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◆C.B5VSJlKU
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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
212 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 19:55:44.90 ID:yuRFNhGI0
(…………身内との確執、か。慕う者に虐げられるとは、哀れな)
 そう憐みながらも「もし自分が小札や総角に見捨てられ、人型になれぬコトを誹られたらどうするか」を考え、胸をチクリと
痛ませる無銘はいかにも少年臭い。彼は自分の勝手な想像に怯えた。親のように慕う彼らの役に立てるなら不惜身命の
心構えでいかなる痛苦も避けないが、見捨てられるコトだけは恐怖だった。
(だが!)
 つぶらな瞳に怒気を孕んだ光が燃え盛るのを無銘は止めようがなかった。
(こやつの姉はこやつを見捨てたも同然! 5倍速で年を取るだと! フザけるな! 不死のホムンクルスが年老いていく
というのなら先に待ちうけるのは果てしのない地獄! 20年もすれば死ねぬだけの老体を引きずりまわすだけの存在に
成り下がる! なぜよりにもよって身内をそうしたのだ!!)

 無銘は改めて玉城を見る。まだまだランドセルが似合う幼い姿。時折うすくまくれる唇のあいだから白磁がごとき乳歯が
見える。にも関わらず肘はない。いつか見た戦場のフォトグラフ、迫撃砲に巻き込まれた少年兵が玉城に重なり滲むたび
無銘の瞳は蒼き業火に彩られる。



(あれから……7年)





 雷鳴。瞬く女学院。去りゆくルリヲ。くすぶる梢が大雨に洗われる。





(何も変わっていない。何一つだ。何一つ我は……)




 力なく零れる白い腕に手をのばす。掴めない。泥が散り鼻を穢した。腕は暗褐色の土汁に塗れたきり動かない。雷轟が
生白くあぶる世界の中……チワワが一匹、低く屈み腕を嗅ぐ。高く軋んだ鳴き声は哀切で──…



 浮沈特火点とヘスコ防壁の果て、墓標のように突き立つ餝剣(かさだち)の鏡面世界の中、鳩尾無銘は泣きじゃくった。






『生まれた初めて繋がりを見出した』……少女の儚い結末に涙があふれて止まらなかった。




(あれから何が変わった? レティクルを止める事はおろか、人間形態さえ未だ獲得できずにいる…………!!)
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
213 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 19:56:08.22 ID:yuRFNhGI0
 雨が止んだ。いや、周囲ではまだざんざと降り注いでいる。照り返しの細かな霧は見るだけで芯から冷える。それでも
無銘はもう雨に打たれない。世界は移る。黄土に淀む泥水面から天空へ。首をあげた無銘は見る。自分と同じ表情を。

 小札はしゃがみ込んでいた。一瞬とても泣きそうになりながら、ニコリと笑い手を伸ばす。

 その後ろに突っ立つ総角は傘を無銘にかざしている。視線が絡むとプイと顔を背けたが金髪も肩も雨に濡れるがままだ。



 自分たちに傘を翳さない彼らを見た瞬間、無銘の中で何かが溶けて──…




(……感傷に浸ってる場合ではない!! こやつが傷だらけ? 当然ではないか!! 負わせたのは師父たち、師父がそ
うされたのはこやつが襲ってきたせいではないか!!)

 そして事情はめぐりめぐって敵対特性発動を要求している。使命。果たさぬは背信、無銘はただ震えた。師父と慕う男、
母と仰ぐ少女。仮に申しつけを果たさぬとも彼らは笑って許すだろう。そんな不壊の信頼あればこそ報えぬ自分を恐れて
いる。

(フン。何を迷う? 我は忍び。古人に云う。忍びに三病あり。恐怖、敵を軽んず、思案過ごす。彼我の状況など考えずやる
べきコトのみやればいいのだ。なのにどうして迷う。我にとっては師父と母上の命こそ至上……情にほだされそれさえ実行
できねば育てて頂いた意味がない! こやつの事情、優先するにあたわず!)
 このまま兵馬俑の手首を咥え、奴を攻撃し敵対特性を発動させればいい……そう決意して引き返した無銘は朽木の刺さっ
ている妙な土まんじゅうを見つけ「はて?」と立ち止まった。
「妙だな。昨晩戦った時はこのような物はなかった。一体何が……」
 犬の嗅覚は確かに腐臭を捉えた。耳をそばだて玉城の様子を観察すると、まろやかな寝息が聞こえた。ならば大丈夫か
とばかり好奇心の赴くまま土まんじゅうをかき──…
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 山頂に少年無銘の絶叫が響いた。
「どげしたん?」
 小屋から寝ぼけ眼で出てきた玉城は、あたかも人間のごとく尻もちをつくチワワを見た。
「ほぇ」
「生首!! 蛆の湧いた生首が我を睨んで! うえええ!? ほれ! やっぱり睨んどる! 祟られる!」
 あたふたした様子で土まんじゅうと玉城を交互に見まわす無銘に淡々とした声が注いだ。
「その人は……ここのホムンクルスたちに……食べられた……よう……です。だから……埋葬しました……」
「……貴様は一体、何なのだ?」
 直立不動して尻をぱんぱんとはたく無銘の表情は硬い。
「我たちに仕掛けて来たかと思えば姉のコトで泣き、かと思えばホムンクルスに喰われた者を弔う。そもそもどうして仕掛け
てきた? 答えろ」
「話せば長くなりますが──…」











 玉城光の7歳の誕生日に、それは来た。





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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
214 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 19:57:10.23 ID:yuRFNhGI0
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 1人減った食卓にケーキを置いて誕生日を祝っていると。

 扉が、開いた。

 見慣れた姿が、ゆっくりと部屋に流れ込んできた。







『ただいま』









 驚愕に目を開く一家目がけて空気の奔流が炸裂した。ケーキにも着弾したそれはスポンジもクリームも貪欲に食い破り
華やかな祝いの席を恐るべき暴力世界へ変貌させた。

 扉を開けた玉城青空はにこやかに微笑みながら歩みを進めた。
 服装は失踪した当時とまったく同じ。質素なサマーセーターにジーパン姿。しかしそれらは1年の失踪を経たにしてはあま
りに小奇麗すぎた。まったく垢切れていない様子からすると他の衣服を着られる環境に身を置いていたようだった。光はそ
の環境を、この1年で姉が送ってきたであろう人生を想像し、戦慄した。両親も同じだった。

 いつもと変わらぬ笑みを湛え。
 いつもと変わらぬ佇まいで部屋の入口に立っている娘。

 彼女を見る目は恐怖に満ちていた。正しく言えば、娘が右手に握りしめている物体を見る目は──絶望と驚愕と生命危機
に瀕した生物ならではの絶対的恐怖に支配されていた。

 イングラムM11。別名・MAC−11。

 少女が持つにはあまりに巨大すぎるサブマシンガンだった。
 本来は聖書サイズにすぎないそれの銃口は、丸いサプレッサー(減音器)によってどこまでもどこまでも延長されていた。
延長という意味ではグリップから限りなくせり出した延べ棒状のロングマガジンも同じだった。つまり青空はそこに詰まった
弾丸によって銃撃時間を延長したいようだった。一発でも多く、しかし静かに。相反する感情を元に銃弾を撃ち尽くしたがっ
ている……。

 虫食いだらけのチクワみたい……と光が思ったサプレッサーはケーキの延長線上で静止している。狙撃したのは間違い
なく青空であろう。しかし彼女自身の雰囲気はちょっと遅れてパーティ会場に入って来たような感じだった。殺気も怒気もなく、
顔はどこまでも笑顔に彩られ……構えた。失踪するまでと寸分違わぬ笑顔のまま右手のサブマシンガンを──…彼女らし
からぬラフさで。

 半身の構えはインラインスタンスに似ていたが、本来腰の辺りへ添えるべき左手は軽く後ろへ伸ばし、胸を張り相手を威
圧するように顎を引いていた。軽く、あくまでも軽くだが、光たち一家を見下しているようにも見える青空の白い指が引き金
に伸びた瞬間、父親が弾かれるように飛び出した。青空は何を思ったのか銃口を、孔ぼこだらけの減音器ごとスッと下げた。
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215 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 19:57:51.24 ID:yuRFNhGI0
 声にならない声をあげ、銃口の残影をすり抜ける父親。彼は娘目がけて数歩たたらを踏み──にこやかな笑顔に突き飛
ばされた。光の前で凄い音が鳴り響き、ケーキの残骸から芯の焦げたローソクが1本転げ落ちた。その先で苦悶を浮かべ
る父親は、どうやらテーブルの角で背中を強打したようだった。
 2度目の銃撃が一家を襲った。放熱孔まみれのサプレッサーで減音されたとはいえ一般家庭を脅かすには十分な大音声
が響き渡った。

 畳には無残な穴があき、そこめがけて赤い奔流がとろとろと流れ始めた。父が呻いた。右手の中指と薬指が第一関節の
辺りから吹き飛ばされていた。咄嗟に光たちをかばおうとしたのだろう。彼は妻子の前で膝立ちしたまま脂汗をダラダラと
垂らしている。
 青空はこれが私の専売特許よといわんばかりの笑顔のまま、左手である地点を指差した。

『ただいま』

 畳に開いた弾痕は確かにその文字を描いていた。綺麗な文字である。教科書体を寸分違わずトレースしたような筆跡は
間違いなく青空のものだった。光はおつかいにいく時よく書いて貰った買い物のメモを思い出した。その文字に比べれば
かなり大きく、たとえば新聞の見出しぐらいの大きさはあったが、それでも綺麗で丁寧な文字だった。
 更に銃撃が一家の前を薙いだ。そして『ただいま』の後にこう書いた。

『ハーイ皆さんお元気かしら! 私の心は今日もぴーかん青空模様! ありゃ? もしかして……ドン引き? まー仕方な
いわよねー。失踪してたお姉さんがいきなりサブマシンガン持って帰ってきたんだもの。これはビビリどころ通り越してギャ
グよねギャグ』 

 光たちは息を呑んだ。違う。彼女らの知っている青空とは何かが明らかに違う。常に大人しく無言でニコニコしていた青空
からは到底想像もつかない口調である。メールや手紙の時だけ饒舌になる人間もいるにはいるが……この文面に溢れてい
るのは変化。この1年で青空が遂げてしまった……決定的変化。

『あ、でもだいじょぶだいじょぶ。コレ、実は文字書くための道具なの。だってぇ、喋ったトコロで聞き返されちゃうのがオチ
なのよねー。だから書き用。撃ったりしないわよー。何しろ意外に反動あって乙女の細腕には辛いの。あ、『特性』も使わな
いから安心して頂戴ね』

 ハッと目を見開いた光はケーキを半回転させてそこの様子を見た。果たしてそこにも小さく『ただいま』とある。

『んふっ。流石は光ちゃん。大正解よ! そそ。初撃はただいま用。ま、いつものごとく気付いて貰えなかったけど、そりゃあ
もはや慣れっこってカンジ? 気にしちゃあ負けでしょ。気にせずガンガン行くわよ!』
 また文字が『書かれた』。
 彼女はただ文字を書くためだけに発砲しているようだった。
 しかし奇妙なのは青空と向かい合う光たちが「文字を読める」という事実である。つまり撃った当人は上下逆になった文字を
見ている筈……となれば『書く』時も上下逆に書いている筈だ。弾痕で文字を書けるというだけでもすでに常軌を逸しているが、
それが全て上下逆ともなればもはや神業としかいいようがない。
「一体どういうつもりなんだ青空」
 父親の嗄れた声をつくづくやかましい──これで消音されているというから驚きだ──銃声が遮った。
『ああっ! 分かって欲しいのお父様! か弱い私めが意思表示をするにはこーやってサブちゃんで書くしかないの! あ、
サブちゃんってのはこのコの名前ね。本名は『マシーン』だけど』
 芝居っ気たっぷりに胸の前で腕を組む(銃はそこと胸の間に挟まれていた)娘に父親は気色ばんだようだった。『調子に
乗り過ぎたようね』という文字が付け足された。そして何度目かの銃撃。
『……コホン。お芝居はここまでにして。だって声を出したら聞き返されちゃうでしょ? だったら書いた方が手っ取り早くて
いいじゃない? 聞き返されるコトもないし』

 今が人生最良の時。そんな笑顔で青空はまたトリガーを引いた。

『一年間ずっと考えたけど、やっぱ私、喋りたくないのよねー。だっておかしいもの。声が小さいってだけで全部否定される
のはさあ。それにー、努力しても我慢してもいいコトなんて一つもなかったもの。欲しかった手紙一つさえ手に入らなかった
し、それ失くした光ちゃんへ反射的に手を出しただけで悪者扱い。ふふ。ほんと損ばかりよね。私』
 がばっと立ち上がったのは義母である。
「待って青空ちゃん。手紙なら、あのアイドルさんの手紙なら見つけたの!」
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
216 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 19:58:16.05 ID:yuRFNhGI0
 青空の頭頂部から伸びる特徴的な癖っ毛が「びこーん!」と屹立した。
 首を傾げる彼女だが銃撃をやめる気配はない。変化と言えば文字用キャンパスが穴だらけの畳から壁に変わったぐらいだ。
『めえ? そらまた意外な事実。ときたら私の机の上ね? ちょい待ち。こりゃあ見てくるしかないでしょ!』

 興味深そうに眼を細めた青空は自室に行った。残された者はただ茫然と座り込んだ。

『あ、いま外行かない方がいいわよー。私のお仲間さんたちがちょっとスゴいコトしてて危ないのよね』

 懐かしの自室から身を乗り出す彼女はよほどはしゃいでいるらしい。横に伸ばしきった左腕を満面の笑みでブンブン振っ
ている。頭頂部から延びる特徴的な癖っ毛もちぎれんばかりに振られている。
 と、同時に。
 一家の耳におぞましい音響が届き始めた。それは遠くから何十何百と重なってじわじわと部屋に沁みてきているようだっ
た。いつから? 青空が銃撃を始めた時にはもうすでに? 天井の上から何かが落ちる音がした。重い衝撃が木製の天井
を揺らめかした。いる。上階に、何かが。誰かが走る音。下卑た笑いに対立する咆哮。獣の呻きと女性の絶叫が響き、子供
の「やめて」という懇願が不自然な途絶え方をした頃、ようやく青空は戻ってきた。

『私めも盟主様にやめるよー進言したのデスけど、力及ばずかかる羽目になっちゃって……みんなゴメンね』

 泣き叫ぶ声を洩らす天井を一瞥した青空は、「ううむ」という感じに微笑した。「ううむ」程度の感想しか示さなかった。
 それを追求する者はいなかった。いよいよ迫りくる異変に竦み、ただガタガタと青空を見るしかないようだった。
 銃撃。彼らの体がビクリと震えた。

『で、手紙あったんだけど……どうしてあるのコレ? 飛ばされた筈よね?』
「それは──…」

 義母はつくづく申し訳なさそうにそれを見つけるまでの事情を説明し、それから青空の頬を打ったコトを細々と謝った。
 光もいかに父が心配していたかを語った。父は無事に帰ってきてくれたコトを心から喜んだ。
 それらを聞き終わった青空はにっこりと銃を構え、また壁に字を書いた。

『で? この手紙が偽物じゃないって保証は?』
 
 母がみるみると青ざめていくのを光は見た。

『あー、疑っている訳じゃないわよ。でも今までの境遇が境遇なもんだから、俄かには信じられないってヤツ? ほら、帰って
くるかこないか分からない人には手抜きとかやっちゃいそうでしょ? ああ、少しでいいから思い出して欲しいの。そこに居
たのに手抜き対応で放置され続けた可哀相な女のコの事を。っと。今のはちょっと皮肉すぎたかしらね。とにかく手紙につ
いて手抜きしてたつっても私は怒らないわよ? 魔が差したってコトで……ふふ。義理の子供でも失踪されたら色々辛いも
の。つい耐えかねて手紙を偽装しちゃましたって最初にいってくれるなら、『怒らない』わよ?』

 サブマシンガンを悪戯っぽく背後に隠しながら、てれてれと身を乗り出す青空。
 光は見た。姉の茶目っ気たっぷりの仕草と対照的な母の姿を、汗をかき青ざめていく母の顔を。
 疑念がよぎる。あの日、風にさらわれた手紙。果たしてそれが何カ月も後に見つかるものなのだろうか?
 まして見つけたのはこの家庭の中で一番青空と溝のある母。青空を見る時名状しがたい何かを孕んでいた、母。

「確かに見つけたのは私よ。でも私は偽装なんて……してない」
 事態が事態だけに粛然としているらしい。母の口調はいつもの伊予弁ではなかった。
『本当? 本当にそう答えていいの? 偽物だったら追及するわよ? 予防線張ったつもりかどーか知らないけど、コレ、も
し偽物だったら『私はしてない』程度じゃ誤魔化せない矛盾がどんどん出てきちゃうのよ? Cougar君が私に書いてくれた
手紙を、誰が、何のために偽装したのか……ってね。そしたら第一発見者が犯人ってすぐ分かっちゃって私もブチ切れ。私
ね、本当にキレたら武装錬金の特性さえ使えなくなるのよ。特性もたいがいエゲツなくてみんなも私もビビってるけど、キレ
た私はそれ以上にひどいんだからね。分かる?』

 いつの間にか義母の顎を持って果てしない笑顔を近づける青空。立ち上がるのは形容しがたい威圧感。
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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
217 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 19:58:47.87 ID:yuRFNhGI0
『お義母さんを疑う訳じゃないんだけれど、溝は深いのよね。また無下にされちゃったって気分になって関係の険悪さを増
しちゃうのはお互いにとって良くないんじゃないかしら? 魔が差したってんなら今の内に告白しちゃった方が楽よ?』

「本当よ。私はあなたに悪いって思ったから……光のお母さんだから……あちこち探し回ったの。これだけは信じて」

『ふふ。やっと心が通じた会話ができているわよね私達。よかった』

 何が会話か。筆談に対し一方的に答弁させているようなものではないか。
 傍で見ている光はいつの間にか歯の根をガチガチと打ち鳴らしている自分に気がついた。恐ろしい。もし母が嘘をついて
いればこの場の均衡を支えている何事かが決壊する。笑顔の裏に潜んでいる何かが爆発する。そんな気がした。
 
 そして手紙が開けられた。
 義母を解放した笑顔は素早く手紙を確認し、読み終わると再び義母を静かに見据えた。

 銃口から絶え間ない破裂音が響いた。
 撃たれた。身をすくめる光の横で、母の引き攣った声がした。










『ありがとう。筆跡が同じ。確かにこの手紙は本物みたいね。見つけてくれて、ありがとう』



 撃ったのはやはり、文字を書くためだったらしい。
(筆跡が……同じ?)
 光の中に疑問が湧いた。あの手紙は初めてきたものだ。しかし周知のとおり飛ばされたではないか。
 にも関わらず、青空はCougarの筆跡を知っている? ……。
(本とかに直筆文が載っていて、それを元に判断したの? お姉ちゃん?)
 そう思ったが声にはならない。仮に喋っていても次の銃撃によってかき消されたかも知れないが。

『色々迷惑かけてゴメンね。ちょっと変なコトやっちゃってこのマンションの人らもたぶん全滅しちゃったけど……もし良かったら
また一緒に暮らしてくれる?』
 張りつめた空気の中、義母の首が縦に振られた。そしてずっといいたかった言葉を、伝えた。

「もちろん。確かに声は小さいけれど、あなたはそれに負けないだけのいい部分も持っているのよ?」

















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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
218 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 19:59:11.53 ID:yuRFNhGI0
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「声が、小さい?」




 しとやかでか細い吐息の入り混じった可憐な声を聞いたのは、玉城光のみであった。
 カクテルパーティ効果というものがある。騒々しい環境の中でも「注意を傾けている特定の音声」のみを聞き分けられる
現象をそういう。
 部屋の周囲からは相変わらずおぞましい哄笑と悲鳴が伝わってくる。その中にあって光が「可憐な声」を聞き分けられた
のはまぎれもないカクテルパーティ効果であった。”それ”を聞き逃さなかったのはかつて同一化のため一生懸命真似をし
たからであった。父母は一瞬、聞き逃した。もとより周囲に怨嗟の声が満ちているため、青空がようやく和解の兆しを見せ
たコトに安堵していたため、聞き逃した。

 玉城青空のようやく発した肉声を。


 彼らは聞き逃した。


 そしてそれが、何よりの返事となった。


「聞こえて、ない? 小さい……から?」








 光は見た。姉の表情が明確な変化に……”犯されるのを”。


 犯されるというほかいいようがないほどそれはおぞましい変化。



 青空の目が、開いた。
 笑みに細まっている目がゆっくりと開いた。


 そして覗く。


 黒い白目と。
 赤い瞳孔。

 おぞましい光がらんらんと輝く異形の瞳が。一家を捉えた。

 そして彼女は笑った。
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
219 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 20:05:59.67 ID:yuRFNhGI0
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 口を三日月状にどこまでも果てしなく綻ばせ、ひどく楽しそうに一家を見た。


「地雷踏んでくれたわねキレた」


 光が避難を促す悲鳴を上げたのと。
 青空が正気なきケタケタ笑いをしながら飛びかかったのは。

 同時だった。

 次の瞬間、父の頭が畳に叩きつけられた。
 よほど凄まじい勢いだったのか。焦点の合わない眼で震え笑いを漏らす青空の左手には髪がべっとり付着した頭皮が握
られていた。弾痕塗れのい草の上、頭蓋骨を露呈した父親はそれでも辛うじて首だけを動かし娘を見た。
 論理的にいえば彼の悲願は成就した。最期まで彼は娘の笑顔を見た。看取られた。質がどうあれ、網膜を焼いたのは紛れ
もない『笑顔』だった。求めていた筈のそれから彼が目をそむけたのは、買い与えた覚えのない可愛いスニーカーが後頭部に
乗ったためである。彼の顔面は畳に激しく圧着された。動くコトも、見上げるコトさえ叶わない。露出の頭蓋に血が沁みる。

 そうして5分ほど青空は笑い、息継ぎがてら足をどけた。

「正直言って遅すぎそりゃあ永遠に見れないって思ってたこの手紙見れたのは嬉しいけどさでもマイナスの中の努力なのよ
ねこういうのチクチクチクチク長年私めの心を揺さぶって好感度マイナス100ぐらいまでにして失踪させた後にさ慌てて探し
ました無くした物も頑張って見つけましたなんていわれても今一つ嬉しくないのよね」

 抑揚のない呪詛のような声に再び娘を見上げた父は、確かに見た。

「もう喋らなくていいわよ喋っていいことなんて一つもないものどうせ私探すためにいろいろやったんでしょうけどそれはお父
さんの自己満足やらかしてからやられても無意味マイナス100のコトを自分基準のマイナス50だか60だかにした程度の
コトをいわれても意味が感じられなくて困っちゃう」

 うらぶれた瞳で蔑むように見下す我が子の姿を。
 踏みつけるために振りあげられた我が子の足を。

 目を細め、団欒を構成していたとびきりの笑顔を浮かべなおす娘を。

「これが私めの伝え方。効果的でしょ?」

「じゃあね〜」

 そして彼の頭蓋骨は割りばし細工の住宅のようにあっさりと潰された。血が飛び散り、笑顔を汚した。やっとこのような根っ
こを持つ歯が勢いよく何本も飛び散り、枝豆より気軽くまろび出た眼球が畳の弾痕の深淵を覗きこんだ。ネバついて糸引く
スニーカーがひょいと退いた顔面は踏み砕かれたスイカそっくりにぐしゃぐしゃとしていた。それが光と青空の父親だった。

「んふふふふ……ぬははははははは! ははは!! あーっはっはっはっは!!!!!」

 青空はとにかく笑っていた。小声の哄笑を狂ったように上げていた。
 そしてサブマシンガンのトリガーに指をかけ反動も姿勢制御も意に介さずひたすら弾痕を部屋に刻んでいた。鈍い音が
青空の右肘で響き、巨大な銃がガクリと下がった。反動による脱臼。しかし彼女はまったく意に介さず撃ち続けた。結合
を解かれた腕が反動に踊り狂った。捩れ、跳ね、回り、麻薬中毒者のような『ぬるぬるとした』異様な動きをする姉の腕を
光はただただ震えながら見ていた。 脱臼してなおイングラムを撃ち尽くす姉は憧れのお姫様とは真逆の恐ろしい怪物だった。
それでも腕の痛みを想像すると悲しくて仕方がなかった。
 そうして判別不可能なゴミのような文字を文庫本1冊ほど量産した頃、反動が偶然脱臼を癒した。

 文字は若干だが体裁を整えた。

『いいのよいいの!! もう過ぎたコトだもの!! んふっ、もう私達が和解する必要なんてないでしょお? いいの! 気に
しないで! やっぱ人間、過ぎたコトをいつまでも悔やむより、未来だけ考えて前向きに生きるべきなの! だから捨てるの!
切り捨てるの!! 暗い青春時代の分まで幸せになるの!! なりたいの!!』
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
220 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 20:07:07.28 ID:yuRFNhGI0
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 獣が描いたような文字だった。不揃いで歪で乱雑を極める文字が部屋の中でどんどん増殖していく。
 トレードマークの笑顔からは到底伺い知れぬ感情起伏の激しさに光はただ茫然とした。

 青空は喋り続ける。か細い吐息の混じった可憐でひたすら抑揚のない声を。絶え間なく。
 そして手紙に手をかけると……真っ二つに千切った。

「手紙なんてもういらないだって新しいのをCougar君から貰ってるもの一言一句同じだもの新しいのきたら古いの捨てるの
お父さんの流儀でしょだからこうするのさっさと始末するの」

 苦労して見つけた手紙の破片が舞う中、義母は声にならない声を漏らして後ずさった。逃げたい。逃げたい逃げたい逃げたい。
 彼女は心からそう願っていた。
 にも関わらず逃走を志半ばでやめたのは、首に異様な圧力がかかったからである。

 手が伸び、首を絞めている。

「ひとつ教えてあげる私めが喋るのはよっぽどキレてる時だけよサブちゃんぶっ放したり特性使ってる時の方がまだ安全って
知っておいた方が身のためねさあ今度は発声のお勉強懐かしいでしょ嬉しいでしょ」
 青空はいつの間にか距離を詰めている。そして満面の笑み──口が裂け真赤な瞳孔が悪夢のように輝く笑み──がマシ
ンガンのように囁いた。
「声が大きいだけで何も考えられない気が強いから考えられない活発すぎるから被害者の私を平気で殴れたくふふふあははは
あの時の一発は本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に痛かったわよ私は自殺さえ考えたのよ
きっと言葉用意してたんでしょうけどさんざやらかされて傷ついた心は言葉一つじゃとても癒されないのよとてもとてもとてもとても
ところでこれで私と同じ状態よね声出る声出る出ないでしょさあ自分の考えたやり方で喋ってみてよ頑張って」
 薄暗い声を吐き切った青空は、白目を剥き口からあぶくを吹く義母に心から微笑した。家事を手伝い妹の面倒を見ていた頃の
穏やかな少女の顔で微笑した。

「……んじゃま、発声練習の締め、やってみましょか」

だからその性格直したらどう?

ファイト!

「ぐべっ」
 首が小気味よく破裂し、涎塗れの生首が畳に転がり落ちた。









「ちょっとスッキリ! くはは! あはははははは!! あーはっはっはっはっはっは!!!」

『ごめんね光ちゃん! ごめんね! これからもっと危なくするから部屋の隅にでも逃げててね! でもココ出たら駄目よ怖
い人たちに食べられるから!! 特にエログロ女医にはご注意よ!』
「あ……あああ…………」
 真新しい弾痕の前で光はただ頭を抱え涙するしかなかった。激しい悪寒が全身をゆすぶる。動けない。胸が詰まる。涎と
鼻水でグシャグシャの顔がヒクリヒクリと痙攣する。注意書きを読む余裕など、とてもなかった。

 一昨年の夏だった。頭と胴体の境目を自転車に轢かれ死にかけているカブトムシを見つけたのは。歩道に転がっている
様子が不憫だったから家に連れて帰って青空に聞いた。助けられないか、と。彼女は首を横に振った。その時、光は昆虫
の命の儚さを知った。
 昆虫は人間と違ってお医者さんが居ないから、ケガをさせたらダメよ。青空はそういった。光は、納得した。

「でも、人間だってケガさせちゃダメだからね? 治らないケガだってあるから」

 なぜか首に手を当てながら説明する青空を不思議に思いながらも光はうんうんと頷いた。
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
221 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 20:07:31.20 ID:yuRFNhGI0

「私逃げろっていったわよねそれとも声が小さいから聴き取れなかったっていうのかしらそれじゃあ分かるまで分からせてあ
げる分かるまで分からせてあげるあはははははははははははははははははははは!!」

 光のみぞおちに重い球体が投げつけられた。呼吸困難の中、長い三つ編みを強引に引きずられながら球体の正体を見
た。生気を失くした母が胸の中にいた。歩道に転がっていたカブトムシのようにもうどうにもできない母がそこにいた。その
口に溜まった唾液を何度も何度も拭いながら、光は低い泣き声を漏らした。

 そして青空は。

「あ〜。スっとしてきた。やっぱ本音を語るというのは気持ちいいわよね」

 満面の笑みで額の汗を一拭いした。つむじから延びる癖っ毛が子犬のようにぴょこぴょこ揺れた。

【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
222 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/10/27(土) 20:07:59.17 ID:yuRFNhGI0
以上ここまで。過去編続き。


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