- 【エロ】山形先生Part5【オカルト】
90 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 00:03:54 ID:2pxivHr70 - 「汚くて小さい家!」
「そういうことは言っちゃだめだよ」 「知ってる。本人の前では言わない」 妙に人間くさい部分もある。宇宙共通のものなのだろうか。 とりあえず、味噌汁、肉じゃが、あじの干物は全く問題がなく、 更に緊急に湯豆腐が用意されたがそれも食べられるようだ。 「…あの、失礼ですけど…本当に宇宙からいらっしゃったんですか?」 「よく言われます。ユニーダ人と地球人そっくり。区別つかないから、 宇宙人っていうとみんな変な顔をします」 「…そうですよね…。すごい素敵な方だけど…どう見ても地球…日本人に 見えます」 「地球人と違うところがあります」 おもむろにパンツごとズボンを下ろす。運が良かったのはここが山形家で あったことだ。ユウジロウもアカネも全く動じない。全裸ぐらいなんだという のだ。アダルトビデオを見ながら食事ができる兄妹である。 むしろ目を反らしたのはトオルだった。 つづく
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91 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 00:07:55 ID:2pxivHr70 - 「…お前さん、女か!」
「違う。男」 「だって…」 ベトラの下腹部には陰毛がなくつるんとしていて、へそが縦に並んで二つあった。 やはり人間とは全く違う。 「ベトラ、食事中にパンツ脱いだらだめ!」 「…?山形さんたち平気だよ」 「この人たちはおかしいから…」 「おかしいとはなんだ」 「ひっどーい」 「でも確かに駄目と言えば駄目だな」 「…そうね」 「ごめんなさい。知らなかった。だからみんな逃げるのか」 つづく
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92 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 00:14:51 ID:2pxivHr70 - だからみんな逃げるのか。みんな。
聞けば宇宙人だと言って信じてもらえない場合、今までは 手当たり次第にパンツを脱いだらしい。しかし相手は確認する までもなく逃げていく。 縦に並んでいたへその上のへそは人間にとってのへそと同じもの だが、下のへそは性器らしい。人間のように外に飛び出しているの ではなく、勃起するとそこからペニスが生えてくるのだ。 普段は腹部にイチモツごと収納されている形になっているらしい。 尿はまた別の排泄器官があるようだ。 しかしユウジロウは気になった。なぜそう簡単に、パンツを脱いだのか。 聞くと答えは明瞭だった。ユニーダでは、セックスが全く恥ずかしい行為 ではなく、そこら中でセックスをしている人間や、全裸の人間を見かけるの だという。 とにかく性欲が昂ぶれば、その場で相手を探し、交渉して、了解されれば その場でセックス。特定の恋人、妻、夫、という概念そのものがないらしい。 「え、ちょっと待って。妊娠したらどうするの?」 つづく
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93 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 00:25:39 ID:2pxivHr70 - そんな状況であるから、妊娠すると産んだ女性が一人で子を
育てる。経済的に大変かといえば、驚くべきことにユニーダには もう一万年以上、金銭というものが存在しないらしい。 ユニーダ星は全てが機械化され、食料も工場で栽培、飼育される。 肉は食べるが動物を殺すわけではなく、動物の細胞を使った人口肉を やはり完全に機械化された工場で生産する。 食料は全て無料で、地球でいうスーパーマーケットのようなところに 置かれているものを勝手に持ち帰ってよい。家も自動化された建設 機械が必要に応じて勝手に建てる。機械のメンテナンスも機械が行う。 犯罪もほとんどなく、収入の差がないので必死で勉強することもなく 学校も完全に自由制。行きたい者だけが行き、やはりコンピューターから 学びたいことだけを学ぶ。 仕事をしている人もいるがボランティアの上、全てがオートメーションで 簡素化されている為職業訓練などもいらず、町内会のような単位でで持ち 回りでやる。それでも一日何度か機械のスイッチを押す程度の仕事である。 電力ばかりはどうしても必要な気がするが、電気は恒星近くに設置された 恒星の熱を利用する発電所から直接ケーブルを伝ってやってくる。 UFOも個人所有ではなく、相当数が確保され、乗りたいと思えば勝手に 乗っていけばよい。UFOの動力はちょうど高速増殖炉のようなもので、 クルマに例えれば排気ガスがそのまま百パーセント以上の効率で燃料に なる。よって燃料代はいらない。 今回修理を頼んだが、やはり機械がやってきて機械が直してくれる。だから もちろん無料だ。 つづく
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94 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 00:39:36 ID:2pxivHr70 - 「…でもその機械とかロボットを作る人は必要なんじゃない?」
「でももう一万年、壊れないでロボットは動いてます。壊れても それを直すロボットがいる。動力は地球でいえば太陽から供給 されます。発電所に務める人間もいません。病気の治療も全部 コンピューターとロボットと機械がやってくれます」 そこまで説明を聞きながら、ユウジロウの頭はあることで一杯だった。 「ベトラくん、君の星の女性はどんな姿をしているの?」 「…地球の女の人と一緒です。そっくり。女性は性器も同じです」 「ほほう。そうかそうか。勉強になるなぁ」 ちなみに何故人間の性器の形までベトラが知っているか。地球の 女性と交わったわけではない。医学書で確認したのだ。彼は、 ユニーダの性的に奔放過ぎるほど奔放な部分がどうも好きに なれず、一人の相手を愛し続けると聞いた日本に憧れて、こうして 訪れている。 一方で真逆の男がいた。ユウジロウである。一人の相手を愛し続ける ことは不可能ではないが肉体だけは別の男。下半身に支配された男。 『俺の下半身にイチモツがくっついているんじゃない。イチモツに俺が くっついているんだ!』 公然猥褻罪にとわれ裁判で述べたこの名言は余りに有名である。 この一言で無罪となった。 つづく
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95 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 00:49:59 ID:2pxivHr70 - ユニーダ星のセックスに基本的にタブーはなく、唯一の禁忌は人種間で
性交することである。ユニーダ星には大きくわけて四の人種があるが、 人種内でセックスをすることは自由だが、違う人種とセックスをしては ならない。 これは差別的な意味合いや、宗教的なものではない。そもそもユニーダ星に 国境はなく、言語も星全体で一つの言語しかない。 恐れているのは混血に混血を重ね、人種が一つになってしまうことだった。 例えばAという人種は、ある細菌に弱くすぐに感染して死んでしまうが、 Bという人種はそれに強く、感染することもなければ発症することもない。 そういったことがあるので、人種が一つにまとまってしまうと何か一つの要因で 一気にユニーダ人が絶滅してしまう恐れがある為禁じている、というだけの 話だ。 その日も四人で楽しく会話をし、遅くなったのでトオルとベトラは山形家に 泊まった。 アカネが、トオルの家は日本の家にしては立派だけど、平均は多分うちぐらい だと思うと教えてやると、ベトラは興味深そうに台所や風呂場を観察していた。 つづく
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96 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 00:55:51 ID:2pxivHr70 - 翌日、やっと修理完了の連絡を受けたベトラは、帰ろうと思えば
昼にでも帰れたのだが、みんなに別れの挨拶をしようと公園で 待っていた。 UFOが直ったことは山形アカネに伝えてある。アカネはすぐに ユウジロウへメールを送ったので、既にそれぞれに連絡は ついているはずだ。 別れを告げようとリョウコとトオル、サエ、そしてユウジロウは公園に 向かった。ユウジロウは仕事があったのだが、家に持って帰ることに して、早めに学校を出た。 公園までの道すがら。 「…お腹痛い!」 「大丈夫?」 「駄目だ!霧原…家で休ませろ!」 「だってベトラが…」 「き〜り〜は〜ら〜…」 「…わ…分かったよ」 つづく
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97 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 01:01:32 ID:2pxivHr70 - ユウジロウはその唐突で不自然なサエの行動を眺めていた。
サエはトオルの肩を借りるようにしながらも、無理矢理に連れ去ろうと している感じがする。 一瞬サエは振り返って、ユウジロウを見た。目が合った。 なるほど。そういうことか。 「しまった!学校に期末テストのアレ忘れた!アレないと大変だ! リョウコ、よろしく言っといてくれ!」 ユウジロウは立ち去ったが自宅の方に向かっている。リョウコは不審がり ながらも公園に向かった。 ユウジロウは途中、やはり公園に向かうアカネと鉢合わせした。 「あれ?お兄ちゃん…」 「どうも野暮らしい…、リョウコが、な…」 「あぁ、そういうこと…」 「まぁまた会えるさ」 「そうだね」 つづく
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98 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 01:04:47 ID:2pxivHr70 - 一人、リョウコは公園に来た。ベトラは他のみんなは?とは聞かなかった。
「リョウコ、色々ありがとう。楽しかった」 リョウコはそっとベトラに近づいて、彼の胸に額をくっつけて泣いた。 「…直って、よかったね…」 「…うん」 「やっぱり、ユニーダがいい?」 「…僕の星だ」 「そうね…」 「そんなに泣かないで」 「泣いてないもん」 「泣いてる」 リョウコの声は完全に震えていた。 つづく
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99 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 01:08:07 ID:2pxivHr70 - 「…次はいつ会えるかな…一年後?五年後?」
「…」 「…ベトラ…」 「うん?」 「…好き」 「好きって?」 「…わかんないか…」 「…ごめん…まだ…よく…」 「そっか…じゃあたくさん勉強してね…」 「うん。ありがとう。リョウコも」 「がんばる。ありがと…」 「最後に、UFO見せて?」 「…わかった」 つづく
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100 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 01:12:02 ID:2pxivHr70 - 例のリモコンのような装置で、UFOは現れた。きらびやかで荘厳な、
それは光り輝く神殿に見えた。 「…行って。ベトラ」 「うん。それじゃ。また。楽しかったよ」 「…」 ぼろぼろと涙が出た。泣くまい泣くまいとすればする程泣けた。 「泣かないで」 「だから…泣いてないよ…」 どう見ても泣いている。しかしベトラは笑ってうなずいた。 「じゃあ、また来週」 「…は?」 「ん?また来週って日本語変?」 「え、来週って?」 「七日後?地球の時間で」 「なにそれ?」 「毎週来てるよ」 つづく
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101 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 01:19:48 ID:2pxivHr70 - よく考えれば片道二分程度なのだ。しかも燃料代もいらない。
「え、じゃあまたすぐ会えるの?」 「会いたくない?嫌い?」 「会いたい!」 「うん。また来るから」 何と呆気ない。また来るとは。しかも連絡用の金属ボールを一つくれた。 「何かあったらいつでも呼んで」 仕事も学校もない星だから呼べばすぐ来る。二分で。先ほどまでの、 何年会えない日々が続くかという寂しさの余韻やら、呆気なさやら、 嬉しさやらで、わんわん泣くリョウコをベトラは優しく抱いてくれた。 やっと落ち着くと唇を重ねて、何も言わずUFOに乗り、それは飛んでいった。 珍しくリョウコは浮かれて、えへらえへらしながら帰ると、気持ちを切り替えて 勉強に励んだ。 つづく
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102 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 01:27:35 ID:2pxivHr70 - しかしもっとえへらえへらしている奴がいた。ミスター下半身。
山形ユウジロウinUFO。 「ちょっと!山形さん何やってるの!」 「連れて行ってくれたまえ。夢のパラダイスへ!」 着替えも何も全裸勃起の状態でいつの間にやらUFOの中に 忍びこんでいたのである。 惑星ユニーダ。それは美しい星。素晴らしいユートピア。 全裸勃起でも誰にもとがめられず。しかもユニーダ人と同様に 陰毛は剃ってきた。これで立派な勃起ユニーダ人。 つづく
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103 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 01:35:09 ID:2pxivHr70 - セックスに言葉はいらない。適当に襲い掛かるとなんと四人に
一人は応じてくれる。してもベトラが美しいように、美人揃いの 粒揃い。 喘ぎ声が地球人のそれと違うのが気になったが性感帯はほぼ 一緒。ユウジロウもてもて。 やりにやりまくって無断欠勤一週間。百人以上の美女を相手に 大奮闘。 これ以上の満足は味わったことがないと帰ってみれば。 「…おみやげは…?」 「はい?」 「ユニーダ星の、おみやげは?」 お金がないので逆に言えばユニーダ星には無駄なものがない。 みやげ物などあろうはずもない。そもそも何でバレたのか。 「誰でも分かるよバカ兄貴!」 全裸はやはりまずかった。 今日はユタカのおうちにお泊りです。 終
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105 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 11:21:41 ID:2pxivHr70 - >>80
>>87 合いの手どうもです^^ >>104 ユニーダ星の設定は、以前、21世紀の日本はこうなっている!みたいな 小学館の学習雑誌(『小学○年生』みたいな)の記事の記憶と、あったら いいな、という単純なアイデアを元にしました。 恐らく前回のムックの出てくる星と違い、ベトラはレギュラー化、もしくは みんなでベトラの星へ遊びに行くというネタもそのうちできるかなと思ったので、 次書く時に楽ですから、ちゃんと設定しとこうと。。書きながらですけど…。 それは以前雑談スレで『みんなで海外に行く』というネタを提供して頂いたのです が、私自身海外に行った経験がなく、リアリティの全くない話は書きたくなかった ので、いっそ別の星に行くぐらいブッ飛んでしまおうかという企みは前シリーズの 頃から頭にはありました。(笑) あとよく、ライブだと、説明すべき部分を書き忘れてしまうことがあるのですが、 地球人とユニーダ人は配合できないのです。エッチはできるけど、失礼な 言い方をすれば『獣姦』のようなもので、妊娠はしません。ただユウジロウが 病気なんかを持ち込む可能性、またはもらってきちゃう可能性はありますが、 そういう話は書かないかな(笑) 似てるけど別の生物という設定です。 いや長文嬉しいですよ。細かい部分まで読み込んでくれてありがとう^^ お褒め頂いて光栄です。それについてもありがとうございました^^
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107 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 19:22:34 ID:2pxivHr70 - >>106
あ…気付かなかった…そうか。ベトラとリュウジって比べたら リュウジの方が上に見えるんだ…。意外な発見ww ちょっと混乱してきた。以下メモ --------------------------------------------------------- ベトラの存在を知っている=リョウコ、サエ、トオル、ユウジロウ、 アカネ 校長と的場ママの交際を知っている=リュウジ、マサト、カエデ、 サヨリ、トオル --------------------------------------------------------- これ忘れたらだめだ。あってるよね?両方知ってるのはトオルか…。 校長のことサエに喋ってるかな…。多分一応秘密にしてるだろうな…。
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108 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 21:57:26 ID:2pxivHr70 - さてここらで怖い話でもするか。
須藤アリサはまだ左腕のギプスが取れず、三角巾で吊っていた。電車に ぶち当たってこの程度だったのだから幸運というべきかもしれない。 つづく
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109 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 22:04:27 ID:2pxivHr70 - いきなりの自殺未遂。彼女をからかい半分でいじめていた者たちも
さすがに驚いたようで、彼女に対する嫌がらせは完全に沈静化して いた。 その上、彼女はプライドの高さがそうさせたのか、みんなの前で 謝罪することはなかったが、謝るべき相手が一人でいるところを 見計らっては、丁寧に謝罪した。特に自分が受けた嫌がらせの ことは何も言わずに。 まさか向こうから謝ってくるなど想像もしていなかったのだろう。 ほとんどの者は面食らったような表情をして見せながらも、その 言葉を受けた。 周囲に誰もいない、というのが功を奏したのかもしれない。集団で いるところを、のこのこと謝罪に来れば何を今更ということもあった かも知れないが、面と向かって二人きりで謝られると、やはり気が そがれる。 以前のようにちやほやとされるわけではなかったが、嫌な思いも せずに済むようになった。 静かな日常だった。携帯もおとなしくなり、嫌がらせのメールも来ない。 つづく
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110 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 22:17:40 ID:2pxivHr70 - いつも賑やかだったテニス部の頃に比べれば退屈で、刺激もない
日々だったが、彼女なりに自戒して、今の自分はそうあるべきなのだと 静かでいることを心に決めていた。 化粧もせず髪も染めず、それでも彼女は美しかったが、以前のように 派手に目立つことはない。 彼女は余り成績がいい方ではなかったので、これを期に少し真面目に 勉強してみようという気になっている。 左手が使えないのは不便で、例えば前からプリントから回ってきて、後ろの 席の者に回さなければならない時など、もたついたものだが、ある日、ふと 一人の女子生徒が近づくと、何も声は掛けてくれなかったが、彼女の分、 一枚のプリントを机に置いて、後を後ろに回してくれた。 彼女は小さい声で礼を言うのが精一杯だった。人知れず、泣く。 そんなことがあった後、話しかけてきてくれる者も現れるようになった。 初めは簡単な挨拶程度だったが、アリサが丁寧に対応するごとにその言葉は 増え、いつになったらギプスは取れるのか、痛くないかと色々と気を使って くれる。 何となく彼女をいじめたことに対する申し訳なさが向こうにはあったし、アリサ にはテニス部時代やそれ以降の悪行に対する自責の念があった。 つづく
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111 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 22:28:04 ID:2pxivHr70 - しかしそれらは言いっこなし、というような暗黙のルールが
できつつあった。過去のことは水に流れる。 お互いの悪い部分が相殺された。 友達と呼ぶにはまだ遠いが、一緒に昼食を食べてくれる者も いて、アリサは幸せだった。 気を張って強がり、自分が一番でなければ気が済まず、その為に 金を使い、その金を稼ぐ為に身体を使い、ある意味で彼女は戦い 続けていた。それが悪い意味だとしても。 それからの開放。無理をすることもなく、静かに、ただ中学生らしく 誰がどれだけ美人であるとか、誰の彼氏が一番素敵だとか、 そんなこととは無縁の落ち着いた生活。 むしろそんな生活を望み、そちらの方がむいていたのではないかと 思うほど彼女はその生活に順応した。 とはいえプライドを失ったわけではない。ただ、そのかりそめのプライドを 維持することに恥を覚えた。所詮は自分に鞭打って、人を傷つけ、蹴落とし 無理矢理に手に入れたものだ。 そんなものは今のアリサに必要なかった。 納得ができなければ、人を蹴落とすのではなく、自分が駆け上がるべきだ、 アリサはそう思うようになった。 つづく
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112 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 22:44:12 ID:2pxivHr70 - 元々は弱い人間ではない。彼女はもっと自分らしい魅力を
模索している。 ただ自分の犯した過ちは、もう犯すまいと、真摯に反省しても いた。 そんな彼女に嫌がらせをする理由もなく、それでも遺恨が残って いるのか、友達になろうという者も現れなかったが、彼女は一人で あることをいいことに、今までの生活を振り返り、これからどうすべきか ゆっくりと考えていた。 休み時間、退屈な時、彼女は一人、トイレの手洗い場に掛けられた 鏡をよく見るようになった。素顔の自分。これが、須藤アリサ。気取る者が 本来の自分を受け入れることは困難であり、また恐怖でもあった。 鎧を脱ぐこと。しかしそれに恐怖を感じるのはまだ自分が戦場にいると 思い込んでいるからだ。今、自分がいる場所は戦場ではない。戦う必要は もうない。 何か、現役を引退して隠居するような寂しさがある。 しかし引退もなにも、初めから大した戦いはしていないのだ。全ては錯覚。 凄まじい戦をさも勝ち抜いてきたようなふうをして、実際のところ、ちょっと した小競り合いに参加した程度だ。何もない。鎧を脱いだところで何も 変わらない。強いのではない。ただ臆病なだけだ。 彼女は鏡にそう言い聞かせた。 つづく
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113 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 22:50:27 ID:2pxivHr70 - と、鏡に何か別の顔が映りこんだ。
「…怪我はどう?」 若山ユイ。余り会いたくない相手だった。元テニス部員。部にいた頃から 折り合いが悪い相手だ。まして、テニス部だった頃の記憶はできれば 消したい。今は思い出したくはなかった。 しかし自分も嫌がらせを受けていた頃は、当時のテニス部の仲間を 訪ねたものだ。それぞれがそこそこ上手くやっていて、孤独感を感じた。 その時の自分の気持ちを振り返るとむげにするわけにもいかなかった。 「…わか…」 わか。若山ユイのあだ名である。 「イジメられてたんでしょ?」 「…」 「自殺したぐらいだもんね」 「…ちょっとね。テンバっただけだよ」 つづく
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115 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 22:54:57 ID:2pxivHr70 - 「アリサ、覚えてる?一年の時のこと」
「え?」 「テニス部に入ろうって誘ってくれたの、アリサだったよね」 「…」 懐かしいいい思い出を語ろうという目つきではない。どこか怨みが こもっているのをアリサは感じた。 「…そうだね」 「テニス部…。評判悪かったんだね。やめてから知った」 「そう…」 「死ぬ時ってどんな気分だった?」 「悪いけど、思い出したくないの」 「へー…。自殺未遂したらみんなビビってイジメなくなったんでしょ?」 「…そんなこと…」 ユイが何を言いたいのか、全く分からなかった。 つづく
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116 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 23:04:06 ID:2pxivHr70 - 「…あたしも死のうと思ってさ」
「…え?」 「アリサと同じなの。最低ね」 ポケットから携帯電話を出すと何やら操作して、液晶画面をアリサに彼女は 突きつけた。そこには、ユイを非難する言葉が並んでいた。 「ね。アリサもそうだったんでしょ?分かるよ…」 何と言っていいのか分からないうちにユイはトイレから出て行った。 午後の授業、アリサ派若山ユイのことが気がかりだった。自分と同じ道を 歩むつもりではないか。自分はたまたまサヨリという人間が何の気まぐれか 救ってくれた。 放課後、ホームルームが終わるなり須藤アリサは隣のC組に向かった。 窓辺の席で、ユイは外をぼうと眺めている。 「わか…」 振り返りもせず、ユイは答えた。 「アリサ…?何?」 つづく
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117 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 23:10:41 ID:2pxivHr70 - 「何って…わか、死ぬって…」
「そうだよ。でもあたしはちゃんと死ぬ。おめぇみたいに卑怯なことは しない」 「卑怯?」 「分かってやったんでしょ。助かるって。自殺未遂すればみんなビビって 優しくしてくれるって」 「…そんなことない!」 「アリサっていつもそう。何でも利用するの。自分の命まで利用するんだね。 すごいと思うよ。尊敬する。あたしには無理。そんな汚いこと」 全くこちらを見ようともせず、ずっと窓を向いている。シルエットだけが夕日に 縁取られて浮いている。 「あたしはたまたま助かっただけで…」 「じゃああたしと死んでよ」 「!」 「できないんでしょ。どうせ…。無責任。口だけ。自分さえよけりゃいいんだ。 おめぇはいつもそうだ。あんなくっだらねぇ部活に誘いやがってよぉ!」 つづく
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118 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 23:21:56 ID:2pxivHr70 - 椅子を後ろに吹き飛ばす勢いで立ち上がった若山ユイの瞳には
憤怒の色があった。それも尋常ではない。まるで修羅か夜叉のような、 凄まじい形相である。 「たまたま助かったなら…まだ死にたいだろ…?責任とろうよ。ね? 寂しいんだ。一緒に死んでよアリサ…。アリサがテニス部誘った時、 あたしちゃんとついてったじゃん。あたしの言うことも聞いてよ…」 そっと、ユイの手がアリサの首にかかった。恐怖にすくんで動けずに いると、ユイはその手に力を込めた。床に押し倒され、全体重をかけて 首を圧迫される。 アリサは抵抗したがユイの力は尋常ではない。 「…や…やめ…」 ユイはにこにこと笑いながら容赦なく首を絞めてくる。アリサに残された 抵抗は、心の中で必死で念じることだった。 テニス部に誘ったのは事実だが、あんな所だとは知らなかった。それに やめる気になればいつだってやめられたはずだ。残ったのはユイの意思 ではないか。責められる筋合いはない。 それでも自分のせいにするならば、謝罪しよう。ただ、自分はまだ生きたい。 自殺は本気だった。でも今は違う。助かって、反省して、みんなに謝って、 やっと素顔で生きられそうなんだ。今は死にたくない。 わかだって少し考えたら分かるはず。大丈夫生きられる。ここはもう戦場じゃ ない。虚勢を張らなくていいんだよ、わか…。 つづく
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119 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 23:37:25 ID:2pxivHr70 - 力になるから…何とかなるよ。あたしも死にたくないし、わかも
殺したくないんだよ。生きたいんだ。生かせてよ!生きようよ! 意識を失う寸前、喉の圧迫感が消えて、若山ユイの姿が消えた。 たった今まで首をぐいぐいと絞めていたはずなのに。どこ行ったの? 頭を少し上げると窓が見えた。そこに、逆さになって落ちていくユイの 姿が見えた。ほんの一瞬のはずだ。落ちているのだから。どこから 落ちてきたのか。今までここにいたのに。 そのほんの一瞬、落ちていく何者かの姿が窓に見えた刹那、アリサは それが若山ユイのものであることをはっきりと見て、彼女が落下しつつ 窓越しに、自分の目をじいと見ながら、 「根性なし」 と言ったのを確かに聞いた。 遺書は屋上から見つかった。不思議なことにアリサの首を絞めている時間、 彼女は屋上にいたのだ。 数日後、須藤アリサは放課後の二年A組の教室を訪ねた。雪野カエデ、 霧原トオル、そしてサヨリが退屈そうに座っている。サヨリはアリサを紅い 瞳で見据えると言った。 「来たわね」 終
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120 :作者 ◆gby2MQSCmY [sage]:2006/10/30(月) 23:40:15 ID:2pxivHr70 - ごめん。調子悪かった。
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