まひろの顔は真赤になった。ポンペイにある有名な「秘戯の間」もびっくりのポンペイアンレッドである。 「どうして私のヒミツを知ってるの! まさかスパイ! スパイなのびっきーは!!」 「いや、私もあの場に居たでしょ。というか避難壕(シェルター)だし、私なしじゃ行けないわよ」 「ふぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 ちょっと膨れ面をしながら目元に涙を溜めるまひろ。 昨日彼女は、秋水と、ちょっとしたすれ違いをしてしまった。結果、彼は謝りにきたのだが、そのときまひろはテンパるあ まり、 ──「私! 秋水先輩のコトが好きかも知れなくて!!」 ──「でもソレが言い出せなくて思わず逃げちゃってたのーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 などとヒドい自爆をしてしまった。 今それを思い出したヴィクトリアが思わず口を押さえるほどヒドい自爆だった。 「け、今朝だってソレ思い出した瞬間、秋水先輩の正面に座っているのが恥ずかしくなったんだよ……」 「思い出すって何よ。まさか素で忘れてたの? 普通忘れないわよねあんな出来事」 女のコらしくない眉毛の下で長い睫が恥ずかしげに伏せった。皺のよったロングスカートに拳がきゅうっと押し付けられた。 「忘れてたの!? 昨日男湯に栴檀貴信捕まえに行った時はまだ覚えてたのに!」 流石のヴィクトリアも声を張り上げた。全くありえないだろう、女子が告白を忘れるなど。 「すすすすっかり忘れてた訳じゃなくて、その、秋水先輩見た瞬間、なんか恥ずかしくなったけど……なんでかなーって分か らなくて、ご飯食べながら一生懸命考えてて」 ここでまひろの双眸が熱く潤んだ。傷みがちの髪の幕を梳きながら頬に手をあて悩ましげに俯いた。細いウェストも軽く くねる。そこまでは恋に悩む正統派美少女だった。秋水もちょっと見とれていた。 そしてサクランボのようにプリっとした唇が震えながら言葉を紡ぐ。 「先輩に告白したコト、タクアン見て…………やっと思い出して」 「え゛っ」 秋水の表情がヒビ入り強化ガラスと化した。 「なんでタクアン見て思い出すのよ…………」 まだ朝なのに1日フルに働いたような疲労感がヴィクトリアを襲う。秋水はと見れば顔に若干縦線が浮かんでいる。 ヴィクトリアは彼がどれだけ告白されたかは知らないが、少なくても翌日忘れられタクアンを見て思い出されたのは今回が 初めてだろう。 幾ら朴念仁でもあんまりな扱いではないか。 秋水とて年頃の男性だ。異性にフザけた扱いをされ平気でいられる訳が無い。 しかもまひろを大切に思っているのだ。傍観者たるヴィクトリアにさえ分かるほど大切に。 なのに向こうはタクアンと同格扱いである。あんまりすぎて、冷酷無比で狭量なヴィクトリアさえ珍しく擁護に回った。 「あのね。早坂秋水は一応この学園のアイドルらしいのよ。中身はともかく顔はいいって言われてるし、剣道は知っての通りで 成績もトップクラス。おまけに生徒会副会長」 「え……秋水先輩、成績トップだったの」 「いま問題にしてるのはそこじゃないわよ! 何!? そこすら分かってなかったの!?」 「俺が成績トップだったのはL・X・Eの活動の一環だ。あまり褒められたものじゃない」 「知らないわよ!! マジメなようでアナタもズレてるわね! ちょっと黙って!!」 マジメに返してくる秋水にますます瞳を尖らせながらヴィクトリアは言う。 「コイツへの告白、タクアン見て思い出すのは勝手だけど本人の前で言うのはどうかって話よ!」 「おお。びっきーが秋水先輩のために怒ってる」 「おこ……ば! 馬鹿ね! 早坂秋水のためなんかじゃないわよ! アナタの物言いがあまりにヒドかったから叱ってるだ けよ!」 「俺のために怒ってくれたのか。感謝する」 生真面目に頭など下げてくる秋水に引き攣れた呻きを漏らすほかないヴィクトリア。顔はまひろと同じぐらい赤い。 「ああもう! アナタたちは自分のコトからどうにかしなさいよ!! 千里の件は私がやるわよ! 私からちゃんと言うから! 沙織にだけ隠すのも悪いからあのコにも言う! ソレでいいでしょ!?」
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124 :永遠の扉[sage]:2014/04/15(火) 21:06:51.96 ID:np05BWmY0 - 「ウン。びっきーがそう言うなら任せる」
鼻息を吹いてユーモラスに頷くまひろにヴィクトリアはコキリとうなだれた。 「どうしたヴィクトリア。気が重いならできる限り助力するが……」 秋水に「いえ」と手を振り首だけ上げる。 「なんで任せられるのよ。一回逃げてるのよ私。それを信じるとかどういう神経よ」 まひろは不思議そうに瞬きした。 「でも今は逃げてないよねびっきー」 「アナタね……」 はあと嘆息する。ヴィクトリアはまひろのそういう所が嫌いで好きだった。無言の信頼という大仰なものをサラっと挟み 込んでくるのだ。あまりに無色透明すぎてただなる無防備の愚鈍に見える信頼を。 実際のところ、今回のヴィクトリアは逃げていない。友人の中で一番率直に心寄せられる千里に人ならざる本性を知られ て恐怖と不安を覚えてはいるが、それでも向かい合おうと思っている。 だからといって完全に逃げを捨てられる訳が無い。 100年だ。100年地下で培った後ろ向きな思考は簡単には変わらない。 「私だって正直逃げたいわよ」。ヴィクトリアはまひろに言う。 「昔、ママに似てるって理由で、千里を食べたいって思ったコト、本当は絶対バラしたくないわ。ホムンクルスで怪物ってい うのは言うわよ。千里だけじゃなく沙織にも言うべきだと思ってるわ。でなきゃこんな私を友達だと思ってくれてるあの2人に 不公平だし。でもホムンクルスなのって、元を正せば戦団のせいでしょ。私は被害者だから、『同情してくれるだろうな』って 打算がどこかにあるのは否定できない。自分だけは特別で無害な可哀想な化け物だから、きっと友情だって続けてくれるっ て…………要するに甘えてるのよ」 言葉を吐くたびどんどん雰囲気が暗くなっていく。マイナス思考のドス黒い紫のオーロラが俯くヴィクトリアを中心に展開した。 「俺がいえた義理でもないが、君は少しマイナス思考すぎないか?」 「じ、自分をそんな悪く言っちゃダメだよ! びっきーは本当は優しくていいコなんだから!」 「ハッ。どうでしょうね」。自虐的な笑みを浮かべ視線を逸らすヴィクトリア。つくづく滅入っているようだった。 まひろはそんな友人をあどけなく眺めていたがポツリと呟いた。 「びっきー最近明るくなったよね」 「どこが!?」 ありえない言葉だった。 「いや、その、前はもっとドン底ーって感じだったけど、いまはなんかヘコみ方が面白い」 ヴィクトリアは無言で笑った。爬虫類のようなスリットの瞳でただひたすらまひろを見て、笑った。周囲の気温が10度は 下がる冷たい笑みだった。 「ゴメン……」 「あなたって本当空気読めないわよね。だから名前で呼びたくないのよ」 「名前?」秋水の問いかけに何でもないと慌てて対応。早朝に貴信から言われた件がつい口をついたとはとても言えない。 ──「まひろ氏のコトだ。他のお二方は下の名前で呼んでるのに、彼女だけはフルネームなんだな」 (フルネームで充分じゃない。こんな空気の読めないヘンなコ…………。そこまで親しくなんかしたくない) と思っているのに、今回の件のような、デリケートで触れられたくない話題には同席させている。 (なんなのかしらね。このコって。私にとってどういう存在なのよ?) 考えても分からない。腹が立ってきたので怒りは総て貴信にブツけるコトにした。そもそも彼とのやりとりをして千里に 正体がバレたのだ。寝てると思い込み、彼女の部屋でつい暴露したヴィクトリア自身も悪いしそれは分かっているから、 別に今後彼を攻撃するつもりはない。だがそれでも内心で行き場のない怒りをブツける位、許されてもいいだろう。 (だいたい何よ。自分だって千里に正体バレた癖に無傷で済んで) 昨晩、思わず香美から交代してしまった彼。千里の反応は「例え人ならざる存在でも斗貴子が見逃している限りは恐れな い」だった。 (私がホムンクルスってコト明かそうと思うのは栴檀貴信のせいでしょ栴檀貴信の) それこそ昨晩の短編執筆時における桜花状態なのだ、ヴィクトリアは。 貴信という捨石があり、それに対する反応が分かったから、前歴を前面に押し出せば何とかなる……などという打算が 脳裡の片隅で動いているのは否定しようがない。
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125 :永遠の扉[sage]:2014/04/15(火) 21:08:20.94 ID:np05BWmY0 - だから、嫌なのだ。
大事だと思っている友人との関係を、彼女らの誠実さを利用して、お涙頂戴でうまく調整しようとしているように思えて、 たまらなく不愉快だ。 というコトをいうと、秋水とまひろは「ネガティブすぎる……」と呆れた。 「姉さんはそういうコト考えないと思うが」 「素敵ね。真の腹黒なら迷わずやるっていうニュアンスが、「姉さん」って単語1つで充分伝わったわ」 毒を吐きながらも頬はちょっと柔らかくなった。いつかまひろにも似たようなコトをいったが、自分のコトになると全く分かって いないんだなと分かった。 「……姉さんには言わないでくれ」 「分かってるわよ」 やけに深刻な表情の秋水に答えるが彼はまったく止まらない。傍に来るやまひろに聞こえぬよう声を潜め囁いた。 「そうは言うが君、昨日姉さんに武藤さんとの顛末を教えただろう。酷い目に遭った。不安なんだ。怖いんだ」 「…………。あれは悪ふざけがすぎたって反省してるわよ。さっきの陰口じみた発言、教えたりしないわよ」 本当だなと2度3度、結構必死に念を押す秋水の後ろから飛んできたのはまひろの言葉。 「きっとびっきーは心を操りたくないほどちーちんやさーちゃんのコト、好きなんだよ」 「千里はともかく沙織とは付き合い短いわよ? なのにどうしてこうも気を遣ってるのかしらね」 案外似た者同士かも知れない。沙織は子供っぽい。ヴィクトリアも100年以上生きてまだ思春期を脱し切れていない。 成長の遅さという点では似たり寄ったりだし、そもそも沙織はまひろほど突飛ではない。場の雰囲気に流されやすくはある が、それをまひろよろしくぶっ壊すヤバさは良くも悪くも備わっておらず、空気もまたほどほどに読める。 (まあ、不愉快じゃないし、騙す必要もないし) 千里ほど憧れもせずまひろほど持て余しもせず。いわゆる普通の友達なのだ。1人だけ教えないのは不義理だろう。 などと考えていると秋水がまだ袖を摘んだ。 「姉さんには」 「しつこいわね……」 呆れた。呆れながらも元はといえば自分の悪ふざけが原因なので、不承不承謝り2度としないと誓う。 余談だが、昨晩、桜花が、風呂上りで斗貴子相手に「らしくもない」挙動をしていたのは、その直前、ヴィクトリアのメールを 見たからである。(防人への連絡のため携帯を開いたところ、未読なのに気付いて読んだ) 「弟が告白される」。それも桜花が憎からず思っているまひろに。 桜花は母親かというぐらい内心小躍りしていた。寂しくもあったが我が事のように喜んでいた。 ──「楽しいのはきっと、みんなが楽しくしてるからよ。みんなが楽しいのは津村さんがいるからよ」 ──「どうした。桜花お前いったいどうした。大丈夫か?」 ──「津村さんはね、もう日常の一部なのよ。まひろちゃんたちにとって、そこに居るのがもう当然になっちゃってるのよ。短気で、 ──強くて、一見近寄りがたいけど優しくて、それこそ何かの部活の副部長のように頼りがいのある人で、だから私もその…… ──『ブレーキかけてくれるかな』って信じて、その、時々、ふざけたり……できる訳で…………」 ──「どうした!? 桜花お前本当にどうした。!?」 ──「とにかく!! 津村さんのような異物がいるからこそ日常は面白いの!! あなたはおしるこにとっての塩なのよ!!!」 ──「異物!? 塩!?」 ── 愕然とする斗貴子を映し鏡に自分らしからぬ行状に気付いたようで、「ぅ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」と声にならぬ声で唸り── ──まひろはおろか小札・毒島よりも幼い顔だった。エンゼル御前にも現われない、10数年秋水以外に心を鎖してきた故の、深層 ──にある幼さが全開だった──それから脱兎のごとく脱衣所を逃げ出した。 ──本文:《死なないでね津村さん。私……。津村さんが死んだら、悲しい!!》 で、この始末である。斗貴子がうろたえたのも、その後、無銘が必死の思いでえっちぃビデオを隠蔽したのも。 元を正せばヴィクトリアのせいなのだ。
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126 :永遠の扉[sage]:2014/04/15(火) 21:09:11.89 ID:np05BWmY0 - そうと気付かぬ本人は、(気付いてもしただろうが)ひたすら自嘲していた。
秋水やまひろとのやり取りで幾分かは気楽になったが、やはりどこかで打算的な自分は許せない。 (間違いでも自爆でも……素直に告白じみたコトできる武藤まひろの方がまだマシよ) まひろは物笑いの種だが、それでも見ていると心に春風が吹きぬけるような爽やかさがある。 尤も、まひろとヴィクトリアでは基盤がそもそも違いすぎる。 前者は秘めたる好意に基づいているが、後者は後ろ暗さが源流だ。 (比べるコト自体おこがましいんでしょうけど) それでもまひろのような眩い存在が傍に居ると……仄かに想いを寄せるパピヨンさえ格別の敬意を払う少女を目の当たり にしていると、ヴィクトリアは自分がどんどん惨めに思えてくる。といってもひどい絶望というよりは、思春期らしいチクチクとし た痛み、誰からも無条件に好かれる存在が羨ましいというレベルで、そういう意味では既にもう、ヴィクトリアの心は、100年 いた闇の地下ではなく、ごく普通の日常に移行しつつあるのだが。 「俺はあまり偉そうな事はいえないが」 思考の世界を切り裂いたのは秋水の声だ。姿勢を正しそちらを向くヴィクトリア。 「たとえ状況が直ちに真実を告げるコトを許さなくても、確約は前に進ませる力足りうる」 一瞬言葉の意味を理解しかねたヴィクトリアだが…………思い出す。 (そういえば。私を地下から連れ戻したとき) ──「君にどうしても話すべきコトがある。寄宿舎に戻ったら……聞いて欲しい」 ──「う、うん。寄宿舎に帰ったらね」 秋水はまひろに約束した。カズキを刺した経緯を話すと。 それは総角が秋水を地下に引きずり込んだコトにより順延されたが──… ──「……すまない。君にいうべき事、後回しになってしまった」 ── まひろは無理な微笑を浮かべながら「大丈夫。待つのは慣れてるから」と頷いて見せた。 ──「だが必ず戻ってくる。戻って必ず話す!」 確約だけは残した。 (あの音楽隊の首魁を下せたのもそれがあるから。戻って話すという覚悟があったから。前に) 目で問いかけると秋水は軽く頷いた。それだけで通じるという事実にヴィクトリアは少なからず驚いた。 (思えば早坂秋水ともそれなりの付き合いね) 対面から1ヶ月と経っていないのに、正に百年の知己、ヴィクトリアがまだ人間だったころから付き合っているような気脈 の通じようだ。 (あの時アナタはこうも言ってたわね) ──「俺は昔……俺と姉さんを助けようとしてくれた者を背後から刺した事がある」 ──「でも君はまだ俺のような危害を振り撒いてはいない!」 ──「君の身がホムンクルスだったとしても、罪を犯していない限りはまだ普通にやり直せる! ──君の瞳は冷えてはいるが、決して濁ってはいないんだ! 昔の俺のように濁ってはいないんだ!」 だからヴィクトリアはまだ逃げていないし、千里や沙織に、人外であるという事実やその経緯だけは話そうと思っている。 「後回しのようで気が引けるけど……いま言える本当のコトはちゃんと千里たちに言うし、それでも言えない部分があるって コトもいうし、それはたぶん2人を怖がらせるってコトだって、しっかりと……伝える」 ベストじゃないとは分かっている。他人にはまだるっこしく映るだろう。「いつか」を弱さゆえ永遠に先延ばすのではないか という危惧もある。
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127 :永遠の扉[sage]:2014/04/15(火) 21:12:12.75 ID:np05BWmY0 - けれど人はいつでも大きな一歩を踏み出せるものではない。泥沼に囚われたものはモーションだけみれば笑えるほど卑小
な一歩をずっと繰り出しているものだ。しかしそれとて積み重なればいつか難路を踏破する……ヴィクトリアはそう信じている。 でなければ、白い核鉄という、前人未到の研究に挑んだりはしない。 千里とそれは無関係のように見えるが、ヴィクトリアの中では不可分なのだ。 何か1つに事象の対し逃げを選べば精神はそこからたわみ静謐な緊張を失う。これも逃げていいあれも逃げていいと思う ようになり……いつか地下へと逆戻りだ。 それが嫌だから、引き上げてくれた秋水やまひろに抱く決して声高には言えない感謝を返したいから、拙くてもわずかでも、 『1歩』踏み出そうと足掻いているのだ、ヴィクトリアは。 訥々とした語りを聞き終えるとまひろはグっと眉をいからせ拳を握った。 「心配ないよ! 猫被ってるびっきーも素直じゃないびっきーも、両方とも本当のびっきーだよ!」 「本当アナタって、好感度の上がらないコトばかり言ってくれるわね」 ヴィクトリアの悩んでいる部分とは微妙にズレているし、茶化しているような物言いでもある。 けれどまひろはまひろなりにヴィクトリアの持つ厄介な乖離を肯定しているようだ。 いじられ揺らめく黄金の針束の傍の頬は呆れを湛えつつもやや赤い。 「大丈夫大丈夫。ちーちんにもさーちゃんにも言っておくよ」 「何をよ」 「いざとなったら、がぶがぶ係は私のモノって」 意味不明だがだいたい察したヴィクトリアがツッコむより早く、 「びっきーにがぶがぶ! ってされるのはこの私だ! って言うから大丈夫」 「いやそういうのいいから」 「お尻のお肉ならちょっとあげるよ?」 「いらないわよ」 半眼でぼやく。前も似たようなやり取りがあったが、どうもまひろは本気で言っているらしかった。 「とりあえずホムンクルスってコトは言うわよ。沙織にだって言う。でも、千里に対する食人衝動だけは別。すぐは無理」 「それでいいと思う。君自身の気持ちの整理もあるし、立て続けだと若宮さんたちのショックも大きい」 秋水が言うとまひろも頷いた。それだけでホッとする自分に戸惑うヴィクトリアだ。 (私は……私が思っているよりずっと) 2人を信頼しているのかも知れない。もし彼らと同じ言葉を自分で紡いだらきっと逃避だと嫌悪するだろう。 なのに秋水の、ある意味ではかつてカズキの件を先延ばしにし続けた男の、言葉に、「それでいいんだ」と安心している。 他者が同じコトをしたのなら傷の舐めあいと断ずるだろうに、だ。 まひろについては、ようく考えると今回碌なアドバイスをされた覚えがないが、味方で、橋渡しもしてくれるのは分かった。 言葉より態度の人なのだろうと今さら思う。口先だけじゃなく存在総てで物事に当たるから、時には非常に疎ましく思える。 けれど何事にも全力だから、事態をよくできるのだろう。 「とりあえず今から千里に話すわ」 「今から?」と秋水は眉を顰めた。桜花から聞いたタイムスケジュールによれば、今ごろ千里は就寝中かさもなくば勤勉にも 予定を繰り上げ執筆に勤しんでいるかだ。いずれにせよヴィクトリアの正体というショックの大きい話は控えるべきではない か? 「そうかなあ。起きてるなら早いうちに言ったほうがいいと思うよ」 まひろが言うには、台本はかなり神経を使うらしい。 「私も10行書いたところで力尽きたよ」 「あ、ああ」 気の無い返事を漏らす秋水に構わず続ける。「たぶんびっきーのコト聞いてから、色々考えちゃってる」。 「そ。千里はデリケートだから。私への対応に気を取られてる。筆が遅くなってる。パピヨンから演劇部を預かっている私と しては、その辺りもどうにかする責任があるの」 「早く話をすればその分台本のあがる確率も高くなる、か」 「そう」 言葉少なに頷いて部屋を出ようとするヴィクトリアに秋水は声をかけた。 「パピヨンとは上手くやっているのか?」 ヴィクトリアに少し動揺が走った。別に彼との白い核鉄製造は悪事ではないし、そもそもサプライズプレゼントとばかり、 密かに用意しているものでもない。ただ迂闊に期待を持たせて失敗に終わるのが怖いので黙っているだけだ。 だから秋水が勝手に気付いたというならそれはそれで構わない案件だ。 ただ、なぜ分かったのかという疑念が鋭い破片になって心臓を直撃した。
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128 :永遠の扉[sage]:2014/04/15(火) 21:13:28.82 ID:np05BWmY0 - 「総角たちとの戦いが終わった後、パピヨンが言ったんだ。君を探していると」
疑問は解けたが新しい凝固が生まれる。 「……そんな話、初めて聞いたわよ。結構前じゃない。普通ならすぐ言うでしょ。アイツに気をつけろって」 まひろはよく分かっていないようだが、パピヨンとの仲睦まじさについては、からかう程には知っているので特に何も言わ ない。 「彼の性格はだいたい知っている。厳密にいえば、彼の血族の形質は充分知っている」 かつて盟主として従っていたDr.バタフライについて秋水は手短に語り、 「1人の人物のため全力を尽くす家柄なんだ。パピヨンもまた武藤との決着を望んでいる。彼のためにならないコトはしない。 そして武藤の願いは命を守る……それだけだ」 つまりパピヨンに接触されたヴィクトリアも悪事には加担しない、そう秋水は心から信じているようだった。 「そんなの……他の戦士は……」 「色々あったが大丈夫だ。心配しなくていい」 その色々に想いを馳せてやまないヴィクトリアだ。あの日、学校で鐶との決着がついた後、戦士たちが慌しくどこかに 行ったのは知っている。つまりパピヨンの言葉は防人達にも聞かれた公算が高い。となれば、黙っていないのは斗貴子 だ。パピヨンがヴィクトリアと接触する。L・X・Eの基本図の縮小ではないか。黙って看過する斗貴子ではない。 そしてヴィクトリアの想像はほぼ当たっていた。実際、ヴィクトリアを巡って一悶着あったのだ。 (説得……したんだ) ヴィクトリアならきっと錬金術を正しく使えると信じて。 筋だけいえば斗貴子の危惧の方が正しいのだ。パピヨンは生誕の際、20数人を喰っている。その研究のための犠牲者 は今年の銀成市の失踪者数を全国平均の2倍にまで押し上げた。そんな人物の元に、今夏戦団をほぼ壊滅状態に追い やった存在の娘を、個人的にも戦団に恨みを持つホムンクルスを行かせるなど、本来絶対やってはならないコトなのだ。 しかもそれを推進するのが、L・X・Eの二大巨頭につき従っていた信奉者で、しかも斗貴子の想い人を後ろから刺した 人物とあればもう、冷静な議論で終わる方がおかしい。 なのに秋水は大丈夫というのだ。どれほどの責任を背負い込んだか想像するだに余りある。 「そう。ありがとう」 前髪から双眸に影を落としながら、ヴィクトリアは教室を出た。 廊下を歩く。 1歩。2歩。立ち止まる。 少し、涙が出た。 秋水やまひろのためにとやっていた白い核鉄の研究は、実のところ前者によって支えられていたのだと痛感した。 彼が斗貴子相手に、道理を曲げた、一種非合法な抵抗をしなければ、ヴィクトリアはパピヨンから引き離され、やっと 見つけた希望さえ叶えられなくなっていたかも知れない。 斗貴子は正しい。悪い訳ではない。言動は過激だが、それだってまひろたちのような日常に生きる存在を全力で守ろう とする真摯さの裏返しに過ぎない。なのに道理を曲げさせるのは侮辱であり裏切りだ。 (私は……千里や沙織にちゃんと話す。今は無理でも、人喰い衝動のコトだってなるべく早く) 辛くても痛くても、正しく生きなければならないと思った。でなければ秋水への示しがつかない。 斗貴子はあまり好かないが、それでも、「守りたい」と思ったものを、世界の勝手な都合で捻じ曲げられた挙句、無残に 打ち砕かれ奈落に突き落とされるのは……やっぱり嫌だった。 ヴィクトリア自身そういう目に遭わされたのだ。言い換えれば、他者に同じ思いをさせたとき、ヴィクトリアは憎んでやまな かった戦団やホムンクルスと同じになる。 (でも……白い核鉄さえ作るコトができたのなら) きっと秋水やまひろのみならず、思いを挫かれ、憤っていた斗貴子さえ報われるだろう。
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129 :永遠の扉[sage]:2014/04/15(火) 21:13:59.77 ID:np05BWmY0 - (見てなさいよ津村斗貴子。今回だけはアナタの間違いだって教えてあげる。喜びながら「ホムンクルスのお陰か」って
少し苦い思いしなさい) ひねくれた愉悦を浮かべると、少しだけ正体を暴露する恐怖が薄れてきた。 ホムンクルスでも正しく生きるコトはできる。何度か接触した音楽隊の面々は少なからず誰も彼もがいい見本だった。 「ついて行きたいけど、びっきー的には1人の方がいいよね」 「ああ。彼女は彼女なりに思うところがあるんだ。それを信じよう」 残された秋水とまひろはヴィクトリアに幸運が訪れるコトを祈った。 祈ったのだが 「!!」 急に紅くなって飛びのいたまひろに秋水は嘆息した。 「俺が退室する。君の方も整理を付けたいだろう」 「おおお、2人きりってコトに気付いて焦った私を察するとか流石先輩」 リンゴのように染まった顔をそれでも感心に染めてまひろは答える。 「じゃなくて!! ああ、そんな、秋水先輩をひとり追い出すようなマネなんかしたらアレだよ、私進歩がない、全然進歩が ないよ!!」 「いやだから、まずは気持ちの整理というか冷却期間を……」 「え! 冷却期間! 付き合っていないのにもう倦怠期! 私飽きられた!? 捨てられちゃう!?」 「頼むから落ち着いてくれないか」 流石に秋水にも焦りが浮かんできた。もし通りかかった者に聞かれたらスキャンダルに発展する。秋水自身はまあ、元々 脛に傷のある身、銀成学園の生徒を化け物のいけにえにしようとした過去に比べれば女性問題など大したコトはないのだが、 まひろの方がバッシングを受けるのは忍びない。実際まだ付き合ってもいないのだ。今は恩人の妹として遇したいのだ。 「ゴメン……」 まひろは静まった。シュンとなり申し訳なさそうに目を閉じた。秋水は聞く。「君はその、つまり、どうしたいんだ?」。 「どうって?」 「言いにくいが……その、俺への感情」 言ってから秋水は少し首筋を赤くした。本当は、文脈としては、土壇場で竹刀をやたらめったら振り回す後輩に、「本当は どんな攻め方をしたいんだ」と質問し、答えによってより適切なやり方をアドバイスするという、剣道部的な、筋道の通った 問いかけをしたつもりだった。だがいざ言葉を放ってみると、どうも空気との兼ね合いで妙な化学反応を起こしたらしく、非常 に気恥ずかしい。(口説いているようではないか)、そんな思いさえ去来した。 (………………) いつだったか、演劇で対戦する劇団の、リヴォルハインなる巨漢が言った。 ──「秋ぽん自身の実感というのはどうなのであるか?」 ──「あまりマジメに考えすぎず1つ素直になってみるのも手である」 秋水はそういう目でまひろを見ないようにしている。例え彼女に頼まれたとしても、恋愛関係を築くのは、カズキを失った 傷心につけこむようで嫌なのだ。彼を刺した贖罪さえ行っていない男がどうしてその妹と付き合えよう。 まして秋水の父親が浮気をした。一度だけ見た両親はそのせいでひどく争っていた。桜花と秋水がアパートの一室に 監禁され生死の境を彷徨ったのだって浮気が原因だ。浮気相手が双子を誘拐したせいだ。 ……もし、傷心につけこんだ挙句、父親と同じ轍を踏んだら? カズキを刺したコトよりもっと辛い思いをまひろに味あ わせてしまうだろう。 (共に居れば心は落ち着く。けれど横顔を見ているだけでいいんだ。俺はそれで満足なんだ) ころころと変わる表情。温かい笑顔。時おり見せる、心から人を気遣う心配そうな顔。 眺めているだけで秋水は救われた気分になる。もう顔も思いだせない父が見せたこの世の様々な醜さとそれに対する 諦観が、まひろという存在を見るだけでポカポカと解きほぐされていくようだった。
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130 :永遠の扉[sage]:2014/04/15(火) 21:14:45.21 ID:np05BWmY0 - そんなコトを考える秋水が。
清潔感溢れる見目麗しい青年がなんだか甘酸っぱい雰囲気を醸しながらじつとまひろを眺めるのだ。 これでときめかない女子はいない。だいいちまひろは昔、兄を叩きのめした秋水に他の女子ともどもキャーキャー言って いた。目の色を変え口をモニュっとさせた緊迫の夕焼け顔になるのも無理はない話だった。 「ど、どうって」 動悸が高まる。どんぐり眼を困ったように細めながら考える。まとまらない。けれど何か言わなければ進めない。 「秋水先輩のコト、嫌いじゃないよ。お兄ちゃんのコトはショックだったけど、今でも一緒に謝りたいし、それで前に進んで くれるなら嬉しいって思うよ。で、でも……その好きっていうのが……お兄ちゃんや斗貴子さんや、ちーちんやさーちゃん やびっきーが好きって気持ち……と、その、違うのか同じなのかは分からなくて…………」 言うたびまひろの顔は赤くなる。秋水の首筋も赤くなる。 それをみたまひろはいよいよ同様の極地という風で、目をグルングルンさせながら秋水の肩を掴みブルンブルン。 「あああ!! どうしよ秋水先輩、どうすればいいかなあっ!! 私こんなんじゃ迷惑だよね! お話だってちゃんとでき ないし実際さっきのびっきーの相談だって各個撃破だったし!」 「各個撃破!? 俺たちは負けたのか!?」 本気で焦り先ほどのヴィクトリアを思い出す。とりあえず逃げる気配はなかったので安心する。 そこでまひろの頭の傍で豆電球が閃いた。 「そうだ! いっそ付き合っちゃえば……」 秋水の顔を見た瞬間、まひろは黙った。黙ったまま机の前に行きヘッドバットをかました。 「!?」 「いま私……すっごいコト言いかけた……。すっごいコトを…………」 伏したまま呟く。栗色の髪が赤熱するほど恥ずかしがっているようだ。 「正直俺にはどうしようもないコトだが。無理をするのをやめる……っていうのはどうだろう」 「無理を?」 伏したまま面を上げるという器用な真似をするまひろに秋水は頷く。 「俺は、ありのままの武藤さんにこれまで救われてきた。無理をせず、自分なりの言葉で、いつも一生懸命俺に向き合って くれた武藤さんだから、俺は尊敬しているし、感謝もしている」 恥ずかしくて近づけないないならそれでもいい。それでもきっと、武藤が帰ってきた時は、必ず一緒に謝ってくれる…… そう信じている。とも秋水は述べた。 まひろはしばらくおずおずとしていたが、座ったまま背筋を正し、立っている秋水を上目遣いで見た。 「で、でも、秋水先輩とお話するのは嫌じゃないよ……?」 照れているような申し訳なさそうな、それでいてしっとりとした好意に濡れた瞳に秋水は少々面食らった。 嫌じゃないのに恥ずかしがって微妙な距離にいる。難儀な少女だった。 「そうだ。無理をせず秋水先輩に接する方法思いついた!」 「なんだ?」 「ええとね。私が普通に好きな人たちへの反応を当てはめてみるの」 「……つまりどういうコトだ?」 秋水は首を傾げた。こうやってまひろ特有のカオスにいちいち真剣に対応するからだ。この男が貧乏くじを引くのは。 「例えば岡倉先輩やー、六舛先輩に大浜先輩にしてるような対応をしてみるの。そしたらあまり照れずに済むし、秋水先輩 はどう違うのかなーって分かると思う」 「そうか。まぁ、君が満足なら異論はない」 要約すると「よく分からないがそれで気が済むなら」である。諦めである。 「という訳で〜。まずは秋水先輩をお兄ちゃんに設定します!」 「そうか」。秋水から表情が消えた。呆れ果てているのだが止めないあたり付き合いはいい。 「みゅみゅみゅ。みゅみゅみゅ。あ、コレはお兄ちゃんレーダーを変換してる音デス」 「そうか」。秋水の声が上ずった。顔も青ざめている。食虫植物に喰われかけるハエの表情だった。 やがてエネルギーの充填は完了した。まひろは元気よく手を当てて秋水を呼ぶ。 「お兄ちゃん!」。…………言った瞬間開く教室の、ドア。 「なにアナタたちまだ居たの」 入ってきたヴィクトリアは凍りついた。秋水もまた真白になった。まひろは……」 「ふぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」 鳴いた。泣くではなく、鳴いた。 「お兄ちゃん、ね」 ヴィクトリアは冷たく目を細めた。秋水を問い詰めるような表情になった。 「どうせあのコが勝手にやったんでしょうけど、万が一アナタの発案ならそれこそ姉にチクるわよ?」 「ち、違う! 俺じゃない! これには色々深い訳が──…」
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131 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU [sage]:2014/04/15(火) 21:15:20.19 ID:np05BWmY0 - ややあって。
一通り事実関係を把握すると、ヴィクトリアは嘆息した。 「呆れた。兄の代わりにはしないんじゃなかったの?」 「ち、違うよ! 誰風に接すれば無理せずいられるか試したかっただけで、代わりになんてそんな!」 「しかしこの作戦も失敗となると一体どうすれば……」 真剣に悩み始めた秋水だが、ふと視線をヴィクトリアに移す。 「? そういえば君、若宮さんや河合さんとは」 「話したわよ」 ヴィクトリアが述べたところによれば以下の通りである。 千里の部屋に行くと、2人は既に台本チェックを行っていた。来訪に気付いた千里はやや硬い反応を浮かべたが、ヴィク トリアはやや息せき切りながら自分の正体や、なぜそうなったかを述べた。戦団によってホムンクルスとなった経緯は、極力 泣かないように気をつけた。涙で同情を買いたくなかった。なるべく感情を交えず事実だけを述べて、そこをどう判断するか は2人に委ねようとした。千里は最初驚いたようだが、段々と静かな表情になり、ずっと黙って聞いていた。逆に沙織は驚き 続けていた。目をムーンフェイスみたいにしながら「え!」とか「えー!」とか叫んでいた。 やがて総てを語り終えると、千里はそっと肩を抱えて「よく話してくれたね」とだけ言って笑った。 沙織の方も「うんうん」と納得したように笑って頷いた。 「……食人衝動のコトはまだだけど、それでも少しだけ気持ちに整理がついたわ」 目が赤く、まなじりに涙の跡があるコトを見つけた秋水とまひろだが指摘はしない。 きっとどこかでヴィクトリアは泣いたのだろう。受け入れてくれた千里や沙織を思い涙したのだろう。 それを言わないのは、きっと1人で大事に抱えて行きたいからだ。 だから秋水とまひろは、見つめ合って頷き合う。 いまはただ、辛い壁を独りで乗り越えて人知れず泣いた少女を笑って祝福しようと決めて……そうした。 以上ここまで。
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