- 戦国ちょっといい話46
523 :人間七七四年[sage]:2018/11/22(木) 23:56:06.49 ID:gS7QotLX - 甲州武田家の譜代衆で高位の侍であった今福浄閑は、若い頃より試しものを良く斬る人で、しかも上手であり、
据え物を斬ってその頸が落ちる時、脇差で傷口を貫き、地面に落ちる途中ですくい上げるほどの手練であった。 ためし物の上手であったため、武田家中の侍衆は大身、小身共に浄閑にこれを頼まぬ者はなく、其のようであったので 47,8歳までに千人も斬ったと噂されが、実際にも百人から二百人は斬っただろう。 ところがこの人はどうしたわけか、その子供が幾人も病死していた。しかしながらこの今福浄閑は参学などして 心も才知勝れた人物であったので、下劣な批判に取り合わず、子供が死ぬのも不昧因果(因果をくらまさない)と申し 少しも取り合わなかった。 ある時、信州岩村の法興和尚が来られた時、今村浄閑も彼の元を訪問した。法興和尚は浄閑へこう言った 「そなたは良い歳であるのに、ためし物の罪作りをしているのは勿体無い。」 浄閑は申した 「私が斬っているのは、囚人の科が斬らせているのです。」 法興も「それは尤もである。」と答え、暫く間をおいてこのような事を頼んだ「今福入道よ、この囲炉裏へ 炭を入れてくれないだろうか?」 「畏まって候」そう浄閑が炭を持ってきて囲炉裏へ入れようとすると、和尚は言った 「大きな炭を火箸で入れるのはどうだろうか?名にし負う武田幕下歴々の今福入道なのだから、指で持って 炭を入れてほしい。」 この浄閑と言う人は又、興のある人物で諸芸に達し、能などする時、古保庄太夫などと立ち会っても浄閑の方が 上手であるという程の人であったため、炭をいかにも面白く囲炉裏へ入れた。 そうして彼が立ち退く時、その手を拭った。これを見た和尚が言った「今福入道は、どうして手を拭うのか?」 「今の炭にて汚れたのです。」 「その炭を焼いた炭焼の手も汚れていただろう。」 「炭焼は炭を作り取り出すのですから汚れるのは当然です。今は炭を取った手が汚れたのです。」 これを聞いて法興和尚は 「では先刻、その方のためし物となる人間には科があると言ったが、それをくびきる今福浄閑にも罪があるのではないか?」 この教えにより、今福浄閑はその後、ためし物を斬ることは無くなったという。 (甲陽軍鑑)
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