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名無しさん@お腹いっぱい。
ミリオンゴッド〜神々の系譜〜初心者スレ7
【アリサです】鉄拳2nd Part12【死んで下さい】
暇なので実体験スロット小説書きます

書き込みレス一覧

ミリオンゴッド〜神々の系譜〜初心者スレ7
628 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 20:52:15.07 ID:M9YF82tE
>>623,625

おまえの書き込みを素でしゃべるととても変なことになる。
人に言葉で説明する時のように書いてみろ、と。

【アリサです】鉄拳2nd Part12【死んで下さい】
360 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 20:57:46.71 ID:M9YF82tE
>>358
ポジティブでいいんじゃないか
ミリオンゴッド〜神々の系譜〜初心者スレ7
633 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 21:23:45.39 ID:M9YF82tE
>>631

何を言ってるかさらにわからなくなってきたが。

おまえ、チョンだろ。
ミリオンゴッド〜神々の系譜〜初心者スレ7
638 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 21:55:57.01 ID:M9YF82tE
>>635

で、聞きたいのは、

623 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2012/01/22(日) 19:54:48.20 ID:jbzcH+OD
2回こうなったですけど終わったら即辞めで大丈夫ですか?

625 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2012/01/22(日) 20:08:58.23 ID:jbzcH+OD
最初赤7揃って1G目で消灯しました
これって狙い目とないですよね?

のはずだが、連チャンしてるからもういいのか?
ミリオンゴッド〜神々の系譜〜初心者スレ7
641 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 22:05:41.40 ID:M9YF82tE
いや、チョンだろ

> 2回こうなったですけど終わったら即辞めで大丈夫ですか?
>
> 最初赤7揃って1G目で消灯しました
> これって狙い目とないですよね?
>
> 赤7揃いってレバー叩いたら消灯
> 2ゲームで消灯終わりGG消化
> 次のGGレバーオンでまた消灯、1ゲームで通常GG
> そして現在連チャン中です
>
> そうだよ

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5 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:02:16.16 ID:M9YF82tE
視界に飛び込んできた大男は、「見るからに」と言った容貌であった。短髪に、うっすら顎髭を生やしている。
縦ストライプの上下に、紫のYシャツ。ぎらぎらとした金のネックレスに、ロレックスだろうか?豪奢な腕時計をしていた。
太い指には、いくつものリングが輝く。男は、巨漢ではあるが肥満ではなかった。逞しく、がっしりとした筋肉質な体つき。
プロレスラーと言われても違和感はない。知り合いの土建屋の社長も似たような風体であるが、眼前の男は、どうにも気配が鋭い。街頭で、彼の職業は?と尋ねたら、大半の人間は、こう答えるだろう。
「暴力団?」
と…。
男は、まだ書き終わってない用紙をパッと取り上げると、俺の顔と交互に見比べて、
「ふぅん」
どかっ、と豪快に腰を降ろした。
「で?お前さ、ナンボ欲しいの?」
「あ、いや、あの」
「はっきり言えよ!茶ぁ飲みに来たのか?よう!」
恫喝…ではない。口元がニッと歪んでいるのだ。なので畏れはなかった。ただ、目は笑ってない。
あまり唐突であったのと、横柄に過ぎる態度に言葉に詰まっていると、
「よう、言いなよ?ゼニ欲しくて来たんだろ?貸してやるから、言え」
「えと、30万円ほど」
「ふぅん」
しばし、沈黙。目を反らせない感じである。じっとりと汗が出る。
「お前さ、いま、いくらあんの?」
また、突飛なことを言う。慌てて財布を出すと、
「違ぇだろ!ヨソでもツマんでるんだろ?いくらあんだよ?」
的確だ。表で借りられないから、訪ねたのだから。
「百…くらい」
「ああ?はっきり言えって言ってんの!客だなんて思うなよ?お前、ゼニ作らないとパンクすんだろ?飛ぶか吊るかしかねえんだろ?立場考えろって、よ?」
「…はい、124万円、借りてます」
「本当だろうな?」
「はい」
「調べりゃ分かるんだからな?」
「はい」
「本当だろうなッ!」
最後の問いには、力があった。半オクターブほど低い、重い怒号だった。顔つきが、明らかに変わったのが解る。
「本当です!」
絞り出すように、また、奮い起たせるように、大きな声で答える。
「ならいい。ウチは信用貸しだからな」
声のトーンが戻る。いま考えてみたら、すでに策略に嵌まっていたのに違いなかった。
「30ぽっちじゃ話になんねえだろ。二百出す。焦げ付いてんだろ?切り取りかけられてんだろ?すぐ止めさせるから、安心しろよ。
で、本題。身分証、持ってきた?」
「はい。これ…」
免許証を差し出すと、男は受け取らずに笑った。
「バッカお前!こんなもん出して、どうすんの」
意味が分からない。
「いやさ、パスポートだよパスポート。お前が誰かとか、知らないよ」
「パスポートですか?」
持っていない。渡航経験すらないので、作っていないのだ。男は表情で察したのか、やけに柔かな口調になって、告げた。
「じゃあ作ろうか、パスポート?いま、すぐ」
…嫌な予感が、次第に現実味を帯びて立体化してくるのを、肌で感じた。

〜つづく〜

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7 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:03:23.83 ID:M9YF82tE
パスポート…?
当時の借金は、学生ローン(非学生でも紹介を経れば利用出来る)と、大手サラ金二社だけだ。
融資の際に旅券の提示を求められたことなど、ただの一回もない。
脳裡をハテナが飛び交う。目を白黒させていると、
「心配するなよ?返す気、あるんだろ?それなら、心配するな。
ただの保険だからよ。
保証人も担保も立てないで貸すんだから、保険掛けねえとな」
そう言うと、男は席を立った。
つまりは、だ。
万が一にも回収の見込みが薄くなった場合、パスポートを使って金を作る算段があると、そう言うことなのだろう。
いよいよ話が怪しくなってきた。まるで得心が行かない。
かち、こち、と時計の音が響く。
どうして、この場を切り抜けようか…?
男は申し込み用紙を持って行ってしまった。
まだ金は借りていないのだから、このまま逃げても問題はない…とは思う。
しかし、得体の知れない連中に住所から連絡先から握られるのは、やはり気持ちの良いものではない。
思案していると、くわえ煙草をして、大男が戻ってきた。
「ほら」
どさ、と帯留めされた紙束が放られた。
「これ、二本、な?手垢付いてないゼニだ、お前のものだ」
「え、いや、あの」
「遠慮してんのか?いいから仕舞え。お前は嘘をつかなかった、だから貸してやるっての」
「えっ?」
「信用情報なんざ、お前が来る前に引っ張ってあるんだよ」
なんという手際の良さであろうか…?
男は間髪入れずに、ぐい、と俺の手を掴んだ。
「ほら、な?見たことないか?これが札束だ。早く仕舞えよ」
口調とは別に、その表情は堅かった。気配が鋭くなった。
「やっぱり…」
「仕舞え」
駄目だ、この金を手にしてはいけない。いけない…
「仕舞えよッ!」
刹那の怒声が、雷鳴のように空気を切り裂いた。
怖かった…。
「はい、ありがとうございます…」
完全に、俺の負けだ。

〜つづく〜

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9 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:04:22.89 ID:M9YF82tE
「そうそう、素直が一番だからな。困ったときはお互い様だよ。な?」
男は口の端を歪ませた。
いそいそと、裸の現金を鞄に仕舞う。勘定していないが、封印されているし、額に間違いはないだろう。
「じゃ、とりあえず書いてもらえるかな?」
すかさず男は、便箋状の紙を置き、こんこん、と指で小突いた。
「えと、何を書くんですかね?」
「念書」
海千山千だ。寸分の無駄もない、スムーズな商談。感心している場合では、もちろんないが。
「おう!言われた通りに書けばいいんだ。いいか?
私、××△△(以下、甲と呼ぶ)は…」
文面は、個人間で貸借する際に交わされる、ありふれた内容だった。
「はい終わり。サインして、判子押してな?」
…早々に書かされた書類には、何らの意味もなかったのだ。
こうやって実印入りの借用書さえ取ってしまえば、どうにでもなる。
まさか、とは思ったが、よくよく考えてみたら、ここの客は、首が回らなくなり取り立てに遭っている人間「だけ」なのだろう。
話が繋がってきた。
恐らく…こいつらの正体は、焦げ付いた借金の回収屋なのだ。
電話では名前しか告げなかったのに信用情報が照会出来たのも、ポンと金を出すのも、「知っていたから」だ。
なんという、なんという恐ろしい因果だろう…!
「たまたま」電話したヤミ金は、「たまたま」俺の借りていた街金が債権を譲渡した取り立て屋であったのだ。
つまり…そもそも、ここは特定の人間しか客にはしない。
繋がりのある街金…そこから回ってきた債権…そうして情報を握っている人間からの連絡を待つ…!
年間に数人、ほんの二・三人でいいのだ。
所詮、金融の真似事は副業なのだから。
それにしても悪辣だ。俺に出した200万のうち、実に124万円は、間接的に丸々連中の手に戻る。
そして法外な利息が加味された、新たな76万円の借金が、俺には残る。
瞬く間に思考回路を動作させていると、男は借用書を丁寧に折り畳み、懐に入れた。
「そしたらな、パスポート作ってこいよ?」
契約自体に、パスポートを作る義務など明記してはいない。
と、密かな反抗が胸に湧いてくるや否や、
「ああ、これは仮契約だからな?」
「仮なんですか?」
「そうそう。パスポートさ、二週間くらいで出来ると思うんだよ。
だから、作ったら持ってこいよ?わかった?
初回の入金は、そんときでいい」
…詭弁だ。仮も糞もないだろう。
「あの、その、金利の件なんですが」
…二週間も待たされたら、利息だけ膨らむじゃあないか。
「あ?おお悪い、説明してなかったか?」
…これも手口か。
「ウチは良心的な信用商売だからな」
…パスポートなど普通は持参しない。
「トイチ」
馴染みはないが、聞いたことのある単語が、男の口をついた。

〜つづく〜

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10 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:05:21.14 ID:M9YF82tE
トイチと言えば…
「十日で一割な?複利だから年利365%だぞ?
初っぱなの利子引いてねえから、実際には224万貸したことになるからな」
…そのくらいは、知識としてあった。
既に冷や汗も乾いてしまった。喉が渇く。
男は続けた。
「なんだよ、びびってんのか?
世の中にはな、トサンみたいなカラス金でアコギな商売やってる連中だっているんだ。
かわいいもんだろ」
よく威張れたものだ。
そうしてるうちに、なにか気を良くしたのか、男は柔和な感じになった。
「煙草、吸うか?」
「結構です」
「ふぅん」
会話は、そこで終わってしまった。
沈黙。男の顔をジッと見ているのも妙なので、仕方なしに机を見つめる。
とんでもないことになった…
借金を題材にした漫画などは、一定の支持があるし、読んだこともある。
どれも面白い。他人事だから、だ。
けれど、まさか自分が、その主人公に抜擢されるとは、露にも思っていなかった。
ここに来たのは、諦めるためだった。
ブラックに載った人間に、ろくな審査もしないで簡単に大金を用意してくれる組織など、現実にはないと思っていた。
が、あった。
そればかりか、上手いこと丸められて借金を増やす羽目になったのだから、堪らない。
などと色々考えるうちに、現実として、この有り様を受け入れたもので、ふと聞いてみた。
「あのう…もし自分が、このまま逃げたら、どうするんですか?」
「逃げねえよ。お前は逃げない」
男は下卑た笑みを浮かべた。
「もし、死んだら、取り立てようがないですよ」
「そんな度胸ないだろ、ああ?」
「それは…」
確かに。
「とにかく、いつまでも油売ってんじゃねえよ。
早くゼニ返して、パスポート作ってこい。
じゃあな、俺は忙しいんだよ」
言うや、ひらひらと手を振って、男は奥に消えた。
入り口には、やはり錠前が据えられていた。最初に案内した優男が現れて、鍵を開ける。
…優男には、当初の面影はなかった。
切れ長の鋭い目。
菩薩の微笑みは完全に消え、代わりに般若の面をつけている様な恐ろしい顔をしている。
この男もまた、そちら側の人間なのだから、堅気にはない威圧感があるのは道理であった。
「逃げるんじゃねえぞ」
優男は眼鏡の奥から一際鋭い視線を投げて、冷徹に、言った。
一歩外に出ると、なんとも言えない開放感に、しあわせを感じた。
一呼吸置いて、俺は歩き出した。
固く決心して、歩き出した。

…逃げよう…!

〜つづく〜


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11 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:06:01.17 ID:M9YF82tE
「鬼の住処」を出ると、駅とは反対方向に歩を進める。
もう、自分の部屋には戻らないつもりだった。
別段、戻れない理由も今すぐにはないが、このまま行方を眩ました方が都合がいいように思えた。
危機的状況は変わらないのだが、どこか楽天的な自分もいた。
なぁに、200万もの大金があるんだ、どうとでも暮らせるさ!
…大金と言えば大金であるが、呆けているとアッという間に溶ける金額でもあるのに。
ああ、逃走中の犯罪者も、こんな気分になるのかな?と馬鹿を考える。
かぶりを振って現実に戻る。
とにかく、いまは結論が出ない。
どうするかは明日考えよう…
その日は、そのままネットカフェに宿泊した。
そうしてみて…件の明日が来ても、そのまた明日が来ても、俺は、考えることをしなかった。
携帯だけ解約して、日がなブラブラとしていた。
街金に、金は返していない。
あの、プロレスラーのようなヤクザ…あの男が最後まで緊張を解かなければ、もしかしたら逃げようなんて考えはなかったかもわからない。
元来、怠け者なのだ。だから、そもそも借金なんかをこしらえる。
一週間も経つと、いよいよグータラの本領発揮である。
それまでは見つかったら…という懸念があったのに、プツンと糸が切れた。
気がつくと、パチンコ店に並んでいた。新台入れ替えのノボリを見て、興奮してしまったためだ。
不思議と、勝てた。
味を占めて、翌日も行った。そのまた翌日も。
そうして一ヶ月あまりが経った。
一応気を遣って、知らない土地で行動していたのだけれども…
とはいえ、電車で五駅ばかりのところであるが、まったくの安全であると錯覚していた。
あるとき、いつものようにパチスロ機で遊んでいると、
「景気はどうだい?」
ぽん、と肩を叩かれた。
振り返ると、グレーのスウェットの上下にサンダル履きの男が、いた。
その男は革製のセカンドバッグを持っていて、ぎらぎらした金のネックレスをしていて、豪奢なロレックスをしていて…
アッ!と声を上げてしまった。
全身から汗が吹き出して、背筋が凍りついた。
「おう」
男は、空いているほうの手でグーを作り、軽く頭をノックしてきた。
「久しぶりだな」

…見つかったッ!

〜つづく〜

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13 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:06:33.14 ID:M9YF82tE
男は、不敵な笑みを浮かべていた。目は笑っていない。
人間、怒りの度が過ぎると笑うというが、そういう体裁だろうか?
「出るぞ」
「…はい」
素直に従う。騒いだところで、手遅れである。
パチンコ店を出て、すぐ向かいにある喫茶店に入ることになった。窓際奥のテーブルに腰をかける。
「で、パスポートは?」
コーヒーをすすりながら、冷たい時間が流れる。
「あのう…怒らないんですか?」
ぼそり、と聞く。
「怒るも怒らないもないだろうが!パスポート、まだなら仕方ないから待つけどよ?利息は待ってくれないけどな」
含みのある言い方だ。実際問題、間違いなく、逃げたことは把握しているだろう。間違いなく。
平日の昼過ぎなので、客は疎らだった。
「お前、さ?いくらになったかなんて、知らないだろ?」
「はい」
「全部引っくるめて、それなりの新車買えるくらいには、なったからな」
表情こそ険しいが、男は、穏やかな語り口だ。
漫画だと、こういう場合、やれ内臓売れだタコ部屋だと、非人道的な脅迫を受け…
「お前、タコ部屋って分かる?」
目が点になる。
「ああ、このご時世、そんな面倒なことしねえから安心しろよ」
「…。」
「黙るなよ馬鹿!冗談だろうが」
違う、恐ろしさなど、なかった。思考を読まれているような不気味さが、あったからだ。単なる、偶然の合致だろうけれど。
もっとも…創作は取材に基づいているだろうから、本当に常套句なのかもわからない。
「どの道、まともに返せる額じゃあねえ」
ふうっ、と副流煙に巻かれる。
「ただ、お前は逃げなかった」
「でも、お金使うばかりで返してません」
「頭の良いやつならな」
すぱすぱと、煙草を吹かしてから、男は続ける。
「本当にパスポートを作る。それで、飛ぶ。逃げるってな、そういうことだ」
「でも」
「馬鹿だから、借金なんて作る」
道理。
「街金のな、百なんてのは…返せねえ額じゃあねえんだよ。
プー太郎にゃキツい金利だけどな」
道理。
「だがよ、ウチみてえなとこから二本もツマんだら、もう返せねえ。職持ちでも無理だわ」
無理なのを承知で強引に貸付けたのは、あんたじゃないか。
半ば開き直りの境地に、なってきた。
俺は基本的にずるい人間であるからして、相手の顔色を窺い、それに自身の心理を同調させる。
比較的柔らかい物腰であれば、緊張するだけ損だと考える。
しかし…よく考えてみれば、ここは密室でないのだから、思い切った恐喝はする筈がない…。
「返せなかったら、どうなるんですか?」
「ん?」
アイスコーヒーを一口、
「返させる」
言うなり、また煙草に点火して、
「回収できねえやつに、二本も出さねえよ」
深く肺臓を経由した煙を鼻から抜き、男は、また不敵に笑う。
「どうなるんですか?」
合点がいかなくなり、一抹の不安がよぎり、でも、何処か楽観して尋ねる。
男は、しばしショート・ピースの薫りを愉しんでから、微妙な笑顔を崩さずに、宣告する。
「売るしかねえな」
売る…?
「お前を、売る」
ちょっと待て。話が違うじゃあないか。

〜つづく〜
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14 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:07:08.11 ID:M9YF82tE
男の宣告に、おののくよりは、面食らった。
あまりに話が、急すぎるから。人足として売り飛ばす旨は、先ほど彼自身が否定したばかりだ。
「売る…?」
男は頷くのみで、何も言わない。
借金を踏み倒し、鎮火しようとヤミに世話になっておいて、挙げ句その金で遊んでいた…
そんな人間に、利益を生む価値があるとは思えない。自身で落第を評するのも情けない話だが。
御用聞きに来た四十路くらいの女店員をジェスチャーで追い払うと、男は、
「S区、パーラー××」
パチンコ店の名前を、出した。
びっくりした。よく知っている、店だった。
「…パチ屋ですか?」
「すっとぼけんなよ」
無駄なことであった。
「お前、あそこでサクラやってたろ」
男の指摘は、図星だった。しかし、何故、知っているのか。
何故、いま、その話題を出すのか。分からない。形容し難い恐怖染みた感覚に襲われる。
得体の知れない恐怖。
「そんときの頭、な。ありゃあ、ウチのもんだ」
「岡崎さんが?!」
言ってから、しまった!と思ったが、すぐに冷静になる。
よくは知らないが、もう一切合切握られているみたいであるので。

岡崎という男と最初に知り合ったのは、場末のゲームセンターだった。
同じ場所で同じ遊戯に興じていると、不思議なもので、いつの間にかコミュニティが生じる。
そんな中で、当時大流行りだったパチスロの話が出るのも、道理だった。
岡崎は年の頃30半ばといった、冴えない感じの男であった。
パチスロで生計を立てている、と言ってはいたが、そんな吹聴をして回る人間は結構な数いたので、特に信じるでも疑うでもなかったが。
近しい関係になった或るとき、岡崎と食事に行ったときである。
「連れから、面白い話が回ってきたんだけど」
岡崎は飄々と、子細を語り出した。
…それが、サクラの話であった。
表面上の付き合いではあるが、大口を叩く男では、ない。
加えて、その場にいた人間は、みなパチンコに少なからず造詣があった。
当然、興味を引いた。
集団の中で大して目立たない存在であった岡崎が、その時を境にグループの中心になろうとしていた。

〜つづく〜
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15 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:07:44.91 ID:M9YF82tE
岡崎の話は、こういうわけであった。
個人的に懇意にしているパチンコ店社員が昇進だか何やらで、パチスロの設定状況を把握できる身分になったのだという。
そこで、情報をリークするから、打ち子を雇ってもらいたいと岡崎に相談があったらしい。
条件は、種銭は二万円までの補償があり、交換金額の三割が取り分だという。
…実際は折半であったのを、二割を岡崎がハネていたというのは、後日談である。
パチスロをやる人間にとって、これほど愉快な話はないから、みな、「やる、やる!」と大いに乗り気になっていた。
俺は俺で、訝しい部分もあったのだが、話に乗る前提で、いくつか質問をしてみた。
まず、店にバレないかという点。
これは、何も問題がないという。
本来、出そうと思って設置する見せ台であるから、店に損失は出ない。
不正に出る設定を入れるわけではなくて、ただ情報を流すだけであるから。
また、打ち子衆が直接連絡を取るのは岡崎のみであるので、面倒は一切ない旨を強調していた。
「もし、裏切ったら?」
一通りの説明が終わってから、仲間の一人が、冗談半分に聞く。
「持ち逃げってこと?別に構わないけど…付き合い、それっきりになるだけだから。
ただし馬鹿やるなら、それなりの覚悟はした方がいいと思う」
岡崎は、目を細めて答えた。特にそれから、問答が発展することはなかった。
「普通にやってれば、割の良いバイト代もらえて一日遊べるんだから、文句ないでしょ?」
喋りながら起立して、
「勘定、俺が持つから。ごゆっくり」
万券を一枚、テーブルに置くなり、岡崎は足早に店を出て行った。
その際…覗くつもりは毛頭なかったのだが、岡崎の財布の中が、見えた。
ぎょっ、とするような札束が、ぎっしり見えた。

サクラ稼業は、存外滞りなく従事できた。
明日頼むよ、と岡崎から連絡があったら、翌朝九時に店に並ぶ。
朝十時開店であるから、それまでには台番号のみ記載された電子メールが、岡崎から届く。
朝から千客万来な店ではなかったので、指定台に座れないことはなかった。
この一連の流れに加え、状況問わず夜十時までは台を開放しないこと、それがルールだった。
換金をしたら、電車に乗って、馴染みのゲームセンターで金銭授受を行う。
何の問題もない。
稼働は一日につき一人、間隔はまちまちであったが、均すと、大体週に一度は順番が回ってきた。
月に、ゆうに10万以上は貰えた。楽しかった。

こうして二ヶ月ほど経った、ある稼働日のこと。
昼過ぎ、調子良く連チャンして上機嫌でメダルを積めていたら、
「エラー出ちゃったんで、台開けて良いですか?」
他の店員とはデザインの違うユニフォームの店員が、不意に声をかけてきた。
断る理由がないので、席を立つ。
その時だ。
「岡崎くん、どこ行ったか知らない?」
店員に、耳打ちされる。
こいつが「主犯」か!と思いつつ、首を横に振る。
「いなくなっちゃんだよ、岡崎」
店員は、ニコリと一礼すると
「終わったらさ、駐車場にいてよ」
また耳打ちをした。
岡崎が、消えた…?

〜つづく〜
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16 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:08:52.60 ID:M9YF82tE
その日は、都合七千枚ほど出た。
駐車場で、という指定だが、具体的な場所は、よくわからない。
しかし巨大な立体駐車場というわけでもなかったので、とりあえず、出口と真逆のあたりの縁石に腰をかける。
岡崎が、消えた…?
一体、どういうわけなのだろう。
しばらく考えてみたが、唐突に言われても、俺が困る。
と、程なく、「主犯」と目される店員が、来た。まだ23時前である。
「ごめんねぇ、待ったかな?」
「いえ」
「あ、申し遅れたけど中澤と言います。何者かは、もう分かると思うけど」
店員…中澤は、ごく普通のスーツ姿で、見た目に年齢は岡崎と変わりないように見える。
目立たない場所まで歩き、中澤は難しい顔をして、
「あのさ、岡崎、どこ行ったか本当に知らない?」
「知らないです。俺らも、基本的には、連絡待ちなんで」
「そっか。困った」
更に難しい顔をされる。
「岡崎さん、連絡取れないんですか?」
「そうなんだよ…昼に会う約束をしていたんだけどね」
中澤は頭を掻いた。
「本当に困った。急ぎなんだよ」
「…もしかして、お金…ですか?」
「うん」
苦笑いをしながら、中澤は語り出した。
「実は、岡崎からの入金が一切ないんだ。正確には、先月に一回、十万だけ振り込まれたんだけど。全然足りない」
「話が見えないんですけど…つまり、代打ちのアガリを着服したと?」
「そうは思いたくない。そんな奴じゃあないから。
でも現実に、入金がない。それは事実だよ。
こちらにも色々と都合があってね。故意じゃないにせよ、困る」
はあ、と溜め息をつき、中澤は携帯電話を手に取りダイヤルした。
「駄目だ、やっぱり繋がらない」
すぐに首を振り、また難しい顔。
「あのう…具体的に、どのくらいの金額ですか?」
「端数切って502万円」
「ええ!そんなに?」
計算が合わない。岡崎が現場に出ていたかは不明だが、仮に岡崎を含めても五人での稼働である。
俺個人だけでも、二ヶ月で31万円の利益なのだ。五人がかりだとしても、300万を切るはずなのに。
「なにか間違いじゃないんですか?」
単純計算でも、明らかにおかしい。しかし中澤は大袈裟に手を振り振り、
「ホールコン見て帳面付けてたから、間違いない。
君たち八人で抜いた額の、ちょうど半分ね」
八人?!
岡崎という男は、中々に狡猾だったようで…どうやら、別にもグループを率いていたらしい。
俺たちだけと、言っていたのに。
「まあ、連絡取れないなら仕方ない。どんな手段を使っても見つけ出す。
君たちには悪いけど、しばらくウチでの仕事は無くなるよ!
今日の分は、半分だけ貰っていいかな?
それじゃ、岡崎見つけたら連絡ください。これ俺の携番。協力ありがとうね」
メモ書きを残して、中澤は去った。

とにかく、桜が散ったことを仲間に告げなくては。
落ち合うために、駅に向かった。
切符を買おうとした、その時だった。
携帯に、着信。見覚えのある番号だった。
「もしもし?岡崎ですけど」

〜つづく〜
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17 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:09:23.83 ID:M9YF82tE
「岡崎さん!いま…」
「待って、落ち着いて話を聞いて。要件だけ話すから」
岡崎は電話口でも変わらず、飄々とした様子だ。
「いいかい?俺は、ちょっと今すぐには顔を出せない状況になった。
でも、中澤から聞いただろうけど、500ちょい?払わなくてはならない」
「それは岡崎さんの問題でしょう?ルール守って打ってれば面倒は起きないって言ってたの、岡崎さんじゃないか」
腹が立った。
「落ち着いて。誰も肩代わりしろなんて強要はしないから。
ただし、仕事続ける気があるのなら、どうか立て替えて欲しいんだ」
「はぁ?」
頭がおかしいんじゃなかろうか、と思う。500万もの金を、パッと用意出来るわけがない。
「怒らないでよ。話を最後まで聞いて。
今まで、アガリの二割は、仲介料として俺の懐に入っていた。
もし、ここで立て替えてくれたら、アガリの半分が君らに入る。
そこから、払える分だけ払っていけばいい。借金じゃあるまいし、マイペースでいい。
何も、一度に500万出せなんて言わないから」
「…その話、他の連中にはしました?」
「した。君は稼働していたから最後になった。阿部ちゃんは、やるって。他は、降りるって」
「俺らの他にも、いたんでしょ?」
「…ああ、黙っていたことは謝る。ただ、変に揉めたりしても困るからね。
あっちの連中は、全員降りる」
しばし、沈黙。
悪い話ではない…のか?が、問題は…
「いくら払えば、いいんですか?」
「阿部ちゃんと100万ずつだね。都合出来なければ、借りてでも払うといい。
頭数が減った分、稼働日数は増えるから、多分問題ない」
「多分?」
「いや、断言は出来ないじゃないか。だから強要はしないって」
岡崎は徹底して同じトーンで、淡々と話す。
かなり見えない話をされているのは一方で理解しているのだが、一方でビッグビジネスかも知れないと生唾が出た。
しかしながら…表面上の付き合いしかない人間に頼まれて100万もの金を用意しようというのだから、どうかしてる。
だが、眉唾だと思っていたサクラ話が実現したことを考えれば、いま岡崎が語っている話も、満更ではないと思える。
「どうする?やる?」
「やりたい…けど」
どうやって金を用意するか、問題はそこである。
「いま俺、学生ローンに借金あるんですよ。
代打ち始めてからバイトも辞めちゃったし、借りると言っても…」
正直に告白する。と、岡崎は乾いた笑い声を立ててみせた。
「なんだ、そんなことか。大丈夫だよ、借り方、教えてあげるから」
「ヤミ金とか、嫌ですからね」
「大丈夫、ちゃんとしたとこから借りられる」
岡崎は決して巧みな話術とは思えない。むしろ不審点・不明点の方が多い。
なのに、なんで…なんで騙されてしまったのか…?
「借り方、教えるよ」
変わらぬ調子で、岡崎は繰り返した。

〜つづく〜
暇なので実体験スロット小説書きます
18 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:09:52.91 ID:M9YF82tE
「学生ローンの借金は、いくらあるの?」
「30万くらい。一応、利息分だけは入金日守ってますけど」
とりあえず、問いには答えることにする。
「じゃあ、明日の朝一番、そこに振り込めるだけ振り込んで。明後日、別の金融に行ってもらうから」
もはや疑念は欲に溶かされ、岡崎の言葉に心酔するではないが、従うことにする。
「いいかい?サラ金は自動機じゃなくて窓口に行く。保険証と印鑑だけ持って行けばいい。免許証は持参しないで。
これも、朝一番に行くんだよ?
CM打ってるような大手なら、どこでもいい。
職業は派遣、グッドキャスティングの△△支店と書く」
「実在の会社じゃないですか」
「そうだ。でも△△なんて支部支店は存在しない」
「大丈夫なんですか?」
「問題ない。いま短期派遣は急成長しているから、事務所なんて無数にあるし、同じ事務所でも分野によって細分化されてる。
それで面倒だから在籍確認なんて、まずしない。
万一に備えて、電話番号は中澤の自宅の番号を教えておくから」
岡崎の言には、信憑性が感じられた。
門外漢であるから、かも知れないが、何らかの魔力があった。
「年収は150万、ただし親の年収は、そうだな…1200万にして」
「親父、そんな高給取りじゃないすけど」
「いいんだよ。調べようがないんだから。あまりに高額だと不審だし、低いと満額降りないかも知れないから。
若くて親元がハッキリしてれば、金は出る。じいさんじゃなきゃ、いくらでも回収できるから。
それで、満額50万借りていい」
「50万…」
「後から枠を増やすとなると時間がかかるから」
この男…単なるパチスロ打ちじゃない…!
以前目撃したパンパンの財布が、網膜を介さず脳内に再生された。
「用途は何でもいいんだけど、レジャーと書くんだ。曖昧だけど突っ込みにくいからね。
無事に借りられたら、すぐに別の会社に行く。で、同じことをする」
「…本当に大丈夫なんですね?」
俺が心配したのは、法に抵触しないかということ。
が、すぐに否定する岡崎である。
「大丈夫。連中も商売だ、みすみす鴨を売るような真似はしない。
そうそう、一社目も二社目でも、既存の借り入れの有無を聞かれる。
その時は、正直に学ロンの借り入れ額を答える。
明日振り込んだ、残りを答えるんだ。
二社目では、絶対に一社目の50万のことは言うな。それで通る」
その時の俺は、もはや妄言を飲み込まざるを得なくなっていた。

〜つづく〜
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19 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:10:20.53 ID:M9YF82tE
「ご利用ありがとうございました」
…本当に借りることが出来た…!
岡崎の言ったことは、またしても現実になった。手元にある二つの封筒の中には、百万円の現金が封入されているのだ。

『もう俺とは連絡が取れなくなる。中澤には話をしておくから、あとは彼と打ち合わせしてくれ。
それと、できるだけ阿部ちゃんには連絡しないで。
一方的で悪いね、どうもありがとう』

一昨夜の密談を最後に、岡崎の携帯電話は不通になった。
中澤に連絡すると、駅前のハンバーガー屋にいるからと言われたので向かう。
「やあ」
にこやかに、奥まった喫煙席に案内される。カジュアル・ウェアに身を包んだ中澤は、実年齢より若く見えた。
もっとも、歳を正確に把握しているわけではないのだが。
「お疲れ様。悪いね、迷惑かけたみたいで」
「いえ」
「結構な金額だけど、本当に大丈夫?」
白々しい言葉であるが、この男が儲け口であるから、邪険には出来ない。
「あの、阿部くんは?」
「ああ、もう一人の子か。彼とは、また別の機会に話をする。
これからは稼働日数が増えるから、馴れ合われても困るんだ。煙は立たない方がいい。
今後しばらくは連絡を取らないで欲しい」
整合が取れる話ではあるが…岡崎にも、阿部と連絡を取るなと言われていたのが引っ掛かる。
「じゃあ、早速で悪いんだけど…いいかな?」
「はい、これ…確認して下さい」
鞄から、金を出す。昼前であったが、喫煙席に客は少ない。
「オッケー!大丈夫、そんな野暮天なことはしないよ。信用第一だ。確かに受け取りました。
領収書切るから、ちょっと待ってね」
言うなり、さらさらと書き込んでから、捺印した紙を渡される。
有限会社森本企画、と書いてあったが、パチンコ店の経営会社だろうか。
「さっ、話は済んだ。長居は無用、誰に見られるとも限らない。出よう。
一週間以内には連絡する、それまでは大人しくしていて」
商談は、ものの二・三分であった。

それから五日間くらいは、言われた通り、なるべく家にいた。
有り金叩いてしまった分は、学生ローンから再度借り入れた。
借り入れとはいえ、カード一つで、あたかもキャッシュカードのように引き出せるのは便利であり、罠だと思う。
六日経った夜、中澤から電話があった。
「明日、頼むよ。872番台に6入れたから」
やっと回ってきた!待ちに待った、といった感じである。
これからは折半であると思うと、やる気が出たし、高揚してきた。
翌日、いつもより早く並ぶと、すでに先客が一人。
珍しいな、と思ったがスロットは400台からある店だし問題あるまい…事実、指定台は難なく取れた。
いつにも増して気合いを入れて遊戯する。
…異変の兆候は、程なく現れた。出ないのだ。
この台、最高設定じゃあないぞ…!

〜つづく〜
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21 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:10:52.03 ID:M9YF82tE
パチスロ機の最高設定というのは、他の設定とは一線を画して設計してある。
基本的には、ほぼ間違いなく大量獲得出来るように作ってあるのだ。
もちろん、中には出玉の波が荒く、すぐには判断出来ない仕様の台もある。
ただ…いま打っている台は、判断が容易な部類の台である。
それなのに…出ない。
リール上で微笑む、王冠を被った蛙が恨めしく思えてきた。
午後一時を回り、とっくに負債は上限の二万円を越えていた。
あからさますぎるので文句を言ってやろうと中澤に電話をする。
中澤は、出なかった。時間が悪いか?と、何気なく店内を一周してみる。
少し歩いて、ハッと目に止まる光景が、あった。
開店前、先頭に並んでいたやつが出している…?
一瞬で、何やら嫌な考えがグルグルと巡る。
すぐに、携帯電話を取り出す。
「おっ、久しぶりぃ!最近見ないけど、どした?」
阿部は、数コールしてから出た。
「阿部ちゃん!いま代打ちしてるんだけど、おかしいんだ!」
「代打ちぃ?また別のとこ見つけたんだ。今度紹介してよ」
冗談を言っている感じではない。冷や汗が出る。
「阿部ちゃん、岡崎さんから聞いてない?」
「ん?代打ちの話でしょ?聞いたよ。終わったんだよね。残念!」
「そう…ごめん、また連絡するよ」
愕然とした。一体、どういうわけだ…?
いの一番に入店したニット帽の若者は、無表情で大当たりを消化している。
そんな様子を見ていたら無性に腹が立ってきて、店員を捕まえる。
「中澤さん、今日出勤してる?」
その背の高い店員は、不思議な顔をする。
「中澤、ですか?スタッフに、そのようなものはおりませんが…?」
「そんな馬鹿な話があるか!いいから、責任者呼んでくれよ!」
思わず掴みかかりそうになるが、大声を出したので注目を浴び、断念する。
店員は業務連絡用のヘッドセットに何か呟く。
間もなくして、三十路くらいの店員がやってきた。
「あ、森本主任。こちらのお客様が…」
中澤だ。
「はい、どのようなご用件でしょうか?」
白々しい!
「中澤さん!どういうことですか!」
「中澤…?わたくし、森本と申しますが…」
「何言ってんだよ!いい加減にしろ!」
財布から先だって貰った領収書を出して、突き付ける。
「これ!あんたが書いたんだろうが!」
「ええ?!そんなこと言われましても。…お客様、他の方のご迷惑になりますから、お引き取り願えませんか?」
「あんたが書いたんだよ、判子も押してある!バラすぞ、全部…?」
なおも食い下がると、中澤から笑顔が消えた。
「何の事か存じませんが、証拠でもあるなら、どうぞ警察の方にご相談ください」
「あんた…!」
悔しくて涙が出そうになった。ここにきて、騙されたことを完全に悟った。
「お客様…申し訳御座いませんが、当店への出入りを禁止させて頂きます。
お引き取り下さい」
中澤…もとい森本に笑顔が戻った。それは、これまでの爽やかな笑顔ではなく、卑劣な笑みだった。

〜つづく〜
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22 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:11:28.33 ID:M9YF82tE
以上が、狡猾な「サクラ商法」であったことは、もはや疑いようがない。
これは、あくまで推測であるが…。
四人ないし五人程度のグループを、二ヶ月ほどで回していく。
同時進行で、一ヶ月ずらした別グループがいて、つまり、常に八人から十人程度の打ち子がいることになる。
これならば、もし内紛が起きて突如グループが瓦解しても、もう一方が機能しているから問題ない。
その中で鴨がいたなら、上手いこと話を持ちかけて、切り際に金を作らせる。
のち、情報を遮断すれば、諦めざるを得なくなる。
もし乗ってこなくても、連絡を断てば付き合いは、それっきりである。
また次のグループに、新たな金ヅルを見出だせばいいのだから。
胴元には常に一定の収益があり、たまに「ボーナス」が入る寸法だ。
定期的に中身を入れ替えるので、機密性も、それなりに保たれる。
…そうして作った100万もの借金を、どうして無職が返せようか?
まして弁済の決心なども微塵もないので、ヤミなんかに来る羽目になった。
自業自得ではある。

「岡崎さんも、ヤクザなんですか?」
「おいおい、はっきり言うねぇ!
盃もらっちゃいねえけど、極道としての心意気は、あるんじゃないの?」
大男は、ニタニタと黄色い歯を見せた。
「でも驚いたわ。照会したらよ、こいつ使えますよって言われてな」
奇縁…!
なんたることか、二番煎じを食うとは。本当に自分が情けなくなってきた。
「でも、売るって、俺をどうする気ですか?」
「売るっちゅうと、物騒な話だが…お前に、金を作る機会をやる」
「機会?」
男は、大きく頷いた。
「そうだ。本当ならな、お前みたいのは同業でタライ回しにするんだけどよ。
ただ…お前は、どうしようもねえスケベ心があるみたいだからな。そういう奴は、逆に言えば使える」
「何をやらせるつもりなんですか?」
怪訝な顔をしていたに違いない。鼻で笑われる。
「おう、心配するなってばよ。
お前は、パチスロを打てばいいんだ。それだけで金になる。スロット、好きなんだろ?」
「またサクラやらせるんですか…?」
「そんなケチなもんじゃねえ。もっと金になる仕事だよ」
言いながら左手首をクイクイ、と動かして見せられたが、さっぱり理解出来ない。
「お前は、もう逃げられない。従うんだ。
身の回りのもの、何日か分の着替えくらいだな、それ、取ってこい。
ここで待ってるから、取ってこい。
そしたら、案内するからよ。おう!早くしろ!」
また、またしても得体の知れない話に、先も見えないまま、乗る羽目になってしまった…。

〜つづく〜
暇なので実体験スロット小説書きます
23 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:11:58.82 ID:M9YF82tE
住まいに戻るのは、実に久しぶりだ。
電車に揺られて、20分ほどすると、見慣れた街に到着した。
そこから商店街を抜けて、坂を下っていくと、築30年は下らないボロ屋が見えてくる。
そこが俺の住居だった。
都心には珍しいであろう、共同アパートである。
ちょうど、漫画「めぞん一刻」の舞台のような感じの建物を想像してもらうと、分かりやすい。
玄関や廊下、風呂にトイレは共用スペースになっている。
それだけに、他の住人と鉢合わせないかと、少し緊張した。
何故なら、以前、借金取りが何度か俺を訪問してきていたからだ。多少なりとも迷惑をかけてしまっていたので、その点で引け目があった。
そういえば…街金の取り立てを止めさせる、と言っていたのはどうなったのだろう…?
玄関脇の郵便受けを見たが、督促の類いは来ていなかった。
部屋は、出たときと何も変わってなかったので、少しホッとする。
リュックサックに上着と下着を数枚ずつ、あとジーンズを一枚仕舞い、久々の帰宅ではあったが直ぐに来た道を引き返した。

「すいません、お待たせして」
「おう」
少し時間がかかってしまったから機嫌を損ねてないかと心配したが、杞憂であった。
「そんじゃあ、ぼちぼち行くか」
男に聞きたいことは幾つかあったが、周到な連中であるからして、恐らく面倒は片付けてくれているものと判断して、敢えて何も聞かない。
こういう楽天的な面につけこまれるのだな…しかし、一度付いた怠け癖は、そう簡単に抜けはしない。
道中、会話はほとんどなかった。
電車に乗って、途中で私鉄に乗り換えて、降りたことのない駅に着く。
郊外というわけではない場所だが、住まいでも構えない限り縁のない土地だ。
そこから10分ほど歩き、汚い雑居ビルに入る。
一階には行政書士の事務所が入っているようだが、カーテンが閉まっていて、中の様子は窺えない。営業してるのだろうか?
階段で三階に昇ると、すぐ扉があって、
「入れ」
と促される。
ドアを開けると、やや広い玄関に無数の靴が散らばっていた。
そこは三つほどの部屋がある間取りで、そのうち、右側の部屋からは電子音が漏れてくる。
「ちょっと、そっちで待っててくれ。話付けてくるからな。邪魔しないように、隅にいろ」
男が指差したのは、その賑やかな部屋である。
「お邪魔します」
…室内は、異様な雰囲気だった。
壁際に、スロット台がぐるりと10数台並び、各々を一心不乱に打ち込む集団。
それはテレビでやっていた宗教団体の修行の様に、酷似している。
一つ印象的だったのは…
「うっす。なんや、新人さん?」
唐突に、関西訛りで金髪の若者に声をかけられる。
「ま、ま、緊張せんと。なあ?」
若者は、やけに友好的に、握手を求めてきた。

〜つづく〜
暇なので実体験スロット小説書きます
25 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:12:32.78 ID:M9YF82tE
金髪の若者は、屈託のない笑顔で強引に握手をしてくる。
人見知りする質ではないが、少々面食らう。
ややあって、大男がやってきた。
「あ、川島さんやん。毎度!」
「おう。とりあえずよ、銭の話が先だから、ちょっと借りるぞ」
川島…そういえば、金貸しの名前を聞いてもいなかった。
川島と共に「道場」の隣室に移動すると、そこは普通のリビング然とした部屋で、正面のソファーに長髪の男が座っていた。
男はジャージ姿だった。
「おっ」
長髪は、俺の顔を見るなり、ニタニタと笑う。
だらしのない顔をしている…と思った。
「川島ぁ、こいつ?」
「そうです。二本も引っ張ってバックレこきやがって。なあ?」
がしがし、と頭を乱暴に撫でられる。
「逆さに吊っても鼻血も出ねえ身分なんで、鍛えてやって下さい」
川島は、丁重に頭を下げた。どうも、力関係としては長髪の方が上らしい。
「うん。とりあえず、400出すよ。あとは出来高」
「どうも」
再び頭を下げる、川島。
「で、君」
「はい?」
「はい、じゃねえよバーカ!これ書いて」
長髪は、半笑いのような表情を一切崩さず、何やら書類を取り出した。
書類には、「レジャー用医療器具貸し出し契約書」と銘打ってあった。
「そこに、名前と拇印もらえるか?」
よく見ると、「前払い賃貸料として、金弐百万圓納入する旨、承諾いたしました」と、不穏当な事柄が書いてあった。
またしても、まるで話が見えない。
「いいか?お前は今から、この岡田さんとこで世話になるんだ。
わかったら、さっさと書けよ。よう?」
ぐい、と右手を掴まれ、サインを強要される。
「あー、川島。無理させないでくれる?あくまで任意だからな、任意。
なあ、君?やる気あるから来たんだろ?なら、書いちゃってくれるか?」
目の前の男も、大なり小なり異論を挟むとヒステリーを起こす人種であることは明白なので大人しく署名をすると、
「よしよし。んじゃ川島は帰っていいや。銭は入れとくから」
「うす」
片手を挙げて、去ろうとする大男に、どこか不思議な情のようなものが湧いてきて、
「川島さん!」
思わず呼び止めた。
「あん?なんだよ、もう俺にゃ用はねえだろ?」
「あ、あの…その…そうだパスポート!パスポートは、もういいんですか?」
「いらねえよ。もし馬鹿正直に持ってきたら、チャイニーズにくれてやるつもりだったんだ。
もし、そうなってたら、お前を本当にタコ部屋送ってたかも分からん」
川島は、いままで見たことのない笑顔で応じた。それから、振り返りもせずに部屋を出ていった。
違う立場で関係したなら、案外気持ちの良い男なのかも知れない。
これもアヤである。
「さぁて、早速仕込んでやるからな」
顎に手をやると、長髪の…岡田は、にやりと、また違う笑みを浮かべた。

〜つづく〜
暇なので実体験スロット小説書きます
26 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:13:32.00 ID:M9YF82tE
「っと、仕込む前に、システムの話しよう」
岡田は、身を乗り出してくる。
「まず…機械のレンタル料な、200万。
川島んとこに400出すから、あとの200は俺と君との個人的な貸し借りってことになる」
まったく実感が湧かないが、場所を移動するたびに倍々ゲームで借金が膨らんでいくようだ。もう慣れたが。
岡田は、ますます前傾姿勢になる。
「で、給料。持って帰ってきた95%は回収させてもらうからな。残りが日当。
ま、回収分から借金は勝手に返済されてくから心配しないでいいよ。
利子も取らないし、完済したら、30%が取り分になるから。わかった?」
「はい」
まるで納得出来ないが生返事を返すと、うんうん、と頷かれた。
「もし、もしだよ?君が使いものにならなかったら…俺らの流儀でケツ拭いてもらうから」
それは、つまり…?
「あと!覚えるまで、ここから帰れないから頑張ってな」
何をやらされるのかは不明だが、ろくでもない事は疑いようがない。
四の五の言っても仕方がないから、とにかく逆らわない旨を肝に命じる。
岡田は、川島のような直接の威圧感は、ない。
けれど、不気味な恐ろしさに満ちた男だ。何を考えているか、何をしでかすか分からない怖さがあった。
ピョン、とソファーから飛び降りると、
「早速、やってみてもらおうかな」
先ほどのパチスロ機が並ぶ部屋へと招かれる。
「先生」
岡田が呼ぶと、例の金髪が読んでいた漫画を伏せ、顔を上げた。
「ちょっと見せてやれ。おら、どけ!」
一番手前で胡座をかいて打っていた男が、苦悶の表情で転がる。
思い切り、岡田が腹を蹴り飛ばしたためだ。
先生…と呼ばれた金髪は、パチスロ機の前に座り、腕を捲った。
「別に、そんな難儀な事ちゃうねんけどな。ま、見とってや」
言うなり、見覚えのない機械を取り出して、リールを回転させた。
ベル小役が、揃った。
「ラッキー!次、リプレイや」
リールが回り、リプレイ役が揃った。
「リプレイ」
次も、リプレイが停止した。
「当てまっせ」
言うなりスタートレバーを叩くと、筐体上部の大きな花型のランプが、左右チカチカと点滅した。
「な、簡単やろ?」
金髪は、グッと親指を立ててみせた。
「あっちゃあ、バーや。はい残念賞」
…一連の出来事は、まさにマジックのように感じられた。
「次回成立する役を言い当てる」などという芸当は、人間には、およそ不可能である。
揃う図柄を言い当てるのはサイコロの出目を予想するようなものだが…
「当てる」といって「当たる」のは異常なことだ。
フリーバッティングじゃあるまいに…。
「もう一回やるわ」
金髪の若者は、得意げに笑った。
…またしても同じ流れになり、たった四回の遊戯で、盤面に7が揃った。

〜つづく〜
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27 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:14:02.79 ID:M9YF82tE
「君は川島の紹介だから特別だ。先生、頼むな」
「センセセンセて、いい加減やめてもらえませんか?背中むずむずしますやんか」
金髪の若者は、大袈裟に背中を掻きむしった。
「でも岡田さんには頭上がらんからね。合点承知や!」
柏手を打ち、またしても両手を握られる。
「本田いいます。先生なんて呼ばんでええよ」
人なつっこい笑顔が気持ち良い若者である。
「ほんだら、まず理屈からやね」
「お願いします」
頭を下げると、本田は恥ずかしそうに破顔する。
「ええと…パチスロの抽選の仕組みからね。
ちょっと考えてもらいたいんやけど…1から100までの数があって、それぞれに役が決まってます。
この数列はな、100まで行くと1に戻って、グルグルグルグルずっと同じ速さで回っとんねん」
「はあ…」
「数字の並び順も決まってて、これは絶対に崩れんのよ。
でな?ピョッと合図を出すと、そこから決まった数だけ進んで、止まる。そこに書いてある役が、揃う。
その合図が、これ」
レバーを叩く。
「納得いかへんか?まあ、ええよ。
でな、一回数字が決まったら、次回はそこからスタートや。
毎回ゼロからヨーイドンして、毎回数字の順番が変わっとったら、完全乱数やんか?意味的には、少し違うんやけど…。
でもな、パチスロは、ちゃうねん。毎回スタート位置が変わるけど、順番は同じやからね。だから疑似乱数なんよ。つまり法則があるわけ」
「法則…?」
「うーんとな、普通は、法則とか関係あらへん。
毎度おんなじタイミングで叩けるわけないやろ?せやから結果はアットランダムになる。
でも…もし、コンマ一秒のズレもなく叩けたとしたら、そこには法則がある」
何となく、何となくだが察しが付いてきた。
この部屋に入ったとき、パチスロ機を打ち込む集団を見て、彼らが珍妙な装置を用いているのが印象的だった。
「でもな!そんなワザは人間には不可能や。あくまで人間では、な。
ただ…こいつを使えば、不可能が可能になる」
本田は、装置を見せびらかしてきた。
長方形のプラスチックの箱だ。大きさは大人の男の手のひらより、やや大きいくらいか。
そこから絶縁体に包まれたコードが伸びていて、その先には丸く平らな半透明のゴムが付いている。
ゴムは本田の左腕の内側、静脈の真上あたりに貼り付いていた。
それとは別に導線があって、先には5mm四方ほどのスイッチ様の金属?が幾つか付いている。
「ごっつ便利なメトロノームやんな!ビリビリ君ゆうスグレモノやで!」
本田は、胸を張った。
仕組みやらはわからないが、先の話と照合してみると、つまり一定のタイミングでレバーを叩けるようになる機械…という事か?
だが、その「法則」が生じたところで、どうやって自在に役を当てることが出来るのか。
「話は、あと半分ある。もう少し我慢して聞いてな?」
金髪の若者は、今度はメモ帳とペンを取り出して、筆記をはじめた。

〜つづく〜
暇なので実体験スロット小説書きます
28 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:14:32.90 ID:M9YF82tE
「後半戦、はじまりまっせ!」
本田は紙に、横長の棒グラフを書いた。
「さっきの話の100個の数字、そのゼロが、ここ」
グラフの左端に、0と記入する。
「で、100が、ここ」
右端に、100。
「要するに、左から一定速度で右に移動して、右端に到達すると左端に戻るわけやね。
わかりやすく100にしたけど、本当は母集団は何万って数になんねん」
言いながら、スラスラと図形に書き加えていく。
棒グラフは、線分により五つの領域に区分された。大きさは、まちまちだ。
「数字によって役が決まってる言いましたけど、同じ役は同じ役で、ある程度固まってるんや。
一番大きい四角な、これハズレ。
次に、おんなじくらいの四角が二つあるやろ?これがベルとリプレイ。
次がスイカとチェリー。こいつらは同じ小役と考えてもらってええよ。
で、隅っこの一番小さいやつ、これが当たり」
と順番に、役を記入して言った。
「でな、このビリビリは、メトロノームや。まったく同じタイミングで、信号を送る装置。
信号というのは低周波のパルス電流でな、これを人体に通すと…」
かちん、とスイッチを押すと、本田の左腕がビクンと跳ねた。
「筋肉が収縮と弛緩を繰り返して、勝手に腕が動くわけ。勝手にレバーを叩かせるわけ。
本当はな、同じタイミングで電流を通し続けてマッサージする機械なんやで?
オジイが肩とか腰に貼り付けて、使うんや。
ただ、ビリビリは改造してあるさかい、ボタン押したときしか電流は流れん」
「それで、叩くタイミングがまったく同じだと、何で当たるんですか?」
「そこがミソや!このグラフが一周する速度と、ビリビリのパルス発生速度、これを同じに設計してあります。
ま、ま、一周ウン万分の一秒って速度だから、発射…ええとな、ボタン押して電気送ることを発射いうんよ。
発射してからタイムラグは体感できん。
でな、例えばリプレイ揃うやろ?そこで発射。すると次もリプレイが揃う。
当たり前やんな?おんなじスピードで台もビリビリも動いとんねん。
そのまま発射したら、スタート地点とゴール地点、おんなじ場所になるわ。
だから小役揃ってから発射し続けたら、何百回でも何万回でも、おんなじ役が揃う」
「何となく、理解しましたけど…それだと、ずっと同じ役が揃って、絶対当たらないじゃないですか」
質問すると、本田は頷きながら笑った。
「せや。よう分かっとるやん。
そんでもコイツは、パルス発生のタイミングを自前で好きにズラせる。
わかりやすく言えば、次回スタート地点をズラせるってわけよ。
グラフ見てみ?ベルの枠の右がリプレイの枠や。
ベル取ってから、スタート地点を右に少しズラす。
スタート地点がリプレイ枠に入ってから発射したら、今度はリプレイが揃う。わかりますよね?
おんなじ理屈で、どんどん右にズラして、当たりの枠で発射すれば…」
「当たる…?」
「そうや」

〜つづく〜
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29 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:15:04.33 ID:M9YF82tE
説明は、ある種、納得のいくものであった。
パチスロ機など、元来そこまで精密には作られてはいない。
家庭用ゲーム機の方が、余程頭がいいのだ。所詮、使い捨ての貯金箱である。
それを一台何十万もの値段で売り付けられて、なお利益が出る。馬鹿な話だ。
…であるから、外部機器を用いて結果に影響を与えることなど容易い。
しかし、抽選方式に関与してしまうと異常が検知されてしまう。が、いま説明された方法は、そうではなかった。
「大体わかったかいな?ほんなら、やってみよ」
本田は、機械を外して渡してきた。
「これな、パッド。貼り付ける場所によって、腕の動きが変わるで。
せやな、このへんの筋肉なら、問題あらへん」
肘の裏側、そこより少し手首寄りの部位を、さすられる。血管の真上。
「ローション塗ってな、そこに貼って。発射して、手首が真下に動くようならオッケーや」
言う通りにして、「発射」してもらうと、意思に反して勝手にガクンと手首が動いた。
「ええと、本体横にダイヤルがあんねん。電圧な。そこ、都合良いように回してみ。
マックスだと、肩から動いてまうからね!手首だけ、レバー叩ける力で動くように調整してな」
ポン、と肩を叩かれる。台の前に座り、早速「発射」してみる。
「外れました」
「ま、八割方ハズレや。しゃあないわ。そしたら、これな」
発射スイッチと同じ形状のボタンだ。
「これがプラス10、これがプラス20。その分だけ、スタート位置がグラフの右に移動する思て。
数字は、全体に対するパーセンテージやで?実際に配置してある乱数の総数、こら機種によってちゃうねんから。
だからな、グラフの50地点からプラス20すれば、次に発射したとき70地点の役が揃う寸法なってる。
全体で100やで!当たり前やけど。90からプラ20なら、10に移動するからね。これも分かるな?
あ、こっちのボタンはマイナ10やけど、素人がコレ使たらドツボや。どこにおるかわからんくなる」
「なるほど…つまり、当たった役からグラフのどこにいるか推測して、ボーナス枠に移動するまで調整するわけですね」
本田の顔がパッと明るくなった。
「おお!賢い子やね!その通りや。最初は、まず当てる練習してや。目標は、リセットしてから10回転以内に確実に当てること。
ま、ワシは5回転あったら十分やけど!けど、いきなりソコまでは要求しません」
上機嫌の本田の前で、実際に操作をしてみる。
プラス40すると、リプレイが揃った。
「お、早いな。この機種の場合、リプレイの次がボーナスやから。スイカなんか無視出来る割合になっとるしな。
だけど…いきなり40も上げるのは感心せんね。最初にハズレの右の方におったら、100越えて、またハズレに戻ってまうやん?
無駄やろ、それ。時間の無駄や!
ま、サジ加減は、段々わかるようになる」
「はい」
彼の言には、心底から従う気になれる。
強制ではなく、知的好奇心や探求心…そういったものが作用しているからだ。
すごい…!これは本物だ、リアルだ。
既に俺は、虜だった。

〜つづく〜
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30 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:15:56.89 ID:M9YF82tE
訓練とは名ばかりで、新しい玩具を与えられた稚児のように「ビリビリ」に夢中になっていると、何やらドヤドヤと騒がしくなってきた。
「おっ、兵隊さんのお帰りやで」
…つまりは、子飼いの打ち子連中が、アガリを持って帰還したと、そういうわけだ。
既に、日付は変わっていた。
打ち込んでいる間、本田は飽きもせずに良く喋った。関西人の特性だろうか?

「同じ役が同じとこに固まってんのは、お花だけなんや。
例えばピエロさんカエルさんは、同じ並びが更に二組並んどるだけなんやけど…的の面積が半分になるからな、難儀や」
…例の「グラフ」上の小役の並びを「配列」と言って、この「花」の機種のメーカーは一番単純な配列だから、素人でも簡単に攻略出来ること…。
配列はメーカーにより基本型が異なり、難易度の観点から主に二つのメーカーしか狙わないこと…。
他にもペラペラと、よく口が動いた。

深夜二時くらいになると雑音は消え、機械音だけが谺した。
本田は最終電車で帰宅してしまったので一人で練習していたのだが、理屈と要領さえ押さえれば、成る程、簡単ではある。
すでに狙うだけなら、10回転で当てろという指令はクリアー出来るようになっていた。
なので、「自然に見えるように叩く」訓練を、勝手に始めた。
電気信号で強制的に筋肉を動作させているので、馬鹿正直に発射していては…不審に過ぎる。
その不自然を払拭するためには、あくまで自律による所作と相違ない振舞いにする必要があった。
腕を振り上げ、叩く素振りを見せつつ発射し、インパクトの瞬間のみ機械に頼るという寸法だ。
「精が出るねぇ」
ふと声がした。この集団の首魁…岡田だった。
「筋がいいな。もういいや、明日行け」
「え…?」
「え、じゃねえよバーカ!現場出ろっての」
岡田は怪しい笑みを絶やさずに、同じトーンで言い放った。
逆らうことは、恐らく出来ない。どの様な顔をしていただろう…自分でも分からないが、首を縦に振るしかなかった。
「朝イチからじゃなくていいからさ、行きなよ。
本格的な稼働は、それからの話だ。度胸試しってやつだな、うん」
度胸試し…確かに。
以前やっていたサクラ稼業は、別段心配の必要はなかった。
法に抵触する行為かは別にして、何の証拠もない。咎められる筋合いもないから、安全ではあった。
何しろ、「猟場」を管轄している人間とグルなのだから。
が…今度は、違う。
強引な手段で、他者の利益を侵そうというのだ。
もちろん、相手も警戒しない訳ではないし、万一、身体検査でもされたら…!
急に不安に駆られる。しかし、もう後には引けないのだ。
ここの流儀に従えなければ、ここの流儀に従い処断される。
そう、言われたから。
その日は、訓練を打ち切り休むことにした。
満足に眠れはしかなったが…。

そして、初陣の朝がやって来た。

〜つづく〜
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31 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:17:12.96 ID:M9YF82tE
ざわざわと、また騒がしくなってきたから目が醒める。
パチスロ機が並ぶ「道場」の奥の部屋は、仮眠室のようだったので、そこで休んだ。
仮眠室と言っても、簡素なマットが敷き詰めてあり、毛布が用意されているだけだ。
きちんと洗濯はされているようで、新しい毛布は柔らかく良い匂いがした。
「おはようさん!今日から出るんやて?」
本田だ。時刻は、朝九時を回ったところであった。
まだ寝惚けていると、本田はお構い無しに軽快な口を開く。
「まず、攻め方やな。基本的に、同じ店で抜くのは千枚。ぬるいとこだと、もう五百枚ヨイショしてもええけど」
「たった千枚ですか?」
「あほ!いくら当たるからって何千枚も抜いてみいや?一発でアウトや。
それだけは絶対にしたらあかん。
ええか?入店したら、最初は30回転くらいかけて当てる。で、そこから一気に千枚。
なんぼ設定低くても、一撃千枚くらいの連チャンなら何も問題あらへんし。
こうすると、一店舗あたり大体二万儲かる」
「一店舗あたり…?あっ、そうか」
読めた。つまり…
「せや。一日に回れるだけの店を回る。20店舗で40万、30店舗で60万儲かる。足使ったもんが得するシステムなってんで。
浅く広くが商売繁盛のコツや。同じとこ長居してもロクなことあらへんで!」
よくよく合理ではある。
「回るルートは、大体決まっとんねん。等価で、狙える機種がある店な。
あと、そこの警戒度でランキングがついとる。AからDまであって、一番危険なんはDな。
CとDは、よほど慣れた人間以外行かれへん。
移動手段は電車やからね、効率良く回らな。
このルートが、一都三県で200本くらい用意してある。ほとんど東京神奈川なんやけど」
「膨大なデータですね」
「まあねえ。ランクも日々変わってくさかい、難しいとこや。
でもな、これ全部岡田さんが統計取って作ってますねん。すごい人やで」
腕組みをしてウンウンと頷く本田。岡田という男は存外出来るらしい。
雑多な人間を束ねる長だから、無能ではないだろうことは理解できるが、あの風体とはギャップがある。
「ただ今日はな、最初やしルートとかあらへん。Aランク店いくつか攻めるだけでええからね。
そしたら、装備作ろうか。足、何センチ?」
「え、靴のサイズですか?」
「あったり前田のクラッカーや!股下聞いてどないすんねん!」
「…27です」
「よっしゃ、ちょっと待っとって!」
慌てないでも良さそうなのに、本田は、せかせかと小走りで岡田の部屋に駆けて行った。
どうにも関西人のノリにはついていけない。尤も、それが地域性なのか、彼の性格に由来するのかはわからないが。
五分ほどで、本田は戻ってきた。
「ほんなら、これ。な!足、合わせてみ?」
にっこりと、靴の中敷きを渡された。厚手のものだった。
どうして何時もこう、いちいち意味の分からない行動を取るのだ…転落してから俺に関わる連中は…?

〜つづく〜
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32 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:17:54.72 ID:M9YF82tE
「ええと、これは…」
渡された靴の中敷きを手に、どうしていいものやらと聞くと、本田は得意気に人差し指を立てた。
「せやから装備やて!あんた、まさか手ぇでビリビリ操作するつもりやったんか?
ビリビリは、足でボタン押して使うんや!
まずな、本体は胴回りに配置すんねや。腹巻き巻いて中に仕込んでもええし、カーゴパンツのポケットに穴開けてもええ。
そこから配線を足に這わせて、ボタンは足の指で押す。
利き足の方にプラマイのボタンを仕込んで、逆側の親指に発射ボタン押させんのが普通やね」
成る程、見えて来た。
つまり、この中敷きをくり貫いてボタンを埋め込み、固定しようというのだ。
本田は、尚も不遜な顔つきで続けた。
「あとな、現場出るときはパンスト穿いてもらうで。堪忍やけど」
「ぱ、ぱんすとぉ?!」
「そない頓狂な声出さんでも。ストッキングは伸びるから大丈夫や」
そういう問題ではなく…やはり意図がわからない。
俺の理解力の欠如ではないはずだ。
「別に変態趣味で穿かせるわけやないで?
人間の体には、常に微弱電流が流れとるからね。
素足に配線したら、どんな誤作動起こすか分かったもんやない。
ビリビリだけやなくて、自分もやで?パンストは、とどのつまり絶縁のために穿く」
「そういうこと」
いつの間にか室内にいた岡田が、ひらひらとパンティ・ストッキングを振っている。
「壊されたら堪ったもんじゃないからねぇ…壊したら弁償させるけど」
いつでもニタニタと、気味の悪い男である。
「あの、岡田…さん?もし万が一、失敗したら、どうすればいいんですか?」
「はあ?パクられたらってこと?くだらねえ心配してんなよバーカ!」
馬鹿と罵倒するのが口癖らしい。表情は変わらないけれど。
そこに本田が口を挟む。
「大丈夫や。ビリビリは箱開けたら“飛ぶ”ように作ってある。科捜研でも解析は不可能や。
あとは知らぬ存ぜぬの一点張りやな。自白せな、起訴されることは絶対あらへんし。絶対や」
「うちは弁護士も抱えてんだよ。軍師ってやつだ。
ポカやったやつは何人もいるけどな、誰一人ブタ箱に入れたためしはない」
「そういうわけで、ポリなんか心配あらへんわ。一番怖いのは、同業にバレることやね」
珍しく神妙な顔つきになる本田を、岡田が制す。
「同業もさあ、ピンキリなんだよね。ヤバい連中だと、平気でやる」
「やる…?」
「拉致や」
さらりと恐ろしいことを口走る。
「外国産の仕事師は怖いんやで、いうたら出稼ぎ犯罪者やし。
高い金払って密航してきてるから何でもやる。ニュースで、たまにやってるやろ?」
そういえば…昨日の川島の言を思い出す。
『パスポート持ってきたらチャイニーズにくれてやるつもりだった』
と言った…実を知らないが故の恐怖が、沸々としてきた。
「だから、現場で同業見たら連絡して?これは義務だからな。すぐに一般客との違いはわかる。
もし電話だ何だでチャイ語とかチョン語喋ってるようならランク下げる必要がある」
岡田は不気味な笑顔を崩さずに言う。
ここにきて現実に引き戻された気がした。
裏社会に足を踏み入れたのだという、現実に。

〜つづく〜
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34 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:18:48.31 ID:M9YF82tE
初夏とはいえ、特に蒸すような陽気であった。

結局、装備…すなわちフットスイッチの仕込みは、本田にやってもらった。
出で立ちは長袖のTシャツの上にペンキ屋が着るような作業着風のベスト。
下は同色のカーゴパンツである。
構造上、夏場に長袖を着る必要があるので不自然でない格好にする必要があると言われたためだ。
カーゴパンツの大きめのサイドポケットにビリビリを仕込む。
そのままでは遊んでしまうので、小さめのタオルで巻いておいた。
ポケットには穴を開けて、そこから導線を通し、足先まで配線する。
一方で上半身に向けて通電パッドの線を、体のラインに沿って送る。
ゼリー状のパッドを絆創膏で腕に固定して、さらに包帯で動かなくする。
「おっ、意外と似合っとるね!
うちの連中は、大体ドカタかリーマンの格好や。ツナギとかスーツは長袖が普通やし」
「どうせなら頭にタオルでも巻きます?」
「ダアホ!仮装大賞ちゃうねんで?パッと見、自然ならええ」
いつの間にか本田の表情は、人懐っこい青年のそれに戻ったようだ。
「汗は、なるべくかかないようにしろよ?」
と、岡田が無茶な注文を付けるが面倒なので会釈するだけで相手にしない。
装備を付けた状態で、実際に試し打ちをしてみる。
足の指を使う機会などあまりないが、殊の外スムーズに動くものだと思った。
発射スイッチは右親指に、座標調整スイッチは左の親指から中指にかけて配置された。
座標調整のスイッチは一秒以上長押ししないと有効ではない仕組みなので、誤って「遭難」する心配はまずない。
ちなみに右の小指には設定をリセットするボタンがあり、こちらは五秒程度押し続けなければならない。
もっとも、今日打つ予定の機種は簡単なものなので、リセットの必要はなさそうだが。
そうして本番と同じ条件で打ってみたが、なんら違和感なく当て続けることができた。
また、特にイチャモンを付けられることもなかったので、叩き方も問題ないのだろう。

さて、準備万端に自信も付いたところで出発したのが暑い盛りの午後二時前である。
最寄りの私鉄の駅まで歩き…ターミナル駅でJRに乗り換え…最初の目的地に着くまでの一時間ほどで、かなり汗だくになった。
駅のトイレで「発射」してみたが、腕は正常に動いたので安心した。
アーケードを被害者たるパチンコ屋に向けて歩きながら、岡田に電話する。
「あー、もしもし?着いた?
そこ、今日はすでに六人くらい行ったけど問題なかったから。
チョロい店だからチャッチャとやって。んじゃ」
こちらが一言も話す前に、一方的に切られた。
自信はある…が緊張もしないわけではない。それは知らない店だからというわけでは、もちろんない。
ほとんどの客は、普通は軽やかに颯爽と入店する施設である。
俺も例外ではない。いつもなら、だ。
今日は、少し違う。
遊技者ではなく、侵入者であるから。
良心の呵責などではなく、なにかよくわからない不安がない交ぜになった不思議な緊張が、あった。

〜つづく〜
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35 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:19:18.56 ID:M9YF82tE
そこは、アーケードの中にある地域密着型の中規模店だった。
スロットフロアーは二階、150台ほどのラインナップである。狙うのは、俗に「沖スロ」というジャンルの機械だ。
普通のメダルより一回り大きな、500円玉大のメダルを用いて遊技する。
ほとんど演出はなく、叩いた瞬間に当否がわかるという単純明解な仕様ながら、中毒性が高く人気のあるジャンルである。
ビリビリで攻略しやすいメーカーの一翼である会社は、この沖縄スロットをメインに開発している。
プログラムがほとんど使い回しなため、ノーマル機なら「リプレイ直後にボーナス」という基本配置が統べからく通用する。
沖スロコーナーは、奥まった場所に位置した。
なるほど、客付きは良好である。
ただし…世辞にも出ているとは言い難い。
そのメーカーの台なら何でもいい、とは言われてはいたが、実際に来てみると少し困った。
何しろ、本当にどれを打っても結果は変わらないのだから。
けれど躊躇しているのは逆に怪しいので、適当に台上のデータを見るふりをしながら、ホイホイシオサイという台に腰を降ろす。
同機種に先客は、二人。一生懸命レバーを叩いていて、こちらを気にする様子は皆無だった。
千円を投入し、メダルを借りる。
当てにいくのは最初の50枚が尽きかけたころにするつもりだったので平打ちをしていると、予想外のことが起こった。
セレクターエラーが発生してしまった。
要するにメダル詰まりなのだが、店員を呼ぶ必要があるのだ。
隠密行動を旨としなければならないのに…!
やむ無くコールボタンを押すと、すぐに店員はやってきた。このエラー自体は単純なものなので、すぐに解除はできる。
しかしエラー解除するためには台の扉を開く必要があるので、店員を目視し、背もたれに手を着き起立しようとした、その時。
力んだ余り、思わず発射ボタンを押してしまった。
椅子の背に置いた腕がビクンと痙攣する。
体重がかかっていたので堪らず、どうっ、とそのまま床に崩れ落ちる。
「お客様?!お客様!大丈夫ですかっ?!」
若い店員は狼狽した様子で顔を覗きこんでくる。
なんたる粗相…!
意図せず衆人の注目を浴びる形となってしまった。
「だ、大丈夫だから構わないでくれ」
腕を掴まれでもしたら面倒なので大仰に手を振り、声を絞り出す。
心臓が、痛いほど脈打っていた。

〜つづく〜
暇なので実体験スロット小説書きます
36 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:20:23.63 ID:M9YF82tE
番外編〜修羅之場・壱〜

「話がしたいから、出てこれる?」
そう、メールが入ったのは六月中旬の夕方だった。
一月後の猛烈な酷暑など、知りうるのは気象関係者くらいだったであろう頃である。
送り主は、別れ話が縺れた交際相手・長友。もちろん女性である。
職場にアルバイトとして来た彼女を一目で気に入り、とはいえアプローチするような具合でもなく、
「いい女だなぁ」
と、ただ遠目から見ているだけであったのだが、ひょんなことからメールアドレスを交換する運びになった。
二つ年上の彼女は、小柄でスタイルの良い女性。
見るからに美人であるが人懐こく、美人特有の近寄りがたい「オーラ」は皆無であった。
そんな彼女からモーションをかけられたら、特定な相手の居ないシングルの男であれば、コロリなのは道理である。
見る間に親しくなり、デートを重ね、口唇を重ね、体を重ね…。

彼女…長友は、いつも向日葵のような眩しい笑顔をしていたのだが、時折ひどく悲しい顔をすることがあった。
「うちのが、働かないの…もう、こんな生活は限界だょ…」
…そう、長友には、男がいた。ヒモ、の…。
遊び人でパチンコ狂らしいから時給800円代の彼女のバイト代だけでは、いくら稼いでも追い付かない。
労働基準法に抵触するレベルの時間を勤務しても、間に合わないのだから…。
そこで、俺は得意のパチスロを教えた。
ゴト、ではない。
幾分かでも、勝てる方法を教えた。
額は些少でも、長友には心のケアが必要だと思ったから…。

そんな、ある日。

いつもの逢瀬…だが、長友は口裂け女を連想させる巨大なマスクをしていた。
「なんだよ、それ…」
訊くと、長友は悲しげに目を伏せ、そっとマスクを外した。
…彼女の美しい顔が、見る影もなくパンパンに腫れていた。
「殴られた。別れてって言っただけなのに…何度も何度も。
…助けて…ねえ、助けてょ…」
わなわなと、比喩ではなく拳が震えるのが自覚できた。怒髪天を衝く、とは正にこのことか。
「もういい。お前は俺が守ってやるから!隙を見て荷物送ってこい!」
「でも…あいつ、いつも家にいるよ?一緒に来てよ…」
「いや…いまから警察に行こう。退去命令を出してもらう。その傷なら一発だよ。
あとは警察が監視しているうちに引っ越せば、それでいいから」
彼女は、涙を浮かべて抱きついてきた。
…このときは妙計だと思ったのだ。このときは…。

二人で暮らすようになった、僅か二日後である。
用事があるからと出て行って、夕方に帰ると言っていたのに、ものの一時間で血相を変えて帰宅した。
「わたし、帰らないと駄目になったから。
あなたのこと嫌いになったから」
冗談を言っている感じではない。けれど、支離滅裂というか、あまりに唐突な手のひら返しに納得がいく筈もない。
だが、その決意は揺るがず、一時間ばかりの問答も無用に、長友は出て行ってしまった。

〜つづく〜
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37 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:20:58.09 ID:M9YF82tE
番外編〜修羅之場・弐〜

察するに…恐らくは何らかの用件で、彼女の携帯に男から連絡があり…。
事情は不詳ではあるが、とにかく接触してしまった。そこでのやり取りで、何らかの脅迫でもされたか。
DVというものは、肉体的ダメージよりメンタルなダメージの方が大きいものだ。
被支配欲とでも言おうか、つまり逆らうという概念が喪失されてしまう。
一度離れれば薄らぐのかもわからないが…接触してしまっては、再燃し、犠牲の理が働くのか…。

考えていても埒が飽かない。
荷物を送らせたので住所は分かる。乗り込んでもいいのだが、十中八九、彼女の方で抵抗される。
そうなっては、不法行為を侵すのは俺の側になってしまう。
どうしようもない。
ともあれ、少しすれば会えるのだから、事情は密室外で再び訊くとしよう…
もし、それで本当に駄目なら、納得なんて出来る筈はないが、諦めよう…。
そう思っていた矢先の、翌日のことだ。
あちらの…長友の方から、話があると連絡があったのは…。
指定の場所はセメント工場の脇の路地、時刻は22時であった。
少し早く着いたので煙草を吸って待っていたが、時間になっても現れないのでメールを飛ばす。

…そのときだ。

ものすごい勢いで、黒い影が猛進してきた。
危うくぶつかるところであった。冗談ではない。
影は、黒塗りのセダンタイプの乗用車だった。
バックしてくるなり、急ブレーキを掛け、運転席から人が降りてきた。
刹那、何やら怒号が飛び、髪の毛を掴まれ引き倒される。電光石火である。
「てンめぇ、この野郎!おう!」
痛烈な蹴り!革靴が的確に顔面を狙ってきたが、咄嗟に両手で薙ぎ、難を逃れる。
地面を一回転すると、土の匂いがした。
それから立ち上がり、対峙したのは、黒地に龍の紋様のついたシャツを来た、背の高い男だった。
「お前コラァ!誰の女に手ェ出してんだボケェ!」
巻き舌で捲し立てる男は、やはり、その様な恫喝を用いる仕事に携わっていることは明白だった。
「よう!お前のやったのは犯罪だ。こっちは弁護士立ててんだよ。内容証明送って賠償させるか?追い込みかけてやるか?」
「なんすか、あんた?」
このような手合いと付き合いがないわけではないので、横柄に構える。
「てンめぇ!なんだ、その口の利き方は!」
「やめてよぉ!この人、堅気だよっ」
長友が慌てて割って入る。しかし男の興奮は収まらない。
「どけや。俺ゃコイツと話してんだよ。男の話に首突っ込むんじゃねえ!」
「じゃあ冷静になって!お願い」
「俺は冷静だよ。本気なら、もう殺ってる」
脅し文句がハリボテであることは過去の経験から分かっているので、恐ろしくはなかった。
「で、用件は?」
「おま…クチの利き方に気ィつけろって言ってるんだよ!
…そうか、ははっ!分かってないな、お前」
男は口元を歪ませて、車に引き返した。
「煽らないで!殺されちゃうよ!」
「しないさ。奴は、そんなことはしない」
「でも…あっ」
長友の小柄な体が、後ろに跳ねた。男が押しやったためだ。
男は、長い得物を握っていた。
木刀だ。
「分からせてやる」
言うなり、男はニタニタと笑った。

〜つづく〜
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38 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:21:29.76 ID:M9YF82tE
番外編〜修羅之場・参〜

「喧嘩の仕方、分からせてやるよ」
男は、不敵に笑いながら思い切り木製の刀を降り下ろす。受けては骨が折れてしまうので、大きく側面に避ける。
「何やってんの?お巡り呼ぼうか?現行犯」
煽る。男は、ぶんぶん、と素振りをした。
「呼べや。呼んでみろや。早く呼べ」
「駄目、刺激しないで!この人、普通じゃないんだから!」
普通の職業じゃないのは承知している。
「話し合いに来たのか喧嘩に来たのか、どっちなんだよアンタ?」
「だから…その減らず口は何なんだよ、お前…」
男は、木刀の持ち手の包帯に手をかけた。
「手間かけさせんじゃねぇよォ…お前よォ…」
するする、と包帯は外れていく。
「ぶっこむしかねぇなァ…お前が悪いんだよォ…」
からん、と乾いた音がして、木刀の上半分が地面に落下した。いや…

仕込み刀!

ぎらり、と白刃が煌めいた。そして、男の両眼がぐるぐると回る。だらだらと、涎を垂らしている。
普通じゃない、か。こいつは、キメてる…ジャンキーなんだ。
…ならば、取るべき道は一つしかない。…三十六計逃げるに如かず、というわけだ。
刀剣相手に丸腰では、たとえ格闘家でも戦いは避けた方がいい。
防御不能な上、紛れでも何でも、一撃が文字通り致命傷になってしまう。
まして正常な判断を喪失している人間が相手となれば、そこまでだ。
健脚を自負しているので、酩酊している相手から逃げるのは容易かった。
感情の起伏をトリガーに夢の世界に没入するレベルまで落ちたら、もはや車の運転どころではないし。

翌日。
さて、実のところの用件が、いまいち不明だ。どうにも気持ち悪い上に不愉快なので一計を案じ、携帯電話を手に取る。
「おう、お前か。どうした急に?」
「お久しぶりです、川島さん。相談したいことがありまして…」
昔馴染みの極道に連絡を取る。目には目を、というやつだ。
しかし、訳を話すと、川島は吼えた。
「馬鹿野郎!痴話喧嘩に出張れるかよ!」
「はあ、そうですよね…すいません」
「お前さ、たまには自分の力で解決してみろっての。ああ?
まあ、でもな、そいつも大したタマじゃねえ。堅気脅すのにドス持ってくなんて有り得ねえし」
川島は豪快に笑った。
そう言う川島も、実は大した身分ではない。しかし腕っぷしは相当なものだ。
大男というのもあるが、場馴れしすぎている感じがある。
一度だけ大乱闘を目撃したが、あんな闘牛のように暴れ狂う男とは絶対に戦いたくないと思った。
極道社会の序列はよく知らないが、川島は汚れ役のエキスパートといったところか。
もっとも、俗に「兵隊」と呼ばれる連中の中では、権力のある方だが。
一頻り笑うと、
「そいつよ、単にラリってるだけなら、構わないでいい。
ただ…もし看板出してくるようなら、言え」
つまり、○○会××組の誰々と名乗るようなら、始末を付けさせるということだ。
騙りにせよ何にせよ泥を塗れば、いずれかに落とし前はつく。
「あとな、もしゼニが必要になったら遠慮なく言うんだぞ?すぐ用意してやるから。よ?」
「…それだけは絶対にお断りします」
親兄弟にも仁義なく、がモットーのトイチなど、金輪際御免である。

落ち着いてみると、百年の恋も醒めるというもの。
薬漬けの人間に近しい彼女も、きっと同じ穴のなんとやらであろうから。
それから一月は、何事もなく経過した。

〜つづく〜
暇なので実体験スロット小説書きます
40 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:22:01.76 ID:M9YF82tE
番外編〜修羅之場・肆〜

しばらく住まいには戻らないことにした。
酔って帰ったらトラックが突っ込んできました、なんて洒落にもならない事態が起こらないとも限らないので。
だが、それも二週間ばかりのことだった。
危機感というものは急場を凌ぐと加速度的に落ち込んでいく。
別段、遠くに避難したわけでもないのに何も起こらないので、半ば安心して自宅に戻る。
そうして、更に二週間ばかりが経った。あるとき、帰宅して寛いでいたら、チャイムが鳴った。
22:20…来訪者にしては、不自然に遅い。誰だろう、と思い、ドアのレンズを覗く。
…長友だ。思わずインターホンを取る。
「私。あの、荷物があるよね。私の」
「荷物?服とか?」
確かに、衣類などは、ほんの数着まだ置いてある。
「とにかく開けて。話もしたいし」
「わかった、ちょっと待ってくれ」
よくよく考えたら、迂闊だったのだ。一ヶ月も経過して何故、と、それを考えたら。
玄関を開けると、彼女は早足で室内に入ってきた。
「服どこやった?」
「そっちのカラーボックスに…ぐうっ!」
奥を指差そうとした瞬間、脇腹に鈍痛とともに衝撃が走り、堪らず倒れる。
「見ぃつけた」
「何してんだアンタ…不法侵入だぞ…」
野郎…!件のチンピラが、俺を見下ろしていた。
「クチの利き方ぁ!」
どすん、と蹴られるが、両手でガードしたので大したことはなかった。
が、男はスムーズな動作で玄関の内鍵を掛けると、すぐに側の流しにあった文化包丁を手にした。
「何か言い残すことはあるか?ナメやがって」
その表情は、狂気に満ちていた。
「俺を殺っても得することはないぞ…」
「損得じゃねえんだよ。堅気にナメられちゃ商売になんねえんだよ」
「アンタ、やくざか?」
「ああ?どう見える?」
見てくれは…任侠の徒、そのものだ。
黒の襟付きシャツに、同色のツータックパンツ、首筋に金のネックレス。刈り上げられた短髪、目元には旧い切り傷がある。
男は先の尖った革靴を脱ごうともせず、土足で室内を物色した。
「おう佑子、携帯探してこい」
「わかった」
佑子、とは長友のことだ。命令され、佑子はリビングに向かった。
「お前は、今日ここで死ぬんだ。わかる?佑子に刺されてな。
お前はムラムラして佑子を呼びつけてレイプする。抵抗した佑子に刺される。
俺は、夜中に出掛ける佑子を不審に思い尾行した結果、殺人事件に出会したと、こういう筋書きだ」
「そんなデッチ上げ、サツには通らないぞ」
「だから今から、証拠作るんだよ。メールって便利だよなぁ?
おい、佑子!早くしろ」
男は周囲を落ち着きなく眺めていたが、切っ先は逸らさなかった。
「駄目、ないよ携帯」
「よく探せ」
携帯が、ない?そんな筈はない。目立つ場所にある筈だ。
俺はというとTシャツにボクサーパンツという下着姿であったので、何かを所持してなかろうことは一目瞭然である。
まして、さっきまで携帯から某巨大掲示板を利用していた最中だった。
…それは佑子の良心だったのだろう。見えざる反抗である。
「ふう…しかし暑いな、クーラー点けてくれや」
「…すぐ点ける」
「誰がテメーに言ったんだよ!座れっ」
思い切り顔面を殴打されるが、瞬間、首を捻ったので脳へのダメージは軽減できた。
密室で、丸腰。従うしか道はない。俺は渋々、その場に腰を降ろした。

〜つづく〜
暇なので実体験スロット小説書きます
41 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:22:30.98 ID:M9YF82tE
番外編〜修羅之場・伍〜

「さぁて…どうする、お前よ?」
男は、ぺたぺたと包丁の腹で俺の頬を叩いた。
「勘弁してくれ」
密室で、二対一。しかも光り物を向けられては、意地を張るのは愚の骨頂だ。
「なんだってぇ?聞こえねえなぁ」
「勘弁してくれないか、もう、あの女からは手を引くから」
「勘弁だあ?この野郎!馬鹿野郎!許さねえって、俺の面に書いてねえか?おら!よく見ろや!」
がつがつ、と言葉尻に合わせて、包丁の峰で頭頂を数度も叩かれ、脳味噌が揺れた。
「頼む、勘弁だ」
「勘弁して下さい!だろうが!」
思い切り蹴られる。何度も何度も。
いつしか部屋の隅に追いやられ、必死に防御に徹する。
何かの弾みで包丁を手離してくれれば、やりようはあるのだが…。
「佑子、話があるんだろ?しろよ」
「話って…」
佑子は、おずおずとやってきて、ぺたんと脇に座った。
「ねえ…私のこと守ってくれるんでしょ?ねえ」
「状況考えろよ…」
「怖いの?」
佑子は、無表情だった。というより、放心状態で視線の焦点が合ってない。
と、男は室内を物色しながら、自分の携帯を取り出した。
「あー、俺です。ちょっと車出せますかね?また、やっちまったんで…ええ、バラすしかないです」
仲間に連絡をしている…?が、辻褄が合わない。さっきのシナリオと噛み合わない。
本当に通話しているのであろうか…?
それとも、さっきのが出任せだったのか。しかし、それは今更、どうでもいいことだった。
男は尚もウロウロしつつ冷蔵庫を開けて、マヨネーズを取り出してきた。
「情けねえ野郎だなぁ…抵抗してみろや?」
びちびち、とマヨネーズを頭上で絞る。
「悪い、おお悪い。汚しちまったな。いま綺麗にしてやる」
「な…!」
奴は、俺の頭髪を鷲掴みにすると、包丁で無造作に刈りはじめた。
「ひゃはははは!洒落た頭になってるぜ!」
狂ったように笑う。否…事実、狂っているんだ…。
「ねえ…こんな奴、殺す価値もないよ…」
表情を崩さない佑子がポツリと言うと、男は物も言わずに、その顔面を蹴り飛ばした。
「ったく…ああ面倒だ!どいつもこいつも!
まあ、いいや…お前は、どちみち死ぬ。いま」
「どうしても、許してはもらえないか…?」
「ああ、駄目だ。殺す。殺してやる」
包丁の切っ先が、喉仏に触れた。
万事休すか…!

〜つづく〜
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43 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:23:04.59 ID:M9YF82tE
番外編〜修羅之場・陸〜

喉元に触れた刃は、冷たかった。
その先は小刻みに震えていて、男の緊張?興奮?が伝わってきた。
人を刺し殺す、などという野蛮な行為は、得てして平常心では為し難いのであろう。
しかし原因は何であれ、ある種の精神疾患を有している相手に常識やらを望むのは愚行であると思った。
また、いつ「スイッチ」が入るとも限らない。
「はずみ」というものもあるし、刃物を手にした時点で既に「あちら」に行っている可能性も高いのだ。
ともあれ、男の糸が切れてしまわぬように、何かを言う必要があった。何かないのか、何か…?
思案していると、男はニタリと笑った。
「やくざが堅気に手ぇ出さないって、思うか?」
「筋が通らないから、普通は手は出さない」
「俺ゃ、普通じゃないんだよ。今日は冷静だけどな。冷静だ」
何を思ってか、悦に入った様子で、満足げな笑みに変わった。
こちらとしては絶命の危機に打開策を考えていると、ふと視界の隅に、起き上がろうとする佑子の姿が入ってきた。
刹那、悪魔的な閃きが発生し、叫んだ。
「佑子やめろ!」
がばり、と反射的に男が振り返る。好機であった。
佑子は、何をもしてはいない。択一の賭けに位置関係を利用しただけだ。
迷わず背後の壁を両手で思い切り押し、起立しながら反動でタックルする。
「野郎ッ!」
男は包丁を握っている右手を逃がしたので、妙な体勢で前のめりに倒れた。
その時には、既に勢い任せに駆け出していた。
大股にキッチンに抜け、考えるより先にキャスター付きの棚を引き、その上に置いてあるレンジを後方に投げた。
玄関の扉にチェーンが掛かっていなかったのは嬉しい誤算である。
苦もなく解錠し、脱出するや
「火事だ!火事だぞ!」
自分でも驚くほどの大声が出た。
この間、わずかに数秒の出来事だったが、ひどく永く感じられた。
ちょうど二輪車などで事故を起こし、インパクトの瞬間から地面に落下する迄のスローモーション染みた感覚…まさに、そんな感じだ。
そうして修羅場を脱し、即座に玄関脇の火災報知の非常ボタンを押すと、けたたましい警報の中、建物の裏手から夢中に走る。
路地を縫い、大通りに出たあたりで都合良くタクシーが来たので、車道に飛び出して強引に止めた。
壮年のドライバーは目を丸くしていたが、乗車を拒否されたりはしなかった。
いま考えたら、夜中に下着姿で裸足の男が飛び出してきて、よくも乗せたと思う。
いや、それとも俺が鬼気迫る形相をしていたので気圧されたのか…。
「××駅西口まで」
目的地を告げると、運転手は片手を挙げて応じた。
少し距離はあるが夜でも人通りが多く、ロータリーから交番の正面に付けられる駅であるから、最善だっただろうと思う。
生き長らえた…少なくとも、大した被害が無かったことに安堵した。

〜つづく〜
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44 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:24:15.31 ID:M9YF82tE
目的地に着いて金額を告げられ、遅まきながら一文無しであることに気付く。仕方ないので、運転手に交番まで同道願った。

「それじゃあ、本署の方に行って被害届出そうか」
応対に当たった初老の警察官に一通り説明を済ませたら、そう言われた。
暴力団に自宅を襲われた、と半ば誇張して言ったとき、驚いたのはタクシーの運転手だけであった。
道理ではある。
とはいえ事例としては珍しいのか、わけを話していたら関係のない警官まで野次馬しにやってきた。
その交番は割と大きなものであったので、夜間にも関わらず男女十名ほどの警官が詰めていた。
警察というのは怠慢な組織だという認識であったが、改める必要があった。
対応は適切であり、すぐに署の方へ連絡を取るや、パトカーで送ってくれた。
深夜の警察署に踏み入るのは、初めての経験だ。すでに日付は変わっている。
エントランスは半ば消灯しており、受付の奥だけが煌々としていた。
送ってくれた警官は、中年の受付係に何やら報告をしてから、敬礼して出て行った。
「えーと、暴行されたんですよね。強行は誰か、いたかな…?」
「小沢さんがいますよ、寝てますけど」
「あ、そう。悪いけど呼んできて」
受付係は、こちらに向き直ると苦笑した。
「大変な目に遭われたのに、すいません。そちらの椅子でお待ちいただけますか?」
促され長椅子に腰掛けると、クタクタだったのもあり直ぐにでも眠ってしまいそうだったが堪える。
程なく、騒がしい声が聞こえてきた。
「何時だと思ってんだよ!仮眠くらい取らせてくれっての!」
図体の大きな、裸の大将を連想させるランニング姿の男が大股にやってきた。
「あー、君かね。喧嘩でもしたか?んん?」
男は俺の姿を認めると、明らかに面倒臭そうな顔をしつつ、大欠伸をした。
「小沢さん!この方、いまさっき自宅で、暴力団風の男に殺されかけたらしいっす」
若い警官が代弁すると、大男は目をパチクリさせて
「なんだって?ちょっと面白そうな話じゃないか、ええ?」
裸の大将…小沢の表情がパッと明るくなった。
「あー、ゴホン!失敬失敬!それじゃあ、話を聞こうかな!」
憮然としないわけでもないが、テーブルの方に案内されて、先ほど交番で話した内容を復唱する。
小沢は、いが栗頭を掻きながら、帳面に概要を走り書きしていく。それにしても汚い字だ…。
一通り話をすると小沢は帳面を閉じ、
「おーい!うちの連中、誰でもいい、支度してくれや!
俺、着替えるからよ。その間に写真さ、撮っちゃってよ」
声を掛ける。
「じゃあ、いまから何枚か写真と、指紋取ってから君ん家行こうな」
「うちに?!」
「そうだよ、見分しなきゃならんからな。実況見分!聞いたことあるだろ?」
小沢は偉そうに人差し指を立ててウインクして見せたが、あまりにも似合わない動作だったので吹き出しそうになった。

〜つづく〜
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45 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:24:43.27 ID:M9YF82tE
小沢と入れ違いに、首からカメラを提げた男が現れる。
彼も警官服ではないが、役割は一目で分かった。
何故ならば、刑事ドラマに出てくる鑑識係の風体そのものであったからだ。
全身像にバストアップ、それから殴られた箇所と、無惨に刈られた頭髪の写真を撮られる。
「ええと、では指紋と掌紋も取らせて下さい」
言うなり、大きな朱肉と、A3大の紙が用意される。
朱肉、といってもインクは黒色だった。
左手の人差し指から順に、指定の場所に押印する。親指だけは、左右に転がす形で大判にするよう指示された。
次いで両掌一面に黒インクを付け、手形を押す。
奇しくも個人を特定する捜査資料を作成してしまったので、以後の人生で悪さをしたら即座にお縄と言うわけだ。
尤も、いまは平穏に真っ当に暮らしているので、無用な心配ではある。
「終わったか?うし!それじゃあ行くか!ほい、サンダル。裸足じゃ不味いだろうしな」
背広に着替えた小沢が戻ってきた。これまた似合わない。
履き物を渡されると、急に足の裏がジンジンと悲鳴を上げてきた。
意識していなかったが、アスファルトを疾走したので、血塗れだったのだ。酷く痛む。
小沢の他に、制服警官が二人同行するようだ。共に若く精悍で、体が大きい。
ノンキャリアの警察官がどのように配属されるのか知らないが、やはり捜査課や強行係・暴力団対策部などの警官は屈強な人物が選ばれるのだろうか。
この小沢も、けして肥満ではなく柔道家かプロレスラーのような体格なのだ。
「じゃあ道案内頼むよ…あれ、あいつ、どこ行ったんだい」
「あいつ?菅(かん)部長ですか?」
「そうだよ馬鹿野郎!鑑識居ないで見分出来るかよ!早く呼んでこい!」
横柄な態度だな、と外野ながら思う。
菅というのは、先ほど写真を撮ってくれた人物だ。カメラに大きく記名してあった。
まだ若く見えたので部長という呼称に違和感があったけれど、組織の中で、どの程度の役職なのかは分からない。
ややあって、双肩にジュラルミンだろうかアルミニウムだろうか、とにかく大きな金属製の箱を提げて菅がやってきた。
「おいおい、遅いよ!朝になっちまうじゃねえか」
「うちは刑事課と違って、足だけじゃ仕事にならないんですよ」
大袈裟な小沢と真顔で皮肉を返す菅に、何らかの対決姿勢と確執を感じた。
「おう車、それでいいや!手前のやつ。君は真ん中に乗ってもらうから、案内よろしく」
ばしん、と強く背中を叩かれる。痛い。この男は、加減というものを知らないのだろうか。
てっきりパトカーで向かうのかと思ったが、そうではなくて黒のセダンに乗り込む。
車内はカーナビの他に無線機だろう受話器と、見慣れない計器や、ボタンのついた箱状の装置が据えられていた。
覆面パトカーというやつだろうか?特殊な車両であるのは相違ない。
「出発進行!」
俄然テンションを上げる小沢を見て、警察というのは本当に信頼出来るのかな、と再度考えを改めようかと思った。
奴はシートベルトを締めようともしないので…。

〜つづく〜
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46 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:25:14.06 ID:M9YF82tE
自宅には十分程度で到着した。
非常ベルを押したことで何か問題になってるかとも思ったが、実に閑静なものだった。
道中、室内外のものには絶対触れないように指示されていたので居室のドアを指差した。
まず、鑑識の菅が黒いゴム製カーペット様の敷物を取り出す。
それを扉の前のコンクリート上に敷いて、少ししてから丁寧に巻き取った。
菅が頷き合図すると、手袋をした小沢を先頭に室内に入る。
「うわ…酷いな、こりゃあ…おい、写真!」
部屋は、かなり荒れていた。元来無精ではあったが、物色された跡があった。
「写真ってばよ!」
深夜なので声量は抑えめだが、やや苛立った様子で小沢が言う。
「指紋取るんで、ちょっと待ってもらえますかね。こんなの直ぐ出ますから」
菅は振り返らずに、綿毛のようなものでドアノブをポンポンと丹念に叩く。これもテレビドラマそのままの光景であったので、不思議な感動があった。
「ったく…何様だい」
あんたが言うな、とツッコミを入れそうになるのを抑える。
撮影するまでは一切物品の移動が出来ないらしいので、被害場所と犯行内容を口頭で説明する。
他二名の警官は、慎重にリビングや寝室を観察しているようだ。
一方で、カメラを手にした菅がテキパキと撮影をはじめた。
すると、直ぐ様に小沢が茶々を入れる。
「あのさぁ、そこまで室内はバシャバシャやんないでいいからさ!証拠押さえようぜ、なあ?」
無視である。が、図太い小沢は気にする様子もない。そうしていると、制服の警官が戻ってきた。
「小沢さん、リビングの方に被害者のものと見られる頭髪。凶器もあります」
「そうか!君、ちょっと指示してくれるか」
ばしばし、と肩を叩かれるが、直ぐに要求が理解出来ない。
「指示だよ指示!包丁からな!」
「素人さんに指示なんて言って、分からないでしょうに…。
すいません、その包丁を指差してもらえますか?間違いありません、って意味合いです。
証拠写真は全部、指差してもらって撮影することになりますので」
にこり、と丁寧に説明する菅部長には率直に好感が持てる。
凶器の包丁、散乱する髪の毛を順次撮影する。
さらに無造作に撒かれたマヨネーズに、俺の携帯電話・財布などを次々にカメラに収めていく。
「一応、これも」
菅が示したのは、テーブルの上に揉み消されたマールボロの吸殻であった。
「これだけ違う銘柄です、被疑者のものと思われますので」
ほう、と感心した。
確かに、俺が愛飲しているのはセブン・スターなのだ。灰皿に盛られている吸殻と違う銘柄であることを即座に見て取ったのだ。
流石にプロである、抜け目がない。
こうして一通り撮影をして、他に不審な点がないか確認するように言われた。
特に無いような気もしたが、ぐるりと室内を見渡してみる。
ふと、狂人らの来訪前には閉じていた洋服箪笥が開いていたのを見つけ、ある考えが閃き、駆け寄る。
「ああ!ここに入れておいた現金と印鑑がない!」
「本当かね!」
嘘だ。だが…罪状は多いに越したことはあるまい。俺は心中ほくそ笑んだ。
まずは刑事で徹底的に叩いてやる。
そうしてから、お前も地獄に落ちるんだ、佑子…!

〜つづく〜
暇なので実体験スロット小説書きます
47 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:25:51.60 ID:M9YF82tE
俺は必要以上に狼狽して見せた。
「現金って、いくら位あったんだね?ああ!触ったら駄目!」
「す、すいません。えと、二十万円ほど…俺パチンコやるんで、勝ったときのアブク銭は、ここに入れておくんです。
次回の種銭にするんで。あの女、それを知ってて…くそ!」
嘘だ。しかし、虚偽を立証する術も謂れもない。言ったもの勝ちだ。
財布も改めるよう言われたが、もし指紋が出てこなければ狂言が露見するので、こちらは無事と偽らなかった。
箪笥は、確実に連中いずれかが触れているのだ。
「では、箪笥の方も写真と指紋取りますね。…小沢さん!」
「なんだよ」
「書類認定!証拠品、押収するんでしょ?しっかりして下さいって!」
菅が声を荒げた。想像以上に仲が悪いらしい。
小沢はフン、と鼻を鳴らすと、制服警官に顎を向けた。
この警官らにとって、小沢は直上の人間であるので、機嫌を損ねるのは面白くないのだろう。
慌てて小脇に抱えた鞄から紙束を取り出す。
「では、こちらの書類、三点に記入願えますか」
「馬鹿野郎!協力者に、どういう書類か説明しろよ!」
小沢に拳骨を食らい、表情に微かな怒気が浮かんだように見えた。
もう一人の警官は触らぬ神に何とやらで、あさっての方を向いている。
「ええと、こちらの書類が任意の証拠提供に同意していただく書類。
こちらは、捜査終了後にお返しした証拠を領収なされた旨を示す書類です。
順番が前後してしまいますが、捜査終了後にご足労願うのは手間になりますので…」
口調はやけに丁寧であるが、内容は今一つ良く分からない。警官は続けた。
「それから、もう一点。お返しした証拠をこちらで処分させていただく旨、了解いただく内容です。
ご理解いただけましたら、それぞれ住所氏名と、日付のご記入を…」
言い終わる前に、再びゴチンと雷が落ちた。
「理解できないだろうが、それじゃあ!
…要するに、今回みたいな場合、証拠品は強制接収するんじゃなくて、あくまで君が捜査協力という形で任意提出することになる。
つまり提出後も依然として所有権は君にあるんだよ、分かるか?髪の毛も包丁もだ。
とはいえ、こんなもん返してくれ!なんて奴はいないわな。
だから処分もうちでやる…んだが、そのためには所有権を放棄してもらう必要がある。それが最後の書類の役割。
で、だ。便宜上、提出された証拠は形式だけでも所有者に返却する義務があるんだよ。
受け取ったかどうかは、この際関係ない。
それで、また後日なんていうと面倒だから、その領収証も先に作っちまうってわけだ。わかったら、サインしてくれな?」
流暢な説明に、納得してしまう。最初から自分で説明すればいいのに。
書類は、証拠一点に付き三枚であった。
今回、現場から持ち去るものは切断された頭髪に包丁・遺留品の煙草の三点なので、書類は九枚である。
「記入が終わったら、一枚に付き二ヶ所、人差し指で捺印願います」
また黒色の印泥だ。印を押すのに赤以外の色を用いるのには、如何様な意味があるのであろう。
社会経験が少ないので、俺には分からない。
「名前の横と…あ、印の場所じゃなくて名前の脇ですよ!それから、線の上」
それぞれの書類の余白には、フリーハンドで大きく「〆」のような線が引いてある。その上にも押印させるらしい。
意味はわからない。
「結構、面倒なんですねぇ」
「うちもお役所なんで、書類関係は面倒なんです」
思わず口に出すと、菅部長が笑顔で言った。小沢は仏頂面であった。

〜つづく〜
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48 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:26:20.07 ID:M9YF82tE
「お役所仕事」が終わり、ようやく部屋のものに手を付けていいと言われた。
犯人たる名も知らぬ狂人が捕縛されるまで部屋には戻れないので、簡単な手荷物だけ纏めることにする。
旅行鞄に下着と靴下、そしてズボンを三枚。夏場なので、着替えはTシャツを持てるだけ詰め込んだ。
それから、やりかけのゲームがあったので携帯用ゲーム機を仕舞う。
男の旅支度など、簡素なものだ。
その日は警察署に戻り、宿を借りることにした。急激に疲れが出て朦朧とする。午前四時前である。

翌朝、騒がしくなってきて目が覚める。携帯電話を取り出すと八時前だった。
所在無さげな感じなので受付で小沢を指名し呼んでもらったが、既に帰宅したという。
代わりに、若い婦人警官に幾つか説明を受ける。傷害に類する事件の場合、被害届を提出する際に、診断書が必要になるそうだ。
「この書類をお医者さんに見せれば、無料で診断書もらえますからね!」
婦警さんは、弾けるような笑顔だった。物凄く魅力的に見えるのは制服の成せるわざだろうか?
職業柄、控え目な化粧であるが十分美人に見えた。
「そうそう、とりあえず医療費は自己負担になっちゃうんだけど…犯罪被害で受診すると、第三者行為と言ってね、保険が効かないんだ。だいじょぶカナ?」
看護婦しかり…この微妙なタメ口調に性的興奮を覚えるのは俺だけであろうか?いや、この際そんなことは置いておこう。
「えっと、今日は診断書を取ってもらって、事情聴取は明日の朝九時からだって、小沢から伝言です。
絶対捕まえるから安心してね!」
か、可愛いなマジで…!
気がつくと、ほんのりピンクな唇と意外に質感のある胸元ばかり見ていたが、男子諸兄にはご理解いただきたい。
花より団子、ならぬ団子よりマンk…失敬、本当に失敬。正直すまんかった。
(昼間から飲みながら書いている俺であった)

馴染みの病院に行き、まずは整形科を受診した。
顔面並びに頭頂部の打撲・裂傷、及び足の裏の傷を診てもらう。
続いて、脳神経外科に診察券を出す。
「はい、これ何本に見えますか?」
医師が人差し指を立てて左右に振って見せたのが、はっきりと視認出来た。
しかし俺は、
「二本…ですか?ぼんやりして、良く見えません」
また嘘をついてやる。これは当然であろう。のちに民事訴訟を起こす布石だ。
症状を大袈裟に大袈裟に伝えると、CTを撮り精密検査に回すと言われたので、物分かりの良い医師に、心の裡で感謝した。

会計まで済ませてから、続いて電車で職場に向かうことにした。
診断書をチラつかせると、さしもの総務部も有給休暇申請を拒否するわけにもいかなかった。
その足で総務部長を伴い、所属部長の長に話を付けにいく。
退職も辞さないので三ヶ月の休暇を得たい、との要求である。
刑事事件に発展している旨を伝えると、長は二つ返事で「可」とした。事なかれ主義の体質がプラスに働いた。
中途で役職があるわけでもない俺には会社に未練もないし、休業補償も上乗せしてやる算段である。
切れた女に残された情といえば、もはや怨念しかあるまい。
ふざけた真似をした落とし前は付けてもらう。
はっきり言って、ここまでの侮蔑を受けて泣き寝入りするほど、人間出来てはいないのだから。

〜つづく〜
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49 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:26:52.98 ID:M9YF82tE
翌日再び警察署に赴くと、エレベーターで三階に上がった、正面のソファで待つように言われる。
エレベーターホール前には「関係者以外立入禁止」との文言があり、やや緊張した。
指定の場所で待っていたが、当の山下清は中々現れない。とことんルーズな男である。
ホール壁面にはベタベタと張り紙がしてあった。
「この顔見たら110番」
「おい!小池」
どれも見たことのあるものだったが、
「健康のため階段を使おう!」
という手作りの書面もあり、少し和む。官庁とはいえ民間オフィスと変わらないんだな、と思った。
何分くらいしてからだろうか?
「○○さんですか?小沢の方の準備が出来ましたので、こちらへ」
ワイシャツ姿の中年男性が低頭低身やってきて、奥に案内される。
「刑事課」とプレートのある部屋に入ると、そこは普通のオフィスだった。
入室すると視線が集中したが、一瞬だけであった。
壁に沿って進むと、「取調室」と書かれたドアがあった。
取調室はオフィスの真隣にあるのか!と思ったが、ああ踊る大捜査線でもそうだったな、と妙に納得してしまう。
ドアを潜ると廊下があって、びっしりと同じ造りの扉が並んでいた。
「三番にお入り下さい」
そう言うと、案内役の署員は来た道を引き返した。
正面の扉には「五番取調室」とあった。その二つ隣の部屋に、小沢はいた。
「おう、ご苦労様さん。奥に座ってくれい!」
今日の小沢は、裸の大将だった。丸い顔に、びっしょり汗をかいていた。
眼鏡を掛けていて、これがまた似合わない。
オフィス内では制服着用の義務がないのか、偶然なのかは分からないが、平日ではある。
そもそも制服を着ない役職なのかも知れない。
小沢という男、誰かに似ていると思ったら…そうだ川島だ、と気付く。
顔かたちは似つかぬが、体型と首に下げた金のネックレスの仕業だ。デジャ・ヴュのようなものか。
取調室は三畳ほどの小さなスペースで、中央に机があった。
旧い刑事ドラマにあるような卓上電灯を期待したが、そんなものはなかった。
代わりにノートパソコンが設置してある。窓際にはプリンタもある。
裸電球がぶら下がっているのはイメージ通りで安心した。窓は嵌め殺しで、壁には非常ボタンがあった。
殺風景な部屋だ。役割を考えたら、書記を取る機能さえあれば良いのだから当然ではある。
奥側に腰掛け対面したが、小沢は難しい顔をしてパソコンのモニタを眺めている。
「煙草、吸うんだろ?ジャンジャンやってよ!」
カンカン、と灰皿を叩く小沢。
少しして、さっき案内してくれた中年男がアイスコーヒーを持ってきた。
「あー、飲んで飲んで!暑いからさぁ!
今日は調書作るんだけど、悪いけど二・三時間は覚悟してな」
尚も小沢は、眉間の皺を刻み続ける。PC自体、扱えるのか不安になってきたころ、外が何やら騒がしくなった。
「まっすぐ歩け!」
「わかったから触るんじゃねえよデコスケ!離せや!殺すぞ!」
金髪の、かなり若い男が襟首を掴まれて連行されてきたところだった。
両手が、青い紐状のもので縛られている。金属の手錠というのは、空想の世界のものなのだろうか?過去の遺物なのだろうか?
そんな有り様だから、何かの現行犯であろう…?
よく考えれば、取調室などというのは基本的に犯罪者のための部屋だ。
本来ならばリラックスとは無縁の場所である。
それなのにコーヒーを飲みながら煙草を吸っている現実は、どこか不思議な錯覚がある。

〜つづく〜
暇なので実体験スロット小説書きます
50 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:32:30.68 ID:M9YF82tE
暇なので実体験スロット小説書きました。

>>1
続きをよろしく。
暇なので実体験スロット小説書きます
52 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:43:24.41 ID:M9YF82tE
当時(2010年)、サロンのスレで始まった連載だが、
案の定、途中からぐだぐだになりフェードアウト。

中盤まではそれなりにおもしろいので読んでみるとよろし。
暇なので実体験スロット小説書きます
54 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2012/01/22(日) 23:55:31.95 ID:M9YF82tE
>>1
>>8
>>20
>>39
>>53

糞スレたてたおまえが悪い。
終わらせてやったことに感謝しろ。

> まじで空気読めよ 君友達いる?

これは空気が読めないと友達がいない(いなくなる)ということか?
ではお詫びのしるしに短編小説の題材をやるよ。

桶屋理論で「空気が読めないと友達がいない(いなくなる)」を完成させよ。

できなければ消えろ。


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