- 【源泉の感情】平岡公威・三島由紀夫の詩♭♯♪
198 :名無しさん@お腹いっぱい。[]:2011/03/01(火) 10:52:24.60 ID:yCuiKiCW - (中略)
僕は近松に近代文学特有の不安と衰弱の心理とは別の、もつと張りのある活々とした心理を見出だして愕きました。 以前読んだ時にはそれほど切実に感じられはしませんでしたのに。――近松の心中物は明らかにデカダンスの 作物ではなく文化の創生期にあらはれる溌溂たる悲劇の精神でした。そこには訝られるほどあらたかな古代が 生きてゐました。生活のなかに悲劇的なものが漲つて、しかも些かの暗さもありませんでした。近松の人物たちは 愛といふ運命の厳しさを耀かすためにさまざまな日常の喜怒哀楽を見事に様式化してしまつてゐるのです。 そこには篩ひつくされた砂金のやうに、心の真実がわるびれず天日の下にかゞやいてゐます。封建的感情とそれを 呼び做すのは容易な業ですが、正しい史眼といふものはさうあつてはなりますまい。封建制創生期の人々が、 生活のなかにまだ活々とうごいてゐる道徳規範と対決し、それを悲劇の高まりに漲る清澄な心の真実に還元し、 死を媒介として生の洵の意味を知らうと試みる健康なきはめて常識的でさへある生き方をするのを見る時、 現代の貧しさを思はぬ人がありませうか。…… 平岡公威(三島由紀夫)22歳「M・H氏への手紙――人類の将来と詩人の運命」より
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