- 春夏秋冬…京都へ その百七十 [無断転載禁止]©2ch.net
412 :列島縦断名無しさん[]:2017/09/19(火) 21:40:44.93 ID:VWatr8NX - 昭和十九年の十一月に、B29の東京爆撃があった当座は、京都も明日にも空襲を受けるかと思われた。
京都全市が火に包まれることが、私のひそかな夢になった。 この都はあまりにも古いものをそのままの形で守り、多くの神社仏閣がその中から生まれた灼熱の灰の記憶を忘れていた。 応仁の大乱がどんなにこの都を荒廃させたかと想像すると、私は京都があまりにも永く、戦火の不安を忘れていたことから、その美の幾分かを失っていることを思うのであった。 明日こそは金閣が焼けるだろう。 空間を充たしていたあの形態が失われるだろう。 ……そのとき頂の鳳凰は不死鳥のようによみがえり飛び翔つだろう。 そして形態に縛しめられていた金閣は、身もかるがると碇を離れていたるところに現れ、湖の上にも、暗い海の潮の上にも、徴光を滴らして漂い出すだろう。 『金閣寺』 三島由紀夫
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