- なにそのツンデ霊☆六人目★
262 :普通な非日常 序章[思い切り長くなりそうなんで出来てる分だけ投下]:2006/11/06(月) 02:37:32 ID:9MxwlYqe0 - 今日もなんてことないいつも通りの一日だった。
起きて、飯食って、高校行って、授業を受けて、食堂で飯食って、 授業を受けつつ寝て、帰宅する。 つい先日二年になったばかりだが、 どうやら変化は望めそうに無い。元からあまり期待はしていなかったが。 俺は、この後家に到着してから自分が取るであろう行動をぼんやりと考えていた。 ドンッ 女性と肩がぶつかった。どうやらぼんやりしすぎたようだ。 「あ、すいません」 「あんた…見えてんの?」 「え?えぇっと、考え事してたもんで、すいません」 何か怖いなこの人。 「…気ぃつけなさいよね」 それだけ言って、彼女は歩き去った。 …そんなに大勢人が居る訳でもないのに、何であんなおっかない人とぶつかるかね? まあ、俺が悪いんだが。 その後俺は、自分で考えた通りに家で過ごした。 今日みたいな変化は余り歓迎しないぞ。後に続かなさそうなのが救いだが。 次の日。 「ふーん。それは災難だったね。でも、その人もよっぽどぼーっとしてたんだろうね。 人気の無い所でぶつかるなんてさ」 俺はいつものカレーを、こいつはいつものチャーシュー麺を頬張りつつ、 昨日起こった事について話していた。 こいつは森口昇。一年・二年供に同じ組になったクラスメイトだ。 「まあ、二度目が無い事を祈るさ。……ふう、食った食った」 森口のラーメンに目をやる。…まだ半分ぐらい残ってるな。
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263 :普通な非日常 序章[]:2006/11/06(月) 02:38:39 ID:9MxwlYqe0 - 「相変わらず食うの遅いなお前」
「君とは違ってね、ちゃんと味わって食べてるんだよ」 「味わいすぎてるとラーメン伸びちまうぞ。…ちょっとトイレ行ってくる」 「うん、ごゆっくり」 あの食事の遅さはラーメン好きには致命的だと思うのだが…気にしてないのかあいつは? トイレに行く途中そんな事を考えていたら、聞き覚えのある声が聞こえた。 「やっと独りになったわね。とりあえず、黙ってついて来て」 …二度目は意外と早かったよ森口。 屋上入口前。周りに人は居ない。何だろう、この状況。カツアゲ? 「…この学校の生徒だったんですね」 「そうよ。さて、今更確認するまでも無いけど、あんた見えてんのよね?」 何だ?昨日の続きか? 「それは昨日謝ったじゃないですか…」 「そうじゃなくて、あたしが見えてんのかって聞いてんの」 …はい? 「視力なら悪くないつもりですけど」 こういう意味では…ないな、多分。俺は何を聞かれてるんだ? 「にっぶいわね…いい?一回しか言わないからよく聞くように。 あたしは幽霊です。ほとんどの人にはあたしは見えてません」 これは困った。俺は今非常に帰りたい。何なんだこの人? 「…信じてない顔してるわね」 「そんなことほいほい信じられるほどお花は咲いてませんよ。俺の脳味噌には」 「じゃあこれならどう?」 そう言うと彼女は壁に手をあてた…と思ったら、その手がどんどん壁に埋まっていった。 そのまま、彼女の身体は壁に半分まで埋まってしまった。 「え?…え?な、何これ?どうなってんの?」 彼女と同じように手を伸ばす。俺の手は壁に当たった。当たり前だが。 「信じる気になった?」 壁から半分だけ出た顔で彼女が問う。
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264 :普通な非日常 序章[]:2006/11/06(月) 02:39:42 ID:9MxwlYqe0 - …どうやらマジらしい。これはとんでもないことになった。
だってそうだろ?俺は今幽霊に絡まれてるんだぞ? 「わ…解りました、信じましょう。その上で質問です。俺に何の用ですか?」 壁から出てきて答える。 「ただの挨拶よ。あんたみたいに見える・聞こえる・触れる 全部揃ってる奴なんて初めてだし。幽霊からすればかなり貴重な人材よ」 挨拶だけか…よかった。にしても俺すげえ。今まで全く気がつかなかった事がすげえ。 「あの時だって、まさかぶつかるなんて思ってなかったから避けなかったんだから」 「ってことはあの時の質問もそういう意味だったんですね。 俺はてっきり『どこに目ぇつけとんじゃゴルァ』的な意味かと…」 「…そんなにガラ悪く見えるわけ?」 今のあなたを鏡で見せてあげたいですよ。万人が納得する顔してますから。 「…まあいいわ。あたしは霧原瑠奈。三年よ。あ、『今の』三年だから」 「俺は深道悟。二年です。…そういえば、幽霊でも服着替えるんですね」 昨日遭った時は私服だったが、今は制服だ。 「そりゃあ学校来る時に制服なのは当たり前でしょ。カモフラージュにもなるし」 「カモフラージュ?する必要あるんですかそれ?」 「バカ?見える人と見えない人は見分けられないのよ? 学校に私服で入ったらどうなるかぐらいちょっと考えれば解るでしょ?」 「えーっと…見える人が居た場合、凄い目立ちますね」 「そう。そんで『あの人何だろうね?』ってなって『え?誰の事?』ってなって ちょっとした騒ぎになるわね。ハイ正解」 「俺殆ど答えてない…」
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265 :普通な非日常 序章[]:2006/11/06(月) 02:40:12 ID:9MxwlYqe0 - 「でも制服着てれば見えたとしても話題になんかならないでしょ?そういうことよ」
聞いてないな。まあいいや。 「…顔知られてる人とかいたらまずいんじゃないですか?三年とか」 「ああそれは…幽霊になってすぐの頃に、深く考えずに教室まで行っちゃったのよ。 でも特に何もなかったから、知り合いに見える人は居ない筈よ。…危なかったわ」 「それって…」 言いかけたその時、チャイムが鳴った。 「ああっ!教室戻らんと!」 「急げ急げ」 言われなくてもスタコラサッサだぜい。 「…本当にごゆっくりだったね」 違うぞ森口。まだ何も言ってないが多分違う。 「色々あってな」 「色々?」 「ああ」 何かは言えんがな。…しかし、チャイムに感謝だな。 思わず言いそうになったが、言わなくても良い事だ。 知り合いに見える人は居ないなんて、さらっと言ってたけど相当辛いはずだ。 「それって、何か寂しいですね」
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267 :普通な非日常[]:2006/11/06(月) 17:23:00 ID:9MxwlYqe0 - 午後の授業が始まった。
いつもなら食後は眠くなるのだが、流石にあんな事があった後では… 「悟、悟起きて。」 …前言撤回。なんという適応能力だよ俺。 「森口…俺って凄いよな」 「え?まあ、凄いんじゃない?尊敬はしないけど。よくもまあ毎日眠れるよね」 ああ、その時点で凄い事だったのか。グレイト俺。 「じゃあ、帰ろうか」 「ああ、ちょっと待っててくれ。トイレ行ってくる」 あのカツアゲ紛いのせいで行けなかったからな。 「今度はゆっくりしてると置いてくよ?」 「大丈夫だ」 多分な。あの人が居ても無視するから。恐らく無理だが。 トイレに向かう途中、何人かとすれ違う。 もしあの中に幽霊がいても、俺には判別できないんだよな… なんとも勿体無い。何か目印とかあればいいのに。 「おし、帰るぞ」 「今回は早かったね。良かった」
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268 :普通な非日常[]:2006/11/06(月) 17:23:44 ID:9MxwlYqe0 - 校舎を出て、校門にさしかかった。
「今日はあのおっかない人、居ないといいね」 「だといいがな」 だがな森口。もう手遅れだ。 「…変な事聞くぞ?今、俺等の前に誰か居るか?」 なんで居るんですか霧原さん。 「え?仲良さそうな男女が一組。誰か居たの?」 その二人だけが見えてるんだな。ほっとしたような、そうでないような。 「いや、多分見間違いだ。気にするな」 見間違いであって欲しい。でも居るんだなこれが。 「おっかない人って、誰の事かしらね?」 耳元で囁かれる。しかし返事は出来ない。 ので、森口から見えないように小さく霧原さんを指差す。 …無言で小突かれた。でも声は出せない。 ああ、何ともややこしい状況になった。 右からは森口、左至近距離からは霧原さんが俺に話し掛ける。 「ちょっと、歩くの遅すぎない?さっきからガンガン抜かれてるわよ。 もうちょい早くなんない?」 「でも僕も一回見てみたいな。そのおっかない人」 左には指でバツを作りつつ、 「俺は二度とゴメンだ」 と右に答える。また小突かれた。 この歩くペースは森口に合わせた結果だ。 こいつは基本的にのんびり屋なんだな。あの食事ペースのことも考えると。 別に俺自身、それに文句は無い。 早く帰るつもりもないし、こいつのラーメンが伸びても別に気にならんしな。 「それじゃあね。あの人に気をつけるんだよ」 「ああ、じゃあな」 森口と別れる。そしてまた小突かれる。
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269 :普通な非日常[]:2006/11/06(月) 17:24:37 ID:9MxwlYqe0 - 「あの人、どうやら見えてないようね」
「みたいですね。それよりも、勘弁してくださいよ。 ただの下校でこんなに疲れたの初めてですよ」 何も無い下校よりはいいかもしれんが、毎日はきつすぎる。 多分、毎日なんだろうな… 「えー。だって今のところあんた以外に誰も居ないし、あたし暇なの嫌いなのよね」 「…俺みたいな奴ってどのくらい居るもんなんですか?」 「さあ?そんなに試す機会も無いし…まあ、そんなに多くは無いと思うわ。 むしろ少ない?」 「せめてもう一人いれば会話とかしててもある程度ごまかし効くと思うんですけど」 「まあ観念するのね。いや、むしろ喜ぶべきなのよ。 幽霊が見えるなんてラッキーにも程があるわ」 貧乏くじのような気もするが、観念せざるを得ないようだ。 「あ、あたしこっちだから」 「何処行くんですか?」 「は?家に決ってるじゃない。独りで何処行けっての?」 「家…ですか」 「あんた今、『幽霊が家に帰るのか?』とか思ってるでしょ」 正解。 「幽霊だろうが何だろうが家は家よ。それにうちの家族、 あたしの部屋そのままにしてくれてるから。…それじゃね」 「はい、また明日」 あ、また明日とか言っちゃった俺。…まあいいやもう。どうにでもなれ。
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270 :普通な非日常[]:2006/11/06(月) 17:25:47 ID:9MxwlYqe0 - で、その明日がやってきた。
「で、あの人には会ったの?」 お前はやけにその話を振るな森口。 「ああガッツリ会った。多少会話もした」 「会話したの!?勇気あるねー。どんな感じだった?」 お前も隣に居たんだがな。その時は会話っつーか手振り身振りだが。 「小突かれて、『家に帰る』って言ってたな」 「…怒らしたの?それ」 「怒っては無いと思うが」 「変なの」 「変だな」 さて、つまらない授業はすっ飛ばして昼食だ。 いつものように食堂で席を探す。 「あ、隅っこ空いてるよ」 その席に着き、また俺はカレー。森口はチャーシュー麺を食べる。 そろそろ食べ終わるかという頃、俺の隣に誰かが座った。俺はそちらを見る。 「――っ!」 米を吹きそうになるのを堪え、水で流し込む。 「ど、どうしたの?」 森口は気がつかない。この事態に。またも、霧原さん登場。 何しに来たんだ? 「あたしの声が聞こえるかしら?」 ちょ、何普通に喋ってるんですか。こんな人多いとこでフォローなんか出来ませんよ? 「悟?」 いや、俺は大丈夫だ森口。カレーはなんとか食いきった。 それよりも霧原さんは何考えてんだ? 「今、女の人の声したよね?」 …森口?
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278 :普通な非日常[]:2006/11/06(月) 23:48:31 ID:9MxwlYqe0 - まさか、聞こえたのか?いや、今この食堂は人で一杯だ。
女性の声だってあちこちから聞こえてくる。 「どの辺から聞こえた?」 「えーっと…悟の居る辺りから…だと思う」 「何て言ってた?」 「『声が聞こえるか』って…」 これは確定だな。霧原さんは…うわ、すっげえ嬉しそう。 「話したい事があるから急いでラーメン食え。場所変えるから」 「え。う、うん」 ラーメンを食うスピードが上がる。…それでもやっと普通の速さと言った所だが。 「ふう…で、何処行くの?」 「とりあえず人目につかない所だ」 「何か怖いね」 念の為、詳しく伝えるのは控えた。 まあ、盗み聞きして着いてくる奴なんか居ないだろうが。場所は勿論、屋上入口前。 「一応確認しとくけど、声は聞こえてるのよね?」 「えっわっ。は、はい」 森口はきょろきょろしている。無理も無いな。 「あー、この人今ここに居るから」 隣の霧原さんの肩に手を置く。…すぐに振り払われたが。 「さ、悟には見えてるの?」 「ああ。…それでは、説明どうぞ」 「えー、おほん。あたしは霧原瑠奈。三年よ。きみは?」 「森口昇。二年です」 そこから先は、俺にした説明とほぼ同じだな。 幽霊だと言われた時は、驚いてはいたもののこいつはあっさり信じた。 見えない奴に話し掛けられてるんだから仕方が無いと言えば仕方が無い。
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279 :普通な非日常[]:2006/11/06(月) 23:49:20 ID:9MxwlYqe0 - 「ちなみに、例のおっかない人ってのはこの人だ」
また小突かれた。 「え、そうなの?ってことは悟、幽霊に触れるの? ああ、そういえばさっきポンってやってたね」 察しがいいな森口。お前から見たら変な一人芝居だったろうに。 ところで、俺には気になる事がある。 「さっきは驚きましたよ。あんな人ごみの中で普通に喋っちゃって。 大丈夫だったんですかあれ?」 「人ごみだから大丈夫なのよ。授業中じゃあるまいし、皆それぞれ喋ってたでしょ? そんな中であたしの声だけ聞き分けるなんて不可能に近いわ。 目の前にでも居ない限りね。そんくらい考えなさいよバカ。 …ああ、森口くんはいいのよ。悟にだけ言ってるんだから」 ぐっ…初めて名前で呼ばれたと思ったらバカと同格ですか。 「俺と森口で随分扱いが違うじゃないですか」 「え?だって森口くん、見るからにいい人そうだし。あんた只のバカじゃん」 森口がいい人なのはその通りと言わざるを得ないが、これでは俺が余りにも不憫だ。 森口も照れてんじゃねえよ。友達がバカにされてんだぞ文字通り。 ここでチャイムが鳴った。 「またか!」 「また?ってことはあの時の色々ってこの事だったんだね」 察しがいいのは解ったが今は急ぐぞ森口。 「頑張りたまえ学生諸君!」 あんたも学生でしょうが。くそう、なんだこの敗北感。 まだ先生は来ていない様だな。間に合ったか。 …まあ間に合った所で寝てしまうんだが。
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280 :普通な非日常[]:2006/11/06(月) 23:50:09 ID:9MxwlYqe0 - 「悟…あれ、今回は起きてたの?珍しい」
「いや、30秒前に起きたばかりだ」 「なんだ。…ところでさ、霧原さんってどんな人なの?」 「どんなって…見た目がか?」 「うん」 まあそうだろうな。…一応あの人が居ない事を確認して、 「まあ、普通に美人だ。あと、髪がすげえ長い。腰ぐらいまであるな」 普通にっていうのはバカ扱いへの僅かながらの抵抗だ。 敗北感が増した気がするが気のせいだ。 「ふーん。で、どうなの?」 何聞いて来るんだお前は。 「どうって言われてもな。あのさんざんな言われようじゃどうもこうも無えよ」 「そう?仲良さそうに見えたけど。いや見えてないけどさ」 「アホ。代われるもんなら代わってやりたい位だっつーの」 「いやいや、それはもったいないよ。実際、凄いロマンチックじゃない? 自分にしか見えない女の子、なんてさ」 「あのな、むしろはっきり見えすぎてロマンも糞も無いんだよ。 なんたって普通の人と幽霊の見分けがつかんのだからな」 「え、そうなの?」 「そうなの。じゃあ行くぞ」 で、校門にはあの人が。 「お、来たわね。じゃあ帰りましょうか」
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281 :普通な非日常[]:2006/11/06(月) 23:51:42 ID:9MxwlYqe0 - いつも通りのゆっくりペースで歩く。そしてガンガン追い抜かれる。
自転車乗ってる奴、何か知らんが急いでる奴、一人の奴、果てはカップルにまで。 そんな気分までゆっくりになりそうな時間の中で、森口が口を開いた。 「霧原さんは、幽霊と普通の人の見分けつくんですか?」 …そう言えばどうなんだろうな。よく気がついた森口。 「え?うーん…解んない。今まで他の幽霊に遭った事が無いだけなのか、 遭ったけど見分けられないだけなのか…」 要するにこないだまでの俺と同じってことか。 「じゃあ、僕に見えて二人に見えない人が居たら幽霊って見分け方しかなさそうですね」 なるほど、その手があったか。しかし… 「それも難しいだろうな。いちいち見えてる人間全部報告する訳にはいかんしな。 それにそんなにほいほい幽霊が居てたまるか。戦場じゃあるまいし」 「まあそうなるわよね。いいんじゃない?別に気にしなくても」 と言う訳で、余り気にしない事に決定した。 偶然幽霊+αが見つかるのはそれから一ヶ月ほど後の話。
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