- 【小説】ZOMBIE ゾンビ その17【創作】
785 :ken ◆r7Y88Tobf2 [sage]:2006/10/22(日) 03:25:01 ID:yZBfaLtt0 - 「ママ!車!あの車よ!」
下りカーブから現れたヘッドライトがユキの目に入った。 ー危ない!! ドライバーは街灯の下に人の姿を見たような気がした。 暗闇から突然、少女が現れた。 「あぶないいいいいい」 獣の声のような大きな音で軋ませたタイヤは落ち葉にスリップし 一回転半した。わずかにコントロールされた車は そのままゆっくり弧を描くと反対車線のガードレールに ぶつかりガリガリという金属音をさせ車に大きなニの字を 側面に書くと満足げにようやく静止した。 アスファルトとタイヤが作るゴムの焼けた匂いが周囲に立ち込め 突然の音に鳥が驚き何度か羽ばたくと星空に消えていった。 そして静寂。
|
- 【小説】ZOMBIE ゾンビ その17【創作】
786 :ken ◆r7Y88Tobf2 [sage]:2006/10/22(日) 03:29:30 ID:yZBfaLtt0 - やがてドアが開いた。降りてきたのうちの一人は
安藤優子だった。 フジテレビの取材クルーが通りかかったのだった。 取材はもちろん警官殺しの犯人だ。 「お母さんは、眠ってしまったようね?」 「怪我は無いみたいです。切り傷と・・・ 脳震盪。だいぶ疲れてるみたい。でもこの人たち あれですよね?」 「違う!ママは人を殺してなんかいない! ゾンビなの!ゾンビがやったの!」 ユリが叫ぶ。
|
- 【小説】ZOMBIE ゾンビ その17【創作】
787 :ken ◆r7Y88Tobf2 [sage]:2006/10/22(日) 03:30:05 ID:yZBfaLtt0 - 安藤とスタッフは顔を見合わせる。
ドライバー、カメラマン、アシスタントの女性 それと安藤の4人だ。 安藤はジュースのふたを開けてユリに渡してやる。 「ユリちゃん飲む?何があったか、おばさんに話してもらっていいかな? おばさんのこと知ってるかな?」 ユリは飲まない、まだ話したいことがあるのだ 休むわけにはいかないのだ。 「安藤さん。TVに出てる人。信吾は超能力を持ってて、その力を あいつらに・・・ゾンビに狙われているの・・・ パパは殺された。ゾンビに殺されたのよ。」
|
- 【小説】ZOMBIE ゾンビ その17【創作】
788 :ken ◆r7Y88Tobf2 [sage]:2006/10/22(日) 03:36:43 ID:yZBfaLtt0 - 「こりゃ。警察に行ったほうがいいんじゃないですか?
俺達、かくまった事になって罪になりますよ。 なんか、ちょとあれみたいだし」 といってドライバーはこめかみの横をぐるぐるまわした。 安藤は、そう言ったドライバーに厳しい目を送る。 ドライバーはふて腐れ舌打ちした。 「ねえ。ユリちゃん。ご飯食べる?おなか空いてるでしょう?」 「ご飯なんかいらないよお!!!ユリは嘘なんかついてない 嘘なんかついてない!!」 安藤の手を払うと そう言って泣き出した。 「どうします?」 「とりあえず東京に電話してみるそれで・・・」
|
- 【小説】ZOMBIE ゾンビ その17【創作】
789 :ken ◆r7Y88Tobf2 [sage]:2006/10/22(日) 03:43:10 ID:yZBfaLtt0 - その時、信吾が、ぐずがり始めた。
と同時にユリの頭が痺れ始めた。 ああ・・・来てくれたのねアイ。 遅かったじゃない? 最初はぐずってるだけの泣き声が やがて大きく泣き始めた。 そして火のついたように泣く出す信吾 「どうしたの?信吾、あいつらが来たの?」 信吾の只ならぬ様子にユキも目を覚ました。 「信吾?」 「ママ。だいじょうぶよ。ママ!アイなの!」 今やありあまるエネルギーで信吾が泣き始めた。 すると突然、あたりの機材、カメラ、ケース、マイク コード、レフ版、ペットボトル、CDケースが 音を立てて振動を始めた。 「なななんだこりゃ!!!!」 「ちょっと!!止めてええええ」
|
- 【小説】ZOMBIE ゾンビ その17【創作】
790 :ken ◆r7Y88Tobf2 [sage]:2006/10/22(日) 03:47:03 ID:yZBfaLtt0 - やがて車は振動しだしシェイカーに入れられた氷のように
小さく細かくそしてうねりをもってゆれ始めた。 もはやきちんと座っているのが難しいくらいだ。 「ぎゃああああああああああ」 信吾は泣き続ける。 「アイなの?」 ユキの問いにうなずくユリ やがて妙な感覚とともに振動は少しずつ おさまっていった。でも、何かがおかしい? これは、なんだ?何が起こってる? クルーは踏ん張っていた手足を 離しつつ首を傾げる。 窓の外の風景が沈みはじめた。いや・・・ 「ああ・・・なんだってんだ。いったい?あれが信じられるか?」
|
- 【小説】ZOMBIE ゾンビ その17【創作】
791 :ken ◆r7Y88Tobf2 [sage]:2006/10/22(日) 03:52:32 ID:yZBfaLtt0 - 車は信吾の泣き声とともに上昇しつづけ
やがて杉のてっぺんが窓の横 触れるくらいになる頃、静かに静止した。 フロントガラスの先、一面には那須の夜景が広がっている。 それは澄み切った夜特有の美しさで 眼下の瞬き始めた。 星のように・・・涙のように・・・ おわり
|