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この子の名無しのお祝いに
★何で?映画を撮らないのか?石原プロ★

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★何で?映画を撮らないのか?石原プロ★
628 :この子の名無しのお祝いに[]:2011/11/11(金) 17:33:05.70 ID:gWg4HhqE
 突然、近くでざわめきが起こった。受付につめかけていた来客が、二つに割れた。
 ハンドライトが光り、ビデオカメラを構えたテレビクルーが、三組ほど後退ってくる。
カメラ越しに、近づいてくる喪服の一団が眼に入った。通称小政と呼ばれている
小林政彦専務の左右には、渡哲也、舘ひろし、神田正輝、以下世にいう石原軍団の面々が
続いている。
 それは、異様な光景だった。
 彼らはいずれも見開いた眼でハタと虚空をにらみ、唇を噛みしめ、頬をぴくぴく
震わせていた。
 画一的沈痛な表情とは、この事をいうのだろう。そのうえ、靴音までもざくざくと
揃えている。ナチス親衛隊の行進にそっくりだった。
「なんだよ。あれは」
 見送ったぼくは中野にいった。
「デ、デモンストレーションですね」中野が応えた。「テレビを意識してますよ」
「そういえば」
 ぼくは、スポーツ新聞の記事に記憶があった。「裕ちゃんが重態のとき、病室の前に
日本刀を抱えて座り込んだ渡哲也がだな」
「ああ、ほ、報知でしょ。読みました」
 中野がいった。「ボ、ボスに若しもの事があったら俺も死ぬって、タンカを
切ったそうですね」
「ところが哲の奴、腹を切るどころかまだぴんぴんしてるぞ」
★何で?映画を撮らないのか?石原プロ★
629 :この子の名無しのお祝いに[]:2011/11/11(金) 17:36:48.86 ID:gWg4HhqE
「きょ、今日は他のスター連中、来ませんよ」
 コールドビーフを噛みながら、中野がいった。そういえば、小林旭、高橋英樹、二谷秀明、
浅丘ルリ子、吉永小百合……かつては日活のスターだった連中の姿を、さっきから
一人も見かけていない。
「そんなに石原軍団は、受けが悪いのか」
「ええ、ス、スター達が主催でやろうとしたのに、石原軍団が断ったって」

「い、石原プロ、記念映画つくるっていってますけど、どうでしょうかね」
「出来っこない」ぼくはいった。
「哲の奴は、日活時代から客が呼べない役者だった。つまり、タダで観られる
テレビならともかく、ゼニを払って見るほど魅力のある役者じゃない。舘ひろしや
神田なにがしではスケールが小さすぎる。あとのタレントは裕ちゃんの家でマキを
割ってるような連中だ……裕ちゃんがいたからこそ、テレビに出して貰えたんだろうよ」
★何で?映画を撮らないのか?石原プロ★
630 :この子の名無しのお祝いに[]:2011/11/11(金) 17:40:19.27 ID:gWg4HhqE
「こ、これからどうなりますかね、石原プロは」
「なにしろ裕ちゃん以外は、演技力が無い烏合の衆だからな。テレビドラマに
集団出演しているだけじゃ、人気が落ちる。だから、これからは選挙の応援とか、
裕次郎記念イベントとか……浪花節的な美談を派手に仕掛けて、ファンの眼を
ひこうとするだろう。しかしファンは、演技とは関係ないハッタリを、本能的に
見抜くからな。やがては離れて行くだろうよ」
 そういいながら、ぼくは自分の育った撮影所と石原軍団を、なぜこうも皮肉な眼で
見ているのだろう、と考えていた。
 思い当たることがあった。

山崎巌「夢のぬかるみ」


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