- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
231 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 13:45:14 ID:aXGJJGd00 - [激流]
1/15 炎の中、私は今日何度目かの眠り――失神から、目を覚ました。 あ、いけない… 慌てて真奈美ちゃんの様子を窺う。 …良かった。どこにも火は移っていない。 私はホッとして、彼女を抱き寄せる。 辺りには煙が満ちてきて、伏せていないとどうしようもない。 もはや立ち上がることができない以上…ここから出る術は無くなってしまった。 もし… 私の体が燃え出したら、私は真奈美ちゃんから離れないといけない。 燃え移ったら、大変。 そうやって、燃えて…灰になっても、私はこの子を守れるかな? 死んでしまったら終わり?それとも、霊になって守り続けることはできる…?
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
232 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 13:47:21 ID:aXGJJGd00 - 2/15
炎に囲まれ、その熱さにジッと耐えながら、私は以前、祐一さんを家に招いたときの事を思い出していた。 「どこかで、少しお話できませんか?」 夜遅い時間、電話で突然そんな事を言われたときは、心臓が止まるかと思った。 すぐに頭を切り替えて、”本部長”として対応したつもりだったけれど、あんな時間に男の人を家に招くなんて、軽率だと思われたかも知れない。 彼が家に来るまで、急いで掃除をして、着替えて、お酒の準備をして…でもきっと飲まないだろうから、お茶の準備もして。 あんなにドキドキしたのは、生まれて初めてのことだった。 でもそうやって期待し過ぎたせいで、実際の用件を聞いたとき…私は彼に、酷い態度をとってしまった。 事件から手を引かせるためとは言え、彼が何よりも大切に想っている真奈美ちゃんのことで、あんな風に脅して…。 上手くないやり方。 冷静さを失っていたのかも知れないな…と、そんな事を思う。
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233 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 13:50:14 ID:aXGJJGd00 - 3/15
真奈美ちゃんは相変わらず眠ったまま、目を覚ましそうにない。 少し心配だけど…今は、それが幸いな気もする。 炎に包まれて、怖い思いも、苦しい思いもしないで済むから。 でもひょっとしたら…彼女は今、怖い夢を見ているかもしれない。 夢の中で、炎に焼かれているかもしれない。 苦しんでいるかもしれない。 それが気掛かりだ。 こうして抱きしめてあげれば、怖い夢から解放される? 優しく包み込むことで、見る夢は変わるもの…? 分からないけど、私にはもう、それくらいしかできない。 後は…そうだ。 子守唄でも歌ってあげようかな――… …と、そんな事を考えていたときだった。 私の目の前に、”それ”が現れた。
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234 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 13:54:12 ID:aXGJJGd00 - 4/15
白い影。 そんなものは見たことがないけど、正にそれだった。 横になっている私の目の前に、白い影が立っている。 そして、それが徐々に人の形を成していき…やがて、女性と分かる形になる。 炎の中に浮かぶ、白いシルエットのような存在。 …幻覚かな? それとも、これがあの…”お迎え”というもの? それを見上げたまま、ただ漠然とそんな事を思っていると…頭の中に、声が聞こえてくる。 声の主は…目の前の影だ。 そして、その声を聞いて、何故か分かる。 これは、生きている人間の声だ。 でも、ここには居ない。居るのは…影?魂? これは――生霊? その声は、私に何かを伝えてくる。 しかし意識が混濁していて、聞こえてはいるけど、理解ができない。 でも、その中から1つの言葉を聞き取ったとき…私の頭の中で、何かが弾ける。 そして私は、すぐに行動に移った。
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235 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 13:58:37 ID:aXGJJGd00 - 5/15
―― 往来会本部前。 そこには消火活動を続ける数名の消防隊員と、大勢の野次馬が居た。 「火災が発生してから、建物の外に逃げ出してきた」という往来会の人の話では、中には誰も居ない、ということだった。 火は建物全体に広がっており、その様子から、出火元は1箇所ではなく、複数の箇所であることは明らかだった。 そしてそのことからも、消火を行っている隊員の多くは、これは放火によるものだと確信していた。 そんな中…。 燃え盛る炎に紛れ、微かな音が聞こえてくる。 隊員達は手を止め、その音に耳を澄ます。 野次馬達も声を潜め、その音を聞く。 それは、異常を告げる音。 助けを呼ぶ音。 ――汐崎真奈美が父に言われて持っていた、防犯ブザーの音だった。
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236 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 14:00:48 ID:aXGJJGd00 - 6/15
その音の意味を悟った消防隊員が、隊長に指示を仰ぐ。 隊長は逡巡する。 往来会の人は、「中に人は居ない」と言っていた。 ならばこれは、何かの拍子で、ひとりでに鳴り出した音では…? 人が居ないと言われているのに、炎の中まで確かめに行く必要があるか…? しかしそのとき、周りを囲む野次馬の中から、声があがる。 「中に誰か居るんじゃないのか?」 それと共に辺りがざわめき始める。 誰も居なければ、それで良い。しかし、もし居たら…? 隊員の誰もがそう考え、覚悟を決める。 そして、隊長の指示の元、数名の隊員が建物内に突入していった。 聞こえてくる音の、発信源を求めて。 …後日のニュースでは、こう報道される。 社団法人往来会のK県本部が全焼。 放火の疑いあり。 …死者1名、と。
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238 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 14:08:11 ID:aXGJJGd00 - 7/15
―― 源川会長との短い話を終え、私は隣の部屋に戻ってきた。 すると、待っていた副会長が私をジッと見つめ、こんな質問をしてくる。 副会長「秘密の話でもしていましたか?」 別に、秘密がどうのという話でもなかったので、よく意味が分からなかった私は答える。 私「いえ、特には…」 それを聞き、しばらく私を見つめた後、副会長は満足気に微笑む。 …なんか、嫌な笑顔。 でも私は、それどころじゃなかった。 頭の中で、色々なことがグルグル回っていた。 優理ちゃんのこと。 出会って、すぐに仲良くなって、キーホルダーを交換して… 最期には、あの子にとって一番大切だったもの――ラット君を預かった。 一緒に居た時間なんて、ほんの僅かの間だ。 でも私は、あの子が何を望んでいるか、何を喜んで、何を悲しむかを知っている。 源川さんと話をして、それが良く分かった。
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239 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 14:11:35 ID:aXGJJGd00 - 8/15
佳澄のことだって、そうだ。 きっと、この世界で「生きていた彼女」の事を一番良く知っているのは、私。 次に、古乃羽かな?そういう記憶力じゃ、負けないんだから。 では…彼は?彼のことは? 副会長「では、こちらに」 副会長さんがそう言って、私を部屋の中央――壷が置いてあるところまで連れていく。 背中に手を添えて…まるで、もう逃がさないとでも言いたげに。 でも、そんなことはどうでもいい。私は、もっと考えないといけない。 私…私は―― …彼のことを知らない。 何でなの…? 付き合っていたのに。 彼のこと、あんなに好きだったのに。 何で、もっと…彼のことを知ろうとしなかったのだろう。 彼が生きているうちに、何でそれができなかったのだろう…。 …あぁ、だから、なんだ。 やっと分かった。 だから私は、こんなにも彼に会いたのね。 彼のことを、知りたいからなのね? …でもそれって、なんて――ひどい話なの? そんなの、生きている人間のエゴじゃない――
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240 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 14:16:49 ID:aXGJJGd00 - 9/15
副会長さんが箱から壷を取り出し、座っている私の目の前に置く。 あ、あの壷…蓋が付いているんだ、なんてことを、頭の片隅で思う。 副会長「さぁ、どうぞ。蓋をお取りください」 私を促す副会長。 そんな私の頭の中は、相変わらずモヤモヤしているけど… 今ここに至って、急速にそれが晴れていく感じがする。 相手が生きているうちに出来なかったことを…してあげられなかったことを、死んでしまってからやろう、なんて。 後悔したことを、自分だけ戻って、やり直そうなんて。 それで、前に進むなんて言えるの? …んーまぁ、言えなくはないのかな。 ただそれって、後ろ向きな考えよね。 そんな風に、後ろを向いたまま前に進む? 私は、それでいいの? そんなことでいいの? …イヤに決まっている。私は、そんなことは望まない―― 自問自答を繰り返していくうちに霧が晴れ、視界が開く。 目の前が明るくなる。 …そしてそこで、気付く。 私を見つめる視線。 部屋の周りに立つ人々の、その暗く淀んだ目の正体に。
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241 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 14:18:34 ID:aXGJJGd00 - 10/15
あの目…。 そうだ。どこかで見たと思っていたけど、やっと思い出した。 ――暁彦だ。 ずっと前に古乃羽が言っていた、あの「嫌な目」だ。 これはどういうこと? …なんて、考えるまでもない。 「暁彦もね、小さい頃にあの壷を見たの」 源川さんはそう言っていた。更に容子さんもそれを見た、と。 明らかに常軌を逸していた暁彦。 壊れていた、と言っても差し支えは無い。 暁彦がそうなったのは、いつから? 父親の実験台になってから?母親が亡くなってから? それとも…壷を見てから? …分からない。 本当のところは、分からない。 でも、もし壷を見たときからだったら、どうなるの? 一緒に壷を見た母親――容子さんは亡くなって、生き延びた暁彦はどうなったの? そう考えながら、私は目の前に置かれた壷を見つめる。 そして…全てを理解する。
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242 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 14:21:41 ID:aXGJJGd00 - 11/15
暁彦が壊れてしまった本当の理由と、母親である容子さんの死因。 源川さんが望んだことの理由。 それと、私の進む道―― 全て分かった。 そして、今するべき事が決まった。 目の前には、副会長が居る。 私に壷を見せたがっている、暗い目をした副会長が。 …間を置いたらいけない。 やるなら、すぐに。迅速に―― 意を決した私は壷に手を伸ばし、両手でそれを掴み、立ち上がる。 副会長「何を――!?」 私の突然の行動に、副会長が驚きの声を発する。 そして私を止めようと、手を伸ばしてくる。 部屋の周りの人々も、私に向かってこようとしている。 …でも、遅い。 私は手にしたものを頭上高く掲げ、副会長を避けるように横を向く。 先に進むって、こういうことよ―― そして息を深く吸い込み、目をきつく閉じると、壷を思いっきり床に叩きつけた。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
243 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 14:25:53 ID:aXGJJGd00 - 12/15
壷が割れる音。 少し耳障りな、砕け散る音。 下が畳だったので不安ではあったけど、私の耳には、私の望む音が聞こえた。 …でも、破片が足に当たるような気配がない。 破壊音は聞こえたけれど、何かが飛び散ったような気配がない。 その後に、当然聞こえてくるであろうと思っていた、副会長の声もない。 静寂。 時間が止まったかのような、静寂。 …そして聞こえてきたのは、叫び声。 無数の叫び声が、どこか遠くから広がってくる。 それと同時に、突然辺りの空気がうねり出し、大きな流れが生じる。 私はその力に押し流されそうになり、目を閉じたまま、両手で耳を塞ぎ、その場に膝をついてうずくまる。 立ってなんて居られない。 流れの行き先は、私のすぐ前の床…壷を叩きつけたところだ。 様々なものが、そこに吸い込まれていくのが分かる。 私の横を、たくさんの…何かがすり抜けていく。 何だろう。物じゃない。魂…?分からない。 そんなの、私に分かるわけがない。 ただ分かるのは…それに身を任せてはいけない、ということ。 これに流されていったら…その先に何があるのかなんて、想像もできない。 でも、その先に行ってしまったら、絶対に戻って来られないことだけは分かる。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
244 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 14:28:29 ID:aXGJJGd00 - 13/15
私は、ここに居たいの。 まだここに居させて。お願い―― そう願いながら、何とかその場に留まる。 どこにもしがみつく物が無いから、私は…私自身に掴まる。 この存在に。この命に。 “流れに負けない重たいもの”を考えたとき、真っ先にそれが浮かんだから。 でも… 流れは更に激しさを増し、私を巻き込もうとする。 私の身体から何かが抜け出て、流されていく…そんなイメージが浮かぶ。 それをどうやって繋ぎとめれば良いのか、私には分からない。 ただ歯を食いしばって、引き剥がされそうになるイメージを頭から振り払いながら、耐え続ける。 ここに居たいと、強く願う。 命にしがみつく。 必死に、しがみつく… けど、もう…何だか、息が詰まってきて… 流れが一段と、激しくうねり出す。 非情に、容赦なく私を責め立ててくる。 ダメ…このままじゃ、私――
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
245 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 14:31:12 ID:aXGJJGd00 - 14/15
――と。 1つの小さな手が、私が押し止めてくれる。 …すぐに、優理ちゃんの手だと分かり、頭の中にあの子の姿が浮かぶ。 それと、他の人の姿も。 面倒そうな…でも、仕方ないわね、といった顔の佳澄。 それと、照れくさそうな顔をした男の子。 …私の方が、大分年上になっちゃったな。 それから、古乃羽の姿。 昔、私の手を握っていてくれた古乃羽。 私を繋ぎとめてくれた古乃羽。 あー…。これ、絶対に後で怒られる。 こんな体験しました、ってこと、黙っていようかな? …なんて、ダメよね。お説教は覚悟しなきゃ。 そして更に、頭の中には私の大切な人達が次々と浮かんでくる。 両親の姿や…北上まで。 雨月君も浮かんできたから、まぁ、これはきっと友情ね。 って…、これってもしかして、走馬灯? なんて一瞬思ったけど、きっと違う。 最後に舞さんの姿が浮かんだとき、そう、確信できた。 何故か舞さんは、私のすぐ傍に居るような…そんな感じがした。
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- 【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ16【友人・知人】
246 :赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage]:2011/01/12(水) 14:35:37 ID:aXGJJGd00 - 15/15
私は、流れの中、ジッと身を固める。 もう、平気よ。 決して揺るがない。流されたりしない―― そう強く思い、私はそこに居続ける。 激しい流れにもビクともせず、不思議と、穏やかな心で。 そして…しばらくすると、流れが緩やかになってくる。 聞こえていた叫び声も小さくなり、消えていく。 やがて流れが完全に止み、辺りが静寂に包まれ… 私は、そっと目を開ける。 私の周りには、誰も居ない。 広い部屋に1人、ポツンと座り込んでいる。 私は程よい脱力感の中、ゆっくりと身体を起こす。 あまりに静かで、まるで何事も無かったように思えるけど… 私の目の前には、あの壷が入っていた箱だけが置いてある。 その空っぽの箱が、私に全てが終わったことを、教えてくれた。
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