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本当にあった怖い名無し 【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】

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【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
255 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 21:46:01 ID:XaNdTh7X0
69 :ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 21:30:55 ID:lY9MF+tv0
大学1回生の秋。
オカルト系ネット仲間の京介さんの部屋に、借りていた魔除けのタリス
マンを返しに行ったことがあった。
京介さんは女性で、俺より少し年上のフリーターだった。黒魔術などが
好きな人だったが少しも陰鬱なところがなく、無愛想な面もあったがそ
の清潔感のある性格は、一緒にいて気持ちが良かった。
その日は、買ったばかりの愛車をガードレールに引っ掛けたという間抜
けぶりを冷やかしたりしていたのだが、これから風呂に入ってバイトに
行くからという理由であっさりと追い払われた。このところオフ会でも
会わないし、なんだか寂しかったが仕方がない。
目の前でドアを閉められる時、何度かお邪魔したこともある部屋の中に
わずかな違和感を感じたのは、気のせいではなかったと思う。
なにか忘れているような。
そんなぼんやりとした不安があった。

それから1週間はなにごともなかった。
自堕落な生活で、すっかり曜日の感覚がなくなっていた俺が、めずらしく
朝イチから大学の授業に出ようと思い、家を出た日のこと。
講義棟の前に鈴なりのはずの自転車が、数えるほどしかなかったあたりか
ら予感はされていたことだが、掲示板の前で角南さんという友達に会い
「今日は祝日だぞ」とバカにされた。だったらそっちもなんで来てるんだ
よ、と突っ込むと笑っていたが、急に耳に顔を寄せて「昨日歩いてたのだれ?
 やるじゃん」と囁いてきた。
なんのことかわからなかったので、「どこで?」と言ってみると「うわー
こいつ」と肘うちを喰らい、意味のわからないまま彼女は去っていった。
俺は首を捻りながら講義棟を出た。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
256 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 21:47:36 ID:XaNdTh7X0
71 :ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 21:33:54 ID:lY9MF+tv0
昨日はたしか、駅の地下街を歩いたはずだ。角南さんはそのあたりの店で
バイトしているはずなので、そこで見られたようだ。
しかし昨日俺は一人だった。だれかと歩いていたはずなんてない。
たまたま同じ方向に進んでいた人を、連れだと思われたのか。
なぜか急に背筋が寒くなってきて振り返ったが、閑散としたキャンパスが
広がっているだけだった。
俺は自転車をとばして、逃げるようにアパートへ引き返した。
そのあいだ後ろからだれかがついて来ているような気がして、ときどき振
り向きながらペダルをこいだ。
なぜかだれともすれ違わなかった。
俺のアパートは学校から近いとはいえ、その途中に通行人の一人もいない
なんて、なんだか薄気味が悪い。
駐輪場に自転車を止め、階段を登り、アパートの部屋のドアを開ける。
学生向けのたいして広くもない部屋は、玄関からリビングの奥まで見通せる
つくりになっていた。
はずだった。
のに。
キッチンに俺がいた。
俺は無表情で、こちらに目も向けずトイレのドアを開けるとスッと中に消えた。
パタンとドアが閉まる。
現実感がない。
玄関で俺は靴も脱がず立ち尽くしていた。そして今見たものを反芻する。
鏡ではもちろんない。生きて動いている俺が、トイレのドアを開けて中に入っ
た。という、それだけのことだ。それを俺自身が見ているという異常な事態で
さえなければ。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
257 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 21:49:06 ID:XaNdTh7X0
72 :ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 21:37:14 ID:lY9MF+tv0
怖い。
この怖さをわかってもらえるだろうか。
思わず時計を見た。まだ朝のうちだ。部屋の窓のカーテン越しに射す太陽の
光が眩しいくらいだ。
だからこそ、この逃げようのない圧迫感があるのだろう。
夜の怖さは、明かりをつけることで。あるいは夜が明けることで克服されるか
も知れない。
しかし朝の部屋が怖ければ、どこに救いがあるというのか。
部屋にはなんの音もない。
トイレからもなんの気配も感じられない。
おそらく俺は10分くらい同じ格好で動けなかった。そして今のはなんだろう
今のはなんだろうと、呪文のように頭の中で繰り返し続けた。
見なかったことにして、とりあえずコンビニでも行こうかと、どれほど思ったか。
でも逃げないほうがいい。なぜかそう決めた。
たぶん、幻覚だからだ。
というか、幻覚じゃないと困る。
俺はオラァと大きな声を出すと、ズカズカと部屋の中へ進み躊躇なくトイレの
ドアを開け放った。
開ける瞬間にもオラァとわけのわからない掛け声をあげた。
中にはだれもいなかった。
ほっとした、というよりオッシャア、と思った。
念のためにトイレの中に入ろうとしたとき、視線の端で何かが動いた気がした。
閉めたはずの玄関のドアが開いていて、その隙間から俺の顔が覗いていた。

再び自転車を駆って、休日の道を急ぐ。
今日は朝イチで大学の講義に出て、清清しい気持ちになっているはずだったの
に、なんでこんな目にあっているのだろう。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
258 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 21:50:17 ID:XaNdTh7X0
74 :ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 21:39:56 ID:lY9MF+tv0
俺はさっきまで自分の部屋のトイレに立てこもっていた。中から鍵を掛けて、
ノブをしっかり握っていた。俺が玄関から入ってきたら、どうしよう。オラァ
とかいう声が外から聞こえたら、失神していたかも知れない。
どれほど中にいたのかわからないが、とにかく俺はついにトイレからビクビク
と出てきて、電話をした。
こういう時にはやたら頼りになるオカルト道の師匠にだ。
しかし出ない。携帯にもつながらない。
焦った俺は次に京介さんへ電話をした。
「はい」
という声が聞こえたときは、心底嬉しかった。
そしてつい1週間まえにも通った道を、数倍の速度で飛ばした。
京介さんは、住んでいるマンションのそばにある喫茶店にいるということだ
った。
店のガラス越し、窓際の席にその姿を見つけたときには、俺は生まれたばか
りの小動物のような気持ちになっていた。
ガランガランという喫茶店のドアの音に振り向いた京介さんが、「ヨオ」と
手をあげる席に走って行き、俺は今日あったことをとにかく捲くし立てた。
「ドッペルゲンガーだな」
あっさりと京介さんは言った。
「自分とそっくりな人間を見る現象だ。まあほとんどは勘違いのレベルだろ
 うが、本物に会うと死期が近いとか言われるな」
ドッペルゲンガー。
もちろん聞いたことがある。そうか。そう言われれば、ドッペルゲンガー
じゃん。
不思議なもので、正体不明のモノでも名前を知っただけで奇妙な安心感が生
まれる。むしろ、そのために人間は怪異に名前をつけるのではないだろうか。
【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
259 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 21:51:45 ID:XaNdTh7X0
76 :ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 21:41:55 ID:lY9MF+tv0
「おまえのはどうだろうな。白昼夢でも見たんじゃないのか」
そうであってほしい。
あんなものにうろちょろされたら、心臓に悪すぎる。
「しかし気になるのは、その女友達が見たというおまえだ。おまえとドッペ
 ルゲンガーの二人を見たような感じでもない。話しぶりからするとおまえ
 と一緒に歩いていたのは女だな。本当に心あたりがないのか」
頷く。
「じゃあ、ドッペルガンガーがだれか女と歩いていたのか。おまえの知らな
 いところで」
「こんど聞いておきます。角南さんがどこで俺を見たのか」
俺は注文したオレンジジュースを飲みながらそう言った。そう言いながら、
京介さんの様子がいつもと違うのを訝しく思っていた。
あの、飄々とした感じがない。
逼迫感とでもいうのか、声がうわずるような気配さえある。
ドッペルゲンガーだな、と言ったその言葉からしてそうだった。
「どうしたんですか」
とうとう口にした。
京介さんは「うん?」と言って目を少し伏せた。
そして溜息をついて、「らしくないな」と話し始めた。
【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
260 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 21:53:08 ID:XaNdTh7X0
77 :ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 21:44:31 ID:lY9MF+tv0
京介さんがもう一人の自分に気づいたのは小学生のときだった。
はじめは、ふとした拍子に視線の端に映る人間の顔を見てオバケだと思った
という。
視界のいちばん隅。そこを意識して見ようとしても見えない。なにかいる、
と思ったのはあるいはもっと昔からだったかも知れない。
でも視線の端の白っぽいそれが人の顔だとわかり、オバケだと思ったすぐあと、
「あ、自分の顔だ」と気づいてしまった。
それは無表情だった。
立体感もなかった。
そこにいるような存在感もなかった。顔をそちらに向けると、自然とそれも
視線に合わせて移動した。まるで逃げるように。
いつもいるわけではなかった。
けれど疲れたときや、なにか不安を抱えているときにはよく見えた。
怖くはなかった。
中学生のとき、ドッペルゲンガーという名前を知った。
その本には、ドッペルゲンガーを見た人は死ぬと書いてあった。
そんなのは嘘っぱちだと思った。
そのころには、それは顔だけではなかった。トルソーのように上半身まで見
えた。ただその日着ている自分の服と同じではなかったように思う。どうし
てそんなものが見えるのか、不思議に思ったけれどだれかに話そうとは思
わなかった。自分と、自分だけの秘密。
高校生のとき、自己像幻視という病気を知った。精神の病気らしい。
嘘っぱちだとは思わなかった。ドッペルゲンガーにしても、自己像幻視に
しても、結局自分にしか見えないなら同じことだ。そういう病気だとしても、
同じことなのだった。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
261 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 21:54:08 ID:XaNdTh7X0
78 :ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 21:47:06 ID:lY9MF+tv0
そのころには、全身が見えていた。
視線の隅にひっそりと立つ自分。
表情はなく、固まっているように動かない。そして、それがいる場所をだ
れか他の人が通ると、まるでホログラムのように透過してしまい揺らぎも
なくまたそのままそこに立っているのだった。
全身が見えるようになると、それからは特に変化はないようだった。
相変わらず疲れたときや、精神的にピンチのときにはよく見えた。だからと
いって、どうとも思わない。ただそういうものなのだと思うだけだった。
それが、である。
最近になって変化があらわれた。
ある日を境に、それの「そこにいる感じ」が強くなった。ともすればモノク
ロにも見えたそれが、急に鮮やかな色を持つようになった。そしてその立体
感も増した。だれかがそこを通ると「あ。ぶつかる」と一瞬思ってしまうほ
どだった。ただやはり他の人には触れないし、見えないのであった。
ところが、ある日部屋でジーンズを履こうとしたとき、それが動いた。
ジーンズを履こうとする仕草ではなく、意味不明の動きではあったが確かに
それの手が動いていた。
それから、それはしばしば動作を見せるようになった。けっして自分自身と
同じ動きをするわけではないが、なにかこう、もう一人の自分として完全な
ものなろうとしているような、そんな意思のようなものを感じて気味が悪く
なった。
相変わらず無表情で、自分にしか認識できなくて、自分ではあるけれど少し
若いようにも見えるそれが、はじめて怖くなったという。
【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
262 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:33:24 ID:XaNdTh7X0
79 :ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 21:52:31 ID:lY9MF+tv0
京介さんの独白を聞き終えて、俺はなんとも言えない追い詰められたような
気分になっていた。
逃げてきた先が、行き止まりだったような。そんな気分。
「ある日を境にって、いつですか」
なにげなく聞いたつもりだった。
「あの日だ」
「あの日っていつですか」
京介さんはグーで俺の頭を殴り、「またそれを言わせるのかこいつ」と言った。
俺はそれですべてを理解し、すみませんと言ったあとガクガクと震えた。
「どう考えても、無関係じゃないな」
おまえのも含めて。
京介さんは最後のトーストを口に放り込みコーヒーで流し込んだ。
俺はそのときには、京介さんの部屋へタリスマンを返しに行った時の違和感
の正体に気がついてしまっていた。
「部屋の四隅にあった置物はどうしたんです」
あの日、結界だと言った4つの鉄製の物体。
それが1週間前には部屋の中に見当たらなかった。
「壊れた」
その一言で、俺の蚤の心臓はどうにかなりそうだった。
「それって、」
しゃくり上げるように、俺が口走ろうとしたその言葉を京介さんが手で無理
やり塞いだ。
「こんなところでその名前を出すな」
俺は震えながら頷く。
「ドッペルゲンガーっていうのは、大きくわけて2種類ある。自分にしか見
 えないものと、他人にも見えるもの。前者は精神疾患によるものがほと
 んどだ。あるいは一過性の幻視か。そして後者はただの似てる人物か、あ
 るいは生霊のような超常現象か。どちらにしても、異常な現象にしては合
 理的な逃げ道がある。私が前者でおまえが後者だが、それが同じ出来事に
 触れた二人に現れたというのは、しかし偶然にしては出来すぎだ」

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
263 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:34:49 ID:XaNdTh7X0
80 :ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 21:55:20 ID:lY9MF+tv0
つまり、あの人なわけですね。
俺は頭の中でさえ、その名前を想起しないように意識を上手く散らした。
「甘く見ていたわけじゃないんだが、まずいなこれは」
京介さんは眉間に皺を寄せてテーブルを指でトントンと叩いた。
俺は生きた心地もせず、ようやくぼそりと呟いた。
「こんなことならタリスマン、返すんじゃなかった」
その瞬間、京介さんが俺の胸倉を掴んだ。
「今なんて言った」
「だ、だからあの魔除けのなんとかいうタリスマンを返したのは失敗だった
 って言ったんですよ。また貸してくれませんか」
なぜか京介さんは珍しく険しい形相で強く言った。
「なに言ってるんだ、おまえはタリスマンを返してないぞ」
俺はなにを言われているのかわからず、うろたえながら答える。
「先週返しにいったじゃないですか、ほら風呂入るから帰れって言われた
 日ですよ」
「まだ持ってろって言ったろ?! あれをどうしたんだ」
「だから返したじゃないですか。だから今はないですよ」
京介さんは俺の胸元を触って確かめた。
「どこで無くした」
「返しましたって。受け取ったじゃないですか」
「どうしたっていうんだ。おまえは返してない」
会話が噛み合わなかった。
俺は返したと言い、京介さんは返してないと言う。
嘘なんか言ってない。俺の記憶では間違いなく京介さんにタリスマンを返し
ている。
そして少なくとも、いま俺が魔除けの類をなにも持っていないのは確かだった。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
264 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:36:05 ID:XaNdTh7X0
81 :ドッペルゲンガー ラスト  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 21:57:56 ID:lY9MF+tv0
京介さんはいきなり自分のシャツの胸元に手を突っ込むと、三角形が絡み合っ
た図案のペンダントを取り出した。
「これを持っていろ」
それはたしか、京介さん以外の人が触ると力が失せるとか言っていたものでは
なかったか。
「よく見ろ。あれは六芒星で、これは五芒星」
そう言われればそうだ。
「とりあえずはこれで、もう一人のおまえにどうこうされることはないだろう。
 だがなにが起こるかわからない。しばらく慎重に行動しろ。なにかあったら、
 私か・・・・・・」
そこで京介さんは言葉を切り、真剣な表情で続けた。
「あの変態に連絡しろ」
あの変態とは、俺のオカルト道の師匠のことだ。京介さんは師匠とやたら反目
している。はずだった。
「まったく」と言って、京介さんは喫茶店の椅子に深く沈んだ。
そして「ドッペルゲンガーは」と繋いだ。
「死期が近づいた人間の前に現れるっていうのはさ、嘘っぱちだと思ってた。
 ずっと前から見えてたのに、今まで生きてたわけだし。でも、違うのかも
 知れない。ただの幻が、いまドッペルゲンガーになろうとしているのかも
 知れない」
俺は死にたくない。まだ彼女もいない。童貞のまま死ぬなんて、生き物として
失格な気がする。
「その、もう一人の京介さんは今もいますか」
うつむき加減にそう聞くと、京介さんは頷いて長い指でスーッと側方の一点を
指し示した。
そこにはなにも見えなかった。
京介さんの指先は店内の一つの席をはっきり指していたのに、そこにはだれも
座っていなかった。
店内はランチタイムで混み始め、ほとんどの席が埋まってしまっているという
のに、そこにはだれも座っていないのだった。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
265 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:37:17 ID:XaNdTh7X0
43 :病院  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 20:35:54 ID:lY9MF+tv0
大学2回生時、9単位。3回生時0単位。
すべて優良可の良。
俺の成績だ。
そのころ子猫をアパートで飼っていたのであるが、いわゆる部屋飼いで一切
外には出さずに育てていて、こんなことを語りかけていた。
「おまえはデカなるで。この部屋の半分くらい。食わんでや、俺」
しかしそんな教育の甲斐なく子猫はぴったり猫サイズで成長を止めた。
そのころ、まったく正しく猫は猫になり。
犬は犬になり。
春は夏になった。
しかしながら俺の大学生活は迷走を続けて、いったい何になるのやら向かう
先が見えないのだった。

その夏である。大学2回生だった。
俺の迷走の原因となっている先輩の紹介で、俺は病院でバイトをしていた。
その先輩とは、俺をオカルト道へ引きずり込んだ元凶のお方だ。
いや、そのお方は端緒にすぎず結局は自分の本能のままに俺は俺になったの
かもしれない。
「師匠、なんかいいバイトないですかね」
その一言が、その夏もオカルト一色に染め上げる元になったのは確かだ。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
266 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:38:01 ID:XaNdTh7X0
44 :病院  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 20:37:10 ID:lY9MF+tv0
病院のバイトとは言っても、正確にいうと「訪問看護ステーション」という
医療機関の事務だ。
訪問看護ステーションとは、在宅療養する人間の看護やリハビリのために、
看護師(ナース)や理学療法士(PT)、作業療法士(OT)が出向いてその
行為をする小さな機関だ。
ナース3人にPT・OT1人ずつ。そして事務1人の計6人。
この6人がいる職場が病院の中にあった。
もちろん経営母体は同一だったから、ナースやPTなどもその病院の出身で、
独立した医療機関とはいえ、ただの病院の一部署みたいな感覚だった。
その事務担当の職員が病欠で休んでしまって、復帰するまでの間にレセプト
請求の処理をするにはどうしても人手が足りないということで、俺にお声が
かかったのだった。
ナースの一人が所長を兼ねていて、彼女が師匠とは知り合いらしい。
60近かったがキビキビした人で、もともとこの病院の婦長(今は師長とい
うらしい)をしていたという。
その所長が言う。
「夜は早くかえりなさいね」
あたりまえだ。大体シフトからして17時30分までのバイトなんだから。
なんでも、ステーションのある4階はもともと入院のための病床が並んでい
たが、経営縮小期のおりに廃床され、その後ほかの使い道もないまま放置さ
れてきたのだという。今はナースステーションがあったという一室を改良し
て事務所として使っていた。そのためその階ではステーションの事務所以外
は一切使われておらず、一歩外に出ると昼間でも暗い廊下が人気もなくずーっ
と続いているという、なんとも薄気味悪い雰囲気を醸し出しているのだった。
それだけではない。ナースたちが囁くことには、この病棟は末期の患者の
ベッドが多く、昔からおかしなことがよく起こったというのだ。だからナース
たちも夜は残りたくないという。勤務経験のある人のその怖がり様は、ある種
の説得力を持っていた。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
267 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:38:36 ID:XaNdTh7X0
45 :病院  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 20:38:44 ID:lY9MF+tv0
絶対早く帰るぞ。
そう心に決めた。
が、これが甘かった。
元凶は毎月の頭にあるレセプト請求である。一応の引継ぎ書はあるにはあるが、
医療事務の資格もなにもない素人には難しすぎた。特に訪問看護を受けるよう
な人は、ややこしい制度の対象になっている場合が多く、いったい何割をどこ
に請求して残りをどこに請求すればいいのやら、さっぱりわからなかった。
頭を抱えながらなんとか頑張ってはいたが、3日目あたりから残業しないと
無理だということに気づき、締め切りである10日までには仕上がるようにと、
毎日の帰宅時間が延びていった。
「大変ねえ」
と言いながら仕事を終えて帰るナースたちに愛想笑いで応えたあと、誰もい
ない事務所には俺だけが残される。
とっくに陽は暮れて、窓からは涼しげな夜風が入り込んでくる。
静かな部屋で、電卓を叩く音だけが響く。
ああ。いやだ。いやだ。
昔はこの部屋で夜中、ナースコールがよく鳴ったそうだ。
すぐにすぐにかけつけると、先日亡くなったばかりの患者の部屋だったり
したとか・・・・・・
そんな話を昼間に聞かされた。
一時期完全に無人になっていたはずの4階で、真夜中に呼び出し音が鳴ったこ
ともあるとか。ナースコールの機器なんてとっくに外されていたにもかかわらず。
確かに病院は怪談話の宝庫だ。でも現場で聞くのはいやだ。
俺はやっつけ仕事でなんとかその日のノルマを終えて、事務所を出ようとする。
恐る恐るドアを開くと、しーんと静まり返った廊下がどこまでも伸びている。
【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
268 :本当にあった怖い名無し[]:2006/10/17(火) 22:39:08 ID:XaNdTh7X0
46 :病院  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 20:39:57 ID:lY9MF+tv0
事務所のすぐ前の電灯が点いているだけで、それもやたらに光量が少ない。
どけちめ。だから病院はきらいだ。
廊下を少し進んで、階段を降りる。
1階までつくと人心地つくのだが、裏口から出ようとすると最後の関門がある。
途中で霊安室の前を通るのだ。
もっとこう、地下室とか廊下の一番奥とかそんなところにあることをイメージ
していた俺には意外だったが、あるものは仕方がない。
『霊安室』とだけ書かれたプレートのドアの前を通り過ぎていると、どうして
も摺りガラスの向こうに目をやってしまう。
中を見せたいのか見せたくないのか、どっちなんだと突っ込みたくなる。
中は暗がりなので、もちろんなにも見えない。なにかが蠢いていてもきっと外
からはわからないだろう。
そんな自分の発想自体に怯えて、俺は足早に通り過ぎるのだった。

そんなある日、レセプト請求も追い込みに入った頃に、夕方の訪問を終えた
ナースの一人が事務所に帰ってきた。
ドアを開けた瞬間、俺は思わず目を瞑った。なぜかわからないが、見ないほう
がいい気がしたのだ。
そのまま俯いて生唾を飲む俺の前をナースは通り過ぎ、所長の席まで行くと
沈んだ声で「××さんが亡くなりました」と言った。
所長は「そう」と言うと、落ち着いた声でナースを労った。そしてその人の
最期の様子を聞き、手を合わせる気配のあとで「お疲れさまでした」と一言いった。
PTやOTというリハビリ中心の訪問業務と違い、ナースは末期の患者を訪問
することが多い。病院での死よりも、自分の家での死を家族が、あるいは自分
が選択した人たちだ。多ければ年に10件以上の死に立ち会うこともある。
そんなことがあると、今更ながら病院は人の死を扱う場所なのだと気づく。
複数回訪問の多さから薄々予感されたことではあったが、ついさっきまでその
人のレセプトを仕上げていたばかりの俺にはショックが大きかった。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
269 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:39:40 ID:XaNdTh7X0
47 :病院  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 20:40:46 ID:lY9MF+tv0
そして、いま目が開けられないのは、そこにその人がいるからだった。
その頃は異様に霊感が高まっていた時期で、けっして望んでいるわけでもない
のに、死んだ人が見えてしまうことがよくあった。高校時代まではそれほど
でもなかったのに、大学に入ってから霊感の強い人に近づきすぎたせいだろうか。
「じゃあ、これで失礼します。お疲れ様でした」
ナースが帰り支度をするのを音だけで聞いていた。そして蝿が唸っている
ような耳鳴りが去るのをじっと待った。
二つの気配がドアを抜けて廊下へ消えていった。
俺はようやく深い息を吐くと、汗を拭った。
たぶんさっきのは、とり憑いたというわけでもないのだろう。ただ「残って
いる」だけだ。
明日にはもう連れて来ることはないだろう。
俺は、ここに「残らなかった」ことを心底安堵していた。その日も夜遅くまで
残業しなければならなかったから。
その次の日。
もう終業間近という頃。
不謹慎な気がして、死んだ人のことをあれこれ聞けないでいると、所長の方
から話しかけてきた。
「あなた見えるんでしょう」
ドキっとした。事務所には俺と所長しかいなかった。
「私はね、見えるわけじゃないけど、そこにいるってことは感じる」
所長は優しい声で言った。
そういえば、この人はあの師匠の知り合いなのだった。
「じゃあ、昨日手を合わせていたのは」
「ええ。でもあれはいつでもする私の癖ね」
そう言ってそっと手を合わせる仕草をした。
【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
270 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:40:11 ID:XaNdTh7X0
48 :病院  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 20:43:11 ID:lY9MF+tv0
俺は不味いかなと思いつつも、どうしても聞きたかったことを口にした。
「あの、夜中に人のいないベッドからナースコールが鳴るって、本当にあった
 んですか」
所長は溜息をついたあと、答えてくれた。
「あった。仲間からも聞いたし。私自身も何度もあるわ。でもそのすべてが
 おかしいわけでもないと思う。計器の接触不良で鳴ってしまうことも確かに
 あったから。でもすべてが故障というわけでもないのも確かね」
「じゃ、じゃあこれは?」
と所長の口が閉じてしまわないうちに俺は今までに聞いた噂話をあげていった。
所長は苦笑しながらも、一々「それは違うわね」「それはあると思う」と丁寧
に答えてくれた。
今考えれば、こんな興味本位なだけの下世話で失礼な質問をよく並べられた
ものだと思う。しかしたぶん所長は、師匠から俺を紹介された時、なにか師匠
に含められていたのではないだろうか。
ところが、ある質問をしたときに所長の声色が変わった。
「それは誰から聞いたの?」
俺は驚いて思わず「済みません」と謝ってしまった。
「謝ることはないけど、誰がそんなことを言ったの」
所長に強い口調でそう言われたけれど、俺は答えられなかった。
どんな質問だったのか、はっきり思い出せないのだが、この病棟に関する怪奇
じみた噂話だったことは確かだ。
不思議なことに、その訪問看護ステーションのバイトを止めてすぐに、この噂
についての記憶が定かでなくなった。
だがその時ははっきり覚えていたはずなのだ。ついさっき自分でした質問なの
だから当たり前であるが。しかし誰からその噂を聞いたのかはその時も思い
出せなかった。ナースの誰かだったか。それともPTか、OTか。病院の
職員か・・・・・・

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
272 :本当にあった怖い名無し[]:2006/10/17(火) 22:42:23 ID:XaNdTh7X0
49 :病院  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 20:44:16 ID:lY9MF+tv0
所長は、穏やかではあるが強い口調で「忘れなさい」と言うと帰り支度を
始めた。
俺は一人残された事務所で、いよいよ切羽詰ったレセプト請求の仕上げと格闘
しなければならなかった。やたらと浮き足立ってしまった心のままで。
泣きそうになりながら、減らない書類の山に向かってひたすら手を動かす。
夜蝉も鳴き止んだ静けさの中で一人、なにかとても恐ろしい幻想がやってくる
のを必死で振り払っていた。
よりによって、次の日は10日の締め切りだった。どんなに遅くなってもレセ
プトを終わらせなくてはならない。
チッチッチッ
という時計の音だけが部屋に満ちて、俺はその短針の位置を確認するのが怖
かった。多分日付変わってるなぁ、と思いながら段々脳みその働きが鈍くなって
いくのを感じていた。
いつのまにウトウトしていたのか、俺はガクンという衝撃で目を覚ました。
意識が鮮明になり、そして部屋には張り詰めたような空気があった。
なぜかわからないが、とっさに窓を見た。
その向こうには闇と、遠くに見える民家の明かりがぽつりぽつりと偏在して
いるだけだった。
次にドアを見た。なにかが去っていく気配があった気がした。
そして俺の頭の中には、今日所長に質問した中にはなかった、奇怪な噂が新た
に入り込んでいた。
遠くから蝿の呻くような音がする。
「誰に聞いたのか」
とは、そういうことなのか。
『誰も言うはずがない話』
あるいは、『所長以外、誰も知っているはずがない話』
たとえば、所長が最期を看取った人の話・・・・・・

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
273 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:42:56 ID:XaNdTh7X0
50 :病院  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 20:45:27 ID:lY9MF+tv0
そんな話を俺がしたら、今日のような態度になるだろうか。
そんな噂話を俺にしたのは誰だろう。今、闇に消えたような気配の主だろうか。
生々しい、そしてついさっきまでは知らなかったはずの奇怪な噂が頭の中で渦
を巻いている。
俺はここから去りたかった。
でも絶対無理だ。
今あのドアを開けて、暗い廊下に出て、人の居ない病室を通り、狭い階段を
降り、霊安室の前を行くのは。
俺はブルブルと震えながら、このバイトを引き受けたことを後悔していた。
廊下の闇の中に、なにかを囁きあうような気配の残滓が漂っているような気がする。
それからどれくらい経ったのか。
ふいに静寂を切り裂くような電話のベルが鳴った。
心臓に悪い音だった。
でも、生きている人間側の音だという、そんな意味不明の確信にすがりつくよ
うに受話器をとった。
「もしもし」
「よかったー。まだいた。ねえ、そこに○○さんのカルテない?」
聞き覚えのある声がした。ステーションのナースの一人だった。
「すっごく悪いんだけど、今○○さんの家から連絡があって、危篤らしいから、
 ほんと悪いんだけど今すぐカルテ持って○○さんの家に来てくれない? 
 私もすぐ行くけど、そっち寄ってたら時間かかりそうだから」
俺は「はい」と言って、すぐにカルテを持って駆け出した。
ドアを開けて、廊下を抜けて、階段を降りて、霊安室の前を通って、生暖かい
夜風の吹く空の下へ飛び出した。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
274 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:43:34 ID:XaNdTh7X0
51 :病院 ラスト  ◆oJUBn2VTGE :2006/10/15(日) 20:47:05 ID:lY9MF+tv0
所詮は臨時の事務職だ。
でもその日、人の命に関わる仕事をしたという確かな感触があった。
鬱々と、下を向いてばかりでなくてよかった。
人の死を、興味本位で語るばかりじゃなくてよかった。
こんな、夜の緊急訪問はよくあることらしい。でも俺にとって、特別な意味
がある気がした。
だから、カルテを届けたあとまた事務所に帰ってレセプト請求をすべて完成
させるのに、全精力を傾けられたのだろう。

次の日、あまり寝てない瞼をこすりながら出勤すると、所長が「お疲れ様。
昨日は大変だったわね」と話かけて来た。
俺は、「いえ、このくらい」と答えたが、所長は首を振って「やっぱりあなた
には向いてない職場かもね」と優しい声で言うのだった。
俺はそのあと、2週間くらいでそのバイトを止めた。
いい経験になったとは思う。
でも、人の死をあれほど受け止めなければならない職場は、やはり俺には向
いてないのだろう。
俺があの夜、カルテを届けた人はその日の朝に亡くなった。
そしてその死を看取ったナースは、すぐに次の訪問先へ向かった。また、その
肩に死者の一部を残したままで。

【謎の】師匠シリーズを語るスレ第2夜【失踪】
275 :本当にあった怖い名無し[sage]:2006/10/17(火) 22:44:43 ID:XaNdTh7X0
「黒い手」、誰か避難頼む


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