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316 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:26:21.94 ID:bZsUKbdO - 「すりかえ♪すりかえ♪すりかえチェーンジ♪」
最近、出演した映画を観たからだろうか。 夢の中で赤い仮面を付けた男が何度もしつこく魔法をかけてくる。 「一体、これは」 「どういうこと?」 朝、目が覚めると、いつもと違う天井に驚いて起き上がった。 ベッドから離れて辺りを見回すとそれはどこか見覚えのある部屋だった。 頭が混乱していると、外から煩い犬の声が耳に、気怠そうに見てる愛想の悪い猫が目に、入ってきた。 そして部屋にある鏡を見つけるとーー・・・ 「僕たち」 「私たち」 「「 入れ替わってる!? 」」 ゆういちろうが見つめる鏡にはあつこの姿が、あつこが見つめる鏡にはゆういちろうの姿が、そこにはあった。 全く訳が分からず唖然としたまま気は動転していたが、まだ夢を見てるのかもしれないと思い、頬をぎゅーっとつねってみるが頬は痛かった。 場を取り乱しても埒があかないと思い、とりあえずこれから向かう職場に、鏡にいる本人に、会えば何か分かるんじゃないかと考えた二人は急いで身支度を始めた。
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317 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:28:19.72 ID:bZsUKbdO - 「あつこもう食べないの?熱でもあるんじゃない?」
「ゆうくんどうしたの?パンケーキの方が良かった?」 料亭に来たかのような沢山の量にまだ終わりが見えない朝食を見つめてあつこ(ゆういちろう)は考える。 あつこが家族にどんな口調で話してたか、そして目の前にいる小野おばさんを傷つけない言葉を。 ホイップたっぷりのさくらんぼが添えられたハート型のワッフルを見つめてゆういちろう(あつこ)は考える。 ゆういちろうが家族にどんな口調で話してたか、そして目の前にいる花田おばさんを傷つけない言葉を。 「だってママが作った料理どれも美味しいんだもん!またブクブク太っちゃう!」 「だって母上が作ったワッフル可愛いんだもん!勿体ないから飾っておきたい!」 「も〜あつこったら!でもダイエットは程々にしなさいよ?昨日も上からドタバタ音しててあんたのストレッチ煩かったんだからね」 「も〜ゆうくんったら!大丈夫よ!今日も先にインスタに写真上げたから。ささっ、遠慮せずに食べてね♪」 「へぇ〜。あ、いや。せっかく作ってくれたのに残してごめんねママ。電車遅れるといけないからもう仕事行ってくるね!」 「ほんとに?さすが母上〜…。でも私、違う僕ダイエット…したことないな。うっ、分かったよ。いただきます。。うぅ…甘っ」 そうして意気込んで玄関を出ると、庭では尻尾を振りながら柵から顔を覗かせてるあつこの犬がいた。 犬の頭を撫でて「じゃあねハル」と言い、あつこ(ゆういちろう)は家を後にした。 そうして胸焼けを感じつつ玄関を出ると、玄関外に降りてきたのか手を舐めながら寝そべってるゆういちろうの猫がいた。 猫の頭を撫で、ようとしたが、体を背けて家の中に入るつれない猫を一瞥してゆういちろう(あつこ)は家を後にした。
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318 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:29:53.44 ID:bZsUKbdO - 職場へ着くと二人は顔を合わせるとどちらともなく朝起きてからの出来事を興奮気味に話した。
分かったことは、同じくすりかえ仮面の夢を見たこと、そして、ゆういちろうがあつこであつこがゆういちろうだということ。 「こんなドラマみたいなことあるなんて…」 「誰かに打ち明けた方がいいのかな?」 「いや、一日だけ様子見てみよう」 「っていうことは今日一日お互いになりきるってことね…」 二人が腕を組んで考え込んでいると、近くでガチャリとドアノブが回る音と笑い声が入ってきた。 「あれ?お二人今日は早いですね!?」 「ほんとだ!いつも社長出勤なのに。おはようございます!!」 「おはよう。二人こそいつも早いのね」 「え?ゆういちろうさん?」 「(言ってる側から…)」 「(ごめん…)」 と、あつこ(ゆういちろう)に小声で注意されたゆういちろう(あつこ)は自分の言葉の間違いに肩をすくめた。 しかし、誠と杏月は特に気にする様子もなく普段通り冷蔵庫から筋肉増強栄養ドリンクを取り出して飲んでいて、その後は4人で他愛もない話をしながらいつもと変わらない時間を過ごし、その後はそれぞれ役割のある現地へ向かった。
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319 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:32:04.44 ID:bZsUKbdO - 「あつこちゃんこの衣装どう?」
レコーディングを終えて先に楽屋に戻っていた二人のところにスタイリストの女性が台本を見てるあつこ(ゆういちろう)に分厚いカタログを開いて見せてやってきた。 そのカタログには、花柄模様の上着、レースが沢山散りばめられたスカート、頭サイズぐらいあるリボンや果物のゴムなどがメルヘンちっくな服と小物がたくさん載っていた。 「わぁ〜!!可愛いっ!!!!」 「だよね!あ…でもあつこちゃんこういうの苦手だったね。。ごめんなさい。シンプルになるよう努めます」 それを側で聞いていたゆういちろう(あつこ)はお茶をすすりながら一人で頷く。 だが、おとぎの国みたいな世界観が溢れる数々の商品が載ったカタログを閉じられてしまったあつこ(ゆういちろう)はその煌びやかな世界をもっと見たいと思った。 全てがキラキラ輝いてて見てるだけでも気分が上がり心も満たされていくような不思議な気持ちだった。 「そんなことないですよ!最近こういうのもっと着たいなぁと思ってて。カタログもう少し見てもいいですか?」 「はぁ!??」 二度目のお茶をすすろうとしたゆういちろう(あつこ)はその言葉に思わず耳を疑い、会話する二人に急いで顔向きを変えた。
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320 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:34:33.13 ID:bZsUKbdO - 「本当?私あつこちゃんに着せたい服もっとあるのよ。実はこっそり発注した新作の衣装もあってね。良かったら今着てみる?」
「喜んで!!!」 「下の階の部屋にあるから来て来て〜♪」 「はぁ〜い♪」 「ちょっと…!」 スタッフに手招きされてウキウキとした様子で部屋を出ていこうとするあつこ(ゆういちろう)の腕をゆういちろう(あつこ)は急いで掴んで引き止めた。 「なに勝手に決めてんのっ!?」 「なにって、せっかく入れ変わったんだからその間だけでも女性らしく振る舞おうと」 「別に着飾らなくてもできるでしょ!」 「まぁまぁ。役は形から入れっていうじゃん?はいはーい!今行きまーす♪」 軽い足どりで出ていくあつこ(ゆういちろう)の後ろ姿をゆういちろう(あつこ)は唇を噛みしめてただ見送ることしかできなかった。
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321 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:38:07.34 ID:bZsUKbdO - 「お疲れ様です。あれ、ゆういちろうさんだけ?あつこさんは?」
「あー、今ヘアメイクに凝ってて準備に忙しいんだって」 「普段簡単に済ませたがるのに珍しいですね」 「なにか良いことでもあったのかなぁ」 「良いこと、ね」 ため息と一緒に薄ら笑うゆういちろう(あつこ)に対して気まずそうにしていると、後ろから女性特有の黄色い笑い声が聞こえてきた。 スタイリスト、ヘアメイク、そしてあつこ(ゆういちろう)だ。 「私一度誰かに昔の少女漫画風なヘアアレンジをしてみたかったのよねぇ〜。あっちゃん弄らせてくれてありがとう!」 「来月はロリータ発注するね。あつこちゃん可愛いから絶対似合うってぇ〜」 「キャハハ!やだもう!」 横で歩くスタッフの一人の肩をバシッと叩きながら楽しそうに笑いながらやってくるあつこ(ゆういちろう)の姿を見てゆういちろう(あつこ)は唖然とした。 縦巻きカール風の髪型は両サイドに紐で括られたリボンがあり、血色良く見せたかったのか頬と唇はほんのりピンクがかった色を塗っている。 衣装は、上がレースの付いた襟と袖に胸元のフリルのブラウス、下は三段フリルにボリュームがあり下の端にはリボンが前後左右と付いてるスカート。 赤いパンプスの上には小さな花が付いていた。 「今日の衣装すごく乙女ですね…」 「うん…。でもあつこさんだから着こなせるんでしょうね!」 「でしょでしょ〜♪」 誠と杏月の言葉にあつこ(ゆういちろう)は気分を良くしたのかくるりと一回りしてみせるとスカートがふわりと動いた。 そんな自分じゃない自分にゆういちろう(あつこ)は怒りに震えた目で訴えるだけしかできなかった。
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322 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:40:01.64 ID:bZsUKbdO - 「本番行きまーす!3…2…」
「みんな元気〜?」 「ゆういちろうお兄さんも!」 「あつこお姉さんもぉ〜!」 「まことお兄さんも!」 「あづきお姉さんも!」 「「「「 元気ぃ〜〜!!!!」」」」 一人だけ浮いてる声の人が気になったが、急きょ変わった相手の台本を思い出して気を逸らすようにゆういちろう(あつこ)は務めた。 「なんだろう?今の音」と、両手で耳をすます姿をしてみせるゆういちろう(あつこ)。 「グルルル…って聞こえたね」と、怯えた顔して皆に不安そうな声で伝えるまこと。 「冬眠から目覚めた熊の声かな?なーんて、お姉さんのお腹が鳴った音でした☆」と、舌を出して自分の頭を小突くあつこ(ゆういちろう)。 「…!あつこお姉さんだったのかぁ」と、少し驚いた顔をしつつもセリフを続けるあづき。 ゆういちろう(あつこ)は、熊などと勝手に一部アドリブを入れたあつこ(ゆういちろう)と、それを面白いと思ったのかカットをかけないスタッフに内心腹が立ったが、自分の決められたセリフを台本通りに進めていくしかなかった。 「…あはは。あつこお姉さんおちゃめだなぁー。でもお腹ってどうして鳴るか不思議だよねぇー。今日は皆でこの歌をうたお〜・・」 「「 おなかのへるうた 」」
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323 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:42:45.20 ID:bZsUKbdO - それから、いくつかのオープニングを撮った後はエンディング数本撮る準備に取り掛かり、その間は休憩時間になった。
あつこ(ゆういちろう)は杏月を含めた女性スタッフとファッション雑誌に夢中で女子トークに花を咲かせていた。 自分も…と思ったゆういちろう(あつこ)は男性陣がいる方を見るが、隣ではダンベルを両手で持って「ほっほっ」と腕を動かしてる誠と、スマホで何か面白いのでも見てるのか気持ち悪くニヤついてる男性スタッフの姿しかなかった。 あつこは、ゆういちろうが自分たちの輪に入ってくることが多い理由がこの時だけ少し分かった気がした。 「本番いきまーす!3…2…」 休憩が終わるとそれぞれ決められた立ち位置を確認してからカメラを見る。 スタジオはエンディングの風景に様変わりしており、耳には馴染んだ曲が流れてくる。 ♪チャララララ〜 ラン ラン ♪ラン「ゲフッ!!!!」 突然、あつこ(ゆういちろう)の頭後ろにゆういちろう(あつこ)の片手がぶつかった。 予期しなかったことにあつこ(ゆういちろう)はその場で両手を広げたまま頭が垂れる形になる。
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324 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:44:43.45 ID:bZsUKbdO - 「ごめん!あつこお姉さん大丈夫?僕の手あたっちゃったよね!?本当にごめん!!」
「だ、大丈夫よ…。。ゆういちろうお兄さん…。・・・・。」 あつこ(ゆういちろう)は叩かれた後頭部を両手で抑えつつ、隣で申し訳なさそうに謝るゆういちろう(あつこ)に向けて笑顔で答える。 「おいおい何やってんだよ〜!つか花田くん寄りすぎ〜!中心位置に来ちゃってるじゃん!」 「うわー!ほんとだ!僕ってば調子乗りすぎるとズイズイ行っちゃうウザイところあるからなぁ。気をつけます!!」 「・・・・・・」 敬礼して見せるゆういちろう(あつこ)の姿に皆が笑いスタジオは穏やかな空気に包まれる。 が、一人だけ目を細めるあつこ(ゆういちろう)は当然面白くもなく、隣で調子にのって笑ってる自分自身を目のあたりにするという苦痛な気持ちにもなった。 そして二回目のエンディングは頭を叩かれることなく無事に終わることができた。
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325 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:47:14.11 ID:bZsUKbdO - スタジオでの仕事が終わると、ゆういちろうとあつこはお互いの顔を見るのに嫌気がさしたのかそっぽを向いて足早に各自更衣室へと向かった。
「あつこさん???」 「ん?」 「ここ男子更衣室ですけど…」 「あ、」 「ゆういちろうさん?…え、ちょ、開けちゃダメです!!!」 「へ?」 「変態で捕まりますよ!!!」 「ヘンタイ?」 ドアノブに触れようとしたゆういちろう(あつこ)に驚いた杏月は急いでドアを背にし、ゆういちろう(あつこ)が開けるのを慌てて阻止した。 「「一体どうしたんですか?」」 誠と杏月は顔をしかめいつもと何かが違う先輩の姿に戸惑って聞く。 「…やだぁ、私ってば。ゆういちろうに頭叩かれて少しボーっとしちゃってたのかな?てへ」 「ヘンタイ…。あれだ僕また調子乗っちゃって。浮かれて部屋間違って。だからヘンタイじゃない。ヘンタイじゃ…」 そして心配そうに見つめる誠と杏月に「ごめん」とだけ言って反対の方向にある行くべき場所へと向きを変えて歩いて行った。 双方肩を落としながらトボトボ歩いてると、向こうから来る自分本来の姿と廊下で鉢合わせして目が合った。 「こんな体早く出ていきたい」 「こっちも同じ気持ちだから安心して」 すれ違う相手にボソッと言い睨みつけるとその後大幅に歩いてそれぞれ部屋へ向かった。
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326 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:50:10.92 ID:bZsUKbdO - 「あつこさん着替え終わりましたよ。でもどうしたんですか?一人だけで着替えたいって」
「一人になりたい気分なの」 「そうなんですか。なんだか今日のあつこさんいつもと違いますね。珍しくテンション高いなぁと思ったら今は低かったり…」 「今日生理なの」 場を逃れるための女性の最終手段の言葉だと思ってたゆういちろうがそう言うと「そうでしたか。無理なさらないでくださいね」と、杏月はその言葉通り信じていた。 ゆういちろうはこの時あつこがあづきだけに甘い理由がなんとなく分かった気がし、そんな純粋無垢な後輩に優しく微笑んでから姿はあつこのまま一人更衣室へと入っていった。 一方、場面は変わって男性更衣室ではーーー 「ゆういちろうさん何で壁の端に寄って着替えているんですか?」 「え?ぇえーっと。。。ほら、まことくんたちの逞しい体に僕のひょろい体並べるの恥ずかしくて!着替え方も今日だけ女子学生風にしてみようかなぁって。アハハ!」 「着替え方は普段からそうじゃないですか」 「え、マジ?」 上から私服の上着を被ってその中から衣装を脱ぎ取ってたゆういちろう(あつこ)は、自分が知らない相手の一面を誠からその他にもいくつか聞かされ、げんなりすると同時に次第に腹が立ってきた。 話を聞けば聞くほど日頃から皆の前で仮面を被ることを楽しんでるゆういちろうの姿が思い浮かんできて憎くて仕方なかった。
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327 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:52:13.58 ID:bZsUKbdO - すると、突然、ゆういちろう(あつこ)のお腹から「ぎゅーっ」と音が鳴り、それを聞いた誠は、ハハハ!と指を差して笑った。
小っ恥ずかしくなって一緒に笑おうとしたが、ゆういちろう(あつこ)はハッとする。 自分もせっかく男という立場に今いるのだから、ここは男らしく振舞ってもいいのでは? ゆういちろうだって自分の体を使って好き勝手に楽しんでいるのだから割りに合わない。 そして、目の前でまだ笑ってる誠を睨みつけて声を低くする。 「おい、てめぇ。まこと。先輩に指差していいと思ってんのか?」 「…え?…えっと。その、はいすみません…」 「ここは『僕のオナラです』って庇うのが筋ってもんだろうが」 「そんな…おなか鳴っただけで…」 「あ?何つった?」 「いえ!何でもありません!僕のオナラです!」 不穏な空気を漂わせた二人に同室で着替えてる他の男性たちも察したのか首を長くしたり目をチラチラ見ながら着替えたりするのもいた。 けど、今皆の目に映ってるのは自分(あつこ)ではなく、ゆういちろうだ。 男言葉など一度も使ったことないあつこだったが、テレビや漫画などである程度は知っていたので見様見真似で男になりきって喋り続けていく。 正直、心臓の音はドキドキ鳴っていた。 しかし、解放感溢れる言葉と態度を表すことでなんだか自分が王様になれた気分になれたような気がして、あつこは不思議と心地良さを感じた。 「笑った罰としてやきそばパン買ってこい」
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328 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 02:54:21.00 ID:bZsUKbdO - その頃、着替えを終えてから余った時間をあつこ(ゆういちろう)と杏月は、風に涼むために廊下に出て月9の恋愛ドラマの話をして過ごしていた。
その中で窓際にいた杏月は下にある移動販売車に目がとまり、あつこ(ゆういちろう)の袖を引っ張ってそれを指さす。 「あれテレビで話題の珈琲カーじゃないですか?買いにいきません?」 「ほんとだ!でも人気だけあって人多いね」 ため息を吐くあつこ(ゆういちろう)に杏月は自分の胸をドンッと叩いて見せた。 「じゃ私が並んで買ってきますよ!あつこさんはここで待ってて下さい」 「そんな悪いよ。それなら一緒に…」 「この前スーパーのタイムセールであつこさん体を張って私に牛肉パック沢山取ってきたじゃないですか。私嬉しかったんですよ」 「へぇ〜」 相手のその光景を想像したゆういちろうはあつこのまま内心呆れてると側で杏月はフフッと笑う。 そして自分のスマホから検索した公式HPを見つけてから二人でそのメニューを見た。 「トッピングの宝庫と謳ってるだけあって種類が一杯ありますね〜。私人気No.1のにしよう!」 「いいねぇ美味しそう♪じゃ〜私はこれとこれとそれもトッピングして」 「あつこさん珈琲はブラック派じゃありませんでしたっけ?」 「えーっとね、あの時はダイエット中だったの。お腹周りすごいことになってて」 「そうなんですか?そうは見えなかったです」 「着痩せするタイプなのよ」 と、あつこ(ゆういちろう)は服の上からお腹を摘んで困ったように笑ってみせた。 「じゃ、いってきまーす!」 「はぁい!よろしくね〜♪」
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329 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 03:00:42.97 ID:bZsUKbdO - 元気良く手を振りながらエレベーターへと向かう杏月に応えて同じく手を振りながら見送ると、あつこ(ゆういちろう)は移動販売車に杏月が現れる姿を見ようと窓の側に立って外を見ていた。
そういえば杏月と二人きりで過ごすということが今まで無かったなと思うと同時に新鮮さも感じ、今だけ女になるのも悪くないのかもと思った。 すると、自分の背中から数人の男性と女性の会話が聞こえてきた。 「しっかし、ゆういちろうお兄さんにあんな怖い一面があったとはな」 「それ本当なの?大人しい顔してる人ほど…ってやつなのかしら」 「まことお兄さんを顎で使って物取らしてたぜ」 「今さっき有名なパン屋のやきそばパン買いに行かせていたよな」 「えー怖いね。。人は見かけによらないのね…」 「それからさぁ」 そして一通り話が終わった男女たちは他の話題に話は変わり笑いながらその場を去っていくが、あつこ(ゆういちろう)は外を見つめたまま肩を震わせていた。 「お待たせしましたー!チョコ&クッキーをトッピングした苺とバナナのミルフィーユ風マシュマロうさちゃん乗せの珈琲です!」 杏月はパフェのように長い容器に入った珈琲を崩さないように気をつけながらニコニコした顔で持ってきた。 「杏月ちゃんごめんね。私ちょっと急用できちゃった。良かったらそれ貰っていいよ」 「え、いいですよ。こんな重そうなもの。冷蔵庫に入れておきま…」 「あつこの奴!!!!」 杏月が言い終わる前にあつこ(ゆういちろう)は自分の名前を叫んでどこかへと走っていった。 「変なあつこさん…」
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330 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 03:04:27.90 ID:bZsUKbdO - 「ちょっと!!!」
急にドアが強く開く音に驚いたゆういちろう(あつこ)は、片足上げて椅子に座ったままの体制で振り向いた。 そこには急いで走ってきたのか息を切らしながら鬼の形相で睨んだあつこ(ゆういちろう)がいた。 「ロックぐらいしろよな」 「今二人しかいないんだから無理に男になりきらなくていいわよ!」 「そっちだって…」 「と、とにかく!さっき、通りかかった人達の話から、ぼ、ぼぼ僕が横暴な態度してるって聞いたんだけど!?」 平然とした態度で座ったままでいるゆういちろう(あつこ)に対し、あつこ(ゆういちろう)はまだ息が上がって興奮してるのか言葉を途切れさせながらも怒鳴っている。 「横暴だなんて人聞きが悪い。ただ男らしく振る舞ってるだけじゃない」 「貴様とか、ざけんじゃねーぞとか、言ってるって!それに胡座かきながら口開けてガハハ笑ってる姿見たっていう証言もあるぞ!そんな下品なことしたことないのに!!」 「お言葉ですけどね」 ゆういちろう(あつこ)は顔をしかめて椅子から立ち上がり言葉を続けた。 「あなただって、私が普段から奇抜な衣装を嫌がってるの分かってるくせに更に派手なのを選んだり女らしさを見せつけたりしていたじゃない!」 「は?女らしく見せてるのは良いことだろ。だれも不愉快に思わせてもいないじゃないか」 「それ言うならこっちだってそうよ。命令されてまことくん何処となく嬉しそうにしていたわ」 「都合よく勝手に解釈してるだけだろ!僕は優しくて穏やかな先輩なんだぞ!!!」 「後輩たちにまで猫かぶるのもうよしなさいよ!話聞いててむず痒かったんだからっ!!!」
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331 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 03:07:21.07 ID:bZsUKbdO - 「この、たけのこの里!!!」
「なっ、きのこの山!!!!」 怒りの感情とストレスからかどちらともなく手が出てしまい、一人は相手の頬をぎゅーっとつね、もう一人は相手の髪をぎゅーっと引っ張る。 ちょうどその時、床がぐらりと揺れ、あつこのスマホからけたたましいアラーム音が鳴った。 〈チャラン〜チャラン♪ 緊急地震速報です。強い揺れに注意してください。〉 「「 キャー!!!! 」」 ゆういちろうとあつこはお互いにぎゅーっとしがみつく格好になりそのまま床にゴンッと強く頭を打ち、意識を失った。 それからどれぐらいの時間が過ぎたのだろうか。 意識を取り戻したのは誠と杏月の呼びかける声だった。 「良かったぁ。大丈夫ですか?」 「ドア開けたら白目向いて倒れてたからビックリしたんですよ」 「急に地震がきて倒れたみたいで…あれ?」 ゆういちろうは強く打った頭を撫でようとすると、肩まで長かった髪がないことに気付いて急いで隣に目をやる。 そこにはあつこも同じく驚いていたようで目を丸くしてゆういちろうを見つめていた。 「やったぁー!元に戻ったぞ!」 「さっきので戻れたのかな?やっぱりこの体が落ちつくわ。。。」 訳の分からない言葉を発して喜んでる先輩たちを見て、やっぱり救急車呼べば良かったのだろうかと誠と杏月は自分たちの判断を不安に思った。
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332 :名無しさんといっしょ[sage]:2021/05/31(月) 03:10:46.05 ID:bZsUKbdO - 「…さっきはキノコと言ってごめんね。今思えば相手の立場と外から見た自分にも向き合えて貴重な経験ができたと思う」
「僕もさ。タケノコって本音言ってごめん」 「なんかよく分からないけど良かったですね」 「めでたしめでたし、ってところでしょうか」 アハハハ!と声高く笑い合う二人に対してとりあえず誠と杏月も一緒に合わせて笑うことにした。 空はもう青色から橙色に代わり、窓から眩しくも優しく差し込む橙色の光はそんな4人の姿に寄りそうに温かく包み込んでいた。 「じゃそろそろ帰るか」 「私も支度しようっと」 「そうだ!ゆういちろうさん!買ってきたやきそばパンまだ渡してなかったですね」 「あつこさんちょっと待ってください!あの珈琲私本当にいらないので…はい!冷蔵庫で冷やしてたのでうさちゃんも形崩れてないですよ!」 有名なパン屋のやきそばパンらしくそれは通常より二倍大きさがあり、鞄にずっと入れてたからかパン生地は弱冠潰れトッピングにマヨネーズも付けてた具材のやきそばは飛び出していてぐちゃぐちゃになっていた。 珈琲というよりパフェに近い飲み物を初めて見たあつこはマシュマロのうさぎの顔が煽ってるようにも感じそれを眉間に皺を寄せる。 「ありがとう、まことくん。ちょうどお腹空いていたところなんだ。嬉しいなー」 「あづきちゃんってほんと気遣い上手なのね。すごく甘そう。うさちゃん可愛いなー」 それぞれ手に取って貰うと、これを口に入れるときだけでも入れ替わったままが良かったなと思い、一人はそれを渋い顔して鞄に入れ、もう一人はそれを険しい顔してストローですすった。 〈完〉
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