- なにそのツンデ霊★8人目☆
836 :1[sage]:2008/06/05(木) 00:19:44 ID:YxIOGWar0 - 剣道を始めたのは、彼女の影響が大きい。
正義の味方に憧れた幼少時代、始めたばかりだと言いながら竹刀を振るう、一つ上の従姉の真希。 彼女の姿が、僕には世界を救う勇者に見えた。
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837 :2[sage]:2008/06/05(木) 00:21:05 ID:YxIOGWar0 - 最近通り魔が出没するらしい。
実家に帰省した僕を出迎えたのは、家族と、事件の噂だった。 「だから、暗くなる前に早く帰ってきなさいよ」 「あのさ、もう子供じゃないんだから」 「高校生はまだ子供でしょうが」 早速友達と遊びに行くために外出する僕を、母親の小言が追いかける。寮に入ってすぐの頃は懐かしくも思っていたが、生で言われると矢張り煩わしい。 「伯父さんとこにも顔出しときなさいよ」 「は〜い」 適当な返事を返しつつ、僕の心にはチクリと痛みが走った。
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838 :3[sage]:2008/06/05(木) 00:22:14 ID:YxIOGWar0 - 伯父の家は寺だ。
片田舎の片隅にある、如何にもな風情の寺。 「こんにちは〜」 母屋の玄関から声を掛けたが、返事は無い。本堂も伺うが人の居る気配は無い。 伯父さんは檀家巡りだとして、浪人生だという従兄さんはバイトか塾か。 どうするか逡巡していると、薄暗い廊下の奥から白い影が現れた。その凛々しい姿に、思わず視線をとめる。 時代劇に出てくる侍のような、着物に袴姿の、女性だ。 何処かで会った記憶は無い。寺の客か何かかだろうか。 あれこれ考えているうちに、視線に気付いたのだろう、彼女はゆるりとこちらを向いた。 「えと、こんにちは」 おずおずと声を掛けたが、彼女は端正な顔に一辺の表情を浮かべる事も無く、ただ無言でこちらを見据えていた。 が、急に振り返ると、廊下の奥へ戻っていく。一瞬迷ったものの、僕は彼女の後を追う事にした。
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839 :4[sage]:2008/06/05(木) 00:23:19 ID:YxIOGWar0 - 障子はどこも開け放たれ、夏の熱気をはらんだ風が流れていく。けれど、最奥の部屋の中、そこだけはまるで別空間のように感じた。
中央に据えられた座卓を前に、彼女はこちらを向いて正座していた。 彼女が視線で示す先、座卓の上には、細長い箱が据えられている。 (刀…?) 中身を見たわけではないが、そう直感した。侍姿の彼女からの連想、かも知れない。 彼女は視線だけで、僕にその箱を手にするように言っていた。 僕は黙ってそれに従った。 その箱に収められていたものは、矢張り本物の日本刀だった。 『ご助力願いたい』 漸く薄紅色の唇からつむがれた言葉。 僕の決断は早かった。
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840 :5[sage]:2008/06/05(木) 00:24:14 ID:YxIOGWar0 - 「霞さんが言うには」
「いやまず誰よそれ?」 「早く手を打たないとますます危険になるらしい」 「聞けよお前…相変わらず冷めてるつか、変わってるよな」 「そうか?」 幸樹の言葉に首を傾げてみせる。 「餓鬼の頃からヒーローの真似事っつかそんなんばっかりだよな」 幼馴染の腐れ縁。だからこそ、僕の酔狂にも付き合ってくれる。 遊ぶ約束はキャンセルした。その代わりに頼んだのは、通り魔についての情報。
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841 :6[sage]:2008/06/05(木) 00:25:09 ID:YxIOGWar0 - 『良いのか?』
「何が?」 通り魔が初めて目撃されたのは一月前。今日までの被害者は三人。 最初に襲われたのは若い男。暗い夜道を、突然襲われたと言う。肩から袈裟懸けに刀でばっさりとやられたと。 幸い彼は命に別状は無いらしいが、次の一人は重篤、そして今度は即死状態。 『そなたは親交を温める為に友人と落ち合った様に感じたが』 「ああ、うん。そうだね」 言われて顔を上げると、幸樹が半眼でこちらを見ている。 にっこり笑って見せると、盛大に溜息をつき、再び手元に視線を落とした。 『友人には拙者の姿は見えぬ』 「らしいね。僕が独り言言ってるみたいで煩いかな」 昼の図書館。過去の事件を追うために、新聞を調べている真っ最中だ。幸い今は二人きり…いや、三人きりなので、他の利用者に奇異の目で見られることは無い。 『…そなたは、本当に、変わっているのだな』 「そうなのかな?」 『そうなのだ』
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842 :7[sage]:2008/06/05(木) 00:26:24 ID:YxIOGWar0 - 日本刀に宿った魂。女性姿なのは、最後の使用者の姿を写し取ったからだと言う。
『霞、と名乗っておる』 感情の篭らない声でそう名乗る彼女は、成る程日本刀の鋭さをうかがわせた。 最後の所有者が、そこそこ霊感のある人物だったのか、霞さんの魂が宿る刀を、お払いの為に伯父の寺に預けたんだとか。それが数日前の事。 長いこと眠っていたのだが、この町に入った瞬間に覚醒した。同胞の気配と、それにまとわり付く血臭。 僕には霊感が無いと思っていたのに、何故彼女が見えたのか。 霞さん曰く、「波長が合った」のだろうということだ。
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843 :8[sage]:2008/06/05(木) 00:27:57 ID:YxIOGWar0 - 横から力いっぱい突き飛ばされた。
地面を転がりながらそちらに視線を向ける。 「うおっっ」 同じく転がる幸樹の鼻先を赤い風が掠めたのが見えた。 既に夜の帳は落ちている。両側を田に挟まれた細い道は、見晴らしはいいが、明かりは殆ど無い。 『早く立て』 鋭く命じらる。僕が膝立ちになる間に、人影は幸樹に間合いを詰め、今にも刀を振り下ろそうとしていた。 『こちらだ』 焦っていたのかも知れない。大きな声で霞さんが気を引こうとした。 本来なら、反応する筈がないのに、影はこちらを振り向いた。 と、同時に僕は弾かれるように飛び出した。 鋭い金属音と、生じた光。 刀を弾かれた影は、軽業師のような身のこなしで僕から数歩間合いを開け、そして僕を睨みつけるそぶりを見せたあと、闇の中へと身を翻した。 「…見たか」 「う…ん」 『…知った顔か』 僕達の雰囲気を察知したのだろう。霞さんは物問いたげにしていたが、僕には答える余裕は無かった。
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844 :9[sage]:2008/06/05(木) 00:28:44 ID:YxIOGWar0 - 剣道をやめたのは、彼女が原因だった。
あの日、軽い気持ちで応じた手合わせ。 真剣な打ち合いの結果、勝ったのは僕だった。 その瞬間、彼女の瞳の奥に垣間見えた感情。 要するに僕は、怖気づいたのだ。
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845 :10[sage]:2008/06/05(木) 00:29:56 ID:YxIOGWar0 - 襲撃の翌日。
『素養があるとは思わなかった』 早朝の寺の境内で竹刀を振る。時々霞さんの指導が入るが、身に着けた技はそこそこ維持できているようだ。 「去年までね、やってたんだけど」 『ふむ。いざとなったら拙者が力を貸そうと思っていたが』 ちらりと彼女を伺うと、微かに笑みを浮かべていたが、直ぐに元の無機質な表情へと戻る。 ちょっと残念に思っていたが、どうやら気配を察したらしい。 待ち合わせたわけではないのだが、幸樹がふらりと現れた。 「やあ、おはよう」 「おう。お袋さんに聞いたらここだって言うからな。まぁまだ会ってないんだろ、どうせ」 「ん」 『こういう時、会話が出来ないのは不便だな』 霞さんは不満げにしていたが、僕からはどうしても説明できない。 まだ、ひきずっているから。
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846 :11[sage]:2008/06/05(木) 00:31:06 ID:YxIOGWar0 - 残光が交差する。その都度甲高い音と共に火花が散る。
霞さんの霊体ドーピングのおかげで、異常なスピードにも拮抗できている。 とは言え、矢張り基礎が違う。 僕には一年のブランクがある。 一方の相手は全国大会で上位入賞する実力の持ち主である上に、現在は肉体と言う束縛から開放されているのだ。 徐々に、徐々に僕達は追い詰められていた。 白刃が、頬を掠めた。 ちりちりと、熱が走っている。 『隆弘』 僕自身は軽傷だと思っていたが、霞さんの声には動揺が混じっている。 けれどそれを気にする暇は無かった。 「真希姉」 きゅううと釣りあがる口角。滴る血に歓喜しているその表情の中、ただ一点だけ。 肩口を避け切れなかった軌跡がなぞる。視界の隅に、赤い飛沫が見えた。 「僕が」 僕の体から血が流れるたびに、真希姉の動きが鋭くなる。血塗れた刀が帯びる光はますます凶悪さを増していく。 けれど対峙する彼女の瞳に浮かんだ感情を僕は見逃さなかった。 『く』 霞さんが苦しそうにうめく。 (もう少しだけ、あとほんの少しだけ持ちこたえてください) 捌ききれない刃が、僕の体を赤く染めていく。 それでも僕は待った。彼女の癖は、変わっていない。そう何も。 大きく仕掛ける前に、軸足に僅かな動き。ほんの一瞬の体重移動。 その瞬間に、僕は渾身の一撃を放った。 刹那交差した二振りの刀。 「助けるから」 次の瞬間、鮮烈な白い輝きが、紅い刃身を叩き折った。
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847 :12[sage]:2008/06/05(木) 00:32:22 ID:YxIOGWar0 - 『何時も何時も、隆弘の勝ち』
悔しそうに、地面を睨み付ける真希姉。 あれ程激しく放たれていた殺気は、すっかり静まっていた。 『でも、今回は仕方ないか。だって』 こちらをくるりと振り返る。 そこには今にも泣き出しそうな笑顔。 『隆弘は正義の味方だもんね』 次第に透けていくその姿が、ゆっくりと昇る陽光に溶け混じる。 僕はただ、黙って見つめる事しかできなかった。
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848 :13[sage]:2008/06/05(木) 00:33:50 ID:YxIOGWar0 - 真希姉の墓前に手を合わせる。
「うんまぁ初恋の相手かな」 黙ったままの霞さん相手に、これじゃ独り言だと苦笑しつつ。 「僕が剣道をやめる時、勝ち逃げだとか散々ののしられた。でも、続けられないよ」 ただ隣に立ちたくてがむしゃらに頑張った結果、向けられた感情は嫉妬。 それを受け流せるほど大人じゃない。 微妙な溝を埋められぬまま、真希姉は、春休みに交通事故で他界した。 「姉さんの事が好きでした。姉さんの背中を護りたくて、正義の味方になりました。勇者様には一緒に戦う仲間は必須だからね」 『今度からは、あんたが勇者様ね』 それは幻聴かもしれない。 彼女の声が、聞こえた気がした。
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849 :14[sage]:2008/06/05(木) 00:35:14 ID:YxIOGWar0 - 事件は公的には未解決のまま終わるだろう。
凶刃はぼろぼろに朽ち果てていた。これで誰かを傷つけた事など信じられない程に。 霞さん曰く、怨念をまとった刀を核に悪霊が集い、そして更なる怨念を求めていたが、刀身が折れたことで、一気に朽ちてしまったのだろうと言う事だ。 何か未練があってこの世に留まっていたのだろう、真希姉も、凶悪化した霊団に飲み込まれ、暴走していただけだと。 霊感持ちだと言う伯父には全て説明して、供養を頼んだ。 伯父がどこまで知っていたのか判らないが、ただ深く頭を下げられた。 夏休みはあっという間に過ぎた。 「で、銃刀法違反って知ってるか」 「カッターくらいでも、捕まえられたら罪になるんだっけ」 僕を見送りに来た幸樹は、しかめ面で、僕の肩に掛けられているバットケースを見ていた。 中には一振りの日本刀、そして僕の隣には霞さん。 『正義を護る者に振るわれるならば、拙者としても本望だからな』 「だそうだよ」 「いや端折るな、ちゃんと説明しろ」 「相性が良いから、僕に使われたいって伯父さんに」 『余計な事を言うでない!!』 「あれ、何で怒ってるの?」 「いやだから…もういい」 幸樹の深い溜息を背に受けながら、やってきたバスに乗り込む。 「また剣道始めようかな」 『ならば拙者が指南しようぞ』 冷静を装いつつも、笑顔を隠しきれない霞さん。 来年帰ってきた時は、もっと強くなってるよ。 だから、また会おうね。 心の中で、そっと、僕は呟いた。
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850 :15[sage]:2008/06/05(木) 00:40:54 ID:YxIOGWar0 - うむ、これが霞さん本編だが、何か違うorz
でも投下。 顔洗って出直します。
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