- 社会福祉公社技術部さくら板支所 第3分室
793 :【】[sage]:2012/09/13(木) 00:02:18.65 ID:3XufpTPV0 - 夏の宿題提出。色々教えてくださった皆様ありがとうございました。
あれこれひねり回してみたけど結局一番シンプルな話にしました。 資料がまったく活かせなくてスミマセンorz
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794 :【真贋】[sage]:2012/09/13(木) 00:04:09.62 ID:3XufpTPV0 - 【真贋】
夏の日差しが照りつける古都の昼間。鐘楼前の広場で少年たちが騒がしく群れ集まっていた。 それぞれの手には武器のようなものを持ち興奮気味に言葉を交し合っている。 広場にはまばらな人影があったが傍若無人な一団にあえて近付く者はなく、 皆日陰を選るようにして建物の壁沿いを歩いている。 その人影の中に新たに広場へやってきた一組の身長差のある二人連れの姿があった。 男と年の離れた妹と思しき彼らは少年らの方へ目線をやると、片方がすっと身をかがめた。 「よせ、リコ」 足元に手をやった少女を男が短く制止する。 「よく見ろ。水鉄砲だ」 少年らは広場の中央にある噴水に走り寄るとそれぞれに手にしていた物を冷たい水に浸した。 軽口を叩きあいながら数秒沈めていた手を、水盆から抜き出しざま勢いよくお互いの方へ向ける。 水滴を飛び散らせながら少年たちの手から細い水流が飛び交い、ふざけ合う一段とにぎやかな声が響く。
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795 :【真贋】[sage]:2012/09/13(木) 00:04:39.26 ID:3XufpTPV0 - 「みず…でっぽう……?」
身をかがめた姿勢のまま少女は不思議そうな表情でそのありふれた夏の光景を見やった。 「銃では、ないんですか?ジャンさん」 足元にやった右手にわずかな緊張状態を保ったまま、少女は男に問いかける。 幅広のズボンの裾に覆われた華奢な足首には少年らとは違い本物の銃器が隠されている。 「見れば分かるだろう」 「……模造品ですか」 「ただの玩具だ」 「おもちゃ……」 淡々とした男の返答に少女は首をかしげる。 「――あれは、楽しいんでしょうか」 少女にとって銃を手にする行為は『仕事』か『訓練』である。 それが『遊び』の道具である『玩具』になるというのは彼女には理解しにくいことだった。 「楽しいと感じる人間がある一定数以上存在するから商品として成立する」 「そうなんですか」 教官役である男がそう言うのならばそうなのだろう、と納得し、少女はまた少年らの方へ視線を向ける。 カーボンフレームの銃を模した黒い水鉄砲には、良く見れば銃口に赤いプラスチックで栓が施されていた。 そこから勢いよく押し出された水の描く放物線の上に小さな虹がきらめく。 離れた位置からでも彼らのその表情が楽しそうな笑顔であることは判別できた。 行くぞ、と短く告げられて少女は視線を担当官に戻す。 はい、と返事をすると少女は立ち上がり、また男の後について歩き出した。
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796 :【真贋】[sage]:2012/09/13(木) 00:06:02.33 ID:3XufpTPV0 -
数日後、担当官に呼び出された少女は、寮である義体棟に大きな荷物を抱えて戻ってきた。 見た目よりも軽いその箱を開くと、そこには様々な種類の水鉄砲が入っていた。 目を見開いて覗き込んだ仲間たちはどうしたのかと少女に問いかけ、 彼女が担当官から本物との違いを理解できるように実際に使ってみろと手渡されたのだと聞き、二度驚いた。 あの冷厳冷徹な彼女の担当官がどんな顔をしてこれを買い集めてきたのかと考えると おかしいと言うよりもそらおそろしい気もしたが、みんなも手伝ってくれる?と無邪気に乞われ、 喜んで、と箱の中の玩具に手を伸ばした。 一通り説明書を読み終えた少女たちは身軽な服装に着替えると、水を汲んだバケツを中庭に運び出した。 始めはひとすじ、ふたすじ。 やがて幾すじもの水流が空を飛び交い、次第に乾いた芝生や少女らの服や髪を濡らし出す。 担当官のいない気安さからか本物との違いを見極めるための訓練という雰囲気は消え、 まるでありふれた夏の光景のように中庭に少女たちの笑い声が響く。 夏の日差しをはじく水滴の向こうには良く晴れた青空と本部棟の一角が見える。 窓辺にいた人影は次々に浮かび上がる小さな虹のきらめきをしばし見つめていたようだったが、 少女らが気付く前に姿を消した。 << la fine >>
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