- 【妄想を】CCさくらSSスレ【垂れ流せ】
24 :STスレにもいた人[sage]:2018/11/09(金) 21:56:07.47 ID:ykmbtusL0 - クリアカード編の補完が途中ですが、
<月亮><星辰>の二本を投稿します 初めて書いたccsのssが<月亮>でした なるべく同じ言葉を使いながら 「決意」「迷い」「過去」「未来」「訣別」「再会」 そういった対比を織り込んで出来上がったのが対となる<星辰> さくらが小狼に思いを告げなかったらどうなっていただろうと思ったのがきっかけで生まれた作品です 個人的な考えですが、たとえあの時さくらが空港(orバス停)に駆けつけなかったとしても、二人はまたいつかどこかで出会った気がします そしてその「鍵」はさくらが握っているような・・・ ttps://www.youtube.com/watch?v=5Ram_QlVgZI <月亮>は2年ほど前に↑の曲を聴きながら書き上げた話なので、物語の起伏が曲の緩急となんとなくリンクしています。 少し尺が余りますが、BGMがわりにお聴きいただくと一興かもしれません。
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25 :<月亮>[sage]:2018/11/09(金) 21:56:34.61 ID:ykmbtusL0 - 自室の窓辺に立って、小狼は香港の夜景を見下ろしていた。
ヴィクトリア・ピークにある李邸からは香港の夜景がよく見える。 彼の部屋も例外ではなく、眼下には満月に照らされた百万ドルの夜景が広がっている。 初めて魔力で火を起こすことができた日、父上が亡くなった日、クロウカードを集めるため日本へ行くと決まった日・・・。 そんな人生の節目節目に、彼はいつも自室の窓辺に立って香港の夜を眺めたものだった。 今や部屋はすっかり整理されて、小さなテーブルの上に一冊のアルバムが置かれているだけである。 小狼はちらとアルバムに目をやった。 それは、小狼が13になる年の春に日本の友人から送られて来たものだった。 「李君へ 先日私共も小学校を卒業いたしました 記念にと思いお送りいたします どうぞお受け取りください 大道寺知世」 添えられたカードの主は、聡い人だった。彼女は気がついていたのだろう。香港へ戻った自分が、二度と日本を訪れることがないということに。 香港に帰ってきてからの日々は以前とは比べものにならない程忙しかった。煩雑な毎日に追われて、日本でのことは遠い記憶の彼方に霞んでいく。 それを惜しいとも悲しいとも思う余裕もなかった。あれは、儚い幻のようなもの。下手な感傷に浸って今の生活に支障をきたすよりはずっといいとさえ思った。 小狼の前には、いつも李家の当主となるべき道が布されていた。それは、「何か」に定められたものではあるが、自分が望んだものでもあった。だから、辛くはなかった。 ただ、少しだけ、ほんの少しだけ、これとは違う道を夢見たことがなかったとはいえない。 李家のものではない「小狼」。当主としての責を負わない「小狼」。ただ一人の「少年」としての「小狼」であったならば、この生をどのように生きてみただろう。 日本へ渡ると決まった時、これまで感じたことのない胸の高鳴りを感じた。当時は、重要な任務を任されたという緊張や、己の力を試す機会を得たという喜びからくるものだと思った。 しかし今思えば、この訪日が、運命が与えた人生の「遊び」のようなもので、大きな潮流の中に絡め取られた人生にいっときだけ許されたモラトリアムであるということを予感していたからかもしれない。
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26 :<月亮>[sage]:2018/11/09(金) 21:57:01.95 ID:ykmbtusL0 - こんな月の夜にはクロウカードや不思議な出来事を追って夜の街を駆け抜けたことが思い出される。
今の小狼にはもう手が届かないけれど、あのときだけは、あの日々だけは確かに何人(なんぴと)にも縛られない「ただの」小狼として生きていた。 一度だけ、アルバムをめくったことがある。そこにある顔はどれも少しだけ記憶より大人びていて、自分が去った後も時は着実に流れたのだ、と思わされた。 己の記憶を確かめるように写真をなぞっていくうち、アルバムは最後のクラスの集合写真のページになった。 不意に、自分の名前を呼ぶ鈴のような声が蘇った。 『小狼君!』 他のクラスメイトに混じって、在りし日の記憶のままの「彼女」が笑っていた。 少し泣き虫で。 でもやると決めたら一生懸命で。 いつも一緒に山崎の嘘に騙されていた。 「彼女」に出会って初めて人を好きになるということを知った。心に広がる甘いような苦いような、切ない想いを何度噛み締めたことだろう。 返事も聞かずに帰って来てしまったけれど、追い立てられるような香港での生活の中でも、この「想い」が曇ることはただの一度もなかった。 「彼女」と同じ写真に写るまだ幼さの残る自分の姿を見て泣きたいような笑いたいような気持ちになった。 何者にも縛られないただの「小狼」として生きられたことは、なんと幸せだったことか。 たとえこれからの人生が「彼女」のものと交差することがないとしても、一人の「少年」として生き、自分が思うがままに「彼女」を愛することができたのだから。 彼女はもう、自分のことを忘れてしまっただろうか。 彼女が忘れてしまっていても、俺は忘れない。それでいい。それで、十分だ。
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27 :<月亮>[sage]:2018/11/09(金) 21:57:22.22 ID:ykmbtusL0 - 「李小狼」として生きるためには、切り捨てなければならないものがあった。乗り越えなければならないものもあった。
李家の次期当主として認められた今もなお、多くのものを切り捨て踏み越えてゆく途中にある。 明日からは、次期当主として本格的な活動に入る。それに伴って、よりふさわしい部屋へ移ることになっていた。子供時代を過ごしたこの部屋とも今夜でお別れだ。 思ったより、幸せな日々だったと思う。 この世で最も尊い「想い」はもう見つけた。そして、その「想い」を宿した思い出は胸の中(ここ)に在る。 だから、何があっても生きてゆける。 「さくら―――」 小狼は春に咲く花の名前をそっと口にした。 そして、何千何万回と繰り返した言葉を万感の思いを込めて唱えた。 「―――火神招来ッ」 ゴォッ、とひとかたならない炎が上がり、テーブルの上のアルバムが火に包まれた。 鳶色の髪が揺れる。 狼の瞳でまっすぐ前を見つめた。 かつての少年は歩き始める。己の選んだ道を生きるために。 その先には、何が待っているのだろう。
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28 :<星辰>[sage]:2018/11/09(金) 21:58:12.27 ID:ykmbtusL0 - 今日は友枝小学校の同窓会だ。
懐かしい顔ぶれが一堂に会するということで、さくらはワクワクしながら会場へやって来た。 いつもより少しだけおしゃれに気を遣って、でも心は小学生の頃に戻って。みんな元気かな、どんな風になっているだろう。 きっと、とても素敵になっているんだろうね。そんな話をしながら、知世と二人連れ立ってふと見上げた空には、大きな満月がかかっていた。 「千春ちゃん、奈緒子ちゃん、利佳ちゃん!」 人混みの中に、昔の面影を残した友人たちの姿があった。さくらの声に旧友の弾けんばかりの笑顔が向けられる。 「さくらちゃん!元気にしてた?」 「うん、この通り元気だよ。みんなも元気にしてた?」 「元気元気。二人は相変わらず仲良しだね〜」 「ふふ、ありがとう」 「利佳ちゃんはまた一段とお綺麗になりましたわね」 「そ、そんなことないよ。知世ちゃんもお元気そうね」 「はい。おかげさまで」 「同窓会っていうのはね〜!」 「山崎くん!」 変わったようで何も変わらない、そんな友の様子になんともいえない嬉しさが込み上げて、一同の顔に笑顔の花が咲いた。 少し大人になるということは、子供の頃とは比べものにならない程忙しい日々を過ごすということでもあった。 煩雑な毎日に追われて、カードキャプターとして奮闘していたことは遠い記憶の彼方に霞んでいく。 魔法を駆使する機会がなくても、それを惜しいとも悲しいとも思わなかった。ケロちゃんはそばにいてくれるし、ユエさんも雪兎さんとして元気にしている。 カードさんたちとはいつでもお話できるし、魔法が使えなくても友枝町にまた事件が起こるよりはずっといい。 ただ、少しだけ、ほんの少しだけ、これでいいのかと自問することがあった。 カードキャプターとして責務を全うしようと格闘した「さくら」。不思議な出来事からこの街や友達を守ろうとした「さくら」。 自分が秘めている力を信じてひた走った「さくら」は、今の自分よりも「さくら」らしかったのではないか。 社会の常識や大人の分別を身につけて、世の中にうまくなじんできたけれど、それが本当に自分が望んだ生き方だったのかがわからない。 クロウさんは魔力のことなど気にせず自分らしく生きればいいといってくれたけれど、果たして今の生き方がそうなのだろうか。
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29 :<星辰>[sage]:2018/11/09(金) 22:01:35.11 ID:ykmbtusL0 - さくらは窓の外に目をやった。
こんな月の夜にはクロウカードや不思議な出来事を追って夜の街を駆け抜けたことが思い出される。 今のさくらが手を伸ばすことはもうないけれど、あのときは、あの日々は確かに自分が思うままの「さくら」として生きていた。 何年かぶりの再会に話が弾む。卒業してからの進路のこと。旧友の消息・・・。話したいことは後から後から湧いてくる。 尽きない話題に少し話し疲れた頃、千春がぽん、と手を打った。 「そうそう、私、今日卒業アルバム持ってきたの!」 「え、見たーい!」 「私も!」 ガサゴソとカバンの中から重厚な表紙のアルバムを取り出すと、千春はそれを見やすいようにテーブルの上に置いた。 広げられたアルバムを覗き込む。まだあどけない自分達の姿がそこにあった。 さくらは隣の知世に囁きかけた。 「みんなまだ小さいね」 「そうですわね」 「こんな風に写真に残ってるって、なんか嬉しいかも」 「ええ。ただ、私の作ったお洋服を着たさくらちゃんが写っていないのだけが残念ですわ」 「知世ちゃん・・・」 相変わらずの知世に脱力しながらも、さくらはめくられていくアルバムを熱心に見つめた。 運動会、学芸会、体験学習・・・。思い出の一コマが鮮明に記録されていて、忘れかけていた記憶さえ蘇って来る。 遠い昔のことなのに、まるでつい最近のことのように感じられるのだから不思議なものだ。 己の記憶を確かめるように写真をなぞっていくうち、アルバムは最後のクラスの集合写真のページになった。 「あ」 千春が声をあげた。 「李くんだ」 一枚の写真にみんなの視線が注がれる。そこには、他のクラスメイトに混じって、ひときわ意志の強そうな瞳の少年が写っていた。 「ほんとだ。集合写真、写ってたんだね」 奈緒子がそう言うのも無理はない。香港から来たという彼は、わずか一年ほどを友枝で過ごし、ある日突然故郷へ帰ってしまったのだ。 十分な別れもないまま、その消息は途絶えてしまった。
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30 :<星辰>[sage]:2018/11/09(金) 22:02:32.81 ID:ykmbtusL0 - 「私、李くんのこと、少し苦手だったな。いつも怖い顔してたし」
利佳が少し困ったような笑みを浮かべて言った。 「でも、本当はとてもお優しい方でしたのよ」 慈しむような、優しさに満ちた表情で知世が言う。 「僕の噓にもよく付き合ってくれたしね」 山崎の声には、少し寂しさがにじんでいた。 「うん・・・」 知世がそっとさくらの方を窺い見る。伏し目がちに答えたさくらは、遠い日の出来事に思いを馳せていた。 『俺・・・、お前のことが好きだ』 突然の告白だった。 クロウカードを争って、同じ人に想いを寄せて。不思議な出来事が起こった時はいつも助けてくれた。それがどれだけ支えになっていただろう。 初めて自分への好意を打ち明けてくれた人だったのに、何も返せないまま、彼は帰ってしまった。 あれから何人もの人に好意を向けられたけれど、あんなも鮮烈であたたかな想いを向けられたのは後にも先にもただ一人だけだった。 「彼」と同じ写真に写るまだ幼さの残る自分の姿を見て泣きたいような笑いたいような気持ちになった。 何者にも縛られないただの「さくら」として生きられたことは、なんと幸せだったことか。 たとえこれからの人生が「彼」のものと交差することがないとしても、自分が思うままの「少女」として生き、世界にただ一人の「少年」に愛してもらうことができたのだから。 彼はもう、自分のことを忘れてしまっただろうか。 あなたが忘れてしまっていても、私は覚えているよ。それで十分。それで、いいよね・・・?
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31 :<星辰>[sage]:2018/11/09(金) 22:02:50.12 ID:ykmbtusL0 - 「木之本桜」として生きるために、幾多の選択を繰り返してきた。選んだものがあり、同時に、選びとらなかったものもある。
「カードキャプター」ととして生きる必要がなくなった今だからこそ、己が進むべき道は自ら見つけ出さなければならない。 この先に何があるかはわからない。自分の選択に後悔することもあるかもしれない。しかし、今のさくらには確信があった。 思っているより、幸せな日々が待っている、と。 この世で最も尊い「想い」はもうこの手にあった。そして、その「想い」を宿した思い出は胸の中(ここ)に在る。 だから、何があっても生きてゆける。 異国から来た少年。鳶色の髪と狼の瞳を持った人。 今、あなたの名前を呼ばなければまた後悔するかな。 「―――小狼くん」 さくらの唇からこぼれ落ちた名前を聞いて知世が微笑んだ。 胸元の鍵が揺れる。 翡翠色の瞳はまっすぐ前を見つめた。 かつての少女は歩き始める。己が選ぶ道を生きるために。 その先には、何が待っているのだろう。
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