- 後味の悪い話 その184
571 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/03(日) 07:09:44.74 ID:09x4kzvs0 - 黒澤明『赤ひげ』の作中のエピソードの一つ
江戸時代。 異常な程に心優しくて親切な男Aがいた。 Aは、自らも貧しいというのに、身を粉にして働いて稼いだ金を、近隣の貧しい住人に分け与えていた。 やがてAは体を壊し、診療所に入院してしまう。 しかしAは看護婦の眼を盗んで外出すると、病気の体を押して仕事をして稼ぎ、その金で精の付く食べ物を買って、診療所にいる他の入院患者たちに振る舞った。 入院患者たちは、「世の中には悪い奴らが沢山いるのに、どうしてAのような善人が病に苦しまなければならないのか」と涙を流す。 そんな生活を送っていて病気が治る筈もなく、Aの容態はみるみる悪化していき、とうとうやつれ果てて布団から起き上がれなくなった。 己の死期を悟ったAは、「せめて、住み慣れた自室で死にたい」と願う。 Aを慕う人々がその願いを聞き入れ、皆でAを畳の上に乗せて担いで運ぶ。 運ばれながらAは「B(女の名前)、待たせてすまなかった。今、帰るからな、B」と、うわ言のように何度も呟く。 それを聞いた周囲の人間は「Aは独り身の筈」と首を傾げた。 Aが自室へと運び込まれて暫くしてから、Aの仕事場が建っている土地の斜面が土砂崩れを起こし、土の中から白骨死体が出てきた。 Aは、近隣住人達を自分の部屋に集め、身の上を語り始める。
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572 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/03(日) 07:11:03.15 ID:09x4kzvs0 - かつて、Aには「B」という名の嫁がいた。
最初はAの一目惚れで、何度も何度も情熱的に口説き続ける事によってようやく射止めた嫁だった。 しかし、Bには不審なところが幾つか有った。両想いな筈なのになかなか結婚を承諾してくれなかったし、承諾してくれたかと思えば両親に会わせてくれないのだ。 それでも愛するBと共に暮らせてAは幸せだった。 しかし、大震災が起き、Aの家が倒壊し、大火災まで起きた。 Aは必死にBを探したが全く見付からず、悲しみのあまり荒んだ生活を送るようになる。 それから何年か経って、ようやく立ち直れそうになり始めた頃、気晴らしに遠出をしたAは、偶然にもBと再会する。 再会を喜ぶAだったが、Bは気まずそう。 それもそのはず、Bの背中には一歳程の赤子が背負われていたのだ。 Bが消息不明になったのは数年前であり、明らかにAとの子では無い。 Aは激しく動揺しながらも、「Bが生きていてくれて幸せならそれでいい」と告げ、立ち去った。 その日の夜、Aが自室でやさぐれていると、Bが訪ねて来て、事情を語り始める。 実は、Aと出会う以前から、Bには両家の親によって定められた許嫁がいた。 Bは別に許嫁に惚れてはいなかった。 しかし許嫁はBの両親に金銭的な援助をしてくれる良い人だったので、Aとしても断るに断れない。 だがBはAと出会って恋に落ちてしまう。 Bは、親や許嫁に何も告げず、半ば逃避行に近い形でAと結婚した。
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573 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/03(日) 07:13:08.91 ID:09x4kzvs0 - 結婚生活は幸せだったが、常に「親や両親を裏切って自分だけ幸せになって本当に良いのだろうか」という疑念が付きまとった。
そして大震災が起きた時、Bは「バチが当たった」と思った。人を裏切って自分だけ幸せになろうとしたからバチが当たったのだと。 Bは行方を眩まし、実家に帰った。 やはり許嫁は人が良く、数年間蒸発していたBのことを許し、正式に夫婦となってくれた。 そして子供が産まれ・・・。 語りながら、Bは密かに包丁を隠し持っていた。 「私を抱き締めて」と言うB。 Aは泣きながらBを抱き締める。 Bは自分の胸に包丁の刃の先端を当てがっていた。 AがBを抱き締めた際に、Bの握っていた包丁がAの体によって押され、Bの胸を貫く。 なんと、Bは罪悪感のあまり、Aによって断罪されるを選んだのだ。(要は他人を利用した自決) AはBの亡骸を抱き締めて泣きじゃくる。 それ以来、Aは仕事場の下にBの亡骸を埋め、その上で仕事をして金を稼ぎ、稼いだ金を人々に分け与えていたのだ。 A「皆さん、もうお分かりでしょう。私が皆さんにしてきた親切は、全てBへの供養だったのです」 「でも、悲しまないでください。だって、私は、これからBの居るあの世へ逝けるのですから」 そしてAは虚空を見つめると、そこに何かを見出だしたのか、両手を伸ばす。 「B・・・、迎えに来てくれたのか・・・。B・・・、B・・・、綺麗だよ・・・B・・・」 「お口の中がたかゆき」 Aは何かを抱き締めるかのように腕を交差させ、そのまま息を引き取った。
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575 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/03(日) 08:08:20.65 ID:09x4kzvs0 - 『赤ひげ』から、もう一つ
主人公は「赤ひげ」と呼ばれる医者で、腕は良いが頑固性格をしているのが股に傷。 そんな赤ひげの診療所に、身寄りの無い老人Cが運び込まれた。 Cは末期癌であり、凄絶な苦痛を感じているのであろうが、「苦しい」とも一言も喋らず、ただ天井を眺めながら魚のように口をパクパクさせているだけ。 「身内はいないのか」と問われてもCは何も語らない。 赤ひげはCの眼に「壮絶な悲しみ」を感じ取った。 そうしてCは何日も苦しみ続け、苦しみに苦しみ抜いた末に、息を引き取った。 そんな矢先に、一人の女が数人の子供を連れて診療所に駆け込んで来る。 女は、先ほど亡くなったCの娘であり、父を探して来たのだと言う。 赤ひげがCの死を告げると、娘は床に突っ伏して泣きじゃくし、身の上を語り始める。 Cは、かつては腕の良い職人で、若い弟子がいたのだが、その弟子に妻を寝取られてしまった。 その挙げ句、妻は産まれて間もない娘を連れて弟子と共に蒸発したのである。 娘は物心付いた頃、Cの弟子であった間男のことを実の父親だと信じ込んでいた。 そんなある日、娘が一人で家の外にいた時、Cがこっそりと会いに来た。 Cは娘の手を掴み、「俺は、お前の実の父親だ。俺と一緒に来てくれ。俺と一緒に暮らそう」と言った。 だが、娘はCに恐怖を感じ、その手を乱暴に振り払って逃げた。 それから数年が経ち、間男は妻に飽き始めた。 間男に惚れ込んでいた妻は、捨てられることを恐れ、間男の心を繋ぎ止めるために、娘を生け贄に捧げた。 妻の承諾により、娘は間男に犯された。
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576 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/03(日) 08:10:13.87 ID:09x4kzvs0 - この時になって初めて、娘は間男の正体と、Cこそが実の父だったのだと理解した。
それからというもの、母と暮らしながら間男に犯されるという日々が続き、娘は数人の子供を産んだ。 その間も、Cは何度も娘に会いに来て、「一緒に暮らそう。子供達の面倒も見てやる」と言い続けてくれた。 しかし娘は、初めて会った際に邪険に扱ってしまった罪悪感から申し出を素直に受け入れる事が出来ず、尚も父を邪険に扱って拒み続けた。 Cは雪の日も娘に会いに現れ、会う度に痩せ細っていった。 やがて、Cは会いに来てくれなくなった。 そしてある日、とうとう娘はその生活に耐え兼ね、間男を包丁で刺し、子供達を連れて逃げ出した。 せめて子供達だけでも父に預かってもらおうとしたが不在であり、診療所に居ると耳にし、ここにやって来たのである。 「父の最期はどのようなものでしたか?」と娘に問われ、赤ひげは「お前の父は、苦しまず、安らかにこの世を去った」と答える。 「ところで、どうして間男を刺したんだ? 間男に殺されそうになって、咄嗟に身を守るために刺したんじゃあないのか? いや、そうなのだ。そうに違いないのだ。 お前の罪が軽くなるよう、俺からもお上に証言してやろう」 さらに赤ひげは懐から自分の金を取り出すと、「これは、お前の父がお前のために貯めていた金だ。暫くは、この金で子供達の面倒を見るといい」と言って娘に渡した。
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577 :本当にあった怖い名無し[sage]:2021/10/03(日) 08:19:47.43 ID:09x4kzvs0 - >>576
ちなみにC危篤の際に赤ひげは「Cを看取ってやれ」って弟子に命令してた だが、そういった経験の無かった弟子はCの様相にビビって病室から逃げ出してしまう そのせいでCは誰にも看取られることなく一人孤独に死んでいった
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