- 戦国ちょっといい話41
675 :人間七七四年[sage]:2015/02/28(土) 16:47:51.02 ID:XVBZi5ie - 江上武種の家人に光安刑部允という者があり、城原に居住していた。
天性不敵な剛の者で、まだ忠三郎と名乗っていた年若き頃、勢福寺の城番をしていた夜に 敵300が攻め入らんとしてきたのを、僅か10人ほどで防ぎ、難なく追い払って高名をなした者である。 この刑部、普段は山狩りを好み、猪や猿の類いを捕ることが得手であった。 或る夜のこと、刑部は犬を連れ勢福寺大明神の上にある菩提寺山の頂き土器割(かわらけわり)という高山に猪を捕りに登った。 この山は九州において、豊前の彦岳、豊後の右田岳、日向の法華岳、肥後の阿蘇岳と並ぶ隠れなき天狗の住処であった。 不意に、連れていた犬が猛々しく吠えて騒ぐ。 「不思議である、何であろうか」と刑部が窺い寄って見てみれば、それは鹿や猪の類ではない。 月明かりでよくよく見てみれば、柑子を割ったような黒っぽい石が道の脇にあると判った。 刑部は取って帰って明るくなってからよく見てみようと、徐らこれを懐に入れ峰筋の細道を下ったのであるが、 やがて懐が少し大きくなって重くなったように感じた。 探ってみると石は天目ほどに大きく、また重たくなっていた。 刑部は怪しみつつも尚も坂を下り、四、五町を過ぎた頃、石は鞠ほどの大きさになって重いこと際限なしであった。 しかし、刑部は少しも騒がず「よぉし、どうにでもなれ。汝には負けぬぞ」と尚も下っていたが、 遂には大磐石の如くに大きくなり刑部も動けなくなってしまった。 もはや為す術がなく、脇の谷へと落としてみれば、その音は雷のように鳴り響き夥しいというばかりであった。 暫くして、向いの尾崎に数千人の笑い声が山も崩れんばかりに聞こえだした。 刑部は刀の柄を砕けんほどに握り締め四方を睨んだが、眼に映るものは何もない。 刑部は力及ばず我が家に帰り、このことを主に語れば 「ただただ大きくなる稀代の珍物であったのに、持ち帰れず残念であったな」と笑った。 (北肥戦誌)
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