- ほんのりと怖い話スレ その78
834 :おにいさんの話1[sage]:2011/10/16(日) 13:29:03.21 ID:f2Lsjq270 - お化けとか、呪いの話じゃないんだけど、よかったら少し付き合ってくれ。
おれが小学校に入ったか入らないかのことだから、随分前の話になる。 ある日、四つ上のおれの兄貴とおれと、おれの友達の三人で川沿いの土手で遊んでいたんだ。夏の日で、虫がたくさんいた。 てんとう虫、カマキリ、バッタなんかを夢中になって追い掛け回していた。 小さな子供だったから、手で捕まえようとしてもなかなか捕まえられない。 すると、兄貴が虫取り網を持ってくると言って家に戻ったんだ。そうして、おれと、おれの友達の二人でまた虫を追いかけてた。
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835 :おにいさんの話2[sage]:2011/10/16(日) 13:29:45.13 ID:f2Lsjq270 - おれたちが遊んでいた土手は、川が溢れた時にせき止めるためのもので、けっこうな高さがあった。5m以上はあったと思う。
道路側と川原側があって、道路側は斜面が土になっていて、草ぼうぼう。わりとなだらかで、子供の足でも歩いて登れるくらいのゆるい斜面だ。 川原側はコンクリでがっちり固められていて、大人でも苦労するくらいの急斜面になっている。 その斜面が交差する天辺は、数m幅のアスファルトの通路になっていた。通路から見て道路側はすぐ草ぼうぼうの斜面なんだけど、川原側は人が落ちないようにか、1mほどのコンクリの壁になっていた。
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836 :おにいさんの話3[sage]:2011/10/16(日) 13:30:33.10 ID:f2Lsjq270 - ふとその壁の上を見ると、でかくて立派なカマキリがいた。
おれと友達は、一瞬でそいつに心を奪われた。こいつを二人で捕まえれば兄貴を驚かせられるに違いない。 二人で挟み撃ちにする形でカマキリに近づいていった。 カマキリのカマに挟まれないようにしながら掴もうとすると、あと少しのところで壁の向こうに逃げてしまった。がっかりしながら壁から身を乗り出してみてみると、なんとか届きそうなところにいた。 ここで、子供なりに頭を働かせた。 上から手を伸ばすと、カマキリは手の届かない斜面の下に逃げていくに違いない。そうするともう捕まえられなくなるから、一度壁のこちら側におびき寄せてから捕まえることにしよう。 そうするためには、カマキリの下から手を伸ばさなくてはならない。
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837 :おにいさんの話4[sage]:2011/10/16(日) 13:31:23.84 ID:f2Lsjq270 - おれたちは壁を乗り越え、片手でしっかりと壁をつかんで体を支えた。そして、斜面にある模様のようなわずかな凸凹に足を引っ掛けた。
カマキリを挟むように、ゆっくりと近づいていく。 もう一歩足を踏み出そうとした瞬間。 足を滑らせた。 とっさに両手で壁を掴む。驚いた友達が壁を乗り越えて戻ろうとするが、友達も足を滑らせてしまった。 斜面はおれたちが考えていたよりもずっと急傾斜だったのだ。 足の踏ん張りがきかない。おれたち二人は壁から両手でぶら下がる形となってしまった。 大人から見るとなんとか飛び降りれるくらいのたかだか5mの斜面だったが、六つや七つの子供から見ればそれは奈落の底に通じているかと思うほどの絶望的な高さだった。
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838 :おにいさんの話5[sage]:2011/10/16(日) 13:32:10.57 ID:f2Lsjq270 - 「だれか〜、たすけてぇ」
二人して精一杯声を張り上げていると、壁の向こうからひょっこりと知らないおにいさんが顔を出した。 歳はせいぜいおれたちより二つか三つくらいしか違わないだろうが、小学生の頃の二つ三つの差はめちゃくちゃ大きい。 大きなおにいさんが助けに来てくれたと安堵した。 おにいさんは、順番におれたちを引き上げてくれた。大袈裟ではなく、命の恩人だと思った。 友達と二人で腰が抜けたように座り込んでいると、おにいさんがいった。 「お前たち、なんであんな危ないことしてたんだ」 おれたちは、助かった安堵感からか頭が真っ白で、なにも言えなかった。 「あんなことするのは悪いことだぞ!お前たちは悪いことをしていたんだから、お仕置きをする。お前たちを一発ずつ殴るからな。いいか?」 ああ、おにいさんの言うとおりだな。悪いことをしていたな。おにいさんがいなかったら死んでたんだからな。そう思って、おれたちはうなずいた。
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839 :おにいさんの話6[sage]:2011/10/16(日) 13:32:50.75 ID:f2Lsjq270 - ゴツン。ゴツン。
頭にゲンコツを一発ずつ食らった。さっきまでの緊張があったせいか痛みはほとんど感じなかったが、そのゲンコツで緊張感が解けたのだと思う。おれたちは泣き出した。 痛いとか、怖いとかではなかった。本当に悪いことをしていた、もうしませんというような、誰かに謝りたいような気持ちだった。 泣いているおれたちをみて慰めようとしたのだろうか、おにいさんはポケットからおもちゃを取り出して見せてくれた。 当時流行っていたビックリマンシールやキンケシなんかだった。 そうしておれたちにひとつずつビックリマンシールをくれた。助けてくれたうえにシールまでくれるとは、なんて優しいおにいさんなんだろうと思った。 そこへ、虫取り網と虫籠を抱えた兄貴が戻ってきた。
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840 :おにいさんの話7[sage]:2011/10/16(日) 13:33:31.31 ID:f2Lsjq270 - おれたちを見るなり駆け寄ってきた兄貴は、有無を言わさずお兄さんを殴り飛ばした。
何が起こっているのかわからなかった。 倒れたおにいさんを、続けて兄貴が殴る、蹴る。おにいさんは泣き出した。 おにいさんは泣きながら自分の自転車に乗ると、どこかへ行ってしまった。 おれたちはその間、泣くのも忘れて呆然と見ていることしかできなかった。 後になって思えば、泣いているおれたちと見知らぬ男の子を見た兄貴は、てっきりおれたちがいじめられていると思ったのだろう。 自分の弟とその友達が泣かされていると勘違いした兄貴は、正義感から相手をやっつけてやろうという気になっていたのだと思う。 もしおれが逆の立場だったら、やっぱりそう考えてもおかしくはない。
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841 :おにいさんの話8[sage]:2011/10/16(日) 13:34:12.74 ID:f2Lsjq270 - 「お前たち大丈夫か?」
してやったり、というような得意げな顔をしながら兄貴が声をかけてきた。兄貴は今、いじめっ子から弟を助けだしたヒーローなのだ。 曖昧にうなずくおれたちを見て、兄貴は満足そうに頷いた。 「おれがいつでも助けてやるからな!」 子供だったおれたちは、死ぬかもしれない恐怖、そこから助かった安堵感、急激に解けた緊張感、豹変した兄貴などをいっぺんに見て、混乱しまくっていた。事情を説明するなんてことは、到底思いつかなかった。 ポケットにしまったビックリマンシールがやけに重く感じた。
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842 :おにいさんの話9[sage]:2011/10/16(日) 13:35:03.33 ID:f2Lsjq270 - それから数日経ったある日。
兄貴とおれはいっしょに下校していた。すると、少し前にあのおにいさんがいた。 先日の光景が思い起こされ、申し訳ないようななんとも言えないいたたまれなさを感じた。 兄貴もおにいさんに気づいた。 次の瞬間、兄貴はおにいさんに石を投げつけた。 おにいさんが振り返る。兄貴を見たおにいさんは、恐怖で怯えた顔をしていた。 「この野郎」 兄貴が何度も石を投げつける。おにいさんは走って逃げて行ってしまった。 それから、兄貴のおにいさんに対するいじめが始まった。 おにいさんを見つけるたびに、兄貴は殴ったり石を投げたりといった小さな嫌がらせをする。 そのうち、近所のガキ大将だった兄貴は仲間にも命令を出した。 「あいつを見つけたらいじめろ」 四つも下のおれに、発言権はない。今更何をどう説明していいのかもわからない。 おにいさんがくれたビックリマンシールを見るたび、胸がムカムカするような嫌な気持ちがせり上がってくる。
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843 :おにいさんの話10[sage]:2011/10/16(日) 13:35:48.79 ID:f2Lsjq270 - それからおにいさんを見かけることはなくなった。遠くにそれらしき人影を見つけても、あっと思う間もなくそれは逃げて行ってしまう。
避けられているんだな、と思うと泣きたくなるほど切ない気持ちになった。 それからしばらくして、家に石が投げ込まれるようになった。 屋根瓦や壁に、カツン、コツンと石ころが当たる音がする。外に出てみると誰もいない。 家は小さいながらも庭付きの一戸建てで、路地裏沿いに立っていたため、石ころを投げ込んですぐ路地裏に逃げられるともう見つけることは難しい。 母は「嫌ねぇ、いたずらかしら」なんて言っていたが、おれと兄貴には見当が付いていた。 自分がいじめられる原因となったおれと、いじめている当事者である兄貴が揃っているこの家への嫌がらせ。答えは一つしかない。 兄貴は「誰にも言うな。おれが必ず見つけてやっつけてやる」と息巻いていた。 おれは、これで完全におにいさんから嫌われてしまったんだ、もうあのおにいさんと遊ぶことはできないんだな、と悲しい気持ちになっていた。 気のせいか、引き出しの隅にしまいこまれたビックリマンシールが色褪せて見えた。
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785 :本当にあった怖い名無し[sage]:2011/10/16(日) 14:02:41.39 ID:f2Lsjq270- .
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848 :おにいさんの話11[sage]:2011/10/16(日) 14:03:32.68 ID:f2Lsjq270 - ---------------------------------------------------------------------
途中ですまん、さるさん規制食らった。 >>845 創作でもなく「洒落にならない怖い話」でもないからこっち来た --------------------------------------------------------------------- ある時、兄貴と二人で自転車に乗って遊びに出かけた帰り道、家が見えるところに差し掛かると、おにいさんがいた。 まさに、家に向かって石を投げている。 兄貴が自転車を急加速させる。 おにいさんも兄貴に気付いた。自転車に飛び乗りものすごい勢いで逃げ出す。慌てておれも追いかける。 路地裏を少し行くと、トラックや車が国道からの抜け道に利用している広い二車線道路に出る。おにいさんはそっちに向かって逃げているようだ。 おれは二人から置いていかれないように、兄貴の背中だけを見て必死に自転車を漕いでいた。
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849 :おにいさんの話12ラスト[sage]:2011/10/16(日) 14:04:39.18 ID:f2Lsjq270 - ダンッ…とか、バンッ…というような音がした。
ふと顔を上げると、片足をついて止まった兄貴が肩で息をしていた。 兄貴の視線の先を見ると、車線を反対側に飛び出して斜めに止まっているトラックが見えた。 それと、粘土で作った人形のようにぐにゃぐにゃになったおにいさんがいた。 夕方のローカルニュースでおにいさんの事故が報道されていた。おれはそこで初めておにいさんの名前を見たが、幼かったおれには漢字を読むことができなかったので、未だになんという名前の人だったかわからない。 おれと兄貴は、誰にもこの話はしなかったし、その後おにいさんの話をすることもなかった。 小さかったので事故の正確な日付は覚えていないが、夏になるとお花と線香を供えに行くんだ。 そして、手を合わせながらごめんなさいごめんなさいってひたすら謝る。たぶん、それはおれが死ぬまで続くと思う。
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857 :おにいさんの話追記[sage]:2011/10/16(日) 16:08:55.84 ID:f2Lsjq270 - これを読んだお前らに先に謝っておく。本当にごめん。
さっきの話にひとつだけ嘘がある。 「おれと兄貴は、誰にもこの話はしなかったし、その後おにいさんの話をすることもなかった。」 ってとこ。 この話を聞いた何人かは三日以内に夢を見る。 自分が落ちそうになっていて何かに掴まっている。そこへ粘土で作ったような、操り人形の紐が切れたようなぐにゃぐにゃした男の子が出てきて上から石を投げてくる。思わず手を離すとずるっと下に落ちる感覚と共に目が覚める、という夢。 実害はないよ。おれはこの話を人にすると、おれ自身はその夢を見ずにすんで何日かは安眠できるってだけ。 本当にごめんなさい。
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