- なにそのツンデ霊★8人目☆
693 :1[sage]:2008/04/24(木) 20:09:07 ID:jb02kwMw0 - 僕の、初恋について、お話しようと思います。
僕は口下手ですし、あまり面白い話じゃありませんから、興味の無い方は、どうか読み飛ばしてください。
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694 :2[sage]:2008/04/24(木) 20:09:54 ID:jb02kwMw0 - 一目惚れでした。
昼休みの最中だった、彼女は、屋上の隅っこで、天気が良かったんですね、退屈そうに座ってました。 かっこよく脚なんか組んでて。大きな瞳を、眠たそうに、不機嫌そうな顔をしてました。 長い髪も、短めのスカートも押さえずに、風に任せたっきり。じっとポーズを崩さないんです。 ちょっと怖そうな、話しかけづらいような彼女は、ときどき口の中を、もごもご動かすんですよ。 なんだか可愛いでしょう。一目見て、それだけで、夢中になりました。 僕はというと、ベンチ一個分先で、突然見つけ出してしまった、初めての恋の対象を、ぽかん、と。 おいおいあの子誰だよと。級友達は、余った弁当の争奪戦に夢中で、気付きもしない。 彼女も、唖然と見つめる僕の視線には、全然気付かなかった。 ずっと、眩しそうに、脚組んで、ベンチの上で反り返ってました。
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695 :3[sage]:2008/04/24(木) 20:10:40 ID:jb02kwMw0 - 校内で、ときどき彼女を見掛けるようになりました。
もしかしたら、今までにも、彼女とすれ違ったり、隣合って座ったりしたことがあったかもしれません。 ただ、屋上で彼女を、意識したとき。 太陽の光をうっとうしそうに、風に吹かれて、のんびり日向ぼっこでもしている彼女を、見つけ出したとき。 ようやく僕は、彼女のことを知ったんだと思います。 ささやかですね。 恋は。
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696 :4[sage]:2008/04/24(木) 20:11:26 ID:jb02kwMw0 - さあ。気になる女の子ができた。お話したい。仲良くなりたい。触れ合いたい。
なら、果敢にモーションを掛けるのが、玉砕覚悟でね、あるべき、男の青春でしょう。 ですが、やっぱりというか、なかなか、うまくはいきませんでしたね。 クラスも分からない。名前も分からない。なんとか特徴を捉えて、人に尋いてみても要領を得ない。 それならと、屋上で、廊下で、中庭で、偶発的でもチャンスは全て、活用しました。 ことごとく無視されました。 本当に、構われないんですね。彼女にとって、眼中に無いんです。口もきいてくれません。 一瞬、目が合った、と思っても、彼女は別段、表情も無く、さっさと行ってしまう。 正直、ヘコみました。けど、恋は盲目、なるほど。そう、かもしれません。 どれだけつれなくされても、彼女を想うと、身体中がじわっと焦るような感覚は、少しも和らがなかった。 ずっと強くなっていった。居ても立っても居られなかった。 彼女の瞳は、無表情でも、とても力強かった。理性的な輝きです。 ええ、言ってて照れますね。
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697 :5[sage]:2008/04/24(木) 20:12:13 ID:jb02kwMw0 - しかしながら、僕としては、なんとか彼女と仲良くなりたい訳ですよ。取っ掛かりが欲しかった。
この頃には、毎日のように彼女を見掛けることができました。それだけに、焦りが募る一方で。 さらにこの頃、級友達の目には、僕は相当テンパってるように見えていたようでした。 そりゃそうですよね、毎日毎日、授業そっちのけで。 ラブレター書いてたんですから。 春が来た、春が来たぁ、ってうるさかったですよ。本当。 そっとしておいてやろうぜ、ああ、初恋は実らないからな、あいつも大人の階段、うるさかったんです。 静かになったのは良かったんですが、その間も、彼女は僕のことなど何処吹く風。 女子生徒が大声で騒いでも、悪そうな男子生徒がたむろしていても、その側をつまらなそうに、歩いてました。 違和感を感じたのも、この頃でした。
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698 :6[sage]:2008/04/24(木) 20:12:59 ID:jb02kwMw0 - 話を聞いてもらえないなら。聞く耳持たぬなら。読ませるまでよ。一筆入心。
この時期、やっぱり僕は、かなり心乱れていたみたいですね。思い返すと、恥ずかしいです。 なんて書きましたかね。もうあまり、とぼけてませんよ、本当に覚えてないんです。本当です。 ただ、あんまりにも彼女が僕のことに無関心だったから。 クラスと名前。不細工なくらい、大きく書いたのを覚えています。 肝心の、彼女への、想いの丈は、なんだかぼやかしぼやかし、情けなかったような気もします。 とにもかくにも、まずは、僕を見て欲しかった。 僕のことを、知って欲しかった。 誰よりも。 彼女に。
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699 :7[sage]:2008/04/24(木) 20:13:44 ID:jb02kwMw0 - わくわくしました。
不安も、勿論ありました。でも一歩、彼女に近付けるかも知れなかった。 彼女への手紙を書き終えた僕は、もう、一刻も早く、これを、彼女の元にと。 馬鹿でしたね。クラスも名前も分からない。彼女の、お決まりの下駄箱は、一体何処だよと。 途方にくれました。どうしよう、って、情けなくうなだれましたよ。 直接渡そうにも、彼女、相変わらずだったんです。無視。無視。無視。 発想の転換ですよね。 待ち伏せしたんです。無視されるのに、ええ、無視されても、ですよ。 ベンチの、屋上の隅っこのベンチです、上にですね、手紙を置いて。風に飛ばされないよう、習字用の文鎮で押さえて。 僕は、屋上の入り口で、頑張ってるんです。待つんです。 彼女が、何の気無しに、真面目な顔して、ぺたぺた歩いて来るのを、待つんです。
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700 :8[sage]:2008/04/24(木) 20:14:30 ID:jb02kwMw0 - 不幸な間違いがあってはいけません。断じて。
僕の恋が、そのきっかけが、掛かっていましたから。 彼女以外の生徒が、教師もです、屋上の隅っこあたりに向かおうものなら。全速力で手紙を回収しました。 なんとも面倒くさい、遠回しな、手間の掛かることをしたものです。 でも必死でしたから。僕は。 天気の良い日、空がとても大きくひろがる日、太陽の光が真っ白に、うっとうしい日。それを映す瞳。 彼女を、大切な彼女を、見つけ出してしまった、あの日を、僕は今も忘れません。 ロマンチストです。信じてました。 陽射しを睨んでいるような。 彼女は、青空が似合う。
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701 :9[sage]:2008/04/24(木) 20:15:17 ID:jb02kwMw0 - 屋上で張り込んで、五日目、だったかな、また良く晴れたんです、空が。
彼女が、あっさり来たんです。 彼女は、ベンチにふんぞり返って、背もたれに片腕を掛け、お決まりなんですね、細い脚を組んだ。 手紙を発見したんです。覗き込むようにして、ちょっとだけ固まっていました。 細い指で、さっとすくい上げました、すぐに読み出したんです。 拍子抜け、いえいえ、勝負は、これから、でしょう。今までに無く、僕は緊張しました。 脚が、かくかくかくかく、震えたんです。息をするのがどうしても難しくて、心臓も破裂しそうなくらい。 どうしたものか、声を掛けに行こうか。どう、しよう、か。 そのときですよ。 彼女の顔が、彼女の瞳が、口元が、笑ったんです。ほころんだ。 前屈みで姿勢も悪く、威丈高に組んだ足先で室内履をぱたぱた。相変わらず、話し掛けづらい。 不機嫌そうな、眩しそうな、しかめっ面で、不敵なたたずまい、いかにも気むずかしそうな。 手紙を、僕の文字を、指先で、大事そうに、撫でていたんです。 彼女の、初めての笑顔にあてられて、僕は急に照れて、恥ずかしくて、どうしようもなくなった。 階段を駆け下りました。誰も居ないところまで、走った。嬉しかった。 頬が熱かった。
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702 :10[sage]:2008/04/24(木) 20:16:06 ID:jb02kwMw0 - あんまり広いところでぶらぶらしてると不安になる、こともある。
たまにはヘコんだりもするし。だからよく知った居心地のいいところに帰る。 教室裏庭保健室。別舎の廊下と体育館、裏。 屋上。 雨の日は最低。舌打ちしてから蹴りつける。屋上入口に穴が開く日も近い。頑張ろうと思う。 晴れればそれでいい。文句ない。でも屋根は付けろ。まぶしい。 年賀状とか別にして、手紙を初めてもらった。 別に。なんで焦るんだよ。馬鹿じゃねーの。 まさかとは思ったけど。 私を見つめる人がいた。 なんて書かれてたか言いたくない。 私のために書いてくれたんだし。 私が読めればそれでいいんだよ。
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703 :11[sage]:2008/04/24(木) 20:16:53 ID:jb02kwMw0 - 彼女を見ていて、気になることがあったんです。
彼女は美人なんです。誇らしげでしたか、すみません。でも本当ですよ。可愛いんです。 でも僕以外に、おいあの子いいよな、聞いたことがありませんでした。素振りも見せない。 ストイックだった、それは、どうでしょう。 違和感は、段々、現実味を帯びてきたんです。 彼女と話したことのある、女子はいないか。先輩は、後輩は。じゃあ、先生は。 確信に変わりました。 誰も、彼女を、知らないじゃないか。見たことも、ないのか。 でも、確かめましたよ。 ねぇねぇ、あの人、知ってる、あの女の子、髪が長い子いるじゃん、あそこ、壁に寄っ掛かってる。 誰。どれ。どこ。 なるほど。 誰もが、幽霊を見ることができる訳じゃない。
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704 :12[sage]:2008/04/24(木) 20:17:37 ID:jb02kwMw0 - じゃあ幽霊は。彼女は。
見えてるんだろうか、僕達のこと。 ことごとく無視されたからって、状況のせいにしたかった訳じゃありませんよ。本当です。 結論から言うと、見えてなかった。 誰もが、生きてるときと同じように、全てのものを見ることができる訳じゃない。 少なくとも、彼女には。何も。誰の姿も、見えてなかったんです。 びっくりしました。ずっと気付きませんでした。彼女が一人だってことに。 だって誰の姿も見えない、一人ぼっちじゃないですか。 彼女はもしかして。 毎日毎日、無人の校舎を。 人の声はあるんでしょうか。人の動く気配は、人がそこにいる日常は。 揺れるのは自分の髪とスカートの裾だけで、ぺたぺた一人で、歩いてたんでしょうか。 苦しくなった。急に寂しく、心細く、なったんです。 彼女が、もしかずっと一人でいたことを知って、急に、やるせなく、苦しくなった。 寂しい彼女を、ほっとけなくなった。みくびらないでください。 僕は、恋をしていたんです。
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705 :13[sage]:2008/04/24(木) 20:18:21 ID:jb02kwMw0 - 手紙には、返事がつきものです。
無いと困りますよね。僕の場合だと、恋の終局を意味しますからね。ええ。 彼女が手紙を取り、読んでくれたことに、僕は本当に嬉しくて、走り去ってしまいました。 言いましたね。駄目じゃないですか。彼女は、僕のこと見えてないみたいなのに。 せめて、特定の、居場所とか、その時間なんか、僕はここにいるんだよ、って明示しとかなくちゃ。 後の祭りでした。行動が先立ってばかりで、頭が回りませんでしたね。 午後の授業が始まって、周りは皆、眠たそうにダルそうに、うっとり机にかじりついてます。 僕、僕はですね、どうやって彼女からお返事貰うのと、冷汗垂れ流してました。 どうしましょう。どうしようもないんですけど。どうなったと思います。 来たんです。返事。
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706 :14[sage]:2008/04/24(木) 20:19:07 ID:jb02kwMw0 - 古文の授業でした。
黒板を背に、先生が、机に両手で寄り掛かり、大鏡だが水鏡だか、忘れましたけど、得意な調子で朗読してるんです。 その脇から、彼女が大股で入ってきたんです。 彼女は誰も見えませんし、誰にも見られません。問題は無い、のですが。僕は噴出しました。 うるさいぞ、と先生に注意され、すみません、彼女は先生の手許を覗き込むように、座席表を眺めてました。 まさか、返事と言っても、まさか直接来るなんて。 だって彼女は、僕のことが見えないんですよ。 顔が赤いんです。 僕の席を確認したのか、ずんずんこちらに歩いて来る。 毅然と目線を上げ、表情は無かった、ただ少し、熱っぽかった。 席の前で仁王立ち、彼女の顔を、綺麗なんですよ、こんなに近くで見たのは、初めてで。 大きな瞳が、値踏みするように、細かく揺れていた。口は真一文字、意思が強そうに、引き締められていた。 すごく真面目な顔でした、真剣な。それはもう、惚れ直しましたよ。胸が高鳴った。 彼女は、目を細めたり、大きく開いたり。 僕のことを、見ようとしたんですね。 見えてなかったと思います。 嬉しかった。
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707 :15[sage]:2008/04/24(木) 20:19:52 ID:jb02kwMw0 - 彼女は十分も二十分も、僕のことが見えてないのに、僕の目の前にいてくれた。じっと。
僕は、ようやく気が付いて、大慌てでノートに走り書きましたよ。 "来てくれて、ありがとう。手紙を読んでもらえたみたいで、良かった。本当に、嬉しいよ。 彼女はね、照れたように笑ったんですよ。 "まじめに勉強してたか?" たまらなかった。涙を堪えきれなかった。初めて、初めて彼女と、話すことができた。 "君のことが気になって、最近は授業どころじゃないよ。どうやったら気付いてもらえるんだろうって、今だって" "じゃあサボろう" 「先生、お腹痛いんでトイレ行ってきていいですか」
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708 :16[sage]:2008/04/24(木) 20:20:37 ID:jb02kwMw0 - 天気が良かったです。今日は快晴、って。
幾度と無く蹴りつけられ、泣き目のような穴が開きそうになった入口を横目に。僕らは屋上に出ました。 風が穏やかで、雲は盛り上がり、白かった。空はもっと青い。 彼女は脚を組み、僕のいると思われる方に半身だけ向いて。 そして僕のいると思われる方を、とても、優しい目で眺めてた。見えていなかった。 陽射しは結構強くて、彼女の白さと、睫毛の長さを際立たせた。 "いい天気だね。屋上に、よくいるのを見掛けたよ。僕も屋上は好きだな。" "好きなのは屋上ですか" "ストレートですね。" "手紙みたいにさ" シャーペンを、交互に、相手の方に向けて置き合うんです。 彼女の文字は、凛々しかった。 "うん。" "私を口説けよ"
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709 :17[sage]:2008/04/24(木) 20:21:21 ID:jb02kwMw0 - 授業中に、ラブレターを書いたんです。
彼女の目の前で、ですよ。筆談ですからね、告白というより、ラブレター。 屋上でベンチに突っ伏して。必死だった。大真面目だった。ペンの芯が何度も折れた飛んだ。 たった一文書くのに。彼女はそこにいるのに。僕はここにいるのに。天気がこんなにいいのに。 震えながら書きました。 ごくりと見上げると、彼女の顔があるんです。目が合ったような気がしました。 僕のことは見えていませんから、彼女はきっと、ベンチの上のノートを見つめていたんですね。 うんうんうんと、満足そうに、細かく頷く素振りを見せたあと、彼女が突然空を見上げた。え、と。 見上げたまま、彼女の手が、腕が、何かを求めるように、手繰り寄せるように、僕の周囲を掻き毟る。 僕は、鈍感ですね、彼女の視線を追うけど、青空が広がっているばかりで。 首を下ろすと。彼女がノート片手に微笑んでいた。 嬉しそうだった。得意そうな顔でした。 間違いなく僕に宛てた言葉だった。 "もし触れるようになったら一番に抱きしめてやろう"
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710 :18[sage]:2008/04/24(木) 20:22:06 ID:jb02kwMw0 - 彼女は毎日、照れくさかったんでしょう、一生懸命難しい顔を作って、僕を待っていてくれたんです。
不機嫌そうに眉をしかめていても。 退屈から脚を組みかえていても。 意味もなく襟を擦っていても。 いつも、鼻歌でも歌い出しそうな、やわらかい横顔をしていた。 前日の内から、明日はあそこのあのあたりで。"待たせるなよ""早くな""待ってるから" 僕が見つけて、走り寄り、できるだけ彼女の目に付くところにノートを置くんです。 彼女がそれに気付くまで、彼女の側で待ってるんです。 "よう" 一言目は、そっけないんです。 真っ赤になって、遅いぞと、文句の一つでも言いそうな、困ったように嬉しそうに、顔を輝かせた後。 おもむろに、重々しく、書いてみせるんです。 可愛いでしょう。 "私の彼氏は今日も元気か"
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711 :19[sage]:2008/04/24(木) 20:22:54 ID:jb02kwMw0 - "エロ本を発見しました"
"僕のではありません。" "私にどんなポーズをしてほしいですか" "友達が勝手に机の中に入れたんです。" "彼女ができてヤりたいさかりでしょう" "聞いてください。" "私はヤりたいです" "丁寧語をやめてください。" "信じてもらえないかもしれませんが" "なんでしょうか。" "私は処女です" "なんて言ったらいいんでしょうか。" "童貞ですか" "はい。" "予約しました" "今ので予約できたんですか。"
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712 :20[sage]:2008/04/24(木) 20:23:53 ID:jb02kwMw0 - おててにぎにぎしながら帰る奴とかいるだろ。廊下で抱き合う奴とかな。
絶対いるんだよな。便所の個室で触りっことかな。なに教室の鍵かけて自習してんだよ。 私は指一本もおあずけか。 おかずは提供できます。今日はパンチラ。明日は谷間。明後日は、なんだ、ご開帳か。 なんで私は触れ合えない。 大好きな男の子と肩が触れ合って思わず赤面。なに笑ってんだよ。いいじゃねーか。 はあ。彼。 ああ。彼。はいはい。 彼とか言うな。むかつくんだよ。 自分で考えろ。 私の。彼氏なんだよ。 好きな人と。触れ合えないのはかなしいよ。 これでなかなか詩人だろう。 私は。
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713 :21[sage]:2008/04/24(木) 20:24:42 ID:jb02kwMw0 - 彼女を喜ばせるのが、彼氏の仕事です。
なんで面倒くさそうな顔をするんですか。だって嬉しいでしょう、彼女が喜ぶと。 幸福なことに、ええ、実に、僕と話すことを、彼女はとても喜びました。幸福です。 だから僕は。自分の携帯に、電話を掛けたんです。恋人の声を聞くために。 彼女の声を、聞いてみたかったから。 彼女と別れた後、自分の席に携帯を放っておくんです。"もう帰るか" マナーモード。なんですかそれ。音量は最大ですよ。"そっか" 誇らしげに言うんです。彼女と長電話するから。"そうしろ" 僕の彼女は、とても寂しがり屋なんです。"いや別に" "じゃあな"
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714 :22[sage]:2008/04/24(木) 20:25:24 ID:jb02kwMw0 - 留守電に切り替わってしまいました。彼女は、電話を取らなかったんでしょうか。取れるんでしょうか。
再チャンレンジ、延々と鳴らしましたよ。夜中、無人の校舎に、しつこく呼出音を鳴らし続けたんです。 もう一度、留守電に切り替わるかと思った。再送信ボタンに、指を置きました。 くぐもった、女の子の声がしたんです。 「もしもし」 彼女に、決まってるじゃないですか。 「僕」 しばらく、彼女は無言でした。それから、囁くように、かすれた声で言った。 「携帯忘れたのか」 一音も、聞き漏らすまいと、じっと、彼女の声を聞きました。大切な声だったから。僕も答えました。 「そういうことにしておこう。拾ってくれて、ありがとね」 またしばらく、彼女は無言でした。今度はもっと弱々しく、少し、声が震えていた。 「頭いいな」 「だろー。ねぇねぇ、ところでさ」 「うん」 彼女の言葉が、どんどん短く小さくなっていく。僕は彼女を、泣かせる訳にはいかなかった。だって、彼氏ですから。 わざわざ聞いたんです。 「泣いてるの」 一度完全な無音になりました。ノイズすら聞こえなくなった。通話は続いている。 彼女の声が、真直ぐに、僕の耳に飛び込んできた。震えていない。はっきりした、彼女の声だった。 「なんで泣くんだよ」 彼女はきっと、ひと時携帯を下ろしたんです。 窓の外を、真っ暗な夜を、瞬きもせず一人、凝視した。 彼女は、強い。
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715 :23[sage]:2008/04/24(木) 20:26:04 ID:jb02kwMw0 - 長電話しましたよ。そりゃあ。携帯、充電済みです、今回ばかりは抜かり無し。
「今。机の上に座ってる」 「ははぁ。机に座ってらっしゃる。流石。それは恐らく僕の机なんでしょうね」 「ああ。うん。嫌か」 「明日は気持ち良く眠れますね。机に頬を擦り付けて」 「眠るんなら私といろよ」 「可愛いな」 「なにが」 「僕の彼女は」 「そうかよ。良かったな」 「うん。ねぇ」 「なんだよ」 「好きだよ」 「そうか」 「そうだよ」 「私も言いたい」 「どうぞどうぞ」 「私だって、好きだよ」 彼女が、とっても優しく、声にしました。
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716 :24[sage]:2008/04/24(木) 20:26:43 ID:jb02kwMw0 - そろそろ携帯の電池が危ういから、僕も明日また行くからと、名残惜しげに話してました。
彼女が切り出したんです。会えないか、って。 「どうやって」 「いい頭が考えろ」 「僕が考えるんですか」 彼女は、電話の向こうで笑いました。 でも、大切なことを打ち明けるように、ゆっくり囁いた。 「ご褒美欲しくないか」 「ごめん、ちょっと待って、今本気で胸が高鳴った」 「いいなりになってやろうか」 「頼むから待て。めまいがする」 今度は真面目な声だった。 「ご褒美欲しいだろ」 「恐ろしい女だ」 「私も、ご褒美あげたいんだ」 「頑張ります」 「がんばれ」 「あい」 「うん。じゃあな」 「おやすみのキスはー」 「無ぇよ」 怒ったように、ブツッ、と電話は切れました。 彼女と話したのは、これが最後です。
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717 :25[sage]:2008/04/24(木) 20:27:21 ID:jb02kwMw0 - お前そこまでしといて彼女を裏切ったのか、なるほど、そういうことになります。
僕は、死んでしまった。
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718 :26[sage]:2008/04/24(木) 20:28:10 ID:jb02kwMw0 - 朝っぱらからアクセル全快は勘弁してくださいよ。
レーサー気取るならサーキットでぶっ飛ばしてくださいよ。 だいたいインコーナー攻め過ぎなんですよ。吹っ飛んだじゃないですか。 信号待ってただけなのに。もう校門目の前だったのに。彼女をそこに見つけたのに。 それでも。それでも、ですよ。 彼女が出歩ける、校敷地内に吹っ飛ばしたことだけは、評価したいですね。 はあ。僕は甘いですか。
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719 :27[sage]:2008/04/24(木) 20:28:53 ID:jb02kwMw0 - 息ができないんです。でも息は苦しくないんです。苦しいのが分かってないんです。
ただ、痛い。身動きなんかとれません。なのにあっちもこっちも、じくじく。 突然不吉な予感が走ります。捻切れるような激痛。身体をおもちゃにされているようだった。酷かった。 焦りました。周りが慌てる様子らしき音が聞こえるんです、けど、目が見えない。あれあれ。 あぁ、良かった。見えた。急に視界が開けたと思ったら、今度は口の中に何か嫌なものが溢れてくる。 叫ぶこともできずに。ひたすら痛みにさらされる。そこにあったのは。 自己主張の無い、耐え難い、ただの肉。ですか。 だから、彼女に見えたんですよ。 さすがに険しい顔でした。僕の頭の上あたりで、黙って仁王立ちしてるんですよ。 しばらく、一瞬だったかもしれません、彼女だと認識できなかった。脳が、ずれたせいかもしれません。 それでも僕は、彼女と気付きましたよ。僕が気付かなくて、誰が気付くんです。 僕の目の焦点でも合うのを待ってたんでしょうか。ようやく。 彼女、なんて言ったと思います。 「私の彼氏、知ってるか」
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720 :28[sage]:2008/04/24(木) 20:29:44 ID:jb02kwMw0 - 今もう死にそうな、死んでましたかね、人間に、聞くなよと。おまけに。傑作だった。
できるものなら、苦笑でもしたかった。できるものなら、僕だよ、と。だけど。 彼女が泣くのは、見たくなかった。身体が動かなくて、良かった。 なのに僕は、見つめてしまった。彼女が怒鳴ったから。 「こっちを向け」 彼女の怒った顔は、初めて見ました。 彼女の新しい顔を、発見してしまった。 見つめてしまった。僕の大切な恋の対象を。 「いい男だ、私の彼氏は」 誇らしげに、満足そうに、彼女が言うんです。文才もある、とか。 今度こそ僕は苦笑した。そんな訳ないだろう、と。 彼女が僕の頭を抱きしめてくれたから。 なんとか、笑えた、筈だ。 意識を、保てなかった。
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721 :29[sage]:2008/04/24(木) 20:30:28 ID:jb02kwMw0 - 退屈ですよ。
誰の目にも留まらない、どころか、誰の姿も見えない。彼女と一緒、かもしれませんね。 死んだらこういうものでしょうか。そうですね。どうでしょうね。 彼女の姿が、見えない。彼女の声が、聞こえない。彼女はいま、どうしてる。 退屈です。 長すぎる時間に、彼女を想います。 悦に入るんです。僕の彼女は可愛かった。 僕の彼女は、暗闇に取り残されても、泣きません。強いんです。 僕の彼女は、怖そうな顔をして、廊下を一人、ぺたぺた歩きます。 僕の彼女は、不機嫌なときに、屋上の入口を蹴りつけます。 僕の彼女は、天気のいい日、屋上の隅っこで、かっこよく脚組んで、ふんぞり返ってます。 青空を背景に、不機嫌そうな顔が、良く似合う。 僕の、自慢の彼女です。
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722 :30[sage]:2008/04/24(木) 20:31:14 ID:jb02kwMw0 - ひょっとして、彼女は、僕のことが見えるようになったかもしれませんね。
もしそうだったら。いいなぁ。 今日は、天気がいいですね。 屋上に行くと、気持ちが良さそうです。 そうですね。 僕の、初恋だったんです。
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723 :30+1(終わり)[sage]:2008/04/24(木) 20:31:56 ID:jb02kwMw0 - これ。もらった手紙。誰が見せるかよ。阿呆。
これからまだ長いんで。よく知らないけど。これ読んで、しっかり死んでいこうと思います。笑えよ。 今日は天気がいいし。 屋上に行く。 はあ。そうだよ。 私の、初恋だった。
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