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129 :自夜[]:2006/12/13(水) 00:23:10 ID:JFOXLboS0 - 第7話 女酒
前回の酒宴の参加資格は家長と総領(跡継ぎのことね)だけ で、女子供は留守番です。っていうのは嘘で、酒宴の間、女 子供は別の所に集まり、飲み食いをします。 飲食物は持ち寄りです。飲み物は雑穀で作った濁酒や山苺 等で作った果実酒です。子供も飲みます。きっと、アルコール 分は今のお酒よりずいぶん弱かったと思います。 果実酒はほんのり甘い感じがして、私は好きでしたね。雑穀 の濁酒はとにかく酸っぱい。これを好んで飲む女性もいました が、主に総領でない男の子(と言っても青年部ですね)の飲 み物です。この連中は女子供達の輪からちょっと離れたとこ ろに陣取って、たいてい静かに飲んでました。 この連中(若衆と呼んであげるべきですね)の半分以上は 近いうちに村を出る運命にあります。田畑が限られているから 仕方のないことです。 さて、今も昔も女性が集まるととにかくお喋りです。日頃黙々 と野良作業をしているので、その反動なんでしょうか。 酒が進むにつれて、話題もだんだん卑猥な方に移っていきま す。子供達にはいい性教育になりますが、若衆はますます 縮こまってしまいます。 女酒が氏神様のところで出来ない理由はこういうところにある のかもしれません。 この女酒で饂飩を食べたことを覚えています。汁は塩水を 暖めただけのような薄いものでしたが、麺は今の麺とほとん ど同じでしたねぇ。 たぶん、続きます。
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131 :自夜[]:2006/12/13(水) 00:47:46 ID:JFOXLboS0 - >>130のまぐろさん
久しぶりに長文を書いているので、うまく書けているかどうか・・・不安ですぅ ノンフィクションなんで、構成なんてせんでえーやろーおもうて始めた自分がうらめしやです。 そういや、幽霊時代に「うらめしや〜」なんて言ったことなかったですね。誰が始めたんだろう? それはともかく、明後日からしばらくネットが使えないかもしれないので、書き溜 めた分を一挙にうぷしますね。 残りは明日なんとか仕上げて、前世の私と一区切りつけたいと思います。
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132 :自夜[]:2006/12/13(水) 01:00:02 ID:JFOXLboS0 - 第8話 葬式
今みたいに病院とかありませんので、割と簡単に人は死にました。医者という言葉 さえありませんでした。病気や怪我をするとまず隣村の寺に駆け込みます。坊さんは それなりに知識があるらしく、何やら薬らしきものを飲ませたり塗ったりします。 呪いだけで直してしまうこともありました。怪我の場合は破傷風でも起こさない限り 直してしまいましたね。片輪になる人も多かったけど。破傷風は悲惨でしたね。苦し んで苦しんで顔なんて変わってしまって死んでしまいます。もちろん破傷風なんて 言葉はありませんが、傷口から悪いもんが入って苦しめるという坊さんの説明。間 違ってはいません。 病気の場合は半分くらいは帰ってきませんでしたね。 昔流行病が流行ってこの世の地獄だったという話は坊さんから聞いたことがあります が、幸いにして私が生きている間は流行ることはありませんでした。 さて、人が死ぬと坊さんの仕事は終わりです。今みたいにお経を上げてくれるわけで はありません。 死体をみんなで墓地まで運んで土葬です。棺桶は使いません。直接掘った穴に入れ て土をかけて石を置いて終わりです。生前身につけていた物を一緒に埋めてあげるこ ともありますが、もともと持ち物が少ないので体だけ入れて埋める場合が多かったです。 着物は今まで着ていたものそのままですね。私と割と親しい若い女性が死んだときは、 ちょうど花の季節でもあったので、花いっぱい死体にかけて埋めてあげました。 みんな悲しいことは悲しいけど、いちいち泣きません。死人が出る度に泣いていたら、 枯れてしまいます。 墓地は共同墓地で村からちょっと離れたところにあります。隣村も同じ墓地を使っていま した。嘘か本当か一番古い人は千年くらい前に死んだ人らしいです。 赤ん坊が死ぬと墓地には埋めず、家の出入り口の脇に埋めました。墓標もなんにもなし です。まだ人生を送っていないので死人の国に送るのは忍びない。もう一度我が家に生 まれてこいとの意味があるのだと、ととちゃが言っていました。 たぶん、続きます。
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133 :自夜[]:2006/12/13(水) 01:02:17 ID:JFOXLboS0 - 前回は改行が多杉と怒られてしまいました。ちょっと読みにくいかも。
ごめんです。 第9話 希人 まれびとと読みます。旅人のことです。私らの村は街道筋から 外れたところにありましたので、旅人は本当にまれびとでした。 それでも、年に一回は行商人が珍しい物を持ってやってきます。 今の感覚では雑穀ぐらいしか売る物がない村に行ったって商 売にならないと思いますが、そう簡単に食べ物が手に入らない 時代ですから雑穀とはいえ確実に手に入れれる村はそれなりに 意味があるそうです。 希人の商品で人気があったのが男衆には手刀、ナイフですね。 女性には櫛です。櫛は漆塗りの本格的な物です。なんでも、 私らの村から30里くらい行ったところが漆の産地らしく、高価な 割に軽いので大量に仕入れてくるそうですが、背に腹は代えら れず、途中で食べ物と交換してしまうので、京に帰るころには すっかり数が少なくなり、大儲けするはずが、毎年とんとんだそ うで、儂は莫迦だと言っておられました。 希人は貴重な商品以外にも、いろいろ面白い話を聞かせてくれ るので、村としては大歓迎でした。いつも希人は隣村の寺に 泊まります。私らの村で客人を泊めるような余裕のある家がない こともありますが、坊さんと希人は昔からの知り合いだとかなん とかいう話でした。 たぶん、続きます。
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134 :自夜[]:2006/12/13(水) 01:05:31 ID:JFOXLboS0 - 第10話 青海
私らの村から旅に出る人はほとんどいません。まぁ、若衆の半分以上は 片道切符で旅に出るわけですが、これを除けばまずいません。せいぜい 港かお宮さんのある村か、そのちょっと奥にある焼き物をやっている村に 行くくらいです。もっと近くの村とは割と頻繁に行き来します。田畑も交錯 してますし、顔見知りも多いですし。切実な問題として水の分配の交渉も あります。焼き物の村からお宮さんの村、隣村、私らの村、そして港へと 一本の川が流れていまして、ここいらの村の田畑はすべてこの川の水に 依存しています。水の話で拗れると殺し合いです。まぁ、だいたいなんと か話し合いでけりがついていましたが。 で、港も焼き物の村も無理すれば日帰りで行き来が出来ます。 お宮さんの村へは村祭りの日は私らの村はほぼ全員でだらだら歩いて 行きます。で、向こうで一晩村人全員で野宿した後、まただらだらと歩い て村に戻ります。 焼き物の村へは食器類を仕入れに行くわけですが、だいたい男衆の代 表が行ってましたね。食器類と言っても素焼きの質素な物ですが。あと は木を刳り抜いた物。これは自家製ですね。 港へもだいたい男衆の代表が行っていましたが、何回かととちゃに連れ られて行ったことがあります。 初めて海を見たときはびっくらこきましたねぇ。ベタですが、「なんてでっか い水たまりだろう」って。んで、船を初めて見たときもびっくりですよ。本当 に腰が抜けてしまいました。 その後だったと思います。坊さんから地球は丸いんだってことを教わりまし た。まぁ、コロンブスより後の時代ですから、無理ではないんですが。あの 坊さん、どっからそんな知識を得たんでしょうねぇ。 たぶん、続きます。
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135 :自夜[]:2006/12/13(水) 01:08:49 ID:JFOXLboS0 - 第11話 港町
まぁ、とにかく人人人、人で一杯。これが港町の感想。 腰が抜けっぱなしです。京はこれの何倍もでかいんだと。 ととちゃ、なんであんたそんなことしっとんねん。 これだけの人が田畑もなしでどうやって食べていってるんだろう。 ととちゃにきくと、外国からやってきた船から荷物を下ろし、小舟に移し替え て国内の別の所に送ったり、その逆をやったり、その時の荷物の運び賃と か、港の使用料とか、そういうので稼いでいるんだと。まぁ、貨幣もそんな に流通していませんでしたから、実際には荷物の一部をもらっていたんで しょうけど。 それ以上に、船とか人の段取りをするだけで稼いでいる連中もいるとのこと。 そういう連中は紙にちゃちゃーっと文字書いて、ぺったんと判子押すだけで 倉にどんどん米が貯まっていくんだと。それを聞いて、何も作ってないのに ずるい連中だなぁって思いましたねぇ。だいたい紙ってのは貴重品で、私ら のノートは隣村の寺の庭の地面だって言うのに。 「ととちゃ、それが坊さんの言ってた「私腹を肥やした莫迦共」か?」 「うんにゃ、そいつら、ずる賢いけど、まだ人の為になる仕事をやっちょる。 これからこういう仕事で喰っていく奴がどんどん増えていく思う。それは、悪い こっちゃない。坊さんの言う莫迦共は人のことなんてなーんも考えとらん連中じゃ」 「ふーん」 ととちゃとそんな話をしながら、私は海の向こうにある国とはどんな国だろうなんて、 思ってました。自分の国の京のことも知らないくせにねぇ。 たぶん、続きます。
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136 :自夜[]:2006/12/13(水) 01:13:56 ID:JFOXLboS0 - 前回は、ちょっと脚色入ってますかね。でも、だいたいこんな会話をしました。
第12話 落武 さて、そのころの女性の適齢期は数えで15-6歳、今の年齢で14-5歳ってところですか。 そこの■り、涎たれてますよ。 10歳を超えると大人と同じように野良仕事をするようになります。 私も呑気な少女時代を過ぎて、大人の仲間入りをした頃、村はじまって以来の大事件が 起こりました。 私らの村の猟区がある山は、その頂が3つの国に跨っており、今でもそれにちなんだ名前 が付いていますが、その猟区で落武者が見つかるという出来事が起きたのです。 まだ、少年に毛が生えた位の青年(なんか露骨な表現?)で、大怪我をしていたので、男 衆がとりあえず、隣村の寺に担ぎ込んだわけです。 当初は私ら若い女性は寺に行くことも禁じられました。だから保護(?)されたときの青年 の様子は直接には知りません。 一月くらいたったくらいでしょうか、ととちゃの話では随分疵も癒えて、寺の周りくらいなら 杖をついて歩けるようになったとのこと。でも、頑として自分の名前や何処の家来衆かは 言わないそうです。村も変な災いをしょいこむのが嫌で、役人には届けていないそうです。 その何日か後から、若い女性が交代で寺の世話に行くことになりました。そう何時までも 男衆や体力のあるおばちゃんを野良仕事から外しておくわけにはいかないからです。 何番目かで私の番が来ました。 その、あの、なんていうか、こういうことを書くのは非常に恥ずかしいのですが、一目惚れし てしまいましたね。ぶっちゃけ、顔がモロ好み。 きゃー、こっぱずかし。 と、いうわけで、たぶん、続きます。
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137 :自夜[]:2006/12/13(水) 01:16:52 ID:JFOXLboS0 - 第13話 生駒
気を取り直してっと。 半年もすると、青年の怪我もすっかり直り(体はヒョウタン継ぎになっちゃいましたが)、野良 作業も手伝うようになりました。寺も出て、私らの村のとある家に居候するようになりました。 そこの家には私よりひとつ上くらいの娘がいましたから、私は面白くありません。でも私の家 は兄弟が多く、そこの家は少なかったので仕方ありません。 それでも野良仕事で会う時にそのことで拗ねたフリして青年の気を引いたり、まぁ青春ごっこ をしていたわけです。楽しかったなぁ。心が通じ合ってると思ってましたしね。 それから3年後、適齢期となった私はその青年と一緒になり、腰が曲がって、地に着くまで幸 せに暮らしましたとさ・・・・・・ってなればよかったんですがね〜、そうはいきません。私には 野垂れ死にという運命が待っています。 季節は巡り、1年過ぎた頃、またまた大事件の発生です。騎馬2騎を先頭に、徒十余名の軍隊 が私らの村に突然現れました。 ちょうどその時野良仕事に出ていた私は最初何が起こったのか、全く判りませんでしたが、急 に我に返り、こりゃやばいと思うが早いか、傍らにいた青年を物陰に突き倒すようにして隠しま した。近くに物陰は肥壷しかなかったんですが。 兵隊達は一通り、村を詮索すると、隣村へと向かいました。 何事だってことで、一同氏神様のところに集まって(一人文字通り臭いのがいましたが)ああ でもないこうでもないと議論しているところへ、先ほどの兵隊達が戻ってきました。 誰か、縛って連れてきています。誰?近づいてきて、縛られている人の顔が見えたとたんに 村人に沸き上がる疑問と避難の無言の声。 あの坊さんが、 何故? 以下後半へ続く かもしれない。
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138 :自夜[]:2006/12/13(水) 01:23:10 ID:JFOXLboS0 - と、いうわけで、前半部分、1クール分が無事(?)終了しました。
こうやって、書いてみると、私の(前世の)人生前半分はけっこう幸せジャン。 なんで、こんな私が野垂れ死にを・・・・・・・・・ まぁ、今の人生、どこまで過ぎたか判りませんが、前世前半以上に能天気で幸せして ますから、特に不服はありません。 長いこと、お付き合いいただきありがとうございました。私、これで、今日はお休み させていただきます。 ほいじゃ、あしたもよろしく たぶん
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141 :自夜[]:2006/12/13(水) 12:20:37 ID:JFOXLboS0 - みなさん、おそようございます。
お約束通り、2クール目をうぷいたします。 2クール目から文体を少し変えてみました。無理矢理全26話に納めるためというのが 本当ですが、殺伐としたストーリー展開なので、殺伐と書いてみました。
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142 :自夜[]:2006/12/13(水) 12:24:47 ID:JFOXLboS0 - 第14話 坊主
その日、ととちゃとうえのおにちゃは丑の刻過ぎて戻ってきた。役所(多分代官所のこと、私ら は役所と呼んでいた)に坊さんが連行された理由を確認しに行ったのである。隣村からも男衆 が来ていたという。 訳がわからない。訳がわからない。確かに口が悪い坊さんではあったが、役人に連れて行か れるほどの悪口は言ってない。 ととちゃが明日もう一度行くという。村一番のじいさまが儂が行こうかと言う。なにかされても、 もう充分生きたから悔いはないという。なに莫迦なこといってる、年寄りがあんな遠くまで行け るかよ。これはかかちゃ。役所は港の更に向こうにある。「私も行く!」気が付くと立ち上がって そう叫んでいた私がいた。 ちらと青年を見る。一緒に立ち上がってくれることを期待したが青年は動こうとしない。少し青ざ めてる?やはり追われる身なのだろうか。直接関係ないとはいえ役人の前に顔を出すのは気 が乗らないのかも知れない。 翌朝、夜明け少し前に村を出る。午の刻前には役所の前に着く。役所の前のやせ細った鳥居 のような門の脇に篭が置いてある。中に人影・・・ 「坊さん!!」 「どぉしたぁ、おめーたち」 「どぉしたぁじゃないよ、なしてこがいなこと」 意外にも坊さんは元気だった。ひどいことをされた様子もない。 「なんかぁしらんがぁ、わしがぁなんかきにいらんことしたらしいー。でぇさらしだとぉ」 つづく
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143 :自夜[]:2006/12/13(水) 12:27:29 ID:JFOXLboS0 - 第15話 逐電
「なーもしんぺーするこたぁねー、わしをぉ殺す気ぃはぁねーらしー。おめーたちはむらぁかえりな」 「でも、坊さん・・・」 私らは篭の周りに集まった。番兵はいたが、止める気はないらしい。微動だにしない。 「じんせーむなしーもんだ。はなねーもんだ。でもなぁー、すてたもんでもねーだ」 「なにいってるだ、坊さん」 「殺す気ぃならそれもまた是ぇ、わしぃ殺したところでなーもかわらん。殺す方がよう知っとぉ」 そう言って坊さんはにぃ〜と嗤った。なに言ってる、坊さん。あんたは80まで生きるんだ!! その時番兵が無表情であさっての方を向いたまま、つぶやくようにこう言った。 「もうよかろう。百姓共、村へ帰るがいい」 くやしかった、くやしかった、くやしかった、くやしかった、くやしかった。無性にくやしかった。 私らはとぼとぼと、村へ向かった。遠い道のりだが、皆足が進まなかった。 村の近くまで戻ってきたときはもう日が暮れかかろうとしていた。珍しくかかちゃが私の名で話かけた。 「自夜(本当の名前はちがいます)、覚えておき。この位の時分、妖怪が出るから」 「うん」 まるで、独り言を言うようなかかちゃ、生返事をする私。道の向こうの暗がりに見える何かの陰。 犬神様(狼のこと)? その陰はお辞儀のような仕草をすると、さっと木立の陰に消えていった。 送り狼ってのは聞いたことあるけど迎え狼ってのは聞いたことないなぁ。とぼとぼあるきながら、私は ぼんやりとそんなことを考えていた。かかちゃは念仏のように「ひきこまれないように」と繰り返す。 家に着いた私は、足の痛みで居留守をしていた父から青年が消えたことを知らされた。 私はその晩、声を立てず、ひたすら涙を流した。 つづく
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144 :自夜[]:2006/12/13(水) 12:30:50 ID:JFOXLboS0 - 第16話 薄情
青年は戻ってこなかった。坊さんは戻ってこなかった。 私は力無くただ日常を生きていた。ととちゃは「やっぱ、さむらいとは関わり合いになるもんじゃない」 と言う。かかちゃは「いろいろ事情があるんだよ」という。さむらいも、元からさむらいじゃぁない。 元はみんな百姓やった。これはじいさま。 人間ってのはつくづく薄情だと思う。次の村祭りの頃には私はすっかり立ち直って、人一倍はしゃいでいた。 女酒でももっぱら盛り上げる係だ。まだ猥談はできなかったけど。 でも、坊さんがいないのは寂しい。あの難しい顔して難しいこと言う坊さんがいないのは寂しい。役人を 小馬鹿にする坊さんがいないのは寂しい。酔うとくしゃくしゃな泣きそうな顔して人生の空しさ、儚さを 説く坊さんがいないのは寂しい。 でも、なぜか青年のことは思い出さない。 人間ってのはつくづく薄情だと思う。 私は数えで16歳になり、かかちゃがそろそろ逝き遅れを心配するようになった。 次の村祭りが近づいたある晩、私は突然「嫁拐」に遭った。 つづく
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145 :自夜[]:2006/12/13(水) 12:36:45 ID:JFOXLboS0 - 第17話 嫁拐
よめごさらい。嫁盗み(よめごぬすみ)として、今でも某地に残っているらしい風習、というより奇習。 前世の私の時代でもとうに廃れた風習。突然数名の若衆が私の家になだれ込み、私を拉致して戸板に乗 せて運び去る。「よめごさろーた、よめごさろーた」と大声で叫びながら。行き先はどうやら隣村らしい。 (例の坊さんが教えてくれた)知識として嫁拐は知っていたので、多少驚きはしたものの、パニックに なることはなかった。むしろ、誰がさろーてくれたのか、そっちの方に興味があった。もっとも何時振り 落とされるかという恐怖は最後まであったが。 連れて行かれたのは隣村でもはずれのところ。こっちの方には来たことがなかった。待っていたのは私の 家といい勝負のみすぼらしい家。そして大男。 面識がないわけではなかった。でも、特に話をしたような記憶はなかった。よく見ると、ごつい体だけど 目だけは奇妙にかわいかった。仁王さんにキューピーさんの目と言えばご理解頂けるであろうか。私は最 初は声を殺して、そのうち我慢できなくなって、大声で床を叩いて笑い出していた。さらった方がきょと んとした顔をしている。それを見てまた大笑いし、最後には私は床を転げ回って笑っていた。はしたない。 その時初めて大男の名前を知った。(原作、もとい、自夜をパクらせてもらった作品から再度パクり、以 降「火袋」と呼ぶ。本当の名前は田子作系のもっと普通の名前) 後日知ったことだが、大騒ぎになったのは、それぞれの年寄り連中らしい。隣町の長老はうちの若いもん が大変なことをしたと神主を叩き起こして正装を借り受け、私が火袋の家に着く頃にはもう古式ゆかしき 口上を述べに私の家にたどり着いたという。対応したととちゃも物知りとはいえ、正式な対応を知らない。 私の村の長老を叩き起こしに逝き、それでも判らないので再度神主を叩き起こしに逝ったという。神主こ そいい迷惑である。ともあれ、翌日には火袋と私は夫婦になった。 つづく
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146 :自夜[]:2006/12/13(水) 12:40:56 ID:JFOXLboS0 - 第18話 火袋
火袋の父母は既に亡くなっており、私が嫁ぐ前には洟垂れ弟との二人暮らしだったそうだ。弟妹は沢山生 まれたが、洟垂れに生まれ変わった以外は皆出入り口先に眠っている。で、いい年にはなったが、親がい ないため嫁の取り方が判らない。それを若衆に相談するのもどうかしているが、そこに適当な入れ知恵を した馬鹿者がいて、件の奇行に及んだらしい。神主に謝れ。その馬鹿者と一緒に土下座して、神主に謝れ。 家族には恵まれなかった火袋ではあったが、村の若衆(総領=あととり以外の青年)には慕われていた。 若衆が出て行かずに済む村を作るんだが口癖で、新田作りが生き甲斐であった。勿論、役所に無届けの 新田作りは御法度である。届を出せば、折角作った田畑も最終的には村のものにはならない。なにがあっ たかは火袋は話してくれなかったが、生涯役人を恨むような相当な出来事があったらしい。 ともあれ、火袋の働き者のよき女房として、一抹の不安を感じながらも私は幸せな日々を送った。 そして、半年が経ち、次の村祭りがくる頃、私は私のお腹に新しい命が宿ったのを感じた。 火袋の喜び方は尋常ではなかった。お宮さんというお宮さんを廻っては安産祈願をしたり(その割には 安産の神様で有名な例の大きなお宮さんには逝かなかったり。ちなみに安産の神様は戦いの神様の母堂 で、共にそのお宮さんの主祭神である。嗚呼、また場所が特定されるようなネタを・・・)、とにかく 危なくないようにと私を寝たきりにさせようとしたり、それじゃぁかえって体に悪いからと言うと、今 度は急き立てるように私を動かそうとするし。現世の旦那を見ても、男ってのはどうしてああ極端なん だろうと思う(おたくの旦那さんはどう?)。 その間も若衆の面倒はよく見たし、洟垂れ弟の世話もよくした。これが火袋の偉いことだと思う。 年が変わって、私は男の子を産んだ。 つづく
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147 :自夜[]:2006/12/13(水) 12:45:27 ID:JFOXLboS0 - 第19話 水子
我が子だからそう思うのか、とにかく可愛い赤子であった。珠のようなとはよく言ったものだと思った。 産声も元気よかったし、お乳もよく飲んだ。火袋の顔は崩れっぱなしであった。 私は夢を見ていた。頼りがいがある夫。夫によく似たたくましい息子。若衆の笑い声。村人の笑顔。 一月も経たないうちにその赤子は泣かなくなり、出入り口先の土まんじゅうの仲間になった。 その晩、私は動くのも億劫で、完全に虚脱状態。涙はでなかったが、一晩中泣いていたと思う。 火袋の鳴き声は港の沖の海を越えて向こうの国まで聞こえるほどに大きかった。火袋の涙は洟垂れ弟ご と家を川まで押し流すほどに流れ出ていた。この人は弟妹が死ぬたびにこんな泣き方をしていたのであ ろうか。洟垂れ弟が平然と寝ているところを見ると、そうであったのかもしれない。そうでなかったの かもしれない。私たちが何か悪いことをしたのであろうか、そりゃぁ御法度の新田作りはしている。で もそれがそんなに悪いことなのか。見当違いな自問自答であることはわかっていた。もう夢は見れない のかも知れない。そんなことも考えていた。考えても仕方ないと考えていた。 「じんせーむなしーもんだ。はなねーもんだ」あの坊さんの声が聞こえる。何回も何回も。「じんせー むなしーもんだ。はなねーもんだ」でも、いつまでたっても聞こえない。「すてたもんでもねーだ」の 声。 次の日、私たちはたくましい百姓と働き者の女房、そして洟垂れ小僧に戻った。 また、いくつか時が過ぎた。 つづく
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148 :自夜[]:2006/12/13(水) 12:54:37 ID:JFOXLboS0 - 第20話 帰還
唐突に坊さんが戻ってきた。いくぶん太ったようだ。 「ろーやんなかはよぉ、さけだしてくれんけん、めしばーかくっとったわ」 どこまでもかわいくな坊さんである。 坊さんによると、天守様(守護大名のこと)の所は大変らしい。 「ありゃぁ、かんぜんにぃにげ支度だなぁ」 坊さん曰くの馬鹿者共(戦国大名のこと)がどんどん包囲網を固めているらしい。それで、坊さんのこと をかまっている余裕がなくなったとのこと。 「やつらも、ぼーさん殺すと罰があたるくれーのこたーぁ、しっとったーちゅうこっちゃなぁ」 どこまでも 以下省略。 「あれはおまえが5つんときに折った枝だぁ、このへいぶっこわしたんはぁ、おまえが7つんときだった かなー」 次々に過去の悪事が坊さんに明かされて、火袋は憮然としている。けっこうかわいい。 日頃表情をださない洟垂れ弟が坊さんの帰りをすごく喜んだのが意外だった。坊さんも弟を気に入ってる。 「ありゃーあほうみたいなつらしとーけど、なみじゃぁねーかしこさやどー」 そう言われて改めて見てみると、確かにそういうところはある。 ある晩洟垂れが空を見上げていて「あ、星が動いた」と言った。その時代の私ら凡人はそれが本当なら なにか悪いことの前兆ではないかと思うところである。ところがその洟垂れは「なんでかなぁ、まだまだ わからんことが多いなぁ」ときた。若くして戦乱に巻き込まれて死んだのは残念に思う。他人の転生には あまり関心のない私であるが、この洟垂れは生まれ変わってどえらいことをしてもらいたいと思う。 つづく
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150 :自夜[]:2006/12/13(水) 12:56:39 ID:JFOXLboS0 - 第21話 火手
坊さんが戻った翌年の暮れ、私は女の子を産んだ。火袋の反応については省略。海向こうに迷惑をかけ てなければよいが。 この子は前の子と違い弱々しい子であった。鳴き声も弱々しく、お乳も、これでほんとに飲んでるんかい なと思うくらい。そしてすぐ吐いた。 これで無事育つのやろうか。不安が胸をよぎる。 それからしばらくした夜、若衆の一人が私の家に飛び込んできた。火袋に余計なことを吹き込んだ馬鹿者 だ。興奮して何を叫いているかわからない。火袋はすぐに家から飛び出、「隣村が家事だぁ!!!」 私もすぐ飛び出した。私の生まれ育った村が燃えていた。ととちゃ、かかちゃ、おにちゃ、おねちゃ。 「逃げろ、急げ」急き立てられて山へ走った。腕の中で、赤子が揺れている。首もまだ座っていない赤子。 揺れるたびに頭がもげそうに思える。「あんた、もうちょっとゆっくり」「莫迦やろ、死にたいんか」 この子となら死んでもいい。坊さんが裾をからげて奇声を上げながら走ってきた。「きたぞーきたぞーきたぞー」 坊さんも命が惜しいらしい。「殺す気ぃならそれもまた是ぇ」ゆーとったやんか、坊さん。あれは嘘か。 気が付くと、猟場のある山の中腹まで来ていた。夜は明けようとしていた。赤子を見る。よかった。首は もげてない。揺すってみる。口をゆがめてめーめー泣き出す。よかった、生きてる。 見渡すと近隣の村の顔見知りもいる。ずいぶんここに逃げてきたみたいだ。 「こっちへ」火袋が手をつかんで洞窟の方へ向かう。洞窟? こんな所に洞窟なんてあったっけ。 洞窟の中に入って、私は暫くの間、阿呆のように口をあけていた。米俵、米俵、米俵。いつの間に、どこから。 そうか、納米。毎年氏神様に納めるお米。こういうときの為の備蓄米だったんだ。それまで氏神様に捧げる物 と本気で信じていた私は・・・莫迦? つづく
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151 :自夜[]:2006/12/13(水) 13:00:19 ID:JFOXLboS0 - 第22話 抗戦
いつの間にか、酒樽が開けられていた。「おまえも飲め」初めて飲む米の濁酒。うまい。甘い。 口移しで赤子にも舐めさせてやる。お乳の時より吸い付きがいい。これこれ、それはかかちゃの舌だよ。 こりゃぁ、酒飲みになるなぁ。 洞窟の入り口の向こうに村が見える。いや、村だったところが見える。遠くに港あたりが見える。盛んに火を 上げているようだ。あの一杯の人たちも逃げまどっているんだ。 洞窟の入り口あたりで、どこかの村の長老らしき人がしきりに演説をしている。よく聞き取れない。 「いよいよくるべきもんがーきたなー」坊さん、何うれしそうに酒のんでんねん。 坊さんの説明では東からの馬鹿者共と南からの馬鹿者共がこのあたりの土地を狙っていたらしい。昨夜来の 襲撃は東からのものらしい。でも、百姓までやっつけたら乗っ取る意味ないじゃない。 「それがーよー、やつらも人がよーけおってよー、そいつらをこの土地にいれるが。この瑞穂の土地によー」 瑞穂、たわわに米が実る様子、そのような豊かな土地の意味。みずほちゃん。花に囲まれて埋められた女の子。 貴女はよかったね、みんなに送って貰えて。ととちゃ、かかちゃ、おにちゃ、おねちゃ、うえのおにちゃのき れいなお嫁さん、そして洟垂れ弟。かわいそうに、だれも埋めてくれない。だれも送ってくれない。 「で、これからどうなるの。どこまで逃げるの」 「逃げるのはここまで。盗られたものは取り返す。」 にぃっと嗤う火袋。ちょっと、火袋、本気? つづく
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153 :自夜[]:2006/12/13(水) 13:03:40 ID:JFOXLboS0 - 第23話 転落
私らは菰を被って浮浪者、まぁ乞食のふりをして港町だったところにいた。与えられた任務は敵陣偵察。 町は方々焼け崩れていたが、何軒かは無事なようだ。私らのような乞食があちこちさまよっている。おかげで、 私らも目立たずに済む。脇に忍ばせた手刀が思い。これは万一の時の自決用。この町が本格的に焼き尽くされる のはこれから何年か後、南からの馬鹿者共によってである。その後、何年も某やせっぽちの天下人に復興される まで無人の荒野となる。今の反映ぶりが嘘みたいだ。この時の私たちはそんなことは知らない。 町はずれの川の中の洲に何本もの磔台。手前の人物に見覚えがある。あれは、希人。あの行商人? 「間者だったんかなぁ」と相棒。「じゃぁ坊さんも間者?だから役人に捕まった?」「ん〜、どうかなぁ。五分 五分ってところかなぁ」 「町の連中はだめね。ぜんぜんまとまっていない」洞窟の中で報告する私。 「山向こうの連中は?」「あっちはあっちで手が離せないらしい」「じゃぁ、やっぱり俺たちだけでやるしか ないか」「きびしいなぁ」 そして、決起の日。冷たい雨の日。走る走る走る。意外と弱い抵抗にこれはいけるかなとおもったその瞬間、 うなりを上げて飛んでくる矢、矢、矢。もろに額に矢をうけて、奇妙なうなり声を上げて崩れ落ちる乞食の相 棒、腹を射抜かれて悶絶する若衆、いち早く逃げる坊さん。「わしゃぁ、ぼうずじゃぁ。最後にみなを弔わな いかんのじゃぁ」嘘付け。弔ったことなんて一度もないじゃないか〜ぁ! そして、あっという間の敗北。 そして、舞台は再度洞窟。私は怒っていた。「なによなによ。百姓一致団結してさむらいから土地を取り戻す なんて威勢のいいこと言って、今じゃ追い剥ぎでかつかつ生きてるだけじゃない。」しょぼくれる火袋と若衆。 あ〜ぁ、女山賊ならまだしも、こそ泥にまで落ちてしまった。 つづく
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155 :自夜[]:2006/12/13(水) 13:39:50 ID:JFOXLboS0 - 第24話 放浪
転がりだしたら下り坂。最初のうちは行き倒れた人の持ち物を頂いていたのだが。備蓄米もまだあったし。そのう ち、生きている人の持ち物まで狙うようになってしまった。新しい領主様は領地の治安維持に熱心な方で、良民保 護のため、山賊狩りに熱心である。誰が私らを山賊(実はこそ泥)にしたんだ。人の土地奪っておいて、何が良民 だ。いくら叫んでも実力を伴わない身の悲しさ。すぐに仲間はちりぢりになり、気が付いたら親子3人、物乞い稼業。 遂に本当の乞食。 きっと坊さんがちくったんだ。やっぱりあいつは間者だったんだ。今度見かけたら、あいつだけはぶっ殺してやる。 その時は本気でそう思ってましたし、その怒りのみで生き続けたようなもんだ。 少しでも多くの物を恵んでくれる所を、出来れば猫の額でもいいから耕せる田畑を、と都合のいい望みを抱きつつ やはり世の中は甘くない。いつ果てるともない放浪の旅。歩けばそれだけ腹が減る。 どこをどう歩き回ったか判らない。でも、夏が来て、秋が来て、冬が来て、春が来て、これをもう一度繰り返すまで 親子3人なんとか生きてきた。 子供もかぞえで4歳。 しかし、この子はなんでもよく食べるねぇ。私や火袋は煮炊きしても顔をかしめないと食べれない芋虫や、蚯蚓、蛭 でさえ、生で美味しそうに。ごめんね。ととちゃ、かかちゃが不甲斐なくて。 2年も放浪しているとだんだんコツがわかってくる。どんなにお腹が減っていたって、夜、星を見ながら火袋が語る 夢を聞いているのはそれなりに心地よい。「また出来もしないこと言って」などと相づちを打つのも楽しい。 そんな親子3人の旅も唐突に2年ちょっとで終わった。 つづく
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- でどうやって幽霊と幻覚みわけるの?
77 :自夜[]:2006/12/13(水) 13:43:51 ID:JFOXLboS0 - >>75さん
幽霊やってたのは200年くらいで、あとの200年は気絶してたようなもんで記憶にありません。 時代的に面白い事件がいろいろあったようですが、面白いと感じる部分が欠落していたようで、 そういう意味でありませんでした。
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- まんこのふしぎ
288 :自夜[]:2006/12/13(水) 14:04:06 ID:JFOXLboS0 - まんこのふしぎ:N○Kの第2放送
ふしぎのまんこ:テレビ東京の日曜の午前中
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156 :自夜[]:2006/12/13(水) 14:05:28 ID:JFOXLboS0 - あれ?
ここ連投禁止でしたっけ?
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157 :自夜[]:2006/12/13(水) 14:09:55 ID:JFOXLboS0 - あぁ、大丈夫ですね。単に長すぎただけのようです。
あと、2話分、ちょっと校正します。
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160 :自夜[]:2006/12/13(水) 14:28:27 ID:JFOXLboS0 - 第25話 乱世
しゃべり方がちょっと変だなと気付いたときは、既に手遅れだったと思う。梅雨時、雷をきっかけに、火袋が 突然苦しみ出した。以前見たことがある苦しみ方と同じ。みるみる形相が変わり、3日3晩のたうち回り苦しみ 抜いて、火袋は動かなくなった。私は物心ついてから2回目の涙を流した。 私は子供と一緒に深い穴を掘った。素手で掘った。大切な手刀はまだ駄目にするわけにはいかない。私と子供は まだ生き抜かなければならない。土が雨で柔らかくなっていたのが助かるなと思った。 火袋を穴に入れて、2人で土をかけた。墓標代わりの石を探していると、子供が地蔵さんを指してこれが良いと いう。それは駄目だよと子供を諭し、適当な石を見つけて2人で運ぶ。この頃一人遊びが多かったせいか、かか ちゃと一緒になにかするのが楽しそうだ。子供は無邪気だ。石を置き、簡単な念仏を教え一緒に唱えた。この子 にも、普通に生きれる術をおしえてやらねばなどと考えながら、一生懸命念仏を唱える子供を見ていた。 その時、遠くから蹄の音が聞こえ、スローモーションのようにゆっくり走りながら一騎の騎馬が駆けてきて、 作ったばかりの土まんじゅうを 踏んだ。全身の毛穴から怒気が吹き出し、髪の毛が逆立つのが時分でも判る。 子供の方が動きが早かった。飛んでいく石、首筋に当たり嘶く駒、振り返りながら真っ赤な目で刀の柄に手をか けるさむらい。全てがスローモーション。私は腰に差していた手刀に手をかけた。 私は鬼になっていた。初めて人を殺めた。指が硬直している。手が動かない。ふと、蹄の音が遠ざかるのが聞こ えた。しまった。見つかる。私は子供を引きずるようにその場を立ち去った。 つづく
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161 :自夜[]:2006/12/13(水) 14:48:18 ID:JFOXLboS0 - 第26話 無惨帖
他人の猟区を荒らすと殺されても文句は言えない。だから、今までは山を避けていた。 今はさむかいから逃げるのが先だ。私と子供は山に入った。古兎のように、用心深く身を隠しながら。 夏の間は蛇、山鳥が獲れた。畑から未成熟の作物を盗ることもあった。利き腕が次第に痺れるようになり、獣が獲れなくなっ た。火袋の穴を掘ったときに剥がした爪から悪い物が入ったのか、人を殺めた罰か。秋になると山苺、あけびなどの果実が 手に入った。たまに獲れる獣や蛇などは子供に与えた。私は体力が衰えつつあるのを感じていた。 その年、初めての雪が降り、私は時分の迂闊さに気付いた。ここ北斜面に当たる。じき、深い雪に閉ざされる。 雪が積もる前に峠を越えて南斜面に移動しなければ。 遅かった。峠は雪が降り積もっていた。私は途中で動けなくなり、子供に覆い被さるようにして倒れた。単衣である。寒さ が骨にしみる。でも、こうやって覆い被さっていると、子供だけは寒くないだろうと思っていた。そのうち何故か暖かくなっ てきた。熱いくらいだ。特に子供に接しているお腹が熱い。雪の中だから寒くて当然と頭では思っている。でも熱い。この 矛盾に頭がおかしくなった。意味もなく笑い出したくなる。立ち上がって暴れたくなる。「おかしいね、雪なのにとてもぬ くいね」「かかちゃ、ちっともぬくーない」「おかしいね、雪なのにとてもぬくいね」「かかちゃ、ちっともぬくーない」 と繰り返していた。子供はかかちゃが狂ったと思ったことだろう。やがて目の前に黒い陰が降りた。 私は私にすがって泣き叫ぶ子供を少し上の方から冷たい目で見ていた。 きのえね(甲子)の年(永禄7年)、私は死んだ。 完・・・たぶん
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163 :自夜[]:2006/12/13(水) 15:05:28 ID:JFOXLboS0 - 第1部前世編の完了です。
長文におつきあい頂いてありがとうございました。 >>139さん、>>140さん、>>158=159さん、>>162さん まとめてですみません。ありがとうございました。 毎回の引きが同じようなパターンなのは私の文才のなさがなせることです。 なんか、場所が特定できそーなこといっぱい書いちゃいましたが、私からここですとか当たって ますとかは申し上げられません。 第2部幽霊編は今のところ書く気がありません。そんなもん書いてしまったら、第3部現世編と いうコメディーまで書かされてしまうことになってしまいます。これは絶対に避けたい。 第2部の抜粋くらいはここでほんのちょこっとくらいは書くかも知れませんけど。 正直自分が死ぬ話を書くのがこんなにしんどいとは思いませんでした。 第12話のこっぱずかしさをマイナスにして4242倍したくらいのダメージを受けました。 思い立っても、ぜーったいやんないほうがいいです。ほいじゃ ひのえいぬ(丙戌)の年(平成18年)、自夜は4242倍のダメージを受けた 自夜はお腹が空いた
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- でどうやって幽霊と幻覚みわけるの?
80 :自夜[]:2006/12/13(水) 17:31:41 ID:JFOXLboS0 - >>78さん
成仏っていう概念もありませんでしたね。ただ幽霊としても消えてしまったって感じ 私がそういうタイプの幽霊だったということかも知れません。いきなり怨霊になる タイプの幽霊もいるかもしれません。ただ、私が幽霊の時は怨霊タイプの幽霊には 出会いませんでした。だいたい私みたいな感じでふらふらしてました。 >>79さん 呆けていい? 明治維新
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165 :自夜[]:2006/12/13(水) 18:58:33 ID:JFOXLboS0 - >>164さん
私への質問でしょうか? 1.共通する人はいません っていうか 私自身、別人になってますので 2.私、霊感ないので判りません
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168 :自夜[]:2006/12/13(水) 19:22:27 ID:JFOXLboS0 - >>166さん
ん〜、ずっと見てたのは数年ですね。子供が気がかりという念が残って幽霊になった わけですから。 >>167さん 本人が気付いていないだけでいろいろあるのかもしれません 私の場合、むしろ幽霊やってたせいで、どーでーも いーいでーす よー癖がついたと思います
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172 :自夜[]:2006/12/13(水) 19:46:43 ID:JFOXLboS0 - >>170のまぐろさん
子供は、まぁ、無事(?)成長しました。 >>171さん 幽霊になれば同族ですから幽霊は見れます。っていうか、感じることが出来ます。 妖怪の類もよく見えるようになります。連中、幽霊には無関心なんですよ。わりと。生きてる もんが好きなんでしょうね。自分も生きてるわけだから。 幽霊の時、人間と会話したことはあります。例外的にですが。 幽霊どうしは互いに興味をもってないので、あまり会話はありません。全然ないわけじゃ ないですけど。中には幽霊に取り憑く幽霊もいますし。 守護霊、背後霊については否定的です。単にくっついてるだけの幽霊はけっこういますが。 私の子供には霊はついてなかったですね。私以外は。 すんません。とりあえず、おちます。いずれ、戻ってきます。
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