- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
869 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 14:23:20.70 ID:QZeDss5L0 - [お勝手さん]
1/15 「真奈美、ちょっと相談があるんだけど…」 ある土曜の朝、そう言って友人のハナに呼び出された私。 またダイエットの話かな、と思ったけど、何やらハナの様子がいつもと違う。 近くの公園で会った彼女は、かつて無い程に深刻な顔をしており、ただ事じゃない雰囲気だ。 私「どうしたの…?」 2人でベンチに座り、恐る恐る聞いてみる。 するとハナは、こう答えた。 ハナ「出たのよ…。お勝手さんが、出たの…」 私「えっ…!?」 お勝手さんが出た? そんな…それって――… 私「――なにそれ」 初耳だ。 私の肩透かし的な返事に、ガクッとするハナ。 さすが、良いリアクションをしてくれる。
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870 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 14:27:24.12 ID:QZeDss5L0 - 2/15
ハナ「ん、もう…。知らないのぉ?」 不満気に口を尖らせるハナ。 私「知らないわよぉ…誰のこと?」 ハナ「誰って訳じゃなくて…しょうがないなぁ」 やれやれといった様子で説明をしてくれる。 ハナ「あのね…夜中寝ていて、ふと目が覚めると、真っ暗な部屋の中に誰か居るような…って、そんなことってない?」 私「んー…」 ハナ「近くに誰かが居るような気配とかさぁ」 私「むぅー…」 ハナ「…無さそうね」 私「うん」 ハナ「…」 ハァ、とため息をつかれる。 なによ。無いんだから仕方ないじゃない。 ハナ「んまぁ、とにかく、そういうのがあるのよ」 私「へぇ…」 ハナ「そーゆーのをね、お勝手さんが居る、って言うの」 私「へへぇ…」 うん、初耳だ。 きっと、ハナが…又はその知り合いの誰かが、勝手につけたものだろう。 “お勝手さん”だけに… ムフフ。
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871 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 14:32:34.62 ID:QZeDss5L0 - 3/15
ハナ「もう、聞いてるの?」 私「はい、聞いております」 ハナ「嘘。さっきからニヤニヤしちゃって…」 私「アハハ…。それで、その勝手な人がハナのとこに来たのね?」 ハナ「ううん」 私「あら?」 何食わぬ顔で、首を横に振るハナ。 今度は私がガクッとしてしまう。 ハナ「出たのは、従姉妹のおねーさんのとこよ。都内で1人暮らししているOLさんなんだけど」 私「へぇ…」 話の流れ的に、自分のとこに出たのだろうなと思っていたけど、どうやら違うようだ。 まったく、紛らわしいなぁ。 ハナ「それでね、真奈美にお願いがあるの」 私「私に?」 ハナ「うん。あのね――…」
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872 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 14:41:08.98 ID:QZeDss5L0 - 4/15
―― バスに揺られること約1時間。 とあるバス停で降り、私は1人歩いていく。 行き先は、牧村さんの家だ。 ハナからのお願いとは、「除霊をして欲しい」とのことだった。 その…“お勝手さん”とやらの。 ハナの従姉妹は、よくある1Kの間取りの部屋に住んでおり、一昨日の夜にお勝手さんが出たというのだ。 深夜、寝苦しくて目覚めた従姉妹さんは、水を飲もうと思い台所に向かった。 台所は玄関を入ってすぐの場所にあり、そこで水を飲んでいた彼女は、ある異変に気付く。 ――玄関に、見知らぬ靴が置いてあったのだ。 錯覚かと思い何度も見直したけど、やはりそこにある。 まったく知らない靴。ボロボロの男物の靴。 彼氏のものでもない。 それが、そこにある。 彼女はパニックに陥りそうになるが、なんとか踏み止まる。 ハナ曰く、踏み止まれたのは彼氏さんとの愛の力だとか何とか言っていたけど、何のことやら。
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873 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 14:48:33.98 ID:QZeDss5L0 - 5/15
彼女は落ち着いて、玄関の鍵を確認する。 …鍵は掛かっている。しかもチェーンまで掛かっている。 これはおかしい。明らかに異常だ。 この靴の主は、どうやって部屋の中に?まさか…人じゃない? そんな”モノ”が部屋の中に居るのに、これからベッドに戻って、再び眠ることなんて、どう考えても無理。 ならば、やるべきことは1つ―― 彼女は電光石火の早業(きっと多少の誇張あり)で鍵とチェーンを開け、表に飛び出す。 そしてそのまま、交番まで猛ダッシュしたらしい。 若い女性が深夜、寝巻き姿で猛ダッシュしていたら…それはそれで、なんだか怖い気もするけど。 そして交番に着き、彼女は警官を連れて部屋に戻ってくる…と。 先ほどまで玄関にあったはずの靴は既に無く、ひょっとして強盗かと思って部屋の中を調べてみても、お財布やら金目のものは全て無事で、盗まれた物は何一つ無かったらしい。 そんなことから、従姉妹さんは…ハナも、これは霊の仕業だと結論付けた。 まぁ、それもそうかも知れない。 だって、鍵を開けずに部屋の中に入るなんて、普通の人間にできる芸当じゃないもの。 どこかのネコ型ロボットでも居ないと無理だ。 …でも、ハナは1つ大きな間違いをしている。 それは――私のお父さんに、除霊をお願いしてきたことだった。
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874 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 14:54:37.82 ID:QZeDss5L0 - 6/15
確かに往来会では、そういった除霊活動をしていた。 でも、既にあの会は解散しているし、そもそもお父さんには、そういった事は無理だろうと思う。 そして、何より重要な問題。 それは…今のお父さんの頭の中は、沙織さんの事で一杯だということだ。 往来会の件から約1ヶ月。 …つまり、お父さんと沙織さんがお付き合いを始めてから、約1ヶ月ということになる。 そんな2人は、新しい職場でも一緒――沙織さんが社長さんだから、当たり前だけど――なので、平日は毎日顔を合わせているだろうに、休みの日にもデートを重ねている。 まったく、普段もちゃんと仕事をしているのかと心配になる。 沙織さんもいつもはキビキビしているけど、2人きりになると何やら甘えているみたいだし…。 大人の事情はよく分からないけど、はやく結婚しちゃえば良いのに、なんて思う。 そうしたら、お父さんから沙織さんを奪い返さなきゃ。 私も、もっと沙織さんと遊びたいし…一緒にしたいことが、たくさんあるもの。 それとそれと、弟か妹も欲しいなぁ。 沙織さんの子供なら、それはそれは可愛らしいだろう。 そんな子を、私の忠実な僕として…ムフフ。
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876 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 15:03:02.05 ID:QZeDss5L0 - 7/15
なんてことを考えているうちに、牧村さんの家に着く。 私は、お父さんや沙織さんに相談するのは止めて、牧村のお婆ちゃんに相談することにしたのだ。 何しろ…今日は土曜日で、2人は目下デート中。 お父さんに気を使っている私。なんて良く出来た娘なのだろう。 後でよーく言い聞かせないと。 私「こんにちはー」 お店の引き戸をガラガラと開けて、私は中に入っていく。 店内には色々なものが置いてあるけど、見た感じ、お守りが多いようだ。 何か、素敵な異性との出会いが訪れます、みたいなのは…ないだろうなぁ。 牧村「あがっておいで」 と、奥から牧村さんの声が聞こえてくる。 相談したいことがある旨は、先に伝えておいた。 私「はーい」 返事をしながら、私は奥のお座敷へと行き…そこで、ハッとする。 異性ではないけれど、素敵な出会い。 そこには牧村さんの他に、もう一人、女の人が座っていた。
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877 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 15:06:52.29 ID:QZeDss5L0 - 8/15
初めて見る人だ。 何だか、静かな佇まいで… 牧村「ちょっと先客が居てね。初対面…だね?」 私「あ、はい」 私はお座敷にあがり、ちょこんと正座をして挨拶をする。 私「はじめまして、汐崎真奈美です」 そう言ってペコリと頭を下げると、女の人は、ニコリと笑って挨拶を返してくれる。 女の人「はじめまして、雨月舞です。よろしくね」 私「はい、こちらこそー」 うわぁ…。綺麗な人だよぉ。 沙織さんと”系統”は違うけど、負けず劣らずの美人さんで…笑顔を見ると、何だかドキっとしてしまう。 これは、ハナに自慢しちゃおう。 凄く綺麗な人と知り合いになった、って。 名前は、雨月―― …あれ?
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878 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 15:10:18.86 ID:QZeDss5L0 - 9/15
私「あのぉ…」 舞「?」 私「もしかして、雨月さんって、弟さんとか…」 舞「えぇ。光一とは、一度会っているそうね」 やっぱり。 ちょっと珍しい苗字だし、牧村さん繋がりだし。 あの人、こんな綺麗なお姉さんが居たんだなぁ… 羨ましいなぁ… 沙織さんと2人で並んだら、凄いだろうなぁ… 会わせてみたいなぁ… そこに私も混ざって… 牧村「真奈美さんは、何か相談事だって?」 私「…あ、はい」 少し妄想の世界に入ってしまった私に、牧村さんが聞いてくる。 いけないいけない。相談に乗ってもらう側なのに。 牧村「舞も居るけど、構わないね?」 私「あ、それはもう、ぜーんぜん。舞さんもぜひぜひ」 どさくさに紛れて名前で呼びながら、お願いをする。 よく分からないけど、ここに居るってことは、きっと霊感を持っている人に違いない。 それなら、是非とも相談に乗って欲しいところだ。
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879 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 15:15:33.06 ID:QZeDss5L0 - 10/15
私「あのぉ、私の友達にですね――」 私は、ハナから聞いた話を2人にする。 親友の従姉妹さんのところに、お勝手さんが出たんです、と。 …もちろん、お勝手さんの説明も含めて。 すると―― 牧村「まぁ、なんとも怖い話だねぇ…」 …と、普通の反応が返ってくる。 私「そうなんですぅ。で、だから除霊をしてほしい、なんて頼まれちゃって…」 ここで、すかさず困った顔。 助けて欲しいなー、なんて空気を出してみる。 牧村「除霊ねぇ…」 牧村さんが舞さんを見ながら、呟く。 私「玄関だけじゃなく、窓もしっかり閉まっていたそうなんです。…って、そもそも部屋はマンションの5階だそうですけど」 牧村「ふむ…」 私「あのぉ、何とかなりませんか?すっごく困っているみたいで…」 初対面で図々しいかもしれないけど、舞さんにもお願いしてみる。 すると舞さんは一言、こう言った。 舞「警察に任せるのが一番ね」
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881 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 15:22:35.24 ID:QZeDss5L0 - 11/15
私「警察ですかぁ…」 ガックリ。 なんとなくいけそうな気がしたんだけど、初対面でいきなりそんなお願いは聞いてくれないか。 んじゃあ仕方ないから、ここはひとつ沙織さんにお願いしようかなー、なんて思っていると… 舞「真奈美ちゃん、ピッキングって知っているかしら?」 私「…はい?」 ぴっきんぐ。ピッキング。 私「あの、針金とかでグイグイって鍵を開けちゃうやつですか?」 舞「そう。多分それだと思うの。お勝手さんの正体」 私「うーん…」 どうなんだろう。その辺は警察も調べていると思うけど… 私「でも、チェーンは無理じゃないですか?」 そう。鍵は開いても、チェーンがある。 舞「チェーンも開けられるのよ。タイプによるけど」 私「へぇー…」 初耳だ。そういうものなの? …でも、何でそんなこと知っているのだろう、なんて思ってしまう。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
882 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 15:26:24.84 ID:QZeDss5L0 - 12/15
私「じゃあ、ピッキング強盗?でも、盗まれたものは無いって…」 舞「物を盗むことが目的とは、限らないわね」 私「え…」 物を盗む以外に、部屋に侵入する目的? …うわわ。 何だか、変なこと考えちゃった。 従姉妹さんは若いOLさんって言ってたし… 舞「昔、そうやって女性の部屋に忍び込んで、捕まった男の人がいるわ」 私「…」 何だかイヤな事を想像してしまった私に、舞さんが言う。 舞「その男も、部屋に忍び込んでから鍵とチェーンを閉めて…でも何も盗らずに、寝ている女性に触れもせず、いつもそこでしばらく過ごしてから、帰っていくの」 私「うわ…」 気持ち悪い… 舞「一体何が目的だったのかは、その男が捕まってから分かったわ」 私「…何ですか?」 舞「その男の住んでいた部屋から、寝ている女性の写真が大量に見つかったの」
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
883 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 15:29:03.69 ID:QZeDss5L0 - 13/15
私「…写真」 舞「そう。それが趣味だったみたいね」 私「趣味って…悪趣味ぃ…」 口が裂けたって、人に言えないような趣味だ。 舞「被写体に近付きたくて、より近くから写真を撮りたくて…ただそれだけの為に、部屋に侵入していたらしいわ」 私「…」 やって良い事と悪い事の区別がつかないの…? それとも、それをやって良い事と思っていたとか、そういうことなのかなぁ…。 相手に何の危害も加えないから、とか考えて。 バレなければ良いって問題じゃないのに… …と、そんな嘆かわしい気持ちになったとき、ちょっとした疑問が浮かぶ。 私「あのぉ…、じゃあ何で、中に入ってから鍵を?」 何か、こう…その…乱暴な事をするなら、その理由も分かる気がする。 すごくイヤで、考えたくもないけど、まだ分かる。 それは、相手を逃がさないために、だ。 あぁもう、最低…
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
884 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 15:32:08.86 ID:QZeDss5L0 - 14/15
舞「鍵をかけていた理由は、単純なものよ」 私「単純?」 舞「部屋に入ったら、鍵をかけるのは当たり前。ましてや、若い女性が1人で暮らしている…しかも寝ているのに、鍵を開けたままにするなんて有り得ない――男はそう考えていたそうよ」 私「は…?」 ポカーンとしてしまう…と同時に理解する。 あぁ、オカシイ人なんだ。普通に考えちゃいけないんだ。 舞「真奈美ちゃんは…」 舞さんが続ける。 舞「深夜、部屋の中に幽霊が居るのと、そんな考えの人が居るのと、どちらが怖い?」 私「う…」 考えるまでもなく、後者。断然、後者。 やだやだ。そんなの気持ち悪いよぉ… 舞「その従姉妹さんの件では、警察もきっとその方向で調べていると思うから…すぐに解決すると思うわよ」 アワアワしてしまった私に、舞さんがそう言ってくれる。 これは、ハナにもしっかりと言っておかないとな。 幽霊じゃなくて、もっと怖いことかも知れないぞ、と。 ちょっと脅すように言ってやろうっと。 そうと決めた私は、早速ハナの元に向かうため、2人にお礼を言ってから牧村さん宅を後にした――。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
885 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [saga]:2011/04/04(月) 15:34:39.62 ID:QZeDss5L0 - 15/15
―― 私「随分と脅かしたものだねぇ…」 汐崎真奈美が帰ってから、私は舞に言う。 舞「…そう考えて、防犯の意識を高めるのが普通だと思います」 私「んまぁ、そうだろうねぇ」 舞「幽霊の仕業だと言って、その辺を疎かにしては…」 私「あの子の体験したことを考えると、そういう方向に向かいそうかね」 舞「…はい。私が言うことではなかったかも知れませんが…」 少し申し訳なさそうにする舞。 そんなに気にするなら言わなければ良いのに、なんて思うけど…言わずにいられない性格なのだろう。 私「まぁ、良かったと思うよ。気にしなさんな」 最近、舞は変わってきた。 以前に比べて…とても”人間らしく”なってきたと思う。 それが強さになるか弱さになるか、それはきっと本人と…周りの人達次第だろう。 私「それじゃ、後はこっちでやっておくよ。ご苦労さん」 舞「…では、お願いします」 そう言って、舞も帰っていく。 1人残った私は、舞が持ってきたボロボロの靴の除霊を開始した。
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