- 【2次】漫画SS総合スレへようこそpart72【創作】
143 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/09/13(木) 22:58:40.09 ID:rmzqbOzT0 - >>83から。本編096話の続きです。
パピヨン率いる演劇部の陣容はいまや最高のものとなりつつある。 抜群の運動能力を誇る秋水と斗貴子。学園一美しいと評される桜花。遅れて加入した音楽隊はさまざまな分野において めざましい可能性を秘めている。毒島や防人といった外様連中もまた然り。 誰かがいった。とても面白い劇になるだろう。 誰もがいった。きっとそうだろう。 笑いあい気運を高める生徒達は……気付かない。 楽しい時はいつか終わる。その、逃れられない事実を。 もっとも……もし気付いたとしても彼らは気楽に笑いこう答えただろう。 「そーだよな。劇はもうすぐ終わるんだよな」 「ん? ひょっとして学園生活のコト? 考えたら卒業式までもう1年半切ってるし」 彼らはほんの僅かでも脳裏に描くべきだった。 ありえからぬ非日常の存在を。 かつて銀成学園はL・X・E創始者、Drバタフライ率いる無数の調整体の襲撃を受けあわや殲滅の憂き目にあった。 さらにその数ヶ月後、多くの生徒が鐶光のせいで胎児と化した。 ともすれば命を落としかねない境界線の上に2度も立たされながらまったく警戒するところがなかったのは、やはりまが りなりにも「生き延びた」という安堵のせいか。 されど日常はやがて終わる。 劇の終わりとともに幕を閉じる。 ありえからぬ非日常の存在の手によって。 破滅をもたらす足音。 それを導いてくるのは皮肉にも……。 かつて学園を守り抜いた武藤カズキ。 彼の中に日常の象徴として佇む……1人の少女。 「あ! ココココ! ココだよあっきー! ココでみんな練習してるんだよ」 武藤まひろ。 彼女はただいつもの通り、親切心を発揮しただけだった。 街を歩いていたら道に迷っている者を見つけた。 目的地が自分の知っている場所だから……案内した。
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144 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/09/13(木) 22:59:19.21 ID:rmzqbOzT0 - たったそれだけである。もしまひろが案内しなかったとしても、非日常の存在は、その目的が銀成学園にある以上、いず
れ自ずとたどり着き、やがて結局日常を壊しただろう。 まひろはトリガーを引いた訳ではない。ただ準備万端の「軽い」引き金に触れただけである。 劇鉄が弾丸を押し出すおぞましい結末に期せずして関わってしまっただけだ。彼女自身に悪意はない。 けれど……結果だけを見れば武藤まひろは確かに。 おぞましい人物を銀成学園に招いた。招いてしまった。 そして今は体育館の近くにいる。そこには秋水を初めとする錬金戦団の面々と音楽隊がいる。 パピヨンと、ヴィクトリアも。 銀成市における戦力が総て、結集している……。 「この上ない熱気! ああ、声優時代の舞台を思い出します!」 体育館の外で手を組むのは若い女性。美人だが野暮ったい黒ブチ眼鏡をかけた”冴えない”タイプである。踵まで伸びた 黒髪は、着衣たる黒いブラウス同様ほつれと傷みがよく目立った。それでいて声は天女のように甘いから、すれ違う男子 生徒が思わず目を留めそして落胆する。桜花級を期待していたのに……ガックリうなだれる彼らはそう語っているようだ。 クライマックス=アーマード。錬金戦団、そしてザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ共通の敵であるレティクルエレメンツの ……幹部にして坂口照星を誘拐した実行犯の1人。(自らの武装錬金でアジトまで連れ去った)。 捜査本部に犯人を招くというか、軍中枢部にテロリストを招くというか。 まひろは自分がどれほど危ういコトをしているか知らぬまま、いつものように明るく笑い、もう1人に呼びかけた。 「えーと。名前忘れちゃったけどこっちだよー!!」 「うむ! いよいよ及公、パピヨンとご対面であるな!」 手招きされたのは青い銀の貴族服。衣装に見合わぬ冷たい美貌の持ち主だが2mほどある背丈や特徴的な物言いの せいでこれまたトンチキな印象である。 リヴォルハイン=ピエムエスシーズ。鐶光をも凌ぐ、レティクルエレメンツ最新鋭のホムンクルスである。その形質は細菌 型……の集合体。バンデミックを起こせば銀成市など1時間で殲滅できる……と言われている。 彼の狙いはパピヨンの所持する『もう1つの調整体』。 かつて戦士たちと音楽隊が激しく争いあうほどに強く求めた戦利品……その正体は黄色い核鉄。 霊魂の承継、ひらたくいえば前の使用者の霊魂を受け継げるDrバタフライの遺産がなぜ必要なのか。 それはまだ分からない。 とにかくクライマックスは冥王星の、リヴォルハインは土星の、幹部えある。 そんな彼らがいま……秋水たちのいる体育館へ向かっている。 先導するまひろの後ろで二者二様の妖気が徐々にだが膨れ上がっていく──…
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145 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/09/13(木) 23:00:59.22 ID:rmzqbOzT0 - 以上ここまで。執筆時間60分だと2レスが限界すね。
あとは過去編のハシリ。ヌヌ編の次は鐶編。
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146 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/09/13(木) 23:03:28.97 ID:rmzqbOzT0 - ──接続章── 「”過去は過去でなく輪廻して今”〜音楽隊副長・鐶光の場合〜」
『遠い日々の記憶が刹那に……coming Flashback』 『迷い込んだのは夢なんかじゃなくて現実』 『まるで同じこと躊躇ってる』 『時を超えて……いつでも』 「行くぞ! 最後の勝負だ!」 時は移ろう。 錬金の戦士たちとザ・ブレーメンタウンミュージシャンズの戦いがいよいよ佳境に差しかかりつつあった頃。 根来忍。楯山千歳。防人衛。早坂桜花。そして中村剛太。 仲間たちが次々と倒れていく中、津村斗貴子はダブル武装錬金を発動した。 そして猛攻。圧倒に次ぐ圧倒。総てにおいて優勢だった鐶光を……押している。 (……た、ただダブル武装錬金を使っただけなのに……この気迫は一体……!?) 鬼気迫るその姿は鐶を大きく揺り動かし……。 鼓動。 小さな胸の中で動乱が巻き起こった。 (この気迫……この怒り) (まるで) (まるで……) (……………………お姉ちゃん) フラッシュバック。蘇る記憶。 けたたましい笑いが脳髄に響いた。柔らかな肌。重なる唇。ケーキ。両親の死骸……。 映像の中心は常に1人の少女だった。目を細め口を綻ばせにこやかにこやかに笑っている短髪の少女。
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147 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/09/13(木) 23:04:51.53 ID:rmzqbOzT0 - 玉城青空。
憤然と向かい来る斗貴子に義姉を重ねた時……鐶の戦意はわずかにだが削がれた。 例えそれが決戦に抱くべからず恐懼だとしても…………戦果にどれほど影響したか今となっては分からない。 (……怯えては……ダメ……です。むかし……無銘くん……と……約束……しました……!!) 振り払い、立ち直るまで1秒とかからなかったのだから。 戦闘の中、本当に一瞬だけ現れた機微。 だから他の面々ほど露骨に語らなかったが──… 鐶にもまた、過去があった。 彼女は時々思う。 組織がその名前を拝借しているあの寓話。 驢馬の上に犬。犬の上に猫。そして猫の頭に鶏がそれぞれ乗って鳴き喚いた後もなお、泥棒たちは舞い戻ってきた。 だが犬に足を噛まれ、大声を上げる鶏に怯え──… 闇のなか彼らは錯誤した。足をメスに刺され、判官に怒鳴られたと。 犬と鶏。無銘と自分。寓話と比べると配役は逆のようだった。 運命も。武装錬金も。位相はほぼ入れ替わっている。 自動人形は判官のようで キドニーダガーはメスのようで。 だからこそ、いつも運命を感じていて──… .
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148 : ◆C.B5VSJlKU [sage]:2012/09/13(木) 23:05:45.24 ID:rmzqbOzT0 - 【ヤーコプ=グリム・ヴィルヘルムグリム/作】
【関 敬悟・川端豊彦/訳】 【ブレーメン市の音楽隊】より】 やがて村を逃げ出した者三匹は、ある屋敷のところを通りかかると、門の上に雄鶏がとまっていて、精一ぱいの声で鳴 いていた。「骨の髄までしみわたるような声だね」と、驢馬が言った、「どうしたってんだい」──「上天気だよって知らせたの さ」と雄鶏が言った、「うれしい聖母マリアさまのお祭りで、マリアさまがキリスト坊ちゃまのかわいらしい肌着を洗濯なすって、 そいつをかわかそうって日だからな。ところがあしたは日曜で、客が大勢来るってんで、うちのおかみさんたら情け容赦もな く、あすは俺をスープに入れて食っちまうんだって料理女に話してたのさ。そいで今晩、おいらは首をちょん切られるのさ。 だから、鳴けるうちに、思いっきり鳴いてるってわけさ」──「何を言ってるんだ、赤毛君」と、驢馬が言った、「それよか俺た ちと一緒に逃げた方がいいや。俺たちはブレーメンへ行くんだ。死ぬより良いこたあ、どこへ行ったってあらあな。お前さん はいい声してる。みんなで一緒に音楽をやったら、きっと面白えもんになるぜ」と、雄鶏は、これを聞くと、そいつは面白いと 思って、四匹そろって出かけた。 【参考文献:角川文庫 「完訳 グリム童話T さようなら魔法使いのお婆さん」】 ──接続章── 「”過去は過去でなく輪廻して今”〜音楽隊副長・鐶光の場合〜」 完 過去編第001話に続く。
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