- 【ダンガンロンパ】舞園さやかは真ヒロイン ステージ2【アイドル】
627 :>>611続き[sage]:2011/11/08(火) 02:49:39.71 ID:N1GxpX+w - ―――――
思ったよりも大きくて、あったかい背中に運ばれたことを、断片的に覚えている。 雨はいつの間にか止んでいて、止んだと思ったらそこは屋内で。 誰かに服を脱がされて、タオルで濡れた体を拭いてもらって、 気づけば私はベッドの上で横たわっていた。 遠くに聞こえる声がだんだん近くなり、意識の覚醒を自覚する。 ベッドの側で、誰かが話しているのが分かる。 意識がはっきりした後も、気だるさからまぶたを開ける気にはなれなかった。 「あんたさぁ…途中で気付けなかったの?」 「…ごめん、なさい」 尖った高い声は、江ノ島さんが怒っているときのものだった。 苗木君のしゅんとした顔が、見てもいないのに目に浮かぶ。 「アイドルとデート気取って、いい気になってたのか知らないけどさぁ…」 「……」 「舞園の体になんかあったら、責任取れるわけ?」 ああ、やめて、江ノ島さん。 苗木君のせいじゃないんです。 私が勝手についていって、喫茶店に誘ったのも私なんです。 傘が無いから走ろうって、無理を通したのも。 「…責めすぎよ、江ノ島さん」 対照的に、感情の一切籠らない声。 主はきっと、霧切さんだろう。 「土砂降りの予測なんて、誰にも出来ないでしょう…」 「雨以前の問題だっつーの…38度5分。様子がおかしいのなんて、フツー見りゃ分かるっしょ?」 「女の子の体の問題よ…苗木君が詳しくないのも、無理はないわ」 霧切さんの言葉で、ハッとして今日の日付を思い出す。 確か最後に来たのは一月前だから、…… 納得。
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628 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/11/08(火) 02:50:31.93 ID:N1GxpX+w -
「生理中の女子を無理させて振り回して、冷たい雨に晒させて…それでも男? ちゃんとアレ、着いてんの?」 「……下品よ、江ノ島さん」 意味を理解した霧切さんも大概だなぁ、と思いつつ。 「…ごめんなさい」 「……はぁ。さっきからウチらに謝ってどうすんのよ。舞園が起きたら、ちゃんと誠意見せな」 「うん…」 今すぐ起き上がって、苗木君の弁解をしたかった。 でも、ここで起きれば、きっと苗木君は総スカンだ。 しばらく寝たふりをしておこう。 「それにしても、驚かされたわ。あなたが舞園さんを背負って駆けこんだときは」 「……煩くして、ゴメン」 「…別に、私は構わないけれど」 「どの口が言ってんのよ。帰ってくるなり苗木の頬、引っ叩いたクセに」 …あとで、霧切さんとは長めのお話が必要なようだ。 「し、しょうがないでしょう…あんな二人の姿を見せられたら」 「まー、舞園は半分裸みたいなもんだったからねー」 「……その、ゴメンなさい、苗木君」 「ううん。紛らわしくしちゃったのは僕の方だし」 「で、霧切っちは…息の荒い苗木とほぼ下着姿の舞園を見て、何を想像したんかなぁ?」 「……趣味が悪いわよ」 「うぷぷ、霧切ってば真っ赤だったもんねー。想像力が健全に働いている証拠ぶふっ!?」 スパン、という小気味よい音がして、江ノ島さんが呻いた。 「苗木君。私たちは部屋に戻るわ。何かあったら、また呼んで」 「な、殴ることなくない!? ねえ、ちょっと!」 扉の開く音、二人が遠ざかる音。 もう一度扉がカラカラと音を立てて、部屋の中に静寂が取り残された。
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629 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/11/08(火) 02:51:14.04 ID:N1GxpX+w -
全て、分かった。 自分の中にある、いやらしい感情を抑えきれなかったのも。 まるで熱に浮かされたように、ふわふわしていたのも。 今日が女の子の日だということを、完全に失念していた。 その挙句が、これだ。 苗木君を振り回し、淫らな雌を曝け出し、そして彼ばかり怒られて。 合わせる顔が、ない。 ない、のに。 「……ゴメン、舞園さん」 そんな、あなたの辛そうな声を聞いて黙っていられるほど、無神経にはなれない。 「僕、浮かれてたんだ…あの憧れだったアイドルと、まさか二人きりでデート出来るなんて思わなくて…」 声からして、苗木君は私に背を向けて独白している。 きっと、私が既に起きていることなんて気付いていないだろう。 「だから、舞園さんの様子がおかしいのも気付けなくて…今思い返せば、簡単に気づけたはずなのに」 大分、江ノ島さんの説教で落ち込んでしまっている。 苗木君は本当は悪くないのに、自分のせいだと思い込んでしまっている。 起きなきゃ。 まだ体はだるいし、頭もズキズキするけれど。 好きな男の子が辛そうにしているのに、放っておけるはずがない。 男を立てるのが、良い女の条件なんだから。 そうして、言うことをきかない体に無理矢理力を込めて、 「でも…それだけじゃないんだ」 彼の独白が、まだ続いていることに気づく。 「僕が一番、自分自身を許せないのは…」
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630 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/11/08(火) 02:52:15.27 ID:N1GxpX+w -
「――あの時、舞園さんを見て、僕は、その……いやらしい気持ちになったんだ」 ボ、と、音を立てて顔が燃える心地がした。 苗木君の口から、そんな言葉が出てくるなんて予想していなかった。 まるで、清楚だと信じていたアイドルの、ベッドシーンを見せつけられたような。 そんな背徳的な響きだった。 「すごく、ドキドキして…でも、なんか怖くて」 ドキドキして、だなんてこっちのセリフだ。 こんな至近距離で、そんな爆弾告白される身にもなってほしい。 いや、そりゃ、嫌ではないけれど。 好きな人にそう告白されて、嫌な気持ちになったりはしないけれど、 嫌じゃないけど、ちょっと、これは、 あ、なんかすごい暑い。 汗かいてきた。 心臓がうるさい。 たぶん、今の私、顔が真っ赤だ。 私がいやらしい気持ちになったときに、苗木君も同じ―― 「怖かったんだ、舞園さんが」 次の言葉は、 浮かれていた私の頭の中に、まるで鉛のようにドスン、と落ちてきた。 「服が濡れてて、すごく色っぽくて、ドキドキして、それでも……怖くて、手は出せなかったんだ」
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631 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/11/08(火) 02:53:08.42 ID:N1GxpX+w -
勘違いでふわふわと浮かんでいた気持ちが、真っ逆さまに地面に叩き落とされた。 一気に汗が引いていった。 「そんな僕の考えも、きっと舞園さんには見透かされているんだろうな、って思うと…」 怖い。 私が? 怖い? そんな、待って。 確かに私は、面白がって苗木君の考えを先読みして、その反応を楽しんで、 でも、私は一度たりとも、あなたを怖がらせたことなんて、 そんな言い訳じみた考えが頭の中に浮かぶ。 けれど。 私は、その言い訳をも否定せざるを得なかった。 『独占欲の強い女は引かれますわよ、と申し上げたのです』 そうだ。ちょうど今朝、セレスさんと話して。 彼女に考えを見透かされて、怖い思いをしたのは、他でもない私じゃないか。 考えていることを読まれるのは、怖い。 私が一番よく知っていたはずじゃないか。 心の中を読まれるのは、怖い。 嘘をつけないのは、怖い。 本音を見透かされてしまうのは、怖い。 私は、私は―― そんな怖ろしいことを、今まで苗木君にしていたんだ…
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632 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/11/08(火) 02:54:57.69 ID:N1GxpX+w -
急に、胸が苦しくなった。 熱に侵されていたさっきまでの、何倍も苦しかった。 上手く息が吸えなくなった。 下手に口を開くと、情けない喘ぎが漏れてしまいそうで、必死に息をとめた。 目元が熱くなる。 泣いちゃダメだ。 私のせいじゃないか。 私が苗木君を怖がらせたのに、苗木君にとって嫌なことをずっとしてきたのに、 泣く権利なんて、無い。 瞼に力を込めて、必死に落涙を堪える。 「……、っ、ぅ…」 堪え切れなくなった息が、震えて口の端から零れる。 ガタ、と、隣の椅子が揺れる音。 「舞園さん…もしかして、起きてる?」 「……バレちゃいましたか」 もう、隠す必要はない。 悪戯っぽい笑みを浮かべて、私はベッドから起き上がった。 閉じていた瞼が、急な光の刺激を受けて、しょぼしょぼと開く。 瞬きを繰り返す瞳が、見るからに焦っている苗木君を捉え始める。 少しだけ睫毛が濡れているけれど、寝起きだから、とアピールするように、欠伸をして見せた。 「う、わ…もしかして、全部…」 「…聞いてました。苗木君が、その…私を見て、そういう気分になったって」
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633 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/11/08(火) 02:56:07.95 ID:N1GxpX+w -
真っ赤に、そして真っ青に。 めまぐるしく、彼の表情が変わる。 「苗木君、やっぱりエッチです…」 口をすぼめて、冗談っぽく言う。 それが、私と彼との合図だった。 『私はあなたを怨んでいない、だから安心して』。 顔を上げた苗木君は、やっぱり少しだけ安心したような顔をして見せ、 「舞園さん…泣いてる…?」 「――え」 ヒィン、と、空気が音を立てて凍った。 うそ、と、頬の辺りに手を触れてみる。 涙は既に止まっていたけれど、寝ている間に零れたものが、うっすらと筋を残していた。 「あ、ち、違うんです、これは…」 苗木君が首を傾げる。 当たり前だ、文脈からは私の泣いていた理由なんてわかりっこない。 好きな人に、怖い女と言われた。 それだけで涙を流すだなんて、誰も思わないだろう。 もう、止めよう。 私は彼に関わっちゃ、いけなかったんだ。 街を歩けば、彼を好奇の目に晒し。 口を開けば、彼の考えを覗きこみ。 無理を言って連れまわし、雨風に晒させ、他の女の子から謂れもない罵倒を浴びて。 熱で浮かされ、感情的になった頭は。 少しオーバーに、そんなことを考えた。 溜めこんできた思いを溶かした涙は、涸れた跡にすら熱を残していた。
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- 【ダンガンロンパ】舞園さやかは真ヒロイン ステージ2【アイドル】
634 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/11/08(火) 02:58:04.41 ID:N1GxpX+w - 書き溜めてたデータが何故か消し飛んでしまって、ちょっと放置してました
次でこそ終わるので、もう数レス使わせてください
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