- スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3
146 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 10:43:05 ID:xkwAjiuY0 - >>145
ありがとうございます。 お言葉に甘えて只今より投下します。 猿さん回避のため少々時間を掛けて投下しようか思います。
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147 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 10:44:28 ID:xkwAjiuY0 - ナツメをこんな風に抱いて寝かしつけたのは、いつが最後だっただろう。
美季の腕の中でドロップは健やかに眠りながら、時折『ママ……』と寝言を繰り返す。 手に伝わる暖かい温もり。柔らかな頬の感触。耳に掛かる穏やかな寝息。 母の手に委ねられる幼子の命の息吹。 久しぶりの感触はしばし眠っていた母性本能を目覚めさせたようで、とても満ち足りて幸せな気分に浸らせてくれた。 ほんの数分だけ、殺し合いを忘れさせるほどに……。 「行こう。F-7エリアでジルフィーザが待っている」 ティターンの声が美希を温もりの中から美希を現実へ引き戻した。 ジルフィーザが待っている……? いいえ。待っているのは、ナツメだわ。 行かなければならないのは、急がなければならないのは、誰のためでもなくナツメのため。 取り戻さなければならないのは、ナツメと紡ぐ満ち足りた時間。 ――― 殺し合いはまだ序盤、気を緩めるには早すぎる。 仄かに生まれた温もり。胸に蘇った幼いナツメと過ごした陽だまりのような時間。 少しだけ、それを名残惜しみながら胸の奥へ押しやった。 そして美希は、ティターンの呼びかけに力強く頷いた。 § 「ひどい爆発だったし。お兄さん、心配してるだろうな」
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148 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 10:45:33 ID:xkwAjiuY0 -
そう言ってドロップの顔を覗きこんだのは最上蒼太だった。 遺跡で出会った明石暁と同じボウケンジャーの一員。 誰が見ても好感を持つ笑顔を振り撒きながら、それでいてさりげなく周囲を気遣う。 人材として蒼太を推し量るとしたなら美季は高い評価を与えると思う。 戦闘においても申し分ない。 とっさに機転を利かせられる柔軟な頭脳と高い身体能力。その両方を兼ねそなえている。 もっとも、ネジブルーに渡した名簿にあった蒼太の経歴を考えれば当然の話ではあるが。 元を辿れば彼はスパイ。 人を懐柔する術など心得たもの。 磨き上げられた戦闘力と、冷酷な心。 今、笑顔の奥にある彼の素顔がスパイのそれならば。 フェミニストのように振る舞いおぼろを守っているのは、裏を返せば美希と同じ発想なのかもしれない。 「せやな、さぁ。はよいってお兄さんにドロップ君の元気な姿を見せたらな。なっ!」 纏の墓石の前で、そっと手を合わせていた日向おぼろが答える。 茶番だった救出劇で、戦闘の間に美希とドロップをタワーから連れ出したのが彼女だった。 震える手で美季とドロップの手を握り、もう大丈夫だと仕切にドロップを励ましていた。 その際に交わした僅かな会話からでも、おぼろの強い正義感と聡明さを感じ取れた。 だが同時に感じたのが戦闘能力の低さ。戦場において、自力で勝ち残る確率など皆無に等しい彼女の非力さを感じた。 「バウ!バウ!バウ!」 「マーフィー。あまり騒ぐな、お前も傷ついているのだ」 おぼろに答えるようにマーフィーが吼えた。
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149 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 10:53:38 ID:xkwAjiuY0 - その横でマーフィーの頭をティターンが優しく撫でている。
黒装束に身を包んだティターンのその姿は、美希が名簿で見た『冥府神ティターン』のそれとは違う。 支給品が姿を変えられる品だったのか、あるいはティターン生来の能力なのかはわからない。 けれど、人の姿に衣を借るあたり、争い事は好まないのだろう。 『命を守りたい』というティターンの根底に流れる思いは、この手で斬首したスフィンクスと同じ。 人間の絆と勇気を信じ、そして知ろうと願った愚かなる賢者『冥府神スフィンクス』と同じだった。 「ドロップの兄さんなら、俺と同じくらいかな?」 まだまだあどけなさをその顔に残しながらも、少し大人びた口調で並樹瞬が言った。 纏を弔った事で幾分落ち尽きを取り戻した瞬。ジルフィーザの元へ向かうにあたり、ふと湧いた疑問だったのだろう。 「うむ……。そうだな。美季とドロップ以外はジルフィーザを知らないんだったな……」 返答にティターンは詰まったようだ。 外見上ジルフィーザの年齢は判別しがたい。 しかし言葉に詰まった原因は年齢というよりも、童鬼ドロップの兄、冥王ジルフィーザの姿だろう。 角を生やした半獣の顔と、蝙蝠のような羽根、冥王の冠に相応しい異形の姿をしている。 ティターンが人外の姿を隠していることも含めてどう答えるつもりだろう? 美季はティターンの顔を見遣る。 押し黙っていたティターンが黒装束の肩に手を掛けた。 「ドロップの兄、そして、俺についても話しておきたい……。話すと言うより見てもらった方が解りやすいだろう。驚かないでくれ」 ティターンは脱ぎ捨てるように勢い良く黒装束を剥ぎ取った。
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150 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 11:05:01 ID:xkwAjiuY0 - 体から離れた黒装束が七色の光彩を放つ。
光彩は綾をなし虹色の反物が、まるで本物の虹を描くように空に拡る。 「隠していたわけではなかったんだが。争いを出来るだけ避けるためには、人の姿の方が都合が良かったのだ。 俺もジルフィーザも人間から見れば、怪物だからな」 虹色の反物がふわりとティターンの手の中に落ちる。 黒装束を脱いだティターンの姿、畏怖されし異形の神の姿。 原子雲を彷彿させる巨大な頭部、深緑色の体躯に大蛇ような四肢。 誰もが一瞬、息を飲んだようだ。大きく目を開き言葉を発せずにいた。 美希はそれに習い、守るようにドロップを抱く手に力を込める。 その中で蒼太だけがティターンに厳しい眼を向け、アクセルラーを構えた。 「ちょっと、蒼太くん。びっくりしたんはわかるけど!」 おぼろはティターンの前へ割って入り蒼太を諌める。 瞬も蒼太を咎めるような視線を向けた。 「ええ。彼は敵じゃない。それは充分わかってます」 蒼太はすぐに穏やかな表情を作り、アクセルラーの表示をこちらに向けた。 液晶画面に赤く表示された文字をおぼろが読み上げる。 「ハザード……レベル120?」
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151 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 11:07:00 ID:xkwAjiuY0 - 「ええ、ハザードレベル120。プレシャスです。世界各地に点在する人類の秘宝。僕たちボウケンジャーが探し求めるのがプレシャス。
ティターンの支給品もその一つのようですね。ハザードレベルは価値を数値で表したと思ってもらえれば……。 だけど、ボウケンジャーである僕が知らないプレシャスを支給されるとはね」 敵意のないことを示したつもりなのか、蒼太は軽く両手を挙げる。 ティターンは安堵した様子で再び反物を纏い、黒装束姿に戻った。 「このプレシャスの存在を知る者がお前の仲間にいるのだろう。その者と同じ時間から調達したんではないか? これは纏が言っていたんだが……。参加者は同じ時間軸から集められたんじゃない、と―――」 巽纏が話したというそれぞれの時間軸の違い。 瞬とネジブルー、ドロップとジルフィーザを例えたティターンの話で、名簿の記載は事実だったと証明された。 証明されたのはいいが……。明石とヒカルに次いで、この場の面々にも知れたのだから他にも気付いたものも少なく無い筈。 ならば、それを逆手に疑心暗鬼の種として蒔くだけ。 参加者たちの団結を防ぎ、殺し合いを行わせるのが美希の役目なのだから。 「じゃあ、一概に知り合いだからと言って100パーセント信頼するのは危険かもしれないわね」 「……俺は知り合いいないけど。皆には、気をつけて欲しい。組む相手も助ける相手もしっかり見極めなきゃ、命を落とす可能性もある。 ここに来た事で、考え方が変わる場合だってあるから」 瞬が伏目がちに呟いた。
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152 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 11:09:12 ID:xkwAjiuY0 - 励ますように瞬の肩を優しく叩いたのはティターン。
おぼろも蒼太も見守るような目で瞬を見ている。 その自嘲気味な呟きで、纏たちが回りくどくメガブルーを人質とした経緯が読めた。 当初、瞬は殺し合いに乗ろうとしてたのだ。 「だが、人との触れ合いの中で考えなどいくらでも変わる。この俺のようにな」 話題を変えようとしたのだろう。 ティターンは纏のデイバックを拾い上げた。 先程、瞬が泣きながらカレーパンを取り出しただけで残りはまだ確認していなかった。 中には『F−9 繭』と書いた紙切れと、手の平ほどの大きさの、鍬形の玩具のような品。 そして、残りの食料はナツメの大好きだったエッグタルト。 それ……。言いかけた美希を遮ったのはおぼろだった。 「それ、一楸ちゃんの……」 おぼろの知り合いの縁の品。クワガライジャーに変身するためのアイテム。 その人物は参加者にはおらず、支給品だけがこの場にある。 聞けばネジブルーが使ったソニックメガホンや、蒼太とおぼろが追っていたクエスターガイが持つクエイクハンマーもそうだという。 おぼろは落胆を隠さず声に出した。 「武器だけやなく、ゴウライチェンジャーまでここにあるやなんて。さっきの時間軸の話を考えたらろくな想像が浮かばん!!」 「とにかく、ロンを倒して帰るまでは何もわからない。これはお前が使うといい。一楸という者もそれを望むだろう」 「ありがとう。でもたぶんゴウライチェンジャーは誰にでも使えるんや。『迅雷・シノビチェンジ』の掛け声で起動すると思う。 一応預らせてもらうけど……。いざとなれば使い回しが利くってのは皆覚えといて」 おぼろがゴウライチェンジャーを受け取るのを美希は横目で見ていた。 「って、うちのことばっかり言ってごめんなさい。そういえば美希さん何か言おうとしてたやろ?」
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153 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 11:10:18 ID:xkwAjiuY0 - 「いえ、私こそごめんなさいだわ。偶然見えたバックの中のエッグタルトが娘の大好物だなの。こんな時にそれを気にするなんて……」
どうかしている。 今はエッグタルトより、汎用性のあるゴウライチェンジャー。これがあれば殺し合いも楽になる。 「こっちの『繭』に誰か心辺りは無いか?」 腕の中でピクリとドロップが反応し目を開いた。 ゆっくりと視線を動かしティターンを見た。 「行かなきゃ……」 ドロップが行きたいのは繭なのだと思った。 この子が人間の姿をしているのと何か関係があるのかもしれない。 § 「バ……ウ!バ!……ガッ!!」 蒼太がバリサンダーを押しながら進む横で、じゃれるように歩いていたマーフィーに異変が起こった。 突然、壊れたデジタル音を発しマーフィーは崩折れる。 駆け寄ったおぼろはネジブルーに撃たれた箇所を見て顔をしかめた。 「ちょっと酷いな。 回線が切断されてぐちゃぐちゃや」 「修理は可能なんですか?」 「完全にというわけにはいかんやろな。まぁ歩けるぐらいには修理できると思うけど。すぐって訳には……」 「時間が必要ってことですね」 時計を確かめながら蒼太が2組に別れようと提案した。 ティターン、美希、ドロップはジルフィーザの元へ。
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154 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 11:16:15 ID:xkwAjiuY0 - おぼろ、蒼太、瞬は向かうエリアとは反対方向に見える工場でマーフィーを修復。
終わり次第、合流場所である瞬が纏と休憩を取ったというビルへ向かう。 別れ際、瞬が美希に話しかけてきた。 「纏さんが書いてくれた手紙も気になるし、本当は一緒に行きたいんですけど……」 「しょうがないわね。ティターンの話じゃジルフィーザはちょっと気むずかしそうな感じだから。 先に行ってきちん話しておくわ。ドロップを命がけで守ったあなたたちのこと」 「ドロップ、会ったのが美希さんで良かったですよね。でも美季さん、ずっと抱いてたら重くないですか?」 「ありがとう。大丈夫よ」 礼を言うと瞬は笑顔を浮かべて軽く頷いた。 「瞬くん、高校生よね。お母さん心配してるでしょうね」 「確かにさっきまでの俺なら、きっと心配してたと思います」 美希ははっと名簿に書かれていたことを思い出す。 瞬は幼少の頃、フルート奏者だった母親を亡くしている。 美希に抱かれるドロップを、瞬がどこか懐かしむように見つめた。 「でも、もう心配させないつもりです。空で、纏さんと一緒に見てくれてるだろうから」 纏の死は彼に成長をもたらしたようだ。 仲間の死を乗り越えて強大な敵に立向かっていく。 皆の悲しみも怒りも正義の為の力となるのに、なぜ自分だけ母としての愛情を殺意に変えなければならないのだろう。 「次に会う時まで、良かったら使って。これは盾の型やけどジョイントを組み変えたら手槍にもなるし」 おぼろがイカヅチ丸を美希に差し出した。 「うちはゴウライチェンジャーも預ってるし、マーフィーを修理したらすぐそっちへ向かうから。ドロップ君をたのんます。そのために纏さんも命を懸けはったんやし」
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155 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 11:18:22 ID:xkwAjiuY0 - 「それに、僕がついてますから。っと、蒼太さんも」
「お、瞬くんなかなか言うてくれるやないの。ちょっと蒼太く〜ん。今の聞いた?」 「じゃあ、僕も瞬くんに守ってもらうよ。よろしくメガブルー」 おぼろと瞬が笑いあう。 その輪に蒼太が加わった。 蒼太の素顔はもうスパイじゃない。これが彼の素顔なのだと美希は思った。 屈託なく笑う三人。 年も顔も背格好もなにひとつにていないのに、なぜかジャン、レツ、ランの笑顔と重なった。 越えてはいけない一線を踏みこえてしまった美希には、彼らがとても遠く感じる。 巽纏を救えなかったのだから、犠牲を出してしまったのだから、彼らも同じだと、そう思えば楽になれるだろうか? 美季はもう一度、ひとりひとりを見つめていった。 目が眩むほど輝いた笑顔がそこにあった。 ふと、今ならまだ戻れるような気がした。 今止めてしまえば、まだ間に合うのではないかと。 スフィンクスを殺したことも、纏を殺したことも、全部仕方の無いことだった。 でもその罪も、スフィンクスと纏ならば許してのではないかと……。 纏の墓石に目が止まる。 墓石と言うにはあまりにも不格好な岩の下で、巽纏が眠っているのだ。 言い知れない寂寥感が美希を包んだ。 あなたは私を恨んでいるでしょうね。 仕方が無いこととは言えなかった。
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156 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 11:19:44 ID:xkwAjiuY0 - 許してもらおうなどと都合の良すぎる話だった。
「次……」 腕の中でドロップが、美希以外には聞こえないくらいの小さな声で呟いた。 美季はドロップの冷めた視線を追った。 ドロップの視線がティターンの背を射抜く。 結局、この中に美希が利用出来る者などいない。 わかっている。 早いほうがいい。 私が迷いを振り払うためにも……。 答える代わりに美季はドロップの頭を撫でた。 § 歩いていく美希、ドロップ、ティターン。 その姿を思い出すと瞬は少し複雑な感情に駆られた。 本当ならば自分もついて行きたかった。 行って全部終わらせてくるつもりだったのだから、何となく不完全燃焼を起こしている。 蒼太たちと共に来た鉄工所で瞬は特にすることなど無なかった。 マーフィーが心配じゃないかと言えば、あまり心配でもなかった。 なぜならここに着いた途端、おぼろはメカニックとしての本領を発揮。 テキパキと蒼太と瞬に指示を出す。 結局、プロと学生の差がでたというか、助手の仕事にあぶれた瞬は邪魔にならぬよう隅で大人しく待っているしかなかった。
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157 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 11:21:51 ID:xkwAjiuY0 - しばらくして一段落したのか、おぼろと蒼太がペットボトルを片手にこっちへやってきた。
マーフィーはまだ作業台で寝そべっていたが鳴き声は以前よりうるさいぐらいの声に戻っていた。 「気になるかい」 「そりゃ、纏さんの残してくれた手紙のこともあるし」 「じゃ、これを持って様子を見にいくってのはどうかな?」 蒼太が渡してくれたのはゴウライチェンジャーだった。 マーフィーの修理はもう一息で終わるらしい。 ただ残念なことに材料も乏しく、予想していたよりも修復は出来ないようだ。 施せるのがあくまでも応急処置なので、あまり長い時間は歩かせられない。 そこでバリサンダーに乗せて運ぼうとなったが、押して行くには負担と時間的なロスが大きすぎる。 乗って行くには、おぼろがマーフィーを抱えることになるが。 となると瞬は一人あぶれてしまう。 続けて蒼太からクエスターガイに奪われた天空の花の話を聞いた。 仕掛けられた時間のリミットもある。 瞬にゴウライチェンジャーを託してみようと二人は思ったらしい。 「もちろん、一人になるのは危険やし。瞬くんがいややったら無理強いはせえへんで」 「行きます。もちろん」 その時、瞬はすでに立ち上がりデイバックを担いでいた。 § 幼いドロップの歩みに合わせ、ゆっくりと歩みを進める。 ドロップの歩みのせいだけではなかった。 ここはちょうど美希がテルミット弾を仕掛けたタワーの裏手。 壊れた街の残骸が、美希の最後の良心に縋り付くように歩みを遅くさせていた。
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158 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 11:24:07 ID:xkwAjiuY0 - ティターンは誰かに話したかったのだろうか。
歩きながらする会話がいつの間にか放送で呼ばれた死者の話へ、そしてその中のティターンの知り合いへと話は自然に流れた。 小津勇、深雪、麗。そしてスフィンクス。 スフィンクスとティターンは人間界で命の大切さを学んだ。 人の絆、兄弟や家族の思い、それは今まで美希も何より大切に、どんなことより強く願う思いだった。 無意識に美希は立ち止まった。 「少し時間を貰えない?ずっとドロップを抱いていて纏さんの墓前で手を合わせてられなかったのよ」 つい口から出た言葉が、ティターンに対する演技なのか、自分の本心なのか一瞬わからなかった。 「構わないが、戻るか?」 「いいえ、ここで良いわ。ここが爆心地みたいだし、この爆発のせいで纏さんが亡くなったのだから」 美希は手を合わせてみた。 不思議に後悔も、懺悔も、何も湧き上がってこない。 感情のすべてを凍らせてしまったかのようだった。 本当に心が凍ってしまえばいいのに……。何の迷いもなく目的の為に殺戮を厭わない殺人マシーンだったら……。 ナツメを救わなければならないという思いが、溢れそうな感情を必死に凍結させていた。 長く長く、美希は手を合わせたまま動けないでいた。 「どうしたのだ」 ティターンとドロップが不思議そうに自分を見ている。 言われて始めて頬を伝う涙に気がついた。
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159 : ◆MGy4jd.pxY [sage]:2008/11/13(木) 11:30:47 ID:xkwAjiuY0 - 出来ないの?
声にださずに呟いたドロップ。 不意に美希の両耳を引っ張っぱった。 「勇気……。出ろ、出ろ」 大丈夫よ、出来るわ……。 美希はドロップにだけ聞こえるようにそっと優しく囁いた。 始末するならなるべく早いほうが良い。 ジルフィーザど組まれ、瞬たちと合流した後でより、今。 ぐらついた気持ちと決別するにもティターンの存在は障害のように思えた。 「何でもないわ。目にゴミでも入ったみたいね」 美紀はそっと涙を拭い取り、ティターンに微笑みを帰した。 その時。 タタッ。軽い靴音を響かせてドロップがティターンに駆けていく。 それはスキップするように、まるで父親甘える子供のように。 飛び跳ねたドロップはティターンの肩へ攀じ登った。 ティターンはどこか嬉しそうに、しっかりとドロップを大きな背で受け止め、両腕で支えた。 スッと首に回されるドロップの細い両腕。 その手に持つのは幼子の玩具ではなく鏡の破片。 ナイフのように鋭い欠片が朝日を受けて煌めいた。 「マトイお兄ちゃんと皆のおかげで、大事なこと全部思い出したよ」 無垢な幼子の表情は無く冷たい殺意に満ちた目。
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