- 女難の相を持って生まれたシュッとしたおっさんが半生を語る [無断転載禁止]©2ch.net
353 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 00:44:10.41 ID:MBngfG+d - >>350
褒められると育つ子ですの。嬉しいっす。 読んでくれてありがとうな。 >>351 GJ だいたいそんなとこw 読んでくれてありがとな。 >>352 お褒めの言葉と受け取っておくなw いつもありがとう! iPadからですんでIDかわってますが、俺でした。
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- あるアプリで知り合った高3女子の話 [無断転載禁止]©2ch.net
767 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 01:13:53.29 ID:MBngfG+d - >>763
本人に見せるのはさすがにあかんか… でもっどっかの絵師さんが最高にきゃわゆいピヨピヨを書いてくれることを 切に希望する。後生やで。 ってか、ひなこ不足やイッチ、なんとかしてくれ。 後生やで…
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- 明日一回り年上と初デートなんだが助けて [無断転載禁止]©2ch.net
380 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 01:35:36.38 ID:MBngfG+d - 好きだから一緒にいたい。シンプルなそれはとても美しい人間の感情の部分と思う。
でも、実際問題はどうだろうか?好きだけではやっていけない場合もあるよ現実には。 気づいて欲しいのは、彼女と君では、残り時間の長さも重さも違うんだよね。 大方の人が言ってるのは、 要するにお前に彼女を一生の伴侶として大切にする覚悟はあるのかってこと。 未熟だからとか逃げ口上並べてあっさりと手のひら返すなよ。 彼女だって人生かかってるんだよ。それも残りHPはギリギリでな。 それを一回考えて、もうちょっと話し合いな。
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- すかちゃんで知り合った女の子の話する [無断転載禁止]©2ch.net
5 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 01:38:38.26 ID:MBngfG+d - とりあえずはよ。
まぶたが落ちる寸前だがな!
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- バイト先の女の子が好きになった [無断転載禁止]©2ch.net
19 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 01:53:50.48 ID:MBngfG+d - 自分の話ではなく適度に興味のありそうな話題を振れ。
情報源は他のバイトからでもさりげなく聞き出せ。 あまりしつこくはするな。あくまで力加減がひつようだぞ。 今気がなさそうだからといって、おまえはすぐにあきらめるのか? 一度くらい、勇気を出してバカになれ!
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359 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:14:16.91 ID:MBngfG+d - >>354
若いなぁいいなぁ。俺もこのころ君より若かったからな。 それに、結局は人間だから世代が変わってもそんなに変わらないと思うぜ 読んでくれてありがとな。 >>355 クセになってきてるw >>358 待ってくれてありがとな! さて。投下開始します。今日は結構長いと思うから、 みんな時間のある時にでもゆっくり読んでくれ。
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360 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:14:45.22 ID:MBngfG+d - マンションの重いドアが閉まった途端、俺は彼女を後ろから抱きしめた。
コーヒーなんて別に飲みたくなかったし。暗黙の了解もあったし。 スリリングな方が燃えるじゃないか。情事ってやつは。 言っとくけど半分はもう立派なクズだったからな。この頃の俺は。 「あったかいでしょ?」耳元で俺は言った。彼女の胸の方に手をゆっくりと滑らせる。 「ふふ。せっかちね。」背中越しでも彼女が怪しく微笑んだのが分かった。 彼女は俺の手を胸に一旦押し付け、次にその指を口元に運び軽くキスをしてから舐めた。 二人の脳内で何かがばちんと音を立てて弾けるのがわかった。俺は食らいついた。 そのまま玄関で動物の様な一回。シャワーを浴びて、今度はベッドで人間的なもう一回。 肉欲や情念をぶつけるだけではない、大人のゆっくりと愉しむようなセックス。 真っ赤な口紅の彼女が俺のものを咥える姿はそれまでの誰よりも、エロティックだった。 痩せていて胸は全然なかったけど、それでも俺は彼女のテクニックに骨抜きにされた。 もう俺の心のなかにアヤコはいなかった。ヨーコに完全にほだされてしまって
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361 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:15:43.42 ID:MBngfG+d - そのまま雪崩れ込むように、俺と彼女は半同棲状態となる。
店には内緒の禁断の恋仲。その障害が逆に俺たちを刺激した。 順序は完全に逆になったが、一応は告白して付き合う事となった。 合鍵を交換しても、会うのは殆ど彼女の家。俺の一人暮らしのアパートは狭かったから。 告白は、ひどく簡単なものだったと記憶している。何度めかの彼女の家。 VHSのビデオを見ながら、簡単なつまみとお酒。ソファーで二人並んで。 「なぁ。俺とちゃんと付き合ってみないか?」 「それもいいわね。」 たったそれだけ。そのあと横並びのまま、彼女から優しいキスをされた。 俺を見る彼女はすごく妖艶に見えた。そのくちびるの間から赤い舌がちろりと覗いた。 今思うと俺は、こうなる前に彼女の弱さや脆さにもっと気付くべきだったんだ。 俺が惹かれた寂しそうな笑顔にはちゃんと理由があったんだよ。
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362 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:16:48.64 ID:MBngfG+d - それでも数か月は安寧な毎日を送ったと思う。
エロい事ばかりしてた訳じゃない。きちんとした恋人同士の時間もあったんだよ。 たまには買い物に行ったり、俺の車でドライブに出かけることもあった。 バイト代が出たときには、奮発してちょっといいレストランにも連れて行った。 店には内緒だったから派手には動けなかったが、 はた目から見たら普通のカップルに見えたと思う。 そういえば、彼女が作ってくれた手料理を今ふっと思い出した。 炊いた大根にエビしんじょを乗せて和風の餡をたっぷりとかけたやつ。旨かったな。 彼女は店が休みな日曜日の夜にはよく、手の込んだものを作ってくれた。 えんじ色の、地味なエプロンをしている彼女の後姿が俺は大好きだった。 店とは違う家庭的な一面。そのギャップも、とても心地いいものに感じられた。 俺はよく、料理を作っている彼女を後ろから抱いて、邪魔をした。 しかし彼女の影を作ってる理由が、明らかになる日がやってきた。 悪夢を見るのか、寝ているときにたまにガバっと起きるんだよ。彼女。 震えながら玉の汗をかいて。その時のヨーコの目は、ちょっと恐ろしかった。 俺は、そんなときは彼女を抱きしめ、再び眠りにつくまで背中をさすってあげていた。
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363 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:18:48.48 ID:MBngfG+d - ある日、俺は思い切ってヨーコに訊いた。
「ねぇ、悪い夢、よく見るの?」と。 「うん。あなたには話さなきゃとは思ってた。」と彼女。あの寂しそうな顔をする。 要約するとこういう事だ。彼女は、父親から性的虐待を受けていたことがあって、 高校を卒業した後、故郷の街から家出同然にこの町に来たというのだ。 特につてがあったわけじゃない。電車に乗っていて、ある程度大きな町だったから 女なら何とかなるかと思って電車を降りて、そのまんま夜の街でヨーコは蝶となった。 彼女の実家はかなり距離のある場所だった。俺が行った事のない山の中の小さな町。 俺の大学のある街に来る為には一度東京を通らねばならなかったが、 高校を出たばかりの彼女は恐怖を感じたらしい。田舎者だから俺も気持ちはわかる。 怯んだ彼女は次に来た別路線の電車でこの土地にたどり着き、数年後俺と出会った。
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364 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:22:18.02 ID:MBngfG+d - それまでの事は知らないが、彼女は俺と出会ってから優しくなれたと言ってくれた。
生活の為の道具だったセックスも、気持ちよさをやっと感じられるようになった、 演技ではなく、本当の性欲に目覚めたと。男にとってはこれ以上の褒め言葉はない。 「あなたのおかげで生きてる実感がわいたわ。」ある日彼女はぽつりとそう言った。 声は小さかったが、彼女はそのときいつもの寂しげな影を引きずってはいなかった。 天使のような子供の様な、全開の笑顔。俺は、これが見たかったんだと思った。 俺は嬉しかった。どんな過去があろうとも、彼女を幸せにしたいと自分に誓った。 荒んでいた俺の傷も、傷ついていた彼女の壮絶な過去もこれですべてチャラになると。 その時はまだ信じていた。しかし因果はめぐる。
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365 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:23:40.80 ID:MBngfG+d - 彼女はそんな俺の無責任で無邪気な優しさにだんだんと依存するようになった。
そんなに簡単に人を救えるなんてことは無い。俺はまだ世間知らずだった。 しょせんは大学生。してあげられる事なんてたかが知れている。 彼女は少しずつ、でも確実に狂っていった。歳の差は、すぐに逆転してしまった。 当時買ったばかりの携帯にもちょっと目を離すと物凄い数の着信が残るようになった。 便利なのはいいけれど、それはそれで困りものだなとこの時俺は思った。 掛け直して今日はトモさんが飲みに付き合えと言うから泊まれないというと拗ねる。 ヨウジとのバンドの練習があるから会えないとなると、鬼のように怒り出す。 2日くらい会わずにいて、おそるおそる彼女の部屋に行くと、しくしくと泣いている。 気に食わない事があるとひどいヒステリーを起こして物を投げつけてくる。 俺は殆ど、自分の部屋に帰れなくなった。俺はその重さを支えきれるか不安になった。
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366 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:27:11.68 ID:MBngfG+d - 彼女は生理が重なると更にもの凄かった。正直言って、命の危険を感じた事もある。
原因は覚えていないが、たいした事じゃなかったと思うよ。ある暑い夜の事だ。 別に浮気をしていたわけじゃない。俺には学生生活も付き合いもあったってだけのこと。 彼女は庖丁を振り回して暴れた。あの暖かい手料理を作ってくれた時に使った庖丁を。 どこまで本気かは分からなかったが、俺を傷つけるために彼女はそれを振りかざした。 今考えると、彼女には本当に俺しかいなかったんだと思う。 友人も家族もいない本当の意味で孤独で、寂しく厳しい人生だったんだと。 それにしてもこれはさすがに度が過ぎた。崩壊はすぐそこまで迫っていた。 それを押しとどめる力を、俺は持っていなかった。もちろんヨーコも。
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367 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:29:17.64 ID:MBngfG+d - 俺は彼女の一振りで腕にぱっくりと傷を作った。
着ていたシャツごと。その瞬間、すべてがスローモーションに見えた。 深い傷ってその一瞬は血が出ないんだよね。少しずつじわりと染みてくる。 でも一旦出始めると止まらないんだ。傷口に白い脂肪の層まで見えて俺は青くなった。 「このままじゃ殺される」本能がそう言っている。 簡単に人が死ぬ、あの国ですら感じたことの無いほんものの恐怖が俺を襲う。 彼女もあまりのことに、一瞬言葉を失ってしゃがみ込み、泣き出した。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」念仏のように彼女が唱える。 そんな彼女を一人残して俺は飛び退くように逃げ出してしまった。 怪我した手で車を運転しながら、無事な方の手で車内にあったティッシュを使い、 必死に止血したが、いくら上から重ねても血は止まらなかった。 よくあの状況で事故らなかったと思うよ。
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368 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:31:09.33 ID:MBngfG+d - 警察沙汰になると場合によってはお店に迷惑がかかって俺はこの街にいられなくなる。
夜の世界はそういう所だ。俺が学生だからとかそんな甘いことはない。 何度もチャイムを鳴らす。彼は眠たそうな顔をして扉を開けたが、 俺の様子を見て、一瞬で目つきを変えた。大学デビューの俺とは違う。 言い換えれば誇り高い野生の獣のようなものだ。 「…誰にやられた?」と凄味のある一言。 俺はすべて話した。できるだけかいつまんで。つっかえながらも必死に。 その間にもぽたぽたと血が流れる。このあたりでやっと痛みを感じ始めた。 彼は黙って俺の話を聞き、とりあえず男同士のきな臭い話ではないと理解すると、 俺を救急病院に連れて行ってくれた。 結果から言うと、4針縫った。その傷はいまでも俺の腕に残っている。 医者にはずいぶんと詮索されたが、俺はふざけていての事故だと言い張った。 すべての処置が終わって、帰宅を許された頃にはすでに空が白んでいた。 俺の気分とは真逆の、青々とした晴天に逆に俺は腹を立てた。八つ当たりだ。
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369 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:41:55.69 ID:MBngfG+d - 自分の部屋にいると、あの狂気を孕んだ彼女が襲ってくるような気がしたから、
その日はトモさんの家に泊まらせてもらった。携帯の電源を落としたまま。 少し仮眠を取り、昼過ぎに俺はトモさんを伴って自分の部屋に戻った。 部屋には、荒らされた跡があった。ディスカウントショップで買った、安物のブルーの 2人がけソファーが刃物で大きく切り裂かれていた。斜めに、まっすぐ一本ざっくりと。 一度このソファーで彼女が冬眠中の小動物のように眠りこけながら俺の事を待っていて、 俺が帰ってくると普段見せない甘えた表情で抱き着いてきたことを思い出した。 自然と涙が出てきた。どうしてこんなことになってしまったんだろうと。 「イッチ、おそーい。」記憶の中の彼女はこう言っていた。 俺は、彼女を一人で置いてくるべきではなかったのかもしれない。 しかしあのまま、あそこにいたら俺は一体どうなっていたのだろう。 俺の人生に答えのない問いが、またひとつ増えた。
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370 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:44:18.87 ID:MBngfG+d - というのも、彼女はその日から行方不明になってしまったのだ。
俺は心配したが警察によると肉親以外では捜索願が出せないとのことだった。 店に借りていた部屋も、ほとんどの衣服や二人で座ったソファーもそのまま。 二人で見たTVも、抱き合ったベッドも。俺の流した血も。庖丁だけがその場になかった 。 その話は後始末を任されてくれたトモさんに訊いた。もう部屋にはいなかったと。 それでも俺は彼女の部屋にはもう戻りたくなかった。携帯には不思議と着信はなかった。 トモさんは短く、ちょっと悲しそうに「たぶん、トンだな」と俺に言った。 それが、彼女がいなくなったことを俺が実感した言葉。急にいなくなると寂しいものだが 半分はホッとしたことを覚えている。 俺はトモさんに言われるまま不動産屋に連絡し、鍵を取り換えてもらうよう取り計らった。 着替えだけを持ち、交換が終わるまで、今度は同級のヨウジの家に泊まった。
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371 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:46:41.28 ID:MBngfG+d - しばらく、夜の世界とは縁を切りたかった。店の方も、トモさんのとりなしで
休みを貰えるようになった。俺に下ったのは、「沙汰なし」 ペナルティはなかった。その代り、俺が彼女を訴えない事が条件だった。 そんな気は毛頭ない。俺は、急に消えてしまった彼女に思いをはせる。 彼女は荷物も持たずにどこに行ってしまったんだろう。 また、電車に乗って遠い街で降りて、寂しく笑いながら働いているのだろうか。 それとも、あの庖丁で命を絶ったのだろうか。それは誰も知らない。 俺は自分の無力さに怒りを覚えた。俺は、彼女を幸せにできなかった。 そんな圧倒的な事実だけが重く俺の心に残った。 今でいう、メンヘラって奴なのかもしれない。そんな言葉で簡単に片づけたくはないが。 彼女を追いこんでしまったのは、俺の弱さのせいだとも思うから。 ヨウジは話を聞いてくれて、2日ばかり学校を休んで一緒にいてくれた。 傷はずきずきと痛んだが、俺は構わず一日中彼と酒を飲んだ。 一度話を聞いた後は彼は努めて明るくもうその話をしなかった。 心地いい、大学生らしいバカ話。そんなとき、携帯に一本の電話があった。
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372 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:49:22.54 ID:MBngfG+d - 俺は彼女かと思い一瞬びくっとしたが、それは母からの電話だった。
悪いことは、立て続けに起こるものだ。 「お父さんが、がんになっちゃった。」母は前置きも無しに言った。 俺は耳を疑った。なんだって?親父が?ガン?色々ありすぎて、頭がもう真っ白だ。 話を聞くと、俺が生まれた病院に入院したというのだ。 それをヨウジに話すと、彼も同じく言葉を失った。 さすがに、バカ話もできなくなった。心配そうな目を俺に向ける。 「ちょっと実家帰ってくる。」 俺はそれだけ言い残し、電車に乗った。 その街から、苦い思い出のある生まれた町までは半日あればつく。 向こうについてから携帯で、トモさんにも連絡をいれた。 駅からはタクシーを飛ばし、病院へ急いだ。 トモさんは冷静に「一緒にいてやりな。店の事は心配ないから」とだけ言ってくれた。 親父は、ステージ3の肺がんだった。
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373 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:50:59.36 ID:MBngfG+d - 今まで風邪の一つも引いたことの無い親父。無口だったが優しい親父。
怒るとすぐに俺の事を殴ったが、結局はいつも味方をしてくれた親父。 留学だって、大学だって、結構な金額が必要だったのに黙って出してくれた親父。 母や姉に内緒で、いつも俺だけにいい店の鰻や蕎麦をご馳走してくれた親父。 「お母さんには内緒だぞ」 そんな時はいつもそう言って悪戯っぽく口に一本指を付け、しーっという仕草をした。 俺は彼がずっと欲しかった男の子として生まれたから 彼なりの溺愛をもって育てられた。 実際俺が生まれたとき、親父は腰を抜かして喜んだらしい。 真ん中の姉などは、「アタシが生まれたときは病院にもこなかったのに」と 今でも恨み言を言う。綾子姉は女の子では二番目だったから 着るものから何からすべておさがりだったみたいだし。
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374 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:54:57.69 ID:MBngfG+d - 俺も小さなころは本当に親父になついた。
ちょっと連休があると、親父は俺を色々な所に連れて行ってくれた。 身体の弱かった俺は風邪をひいて熱を出すと、そのたびに 「おとうさんのおかゆがたべたい」とねだった。 別に特別なおかゆだったわけではない。 でもたっぷりと、おばあちゃんの漬けた梅干しを叩いて入れてくれた。 頭の固い昭和の親父が台所に立つのはその時だけだった。 親父が作ってくれる。それだけで俺は嬉しかった。 親父との思い出がぐるぐるとまわる。 こんなことってあるものか。さっきひとり失ったばかりだって言うのに。 医者に止められているのにもかかわらず飲んだ酒のせいで 縫ったばかりの傷がじくじくと痛んだが、それすらどうでもよくなった。
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375 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:57:18.29 ID:MBngfG+d - 病室に入ると、親父は意外にも元気そうだった。
「ちょっとした検査入院だ。わざわざ帰ってくることはなかったんだぞ」 親父はそんなこと言いながらも嬉しそうだった。 本人には、告知をしていなかった。 後で医者から説明を受けたが、手術をしても5年生存率は30%を切ると。 親父の肺にはグレープフルーツ大の腫瘍が出来ていた。 何日か俺は生まれた街に滞在したが、どこかに行く気を無くしていた。 また俺は失うのか。掌の隙間から砂がこぼれるように、さらさらと幸福が逃げていく。 それも大切なものから。後にはいったい何が残るのだろうか?と 俺は自分に問うたが、そんなことを応えてくれる便利な存在はやはりいない。 それを神と呼ぶならば、俺は無神論者だ。神は、俺なんかに興味はないのだ。 そのときは、本気でそう思った。21歳になる直前の暑い夏のことだった。 陽気に鳴く、せみしぐれの声が、俺には単なる皮肉に聞こえた。
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376 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 18:59:53.12 ID:MBngfG+d - 抗がん剤の治療を経て、1か月ほど後に手術をすることが決まった。
俺は学校もあったので、ヨーコのいないあの街に一旦帰った。 部屋に戻るときに、俺は新しい鍵を貰いに行った。 受け取るときに不覚にも不動産屋のカウンターで涙を流してしまった。 スタッフは怪訝そうな顔をするだけで、誰も慰めてはくれなかった。 単位を落とさない程度に授業にはかろうじて出席したが、 それ以外の気力を俺はすべて失ってしまった。 切り裂かれたままの、安物のソファーに転がり、毎日浅い眠りにつくまで酒を飲んだ。 服も着替えず、髭もそらず。何も食べず、アルコールを摂取し続けた。 縫われた腕は殆ど癒えてきたが、抜糸にもいかなかった。バイトにも、バンドの練習にも 。
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377 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 19:02:36.46 ID:MBngfG+d - そんなやさぐれたある日曜日の夕方。
何度も何度も部屋のチャイムが鳴った。俺は居留守を決め込んだ。 そのあと、ドンドンと扉をたたく音。俺はしょうがなくドアを開けた。 トモさんだった。コンビニ袋を手に提げている。 黒服ではない彼を見るのは久しぶりだった。 彼はその袋を俺の胸元に押し付けてくる。 「まず食え。次に風呂に入って、髭を剃って着替えろ。」命令するように彼は言った。 有無を言わさぬ表情。袋の中身はサンドウィッチとミルクだった。 俺はどきどきしながらとりあえず急いで詰め込み、身を清めて服を着替えた。 ひょっとしてヨーコに何かあったのではなかろうか?頭をよぎる。 その間彼は何も言わず俺の事を待っていたが、着替える時に俺の腕を取り、 その辺に転がっていたはさみで器用に抜糸をしてくれた。痛みはなかった。 「よし。消毒しにいくぞ。」彼はそれだけ言うと、さっさと俺の家をでた。
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378 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 19:06:00.33 ID:MBngfG+d - 俺はあわてて追いかけてそのままよく利用していた、年中無休で24時間営業の
安くてまずくて便利で有名な居酒屋に連れて行ってくれた。消毒って酒のことか。 そこにはいつも、店の名前で入れてある安焼酎のガロンボトルがあった。 ボトルのネームには、店の名前と共に「LOVE IS LIFE」と書かれていた。 アースウィンド&ファイアのファーストシングル。店長の趣味だ。 「今日は、店長のツケでいいそうだ。好きなもの頼め」彼はにかっと笑い言ってくれた。 さっき、サンドウィッチを食べたのに、その顔をみたら急に食えそうな気持になった。 その日は、失ったものを全て取り戻すかのごとく、食って、飲んだ。 体中にまだ若い、でもちょっとだけ不健康な血液がめぐるのがわかった。 完全に俺は出来上がっていたが、トモさんは2軒目に俺を連れて行った。 そこには、バイト先の店長がいた。名前をシマさんとしよう。 いつもポマードで頭をオールバックにして、ブレイクダンスが上手な遊び人。 彼が躍るといつも俺は目を丸くして、一体関節が何個あるのだろうと不思議に思った。
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379 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 19:08:33.58 ID:MBngfG+d - そこは店長の友人のマスターがやっているオーセンティックなバーだった。
知らずに座ったら、大学生ではとてもじゃないが払えないようなお店。 それでも、今日は日曜日。店は休みのはずだ。 「今日は、お前らと飲もうと思って、開けてもらったんだよ」とシマさん。 「アンタが俺と飲みたかっただけでしょ?あ、鍵閉めちゃって。」とマスター。 高そうなバーボンのボトルから、細長いぴかぴかのグラスに琥珀色の液体が注がれる。 その場にいる全員分。4本のショットグラスが薄暗い照明に浮かび上がる。 「よし、吐くまで飲め!」シマさんが号令をかけた。 グラスを合わせ、俺はいつも店でテキーラショットをやるように一気飲みする。 焼けつくような、生暖かい液体が喉を通る。…くそ強い。胃がぽっと熱くなる。 周りを見ると、一気したのは俺だけだった。 そればかりか、皆、肩を震わせて笑いを押し殺している。 「おまえ、それ50度だぞwこういうのはちびちび飲むんだよ。ほれ、水。」 シマさんがこらえきれない、といった顔で俺に教えてくれた。 マスターとトモさんもそれを聞いて爆笑している。 吐くまで飲めっていったのアンタじゃないか。だましやがったな。 俺はそう思ったが、何故かそこに深い愛情を感じた。
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380 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 19:11:09.83 ID:MBngfG+d - 場は一気に和んだ。しばらくはいつものようなバカ騒ぎが続いた。
俺はこのとき久しぶりに腹を抱えて笑った。そして色々な話をした。 店の事、お客の事。学校の事。バンドの事。 そして話はいつしかヨーコと親父の話まで。 そのあたりになると、皆、黙って俺の話を聞いてくれた。 マスターなんて、いい年こいて一緒に涙まで流してくれた。 後で聞いたら泣き上戸で有名だったようだけど。 俺は、大人にも色々な種類がいることをこの時に思い知った。 荒れて学校に行かなくなった俺を、保身のために放っておいた「ふつうの」大人。 ぶっきらぼうで荒いけど、優しく受け止めて励ましてくれる「ふつうじゃない」大人。 俺は思った。幸福はまだ全部逃げちゃいない。まだ若くて弱くてバカだけど、 最後のひと粒がなくなるまであがくことで、どんな大人になるかが決定すると。 この後の記憶は無い。気が付いたらトモさんのベッドの上で寝ていた。 彼は逆に、ソファーで。悪いことをしてしまった。 どこでぶつけたのか俺は尻に大きなあざを作っていた。 どうやらずいぶんやらかしちまったらしい。二日酔で頭もガンガンする。
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381 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 19:15:33.16 ID:MBngfG+d - トモさんも、目を覚ました。そして俺にタオルを渡すと、
「風呂入れ、行くぞ」と。え?どこに?俺はきょとんとした。 「バイトだよ。欠勤は許さない。」彼も青い顔をしていたが、そういって笑った。 その日から俺は通常運航に戻れた。店に行くとシマさんはけろっとしていた。化け物だ。 彼からは、酒の飲み方、ダンス、そしてDJのやりかたから嫌らしくない女のケツの 触り方まで、様々なことをこれから学ぶことになる。 俺はこの街のこの店で、社会に出てから武器になる全てを授かった。 大学での知識よりも遥かにその存在は大きい。彼らには本当に感謝をしている。 バイトもバンドも学校も。めまぐるしく時間は過ぎる。 俺はヨーコの事を忘れるためにも忙しさに自分をおしこめた。 ひとりで暇にしているとロクな事は考えない。 頑張った、とは少し違うが、若さにまかせて殆ど眠らずに過ごした。
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383 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 19:16:39.91 ID:MBngfG+d - 書きダメはここまで。
次号 「2人目の彼女」 またあとできます。 読んでくれた方、みなにありがとうを。
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384 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 19:17:38.71 ID:MBngfG+d - >>382
昨日一気に書いたからかな。 ちょっとだらだらしてしまったか。すまん。
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387 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 19:22:06.89 ID:MBngfG+d - >>385
やっぱり中学のころと、大学のころと、 記憶というか感情のあり方が違って俺も戸惑ってる。 純粋さのせいかもしれないな。
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388 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 19:22:52.15 ID:MBngfG+d - >>386
そうか、参考になる。でも読んでくれてありがとうな。
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390 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 21:04:52.66 ID:MBngfG+d - >>399
そういってくれると、とてもうれしいよ。 質問タイムか。あと1日程度で終わりたいと思う。 その後に、いくらでも時間が許す限りな。
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391 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 21:05:16.67 ID:MBngfG+d - >>389やったなすまん
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392 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 21:48:39.06 ID:MBngfG+d - よし、もうちょっとだけ書き込みますな。
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394 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 21:49:40.19 ID:MBngfG+d - 親父の手術も無事終わり、安定期に入って俺は安心して過ごすことが出来ていた。
彼は背中からざっくりと手術痕を残してはいたが一旦は退院して復職も果たした。 そんなとき唐突に俺はまた、恋に落ちることになる。 大学のある街で強く印象に残っているもう一人の彼女だ。 彼女は、俺バイトしていた店に平日友人とふたりでひょっこりやってきた。 クラブと言っても、週末以外はそんなに人はいないから、バーのような形での 営業をしていた。イスやテーブルを出し、簡単なつまみも出せる。 彼女の名前はミヤとしよう。友人はそれ以来会ってないから名無しでいいと思う。 ミヤは、童顔で背も小さいのに、大きなギターケースを背負っていた。 どうみても、バンドガール。興味をひかれた俺は、声をかけた。 話をしてみると、共通の知り合いがたくさんいることが分かった。 俺と同じ学校のヨウジの事も顔だけは知っていると言った。俺のバンドの事も。 しかも得物は俺と同じ、ベースギターだった。 その話をすると、彼女も俺に興味を持ってくれたようだった。
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395 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 21:52:08.87 ID:MBngfG+d - 彼女は、その外見に見合わず、俺のひとつ年上だった。
俺は気のいい店員として、彼女たちにできる限りのサービスをした。 といっても、好きなバンドを聞いてリクエストの曲をかけてあげた程度。 平日のこの時間に若い女の子達が来てくれて、店長のシマさんも嬉しそうだった。 俺はその日、礼の代わりに彼女のバンドのライブのチラシを貰った。 同じ街にある、50人も入ればいっぱいの小さなライブハウス。 何回か、大学の先輩たちのライブで使ったこともあった。 ライブは、2週間後だった。出番は金曜の夜8時。 俺はその日バイトがあったが、客が集まる始める時間よりは早かったので 店長のシマさんに頼み込んで少し中抜けさせてもらうことにした。 トモさんにもシマさんにも、十分に冷やかされた。 でも浮かれ始めていた俺には効かなかった。 バンド関係で女の子もいるにはいたが、だいたいがキツめの子が多かった。 パンクで、可愛らしいなんて当時珍しかったんだ。
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396 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 21:53:41.60 ID:MBngfG+d - 当日、俺が外出を許されたのは2時間。夜の10時までには店に帰らなければならない。
いつも週末は11時には客でいっぱいになってしまうから。 俺がそのライブハウスへ行くと、彼女のバンドがすでにマイクチェックをしていた。 純粋なスリーピースバンド。メインヴォーカルはギターの女の子で、ベースの彼女は サポートヴォーカル。3人とも可愛らしかった。でもミヤが一番な。 客の中には、やはり何人か顔見知りがいた。ヨウジも。 クラブのバイトを始めてからあまりバンド関係に顔を出す時間がなかったから、 ちょうどいい機会だと思って、ビールを買って一回り挨拶を交わした。 大体入りは30人ちょっとというところか。 ギターのつんざくような轟音が鳴り響く。顔に似合わず激しい音を出した。 続いてベースとドラムが乗る。ジャンルで言うと、ガレージパンクかな。 ギィィーーーン…ディストーションのかかった残響音が落ち着いたそのとき。
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397 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 21:55:44.18 ID:MBngfG+d - 「SXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXx!!!!!」
俺は茫然とした。放送禁止用語の嵐。あんなに可愛い顔してるのに。 瞬間的にモッシュが起こる。客の殆どは男だったが、なかなかの人気者だったようだ。 ほんの数分で汗だくになる。とにかく彼女のバンドは面白かった。 このギャップ。これは男にはできない。 彼女の出番が終わり、俺は汗を拭く間もなく話しかけた。 「すげぇ楽しかった!!」正直な感想だ。 彼女はきらきらと額に汗をにじませ、笑って言った。 「引かなかった?」と。 「いや、ウケた。」と俺は返した。爆笑した。
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398 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 21:57:11.90 ID:MBngfG+d - 演奏は下手くそ(俺もだが)だったが、それがまたよかった。
何より、去年女性の暗部に触れてしまった俺にとってはセンセーショナルだった。 明るく、可愛く、ぶっ飛んでる。 今迄にいないタイプ。俺はすぐに彼女の事が好きになった。 おかげでその日は遅刻してしまい、だいぶ絞られたのだけど。 ライブの日に俺は彼女と電話番号を交換していたから、翌日電話をかけた。 その日のうちに、デートすることが決まった。 彼女は、俺の住んでいるアパートから歩いて5分くらいの実家に住んでいたから。 僥倖。棚から牡丹餅。そう思った。久しぶりに、神様ありがとうと。 デートと言っても、特に何をしたというわけでもない。 電話代がもったいないからという理由で近くの河原でたわいもないおしゃべり。 俺のバイトまでの数時間を、音楽の話をして過ごした。心地いい適度な距離感。 ちょうどお互い付き合っている相手がいないとわかったあたりでその日は解散。
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399 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 21:58:13.03 ID:MBngfG+d - 翌週、学校でヨウジがニヤニヤしながら近づいてきた。
こいつは笑うとにゅっと歯が前に出る。ちょっと気持ち悪い。 「君、正座ね」なんだ急にこいつは。 「君は、この街のロック界すべての男を敵にまわしたのだよ」話が見えませんが。 つまりこういう事。前から人気のあった彼女は先月、彼氏と別れたばかり。 その偶然ぽっかりと空いた穴を、皆がまごまごしているうちに俺がかっさらった。 …しらんがな。 すぐに彼女は俺の部屋に上がりこむようになった。 近かったし、CDもたくさん持っていたから。半分はヨウジのだったけど。 でも俺はすぐには手を出さなかった。 ヨーコの事で、臆病になっていたのかもしれない。 久しぶりに感じる、自然な恋心。中学生に戻ったみたいだった。 それに彼女はまるで少年みたいで、話をしているだけで満足できたんだ。 話が盛り上がると、お約束のようにハイタッチをした。 恋人になるまえにまず、俺たちは親友になった。
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400 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 22:00:47.47 ID:MBngfG+d - 初めてのキスは、あの河原だった。出会ってふた月ほどはたっていたかな。
俺とミヤは二人で石きりをしていた。なるべくひらべったい石を選ぶのがコツだ。 ふたりで無邪気に遊ぶ。夕暮れが来る。帰ろうとしたときに偶然、手が触れた。 俺はそのまま彼女の手を取って土手を歩き始めた。 ずっとそうしていたかのようにふたりで手を繋ぎ、目が合えば笑いあった。 そして、別れ際にチュっと軽いキス。 男女のドロドロに疲れ切っていた俺は、この時完全に癒された。 過剰な照れもなく、過剰な緊張もなく。 すべてが適度で、自然だった。 彼女が初めて俺のうちに泊まった時も、不思議とお互い裸になってから 笑ってしまった。くすぐりあうような、可愛いセックス。 それは性的な行為と言うよりも、子猫同士のじゃれあいみたいなものだった。
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401 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 22:02:15.05 ID:MBngfG+d - 俺は初めて、付き合っている女性の両親にも会った。
そういえば彼女の親父さんも、なかなかにファンキーだったよ。 サラブレッドって中には本当にいるんだよな。 60年代、70年代と、長髪でパンタロンを履いていたような、猛者だった。 ゆるゆると、時間は流れる。何のストレスもない毎日に突然それは起きてしまった。 俺の親父のガンが、再発したのだった。 体中にそれは転移し、亡くなるまではあっという間だった。 俺が大学4年生の、またくそ暑い真夏の事だった。 かろうじて、死に目には会えた。 親父は抗がん剤の副作用で禿げ上がり、がりがりに痩せていた。 でもむくみがひどく体の水分が代謝されないので、もものあたりは たぷんたぷんになっていた。 この辺りは、あまり描写したくない。 とにかくその時は来た。 その後初七日がすむまで、システマチックにすべてが過ぎ去る。 仏教ってすごいよね。悲しみを分散するシステムが出来上がってる。
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402 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 22:10:16.61 ID:MBngfG+d - あ、ここまでにしておく。
書きダメはあるんだが、野暮用だ。
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404 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 23:28:42.36 ID:MBngfG+d - >>403
その宗教も、そのためにあるのかもね。 ちょっと中途半端だったのでもうちょっと投下。
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405 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 23:29:15.38 ID:MBngfG+d - 一旦学校の為にあの街へ戻る。一刻も早くミヤに会いたかった。
電車に乗る前にそれを携帯で彼女に伝えると、駅まで当時乗っていた ヴェスパで迎えに来てくれた。もうあたりは暗くなっていた。 俺は彼女の少年のような背中にだきついて、泣きながら帰った。 その日はいつも明るいミヤもあまり話さなかった。 ただただ泣きじゃくる俺を、抱きしめながら一緒に寝てくれた。 小さな体で、精一杯受け止めてくれた。 俺は、彼女とずっと一緒に居たいと、切に願った。
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406 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 23:29:51.38 ID:MBngfG+d - しかし俺には一つ大きな問題があった。
折しも就職氷河期。俺は就職浪人となることが濃厚だった。 実家に帰るつもりもなかった。もう通り過ぎた場所に感じていたから。 先へ進みたい、でも進む場所が無い。焦燥感だけが募る。 このままではこの街に居る理由がなくなってしまう。 ヨウジもまわりも、何かしら次のステップに足をかけている中、 俺だけが宙ぶらりんだった。 ミヤはスーパーでバイトしながらバンドを続けていた。 実家だったし、それで十分といったところだった。 俺は彼女に訊いてみた。俺が就職できなかったらどうする?と。 彼女はとてつもなく軽く言った。 「バンドができて、イッチがいれば、それでいい。」と。
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407 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 23:30:57.75 ID:MBngfG+d - 俺は悩みに悩んだ。この街で、彼女と生きていけるのか。
でも周囲の状況は厳しく、このままではいけないと言う気持ちもあった。 夜の街ではいろいろ教わったけど、これから死ぬまでそこでやっていくと言う 覚悟は無かった。楽しい代わりに、給料安かったし。学生だからできたんだ。 結局俺が選択したのは、東京に出ることだった。 大都会なら、正社員じゃなくても派遣の仕事がたくさんあるし、 地方都市と比べてチャンスの総量がちがうと思った。 それに、やはり一度は自分の力を試してみたいという青少年ならではの欲求もあった。 俺ならやれる。あの街のおかげで自信もついた気がした。甘かったけど。 でも彼女のバンドは、この街にある。 東京までは、電車で数時間。 俺はアヤコとの、遠距離恋愛をちょっと思い出して暗い気持ちになった。
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408 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 23:31:47.27 ID:MBngfG+d - 俺はある日、思い切って自分の考えをミヤに切り出した。
「俺、卒業したら東京行こうと思う。」 彼女はちょっと小首をかしげ、考えてから言った。 「じゃ、ついていく」と。 ここまででお気づきの方もいると思うが、彼女は少々、バカだった。 ミヤは高らかに宣言した。 「東京でバンドやる!」と。 そう来るとは思ってなかった。でもそれも悪い考えではない気がした。 彼女が言うと、なんでもできそうな気がしたんだ。 若気の至り、といえばそれまでかもしれないが。
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410 :1@無断転載は禁止[]:2016/08/17(水) 23:33:02.51 ID:MBngfG+d - 単位はなんとか足りて、卒業の日。
親は来なかったが、代わりにミヤがヴェスパで来てくれた。 そのおしゃれなバイクはこれから売って、引っ越し代に充てることとなる。 でもこの日だけは「これで迎えに行きたかった」と彼女は言ってくれた。 俺たちはまったくの無防備で、恐ろしいコンクリートジャングルに放りだされた。 東京についてすぐ、仕事を探しながら日雇いのバイトをした。 とても恥ずかしい話なんだけど、何回か親に借金もしてしまった。 無軌道で、無計画。でもなんだか楽しかった。 お金も時間もなかったけど、家に帰れば彼女がいた。 自由にお酒も飲めなくなったし、肉だってなかなか食えない。 ごはんともやししかない食卓が続くこともあった。でも別に苦しいとは思わなかった。
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