- 【源泉の感情】平岡公威・三島由紀夫の詩♭♯♪
231 :名無しさん@お腹いっぱい。[]:2011/03/30(水) 11:29:30.31 ID:wqUMQeCR - お葉書うれしくありがたく拝見いたしました。(中略)
久々のお便りに愚痴もいかゞかと存じますが、東京のあわたゞしい生活の中で、高い精神を見失ふまいと努めることは、 プールの飛込台の上で星を眺めてゐるやうなものです。といふと妙なたとへですが、星に気をとられてゐては、 美しいフォームでとびこむことができず、足もとは乱れ、そして星なぞに目もくれない人々におくれをとることに なるのです。夕刻のプールの周辺に集まつた観客たちは、選手の目に映る星の光など見てくれません。 たゞかれらの目に美しくみえるフォームでとびこんでくれることを要求するのです。 『私が第一行を起すのは絶体絶命のあきらめの果てである。つまり、よいものが書きたいとの思ひを、あきらめて 棄ててかかるのである』川端康成氏にかつてこのやうな烈しい告白を云はせたものが何であるかだんだん わかつてまゐりました。しかも川端氏のやうなこの一言が云へる境地に、一体達することができるかしら、と たへず不安に見舞はれます。 三島由紀夫 昭和23年3月23日、伊東静雄ヘの書簡より
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- 【源泉の感情】平岡公威・三島由紀夫の詩♭♯♪
232 :名無しさん@お腹いっぱい。[]:2011/03/30(水) 11:30:06.22 ID:wqUMQeCR - 東京では印象批評が滅び去りました。たとへば中里恒子や北畠八穂のやうな美しい女流作家が不遇です。
川端康成氏が評壇から完全に黙殺され、日夏耿之介氏はますます「枯坐」して化石してしまひさうです。 横光利一氏の死に対してあらゆる非礼と冒涜がつづけられてゐます。私の愛するものがそろひもそろつて このやうに踏み躙られてゐる場所でどうしてのびのびと呼吸をすることなどできませう。 斎田君も今の東京で仕事をすれば苦しむことがわかつてゐます。美しいものが美しい故に死刑に処せられるのです。 三島由紀夫 昭和23年3月23日、伊東静雄ヘの書簡より
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- 【源泉の感情】平岡公威・三島由紀夫の詩♭♯♪
233 :名無しさん@お腹いっぱい。[]:2011/03/30(水) 11:30:32.15 ID:wqUMQeCR - (中略)
ギロチンへみちびく民衆は笑はない民衆です。おそろしくシリアスな、ニイチェ的笑ひとおそろしく無縁の民衆です。 共産党系の雑誌や新聞に出てゐる漫画は笑ひを凍らせます。かれらはデスマスクをかぶつた民衆です。 美の死刑執行人であるといふ自負すらもちえない精神です。 銀蠅が芥箱から出てきてそこらをとびまはつてゐます。ブンブンといひて夜もねられず、といふところでせうが ――かれらは「海」とは無縁の精神です。蠅は海のまへで引返します。かれらは翼をもたないくせに翅(はね)を 翼だと思つてゐるのです。(中略) ――たゞ一意専念、あの未知の国から一条の光をこの地上へもたらせば私の仕事はすみます。 どうぞ時々お暇な折に励ましの御言葉をいたゞきたうございます。詩人に対し要求することは罪であると知りつゝ、 敢て(「要求」とは失礼ながら)お願ひいたす次第でございます。 三島由紀夫 昭和23年3月23日、伊東静雄ヘの書簡より
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