- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ18【友人・知人】
627 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage]:2011/07/26(火) 21:07:17.01 ID:F3efNIZv0 - 夏ですね。
今年は夏休みがもらえそうでうれしい限りです。 今回はちょっと毛色が違うかもしれないです。 というかちょっと長め。 「守護霊ってさあ、お前、詳しいか?」 おごりだと言って呼び出されたファミレスで、Y山さんは唐突に言った。 Y山さんはK談社の雑誌編集で、俺が持ち込みを始めた頃から目をかけてくれている恩義ある方だ。 その恩義とそこそこな財力にモノを言わせ、面倒ごとを押し付けることもあるが・・・・・・基本的にはいい人である。 「はあ、まあ、どうでしょうか」 Y山さんは苦い顔をしている。 「今度な、某スピリチュアル芸人・・・・・・いや芸人じゃねえか、まあ芸人みたいなもんだ。多分お前も知ってるオッサンに取材に行くんだけどよ」 スピリチュアル、ねぇ。 恐らくはロクでもない人物なのだろう。 心霊ウリは大体そうだけれど。 「で、その人があれですか。守護霊霊視とか言ってるんですか」 「まあ、そういうことだ。で、専門家の意見も聞きたいと思ってよ」 俺はわざとらしく苦笑して見せた。 「守護霊、と言いますと、一般的にはご先祖様やら前世やら、当人を守ってくれる幽霊の事ですよね。はぁ・・・・・・とんと見かけませんネェー・・・・・・」 「そう言わずにさぁ、知ってることだけでいいんだよ。知識だけで全く問題ないから、俺らは適当にそれらしいこと並べりゃいいんだから」 実のところ、守護霊というモノは以前一度だけ見たことがある。 ただ、あまりいい思い出では無いから関わりたくないというのが本音だった。 「もしかして、昔なんかあったのか?」 無闇に鋭い。 編集というのは人を見る技術が必要なんだろうか。 「まあ、別に何があったってわけじゃないんですけどね。お話しましょうか」 鮮明に思い出せる。 ・・・・・・あの頃は、まだ先輩がいた。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ18【友人・知人】
628 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage]:2011/07/26(火) 21:07:59.74 ID:F3efNIZv0 - 「守護霊を見ます」
急に俺の家に来た先輩はそう言って俺を連れ出した。 夏だった、特有の日差しをよく覚えている。 「で、今回は何なんですか。大体守護霊って、そんなもん本当にいるんですか?」 先輩のロードレーサーに、通学用のママチャリでなんとか食いつきながら聞く。 「さあ、どうだろうな。そもそも連中に明確な区分なんて無い。あるとしたら人間の職業みたいなモンだ。医者とか、警察とか。役割・・・・・・やってることが違うだけだろう」 「つまり、たまたま自分を守ってくれてる幽霊がいたら、それが守護霊ってことです?」 「その通り」 「で、なんで今更そんな事を?」 無言。 「・・・・・・頼まれ事ですか」 無言。 「ヨーコさ」 「いや、なんだ。お前にもそろそろそういう経験をさせてやってもいいかと思ってな」 なんだ、いつものヤツだったか。 ヨーコさんの友達の誰かが興味本位でこの変人の起こす事件を見てみたがったのだろう。 ヨーコさんの困った顔がありありと浮かぶ。 で、恐らくは。 「先輩一人じゃダメだって言われたんですね?」 「まあ、被験者は多い方がいいからな」 口幅ったいが俺はヨーコさんのお気に入りで、先輩は残念ながら避けられている。 先輩はずっとヨーコさん一筋、好きだ好きだとわかりやすいオーラを出しているにも関わらず、だ。 俺はたまに、哀れみと罪悪感が混ざった不快極まりない気持ちになる時がある。 「そういうわけなら仕方ないです、付き合いましょう。ヨーコさんの家でやるんですか?」 俺は祈った。 冷房の効いた甘い匂いのする女子大生の部屋と、畳敷きのエアコンも無い狭い部屋なら、勿論前者がよかったからだ。 先輩の安アパートは夏を過ごすに厳しすぎる。 「そーだよ、あいつんとこだ。さっさと行くぞ」 俺はほっとして自転車を漕いだ。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ18【友人・知人】
629 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage]:2011/07/26(火) 21:09:44.00 ID:F3efNIZv0 - 「こんにちは」
ヨーコさんは、困った顔で先輩に挨拶をした。 前科もあるし、出来れば部屋に上げたくないという気持ちが滲み出ている。 「うん。言っておいた準備はしたか?」 「一応しました。ただちゃんと出来てるかわからない」 よしよし、と一人で頷いて先輩は部屋に上がった。 全く先輩の楽しそうな事と言ったらない。 「あ、いらっしゃい。上がって」 なんとも複雑な感情でぼーっと立っていた俺にも声をかけてくれる。 「あ、いいんですか?先輩ガンガン行ってますけど・・・・・・」 「一応、まずい物は隠しました。それに、もう友達来てるから・・・・・・変な事は出来ない、はず」 軽く笑ってお邪魔することにした。 と、部屋の中から妙な香りがする。 なんだろう・・・・・・お香? いや、これは違うな。 お香といえばお香だけど・・・・・・。 「線香、ですか?」 ヨーコさんは頷く。 「あの人に言われて準備したんだけど」 どうやら今回は割りと本式なようだ。 先輩の霊視には基本的に道具を用いない。 知識は俺の億倍あるだろうが、用いるまでも無い場合が多いのだ。 本人の感覚はもとより、それを他人にも伝播する男だから、それも当たり前だけど。 「伝染病みたいな人だな」 小声で呟いて、言いえて妙だなと思った。 さて、リビングに入って見ると、確かに女性がすでに一人いた。 知らない人だ。 どこの馬鹿が先輩をつついたんだ、と思っていたのだが、そんな感じでは無かった。 どちらかというとおとなしい印象を受ける。 なにやら瞑目している先輩を、じっと見ている。
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630 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage]:2011/07/26(火) 21:11:19.40 ID:F3efNIZv0 - しばらく観察していると、俺に気付いたらしく会釈してくれた。
会釈を返す。 リビングのテーブルの上に線香立てが置かれていて、三本の線香が刺さっている。 変わったところはそのくらいだ。 そして先輩が目を開ける。 「よし、いいだろう。お前もこっち来い。ヨーコと一緒に、座れ」 俺とヨーコさんはテーブルを囲んで座った。 「今から俺がカーテンを閉める。そうするとここは一つの神殿、祭壇になる。それからだ、俺が全員の守護霊を見て回る。カーテンを開けたら終わりだ」 なるほど、簡単だ。 線香は空気作りの為の演出なんだろうか。 演出や空気作りというのが馬鹿に出来ないことは知っているが、線香だけで祭壇だなんだと言われてもあまりしっくり来ない。 「ただし、カーテンを閉めてから開けるまでは決して喋るな。喋らなければ何をしていてもいい。長い時間じゃないから心配するな。じゃあ、始めるぞ」 先輩がカーテンを閉める。 この部屋に窓は三つあり、すべてのカーテンが閉められるとうっすらと暗くなった。 昼間だから、もちろん完全な闇にはならない。 そして先輩は歩き回り始めた。 俺たちが座っている周りをじわじわと動いている。 今先輩には何が見えているのだろうか。 きっと俺には見えないモノだろう。 と、一分もしない内に先輩がカーテンを開けに行った。 あまりの速さに俺を含め全員が戸惑っている。 カーテンを全て開け、先輩が俺の正面に座りなおした。 「もう喋っていいぞ」 しばらく、誰も喋らなかった。 「え、終わり、ですか?」 俺が聞くと、先輩は当たり前のような顔をして頷いた。 「見るだけなんだから、そんなに時間かかるわけないだろ。で、君が見て欲しかったって人だな」 女性は急に自分に話題が向いたので驚いている。 「あ、はい、そうです。・・・・・・えっと、どうでした?」 「まあ、君は最後にしよう。ヨーコな、すごいぞ。天使が憑いてる。えーと、あとお前は・・・・・・特にいないな。空席だったぞ」
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631 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage]:2011/07/26(火) 21:12:01.80 ID:F3efNIZv0 - なんだか拍子抜けだ。
そもそも形容が胡散臭い。 なんだ、天使って・・・・・・。 適当言ってるんじゃなかろうか。 「拗ねるな拗ねるな。いないヤツの方が多いんだ。そもそも全員に守護霊がいるなんてメディアや噂の捏造に過ぎん。で、君・・・・・・君は、普通のおっさんだったぞ」 女性は何故か驚いたような顔をしている。 と、ヨーコさんにひそひそと何かを話した。 ヨーコさんは頷いて、またひそひそと返した。 俺を挟んで何事か密談が交わされる。 「ど、どんな人でしたか?」 先輩はふむ、と顎に手をやった。 「髭だったな。顎鬚。割とゴツめで、目の下に切り傷みたいなのがあった。多分肉親だろう。そんな気がした。それで・・・・・・おい、どうした」 突然、女性が泣き崩れた。 震えながら小さい声で何か呟いている。 よく聞こえなかったが、「お父さん」と言っているようだった。 「・・・・・・なるほど」 先輩は溜め息をついた。 「あれは、君の父親か。死んだのは最近だな?君、最近運が良いだろう。金運とかじゃなくて、寝坊したけど電車が遅延してて遅刻にならなかったとか、そんなの」 女性は泣きながら頷く。 「君の父親が良い方向に導こうとしている。どうやら良いお父さんだったみたいだな。安心していい。少なくとも交代する気は無いみたいだから・・・・・・よかったな」 女性はさらに深く泣いた。 感極まったようだった。 しかし、俺は心底驚いていた。 あの先輩が人に優しい言葉をかけている。 そんなことが有り得るなんて! 女性は落ち着くと、何度もお礼を言って帰っていった。 ヨーコさんの部屋には俺たちだけが残された。
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632 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage]:2011/07/26(火) 21:12:54.75 ID:F3efNIZv0 - 「すごいですね、やっぱり」
最初に喋ったのはヨーコさんだった。 事の顛末を説明すると、彼女はヨーコさんの友達で、父親を事故で亡くしてこっち、どうにも元気が無かったらしい。 見かねたヨーコさんが、なんとかならないモノかと考えたのが、今回の守護霊霊視会だった。 先輩には父親の風体は勿論、父親が死んだことも含めて全て伏せておいたのにきっちりと当て嵌まったから驚いている・・・・・・。 そういう話だった。 「なんだ、いい話じゃないか。ありきたりといえばそうだけどよ」 Y山さんは驚いているようだ。 「そうですね、俺もそう思いましたよ。こんなこと実際にあるんだなって」 「で?もちろん続きがあるんだろ?どうオチが付くんだ」 俺は一旦溜めて、それから続きを思い出す。 いや、思い出すまでもなく、今でも覚えているのだが。 今にして思えば、あの頃から何かがおかしくなり始めたんだった。 今にして思えば、だが。 「マジであるんですね、そんな話。テレビか漫画の話ですよ」 俺は先輩を色々な面で見直した。 やはりこの人は本物なんだ。 「まあ、そりゃあるだろ。無関係な他人ならともかく、肉親だぞ。死んでも守りたいとか、そういうことだってある」 当然のように言うが、何かおかしい。 先輩はまだ何か目的があるように思う。 「さて、ヨーコ。もう一度カーテンを閉めてくれないか」 「は?」 先輩はにやりと笑う。 これは、良くない。 「こいつ連れてきたのには訳がある。まあ、お前の希望もあるが・・・・・・見せておきたい物があるんだ」 ヨーコさんは黙ってカーテンを閉める。 「さて、じゃあお前に頼む。俺の守護霊を見てくれないか」 「や、無理っすよ。先輩でも道具用意しないと見えないんでしょう。俺なんかじゃとても」 先輩は笑う。 「これはな。お前用だよ。俺は実は最初っから見えてたんだ。この空気の中で、俺の後ろにいるヤツの濃さなら、お前でも十分見える」
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633 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage]:2011/07/26(火) 21:13:47.29 ID:F3efNIZv0 - 先輩の後ろに憑いている物を見る。
それはとんでもない重責に思えた。 「不安がるな。お前の為でもあるんだ。さあ、頼むぞ」 俺は深呼吸をする。 線香の匂いがする。 目を閉じると、先輩とヨーコさんの気配がわかる。 誰も声を出さない。 外の音も、遠ざかっていく。 確かに、これなら俺でも何か見られそうだ。 神経を徐々に編み上げていくイメージ。 針のように細く、鋭く、何も見逃さないように。 決心して目を開けた時、俺に見えたのは・・・・・・。 「なんだよ?」 俺は笑って誤魔化す。 「怖い物でした。よく覚えてないんですけどね」 「いいや、違うね。お前、覚えてるだろ?言いたくない程か」 やっぱり、鋭い。 「その後ずいぶん取り乱しちゃったんで・・・・・・本当に覚えてないんですよ。あ、でも一つだけ印象に残ったのが」 「なんだ、言ってみろ」 「眼ですよ。どうってわけじゃないんですけど、怖い目でした」 Y山さんは諦めたようだった。 「・・・・・・ふん、まあ、そんなんじゃどっち道参考にゃならんか。悪かったな。払っとくから、食ったら帰れよ」 伝票を持ってカウンターに向かうY山さんに後ろからお礼を言う。 忘れる訳が無い、あんなもの。 忘れられる訳が無い。 なにせ今アレは俺の傍にいるからだ。
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634 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage]:2011/07/26(火) 21:14:29.54 ID:F3efNIZv0 - 俺が眼を開けて見えたのは、髪の毛だった。
某映画の貞子のような、長い黒髪。 裸の体は痩せて細り、乳房らしき部分は男性の胸と変わらない程平らだった。 彼女は全裸で、先輩の後ろに立っている。 俺が固まっていると、彼女が徐々に動き始めた。 かくんかくんと、頭を揺らしている。 小さな動きだったそれは、徐々に大きくなり、上半身全体が揺れる。 そして彼女は、そのまま俺の方に近付いて来た。 叫びたい、逃げ出したい。 その両方を制すように、先輩が俺をじっと見ているのが視界の端に入った。 ゆっくりと近付いて来た彼女は、俺の前に立つ。 何かに濡れた白い下腹が目の前にある。 と、途端に目の前に顔が迫ってきた。 上半身をがくんと折り曲げたようだ。 長い髪に隠れていて見えていなかった顔が、隙間から見えた。 鼻も口も無い。 眼だけが顔中にあった。 しかし、その眼も大半が潰れていて、開いているのは三つか四つだけだった。 彼女が俺を品定めするように眺める。 そして白い手が俺に向かって伸びた時、先輩が手を叩いた。 「そこまでだ」
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635 :稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage]:2011/07/26(火) 21:15:11.28 ID:F3efNIZv0 - 驚いた俺が視線を外すと、もう何も居なかった。
ヨーコさんが心配そうに見ている。 「どうだった?」 言葉が出ない。 しばらく口を開けたり閉めたりして、ようやく搾り出せた。 「なん、なんですか、あれ」 先輩は笑っている。 「俺の守護霊サマ。どうだ、なかなか良かっただろ」 良いなんてもんじゃない。 異形よりも何よりも、その迫力に飲まれてしまいそうだった。 「あいつのお陰で、俺はどんなヤバイ場所でもトラブルに巻き込まれない」 その理由は前に聞いた。 『もっとヤバイモノが憑いているから、大抵の奴なら平気だ』 しかし、あんなものが傍にいて先輩は正気でいられるのだろうか。 この人は本当に正気なんだろうか。 ふと、さっき言っていた事が気になった。 「俺のため、っていうのは」 そう、先輩はお前のためでもあると言った。 それはどういうことだろう? 「いずれ、わかる。まあ、簡単に言えばだな」 「俺がいなくなったら、こいつ頼むぞ、ってことだ」 先輩と守護霊 未終
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