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本当にあった怖い名無し
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?364

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死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?364
484 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:13:56.56 ID:5sOjcK6q0
夢でよく見るおっさんの話なんだが。

俺には昔から何度も見る夢があった。
季節はいつも同じで夏。毎年、つーか1年に何回か行ってた田舎のばあちゃんちの畑で収穫の手伝いをさせられる所から始まる。
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485 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:14:38.91 ID:5sOjcK6q0
ばあちゃん死んでからもう何年も帰ってないから記憶が朧気なんだが、俺は子供の頃、ばあちゃん家に行くとよく近所の子供たちと家の畑仕事の手伝いをさせらていた。
そいつらの顔はもうよく思い出せなかいんだが、結構ヤンチャっぽい所のある悪ガキみたいな奴らだったと思う。
夢の中でも同じでそいつらはデカい声でガーガー話しながら農作業をしている。俺もそれなりにふざけたり、冗談言ったりしながら手を動かして収穫だの草刈りだのする。
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486 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:15:12.78 ID:5sOjcK6q0
でもここで1人、現実の記憶ではいなかったやつがいる。
それがおっさんだった。
おっさんは50〜60くらいの年齢で、凄い痩せてる。ガリガリで目の辺りの骨が窪んでるんだけど、眼球だけがやけにでかくてロンパってて、睫毛も女みたいに長い。あばら骨が浮き上がってて足もちっちゃい子供みたいに細いのに、腹だけが不自然にポコンと出てる。ハゲてるんだけど、妙に長い髪が数本垂れてて頭全体がどことなく湿ってた。身長は高いが、身なりは不潔そのもので何年も洗ってなさそうな汚い服を着ていた。言い方は悪いがホームレスだとか浮浪者という言葉がひと目で浮かぶ見た目をしている。
頭のてっぺんからつま先まで気色の悪い男だった。
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487 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:15:39.68 ID:5sOjcK6q0
だが、俺が最もおっさんに嫌悪を感じるのは彼の体臭だった。
このおっさんは特に意味のある言葉は喋れなくて、赤ちゃんみたいにヨダレを垂らしてオッオッとかギィィギィィとか言ってるだけなんだが、意思は通じるみたいで俺たちが談笑していると会話に入ってこようとして顔を近づけてくる。
その時に鼻の奥を刺激するこのおっさんの肌の香りが、俺には耐えられないほどの悪臭に感じられた。
垢と皮脂脂とベタベタした髪と、おしっこと汗の匂い。
近くに寄られるだけで涙が出てくるほど吐き気がして逃げ出したくなるくらい嫌な匂いだった。
だのにおっさんは俺の顔のすぐ傍でキス出来そうなくらい近づいてヘラヘラ笑ってる。
俺が面白いこと言った後なんかに周りの奴らが笑ってるの見て真似するみたいに笑うんだが、それがなんというか、1拍ズレててやけにデカい声で笑うもんだから俺も冷めるし周りも引いちゃう。
わかるかなぁ。友だちにそういうやついない?いつもボソボソ喋って変な所で謎に我の強い陰キャなんだけど、たまに「いやそこじゃないだろ」ってタイミングでどデカい声で大爆笑して空気壊すやつ。
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488 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:16:20.17 ID:5sOjcK6q0
俺は現実でそういうやついても全然気にしないし、悪感情も特に抱いたことがないんだが、このおっさんだけはどうにもゾッとして見ていてみっともなくて恥ずかしくなった。
とにかく俺たちはそのおっさんを完璧に無視してくっちゃべりながら作業してるんだけど、やっぱり途中で飽きて近所の沼に行くことになる。
この沼は本当にばあちゃんちの近くにあるんだけど、すげえ汚くて緑のヘドロみたいなのがいっぱい浮いてる狭いやつだった。
夢の沼も汚いのは同じなんだけど、現実のよりよっぽど深くて広かった。
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489 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:18:28.69 ID:5sOjcK6q0
俺は現実でそういうやついても全然気にしないし、悪感情も特に抱いたことがないんだが、このおっさんだけはどうにもゾッとして見ていてみっともなくて恥ずかしくなった。
とにかく俺たちはそのおっさんを完璧に無視してくっちゃべりながら作業してるんだけど、やっぱり途中で飽きて近所の沼に行くことになる。
この沼は本当にばあちゃんちの近くにあるんだけど、すげえ汚くて緑のヘドロみたいなのがいっぱい浮いてる狭いやつだった。
夢の沼も汚いのは同じなんだけど、現実のよりよっぽど深くて広かった。
そこで俺たちは沼に石投げて遊んでた。
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490 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:19:17.77 ID:5sOjcK6q0
そこで俺たちは沼に石投げて遊んでた。
そしたらおっさんはオッオッて言いながら俺らの手から石を奪い取ろうとした。
なんだよ、やめろよ、と言いながら石に触れられないように高くあげると、おっさんはまたオッオッて言いながら癇癪を起こして泣き始める。
おっさんは鼻水とヨダレと涙で顔をぐしょぐしょにして、俺たちから石を取ろうとすがりついてくる。
俺は爪に変な茶色っぽいようなゴミが挟まってるおっさんの不潔そうな手が肌に触れただけでゴキブリの詰まった便所に手を突っ込んだみたいな心地がして、背中にゾッとおぞけが走った。
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492 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:21:01.09 ID:5sOjcK6q0
そしたらおっさんはオッオッて言いながら俺らの手から石を奪い取ろうとした。
なんだよ、やめろよ、と言いながら石に触れられないように高くあげると、おっさんはまたオッオッて言いながら癇癪を起こして泣き始める。
おっさんは鼻水とヨダレと涙で顔をぐしょぐしょにして、俺たちから石を取ろうとすがりついてくる。
俺は爪に変な茶色っぽいようなゴミが挟まってるおっさんの不潔そうな手が肌に触れただけでゴキブリの詰まった便所に手を突っ込んだみたいな心地がして、背中にゾッとおぞけが走った。
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493 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:21:49.15 ID:5sOjcK6q0
一緒にいた連中も重ね重ね同じような反応でギャーギャー言いながら持っていた石を地面に捨てた。おっさんが触った石を触りたくなかったんだな。
で、おっさんはオッオッって言いながら喜んで石を沼に投げて俺たちの真似をして遊び始めた。
別に今更石を拾い直しておっさんと一緒に遊びたい訳じゃなかったけど、おっさんにこのまま遊び場を取られるのはちょっと癪だなと思った。
でも俺はこのおっさんにやり返してやるという気持ちはなかった。
気持ち悪いし、なんだかこのおっさんがあんまりにもみじめでどうしようもないくらいみっともない生き物なもんで、いじめる気にならなかったのだ。
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494 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:22:40.43 ID:5sOjcK6q0
だが、俺の周りにいたやつらはそうじゃなかったらしい。
そいつらは自分たちが持っていた丸くて白い皿みたいなものに3つ穴が空いただけのお面を沼の真ん中に投げた。
そんで、そのお面を指さしておっさんに取ってこいって命令する。取ってきたら一緒に遊んでやるからってな。
おっさんはもう喜んで、デロデロにヨダレ垂らして夢中になって沼に入ってく。
俺はすぐにやめるよう言った。親切心からではなく、単純におっさんがお面を拾ってきて一緒に遊ぶハメになるのが嫌だったからだ。
だが、おっさんは止まることなく泳いでいく。
沼は深く、おっさんは中心に近づくに連れてだんだんと頭が沈んでいった。
沼の中の泥だのヘドロだのがおっさんの口の中に入って汚かった。おっさんはギィィギィィって鳴きながらお面を目指す。
俺はおっさんを眺めながら、何故か心臓がバクバクと鼓動を打つのを感じた。
何かとんでもないことになる予感があった。
おっさんはなんとかめちゃくちゃに腕を動かしながら泳いで、お面まで辿り着く。
その時だ。一緒に見ていたやつらが一斉におっさんに石を投げ始めた。笑い声と共に石が宙を飛び交い、歓声があがる。
石はおっさんに当たり、おっさんは沼に沈んでく。
おれは必死になってやめさせようとしていた。
こんなことがばあちゃんに知られたら死ぬほど怒られるだろうっていうのもあったけど、やっぱり1番の理由はおっさんが可哀想になっちまったからだった。
俺はおっさんを心から嫌悪していたが、それはなにもおっさんに非があるからではなかった。
俺はおっさんに嫌がらせをされた訳でも、親を殺された訳でも、故郷を焼かれた訳でもない。俺がおっさんを嫌いなのは、おっさんの存在そのものであり、彼自体にはなんの罪もなく、まったくもって無害で悪いことなぞ1つもしていないのだ。
おっさんは俺にとって許せないほど気持ち悪いだけだった。
俺はそんなごく個人的かつ自己中心的な考えで1人の人間を見殺しにしようとしている。
その事実が恐ろしかった。
結局俺はすっかり怯えきってウッウッと哀れっぽく涙を流すおっさんを抱えて沼から助け出してしまう。
そこからおっさんは俺にベッタリと懐き、片時も離れることが無くなった。
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495 :本当にあった怖い名無し[]:2021/10/14(木) 00:23:09.70 ID:5sOjcK6q0
俺はそんなおっさんに強く当たることが出来なかった。おっさんは悪人ではないからだ。少し気を抜けばすぐにでも振り払ってゲロ吐きながら逃げていってしまいそうになるのを抑えて、俺はおっさんを連れて自分の家に帰った。
両親なら、一人息子に寄生するこの頭のイカれた気持ちの悪いおっさんの異常を糾弾してくれるのではないかと思った。
だが、ことはそう上手くは運ばなかった。両親は俺から話を聞いたあと、おっさんを見て、1度拾ったのならきちんと面倒を見なさいとだけ言ってそれ以来一切の干渉をしてこなくなった。
もう心底絶望したね。
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496 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:23:37.52 ID:5sOjcK6q0
俺はそれからおっさんと生活を共にすることになる。朝起きて飯食って歯磨いて学校に行って、日常を過ごす間、おっさんは常に俺の腕に絡みついていた。
同級生はおっさんを連れた俺からだんだん距離を取るようになり、俺がどんなに助けを求めても、1度拾っちまったんなら仕方ねえよとしか言ってくれない。
おっさんの鼻息が頬に当たり、ピトッと汗をかき生ぬるく湿った汚い肌が俺の腕に触れる。四六時中鼻の奥にこびりつく悪臭が頭痛を引き起こさせる。
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497 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:24:05.34 ID:5sOjcK6q0
俺は限界だった。
急に奇声をあげたり、突然泣き出したりする以外は特段何もしていないせいで、俺はおっさんに罵声の1つも浴びせることが出来なかった。
俺はこの頃、おっさんが誰か人を襲ってしまうことを期待し始めていた。
おっさんが俺の友人や家族に手をあげれば、俺にはおっさんを排除する大義名分ができて、俺はこの生活から抜け出すことが出来るのではないか。いっその事、人でも殺したりなんかしてくれたら、俺はなんの不純もない正しい動機を持ってこのおっさんを殺すことが出来るのかもしれない。このおっさんを思いっきり蹴りつけても許されるのかもしれない。
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498 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:25:05.72 ID:5sOjcK6q0
一日中そんなことばかり考えていた。
なんの理由もなく、キモいだけで全く無害で哀れでこれ以上ないほどみっともない生き物を殺した俺を、家族や友人は一体どんな目で見るのだろう。
頭がおかしいと思うのだろうか。下劣な人間だと蔑むのだろうか。世間の人間は俺に対して一体どんな意見を持つのだろう。さぞかし立派な青天白日の真人間みたいな人々が散々っぱら俺の卑劣さをこき下ろすのだろうな。ロクデナシだと見下すのだろうな。
俺は恐ろしかった。
自分がこんなに身勝手で残忍な人間だとは思ってもみなかった。
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499 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:25:40.96 ID:5sOjcK6q0
俺はそれなりに人に親切に生きてきたつもりだった。
だのに俺はこの惨めなおっさんを心の底から殺してしまいたいと思っている。
嗚呼、あの時、あの沼であいつらがおっさんに石を投げた時、知らんぷりして畑の世話に戻っていたら!
おっさんは口に泥だのヘドロだの詰まらせて、あの深い沼にブクブク沈んでいっただろうに。俺が今脳天を掻きむしりたくなるほど苛まれているこの悩みは、全部まとめて綺麗に沼の奥底に眠っていただろうに。俺は自分がこんなにも嫌な人間だったと気づくこともなく、平穏に日々を過ごしていただろうに。
死んで欲しかった。切実に。
だが、俺は最後の最後でおっさんを殺すことを踏みとどまっていた。
自己保身ももちろんあったが、こんなにも無害かつ無能でなんの悪事も働けないみじめでみっともない男を殺すのは俺の僅かばかりの道徳心に反しているように感じられた。
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500 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:26:05.51 ID:5sOjcK6q0
しかし、やはり割り切れないものはある。
俺は鬱屈とした感情を抱えて自分のベッドに入った。
眠って、全部忘れてしまおうと思った。
だが、そんな時に限って妙に目が冴えて眠れない。
何度も寝返りを繰り返しているうちに、俺は自分以外誰もいない部屋に自分以外の人間の呼吸を感じた。
トットットッというハムスターみたいに弱い鼓動も聞こえた。ベタベタした嫌に湿った熱い息遣いが肌に触れていた。マットレスが、じんわりと誰かの体温であたたかかった。
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501 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:26:48.00 ID:5sOjcK6q0
俺はベッドから飛び起きてマットレスを滅茶苦茶に破った。
何故か俺の手にはハサミがあって、そのハサミで一生懸命必死になってマットレスに突き刺す。
中にはおっさんがいた。
真っ赤になって苦しそうにフッフッと息をしながら、俺の顔を見て嬉しそうにオッオッと鳴く、気色悪い男が俺のベッドの中で横たわっていた。
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502 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:27:19.64 ID:5sOjcK6q0
俺は全身に鳥肌が立って、そこからとんでもない怒りが押し寄せてきた。
今まで口に出したこともないような思いつく限りの汚い言葉でおっさんを罵ってデカい声で喚いた。
おっさんはポカンと俺を見ていた。
赤ちゃんみたいに無垢な目をしていた。数分前まで子宮に子宮を揺蕩っていた眼球をそのまま引っつけたみたいな目だった。
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503 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:27:51.71 ID:5sOjcK6q0
俺はおっさんが気持ち悪くて仕方なかった。ゾッとした。風呂に入ったみたいにびしょびしょに汗で湿った男の濡れた髪がピトッと腕に引っ付いて、俺は絶叫した。発狂しそうなほど気色悪くて毛根からドバッと汗が吹きでできたにも関わらず、振り上げたハサミをおっさんにぶっ刺すことも出来なくて、俺は号泣した。
殺したいのに殺してはいけない。我慢して、日常に戻らなければいけない。おっさんを右手に引っ連れてまたあの悪臭に脳を犯されなければいけない。あと何年この生活が続くのか。この男はいつになったら俺から離れるのか。大学に行って、恋人を作って、就職して、結婚して、子供が出来て…その過程を俺は一生この男を腕にぶら下げて過ごすことになるのだろうか。出会う人は皆、両親と同じように、1度拾ったのならきちんと面倒を見なさいと、そう俺に言うのだろうか。
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504 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:28:23.26 ID:5sOjcK6q0
俺は恐ろしくてたまらなかった。
俺は嗚咽をあげて泣き叫びながら、しゃがみ込んだ。
おっさんが視界に入らないように、膝を抱えて顔を隠して。
ほどなくしておっさんは俺の背中にピットリと張り付いてきた。
オッオッと言いながら、親指をしゃぶってヨダレを垂らして、俺の背中に。
ぞわりと全身の毛が逆立った。
俺はもう耐えられなくなって、触んなっつってんだよ!、と喚いた。
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505 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:29:21.05 ID:5sOjcK6q0
そのままおっさんを振り払う。
何も、傷つけようと思ってした訳じゃない。極々弱い力で、押し返すようにトンと振り払っただけだった。
だが、その弱い力でおっさんは転がり、床に頭を打ち付けた。
なぜだかその時、おっさんの頭は2倍以上の大きさにブヨブヨと膨れ上がっており、床にぶつかった瞬間、水風船でも割れるみたいに破裂した。
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506 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:29:58.57 ID:5sOjcK6q0
パン、と音がして、おっさんの頭からは大量の水が溢れてきた。
水はおっさんの体臭の比じゃないほど臭くて、古い油と腐った魚?みたいな匂いがした。
俺はもう涙が止まらなかった。
それはおっさんへの情や殺してしまったことを後悔する気持ちからでは決してなかった。
ただただこの臭さが目に染みて、おっさんへの嫌悪でクラクラと脳が茹だって涙が出ただけだった。
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507 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:30:28.99 ID:5sOjcK6q0
俺の胸を占めるのは、自分より遥かに格下の無害な生き物を殺してしまった罪悪感と、快感、安堵、そしてこれから自分が送ることになる人生に対する恐怖だった。
後ろ指を指されることになる。非難され、責め立てられ、俺は永遠に理解されぬまま、なんの罪もないおっさんを殺したクズ野郎として一生をすごすのだろう。
誰に言ってもきっと共感は得られない。殺したくなるほどキモいおっさんへの嫌悪は多分俺にしか分からない。俺を悪くないと言うやつは、おそらくこの世には存在しない。俺は弱い者をいたぶる卑怯者として扱われ、全人類が俺を嫌うのだろう。
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508 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:30:55.19 ID:5sOjcK6q0
俺は恐ろしくて、アホみたいに泣いた。
頭が痛くなるほど部屋が臭くて、鼻にこびりついた匂いは二度と忘れることが出来ないほどのおぞましさだった。
俺はあ゛━━━━━っと大声あげて泣いた。どうにもならない現実が恐ろしくて、今すぐ走って遠くに逃げてしまいたかった。
どこかこの臭いが追ってこなくなるくらい遠くに行って、1人で死んでしまいたくなった。
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509 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:31:17.29 ID:5sOjcK6q0
で、散々泣きに泣いて喚き散らした後で俺はやっとこさ目を覚ます。
毎回同じ流れなのに俺は何回この夢を見てもおっさんを助けるのを止められないし、どんな選択をしても最終的にはおっさんを殺してしまう。
あの吐き気を催すほど醜悪な臭いが、夢が終わった後でもかすかに鼻腔の奥に存在している。
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511 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:31:50.37 ID:5sOjcK6q0
俺は今でもよくこの夢を見る。
毎回夢でおっさんを殺した時と同じように号泣しながら起き、ベッドの中におっさんがいるような気がして壁に背中を押しつけて椅子に座ったまま眠る。
ソファーや他のベッドで眠ろうとしたこともあるが、やっぱり中からあの湿った息遣いがする気がして眠れなかった。
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512 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/14(木) 00:32:16.56 ID:5sOjcK6q0
俺は四六時中鼻の下にメンソールのリップクリームを塗って、家の中でもマスクで鼻を覆っている。
だが、電車や公衆トイレ、ただ道を歩いている時や公園の傍を通った時なんかに、俺はふとあの饐えた臭いを感じることがある。
俺はその度に足早にその場を後にし、家の中に逃げ込む。
俺の家はドラッグストアで買い込んだ大量の芳香剤でむせ返るほど濃い香りが充満して、お世辞にも過ごしやすいとは言えない。
だが、俺はそれらの芳香剤をひとつだって捨てることが出来ずにいる。
匂いの無くなった部屋で、もし万が一にでも、あの時殺したおっさんの頭から溢れた腐った水の臭いが鼻をつくことがあれば、俺はもう正気でなんていられないと思うから。


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