- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ17【友人・知人】
407 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 00:25:58.68 ID:4NtVoCAK0 - バイト先に着いて、事務室で制服に着替えているときに携帯が鳴った。
「俺君、今大丈夫?びっくりしたよ。ありがとう。メールくれたときにマンションにいたの?」 C子からの電話だった。「そうだよ」と返すと、 「どこかに俺君が隠れているのかと思って探しちゃったよ。顔見せてくれてもよかったのにー」と C子は笑った。薬を飲んで横になっていたせいかだいぶ体調はいいし、 俺の差し入れを見たら元気が出たと言ってくれた。 俺はC子に、なんでC子も最近サークルに顔を出していないのに、行っているふりをするのかとか 聞きたいことはあったけれど、C子の声を聞いたらどうでもよくなった。 「じゃあ俺もう行かなきゃいけないから」 「あ、うん。ごめんね。本当にありがとう。俺君バイトがんばってね」 「おやすみ」 がんばってね、という言葉はあまり好きではなかったが、C子に言われると素直に嬉しかった。
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408 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 00:28:06.49 ID:4NtVoCAK0 - よし、がんばろうと仕事を始めたはいいものの、
12時を回ったあたりで、なんだか頭がフラフラしてきた。眼球の奥が焼けるように熱くて視界が回る。 やがて俺は、制服のシャツの色が変わるくらい汗をかき始めた。 バイトリーダーのおばさんの「俺君、熱あるんじゃない。もう今日は回せるから、無理しないで帰った方がいい」 というお言葉に甘えて、終電にも何とか間に合ったので家に戻った。 風邪流行ってるのかなーと独りごちつつ、俺は部屋で布団にくるまった。 相変わらず寒気がして、汗が止まらなかった。1人暮らしを始めて病気になったのは これが初めてのことだったから、心細かった。
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409 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 00:29:18.96 ID:4NtVoCAK0 - 胃も動かないようで胃痛と吐き気が止まらず、また夕方にたっぷり寝たせいもあって
寝たいけど寝れず、かといって起き上がりもできずにずっと体を丸めていた。 1時間くらい経った頃だろうか。外からカンカンカン、と、ミュールの音が響いてきた。 アパートの2階に住む母子家庭の家の女性は水商売だったから、 こんな時間に帰宅するのは、たぶんその女性かなと思った。 ミュールの足音は案の定アパートに近づいてきた。 なんだようるせーな近所迷惑だな、とイライラした。 足音は俺の部屋の前で止まった。しかしいつまでたっても 女性の部屋のある2階への階段を上る音が聞こえない。
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410 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 00:31:06.01 ID:4NtVoCAK0 - おかしいな、と不思議に思っていると、妙に冷たい風がひゅーっと通って
布団からはみ出た俺のつま先をくすぐっているのに気付いた。その途端だ。 バタン!という、何かを閉める金属音が突然部屋に響き渡り、俺の体はびくついた。 この音には聞き覚えがあった。ドアの新聞受けの蓋だ。 こんなときに、酔っぱらいの悪戯かよ、と思って体を起こそうとしたとき、また風が通った。 そして 「ふふっ」 女の静かな笑い声が聞こえた。
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411 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 00:35:44.87 ID:4NtVoCAK0 - 声は冷たい風と一緒に部屋に直接入ってきて、しんとした俺の部屋の中で妙に響いた。
それからまたバタン!と新聞受けの蓋が閉じた。 蓋が閉まる瞬間に、真っ暗な新聞受けの向こうでぎらりと目玉が2つ光って、 続いて笑みのかたちに歯列を見せる唇が見えた気がして 背筋がキーンとして、そのあと体全体がぞくりと震えた。俺はしばらく布団から体を起こして 新聞受けを見つめたまま動けなかったが、どこかの部屋でトイレを流す音が聞こえて、 ようやくはっとした。 頭にまず浮かんだのは、幽霊とか変質者の悪戯とかではなく この部屋の前の住人のストーカーじゃないか?ということだった。
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412 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 00:38:49.73 ID:4NtVoCAK0 - 一応何かあったときのために、まず部屋の電気を全部点けてから
そろりそろりとドアの元へ行って戸締まりを確認した。 ドアを開けて外を確認する勇気はなかった。窓も全部閉まっているのを見て 俺は布団へ倒れ込んだ。とりあえず前の住人について 大家さんに聞く必要があると思いつつ 何度も読んで飽き飽きしたギャグ漫画を読んで、なんとなく気分がまぎれたところで眠りについた。 次の朝、目覚めてみると体調もすっかりいつもどおりで、 なんとなく昨日のことは夢だったような気がしないでもなく 俺は普通にトイレに行き、シャワーを浴び、 冷蔵庫の中のサンドイッチを食べ、朝の支度を始めた。
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414 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 00:55:43.06 ID:4NtVoCAK0 - もしC子も元気になっていたら、学校で会えるだろうと
教科書やノートやMDプレイヤーをショルダーバッグに入れて 俺は勢い良くドアを開けた。そのときだった。バラバラバラ、とドアの向こうで 何かが崩れて散らばる音がした。足下を見ると石ころだった。 不審に思いながらも、ドアから顔を出した俺が目にしたものは 「うわっ」 まず、思わず声が出た。 今こうして思い出すのもおぞましいのだが、 女性用の下着がドアノブにかかっていたのだ。 しかもその下着は、茶色い血で汚れていた。
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415 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 00:57:21.51 ID:4NtVoCAK0 - 俺はとりあえずコンビニの袋で手にカバーをするようにして下着を掴み、
そのまま下着を袋に入れて口を固くしばった。袋をもう1枚重ねた。 吐き気がした。本当になんなんだ。 直接下着に触れてはいないけれど、何度も何度も俺はハンドソープで手を洗った。 下着がドアにかかっていたのが、 他のアパートの住人や通行人に見られていたら嫌だなとも思った。 とりあえず大家さんには帰ってから報告することにして まず学校へ向かった。講義には何とか間に合った。 C子の姿はなかった。
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417 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 01:00:41.29 ID:4NtVoCAK0 - 書き溜められなかったので、今日はここまでにします。
オカ板、連投規制がキツいですね。すぐおさるになる…。
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419 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 01:01:52.63 ID:4NtVoCAK0 - (`・ω・´)つC は援護だろうか。ありがとう。
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423 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 05:14:51.97 ID:4NtVoCAK0 - 久しぶりに出た講義は、わけがわからなかった。
C子にノートをコピーさせてもらえばいいやと タカをくくっていたので、これはやばいと最近の自分の生活を初めて後悔した。 高校でのクラスは違ったが、なんとなく同じ高校出身ということで 顔見知りだった男子学生に、授業の進み具合を聞くことにした。 男子学生、E君は出席率が良かったみたいで、嫌な顔もせず丁寧に教えてくれた。 E君が屋外の喫煙所にタバコを吸いに行くというので、 俺も自販機でジュースを買い、付き合うことにした。 最初は大学が遠いとか、他愛もない話をしていたのだけれど E君がふと黙って、何か考え込むような顔をしてから 声のトーンを少し落として俺に言った。 「俺君ってさ、いつもC子と一緒にいるよね。付き合ってるの?」 「うん」 俺は正直に答えた。もしかすると、これが聞きたくて E君は親切に色々教えてくれたのかな、と思った。 「俺君は11組って言ってたよな。俺は3組だったんだ」 「あ、それってC子と一緒だよね」 「そう」
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424 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 05:15:59.14 ID:4NtVoCAK0 - またE君が黙り込んだので、俺はE君の次の言葉を待った。
が、しびれを切らして先に切り出したのは俺だった。 「C子のことで何かあr」 「俺君さ、C子のこと知ってて付き合ってるの?」 E君が突然俺に食いつくように聞いてきたので、俺はちょっと面食らった。 「知ってるって何が?」 「3組出身者ってうちの学部なにげに多くてさ。みんなで言ってたんだ。 俺君すげーなって」 回りくどい言い方に、俺は少しイラッとした。 「…どういうこと?」 「俺君には失礼な話かもしれないんだけど、C子ってちょっと変なんだよ」
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425 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 05:17:17.21 ID:4NtVoCAK0 - うちの高校は、8割以上の人間が内部進学するという
わりとバカな私立大学の付属高校だったので 出席日数などはかなりゆるかった。 卒業式の日と、あとは片手で数えられる程の日数しか来なかった 不登校の生徒も普通に卒業できて、今は同じ大学にいるらしいし Aだって、うちの高校じゃなきゃとっくに留年していたはずだ。 だから学校に来ない奴というのは珍しくなかったので その理由が面白いほど、噂に上った。 他のクラスで2回も中絶して ずっと学校を休んでいた女子生徒がいるという話は 俺もどこからか耳にして、知っていた。 でも。それにしたって、その噂になった女子生徒というのがC子だなんて。
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426 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 05:18:35.90 ID:4NtVoCAK0 - 「しかも2回どころじゃなくて、何回も、らしい」
E君は付け加えた。 「…どんな奴と付き合ってたんだろう」 「相手は全部違ったらしいよ。上級生とか、あと援交もしてたらしくてさあ」 E君は、最初ほど俺に気を使った話し方ではなくなっていた。 俺はもう、すべてに対して「そっか」と乾いた返事しか出来なくなっていた。 それからE君とどう別れたかは覚えてないが、次の授業の教室に遅れて入って 教授の冷たい視線を受けても、俺はC子のことばかり考えていた。 朝、俺がホームの階段を上ったところで 俺を見つけて手を振るC子。電車の窓にもたれて、ぼーっと景色を眺めるC子。 目が茶色にきらきら光って、俺のどうでもいい話で笑ってくれるC子。
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427 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 05:19:41.04 ID:4NtVoCAK0 - 突然ジーンズのポケットに入れた携帯の着信音が鳴って、俺は慌てた。
マナーモードにしておくのを忘れた。 教授の顔がこわばる。ああ、この授業はもうダメだな、と思った。 C子からのメールだった。 「俺君、今日はちゃんと授業出てるんだね、偉いぞっ!昨日は本当にありがとうね。 おかげさまで、C子はもう元気だよー!一応お姉ちゃんにも言われたので 今日のところは大事をとって、ゆっくりおやすみします。 明日は午後の授業ないよね?もし俺君に時間があったら家に来ない? お昼ごはんでも夜ごはんでも、俺君の好きなものをごちそうしますっ。 風邪とか伝染る病気じゃなかったから安心して(笑)」 絵文字のたくさん入った、いつものC子のメールだった。
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428 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 05:21:36.43 ID:4NtVoCAK0 - 俺は胸が痛くなった。噂は噂だ。C子の口から本当のことを聞くまでは、
C子を好きだという自分の気持ちを大事にしないといけないと唇を噛んだ。 「ありがとう、体はもう本当に大丈夫?俺もC子に会いたかった。 昼に行っていい?野菜が食べたい」と、メールを送った。 なにそれ、とか、明日また連絡するね、とか、いつもなら楽しいはずのやりとりも どことなく胸が苦しかった。 アパートへ戻って、ちょうどアパート前の花壇を手入れしていた大家さんに 朝方からの気味の悪い出来事について話し、前の住人について聞いた。
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429 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 05:24:34.88 ID:4NtVoCAK0 - 「俺君の部屋に前住んでたのは、ダンスをやってるOLの子だったわよ。
今は留学してアメリカにいるから、女のストーカーってことは無いんじゃないかしらね。 でも気味が悪いわね。交番に知らせておくわ。その、パンツってある?」 「あ、ゴミ袋に入れたままです」 「交番に持って行くから貸して」 俺はゴミ袋から、今朝の下着を二重に包んだビニール袋を出して大家さんに渡した。 朝の光景を思い出すと、やはり胃の底が痛んで、吐き気がこみあげてくる。 大家さんは軍手のままそれを受け取り、交番へ歩き出した。俺は慌ててそれを追いかけた。 警官は袋の中身を確認すると、やはり顔をしかめた。 パトロールを強化してくれるということになり俺は少しほっとした。 警官に、俺が嫌がらせを受ける心当たりはあるかと聞かれたが 全く無いと答えた。別の警官は「ただの落とし物かもしれませんからね」と言った。 朝方の変な女の笑い声との関連も説明は出来なかった。大家さん曰く「不気味ね」。 本当にその通りだった。
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430 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 05:29:27.65 ID:4NtVoCAK0 - 大家さんに施錠はしっかりね、などとアドバイスを受け
一応浴室や押し入れに誰もいないのを確認してから バイトもないので俺はごろりと横になって、卒業アルバムを開いた。 実家に置いていこうかとも思ったけど、 見ていると楽しい気分になるので持ってきたものだ。 特にスナップ写真のコラージュで出来た、クラスごとのページが好きだった。 1人最低1回入るように編集されていて、 編集委員の女子のカラフルな落書きで埋め尽くされている。 うちの高校は3年次のクラス替えがないので、 つまり2年ぶんのクラスの思い出が詰まっているのだ。 俺の写真はAと一緒に写ったものだ。修学旅行先の沖縄でおどける俺と クラスメイトの後ろで、半目のAが腕を組んで立っている。 そのAの横には矢印が引っ張ってあって、 ピンクのポスターカラーで「ピエールマジキモイ(笑)」と書いてある。 Aは女子からピエール瀧に似ていると評判だったのだ。 俺たちの下には「俺と○、はしゃぎすぎ!」と落書きしてある。 俺はC子のいた3組のページを開いた。
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431 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 05:31:50.41 ID:4NtVoCAK0 - 黒髪で化粧っけのないC子が笑っていた。
C子と出会ったときにもアルバムを確認したので、この写真は知っている。 3組のスナップ写真のページをめくった。ここにもC子はちゃんといる。 C子が不登校?そんなわけない。 新聞作りか何かだろう、床に紙をしいて、C子がマーカーを持って笑っている。 その隣には、まだあどけない笑顔のE君がいた。 おい、なんでE君がいるんだよ。俺は目を凝らした。 すると、紙に「マゼラン世界一周」と書いてあるのに気付いた。 班ごとの世界史新聞の課題は、1年の5月初旬の授業でやったものだ。 廊下中に貼り出されたから、よく覚えている。
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432 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 06:00:25.11 ID:4NtVoCAK0 - 3組のページもカラフルなゴチャゴチャした落書きで飾られていた。
E君には「みんなのE!若い(笑)」と、ふちどられた文字が重なっていた。 そしてC子の下には、あっさりとした文字で 「C子サン、マジメ」 とだけ書いてあった。 ーーC子って変なんだよ。 E君の言葉を聞いた今となっては、にぎやかなページの中で、 そのシンプルな水色の文字が妙に浮いているように見えた。 C子サン、普通は使われない1年の写真、不登校、中絶、違和感。 警察のパトロールのおかげか、その日の夜は何も変なことは起きなかった。
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433 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 06:01:27.23 ID:4NtVoCAK0 - 「いらっしゃい!入ってー」
初めて入ったC子の部屋は、姉の趣味であろうピンクのヒョウ柄のクッションの上に C子の愛読書だという「アストロ球団愛蔵版」が置いてあったり、 ギャル趣味とサブカル趣味のカオスで なんだか落ち着きのない部屋というか、ゴチャゴチャしていた。 俺はやはりE君の話が気がかりで、生まれて初めて嗅ぐ 女の子の部屋の匂いを堪能するどころではなかった。 C子が用意してくれたのは、トマトと茄子とベーコンのパスタと小エビの乗ったサラダだった。 一緒に入ったイタ飯屋で、俺がうまいと言って食べたセットメニューに似ていた。 「部屋すごいでしょ。お姉ちゃんと私、全然趣味違うから」 俺の気持ちを見透かしたのか、C子が笑いながら言った。いつもよりはしゃいで見えた。 サラダを口に運びつつ俺はさりげなく切り出してみた。 「あのさ、実はこないだマンションに行ったとき、お姉さんを見かけたんだ」
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434 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 06:04:24.15 ID:4NtVoCAK0 - C子のフォークがちょっと止まって、それから「ああ」と、あきらめたように笑った。
「うん、メールの時間見て、すれ違ったんじゃないかなって思ってた。 お姉ちゃんは高校を出てからずっと、夜っていうか風俗の仕事をしてるの。 最初は本当に、事務員をしてたんだけど。でも、もう二十歳だし…」 「そっか、いや、あんまりC子と似てないなって思っただけだよ」 その頃は、agehaという雑誌もなかったと思うし 夜の仕事とかは今より世間体が悪いというか、地位はかなり低かったと思う。 だからC子が俺に「姉は事務員」と言った理由も理解できた。 キャバクラ嬢かなんか?と聞いたら首を横に振って 「デリヘルって知ってる?」と恥ずかしそうにC子は言ったので 俺は正直びっくりしたが、「お姉さんが何してようと気にしない」と言った。 C子は俺の言葉にぱっと笑顔を見せた。
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435 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 06:06:31.81 ID:4NtVoCAK0 - 食べ終わったらツタヤに行こうよ、と機嫌良くカラカラ笑うC子を見ていると
E君は本当はC子が好きで、ただの嫉妬から 俺にあんな趣味の悪い話をしたのではないかという思いがよぎった。 だとしたら本当に許せないことだ。 俺は腹をくくって、C子に直接「あの話」について確かめてみることに決めた。 「昨日さ、大学でさ、E君って元3組だろ。 ノート見せてもらったりして、けっこう話したんだ」 C子の顔から笑みが消え、口許が強ばった。 「E君、私のこと言ってたでしょう?」 「…う、うん」 C子がうつむいた。パスタ皿に涙がぽたぽたと落ちた。
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436 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 06:07:37.67 ID:4NtVoCAK0 - 「E君とは、高1のときに、入学してすぐ付き合ってたの。
でも何か違うなって思って、別れたいって言ったら すごく怒って、変な噂を流したり、いやがらせしてくるようになったの。 クラスの人もみんなE君の味方で、私、学校にも行けなくなって… 出席日数のことがあって、進める大学は他になくって…」 「C子、おい」 泣き崩れたC子の肩を俺は抱いた。昨日見たアルバムの写真が浮かんだ。 E君の写真は他にもあったのに、C子の写真はあの1年の写真1枚だけだった。 クラス一丸のいじめ。怒りで沸騰しそうな俺の頭にそんな言葉が浮かんだ。
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437 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 06:09:11.73 ID:4NtVoCAK0 - C子はしばらく俺の胸で泣いていた。時間が経つと俺はちょっと冷静になって
C子の部屋をキョロキョロと見回していた。 「あれ」 カラーボックスの上に置いてある、奇妙なものに目が止まった。 「あっ、あれがC子の言ってたお面か!」 「え?」 泣きながらC子は俺の視線の先を振り返った。 うら若き女性の家に似つかわしくない物がそこにあった。 2つの耳と口がせり出していて、流れるような筆づかいで狐の顔が書いてあるお面だ。 墨は薄くなり、古本のページに出るような 茶色い斑点のようなものが所々あって、年代物のように見えた。 ー「私、向井さんが好きすぎて、狐のお面も持ってるんです!」 向井さん、とは「ナンバーガール」というバンドのボーカルのことだ。 彼はライブなどで、狐面を被って歌っていた。 まだC子と付き合ってなかった頃、部室でC子が先輩とその話をしているのを聞いて、 単純かもしれないがそれがきっかけでC子は、俺の中でちょっと特別な存在になった。
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438 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 06:11:18.49 ID:4NtVoCAK0 - 中坊の頃「ディスコミュニケーション」という漫画が好きで
中華街の土産屋で狐面を買い、それを被っては印相を適当に結んで キャラに成りきっていた黒歴史のある俺がナンバガにハマらない理由がなく、 またC子のそういうオタク気質なところに親近感を覚えた。 そしてそれがわけもないスピードで彼女への恋心に昇華したというわけだ。 俺は抱き合ったまま、C子にその話をした。 C子は俺の胸に顔を埋めると、涙声で「ふふっ」と笑った。 俺はC子にキスをして、「麺伸びるぞ!」と明るく言ってテーブルに戻り、 C子の食べ残しまで全部たいらげた。 食後、俺の買ってきた不二家のケーキを食べ終わったところで C子は俺を引き止めたが俺はそれを断り、C子の家を後にした。 俺には行く場所があった。Eのところだ。
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439 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 07:00:44.81 ID:4NtVoCAK0 - 俺は昨日連絡先を交換したばかりのEの電話番号へ何度も発信した。しかし応答はなかった。
しつこく電話をかけてみたところ、出たのはEの母親だった。 何度も着信があったから出た、Eは昨日大学の階段から落ちて入院している。 Eは誰かに押されたと、うわごとのように繰り返していたらしい。 あなたは何か知っているのか。 切羽詰まった様子でEの母親は俺にまくし立てた。
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440 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 07:01:52.07 ID:4NtVoCAK0 - 規制解除間に合ってよかった…。
夜までに書き溜めできたら、また来ます。
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441 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 07:11:07.38 ID:4NtVoCAK0 - >>430
俺たちの下には「俺と○、はしゃぎすぎ!」と落書きしてある。 アルバム編集委員の女子とまともに話したことは無かった気がするが それぞれのあだ名や名前を書いて、みんなが仲良かったように見せるのも 編集委員の手腕の見せ所だ。 俺はC子のいた3組のページを開いた。 文章が消えてた。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ17【友人・知人】
447 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 19:33:33.54 ID:4NtVoCAK0 - 病院の白いベッドの中で、Eは憮然とした様子だった。
顔の半分にガーゼが貼ってあって、片目がふさがっていた。 布団から出した両手には包帯が指先までぐるぐる巻きにされていた。 「着地したときに手をついたみたいでさ。まあ、ただの検査入院」 「誰かに押されたって本当か」 「ああ、でも監視カメラから見えない位置だったみたいで、確かめられないんだ」 俺は、Eの胸ぐらを掴んでC子に何をした、と叫び、横っ面を1発殴る予定だったのが 敵の痛々しい姿に戦意を大幅に削がれてしまい とりあえずEのベッド脇の椅子に腰を下ろした。 何を言えばいいのかわからず、ようやく口から出た言葉はずいぶん情けない調子だった。 「お見舞い用意してないわ…」 Eは吹き出した。 「C子のことで来ただけだろ」 俺は頷いた。 「C子に、E君と会ったって話したんだ」 「それはアチャーだね。C子は何て言ってた?」 C子が先ほど泣きながら語った高校での出来事を俺は伝えた。
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448 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 19:35:08.13 ID:4NtVoCAK0 - 「……そうか。それを聞いて、お前は俺を殴りにでも来たわけか?
確かに、俺とC子は1年のとき付き合ってたよ。 C子から俺と別れたいって言ったのも本当。 俺はそれに対してキレたよ。だって俺はC子を助けたかったから、 C子の手を放したら、きっともっとC子がめちゃくちゃになると思ったから」 Eの目から、涙が一筋流れた。その様があまりにも悲しそうだったので、 俺はたじろぎつつもEに話の続きを促した。 「助けるって?」 「…C子はマジで変だよ。それしか言えない」 「3組でいじめはあったのか?」 「どうだろう。そもそもC子は学校に来なかったし。まぁみんな避けてたかな。 高2のときにC子の母親が教室に怒鳴り込んできたんだよ。うちの娘は 真面目な生徒のはずです、根も葉もない噂を流しているのは誰だ、って」 なるほど、アルバムの「C子サン、マジメ」はそれに対する皮肉だったのか。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ17【友人・知人】
449 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 19:36:35.79 ID:4NtVoCAK0 - そういえばC子から、姉以外の家族の話をあまり聞いたことがないな、と俺はふと思ったが
Eへの質問を続けた。 「中絶とか、その話は?」 「それは本当だよ。少なくとも2回は病院に俺が付き添ったから。誰の子かは知らない。 C子はすごく泣いていたけど、結局また同じことをしたんだ。 その理由がわけわからなくて、それで俺はC子に手をあげた。 そのときのケンカをクラスの奴が聞いてて、学年中に噂が広まったというわけ」 俺は、何も言えなかった。泣きじゃくるC子の華奢な肩の感触は、俺の手にまだ残っている。 C子を信じたい。Eは俺とC子を引き裂こうとしているだけだ。 自分の手のひらを見たまま動けないでいる俺を、Eは黙って見つめていた。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ17【友人・知人】
450 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 19:38:11.68 ID:4NtVoCAK0 - 「まあ、俺君はC子を信じたいだろうけどね。…あとそれにC子は」
Eは言いかけて、ふと宙を見つめてから次の言葉を飲み込んだ。そして、いきなり明るい調子で言った。 「全部俺君の好きにすればいいよ。俺は忠告はした。でも、 C子はもしかしたら変わったのかもしれないし。俺君の勝手だもんな。 ただ俺君が俺に殴りかかったりしないで俺の話を黙って聞いてるってことは 俺君自身もC子に何か違和感を感じてるんじゃないのかって思うけど。 まぁ俺はもう、C子には関わりたくないや。疲れたよ」 一気に話し終えたEがふぅ、と深いため息をついて目を閉じたのと ほぼ同時にEの母親が病室に入ってきた。 俺はEの母親に長居を詫びて、席を立った。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ17【友人・知人】
451 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 19:39:20.62 ID:4NtVoCAK0 - Eを殴りたいという気持ちは消え失せていたが、Eの言い分をそのまま信じた訳でもなかった。
俺は病室をあとにするとき、Eに犯人を見たかどうか聞いた。 Eは、顔は見てないと首を横に振り、そして眉をしかめながら続けた。 「たぶん女だよ。 カンカンカン、ってヒールの足音がうるさいなって思ってたら ドン、って後ろからぶつかられて、気がついたら体が宙に浮いてたんだ。 びびって逃げたんだろうな。あーあ。ちくしょう」 アパートに帰ると、俺の部屋のドアの前にはまた石が積んであった。 「なんだよ、くそ!」 俺はその石ころを蹴飛ばした。いくつかが階段に当たって、カーンと大きな音を立てた。 崩れた石の山の中の、あるものに目がいった。 一番下のほうの石に、まだぬるぬると濡れた赤い血のようなものと、 べっとりと数本の髪の毛らしきものが貼付いていた。俺はしゃがみこみ、 恐る恐るその髪の血に汚れていない端をつまんで拾い上げた。 人工的な金色の光を放つそれは、人形の長い毛のようだった。
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452 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 19:48:38.76 ID:4NtVoCAK0 - スレ住人に確認。ここって連載禁止のスレですか?
さるさん規制もあって(wikiで調べてあるから説明の転載は不要です) 一気に投下できないので、マイペースで投下していきたいのですが。 さすがに平日何時間も2chに張りついて大量投下できないので。 自分が連載okのスレに移動するか、完結するまでNGにしておいてもらうかの どちらかしかないと思うんですけど。 書きためっていうか、一応完結してあるものを 2chで読みやすいように改行したり書き直したりしつつ投下しております。
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458 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 20:05:03.25 ID:4NtVoCAK0 - >>453
ある意味1話分の話なんですけども、いかんせん長いので 今が話の真ん中くらいで、完結までまだかかりそうなんですよね。 もうちょっとガーッとテンポよく投下できるかと自分でも思ってたんですけど 規制で1時間待ってなきゃいけなかったりするので。 迷惑じゃなかったら、完結までせいぜいあと2、3日くらいなので、 おつきあい願いたいです。
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462 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 20:07:24.61 ID:4NtVoCAK0 - >>454-457
気付かず割り込みすいません。あ、続き待ってました。
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519 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 22:32:59.58 ID:4NtVoCAK0 - 投下していいタイミングがわからんので、投下します。
場面転換で区切るようにしてますが、読みづらかったらNGにしていてください。 さるになったら1時間投下できないので、早め早めに出したいと思います。 とりあえずここで続けていいよと言う意見に甘えます。
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520 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 22:34:13.36 ID:4NtVoCAK0 - 「…もう勘弁してくれよ」
俺はその血の付いた金髪を放り捨て、部屋に入ろうとした。 頭上で、アパートの電灯がジジジと音を立てた。 ふと視線を感じて振り返ると、 大家さんが、少し離れた場所に立って俺を見ていた。 「あ、こんばんは…」 さっきの俺の行動がゴミのポイ捨てに見えたのだろうかと思ったが、とりあえず頭を下げた。 「俺君…」 大家さんに、いつもの愛想のいい笑顔はなかった。 「俺君、おかえりなさいね」と言って、軽く俺に頭を下げると家の方向へ戻って行った。 頭が疲れていた。 俺はシャワーを浴びることにした。 夜だというのに、 そういえばまだ全然腹が減ってないのに気付いた。 そうだ、昼飯はC子の部屋に初めて行って、 C子の作ってくれた料理を食べたんだった。 だが、鏡に写る俺の顔は無表情で、ちっとも楽しくなさそうだった。
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522 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 22:35:24.91 ID:4NtVoCAK0 - 「あー、なんだよもう!」
叫びながら、俺はわしわしと乱暴に髪を洗った。そのときだった。 ぎしっ、と、浴室の向こうの部屋で 床が大きく軋む音が響いたのだ。 俺はシャワーを止めて、息をひそめた。 …ぎしっ。 また、同じ音がした。 普段なら、「ボロいアパートだもんな」と気にしなかっただろう。 だが、俺の脳裏には、こんなときに限って あの朝方の女の笑い声がよみがえってきた。 浴室のドアは閉め切っている。アルミ製の段になった通気口が下部についているだけの プラスチックのドアなので、外の様子は見えない。
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523 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 22:37:44.08 ID:4NtVoCAK0 - 俺はとりあえずシャワーを再び出して、
ドアノブの簡素な鍵を、音を立てないようにそっと回して閉めた。 そしてドアから目を離さないため、エビ反りのような態勢で髪に付いた泡を流した。 シャンプーが目に入って痛かったが、怖くて目を閉じることが出来なかった。 心臓がバクバクと音を立てているのがわかった。 気のせいだ。きっと気のせいだ。 再び狭い浴室が蒸気で曇っていく。俺はドアの通気口に目をやった。 通気口の隙間からは、グレーのカーペットと、散らかしたスウェットの裾が見えた。 そんないつもの俺の部屋の光景に、音もなく踏み出したのは ペンキのような毒々しいショッキングピンクに爪を塗った、妙に緑がかった裸足の足だった。 「……!!」 俺は声にならない叫びをあげた。 叫んだつもりだったが、喉が締められたように苦しくて 声が出ていなかった。緑色の足は浴室の前で10本の指を揃えて止まっていた。
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524 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 22:39:06.86 ID:4NtVoCAK0 - 明らかにそれは、俺の部屋にはいるはずもないもの、見たこともないものだった。
浴室は窓もなく逃げ出せる手段はなかった。大声で叫ぶか、壁を叩けば 隣人や大家さんが気付いてくれるだろうか。俺は必死で頭を巡らせた。 ダン! ドアが叩かれた。まるでドアを殴っているかのような衝撃だ。 ダン!ダン!ドアノブもガチャガチャと回される。 安いプラスチックのドアだ。乱暴に回せば、壊れるのなんか時間の問題だ。 ダン!衝撃のたびにドアがたわむ。 頬に熱いものが流れていった。俺は泣いていた。なんで俺がこんな目に合うんだ。 「誰だ、…誰だああ!」 必死に俺は叫んだ。すると、ドアを叩く音がぴたりと止んだ。 シャワーのお湯が落ちる音だけが響いていた。あとは静寂だった。 「うふふ、俺君、私だよ。C子だよ」
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526 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 22:40:22.73 ID:4NtVoCAK0 - その声を聞いて俺は、全裸なのも構わず、飛び出すようにドアを開けた。
C子が「わっ、びっくりした」と言いながら、そこに立っていた。 ショッキングピンクに塗った爪の、C子の白いつま先から にこにことした顔まで、俺は何度も眺め回した。 「…C子?」 「俺君」 C子は、シャワーで濡れたままの俺の体に抱きついてきた。 そして、俺の頭を両手で抱え、呆然とする俺に唇を強く押しつけ、舌を絡めた。 「俺君、私、あなたと子供を作りたいの」 C子は俺の首筋にキスを落とし始めた。俺の頭は状況が飲み込めず混乱していた。 なぜここにC子が?さっきの足は何だ?鍵は?なんでここにC子が? C子は自分のスカートをまくり上げ、ねっとりとした白い太ももを俺の足に絡め 股間を俺のものへ押しつけた。その太ももの脂肪のひんやりとした感触と、 C子の下着の奥の肉の柔らかさに、俺の理性は弾けとんだ。 俺はC子の体を抱きかかえて押し倒した。 ここ数週間バイトで忙しくて溜まっていたのもあったし、 E君の話や、先ほどの恐怖体験のショックで 俺の頭はなぜか「どうにでもなれ」と繰り返していたのだ。
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528 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 22:41:31.64 ID:4NtVoCAK0 - C子の白い胸に顔を埋めると、つんとした汗に甘い何かが混じったような匂いがして
俺は獣のようになってC子の体にむしゃぶりついた。 そしてそこからどうなったのかは、正直覚えていない。 ふと気付くと、霞む視界の中で、俺の上でC子らしき女性が腰を振っていた。 「C子…」 朦朧とする頭で、俺はC子の名前をつぶやいた。すると、C子は再び 俺に多いかぶさって、キスをしてきた。俺はされるがままに目を閉じて、C子の舌を味わった。 C子の舌は生き物のように動いて、俺の舌を嬲った。 やがて唇が離れ、目を開いた俺が見たものは 真っ黒い空洞だった。 人間の顔の、目と鼻、口があるはずの場所に、 真っ黒い穴がぽかりと開いている。他には何もなかった。
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529 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 22:43:19.48 ID:4NtVoCAK0 - 俺は反射的に、俺に覆いかぶさっている体の肩を掴んで引き離した。
力を込めて掴んだ肩の肉に、俺の指がずぶりと入り、トマトの皮が剥けるみたいに 皮膚と肉がずるりと裂けて、黄色い脂肪と血の混じったような体液が溢れた。 化け物が両手で俺の顔を掴んだ。眼前に迫る化け物の体と乳房は、 例えるなら治りかけの打ち身のような、黄色いあざに青と赤のうっ血の斑点が浮いている そんな色をしていた。俺は化け物から必死で体を離そうとしたが、 下半身が重くて体を動かない。 化け物の下腹部に目をやると、化け物の腹の下には互いの陰毛が茂っていて 俺と化け物の体は繋がっていた。俺と化け物の合わせた腹の間から 女の白い指先が這うようにゆっくりと出てきた。 そしてその隙間から、C子によく似た女の目が俺の顔を覘いた。 「うああああああ!!!!!うあああああああ!!!!!」 俺は断末魔のような叫びをあげた。叫ぶことしかできなかった。 意識が遠のいても、ずっと叫んでいたと思う。 次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
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551 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 23:16:21.75 ID:4NtVoCAK0 - 俺の腕からは管が伸びていて、その管の先には透明な液体の入ったパックが吊ってあった。
「あ、起きた?」 懐かしい声。久しぶりに会う母親だった。ずっと俺の傍らで座っていたらしい。 読んでいた文庫本を俺の体の上にばさりと置くと、窓際に立ちカーテンを勢い良く開けた。 まぶしいオレンジ色の夕焼けが、部屋を照らした。あんた丸1日寝てたのよ。母が言った。 「点滴はただのブドウ糖。あんた、家に全然連絡入れないと思ったら、 バイトばっかりしてたんだって?倒れるまでバイトなんて… 本当にバカなんだから。仕送り充分あげてるでしょ?」 「…うん」 どうやら俺は、部屋で全裸で倒れているところを大家さんに発見され、救急車で運ばれたらしい。 普段何を食べているのかとか、学校にはちゃんと行っているのとか、 いつもの調子でガミガミと言われて、情けなくなった俺は 点滴の繋がった片腕だけ出したまま布団をかぶった。 母親は気にせず、また俺の隣に腰を下ろして続けた。 「ねえ、あんたさ、大学から遠いかもしれないけど、やっぱり家に帰ってきなさい」
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553 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 23:17:28.68 ID:4NtVoCAK0 - 「え…」
俺が布団をさげて、母親を見上げた。 その表情は優しくて、そしてすごく真剣な目で俺を見ていた。 「あんた、疲れてるのよ。今回のこともそう。 大家さんにも最近のあんたのこと聞いたわ。お母さん、心配になっちゃった。 ね、帰ってきなさい」 母親が俺の髪を撫でて繰り返した。俺の目から涙がこみ上げた。 「…うん」 日常に戻りたい。俺が過ごしてきた日常に戻りたい。そう思った。 倒れる前の数日間の出来事は、母の顔を見ているとすべて夢だったのではないかと そんな気がしていた。 母親が微笑んだ。 「C子ちゃんも、あんたのこと許してくれるって言ってるからね」 「…は?」
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ17【友人・知人】
555 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 23:20:49.08 ID:4NtVoCAK0 - 母親の持ってきた服に着替え、制止する母の声も聞かず
俺はC子のマンションへ走っていた。 ずっと寝ていたので、体中の関節が痛かったが 俺はとにかく走っていた。 喉の奥がグルグルとうなり声を自然とあげていた。 携帯が手元にないのでC子に連絡する手段はなかったが C子はマンションにいるはずだと、そう思った。 俺の叫び声を聞いて不審に思ったアパートの住人が 大家さんを連れて俺の部屋のドアを叩いたところ、 乱れた衣服のままのC子が、大家さんに泣きついたという。 「言い争いしていたら、俺君が逆上して、叫びながら襲いかかってきて」 C子はその前にも、俺が大家さんと行った交番にも行き 「下着を返してください」 泣きながら警官に頼んだという。 俺がC子の汚れた下着を盗んで、自作自演で騒ぎを起こしたのだと 大家さんは母親に説明したそうだ。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ17【友人・知人】
557 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 23:21:53.36 ID:4NtVoCAK0 - 区切りがいいところなので、今日の投下はここまでにします。
おつきあいありがとうございました。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ17【友人・知人】
566 :Aの友人 ◆NBTf.k/kK8s5 [sage]:2011/06/09(木) 23:27:50.40 ID:4NtVoCAK0 - >>553
>俺が布団をさげて、母親を見上げた。 俺は の間違い。でもそもそも布団をさげて、って日本語が変かも失礼
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