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名も無き被検体774号+@無断転載は禁止
時には昔の話を [無断転載禁止]©2ch.net

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時には昔の話を [無断転載禁止]©2ch.net
245 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 01:36:19.75 ID:Q9AQ86LU
>>241
お待たせしました。始めます
>>242
こちらこそ、励ましてくれてありがとう
>>243
そんな風に行ってくれる人たちのおかげで完走できそうです
>>244
続き書きます。一旦栞をはずして下さい

今夜最後まで行けるか解らないけど書いていきます。
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248 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 01:41:56.51 ID:Q9AQ86LU
筧君の起床に合わせて私も体を起こすと
「眠れなかったみたいだな」
朝はまず、おはようでしょ?この男は全てお見通しのようである。

筧君が味噌汁を、私は目玉焼き、彼女は寝息が担当だ。
森田との間にどんなやり取りがあったか解らないが、ひどく消耗したと思う。
労りのような気持ちだった。ぎりぎりまで寝かせておこう。
台所は下宿生の共有スペースになってて、部屋の外にある。
ご飯を作る音で彼女が目を覚ますことは無いだろう。

出来上がった味噌汁、目玉焼き、ご飯を並べていると
彼女がもぞもぞと起き上った。
おはようと声を掛けると慌てて乱れた髪を整えている。
何と言えばいいだろう…女心というか…それに近い物を見た気がした。

朝食を済ませ筧君に「また来るよ」と言うと
「もう来るなw」とのお返事。後は二人でよろしくやんなさいって意味だと受け取っておく。
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249 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 01:48:16.24 ID:Q9AQ86LU
車に向かう途中で私は立ち止まった。
言わなきゃならないことがある。

「ずっと好きでした。俺と付き合って下さい」

こちらを振り向いて深呼吸した彼女。
「お待たせしました」と涙を一つ落とした。
太陽がぽわ〜んと浮かんでる。地面は雪解け水でぬかるみがひどい。
昨日より柔らかい風。
冬が終わった。
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250 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 01:59:22.21 ID:Q9AQ86LU
桜の開花予想がしきりにテレビから流れている。
私たちは映画を見に行ったり、買い物に出かけたり。
仲の良い恋人同士だった。
やがて私たちが暮らす街も桜の季節。お花見に出かけた。
彼女が簡単なお弁当を用意してくれて、桜の木の下のベンチで食べた。
安っぽいカラオケの映像みたいな二人だったと思う。幸せだった。

お弁当が空になる頃、1台の車が私たちの前で停まった。
知ってる車だ。
降りてきたのは筧君と、夜勤の二人。
手際よくバーベキューのコンロを設置している。
「私が呼んだんだ」と彼女。
遅れてやってきたのは筧君の気遣いだと思った。
5人ともよくしゃべり、よく笑った。盆と正月が一緒に来たみたいだ。

何でも揃うコンビニ。
私はそこで恋人と親友に出会った。
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251 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 02:12:13.66 ID:Q9AQ86LU
雨が過ぎるたびに夏が近づいてくる。6月の末。
彼女はバイトを辞めることになった。
「学校が忙しくなっちゃって。」
高校生の私には学校が忙しいってのがよく解らなかった。
ただ、寂しくなるなぁ…と。
バイト卒業記念に何かおいしい物を食べに行こうと誘った。
「やった。お店は1君が選んでちょうだい」

私はタウン誌を読み漁り、少し背伸びした洋食屋をチョイスした。
席に着くも、こじゃれた雰囲気が落ち着かない。それは彼女も一緒のようで
「緊張する」としきりに言っていた。

テーブルに並んだのはスモークサーモンのサラダ・タンシチュー
マルゲリータ・ペスカトーレ。

「美味しいねぇ。美味しいねぇ。」
彼女はさっきからそればっかり。喜んでくれたようだ。
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252 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 02:26:10.73 ID:Q9AQ86LU
スパゲッティをフォークに絡ませながら
私は浴衣を持ってるかどうかを尋ねた。
「持ってるよ?どうして?」

来月の末に○○神社でお祭りがあるでしょ?一緒に行きたいなぁって…
んでその時に浴衣で来てほしいなぁって…
ものすごく恥ずかしくてごにょごにょ話した。
浴衣姿の彼女と線香花火をするというのはいつか見た白昼夢。

う~ん…と少し悩んだ後「いいよ。行こう」

答えに間があったのは着付けが大変だ、とか髪型が大変だとか
そんな理由なんだろうと思った。

お店を後にし、車に乗り込んだ彼女。
「お腹いっぱい」と、「緊張した〜」を乗せてふぅ〜とため息をついた。
その後「ごちそう様。ありがとう。」と。
高校生が払うには安くなかったけど、喜んでくれたこと+浴衣デートの約束を取り付けた。
大収穫だ。
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253 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 02:35:07.13 ID:Q9AQ86LU
出店が多く出ることや最後に花火が上がること。
美味しいお好み焼き屋台の見分け方など、私は興奮気味に話した。
彼女は「うん。うん。」と相槌を入れながら車を走らせる。
「珍しくはしゃいでるね」とツッコまれ
浴衣姿の彼女と線香花火をするのが夢だった。と白状した。

「そっかぁ…」
前を見たまま感情の少ない返事をする彼女。
ひょっとしてお祭りが楽しみなのは私だけ?

家まで送ってもらい、車を降りる。いつもこの瞬間は寂しい。
じゃあねと手を振ると、

「うん。さようなら」

そこは「またね」とか「バイバイ」じゃないの?とツッコむ。
「そっか。そうだね。バイバイ」
精一杯笑っているように見えた。
どちらかと言うと「またね」で終わりたかった。

真っ白な和紙に墨汁が一滴落ちる。
そこからじわじわと黒が広がる。
そんな風に私は嫌な予感を感じた。
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254 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 02:40:03.81 ID:Q9AQ86LU
ちょっと休憩。すぐ戻ります
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255 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 02:51:07.46 ID:Q9AQ86LU
発電機の音と燃料特有の匂い。
おもちゃをねだる子供の声。くじの当たりを報せる鐘。
心地よい喧噪が縁日の雰囲気を色濃くしている。

いつもなら彼女が迎えに来てくれるのだが、この日は待ち合わせ。
やはり着付けやら何やらに時間がかかるのだろう。

私は線香花火を一袋、ポケットに忍ばせて彼女を待った。

「お待たせ」

限界と言えるほど淡い水色の生地に、朱色の花。
編み込んで持ち上げられた髪。後れ毛を垂らし、控えめな髪飾り。
からころと草履を鳴らして彼女が現れた。

 

100点
開いた口が塞がらないほどに。
 
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256 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 02:55:22.79 ID:Q9AQ86LU
「どしたの?」
なんでもないよ。大アリだけど。気を抜くと大はしゃぎしてしまうので
冷静を装った。行こうと手を出すと笑って手を繋いでくれた。

どや。俺の彼女キレイだろ!?
祭りそっちのけでそんなことを考えてた。

「あ、あれ食べたい」彼女が指差した先にあったのはクレープの屋台。

チョコにしようかストロベリーにしようか悩み抜いた末に、ストロベリーを選んだ。

右手は私、左手にクレープ。

今日の彼女は何を持っていても似合うし、何を言われても許してしまいそうだ。
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257 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 02:59:23.35 ID:Q9AQ86LU
「1君は何も食べなくて大丈夫?」

自分の腹の減り具合なんて全く考えてなかった。
我に返るとさすがにお腹が空いていた。
焼きそばを買って境内に続く石段の隅に腰かけ、今日までの事を少しずつ話した。

諦めようと思ったことや、筧君がいなかったらどうなっていたかな?とか。

「私も諦めようと思ったよ。でも1君待ってくれた。嬉しかったし、楽しかったなぁ〜」

いつもの自分なら「楽しかった」という過去形の表現を聞き逃さなかっただろう。

この日の私は完全に浮かれてた。

どぉん!
1発目の花火が上がった。びっくりしたような彼女の顔が照らされる。
この花火が終われば祭りも終わり。どうしてこんなに寂しいんだろう。

小さい町の小さい夏祭り。花火の本数も多くはない。

閃光に照らされる彼女に見とれるうちに終わってしまった。
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258 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 03:45:55.49 ID:Q9AQ86LU
「終わっちゃったね。」

そう言いながら刺繍の入った巾着袋を開ける彼女。
誇らしげに取り出したのは線香花火の袋だ。

私が用意してた物と同じもの。自分が持ってきたものは出さずにおこうと思った。

店じまいする露店商たちの明かりがここまで届いている。
もうちょっと上へ行こう。彼女の手を引いて境内へ向かった。
階段を登りきると、誰もいない空間がぽっかりと広がってた。
参道のざわめきも光も無く、うってつけの場所。

2人で一本ずつ火を着けた。自分たちの周りだけ、ほわっと明るい。
露店の片づけが終わる頃、最後の一本になった。

彼女に持たせ火を着ける。

ぱしぱしと音を立てて小さく光を散らす花火。
やがて、震えるオレンジ色の玉が音もなく落ちた。

暗闇と、静寂。

キスした。


離れた後でお互い照れ笑いをし、どちらともなく立ち上がる。
手を繋いで石段を降りるとそこはいつもの寂れた参道に戻っていた。

「ありがとう。楽しかった。またね。」

 
またね。の言葉にひどく安堵した。

あの日落ちた墨汁は点滴のように紙を汚し続けていたから。

でも、その言葉を最後に彼女は私の前からいなくなった。
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259 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2017/02/08(水) 03:49:44.98 ID:Q9AQ86LU
>>246
>>247
規制されそうなので一回切ります。ごめんなさい


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