- 【源泉の感情】平岡公威・三島由紀夫の詩♭♯♪
165 :名無しさん@お腹いっぱい。[]:2011/02/02(水) 14:54:32 ID:okfHshB1 - (中略)
僕らは薔薇の花に背をむけるとき、その背の向け方から学ばねばなりません。季節がめぐるのは、――夏の最後の 光輝をつんざいて黒々とした葉につゝまれた樫が、はや初菊の薫りをはこんでくる雲のゆきかひに、荘厳に身を ふるはす刹那のやうに――、花々の饗宴のあとに豊かな収穫の秋が訪れ、やがて連峯の頂きをめぐつて白雪の かゞやきが日ましにひろくなつてゆくのは、一つの礼節なのであります。知恵にみちた、ふしぎなやさしさに みちた礼節でありました。かうした礼節のひそかな正しい愛を僕らには測らう術もありませんでした。ある確かな 領域を占めてゐるのに測られぬ物事があるものです。そこでは測られると云ふさへ、可能の意味ではないのでした。 信ずるといふ尺度によつてのみ正確な度数を示して測られる物事があるものです。そのとき信ずるといふこのことは 物差でさへないのでした。触れて来るものをみなその内へとりこんでしまふやうな明澄さ。快晴の内部。僕らは 内部へ陥ちてくるものゝみを信じようとして、その内部自らのおほきな陥没について知りませんでした。 平岡公威(三島由紀夫)19歳「廃墟の朝」より
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