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鏡 ラスト  ◆oJUBn2VTGE
海  ◆oJUBn2VTGE
海 ラスト  ◆oJUBn2VTGE
怖い夢  ◆oJUBn2VTGE
怖い夢 ラスト  ◆oJUBn2VTGE
死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?151

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死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?151
376 :鏡   ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:09:25 ID:Q8VwWIU/0
大学1回生の冬。
大学に入ってから出入りするようになったネットの地元系オカルト
フォーラムのオフ会に出たときのこと。
オフ会とは言っても、集まって居酒屋で飲む程度のものもあればディープ
なメンバーによる秘密の会合のようなものもあった。
その日も10人ほどの人間が集まって白木屋でオカルト話を肴に飲んだ後、
主要メンバーだけが夜更けにリーダー格の女性の部屋に集ったのだった。
そのリーダー格の女性とはColoさんという人で(なぜか頻繁にハンドルネーム
を変えるのでそのとき本当にColoだったかは自信がない)、俺のオカルト道
の師匠の彼女でもあった人だったので妙に可愛がられ、若輩の俺も濃い主要
メンバーの集まりに混ぜてもらうことがよくあったのだ。

秘密の会合では交霊実験まがいのことをすることもあったが、その日は
1次会の流れのままColoさんの部屋でダラダラと酒を飲んでいた。
山下さんという男の先輩が「疲れてくると人間の顔が4パターンしか見え
なくなくなる」という不思議な現象にまつわる怖い話をしていたところまでは
覚えている。
揺さぶられて目を覚ましたとき、部屋には3人しかいなかった。
Coloさん、みかっちさんという女性陣に俺。
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377 :鏡   ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:10:21 ID:Q8VwWIU/0
「鏡占いに行こう」
まだ覚醒していない頭に、実にシンプルな構文が滑り込んできた。
なんでも市内に新しい占いの店がオープンしたのだが、それが一風変わった
「鏡を使った占い」をしているのだそうだ。
思わず腕時計を見たが、短針は12時を回っていた。
しかし二人は大丈夫、大丈夫、まだやってるというのである。
洗面所をかりて顔だけ洗っていると、Coloさんがそばにやってきてこう言った。
「困ってることがあるんでしょう。その店の鏡の中には、困難の正体が映るん
 だって」
困っていること。
たしかにある。Coloさんやオフ会のメンバーには言っていないが、そのころ
俺はある女性に絡むやっかいごとの只中にいた。
霊感の強い人に立て続けに出会ったせいか心霊現象にはよく遭遇するように
なっていたのだが、異常な人間のほうがはっきり言ってたちが悪い。
その女性は、信じがたいことに市内の高校で「同級生の血を吸う」という事件
を起こして停学になったことがあるという。
興味をもって彼女のことを調べてまわっていたのが不興を買ったのか、その
ころ身の回りに不可思議な出来事が立て続いて起きていた。
もちろん彼女と関係があるとは限らない。
しかし最悪の事態を想定して生活するのは臆病者にとって当然だ。俺は知り合い
にもらった魔除けのタリスマンなるものまで肌身離さず持っていた。
Coloさんは何を考えているのかわからない独特の表情で、「たぶん、本物だから」
と言った。

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378 :鏡   ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:11:29 ID:Q8VwWIU/0
Coloさんは勘が鋭い。大学のサークルの先輩でもある俺のオカルト道の師匠
には、そのやっかいごとを伝えていたが、恋人を巻き込みたくないのか師匠は
Coloさんには教えてないはずだった。
はずなのに、なにか勘づいているような気配がしていた。
3人で連れ立ってマンションの一室を出ると外はやたら寒く、俺は帰りま
せんかと何度か言ったが女性二人がノリノリだったため無視され、繁華街の
ほうへずんずんと歩を進めていった。
ところが、その途上でみかっちさんのPHSが鳴り、みかっちさんは電話口
で何事かわめいたかと思うと走ってどこかに行ってしまった。
俺は面くらうとともにどこかほっとして、「二人になったし、帰りましょう」
と言った。
しかしColoさんは首を振ると「来なさい」と有無を言わせぬ口調で俺を促した。
深夜1時近くになっていたが、まだ明かりの消えない華やかな通りから
すこし外れて、薄暗い裏通りを進むと「学生ローン」とかかれた看板のある
小さなビルの前に立ち止まった。
占いの店らしき看板も出ていないが、Coloさんはここだと言う。
そして地下へのびる階段をずんずんと降りて行くのだった。
地下には「占い」とだけかかれた怪しげなドアがあり、Coloさんは躊躇なく
押し開けて俺を手招きするのだった。
薄暗い店内には人の気配がなく、厚手の黒い布で遮蔽されたカウンターらしき
ところに、人の手が見えた瞬間は思わずビクッとした。
Coloさんがその布越しになにか話しかけると、白い手は店の奥を指差したかと
思うとスゥっと消えるように引っ込んでいった。
狭い店内は黒で統一され、天井の照明も黒い布で覆われていたので目が慣れる
までは鼻を摘ままれてもとっさにはわからなかったかもしれない。

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379 :鏡   ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:12:40 ID:Q8VwWIU/0
「こっち」
とColoさんが俺の手をつかんで引っ張り、店の奥へと向かった。
奥には黒い布で隠されるようにしてドアがぽつんとあり、切れ目の入った
厚手の生地を掻き分けるように中を覗き込んだかと思うと、Coloさんは「ここ」
と言って俺を促すのだった。
流されるようにここまで来てしまったが、なんだかすべてが薄気味悪い。
『困難の正体が映る鏡』
そんなものが本当にあるんだろうか。とは思わなかった。
そんなものを見ていいんだろうか。
そう思ったのだった。
俺はColoさんに押し込まれるようにドアの中へ入った。
中はさっきまでよりも暗い。背後では切れ目の入った布が入り口を塞ぐように
バサバサともとに戻る音がした。
暗くても、部屋が狭いことは直感でわかる。その一番奥に人影が見えた。
ビクビクしながら近づくと、やはりそれは俺だった。
鏡面であることを確認しようとして手を伸ばそうとするが、一瞬頭がくらくら
するような感覚がして、それをすることは躊躇われた。なにか、説明しがたい
違和感のようなものがあった。
『困難の正体』
それは自分自身だ。
そんなことを悟らせるための店なのだろうかと、ふと思った。
全身が映っている大きな鏡の中の腕時計に目を落とすと、短針は1時のあたり
をさしていた。
そのときである。頭の中にくぐもったような耳鳴りがかすかに響き始めた。
まずい。
その音が、心臓を早鐘のように乱れさせる。
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380 :鏡   ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:13:30 ID:Q8VwWIU/0
なにかが起こる。
そう思った俺は、ここから出ようとした。
そしてそのために振り向こうとしたとき、鏡の中の青ざめた自分の顔の端に
なにか黒いものが見えた気がした。
ドキドキしながら振り返るが、なにもなかった。暗い部屋が広がっているだけだ。
また鏡に向き直る。
こんどは顔の位置がずれて、顔の後ろに隠れていた黒いものが大きくなっていた。
それが動いた瞬間、叫び声をあげそうになった。
はっきりとわかる。それは人影だった。
鏡の中の二つの人影。
一つは鏡の前に立つ俺。
もう一つはその俺の後ろに立つ長い髪の人物。
さっき振り向いたときはいなかった。
そして予感がする。
もう一度振り向いても、誰もいないのではないだろうか。
困難の正体なんか、見ていいはずがなかった。
後悔がよぎる。
鏡の中で部屋の入り口付近から、長い髪の人影がこちらのほうへジリジリと
近づいてくる。
暗すぎて顔まではわからない。
俺は震えながら、掛けていた眼鏡をずらす。
鏡の向こう、自分の姿や、背後の壁などとともに、その人影も輪郭からぼやけ
てしまった。
幻覚ではない。
脳が見せる幻なら眼鏡をずらしてもぼやけない。
硬直する俺の背後へ、ぼやけたままの人影が揺れながら近づいてくる。
耳鳴りが強くなる。
そしてこの部屋に入り、鏡を見た瞬間に感じた違和感がもう一度強く迫ってくる
ような気がした。
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381 :鏡   ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:15:03 ID:Q8VwWIU/0
振り向こうか。
振り向いたら、たぶんなにもいない。
そして部屋の入り口へ走って、外へ出る。
そうしようか。
心臓をバクバク言わせながらそんなこと思っていたが、けっして目は鏡の中から
逸らせないのだった。
そのとき、鏡の中の腕時計がまた目に入った。
短針は依然1時のあたりを指していた。その瞬間、違和感の正体に気がついた。
鏡の中で腕時計をしている手をじっと見つめる。
右側の手に腕時計をしていた。
鏡の中の俺が、右側の手に腕時計をしているのだった。
俺は固まったまま動けなくなる。
俺は普段、当然のことながら左手に腕時計をはめている。
鏡に映るときは、向かって左側の手にはめていないとおかしいではないか。
そしてその鏡の中の短針は、11時のあたりを指していないとおかしいはず
だった。
なんだこれは。なんだこれは。
という言葉が頭の中をぐるぐると回る。鏡に映る俺の体で、数少ない左右対称
ではないものが、すべてある結論を指し示していた。
心臓が、胸の右寄りの位置でドクドクと脈打っている気がした。
(こっちが鏡の中だ)
そんなことはあるはずがなかった。
しかし鏡の向こうの俺こそが、確かに正しい方の手に正しい時間を指す腕時計
をはめているのだった。
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382 :鏡   ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:16:22 ID:Q8VwWIU/0
そして鏡の向こうの俺の背後に、髪の長い長身の人影が迫って来ていた。
こっちが鏡の中である、というありえない事態に、俺はうろたえる余裕もなく、
こっちが鏡の中であるという前提のもとに、今なにをすべきかを考えた。
混乱する頭を蝿の飛び回るような耳鳴りが掻き乱し、なにをしていいのか
わからない。
動けない。振り向けない。
鏡の向こうの俺の背後に、切れ長の瞳が見えた瞬間、思わず叫んでいた。
「どうしたらいいですか」
なぜそんなことを言ったのかわからない。外にいるだろうColoさんに助けを
求める叫び声としては奇妙だ。まるで、すべてを知ってる人に問いかける
ような・・・・・・
すると間髪入れずに答えが返ってきた。
「来てよかったでしょう」
鏡の向こうで部屋の入り口の黒い布がガサガサと揺れ、妙に現実感のない
Coloさんの声が聞こえてきた。
「どうしたらいいですか」
もう一度叫んだ。すぐ背後まで来ている、切れ長の瞳の黒目が一瞬膨張した。
「簡単。今すぐこの予知夢から覚めて、鏡占いに行こうという誘いを断る。
 それだけ」
そんな言葉が、直接頭の中に響いた。

揺さぶられて目が覚める。
Coloさんのマンションの一室だった。
みかっちさんが目の前で机につっぷしているColoさんを続けて起こそうと
している。
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383 :鏡   ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:17:29 ID:Q8VwWIU/0
俺は覚醒しきれない頭で、状況を把握する。
熟考するまでもなく、夢を見ていたらしい。
思わず腕時計を確認する。12時過ぎ。もちろん右手にはめている。
ひどい夢だった。
すべてはColoさんの予知夢だった、という設定らしい。
確かにColoさんは異常に勘がするどく、その勘の元になっているのはエドガー
ケイシーのような予知夢だと、師匠に聞いたことがある。
その話が原因で、こんな変な夢を見たのか。
ばかばかしいではないか。
だって今のは、Coloさんの見る夢ではなく、この俺の夢だったのだから。
「うーん」という声とともにColoさんが頭をイヤイヤする。
みかっちさんが無理やりその頭を揺さぶりながら、言った。
「おきろー。鏡占いに行くんでしょ」
その言葉を聞いて、俺は背筋に冷たいものが走った。
いや、待て。俺が寝ているときにきっとそんな話になったのだろう。それが
浅い眠りに入っていた俺の夢の表層に現れたにすぎない。
「あー、そうだっけ」
眠そうに頭をあげるColoさんを見て、俺は思わず言った。
「いや、俺もう帰りますし」
みかっちさんは「えー」と言って、不満を口にしたが取り合わなかった。
Coloさんは瞼をこすりながら、俺をじっと見ていた。
「なにか」とドキドキしながら言うと、「なんだっけ」と首を捻っている。
「あ、そうだ」
そう言って、Coloさんはみかっちさんに何か耳打ちをした。
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384 :鏡   ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:19:19 ID:Q8VwWIU/0
するとみかっちさんは鼻で笑いながらPHSを取り出し、ベランダに出ながら
どこかに掛けはじめた。1、2分の後、みかっちさんはPHSに向かって
何事かわめきながらベランダから戻ってきて、慌しくColoさんの部屋を飛び
出していった。
呆然とする俺の前で、Coloさんが無表情のまま欠伸をひとつした。


結局その日は家に直帰し、なにごともなく一日が終わった。
後日、Coloさんの彼氏でもあるオカルト道の師匠のもとへその出来事の話を
しに行った。
気になってたまらなかったからだ。
一通り話を聞き終えると、師匠は唸りながら「巻き込まれたな」と言った。
以前、師匠からColoさんの体質について聞いてことがあったが、そのとき
「寝ているところをみせてやりたい。怖いぞ」というようなこと言った。
まさにその「怖い」現象に巻き込まれたのだと言う。
曰く、Coloさんは浅い眠りに入ったときに予知夢としかいいようがない不思議
な夢を見る。
その夢は目が覚めたときは覚えていない。ただ、ときどき日常生活の中で、
それを「思い出す」のだそうだ。
それも、まだ起こっていない未来を、思い出すのだ。
無理に思い出そうしても思い出せない。どういう基準で思い出せるのかも
よくわからない。しかも、まれにノイズとでもいうべきハズレが存在する。
その原因もわからない。
師匠はColoさんと一緒に寝ているとき、そのColoさんの見る予知夢を同時
体験してしまったことがあるという。自分が予知夢の登場人物になって思考し、
行動し、その体験が目覚めたあとも自分の意識にそのまま繋がっていた。そ
してその内容をColoさんは覚えていない。
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385 :鏡 ラスト  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:21:40 ID:Q8VwWIU/0
同じだった。今回の俺の体験と。
「巻き込まれた」とはそういうことなのだ。
師匠が見た夢のことは詳しく教えてくれなかったが、「口にしたくないほど
恐ろしかった」そうだ。
「僕以外で、巻き込まれた人ははじめてかもしれない」
師匠は変なことに感心している。
「それにしても面白いな。『困難の正体が映る鏡』を見に行って、いつの
 まにか自分自身が鏡の中にいたっていうのか」
あれは不思議な感覚だった。予知夢だかなんだか知らないが、そんなことは
ありえないと思う。あるいは、たまに外れるという『ノイズ』にあたる部分
なのかも知れない。
「1.鏡の向こうの俺に危険な人影が迫っている
 2.こちらがわにはその人影は存在しない
 3.今思考している俺は鏡の中の人物である
 4.鏡の向こうが本当の世界である    」

師匠はボソボソとそう呟いた。
「つまり、『いないはずの人影が鏡の中にだけ映っている』という最初の
 恐怖は、さっき挙げた君の4つの認識によって、『いるはずの人影が鏡の中
 に映っていない』と変換されたわけだ。夢の中で自分が鏡の中にいるという
 自覚が、いったい何を象徴しているのか、フロイト先生なら何か面白い解釈
 をしてくれるかも知れないが。ともあれ少なくともここには、ある非常に興
 味深い暗示が含まれている」
師匠はニヤニヤしながら、「こんな言葉をしっているか」と言って続けた。

吸血鬼は、鏡に映らない。
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386 :海  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:22:40 ID:Q8VwWIU/0
大学2回生の夏。
俺は大学の先輩と海へ行った。
照りつける太陽とも水着の女性とも無縁の、薄ら寒い夜の海へ。
俺は先輩の操る小型船の舳先で震えながら、どうしてこんなことにな
ったのか考えていた。
眼下にはゆらゆらと揺らめく海面だけがあり、その深さの底はうかが
い知れない。
ときどき自分の顔がぐにゃぐにゃと歪み、波の中にだれとも知れない
人の横顔が見えるような気がした。
遠い陸地の影は不気味なシルエットを横たえ、時々かすかな灯台の光
が緞帳のような雲を空の底に浮かび上がらせている。

「海の音を採りに行こう」
という先輩の誘いは、抗いがたい力を秘めていた。
オカルト道の師匠でもあるその人のコレクションの中には、あやしげな
カセットテープがある。聞かせてもらうと、薄気味の悪い唸り声や、
すすり泣くような声、どこの国の言葉とも知れない囁き声、そんなものが
延々と収録されていた。聞き終わったあとで「あんまり聞くと寿命が縮むよ」
と言われてビビリあがり、もう二度と聞くまいと思うが、何故かしばらく
するとまた聞きたくなるのだった。
うまく聞き取れないヒソヒソ声を、「何と言っているのだろう」という
負の期待感で追ってしまう。
そんな様子を面白がり、師匠は「これは海の音だよ」と言って夜の海へ
俺を誘ったのだった。

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387 :海  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:23:59 ID:Q8VwWIU/0
知り合いのボートを借りた師匠が、慣れた調子でモーターを操って海へ出た
頃にはすでに陽は落ちきっていた。
フェリーならいざ知らず、こんな小さな船で海上に出たことのなかった俺は
初めから足が竦んでいた。「操縦免許持ってるんですか?」と問う俺に
「登録長3メートル以下なら小型船舶操縦免許はいらない」と嘯いて、師匠は
暗く波立つ海面を滑らせていった。
どれくらい沖に出たのか、師匠はふいにエンジンを止めて、持参していた
テープレコーダーの録音ボタンを押した。
風は凪いでいた。
モーターの回転する音が止むと、あたりは静かになる。いや、しばらくすると
どこからともなく、海の音とでもいうしかないザワザワした音が漂ってきた。
潮に流されるにまかせてボートは波間に揺れている。
船首から顔を出して海中を覗き込んでいると、底知れない黒い水の中に
魚の腹と思しき白いものが時々煌いては消えていった。
師匠は黙ったまま水平線のあたりをじっと見ている。横顔を盗み見ても何を
考えているのかわからない。
微かな風の音が耳を撫でていき、船底から鈍く響いてくるような海鳴りが
どうしようもなく心細く孤独な気分にさせてくれる。
「採れてるんですかね」と言うと、口に指を当てて「シッ」という唇の
動きで返された。
何か聞こえるような気もするが、はっきりとはわからない。
そもそも、海の上でいったい何があのテープのような囁きを発するのか。
俺はじっと耳を澄まして闇の中に腰をおろしていた。
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388 :海  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:25:45 ID:Q8VwWIU/0
どれくらいたったのか、ざあざあという生ぬるい潮風に顔を突き出したまま
ぼーっとしていると、ふいに人影のようなものが目の前を横切った。
思わず目で追うと、たしかに人影に見える。漂流物とは思わなかった。なぜ
ならそれは、子供の背丈ほども海面に出ていたからだ。
俺は固まったまま動けない。
ただゆらゆら揺れながら遠ざかっていく暗い人影から目を離せないでいた。
海の只中であり、樹や、まして人間が立てるような水深のはずがない。
視界は狭く、ゆっくりと人影は闇の中へ消えていったが俺は震える声で、
あれはなんでしょうか、と言った。
師匠は首を振り、「海はわからないことだらけだ」とだけ呟いた。
懐中電灯をつけたくなる衝動にかられたが、なにか余計なものを見てしまう
気がして出来なかった。
ガチン
という音がしてアナクロなテープレコーダーの録音ボタンが元にもどった。
自動的に巻き戻しがはじまり、シャァーという音がやけに大きく響く。
師匠がテレコの方へ移動する気配があり、わずかに船が揺れた。
「聞いてみる?」
そんな声がした。
ここで?
俺は無理だ。俺や師匠の部屋ならいい。いや、あえていえば普通の心霊
スポットで、くらいなら大丈夫だ。
しかしここは、陸地から離れて波間に漂うここは、海面より上も下も人間の
領域ではないという皮膚感覚があった。
三界に家無し、という単語がなぜか頭に浮かび、頼るもののない心細さが
猛烈に襲ってきた。なにかが気まぐれにこの小さな船をひっくり返しても、
この世はそれを許すような、そんな意味不明の悪寒がする。そんなことを
考えながら船のヘリを渾身の力で掴んだ。
そんな俺にかまわず、師匠はガチャリとボタンを押し込んだ。
死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?151
389 :海  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:26:50 ID:Q8VwWIU/0
思わず耳を塞ぐ。
バランスが崩れないよう、足を広げて踏ん張ったまま俺の世界からは音が
消えて、テレコの前に屈みこんだままの師匠が、停止ボタンを押された
ように動かなくなった。
俺はその姿から目を離せなかった。
胸がつまるような潮の生臭さ。
板子一枚下は地獄。
ああ、漁師にとってのあの世は海なんだな、と思った。
波に合わせて揺れる師匠の肩口に人影のようなものが見えた。
ふたたび、海に立つ影が船のすぐ真横を横切ろうとしていた。
顔などは見えない。どこが手で、足でという輪郭すらはっきりわからない。
ただそれが人影であるということだけがわかるのだった。
師匠がそちらを向いたかと思うと、いきなり何事か怒鳴りつけて船から
半身を乗り出した。凄い剣幕だった。船が一瞬傾いて、反射的に俺は逆方向
に体を傾ける。
人影は立ったまま闇の中へ消えていこうとしていた。
師匠は乗り出していた体を引っ込め、船尾のモーターに取り付いた。俺は
バランスを崩し、思わず耳を塞いでいた両手を船の縁につく。
なんだあれ、なんだあれ。
師匠は上気した声でまくしたて、エンジンをかけようとしていた。
回頭して戻る気だ。
そう思った俺は、その手にしがみついて、ダメです帰りましょうと叫んだ。
師匠は俺を振りほどいて、言った。
「あたりまえだ、つかまってろ」
すぐにエンジンの大きな音が響き、船は急加速で動き始めた。
塩辛い飛沫が顔にかかるなかで俺は眼鏡を乱暴に拭きながら、かすかに見える
灯台の光を追いかける。
後ろを振り返る勇気は、なかった。
死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?151
390 :海 ラスト  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:28:07 ID:Q8VwWIU/0
後日、師匠があのときの録音テープを聞かせてやる、と言った。
結局俺はまだ聞いてなかったのだ。喉元すぎれば、というやつでノコノコと
師匠の部屋へ行った。
「ありえないのが採れてるから」
そんなことを言われては、聞かざるを得ない。
テーブルの上にラジカセを置いて再生ボタンを押すと、くぐもったような
波の音と風の音が遠くから響いてくる。
耳を近づけて聞いていると、そのなかに混じってなにか別の音が入っている
ような気がした。
ボリュームを上げてみると確かに聞こえる。
ざあざあでもごうごうでもない、なにか規則正しい音の繋がり。それが延々と
繰り返されている。もっとボリュームを上げると、音が割れはじめて逆に
聞こえない。上手く調整しながらひたすら耳を傾けていると、それは二つ
の単語で出来ていることがわかった。人の声とも、自然の音ともとれる
なんとも言えない響き。
その単語を聞き取れた瞬間、俺は思わず腰を浮かせて息をのんだ。
それは紛れもなく、俺と師匠の名前だった。
死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?151
391 :怖い夢  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:30:15 ID:Q8VwWIU/0
幽霊を見る。
大怪我をする。
変質者に襲われる。
どんな恐怖体験も、夜に見る悪夢一つに勝てない。
そんなことを思う。
実は昨日の夜、こんな夢を見たばかりなのだ。

自分が首だけになって家の中を彷徨っている。
なんでもいいから今日が何月何日なのか知りたくてカレンダーを
探している。
誰もいない廊下をノロノロと進む。
その視界がいつもより低くて、ああ自分はやっぱり首だけなんだと思う
と、それがやけに悲しかった。
ウオーッと叫びながら台所にやってくると、母親がこちらに背を向けて
流し台の前に立っている。
ついさっきのことなのに何故かもう忘れてしまったが、俺はなにか凄く
恐ろしいことを言いながら母親を振り向かせた。
するとその顔が、   だった。
死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?151
393 :怖い夢  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:33:59 ID:Q8VwWIU/0
という夢。
こんな夢でも、体験した人間は身も凍る恐怖を味わう。
しかしそれを他人に伝えるのは難しい。
4時間しか経っていないのにすでに目が覚める直前のシーンが思い出せない。
けれど怖かったという感覚だけが澱のように残っている。

そんな恐怖を誰かと共有したくて、人は不完全な夢の話を語る。しかし上手
く伝えられず、「怖かった」という主観ばかり並べ立てる。えてしてそう
いう話はつまらない。もちろん怖くもない。
それを経験上わかっているから、俺はあまり怖い夢の話を人に語らない。
いや、違うのかもしれない。
怖い夢を語るというのは、人前で裸になるようなものだと、心のどこかで思っ
ているのかもしれない。それは情けなく、恥ずべきものなのだろう。夢の中
の恐怖の材料はすべて自分自身の投影にすぎない。
結局自分のズボンのポケットに入っているものに怯えるようなものなのだから。

死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?151
394 :怖い夢  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:35:25 ID:Q8VwWIU/0
大学2回生の春。
俺は朝からパチンコに行こうと身支度を整えていた。目覚まし時計まで掛け
て、実に勤勉なことだ。その情熱のわずかでも大学の授業へ向ければもっと
ましな人生になったかと思うと、少し悲しい。
ズボンを履こうとしているときに電話が鳴り、一瞬びくっとしたあと受話器
をとると「すぐ来い」という女性の声が聞こえてきた。
オカルト仲間の京介さんという人だ。「京介」はネット上のハンドルネーム
である。
困りごとがあってこっちから掛けることはよくあったが、あちらから電話を
掛けてくるなんて実にめずらしかった。
俺はパチンコの予定をキャンセルして、京介さんの家へ向かった。
何度か足を踏み入れたマンションのドアをノックすると、禁煙パイポを加えた
京介さんがジーンズ姿で出てきた。
いったい何事かと、ドキドキしながらそして少しワクワクしながら部屋に上がり、
ソファに座る。
まあ聞け、と言って京介さんはテーブルの椅子にあぐらをかき、語り始めた。
「すげー怖いことがあったんだ」
声が上ずり、落ち着かないその様子はいつもの飄々とした京介さんのイメージ
とは違っていた。
死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?151
395 :怖い夢  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:37:04 ID:Q8VwWIU/0
「一人でボーリングしてたら、やたらガーターばっかりなんだ。なんでこんな
 調子悪いかなと思ってると、トイレの前で誰かが手招きしてるんだよ。なんだ
 あれって思いながら続けてると、またガーター連発。知らないだろうけど私、
 アベレージで180は行くんだよ。ありえないわけ。それでまたちらっと
 トイレの方を見たら、誰かがすっと中に消えるところだったんだけど、
 その手がヒラヒラまた手招きしてる。気になってそっちへ行ってみたら、
 清掃中って張り紙がしてあった。でも確かにナカに誰か入っていったから、
 かまわずズカズカ乗り込んだら、ナカ、どうなってたと思う。女子トイレ
 だったはずなのに、なぜか男子トイレで、しかもゾンビみたいなやつらが
 便器の前にずらっと並んでるわけ。それも行列を作って。パニックになって
 私が叫んだら、そいつらが一斉にこっちを振り向いて、見るなコラみたいな
 ことを言いながらこっちに近づいて来ようとし始めたんだよ。目なんか
 半分垂れ下がってるやつとかいるし。そいつらがみんな皮がズルズルになった
 手を、こう、ぐっと伸ばして・・・・・・」

そこまで聞いて、俺は京介さんを止めた。
「ちょっと、ちょっと待ってください。それってもしかして、ていうか、
 もしかしなくても夢ですよね」
「そうだよ。すげー怖い夢」
京介さんは両手をを胸の前に伸ばした格好のままで、きょとんとしていた。
そのころから他人の夢の話は怖くない、という達観をしていた俺は尻のあたり
がムズムズするような感覚を味わっていた。
死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?151
396 :怖い夢 ラスト  ◆oJUBn2VTGE [ウニ]:2006/12/02(土) 14:40:30 ID:Q8VwWIU/0
自分の見た怖い夢の話をする人は、相手の反応が悪いとやたら力が入りはじめ
余計に上滑りをしていくものなのだ。
「まあ聞けよ。そのゾンビどもから逃げたあとが凄かったんだ」
話を無理やり再開した京介さんの冒険談を俺は俯いてじっと聞いていた。
この人は、朝っぱらから自分の見た怖い夢を語るために俺を呼び出したらしい。
まるっきりいつもの京介さんらしくない。いや、京介さんらしいのか。
夢の話は続く。
俺は俯いたまま、やがて涙をこぼした。
「・・・・・・それで、自分の部屋まで逃げてきたところで、て、おい。なんで泣く。
 おい。泣くな。なんで泣くんだ」
俺は自然にあふれ出る涙を止めることができなかった。
視線の端には、水が抜かれた大きな水槽がある。
京介さんを長い間苦しめてきた、その水槽が。
「泣くなってば、おい。困ったな。泣くなよ」
俺はすべてが終わったことを、そのとき初めて知ったのだった。
去年の夏から続く一連の悪夢が終わったことを。
結局俺は、さいごは蚊帳の外で。なんの役にも立てず。
京介さんや彼女を助けた人たちの長い夜を、俺は翌朝のパチンコをする夢で
過ごしていたのだった。
「まいったな。泣くほど怖いのか。こどもかキミは」
泣くほど情けなくて、恥ずべきで、そしてポケットに入れた魔除けのお守りを
すべて投げ出したくなるほど、嬉しかった。
京介さんの、夢を見た朝が、どうしようもなく嬉しかった。



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