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大人ナエギリ花札編
[ダンガンロンパ]霧切響子の正体はカップ麺の妖精Part6

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[ダンガンロンパ]霧切響子の正体はカップ麺の妖精Part6
772 :大人ナエギリ花札編[sage]:2011/12/10(土) 01:48:01.09 ID:UxxCpWgp
五枚目:菖蒲に八橋

「お、お湯加減…どうかな」
 ぎこちない声がガラスの奥から響く。
「最高よ…極楽だわ…」
 対照的に、風呂場に響いた私の声は、自分でも信じられないくらいに蕩けていた。

 探偵業は自由なものというのが一般的な認識らしいが、少なくとも私にとって、それは間違いだ。
 土日でも平気で依頼が舞い込んでくるし、それを売りにしている手前、勝手に休むわけにもいかない。
 そういう日は、苗木君が私の家の家事を任されてくれる。
 数日分の御飯を作り置いてくれたり、こんな風にお風呂を掃除して沸かしてくれたり。
 何もお返しが出来ないのが心苦しい。

「菖蒲湯、ね…初めて入ったけれど、気持ちいい…」
「そりゃ、よかった…です」
「けれど、少しだけイメージと違ったかも。もっと、こう…花ばかり浮いているのかと」
「あ、それはアヤメと間違えてるんじゃないかな。僕も最初わからなかったし」
「いずれがアヤメかカキツバタ、ね…勉強になるわ」
 今日は少し凝ってみた、と曰く苗木君。
 湯船の中に浮かぶネットの中には、濃緑の長い葉が詰められている。
 血行促進、保湿効果、さらには香りによるアロマテラピーの効果もあるらしい。
 疲れを取るには持ってこいのものだ。

「それにしても…私が先にお湯を頂いてよかったのかしら」
「いいも何も、霧切さんのために入れたんだから。…っていうか、僕は帰るつもりだったんだけど…」
 リビングから届く声は、相変わらずぎこちない。
「ここまでしてもらってお礼も無しに帰しては、霧切の…いいえ、女としての沽券に関わるわ」
「で、でもさ…」
「残念ながら返せるものはお酒くらいしかないし…せめてお風呂くらい入っていきなさい」
 …とは言いつつも。
 苗木君がここまで渋るにはワケがある。

 すなわち、私の家の造りは、リビングから風呂場の脱衣所が丸見えなのだ。
 仕切りもあるが、曇りガラス。私が立ち上がれば、体のラインは見えてしまうだろう。
 もっとも苗木君はこちらに背を向けているので、今は意味がないけれど。

「ん…温泉にでも入りに来た気分…お酒が欲しくなるわね」
「霧切さん、そればっかりじゃないか…」
「一度お風呂で飲んでみたかったのよ」
「ダメだよ。入浴中の飲酒は危険なんだから…」
「あら、口答えするの?」

 ザバ、と、浴槽から体をあげて、とりあえず手拭いで前を隠す。
 ガラスの奥の苗木君の体が、面白いように強張っている。

「誰に口を聞いているのかしら、苗木君? つべこべ言わずに、一升瓶持って来なさい」
「せ、せめて徳利にしときなよ…じゃなくて!」
「さもなくば…」

 キィ、と軋んだ音を立て、風呂場の硝子戸から顔を覗かせてみる。

「私はこのまま取りに行くわよ。もちろん裸のままで…それでもいいのね?」
「わ、わかった! わかったから…」

 浴槽まで徳利を届けてくれた苗木君は、出来るだけこちらを見ないようにと、真っ赤な顔を必死に反らしていた。
 どうやらまだまだ私の体も、捨てたものじゃないらしい。
 さて、いつも世話ばかりかけている苗木君に、少しはサービス出来たかしら。
[ダンガンロンパ]霧切響子の正体はカップ麺の妖精Part6
773 :大人ナエギリ花札編[sage]:2011/12/10(土) 01:49:10.96 ID:UxxCpWgp
六枚目:牡丹に蝶 & 七枚目:萩に猪

 天香国色、百花の王。
 それは多くの文人墨客に愛された、高嶺の花。
 見事な牡丹を描いた水墨画、テレビではその作者の生涯を追うドキュメントをやっていたはずなのだけど。

「牡丹鍋、食べたいわね」
 これぞ、リアル花より団子。色気より食い気。食いしん暴バンザイである。

「…何よ。言いたいことがあるならはっきり言いなさい」
「…牡丹繋がりにしちゃ、随分縁遠いなぁ、と」
「牡丹と食には切っても切れない関係があるのよ。お酒なら司牡丹、甘味なら牡丹餅…あ、お萩もいいわね」
「節操無いんだから、ホント…」
 薄紅色の花びらを重ねて咲く様は、まさに王様の装飾。
 彼女の言うように、牡丹の美しさや風格から、その名前を冠した食べ物は多い。

「郷土料理を出す料亭で、一度だけ食べたことがあったけれど…あの濃厚な味わいが忘れられないわ」
「牡丹鍋には及ばないけれど…今日は豚汁だからさ、それで、」
「御馳走様」
 それで手を打って食べていかないか、と、尋ねる前に。
 これもこれで、いつも通りの流れである。

 ウチのソファーがお気に入りのようで、ゴロゴロとくつろぐ霧切さん。
 適当にチャンネルを変えては、気に入る番組がないのか唸っている。
 僕としてはさっきのドキュメンタリーでも見たいのだが、生憎現在リモコンの主は霧切さんだ。
 どちらにせよ料理中だし、しばらくはテレビに霧切さんの相手を任せよう。

「そういえば…苗木が」
「へ?」

 唐突に名前を呼び捨てられて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
 驚いて振り向けば、彼女もまた驚いたようにこちらを見ていて、それから急に吹き出した。

「ふふっ…違うの、あなたのことじゃなくて…でも、そういえばあなたも『苗木』だったわね」
「…正真正銘、本物の苗木誠だけど」
「ゴメンなさい、馬鹿にしようとしたわけじゃないのよ。昨日事務所からの帰りにね…」
 彼女が言うには、よく通る商店街の花屋で、牡丹の苗木を見かけたらしい。
 一緒に売られていた花瓶もきれいで、思わず衝動買いしそうになったとのことだ。
「衝動買い好きだよね、霧切さん」
「自分の欲望に正直に生きるのよ、私は」

 歌うように言ったその言葉を、僕は感慨深く聞いていた。

 かつて、学園に共に通っていた頃。
 彼女はまるで、欲望や好奇心を押し殺したように生きていた。
 見ているこっちまで息苦しくて、どうにかして素直になってほしくて。
 良くも悪くも、今は見る影もない。

『もともと私生活はだらしないのよ…私は』
 初めて彼女の部屋を訪れた時、少しだけ恥ずかしそうに、そう言われたのを覚えている。
『あなたは私を、その…何でも出来るような堅苦しい優等生、くらいに思っているかもしれないけど』
 少しくらい欠点がある方が、親近感も湧く。
 そう思っていられたのは、最初の数か月だけだったなぁ…。
[ダンガンロンパ]霧切響子の正体はカップ麺の妖精Part6
774 :大人ナエギリ花札編[sage]:2011/12/10(土) 01:50:24.16 ID:UxxCpWgp
「最近、仕事帰りにあなたの家に寄るのが日課になってしまっているわ…」
「夕飯作る時間もないんでしょ? 事前に連絡あれば、一人分も二人分も作るのに大差ないし」
「そうやってあなたが甘やかすから、私はどんどんつけあがるのよ…」
 自覚はあるようだ。

 もともとだらしない、と、彼女は言った。
 公私の区別をはっきりと分けているから、悟られないだけだ、と。
 それなら、だらしない一面を僕に見せてくれているということは、
 僕は霧切さんの『私』の中に勘定されていると、考えてもいいのだろうか。

「ま、それならこれも…一種の特権かな、なんて」
「…特権?」
「だらしない霧切さんのお世話をさせてもらえる権利。人によってはご褒美かもね」
「……」
 無言の抗議と共にソファーから飛んできたゴミを軽くかわして。
 ソファーの向こう、おそらく少し拗ねている顔を想像して、思わず頬が緩む。

 いつも凛として佇む彼女。
 決して無理をしているワケじゃないだろうけど。
 その苦労や、背負ってきた信念を、僕は知っているつもりだ。
 だから僕の家に来ている時くらいは、羽を伸ばしてほしい。

 大根、玉葱、人参、蒟蒻、じゃが芋に油揚げ。
 奮発したバラ肉を大きく切り、沸騰させて灰汁を取ったら、隠し味の酒粕も。
 豊富な具材が、栄養が、温かさが。
 明日からの彼女を助けるエネルギーになってくれますように。

「それで、結局買わなかったの?」
 手休めついでに、『苗木』の行方を聞いてみる。
「予算は問題なかったけれど、置く場所に困りそうだし…思い留まったわ」
「ああ…それに、出張中は手入れ出来ないしね。残念」

 『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』。
 牡丹は美人の形容の代表句でもある。

 彼女の家に、苗木が飾られている光景を想像する。
 白い部屋に美女一人、牡丹一輪。
 なかなか絵になるな、と、ぼんやり感じ入っていると、

「…苗木君、お腹空いたわ」
 唐突に、すたすたとジーンズ姿の霧切さんが台所に上がり、そのまま冷蔵庫を漁る。
「待って、今作ってるから」
「待てない。…あら、卵の燻製があるじゃない」
 僕の言葉も待たずに、暴君はビールを片手に卵のパックを開ける。

 うん、美女には違いないんだけど。
 あの諺が示すような大和撫子からは、程遠い存在かもしれない。

「…『立てば酒持ち、座ればご飯、歩く我が家の女食客』ってところかな」
「…ちょっと。それ、誰のこと?」
 耳疾く聞きつけた霧切さんの追及の視線を逃れつつ、僕は豚汁の味を見た。
 牡丹鍋よりも、彼女は気に入ってくれるだろうか。
[ダンガンロンパ]霧切響子の正体はカップ麺の妖精Part6
775 :大人ナエギリ花札編[sage]:2011/12/10(土) 01:51:00.80 ID:UxxCpWgp
話ぶった切ってスマン
でもあと二回ぐらい残ってるかも スマン


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