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永遠の扉
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart68【創作】

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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart68【創作】
297 :永遠の扉[sage]:2010/11/04(木) 17:29:03 ID:qxaQj8O50

 修行。



 或いは、恩返し。








【9月6日】【9月7日】 どちらともとれる境界線上の夜。



──────パピヨンの研究室で──────



 パピヨンが図面片手に指示を出し、ヴィクトリアが従う。
 そんな光景がもう何時間か続いていた。
 分厚い合金の板が山と積まれパイプの束が散乱し、大きな箱から零れんばかりに集積回路が覗いている。
 そんな研究室の中で彼らは時おり諍いつつも作業を続けている。


 彼らの前にある物体を一言で形容するなら、”金属で編まれた皿”
 直径5mほどのそれはひどく平べったく、内外を行き来するヴィクトリアは事も無げにひょいひょい跨いでいる。
 作られ始めて間もないのだろう。皿は骨組がよく目立った。そこを跨いだ少女が屈みこみ、粗笨(そほん)極まるスカスカ
空間へ曲った合金をはめ込んでいく。パズルの如く、組立作業をしていた。

 皿の中心には、六角形の窪みがあった。
 パピヨンの手元にある設計図によれば、いずれその窪みに同形の柱が立ち……。

 真っ白な核鉄を収蔵するらしかった。

 皿へ肉付けするヴィクトリアの動きがわずかだが乱れた。どうやら合金が嵌らぬらしい。
 図面を見ていたパピヨンが舌打ちし、やや声を荒げた。骨組のやり方を見直せ、入れ方を見直せ……
 口調はどこか、厳しい。
 やがて何とか合金を嵌め込んだヴィクトリアは、せわしいパピヨンの様子にブスリと呟いた。  



「悪かったわね。突貫作業なのに」
「無駄口を叩くぐらいならそこの合金の板でも運べ。グズグズするのは性に合わん」


 濁り切った目を図面から離さぬままパピヨンは呟く。
 どこか焦っているように見え、ヴィクトリアは首を傾げた。
 協力を申し出た時の彼や、そのずっと以前、女学院の地下で出逢った時の彼は傲岸ながらに「余裕」という物をたっぷり
持っていた。
 それが崩れている。ヴィクトリアは指示通り合金の板を運びながら、眉を顰めた。


(また……?)



【2次】漫画SS総合スレへようこそpart68【創作】
298 :永遠の扉[sage]:2010/11/04(木) 17:29:51 ID:qxaQj8O50
 余裕が崩れ、苛立ち、黒く沈み込む。そんな状態がここ数日よく見られた。寄宿舎生活と学生生活の間隙を縫うようにして
通っているヴィクトリアでさえ「よく見られる」事だ。彼が一人きりの時を加えれば恐らく2時間に1度、発作的にこうなっている
のかも知れない。
 もっとも10分も経てばすぐ元の彼に戻り、いつものような世界人類総てにとって憎らしい自信をその口からたっぷりと振りまく
のだが。
 急ぐのは分かる。
(確かにパパや武藤カズキのコトなら時間制限つきよ? でも、それで片付けるには、何かが)
 おかしい。パピヨンの奥底で何か黒々とした恐ろしい物が蠢いているようだった



 ヴィクトリアの父、ヴィクター=パワードはおよそ1世紀ほどまえ怪物となった。
 錬金術の世界に身を置くものの中には自ら人間をやめ、ホムンクルスの不老不死と弊害を大いに楽しむ者もいるが、ヴィ
クターの場合は違っていた。
 人間を守るための戦いの中で。
 瀕死の重傷を負い、意識不明の重体となり。
 仲間と、妻の意思によって蘇生させられ。

 その過程の中で、偶発的に。

 怪物となった。

 彼にとって不幸だったのは、その怪物が「ホムンクルスよりさらに上」の存在だったコトだ。
 賢者の石を目指して作られた『黒い核鉄』。
 それを移植されたヴィクターは……

 周囲の者から強制的に生命力を巻き上げる、悪夢のような存在と化した。

 エナジードレイン。

 戦団はヴィクターの恐るべき生態をそう名付けた。
 彼に近づいた人間は誰であろうと生命エネルギーを搾取される。ほんのわずか間近にいるだけでも全力疾走2〜3km分
の疲労を抱え込む。
 ヴィクター自身の意思では止めようがなかった。
 同じ建物にいた。それだけで殺してしまった戦士さえ数えきれない。
「悪魔」。そう罵るのは立ち寄った村の人々だ。彼らは昏倒する子や親をきっと抱きよせヴィクターを睨んだ。
 森を行けば木々が枯れ、川を行けば魚が浮く。
 悪夢だった。
 完全に満たされた瞬間だけ望まぬ生命搾取がやみ、少し経つとまた始まる。
 他の者なら、例えば私欲のためだけにホムンクルスとなり好んで人食いをするような者ならそれはむしろ僥倖だっただろう。
 だがヴィクターは違う。
 彼は戦士として錬金術の正しさを信じ、無辜の人々の笑顔と未来を願い戦ってきた。
 彼に黒い核鉄を埋め込んだ妻や仲間もそれは同じだった。
 にも関わらず、皮肉にも。
 黒い核鉄を埋め込まれたヴィクターは、理想とは真逆の存在と化した。
 人の近くにいるだけでその生命力を吸いつくし、死に追いやってしまうのだ。

 自身の変質──後にヴィクター化と呼ばれる忌むべき現象──を理解した彼は。

 逐電を、選んだ。
 どこか人のいない、自分以外の生命の何一ついない場所を目指して。
 誰一人としてエナジードレインなどという馬鹿げた生態で殺さぬよう、傷つけぬよう……。
 だが戦団は彼の逐電を許さなかった。
 存在(い)るだけで死を撒き散らす怪物(モンスター)。
 彼の属していた組織は錬金戦団。
 ホムンクルス討伐を生業とする戦団だ。
 見逃す道理はないという訳である。

 そして100年後。

【2次】漫画SS総合スレへようこそpart68【創作】
299 :永遠の扉[sage]:2010/11/04(木) 17:31:59 ID:qxaQj8O50
 経緯こそ異なれど、ヴィクター同様「黒い核鉄」を埋め込まれた少年、武藤カズキもまた怪物として戦団に追われる身となり──…

 いまに至る。

 パピヨン。
 そしてヴィクトリア。

 出自も経歴も違う2人のホムンクルスが現在協力体制を敷いているのは、ひとえに「黒い核鉄」とそれのもたらす恐るべ
き生態のせいである。
 望まずして怪物になったヴィクターと武藤カズキ。
 錬金戦団は彼らを許さず、再殺を望み、追いたてた。

 もっともそれは、武藤カズキが半ば抱き合い心中という形でヴィクターもろとも月へ『飛んで』──突撃槍の推進力で、衛星
打ち上げのように──以降、中断されてはいるが。

 少なくてもヴィクトリアは父がこのまま見過ごされるとは思っていない。
 ヴィクターが人間に戻らない限り、「再殺」という馬鹿げた行為は収まらない……錬金戦団の都合のみでホムンクルスに
”させられた”或いは、ヴィクター退治の切り札に”仕立て上げられた”ヴィクトリアだ。戦団への不信は当然といえた。
 このままいけば月にさえ討伐部隊が差し向けられるかも知れない。

 武藤カズキという少年についても同じコトがいえた。

「事情が事情だ。貴様は父親を人間に戻したい訳だ。戻しさえすれば少なくても再殺対象からは外れるからな」

 数日前。
 協力を打診したパピヨンは酷薄な笑みを浮かべた。

 パピヨンもまた、武藤カズキを人間に戻したい人物だ。
 もっともその動機は「殺されそうだから人間に戻したい」というヴィクトリアのそれとは少し違っているようだった。
 巨大なフラスコの中で本を閉じ、不敵に微笑む蝶々覆面の男は、もっと殺伐とした、確固たる信念の元に武藤カズキを
人間に戻したい。表情や言葉に垣間見えるはそんな機微。

「とにかく。パパや武藤カズキを元に戻すためには白い核鉄が必要」
「言われずともその程度のコトは分かるさ。白い核鉄は黒い核鉄のカウンターデバイス……」
「黒い核鉄と重なるよう体内へ押し込めば、2人とも人間に戻るという訳」
「そして貴様はあののーみその元で長年白い核鉄の開発に携わっていた。アドバイザー程度なら勤まるだろう」
「ママを馬鹿にしないで。白い核鉄だってパパのヴィクター化がもう第三段階だったから、人間に戻せなかっただけよ」
「だから貴様はもう1つアレを作る必要があるという訳だ」

 仇敵。または父親。

 対象こそ違えどホムンクルス以上の怪物と化した「大事な存在」への気持ちは両者とも同じ。
「人間に戻したい」。
 性格も立場も違うヴィクトリアとパピヨンが手を結んだのは自然な流れといえた。

 そもそも戦士とザ・ブレーメンタウンミュージシャンズの戦いにおいて、パピヨンが一向に姿を見せなかったのには理由がある。
 白い核鉄の精製を求める彼は、横浜にいる筈のヴィクトリアを探しまわっていたという。
 だが折悪しくも彼女は秋水に誘われる形で銀成市に居た。

 それをどうやって突き止めたのかはともかく、パピヨンが銀成市に戻って来た頃。
 一連の戦いは正に最後の一幕。あわや乱入者ムーンフェイスの一人勝ちという局面だった。

 そこへ彼が更なる乱入を加え、戦士と音楽隊双方の目的物……

「もう一つの調整体」

 を掻っ攫う形になった。

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300 :永遠の扉[sage]:2010/11/04(木) 17:33:15 ID:qxaQj8O50
 そして去り際彼が発した言葉


──「まず探すべきは──…」

──「この街に来たというヴィクターの娘だ!」


 を秋水経由で(彼としては「近づくな」という警告で伝えたのだが、結果として逆効果となった)聞きつけ、ヴィクトリアはやって
きた。

 そして手と手は結ばれた。


「「事情が事情だ。貴様は父親を人間に戻したい訳だ」


 という一声は協力体制始動前に発せられた物である。


 彼らの目的は一つ。白い核鉄の精製。

 とはいえ、白い核鉄は黒い核鉄を基盤(ベース)にしなければ精製不可。
 これまでの錬金術史に現れた黒い核鉄は3個。
 1つはヴィクターに埋め込まれ。
 1つは武藤カズキに埋め込まれ。
 最後の1つは白い核鉄としてヴィクターの胸の中。


「本来基盤(ベース)となるべき黒い核鉄は失われているが」
「アナタのご先祖様が残した「もう一つの調整体」を使えば、可能性はあるようね」

 ヴィクトリアはパピヨンの手に目をやった。
 彼の手には黄色い核鉄が握られている。

「もう一つの調整体」

 Dr.バタフライが密かに作成し、戦士と音楽隊の面々が熾烈に奪い合った謎の核鉄。
 それを眺めるパピヨンの薄暗い瞳には確固たる確信の光が灯っている。

「選択肢なんてのは自ら作り出していくものだ。ご先祖様がどういうつもりでコレを作ったかは知らないが」
「せいぜい可能性を追わせて貰う……そんな顔ね」

 しかしなぜ可能性があるのか? 説明は後段に譲るとして。

 Dr.バタフライとDr.アレキサンドリアが残した研究資料。
 それをパピヨンが総合し指針を作り出し、ヴィクトリアが従う。
 という所で彼らは一致している。
 錬金術師としてのキャリアは実のところパピヨンの方が長い。100年地下で母の助手をしていたヴィクトリアであるが、実
態は雑用という方がふさわしい。これは彼女が錬金術を嫌いぬき、系統だった学習を一切放棄していたためである。
 唯一得意なのはクローン技術であるが、これはあくまで「母の脳細胞を増殖させるため」いやいや使っていたにすぎない。
 つまり錬金術師ですらないのだ。ヴィクトリアは。
 よって遥か年下のパピヨンに従う。

 のだが。

【2次】漫画SS総合スレへようこそpart68【創作】
301 :永遠の扉[sage]:2010/11/04(木) 17:36:30 ID:qxaQj8O50
 パピヨンの指示ときたらそれはもう突拍子もなく傲岸で、右往左往の連続だ。
 彼は自称通りまぎれもない天才だが、天才だけに凡人との調和がまるでできない。
 ついていけねば露骨に失意を見せ、または嘲る。
 狭隘でねじくれたヴィクトリアの精神はまったくムカムカとなった。
 彼女は錬金術が嫌いだ。産物は核鉄であれホムンクルスであれ好かない。
 白い核鉄の精製という母の悲願をやるにしても嫌気はどこかに付きまとう。
 それを引きずり出しますます顕在化させるのが、パピヨンの不遜な態度。
 マニュアルを持って来い。無数の本の山の中に埋もれたそれを20分見つけられないだけで嘲りが来る。
 マニュアルを読んでも用語だらけでちんぷんかんぷん。
 まったく何もかもが分からないコトだらけで、しかもパピヨンはそれを教えるつもりがない。

 いざ作業に移れば機械付属のぐにゃぐにゃしたコードの川に足を取られ軽く捻挫。
 指示通り組み立てた筈の端末からは何度も何度もエラー音が響く。
 焦燥と無力感。汗ばかりがセーラー服に沁み込む。絶望的だ。


「…………」


 ヴィクトリアはきゅっと唇を噛んだ。自身の無為を悔いた。100年も錬金術への嫌悪に囚われやるべきコトもせず、何も
積み重ねなかったから、いま、ツケが回ってきている。
 自嘲じみた実感が浮かんだ。



 自分に対する嘲りが、ヴィクトリアに更なる災難を呼び込んだ。



「おい」



 最初何が起こったか理解できなかった。ひどく低い声とともに背後へ引き戻された……とようやく認識する頃にはもう細い
体が床を転がっていた。血が舞い上がったのは、錬金術製のパイプが激しく掌を擦ったせいだ。
 気づけばヴィクトリアは、罅割れたフラスコに背を預け……座り込んでいた。背中にチクリとした無数の痛みが走る。機材
でも錬金術製ならホムンクルスに害を与えるというコトをヴィクトリアは初めて知った。
 もっともそれは後ほど「そういえば」程度で認識したコトで、この時のヴィクトリアはもっと直接的で簡明な危機感を催して
いた。
 右肩の辺りで爆発音がした。そちら方面の視界は夕焼けを最前列で見たようにまばゆく橙に眩み、そのまま眼球が焼け
落ちる錯覚さえ覚えた。とてつもない熱量が右半身を襲い、荒れ狂う熱風は束の金髪を燻していた。余波、だろうか。割れ
た分厚いガラスがチャリチャリと床に落ちた。奇跡的に脇の下をすり抜けるだけで済んだ鋭利な破片を、翳む視界の片隅に
認めたヴィクトリアは……やっと事態の全容を掴んだ。
 立っていた自分が後ろへ引き倒され、フラスコに衝突し、そこへ爆破の追い打ちを掛けられた。
 やった相手が、近づいてくる。
 濁り切った瞳で切歯した口で右手に無数の黒い蝶を従えて
 ゆっくりと。
 ヴィクトリアは寒気の中で悟った。失敗を揶揄し嘲笑を浮かべている彼はまだ良い方だと。
 黒々とした熱と悪意を全身の隅々からブチ吐きながら近づいてくる彼は──…
 1世紀前初めてみた、ホムンクルスの軍勢の誰よりも凄烈だった。
 そして少女たるヴィクトリアにこういう狼藉を働くほど、パピヨンの中で何かが狂っているらしかった。

「時間がないんだ。貴様の下らん感傷で俺の手を止めるんじゃあない」

 座りこむ彼の表情は凄まじく醜悪だ。
 言葉の意味と怒りのワケをヴィクトリアはすぐさま直観した。”感傷”。ヴィクトリアのそれはパピヨンにとってまったくどうで
もいいコトなのだろう。それに囚われ、作業の手を止めた。武藤カズキの再人間化には時間的制約がある。月にまで戦団
の追っ手が及び再殺される恐れ。実際のところはともかくとして、ヴィクトリア同様パピヨンにとっては危惧の一つだし焦るの
も無理はない。
 にもかかわらず個人的な感傷で作業を止めたのは……引き倒され爆撃を受けても仕方ない。


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