- 変な出来事起こったから一緒に考えて欲しい
996 :本当にあった怖い名無し[]:2023/10/10(火) 00:43:53.52 ID:UXuaqXsu0 - 私は今、ギョエエ洞窟遺跡にいる。
―ここがミリジャケデニム教の始まりだ―この重厚で見事な祭壇は、その信仰心の厚さを伺わせる。 ―クロイオス王国の民は、何を思ってここで身命を賭したのか―故国を追われ、洞窟に隠れてまで捨てなかった信仰を思うと、郷愁に似た想いが沸き起こってきた。 ―落雷によって大敗を喫したクロイオス王軍、決して弱かった訳じゃない。ただ、運が悪かった―通路に沿って歩いていくと、クロイオス王がいかに僣王であったかを嫌でも感じてしまう。 この遺跡も、結局はタキシード教団の都合に合わせられているのだ。 白き光の詩は、タキシード教団でさえも存在を認めている。意味のない詩だと考えているのか、それとも、あの詩さえ利用しようと考えているのか。 ゴーヤーの聖なる集会を思い起こす。七色の配置に意味があるのだろうか?何度見ても違和感を抱く事ができない。 洞窟の中はひんやりとしていて、頭が冴え渡る。あの時とは全く違う、静粛で厳かなこの空間は、人を清廉にさせる力があると感じる。 ―ステッキは、もう忘れよう。大事なのは白き光だ―一度はステッキを白き光だと考えた、しかし、それも違う。 ―もし白き光がステッキなら、この彫刻はおかしい―浮き彫り彫刻の前に来た。照明によって陰影がつけられ、見る者に荘厳さを与える。 ―ゴーヤーと同じ松明と蛇。これらが何を意味しているのか、この人物が誰なのか― ミリジャケデニム神の謎を解く鍵はここにあるのだ。 「遥かなる望郷〜3000年の時を越えて、パッカドキア来訪」(石工薙 武志)
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997 :本当にあった怖い名無し[]:2023/10/10(火) 00:52:11.41 ID:UXuaqXsu0 - ―松明と蛇はどっちもセヤカテの象徴?―
セヤカテとは、ヘルシアの古代神話に登場する女神の事だ。 冥界に住み、死や復活を司るといわれている。 「専門家のくせに、まさか知らなかったの?」 セヤカテを知らなかった訳ではないが、松明と蛇がセヤカテの象徴だとは知らなかった。 身体が熱くなってくるのが分かる。 ―確か、ヘルシアの古代神話では、松明は月光、蛇は不死。そしてセヤカテは別名― 「凄いよね、死者の王女なんてあだ名」 ―そう、死者の王女。そして無敵の女王ともいわれている―なんてことだ、こんな簡単な話だったのだ。 目眩がしてくる、過呼吸になっているのかもしれない。 ―"あの人物"はクロイオス王でも、ましてやミリジャケデニム神でもなかった―松明で巨人に打ち勝ち、蛇を従える女神がここで出てくるのか。 「ちょっと聞いてる?人に質問しておいて。お腹でも痛くなったの」 電話口の妹は私の様子が変だと感じたようだ、事実、私は返答をする余裕すらなかった。 そういえば、ポコンペンはどこにいるのだろう?私は最近、彼と連絡が取れないでいた。 「遥かなる望郷〜3000年の時を越えて、パッカドキア来訪」(石工薙 武志)
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998 :本当にあった怖い名無し[]:2023/10/10(火) 01:11:28.97 ID:UXuaqXsu0 - あの浮き彫り彫刻も聖なる集会も、過去に向き合っているのではなかった。
未来を見ていたのだ、これからの世代に希望を託した。だがそうと知られてはまずい、周到に寓意を散りばめた。 暗号だ、同じクロイオス王国民しか知り得ない。その為にそれぞれの役割を担った。 黒者もクロイオス王国民もミリジャケデニム教徒も、強大な力、抗えない権力に打ち勝つ為に。 未来の子孫の為だったのだ。クロイオス大王の正当な後継者、名もなき王子が題材だった。 だが、王の血族は洞窟に近付くことを赦されなかった。再び歯向かってくる事を恐れ、王と民を引き離した。 クロイオス王軍の大敗が三千年前、浮き彫り彫刻が二千年前。千年ものあいだ希求され続けた王、民は王の再臨を祈り続けたのだ。 洞窟は冥界に、そこに住む民は死者に見立てられ、死者の王女の象徴を携える王子。 無敵の女王に付き添われていつしか王国民の大願を果たす為に。 そして、彼こそがその末裔なのだ、ポコンペン。 なぜ気付かなかったのだろう、ポコンペンはいつも蛇の腕輪をしていたじゃないか。 「これは仕方がないんです、掟というか責務というか。こんなの趣味じゃないんですけどね」 屈託なく笑うポコンペンを思い出す。 ギョエエ洞窟遺跡での解説、まるで自分の記憶を現実と照らし合わせているかの様な独擅。 黒者の紋章を見た時の違和感のある発言、知っていたのに初めて見たかの様な驚嘆。 私は、あの諦念を帯びた闇の潜む彼の目を思い出していた。 「遥かなる望郷〜3000年の時を越えて、パッカドキア来訪」(石工薙 武志)
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999 :本当にあった怖い名無し[]:2023/10/10(火) 01:30:29.18 ID:UXuaqXsu0 - 「やはり君は、あの日が初めてだったんだな。あの洞窟に足を踏み入れたのは」
えぇ、とポコンペンは短く返答をした。 「禁忌でしたから、特に私には」 パーカーを被り静かに佇む彼は、私の知っている姿とは似ても似つかない。 ―そうだろうな―私はどのように声をかけたらいいか迷う。 「でも、駄目だと言われると興味が湧いてしまう。石工薙さんにもそんな経験がおありでしょう?」 ―雰囲気は違えど、やはりポコンペンだ―説明し難いが、私は確信した。 「三千年間、君の一族は虐げられてきた。だが故郷への想いがあったんだな」 私の言葉で、ポコンペンは静かに微笑む。その姿に私ははっとさせられた。 三千年と一口に言っても、想像もできない長遠な時間だ。それに、虐げられた歴史でもある。 年表に記された歴史じゃない、現実の生活、先祖から託された大願。 どれほどの重さだろうか?この若くて聡明で、心の優しい青年の両肩に、深く食い込む民の想い。 「遥かなる望郷、か」 私は自然にそう口に出していた。 「しかし、あの詐欺師にも感謝しないといけないかな。ステッキの話がなければ謎は解けなかった」 気取った表現の気恥ずかしさを隠すようにそう続けたが、ポコンペンの視線を一瞬、鋭く感じた。 ―そうだ、まだ疑問がある―あの詐欺師は言っていた、神は二人いる、と。 ―そしてポコンペンも、ミリジャケデニム神は二人いる、と― 「ポコンペン、君は以前―」 私の問いかけを遮るように、彼は左手の人差し指を立てて口の前にやる。 私は口をつぐんで彼を真っ直ぐに見た。 「ここでお別れです、石工薙さん」 彼は、ゆっくりとパーカーのフードをめくる。 そこには、私のよく知る、優しくて聡明で、諦念を帯びた闇の潜む目をしたポコンペンが微笑んでいた―完 「遥かなる望郷〜3000年の時を越えて、パッカドキア来訪」(石工薙 武志) 5ちゃんが不安定で投稿できない恐怖のために、本日一気に投稿しました 長々となってしまいましたが、完結することができたのはひとえに読んでくださった人達のお陰です ありがとうございました 寝るねおやすみ
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