- 【源泉の感情】平岡公威・三島由紀夫の詩♭♯♪
306 :名無しさん@お腹いっぱい。[]:2011/09/14(水) 13:58:33.86 ID:AxenzOtS - 私の子供時代はそんなものであつた。そしてさういふ、さびしい極彩色の日本人の生活を私はなつかしむ。
家のどこかでは必ず女がこつそりと泣いてゐた。祖母も、母も、叔母も、姉も、女中も。そして子供に涙を 見られると、あわてて微笑に涙を隠すのだつた。私は女たちがいつも泣いてゐた時代をすばらしいと思ふのである! しかし泣いてゐた女たちの怨念は、今のやうな、いたるところで女がゲラゲラ高笑ひをし、歯をむき出してゐる時代を 現出した。むかしの女の幽霊は、さびしげに柳のかげからあらはれ、めんめんと愚痴をこぼしたが、今の女の幽霊は、 横尾忠則の絵にあるやうな裸一貫の赤鬼になつて跋扈してゐる。うわア怖い! ……私は一体何を語らうとしてゐたのだらう。私は横尾忠則について語らうとしてゐた筈だ。しかし、私は別事を 語りながら、すでに彼についてすべてを語つてしまつたやうな気がしてゐる。少くともその根元的なものすべてを。 三島由紀夫「ポップコーンの心霊術――横尾忠則論」より
|