- 【2次】漫画SS総合スレへようこそpart70【創作】
20 :作者の都合により名無しです[age]:2011/04/13(水) 20:46:52.17 ID:hGciqiqr0 - 〜夜の邂逅〜
一時はどうなる事かと危ぶまれたレッドさんの祝勝会も、八雲紫の機転によって無事に仕切り直された。 ヴァンプ様の手料理をお腹一杯に食べ、ケーキにかぶりつき、お酒も入った。 (ヴァンプ様が真っ先に潰れた) どんちゃん騒ぎの宴会は、夜遅くまで続き。 そして、いい具合に酔っ払った所で――― ―――月明かりに照らされた草原を、レッドは見下ろしていた。 風景はどこか歪んで、ぼんやりしているのに、意識ははっきりしている。 (あー。夢だな、こりゃ) いわゆる、明晰夢というヤツだろう。 高い場所から地上を俯瞰している己を、夢の中の存在だと自覚している。 眼下に広がる草原では、二人の女性が向かい合っていた。 一人は、レッドも見知った顔。 (ありゃ、八雲のババアか…もう一人は…?) もう一人の、彼女。その姿に覚えはない。なのにレッドは。 (なんか…知ってるぞ、俺。あいつの事) ―――ふわふわと緩くウェーブのかかった、金色に輝く長い髪。 ―――どこまでも広がる海を宿したような、蒼い瞳。 飾り気のない、着古した旅装束に身を包んではいるが、その美しさに翳る所はない。 (どっかで…つーか、最近は毎日見てるよーな気も…) 誰かに似ている気がするが、判然としない。 「ふふ…貴女の事は知っていましたけれど、実際に顔を合わせるとは思いませんでしたわ」 紫は、妖艶な仕草で両手を広げ、唇を歪める。 「その血の命ずるが侭(まま)に、幾千年もの時をかけて世界を流離う伝説の吸血鬼―――<賢者イヴ>。 アリス・イヴ。とはいえまさか、この幻想郷を訪れる日が来ようとは」 (…賢者イヴ) 最近になって、よく耳にする名だった。 望月ジローを吸血鬼へと転化させた<闇の母(ナイト・マム)>。 望月コタロウの真の姿であり、最も古き<始祖(ソース・ブラッド)>が一人。 (あいつが…そうなのか…) 「此処は、幻想郷っていうんだね」 賢者イヴは、紫に向けて口を開いた。 鋭い牙が覗く、その口を。 「きみが創ったのかい、この世界は」 「…私一人の力ではないけれど、幻想郷の創造に、この八雲紫以上に貢献した者はいないと自負しておりますわ」 「そっか。紫ちゃんは、すごいね」 彼女は、月のように静謐な微笑を浮かべる。
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21 :作者の都合により名無しです[age]:2011/04/13(水) 20:47:50.97 ID:hGciqiqr0 - 「この世界は…幻想郷は<想い>に満ちている。ありとあらゆる存在の<想い>が。誰であろうと、何者であろうと
全てを受け入れる―――そんな優しさで、一杯だ」 「あら…<賢者>と呼ばれているのだから、どれだけ頭がいいのかと思えば、まるで白痴ね。この世界を、優しいだ なんて…的外れもいいとこだわ」 対して紫は、先程までの丁寧さが嘘のように、忌々しげに答える。 「貴女の言う通り、幻想郷は全てを受け入れる。私もそんな幻想郷を心より愛している。けどそれは素晴らしくなど ないわ。それはそれは―――とても残酷な話ですわ。どんな者も分け隔てなく受け入れるなんて」 そんなの、現実にはありえなくて…ただ、気持ち悪いだけじゃないの。 「そんな頓珍漢な褒め言葉なんて…罵詈雑言より、腹立たしい」 「そんな事はないよ」 だって、と。賢者は言い返した。 「何もかも受け入れるっていうのは誰とでも、何とでも、仲良くできるって事だもの。ぼくはね、紫ちゃん」 「…………」 「こんな素敵な場所を創ったきみの事を…とても、尊敬しているよ」 その言葉を聞いた紫の反応は、傍から見ているレッドにとっても予想外のものだった。 いつものように曖昧で胡散臭い笑顔を浮かべるでもなく。 先のように忌々しげに口を尖らせるでもなく。 虚を突かれたかのように、毒気を抜かれたかのように、素の少女の顔になっていた。 自分や幻想郷について、こんな感想を持たれるとは、まるで考えていなかった――― そんな驚きと。 多分だが、少なからぬ喜びの色があった。 (はー…あのババアにあんな顔させるとは、やるじゃねーか) レッドは<賢者イヴ>に対し、素直に感心した。 あの、常に<自分だけは全てを分かっている>かのような顔をしている八雲紫を驚かせたというだけで、文句なしに すげー女だ。 そう思う。 (いや、俺が勝手に見てる夢なんだけどな…つーか、何でこんな夢見てんだ、俺) と。 賢者イヴは、頭上を見上げて。 にこやかに。軽やかに。 誰もが見惚れずにはいられない笑顔で、彼女はレッドに向けて手を振った。 「やあっ、レッドさん!」 「え…」 「え、じゃないよ。きみは、レッドさんだよね?」 「…………お前」
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22 :作者の都合により名無しです[age]:2011/04/13(水) 20:49:38.95 ID:hGciqiqr0 - その笑顔。屈託のない口調。
そうだ。 こいつは―――<賢者イヴ>とは―――年齢も性別も違うが――― <あいつ>そのものじゃないか。 「いつも、ぼくたちと仲良くしてくれて、ありがとうね!」 「お前…まさか、コタロ―――」 ―――目を覚ましたレッドが最初に見たのは、白玉楼の天井であった。 身を起こし、きょろきょろと辺りを見回す。 宴の跡。料理は大量に用意されていたのだが、綺麗さっぱりなくなっている。 そして、そこかしこに転がる空になった酒瓶。 皆、いい食べっぷり呑みっぷりであった事が見て取れる。 その参加者はといえば、ヴァンプ様はぐーぐーと気持ちよさそうな寝息を立てている。 妖夢は「もー食べられませーん…」というテンプレ寝言つきで横になっている。 紫は壁にもたれかかって目を閉じている。本当に眠っているのかどうかは、定かでない。 ジローと幽々子の姿はない。外に出ているのだろうか? そして、コタロウは。 「むにゃむにゃ…」 天使のような寝顔で。 「むぐぐ…このお肉、かみ切れない…」 レッドさんの足に、齧り付いていた。夢の中で、マンガ肉でも食べているのか。 「…………」 地味に痛い。何かムカつく。さっきのおかしな夢も、多分コイツのせいだ。 レッドさんはそう結論した。 「…フッ」 ニヒルに笑い、懐から自らの相棒―――サンシュートを取り出す。 出力は最小限に抑えつつ、コタロウの顔面に狙いを定めた。 駆け巡る、コタロウとの思い出。 初めて出会ったあの夏の公園から、今に至るまでが、走馬灯のように浮かび上がる。 何だかんだで、自分達はいいコンビだったと。今になってそう思う。 「コタロウ…まさか、お前を撃つ羽目になるとは、思わなかったぜ…」 過酷な運命に翻弄され、己を慕ってくれる純粋無垢な少年を自らの手にかけねばならぬヒーローの哀愁を漂わせつつ。 そして、引き金に指をかけた。 ―――白玉楼・庭園にて。 酔い覚ましに夜気にあたっていたジローと幽々子は、ふと顔を上げた。 「あら。今、妙な音がしなかった?具体的には爆発音と、なんとも哀れな悲鳴が」 「大方、コタロウがバカをやってレッドに吹っ飛ばされたんでしょう」 「軽く言うわねえ。弟が今まさにチンピラに虐待されてるというのに」 「何、レッドはあれでも面倒見のいい男です。ちゃんと手加減はしていますよ」 「ならいいでしょう。コタロウも、彼には随分懐いてるみたいだし」
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23 :作者の都合により名無しです[age]:2011/04/13(水) 20:50:18.48 ID:hGciqiqr0 - ふっと、幽々子は幽(かす)かに微笑む。
「コタロウは、レッドやヴァンプさんと上手くやれてるみたいね」 「おかげさまで。あまり清廉潔白とも言えない二人ですが」 何せチンピラヒーローと悪の将軍である。 子供の教育にはよろしくないコンビだ。特にレッドさん。 「こっちでも、魔理沙達と仲良くしてたみたいじゃない」 「ええ…友人が増えるのは、あやつにとっても、この兄にとっても喜ばしい事です」 「そう。それはいずれ」 いずれ、あなたがいなくなっても、寂しくないように。 「そういう事かしら?」 「…西行寺殿。貴女や、八雲殿は…我々の血統の秘密を、どこまで?」 「全部を全部知ってるわけじゃないわよ。アリス・イヴだって、何もかも包み隠さず話してくれたわけじゃない」 それでもね、と幽々子は嘯く。 「長く生きてれば―――まあ、私は死んでるんだけど―――どうしたって色んな噂が耳に入ってくる。絶対にバレや しない秘密なんて、この世にないわよ」 「…どういう噂かは知りませんが、酷い流言飛語もあったものです。この私が」 どこか皮肉っぽく、ジローは言う。 「この弟思いの兄が、コタロウを放っておいて、何処かへ消えてしまうなど…あるわけないでしょう」 「他ならぬあなたが言うなら、そうなんでしょうね」 そういう事に、しときましょう。 その言葉を最後に黙り込んだ二人の間を、風が吹き抜ける。 夏の暑さを残しつつも、涼しさが混じり始めた初秋の風だ。 「―――あら、羨ましいわ。夜空の下でデートなんて」 その時。 紅い霧を引き連れて。 「そんな亡霊なんかより、この私をエスコートしてくれないかしら?」 眩くも、虚ろな月を背に。 「ねえ、ジロー?夜を棲家とする者同士、仲良くしましょうよ」 幼く、可憐で、それでいて何者よりもおぞましき悪魔が。 「このレミリア・スカーレットと、アバンチュールを愉しみましょう」 真紅の吸血姫が。 レミリア・スカーレットが、宵闇よりも更に黒き翼を広げ、其処にいた。
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24 :サマサ ◆2NA38J2XJM [age]:2011/04/13(水) 20:56:41.39 ID:hGciqiqr0 - 投下完了。
今回、タイトルを入れ忘れましたが、天体戦士サンレッド外伝です。 何だか日本全体が暗い雰囲気の中(仕方のない事ですが)どうにかこうにかSS書いとります。 今回は社会問題となっている児童虐待をテーマに書きました(嘘) 次回、ゆゆ様VSレミリアお嬢。 >>14 レッドさん優勝の際には<ケンカが終わればみんな友達>なノリでいきたいですね。 >>15 ほのぼのシーンもバトルシーンも、上手く書ければいいんですが(汗) >>16 いや…誰かが来てくれるはず。サマサ単独スレなんて誰得ですし…。
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