- 【エロ】山形先生Part5【オカルト】
241 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 22:23:31 ID:nUH8iII50 - さてここらで怖い話でもするか。
草壁アヤは体力作りの為、学校から一度帰宅すると、十キロほど 早足で歩くようにしている。足が太くなるのを気にして走ることはしない。 つづく
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244 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 22:37:02 ID:nUH8iII50 - しばらくは、川沿いの遊歩道を歩いていたのだが、なにぶん、同じ
コースを毎日歩いていては飽きる。 彼女は大体自分の早歩きの速度を時速五キロと計算して、そうで あるなら、二時間で十キロ、一時間とにかく好き勝手歩いて、また 引き返してくればおおよそ十キロになるだろうと飽きては度々歩く コースを変えていた。 ただ両親から余り人気のない道には行くなと警告されている。彼女も 度々痴漢などの被害にあっているので、その辺りは承知していた。 (第六十二話 『障壁』 参照) 随分と使い込んでいるソニーのウォークマン。彼女はカセットテープに 音楽などは入れず、好きな深夜ラジオ番組を入れては出かけた。 番組はちょうど二時間。歩く時間と一緒なので都合がいい。 深夜一時から三時までの放送を毎晩録る。そして、カセットをウォークマンに 入れ、二時の時報が鳴ったら引き返す。毎晩彼女はそれを繰り返していた。 今日は何となく知らない道を行くたくなって、とことこと歩いていくと国道に出た。 つづく
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245 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 22:43:26 ID:nUH8iII50 - 少しつまらない気分になる。
子供の頃は知らない道を行くと必ず知らない場所に出て、そこに 駄菓子屋を見つけたり、奇妙な建物を見つけたり、見知らぬ公園を 発見したりして、それだけで好奇心と冒険心は満たされた物だが、 そんなことを繰り返しているうち、知らない道などというのは近所では ほとんどなくなっていく。 いざ知らない道を見つけても、しばらく歩けば、何てことはないいつも 見知った場所に出る。 それでも彼女は、ウォークマンから聞こえる若手お笑い芸人の声を 聞きつつ歩き続けた。 深夜ラジオとはいえ、大体コーナーごとに時間は決まっている。 今流れているのは、誰もが必ずやってしまう失敗、といったテーマで このコーナーが終わると二時の時報になるはずだった。 つづく
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246 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 22:49:45 ID:nUH8iII50 - 『えー杉並区の…パンチョ大好きさんからのお手紙です』
『誰やねん。パンチョ』 『知らんがな。知らんけどパンチョさんが好きなんですって!この子は』 『まぁええわ。んでどんな失敗なんやろ?』 『えーみんなが必ずする失敗…。寝ながら食べようとして、持ってきた マンジュウをつぶしてしまう』 『あはは。あるある。あるね。そんなん』 『何故か尻でつぶさへん?』 『そうそう。探すねんな。めっちゃ探すねん。あれ?マンジュウどこ? みたいな』 『尻の下にあんねんな…』 『探しながら尻ぐりぐりしよるから、ペチャンコになっとんねや』 『あんこハミ出しとる』 『でも捨てへんよな?』 『そう。意地でも食べるね』 つづく
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247 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 22:59:49 ID:nUH8iII50 - つい先日自分もやってしまった同様の失敗に思わず口もとが
緩む。 気付けば滝乃城跡公園(第五話 『ホームレスの花嫁』 参照)の 前を歩いていた。 以前は随分とたちの悪い犯罪者紛いのホームレスがいたらしいが 今は改善されている。(第六十五話 『真偽』 参照) それでも暗がりの中に幾つか、段ボールや青いビニールシートを 巧みに組み合わせた簡易住居が何軒か見受けられた。 入り口に初老の男がいる。何か考え事でもしているのか、彼は憂鬱 そうに、頬のひげを撫でながら落ち着かない様子だった。 一見、ホームレスのようだったが、悪い人のようではない。アヤは特に 気にするわけでもなくそのまま通り過ぎようとした。 ところが、声をかけられた。その初老の男からである。 「あの、すいません」 音楽を聴いているわけではないからウォークマンのボリュームはそれ ほど高くない。その声は充分に聞こえた。 つづく
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248 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 23:07:27 ID:nUH8iII50 - 彼女はあわてて耳からインナーイヤーヘッドホンを取ると、
初老の男のほうにその大きな目を向けた。 「あぁごめんね」 「何か用ですか?」 「いや、その…」 男は妙に照れくさがって頭をぼりぼりとかくばかりで何を 言いたいのかはっきりしない。しかし悪意があるふうではない。 アヤは気になってもう一度聞いた。 「どうしたんですか?」 「いや、ミヨに随分似てるものだから…」 「…ミヨ…さん?」 「私の娘なんですよ。ミヨコというんですが…すいません。余りに 似てるのでまさかと思ったんですが、声も違うし、人違いでした。 すいません。ごめんなさい。申し訳ないです」 こんな子供相手に随分と腰の低い彼がアヤには憐れに見えた。 つづく
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249 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 23:16:41 ID:nUH8iII50 - 「そうですか…」
「よく考えたら、私はこっちに来てもう十年、ミヨコとも十年会ってないです。 ミヨコが十年経っても同じ形なんてあり得ねぇですよね。あはは…」 そう言って男は自分を馬鹿にするように笑うのだ。アヤは何となく気になって、 二言三言話すうち、寒くて落ち着かなくなってきた。 歩いている間、かなり厚くなるので、季節の割りに薄着なのだ。なので大人しく していると途端に寒さか身に沁みる。 男はよかったら、部屋に入らないかという。少し考えたが、少しでも暴れれば そのまま壁ごと破壊して逃げられそうな住居である。どんな生活をしているのか 興味もあって、アヤは彼の家に入った。 旨そうな匂いがする。カセットコンロの上で鍋が煮えていた。 嬉しそうだった。娘に瓜二つの娘と一緒に話ができる。 「いやぁすいませんね。暖まっていって下さい」 実際ただ段ボールとビニールシートで作られた室内は暖かだった。しかしもっと 意外だったのは、かなり清潔に保たれていることだ。それは彼の人柄を伺わせた。 「よかったら適当に座って下さい」 「あ…どうも…」 つづく
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250 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 23:23:44 ID:nUH8iII50 - 「そろそろ煮えたかな…」
鍋の蓋を上げると湯気が立った。おでんというか煮物というか、 適当な素材を煮た、鍋料理である。具は白菜からこんにゃく、 ちくわ、じゃがいもと適当である。 「美味しそうですね」 「あ!よかったら食べますか?美味しいですよ」 割り箸を渡し、余り清潔な食器がないので鍋から直接食べることを 勧める。 何となく食べてみると確かに美味だった。 「私はね、これでも秋田で中華料理屋やってたんです。味にも自信が あった。でも客が来なくてね…場所が悪かったんです…」 少し訛りのある言葉だった。出稼ぎに来て十年。必死で働いて、稼いだ 額のほとんどを家に送った。そうこうしているうちに自分の生活は立ち 行かなくなり、ホームレスに。それでも月に二十万は稼いだという。 つづく
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251 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 23:31:33 ID:nUH8iII50 - 「ほとんど全部家に送って。私は住むところもなくて…」
秋田に残った妻子はいつの間にか他の男を作って逃げてしまった そうだ。帰る場所もなくなり、失意の中仕事もやめてしまい、ぶらぶら しているうちに、いよいよ本格的なホームレスになってしまったらしい。 その娘ミヨコにアヤがよく似ていると彼は目を細めた。 しかし、草壁アヤ、指折りの美少女である。恐らく彼の思い出の中で ミヨコの残像は誇張され、多少美化されている部分もあるのだろう。 ちょうど十年前、彼が東京にやってきた際のミヨコの年齢は十五歳。 ちょうどアヤと同い年であった。 であるから、本来のミヨコはもう二十五歳になっているはずだ。 しかし、彼の中でミヨコは永遠に十五歳だった。彼は取っておきの酒を 奥から出してきた。 秋田県産、高清水大吟醸。『和兆』 何かめでたいことがあれば飲もうと 思い買ってはおいたが、めでたいことなどありもせず、一年近く放ったらかしに していた酒らしい。 「これが旨いんです。もしよかったらほんの少しつきあってくれませんか?」 つづく
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252 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 23:39:37 ID:nUH8iII50 - アヤは酌をしてやった。自分の父にもしたことがない。
生まれて初めての酌だと告げると、彼は嬉しそうに笑った。 「ミヨコは十五歳で高校生だったけど…草壁さんは…」 「あ、あたしはまだ中学生です」 「あぁそうですか…このへんだと、どの中学になりますか?」 「軽子沢中学…少し遠いんですけど」 小一時間も歩けばもう、別の中学の通学圏になる。しかし、彼は 軽小沢中学のことを知っていた。ちなみに、『軽小沢』という名は 地名に全く由来していない。学校関係者の間でも何故そんな名が ついたのか、不思議がる者が多いほどだった。 「あれ、軽小沢…聞いたことがあるな。そうだ。軽小沢新聞」 「…?」 軽小沢新聞。間違いなく軽小沢中学の学校新聞である。 「取材に来たなぁ。いつだったか…」 つづく
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253 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 23:48:11 ID:nUH8iII50 - 的場リュウジか志賀マサトのことか、とすぐに思い立ったが、
別に言っても仕方がないのでそのまま黙っていた。 アヤはさすがに酒こそ飲まなかったが、彼の作ったおでんのような 煮物のようなオリジナルの鍋料理を食べ、酌をしてやり、会話を 楽しんだ。兄弟が多く、父や母はもう五十五歳なので、彼ほどの 年齢の者との会話も慣れている。年配者と話すことは苦痛ではなかった。 「おや、草壁さん、そろそろ帰った方がいい。遅いよ。おうちまで、 随分かかるんだろう?」 「…そうですね。じゃあまた来ますね」 「いやいや、もうこんな所に来るもんじゃないよ。物騒だから。誰かに 見られてたら、変な目で見られてしまうよ。今日はありがとう。楽しかったよ」 彼は顔を皺だらけにして笑うとアヤを返した。アヤは彼の名を聞いておきた がったが、もう話すこともないからと、彼は名乗らなかった。 つづく
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254 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/11/06(月) 23:58:57 ID:nUH8iII50 - 翌々日。
また夜の散歩に出かける。どうにもあの初老の男が気になった。 自然と足は滝乃城跡公園に向かう。もし、また見かけたら話しかけよう。 もし、彼が家の中に引っ込んでいて、姿がなかったらそのまま通り過ぎよう。 彼女はそう思いながらいつもより速いペースでそこにたどりついた。 パトカーと人だかり。ホームレスが一人死んだらしい。 野次馬の人だかりで近くに行くこともできず、彼女は家に戻り、まんじりとも せず朝を迎えた。 新聞に小さく載っていた。滝乃城跡公園のホームレスが死んだと。どうも 酒を飲んで泥酔した挙句、水をかぶってそのまま眠ったらしい。凍死。 変わった方法だが自殺の可能性が高いとある。 死んだ男の名は宮木ジュンゾウ。しかし、アヤは、また別のホームレスが 死んだのかと、不謹慎ながら胸を撫で下ろした。 その晩、また彼の住処へ行くと、彼はいなかった。アヤが宮木ジュンゾウが かの男ではないと確信した理由。それは宮木が死後一週間経って発見された と記事にあったからだ。 しかし、一昨日話した初老の男はいない。彼の住んでいた手作りの住居は、 立ち入り禁止のテープでぐるぐると巻かれていた。 終
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