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いくつになっても結婚してないシャアは駄目オトコ13

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いくつになっても結婚してないシャアは駄目オトコ13
629 :Battle Field 20/32[sage]:2014/10/22(水) 07:27:06.70 ID:2r0xGik70
 「…よし,これで応急手当は終了だ」
ビアトリスが左腕に巻いた布をしぼると,少年が呻き声をあげた。
 「なんだ,この程度の傷で声を出すな,男だろう?」
やや強気な口調で言うビアトリス。
しかし,その発破は,彼女にしても,やや強がりめいて聞こえるくらいであった。
 「…。」
実際,隣で見守るディアーネは,姉妹のCecilia…シーリアや,ELe…エルであればそうするように,躯を小さく震わせている。
少年は,小さく呻いた後は,ぐっとこらえていた。
…あの戦いで機体は転倒(していれば『背骨』を損傷し,起き上がれなかっただろう)を免れていたが,右へジャンプした直後に敵機と接触し,激しい衝撃と共に左側面を大きく破損しており,
それはコックピットハーネスを失った少年を機体内に激しく叩き付け,左腕を激しく打ち付けて…その腕は,青黒い内出血と打ち身で,ぱんぱんに腫れ上がっていた。
 「幸い,骨は折れていないな。だが,しばらく動かすことは無理だ」
 「…ふざけんな,あと1回で優勝なんだぞ。」
 「しかし…,腕を動かすこともできないだろう?」
 「そーだよ,無理しない方がいいよ…無理して怪我を悪くしたら,元も子もないよ。」
普段明るいディアーネであるが,今は明るい声を抑えめに,しかし落ち込ませないよう,湿っぽい口調にならないように。
 「また来年,あるじゃない,ねっ?」
既に街路灯は暗めにシフトされる刻限。
まだ,どこかからか機械が動く音が静かに響くジャンク街の一角で,競技場から撤収してきた彼らは,機体を前に話していた。
どうしても,声音は低く,小さくなる。
シャツを脱がせ,汗をぬぐってから打ち身に軟膏を塗り…滅菌ガーゼで上腕部をぐるりと囲んでから包帯でくるみ,テーピングする。
そして首から紐で釣り下げたところで,少年はそれを拒んで腕を振り上げ…鈍い痛みが患部を走り,少年は呻きながら腕を下ろした。
作業場に駐機されたクラブは,損傷箇所もまだそのまま,悄然と立ち尽くす。
…ここに帰る前,少女たちは競技場から病院に向かって治療を受けようとしたが…少年は,それを拒否していた。
 『金がない』
少年が言わなかった事情はそんなところであろうが,なんとなく事情を察した少女たちは,帰り道に薬局で医療品をしこたま買い込んでここへ帰ってきていた。
実際のところ,アクシズで軍事教育課程を受講していたBeatriceには応急手当の知識もあったので,現状,できる限りの手当は行っていた。
それに応急手当だろうが医療機関に受診していようが,結果は変わらないだろう。
 (…まだ,熱は出ていないな)
にじみ出る汗を手にしたタオルでぬぐいながら,少年の様子を見守るビアトリス。
骨は折れていないようであったが,ヒビは入っているかもしれない…,彼が今夜半にでも高熱を発したら,どうにかして病院に行くよう,説得が必要かもしれなかった。
 「…私たちが出られれば,いいんだけどね。」
少年の額の汗を拭きながら,ぼそっとディアーネが呟く。
大会は,参加資格にこの都市の住人であることが明記されていた。
単純に他月面都市やコロニーからの助っ人を防ぐ条項であったが…
そもそも,この都市どころか公に存在を明かせない彼女たちが少年の代わりに,この機体のパイロットとして出場することはできなかった。
小声で呟くように言ったディアーネが少年の隣に腰かける。
ビアトリスは,治療に使った包帯や薬剤をガサガサと袋に詰め直しながらさりげなく,2人から身を離した。
 「いや,こんな怪我をするようなことを女の子にさせる訳には,いかないよ。」
ディアーネに言葉を返した少年は,きつい痛みを噛み締めながら…思う。
痛みは強いが,それは生きているということ。
まだ…まだ,行ける。
たとえ腕が折れていたとしても,心は折れていない。
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630 :Battle Field 21/32[sage]:2014/10/22(水) 07:28:32.37 ID:2r0xGik70
時間は,もう夜も進んだ頃合い,街頭も暗く明かりも闇に沈む頃合い。
 「こういうことは,さ,最後は意地だと思うんだ。」
 「意地?」
腕は腫れ上がり,包帯に隠れた肉は最初赤黒く…もう今は,青黒くなっている。
骨が折れていなくとも,ひびくらいは入っているかもしれない。
それでもゆっくりと少年は腕を動かし,痛みと引き替えに,指先は僅かに動いた。
 「確かに来年はあるかもしれない。でも,今は明日の試合のことしか考えちゃいけないんだ。」
 「…。」
 「ここで負けるわけにはいかない,夢で終わるわけにはいかない。俺は,まだきっと戦えるから。」
少年の心の奥底でくすぶっていた何かが,目覚めようとしていた。
 「今はもう,優勝するとか…この機体のアイデアで世に出たいとか…そんなことは思っていないんだ。」
少年の声に力が篭もる。
少女は,黙って聞いていた。
 「何かをやること,何かをやれること…それが,ようやく俺に見えてきた,だから…ここで終わりたくない。」
日々の生活のためのジャンク屋生活。母親を安心させるための学校生活。
大事ではあっても,大切ではないこと。
熱くなれること,熱くなれるもの。
たった2日前には,そんなことを思いもせず,考えもせず…ただそういう日々の生活から脱出しようとしていただけ。
今は,もっと強くなりたい。
もっと,
もっと。
痛みを超えて,少年は両の手をぐっと握りしめる…そして,開いた左手に右手の拳を打ち付ける。
 「…〜っ!!?」
その瞬間,痛みが左手から頭のてっぺんまで,骨から伝達するように響いた。
つい,情熱のまま握った拳をぐっ,とこらえるように膝の上に置いて痛みを噛み殺していると…柔らかな指が包み込むように,少年の握られた右手をさする。
 「…わかった。」
ゆっくりと横を見ると,ディアーネが少年を見つめながら,言った。
 「最後まで,がんばろ?」
今も青い瞳は明るく輝いているけれども,そこに少年は違う光を感じた。
同年齢の他の少女には感じなかったもの。
それは,彼女にしか感じなかったもの。
たぶんそれは…
熱っぽい気持ちで目線をあげると,少女もそれをしっかり見つめ返してきた。
どこか潤んだような瞳が,彼の心の何かを取り払う。
自分の手を包むその手を強引に握り返し,指と指を絡め合うように繋ぎ直すと,少女が小さく,息を吐く。
そして,小さく喉を鳴らして,そっと顔と顔を近づ
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631 :Battle Field 22/32[sage]:2014/10/22(水) 07:30:56.75 ID:2r0xGik70
 「…で,そろそろいいかな,お2人さん」
結構近くから,見下ろすように言葉が降ってきた。
びくん,と2人が体と躯を震わせ,そぅっと視線を見上げると…
ビアトリスが,むひょーじょーな目線で見下ろしている。
 「や,やぁ…びあとりすぅ…。」
どこか気まずげに,ディアーネ。
 「お2人に,面会だよ」
むひょーじょーにビアトリスが躯をずらすと。
 「か,かあさん…。」
はっきりと気まずく。
ビアトリスの後ろには,少年の母親であるラトーラが,無表情に立っていた。
まだ手を握ったままの少年少女と,それを見下ろす母親…どうにも微妙な空気が流れる。
…しばらくして。
くすっ,と小さな笑い声が出た。
 「…母さん?」
やや歳のいった女性だが…若い頃は,こういう笑い方をしていたのだろう。
 「そういえば,私,あなたのお父さんとそういう甘酸っぱいこと,あったかしら?」
ふふ,と大人の女性らしい寛容さで,彼女は笑った。
 「あ,あの,母さん,その…,あ痛っ」
 「あっ,だ,大丈夫!?」
異性を意識しても,親に紹介するにはまだ恥ずかしいのか。何か言い訳めいたことを口にしようとした少年は腕の痛みに顔をしかめ,慌てて手を伸ばす少女。
そしてラトーラは,手に持った物を少年に手渡した。
 「こ,これは…?」
それは,1本の操縦桿だった。
大きく握り手で把持するような…ちょうど巨大な輪っかのような形をしたそれは,操縦桿の半ばほどにも幾つかのトリガーが増設され,頂上部のボタンも複数になっている。
親指で押さえるボタンは,他のものとは色も大きさも違う。それは押すときにコクリと鳴りそうなくらい,やや硬質の作り。
少年が,差し出されたそれを健在な右手で受け取る。
不思議と,その操縦桿は彼の手にしっくりと収まった。
 「その操縦桿は,あなたのお父さんの操縦桿よ。」
 「お,お父さん…?」
手に握る操縦桿を確かめるように2,3度と握り返してから,少年は母親を見上げる。
 「そう。…あなたのお父さんは,ジオンでパイロットをしていたわ。そして怪我をして片腕となり,戦争を続けられなくなって,故郷にも帰れなくなって,このフォン・ブラウンにやってきた。」
いったい,いつの時代の話をしているのだろう…そのときのラトーラは,生活に疲れた主婦ではなく,娘のような面持ちで。
 「彼は,疲れ切っていたわ。…そして,ただ生きるため,ここで働き始めた。」
あぁ,その頃にこの人は会ってしまったんだ。
ビアトリスは,目の前の女性を,見つめる。
彼女の中で,彼はいつまでもその頃のままの男性だったのだろう…疲れ切り,戦争に倦み,何かを掴むことなく,ただ生きるためだけに戦い始めた男を。
そして,忘れられないのだろう,その人のことを。
 「これは,あの人が残したもの。あの人が自分で作った操縦桿。…先ほど,ビアトリスさんにこの操縦桿の動作プログラムの入ったディスクを渡しました。」
浮かべた笑みは,どこか寂しげで。
 「片腕でも戦えるよう,最後まで戦えるよう,あの人が作り上げたこの操縦桿…あなたも,あの人の息子なら,戦えるはずよ。」
本当は,まだ納得していないのかもしれない…この操縦桿を渡すことに,躊躇いがあるかもしれない。
それでも,彼女は操縦桿を少年に譲り渡した。
そして少年が手にした操縦桿に頷き返すのを見ると,黙って,その場に背を向けた。
 「私は,クラブをこの操縦桿1本で操縦できるよう調整する。ディアーネ,取り付け作業を頼む」
呼びかけられた少女は,立ち上がる。
 「お前は,片腕でクラブを操縦できるよう,特訓だ」
少年も,立ち上がった。
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632 :Battle Field 23/32[sage]:2014/10/22(水) 07:33:15.56 ID:2r0xGik70
最終試合…決勝戦は,午後1時から開始であった。
既に競技場の客席はほとんどの席が埋まっており,既に立ち見する者もいる始末。
そうした観客の興奮気味な大声や,飲み物や軽食を売る売り子たちの華やかな声,それらが渾然一体となって起こす歓声…
そして,決勝に望んだ両機は,既にフィールドで向かい合っていた。
1体は,ドラケン…軍用としても使われたミドルMS。
綺麗に塗装され,その他の機体と同様にスラスターを増設されているが…この機体が目立つのは,その形状とカラーリング。
作業用機としての無骨な形状であるが,装甲板は角を丸く形成し,機体全体も丸みを帯びたスマートなライン。
背部に設置された2器の大型スラスターは,まるでもう2本の腕が背面に生えているようで,テスト稼働では左右にも振れるようになっているところから,機体の機動力を高める工夫のようであった。
そして,本来はない頭部を機体上面に設置し…より外部状況の把握を高めるためであろう,その頭部にはツインアイ型のカメラが装甲の裏で鈍く明滅し,頭部前面に設置されたV字型のアンテナがギラリと光る。
クラブがノーリミット級にMA的な戦闘法を持ち込んだことで勝ち進んだ一方,こちらの機体は高機動性に敵情視察&情報収集能力を高めることで,他の機体に勝ち進んできていたのであった。
そして,なにより。
 「ガンダム,か」
ビアトリスが,ちらっと相手の機体を見て,言う。
その機体のカラーリングは,今や宇宙世紀で誰もが知らぬはずのない白と青,それに赤い色のトリコロール。
ツインアイの上にV字型のアンテナが立っているところから,設計者が何を思って作ったのかは,言わずもがなであった。
いわゆるガンダムカラーに塗られたその機体は,塗装が違うだけなのに,不思議と強そうに見える。
 「だあいじょぶ,だいじょぶだって。」
母音にアクセントを置くような発言で,ディアーネが明るく返した。
開かれたハッチから覗く操縦席は暗い…幾つかの明滅するモニターがちかちかと反応し,その前に座る少年が,静かにチェックリストを点検する。
そして2人の少女は,機体上方に開いたコックピットハッチに2人揃って躯を折って上半身を入れ,ほぼ逆さまのような姿勢で最終作業を行っていた。
プログラムを細い指先1本で打ち込んでいたビアトリスは,最終調整のため機載コンピュータと繋いでいたモバイルのケーブルを引き抜くと,
機体内に潜り込むように差し入れていた上半身を優雅に引き上げ…
上がる瞬間,激励するように操縦桿を握る少年の右肩をそっと撫でた。
そして機体外に起き直ると,ぱっと視線を上げ,挑戦的に相手チームを流し目で見やり…口の端に笑みをはいて,ピットへ向けて歩き出す。
ディアーネの作業も終わった。
ビアトリスの反対側から上半身を突っ込んで作業を行っていた彼女も,内部の点検を終えると躯を外に引き上げようとして…何かに気づいたように,また機体内に躯を戻す。
そして両の手で少年の顔をぐっと挟むと,少年の唇に柔らかな唇を押しつけた。

 「…?!」
首筋から逆に下がったネックレスの欠片が,きらりと緑色に光る。
操縦桿を確かめるように握っていた少年は,不意に目の前いっぱいにディアーネの顔が広がると…唇に,湿り気を感じた。
 「がんばって,ね。」
声をかけると少女が躯を起こし,機体を下りてビアトリスの後を追い,走っていく。
 「…」
しばらく,無言で硬直していた少年。
そして,とうにそこにいない,先ほどまでそこにいたディアーネの後ろ姿に視線をやり,ふぅっと深呼吸一つ,すると。
少女たちが十分に離れたことを確認して,重い音を立てて操縦席のハッチを閉じた。
そして,試合開始のホイッスルが鳴らされる。
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633 :Battle Field 24/32[sage]:2014/10/22(水) 22:52:27.25 ID:2r0xGik70
 「早っ…!!」
ホイッスルが鳴ると同時に,目の前のガンダムもどきが脚を1歩踏み込みながら,背部のスラスターを噴かす。
チーッ,と小さな音が鳴っているだろう…ツインアイがこちらを見据えると,背部スラスターを全開にして突っ込んでくる。
少年は,ぐっと受け止めるように操縦桿を前に突き出し…人差し指をホールドしながら中指でボタンを探り当て,軽く添えてクリック。
その操縦に合わせて,片腕用の操縦設定通りにクラブが動く。
突っ込んでくるガンダムもどきへ,探るように左手が伸びて行き…ガンダムもどきの背部スラスターがぐっと左に可動し,スラスターの向きがより下方へと向けられた。
その動きで,ガンダムもどきは自分の機体の身長ほどの高さへと飛翔する。
客席が大きくどよめく中,ガンダムもどきがクラブのアームをかいくぐるようにその上部を飛び去り…くっ,とスラスターの噴射を止めると柔らかにクラブの後方に着地する。
 「…柔らかい機体だなぁ。」
感心したように,ディアーネが呟く。
 「あの高さから,よく降りる」
ビアトリスもガンダムもどきの脚部,腰を見ながら言った。
実際,作業用MSでありながら,あれだけ『飛行』し『着地』する。
かつて1年戦争当時,地球上でガンダムと戦闘を行ったジオン地球軍は,ガンダムが機体をジャンプさせながら緩やかに滑空し,航空部隊を攻撃してくる様を見て驚愕したという。
それまでのMS…地球連邦を10年は優越していると評されたジオンであったが,一部技術では連邦がそれを優越していた。
その一つが,一つの機体で同時に2つのビーム兵器を稼働させることが可能であったジェネレーター技術であり,それはビームサーベルとビームライフルという兵器だけでなく。ガンダムという機体それ自体の機動性をも高めていた。
更に,それだけの高さから着地し,パイロットを負傷させることなく衝撃を吸収する,それを可能にした連邦の駆動装置やバランサーに関するレベルの高さも,特筆すべきレベルであった。
今,相手のガンダムもどきも小型の機体でそれを可能にしている。
(もっとも,月面の緩やかなGを考慮しなくてはいけないが)
そして軽やかに機体を反転させたガンダムもどきが,再びツインアイの輝きを靡かせながら走り出す。
観客の歓声が,後を追う。
昨日の5戦目と同じ展開を取ったこと,昨日はギリギリで避けたが…今回は。
しかし,クラブは昨日と同様には動かない。
1歩,右脚を後ろに踏み込みながらゆっくりと上半身を回転させ…アームで機体をガードするような動きで,しっかりと腰を据えた。
ガイン
金属と金属がひしゃげる音が,ぐわんと鳴り響く。
走り込んだガンダムもどきが相手と比べると細い腕を,クラブの脚に当てる…が,より自重のある機体は重たく立ち上がり続けた。
そしてアームがぬるりと近づくと,ガンダムもどきは背部のスラスターをくるりと反転させ,ごおぉ…という轟音をあげて噴射。
ぐいっと引っ張られるように,ガンダムもどきがクラブから一気に離れる。
しゅっ,とすぐにスラスターが止められると,着地する。
 「…そこが,欠点かな」
ビアトリスが見る限り,ガンダムもどきは良い機動性を持つが…機体容量の小ささは,機動性を生かす反面,欠点であるように見えた。
機体が小さいので,僅かなスラスター量でも機体は大きく『飛ぶ』ことができる…だが,小さいがために,長時間『飛ぶ』ためにスラスターの燃料を多く持つことはできない。
軽い機体と,スラスター燃料は両立しない。
よく飛ぶガンダムカラーの機体に観客は歓声を上げるが,決定打となる攻撃力がなければ,いずれスラスターが尽きたとき,勝利はクラブの手(アーム?)に落ちてくる。
はずであった。
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634 :Battle Field 25/32[sage]:2014/10/22(水) 22:54:24.82 ID:2r0xGik70
まさしく,その戦いはゴーレムとガーゴイル,2頭の鋼鉄の幻獣が繰り広げる戦いだった。
重く,しかしパワーのある一撃を繰り出すクラブをガンダムもどきは小さな動きと大きな機動力で,いなす。
『背骨』に支えられた上半身のSP−W03を揺らすクラブは,赤い機体を重たく蠢かしつつアームを振り回し…白いガンダムもどきは背部のスラスターフレームを振り回して白い機体を軽く飛翔させる。
赤と白…伝説の戦いを思わせるその戦いに,観客はいっそう興奮して一挙一動に手を振り上げた。
 「…すごいな」
うんうん,とディアーネが声にならないので,首を振って返事をする。
ビアトリスが言ったのは,目の前の戦いぶりという訳ではなく…自分たちが関わった機体のこと。
そして,片腕でも操縦できるよう,作成された操縦桿。
初めての片腕での操縦であそこまでやり合う少年の腕もいい腕ではあるが…それより,自分たちが関わった機体が見せる,その戦いぶりに2人は魅入っていた。
楽しい。
MSの戦い…1歩間違えば殺し合いの道具と言えなくもない。
だが,それに関係なく,ただ自分たちの作り上げたものを見つめる。
アムロが日々,あのアクシズで行っていた機械製作…あれは無論,生活のためであった。
しかし一方で,戦いから解き放たれた男がようやく手にした時間…平穏な日々を象徴する,趣味の世界だったのではないだろうか。
アムロは,周囲の人々の話によるとガンダムに乗り込む前,サイド7で『機械オタクの少年』として有名であった。
それは当時,直接の知り合いではなかったミライ・ヤシマですら,そう聞いたことがあるほどだったという。
その少年期を戦いと幽閉に費やし…,続く青年期をグリプス戦争から第二次ネオジオン戦争で終え。
そして30代にして突入した,アクシズでの生活。
そこで得たものは,趣味と実益を兼ねた機械いじり。
彼は,失った時間を取り返そうとしていたのかもしれない。
Beatriceはそう考え,Dianeはそう思った。
そして…今の彼女たちも,そのアムロの気持ちを理解する。
 「面白い」
 「…うん。」
少女たちは,今,自分たちの夢と向かい合っていたことに気がついた。
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635 :Battle Field 26/32[sage]:2014/10/22(水) 22:56:15.46 ID:2r0xGik70
白い腕がSP−W03のアームと交差する,鈍い金属音が耳をつんざく。
鋼鉄の腕が鈍い鋼色の腕を捉え,バランスを崩そうと逆手を取ろうとするが…重い脚部が1,2歩と後ずさるとそれを支えることができず,
手を離すと小さくスラスターを噴射して後退した。
ちゅいん,という軽快な音と共に縮んでいた『背骨』が再び伸び上がり…アームが伸びるとガンダムもどきを捕まえようとするが,その速さには追いつかない。
歓声が,残念がる呻きと…安堵する喜びの声で2種類の騒音を奏でた。
…戦いは,既に30分間。
集中力の限界とも言えるし,また,MSの稼働時間としても限界に近い。
機体の設計によっては,そこまで継戦能力を考慮しない機体だってある…そういう時間だった。
実際,ガンダムもどきは先ほどからスラスターの使用を極力制限するようになってきていたし,クラブとて動きが鈍い。
…これは,パイロットの負傷を考えると,少女の胸にちくりとした痛みを感じさせるものでもあった。
 「長いよぉ…。」
不安に思うが,今の彼女には祈ることしかできない。
意識せず,胸元のネックレスをさぐると…その先にある欠片を両の手でぎゅっと握る,何かに祈るように。
そしてそのとき,遂に,動いた。
ガンダムもどきがぐっと身構えるように姿勢を前傾させると…スラスターを噴射させて飛びかかるように,機動する。
クラブがアームを突き出し,牽制するようにゆっくり振り…それをぎりぎりでかいくぐると,着地した脚を大きく蹴り上げ,更に跳躍。
一気にクラブの腰部に目掛け…
 「っ」
ビアトリスが,呻く。
しかしクラブは,さらに脚を引き,『スパイン』を可動させて上半身を前に突き出す。
アームではない,上半身…いや,頭部。
巨大な胴体部を突き出されたガンダムもどきは,自重に勝る相手からの体当たりを回避するようにたたらを踏み,左に素早く脚を運ぶ。
小さく,右腕を振り上げて。
そして機体が離れたとき,クラブとガンダムもどきの間に,細い線が1本,繋がれていた。
次の瞬間,クラブの巨きな機体に一瞬,火花が散る。
 「…?!」
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636 :Battle Field 27/32[sage]:2014/10/22(水) 23:00:32.49 ID:2r0xGik70
 「あ,あれって…」
先ほど,ガンダムもどきは離れる瞬間,右手部をクラブの脚部に掛けていた。
完全な人間形ではないが,指は脚部にあったメンテナンス用の取っ手に絡みつくと,機体が離れるときに椀部がそのまま機体から離れ…ずるり,と腕から機体にコードが垂れ落ちる。
直後,スラスターを大きく噴射させたガンダムもどきは10m以上機体を離し,『背骨』をしならせながらアームを伸ばしてくるクラブから距離を置くと,動きを止めた。
機体の間で強い電流が空気を灼く音がする。
数瞬遅れて,電流が空気を焼く臭いがした。
 「…プラズマリーダー。」
ディアーネが小さく呟いたそれは,かつてジオン公国軍がMAアッザムに搭載した,ミノフスキーコンデンサーに電力を蓄え,放出する兵器。
発振された電磁パルスが相手の電子部品を灼き切り,付随するマイクロ波が搭乗者を焼き殺す兵器…むろん,これはそこまでの威力はない。
そういう意味では,むしろグフのヒートロッドの弱体化版…高熱でもって敵機を灼き切る目的ではなく,そこから発振される電力で相手機の電子機器を破壊し,行動不能に陥れようというのだろう。
確かに,レギュレーション上,射出兵器やビームサーベルのような高熱源兵器は禁止されてはいるが…高電力を相手の機体に流し,電子機器を狙うことはルール上に記載されておらず,つまり規定違反ではない。
一瞬,機体に流された電流はクラブの外装を通して機体内部を走り抜け…幾つかの間接から薄い煙が立ち上っていた。
脚部の駆動装置が幾つか,損傷したのかもしれない。
そしてなにより…
 「もう…『背骨』が,もたない」
ビアトリスが呻くように言った。
ある程度の剛性は確保してある『背骨』だったが,そうした攻撃や不具合に対処できるような高靱性までは,考慮されていない。
しかも,『背骨』が未だ機能していたとしても,それは機体各所の駆動装置がセーブする機体のバランスを考慮してプログラミングされており,もし,今の一撃で幾つかの駆動装置が失われていたとしたら…
その失われたバランスは『背骨』の計算外であり,その分の負荷が『背骨』にかかる。
そうなると…不安定な上半身を支える『背骨』は一層の負荷を抱え,「折れて」しまうだろう。
1歩,クラブが前へと踏み出した。
よろめくような足取りと…軋むような音が聞こえたのは,気のせいではない。
踏み出した向きと反対側へと,必死にバランサーが反応し『背骨』がそれを支えようとするが,失われた駆動装置の分だけ,機体がふらつくようによろめいた。
それでも1歩…2歩と近づくと,アームが長いクラブはガンダムもどきに接近することになる…既に,ガンダムもどきもスラスターを噴かすだけの燃料はないのだろう。
白い機体は,動くことなく2度目のプラズマリーダーのスイッチを入れた。
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637 :Battle Field 28/32[sage]:2014/10/22(水) 23:07:43.14 ID:2r0xGik70
再び機体間に光が走ると,今度ははっきりと,目に見える結果が現れた。
圧縮された電流がケーブルを伝って放電されてクラブの下半身に流れ…幾つかの絶縁体に邪魔されながらも,下半身部のあちこちを灼き切り,その機能を止める。
電子部品が焼ける白煙が,装甲の下から立ち上る。
ビアトリスが手をぎゅっと握り,視線を見張った。
ディアーネが掌で口元を押さえる。
大きな音をたて,がくん,と大きく振れたクラブの下半身が,2,3歩たたらを踏み…大きな音を立てて外れると,競技場に転がった。
見た目の印象よりはあまり大きくない音が,観客の声援すら飲み込むように,静かに倒れる。
白煙が小さく上がる脚部は,激戦を終えてなお,戦おうとするかのように相手を向いたまま倒れ伏し,装甲があちこちを黒く焦げていた。
そして…,鈍く立ち上る轟音。

観客が,まだ立ち上がっていなかった者まで,全員が立ち上がる。
ビアトリスが,ディアーネが,目を見張る。
2度目の放電を受けた機体が白煙を上げる…その瞬間,少年は瞳に力を込めて。
右手に握った操縦桿をぐっと握りしめ…親指にかけたボタンを押し込むと,続いて中指を折り曲げて緊急のイジェクトコールをした。
クラブが,その指示を受けて背部で繋がっていた,ここまで機体を支えてきた『背骨』をシステムから切り離す。
小さい警告音と共に下半身を示す表示がオフ表示となり,次に背中越しに鈍いスラスターの排出音が響いた。
左腕の痛みを戦闘の緊張感でねじ伏せたまま,少年は呟く。
 「30秒…だったよな,ビアトリス。」
クラブが『背骨』をずるりと下半身から引き抜くと,システムから切り離されたそれは,電流の直撃による白い煙を上げながら,鈍く倒れ込んだ。
そして上半身のみ…SP−W03部のみが,本来のスラスターを全開にして浮き上がる。
操縦桿を握る少年の手に力が入り,クラブは機体を前傾させた。
そして,少年は,操縦席の中,誰かに肩を支えてもらっているかのように,しっかりと相手を見据えて,何かを呟く。
見開いた目に,大きく,アームの先に,小さく。
対戦する相手は,ガンダム。
そして,スラスターが噴射された。


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