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1 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止 ©2ch.net[ageteoff]:2016/05/31(火) 22:07:52.71 ID:9FeM9uJP - 「もしもし」
俺がそう言うと同時に携帯の向こう側からも同じ言葉が聞こえた。 「あっ、すみません。あの、どちら様でしょうか?」 携帯から聞こえる女性の声は続けてそう言った。
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2 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:08:16.63 ID:9FeM9uJP - どちら様とはどういうことだろうか?
確か俺は、見知らぬ番号からかかってきた電話に出ただけのはずだ。こういう時は普通、名乗るのは電話をかけてきたほうのはずだろ?
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4 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:08:42.18 ID:9FeM9uJP - 俺は、思ったことをそのまま電話の向こうの女性に伝えた。
「何を言ってるんですか? わたしは電話が鳴ったから出ただけです。あなたが電話をかけてきたんですよね?」 「いや、俺こそ電話がかかってきたから出ただけだ。そっちが電話をかけてきたんだろ?」
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5 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:09:00.31 ID:9FeM9uJP - そこからはどちらが電話をかけたかの言い合いが堂々巡りし、とりあえず携帯の故障ということで話は落ち着いた。
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6 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:09:28.39 ID:9FeM9uJP - 「でもこの携帯買ってもらったばっかだったんですけどねー、こんなすぐ壊れちゃたのかな?」
電話の向こうの女性は少し悲しそうな声でそう言った。 「よくわからないけど、何かの不具合だと思うよ。壊れたってわけじゃないんじゃないかな」 「そうですか、なら良かった。テストで頑張ってやっと買ってもらったんですよ」 テストで頑張って、か、小学生くらいかな。 そう思って聞いてみると意外な答えが返ってきた。
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7 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:10:08.18 ID:9FeM9uJP - 「失礼ですねー れっきとした高校生ですよ。16歳です。花の女子高生です」
「そうか、悪かった。同い年だな。だけど今時珍しいな、今まで携帯を持ってなかったなんてさ」 確かこの前、高校生のスマホ所持率99パーセントという記事をどっかで見た記憶がある。 そんな時代に携帯も持ってなかったなんて相当なレアケースのはずだ。 「そうですか? クラスでも持っている人半分くらいですけど。そんなに珍しくないと思いますよ」
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8 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:11:05.75 ID:9FeM9uJP - 99パーセントのうちの1パーセントが、彼女のクラスに半分もいるとなると、彼女が住んでいるのは相当な田舎とか離島なんかだろうか。
そう聞くと、また意外な答えが返ってきた。
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10 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:11:25.70 ID:9FeM9uJP - どうやら彼女が住んでいるのは俺と同じ地域らしい。さらに、通っている学校は俺の通う高校と同じ名前の高校だった。
俺が住んでいる場所は、大都会というわけではないが、田舎と呼ぶような場所ではないはずだ。 そもそも俺のクラスの携帯所持率は100パーセントだしな。 そんな場所で携帯を持っているのがクラスの半分なんて考えられなかった。
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11 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:11:54.09 ID:9FeM9uJP - 「いや、さすがに嘘だろ? 今時、マサイ族だって携帯を持っている時代だぞ?」
そう聞くと、電話の向こうから笑い声が聞こえた。 「マサイ族って、あの目がすごいいい人達ですよね? 嘘ですよ、あの人達が携帯を持っているなんて。エイプリルフールだからって騙されませんよ?」
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12 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:12:35.97 ID:9FeM9uJP - 「嘘じゃないよ。そっちこそエイプリルフールだろ? 俺と同じ場所に住んでて、携帯所持率50パーセントなんてさ?」
「嘘じゃありませんよ。そもそも私が嘘つく理由なんてないじゃないですか」 「いや、でもやっぱりありえないだろ。この2016年にクラスで携帯を持っているのが半分だけとかさ。小学生だって携帯を持ってるんだよ?」
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14 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:12:59.82 ID:9FeM9uJP - 「2016年?」
彼女は不思議そうな声でそう聞き返してきた。 「ああ、それがどうしたんだ?」 「何言ってるんですか? 今は2006年ですよ? あなた、エイプリルフール大好きすぎませんか?」 「は?」 笑いながらそう言う彼女に、反射的に声を出していた。
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15 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:13:36.48 ID:9FeM9uJP - 声の調子を整えて俺は話し出す。
「何言ってるんだ、今は2016年だろ? そっちこそエイプリルフールが大好きなんだな」 「だから、そういうのいいですって。そもそもエイプリルフールって午前中だけらしいですよ。今、嘘つくのはルール違反です」 「もういいって、午前中だけだろ? 知ってるよ。嘘はもういいからさ」 「だから、もういいですって……」
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16 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:14:13.00 ID:9FeM9uJP - そこからはまた、さっきのように言い合いが続いた。
三分くらい経った頃には、彼女のは不機嫌さを全く隠さなくなっていた。 「もういいですよ、エイプリルフールのいたずら電話だったんですよね? なかなか手が込んでると思いますよ」 ここまで言い争っておいて言うのもなんだが、俺には彼女は嘘を言ってないように思えた。 少なくとも彼女の声には嘘があるようには感じられなかったんだ。
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17 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:14:58.41 ID:9FeM9uJP - だから一つ試してみることにした。
「わかった、そっちは今何時だ?」 「19時28分ですけど、それがどうしたんですか? 嘘つきさん?」 この汚名を返上するためにもと、俺は一つ予言をする。 「ちょうどよかった、今から一分後小さな地震が起こるはずだ。もしこれで地震が起きたら、俺が未来から電話をかけている証明になるだろ?」 「まぁ、そうですね、揺れたらの話ですが」 彼女の声からは俺を信じている可能性が1パーセントも感じられなかった。
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18 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:15:30.10 ID:9FeM9uJP - 「揺れませんでしたね、嘘つきさん」
一分間沈黙が続き、時計の針が19時29分を指した頃、彼女の呆れた声で静寂は破られた。 揺れなかった、彼女がそう言った瞬間、俺は彼女のことを信じるしかなくなっていた。
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19 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:16:58.49 ID:9FeM9uJP - 「私、少し本当に揺れるのかなとか思ってたのに、結局嘘つきさんは嘘つきさんでしたね」
「ああ、悪い、嘘をついていた」 「知ってますよ、結局揺れませ――」 「違うそうじゃない、確かに俺は嘘をついていた。 地震なんか本当は起きてないんだ。もし君が揺れたと言ったら、君が2006年にいるというのは嘘ということになる。それを確かめたくて嘘をついたんだ。でも君は揺れなかったと言った。あの短い時間で地震があったかどうかを調べるのは不可能だろう。 つまり君は本当に2006年にいるってことだ。信じるよ」
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21 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:17:27.90 ID:9FeM9uJP - 「いい加減にしてくれませんか? 言い訳が過ぎますよ、そんなんで騙されるわけないでしょ?」
その声は今日一番の不機嫌な声だった。 彼女とはまだ少ししか話してないけど、この一ヶ月くらいで、一番彼女を不機嫌にさせたのは俺だろうね。自負するよ。
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22 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:17:53.88 ID:9FeM9uJP - ただ、そんなことを言っている場合でもなかった。
彼女は今にも電話を切りそうだったからさ。 だから、電話を切られる前に、さっきの1分の間にパソコンで調べたことを、予言する。
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23 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:18:33.43 ID:9FeM9uJP - 「ありがとう。じゃあ予言する。そっちで最近起きた通り魔事件があるだろ? その犯人が五分後、19時35分に捕まるはずだ。テレビのニュース速報でも見てくれればわかると思う」
「ふぅん」 彼女は早く終わらせたいと思っているのか、それだけ言うと、黙って5分間一言も喋らなかった。
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24 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:19:03.55 ID:9FeM9uJP - 「お話、聞かせてもらってもいいですか? 未来人さん」
19時35分、彼女は震えた声でそう切り出した。 俺の汚名が返上されているということは、つまりそういうことなんだろう。
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25 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:19:36.09 ID:9FeM9uJP - 「どうやら当たってみたいだな、予言」
「そうですね、残念ながら」 「残念ってことはないだろ? むしろ俺たちはすごい体験をしているんだからさ」 「それでも、信じられません。いや、信じてないわけではないんです。でも信じられません」 彼女はだいぶ混乱しているようだ。 「詩人だな」 「ふざけないでください。一体どういうことなんですか? 2016年って何ですか? わけがわかりません」
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27 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:20:10.08 ID:9FeM9uJP - 「俺だってわからないよ。さっき言った通り、電話が鳴ったからでたら君につながった。わけがわからないよ、ホントさ」
「じゃあ何でそんな冷静なんですか? おかしいでしょ、普通もっと取り乱しますよ」 彼女は取り乱した声でそう言った。 俺も普通こうなるはずなんだろう。 でも彼女の言う通り、俺は不思議と冷静だった。
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28 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:20:49.18 ID:9FeM9uJP - 「何でだろうな。未来人の余裕とかじゃないか」
「どういうことですか?」 「ほら、未来から電話がかかってきたとなると驚くけどさ、過去からだとそこまででもなくないか? なんとなくさ」 「意味がわかりません。普通どっちでも驚きます」 ごもっともだ。 でも自分自身でもわからないんだからしょうがない。 想定外すぎることが起こると、人間は案外冷静でいられるのかもしれないな。 「とにかくお互い何かわかってることを話しましょう。こうなった心当たりとか何かありませんか?」
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29 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:21:11.64 ID:9FeM9uJP - そこからいろいろ話したが、結局原因らしい原因は見つからなかった。
「とりあえず、今日はもう遅いですしまた明日電話します。多分もう一度かけられますよね?」 「ああ、さっきもつながったし大丈夫なんじゃないか?」 さっき話している時に間違えて俺が電話を切ってしまったが、着信履歴からかけ直すとまた2006年の彼女につながった。 だからきっと大丈夫だろう。
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30 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:21:40.75 ID:9FeM9uJP - 「そうですね、じゃあまた明日」
「また明日」 俺が言い終わる頃には電話はもう切れていた。
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31 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:22:00.19 ID:9FeM9uJP - そのあとは時間も遅く、疲れていたのもあって布団に入るとすぐ眠りに落ちた。
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32 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:22:15.56 ID:9FeM9uJP - *
「冒険しようぜ!」 朝、携帯の鳴る音で目が覚め、彼女かなと思って出たら、聞こえてきたのはよく知る男の声だった。
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33 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:22:41.43 ID:9FeM9uJP - 「意味がわからないんだけど」
「だから、冒険しようってことだよ。楽しそうだろ?」 「いい加減、わかるように話してくれないかな? 桐島」 「だから冒険だって」 いつまでも、話さない桐島に俺はだんだんイラついてきた。 「もう、切るね。じゃあ」 「待って、待てって。ちゃんと話すから」 「最初からそうしてくれないかな?」 「悪かったって」
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34 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:23:16.59 ID:9FeM9uJP - 桐島はいつものようなお気楽そうな声で、『冒険』とやらのことを話し始めた。
「冒険っていうのはな、宝探しのことだ」 「抽象的な表現がまた別の抽象的な表現になっただけなんだけど? もっと具体的に話してくれないかな? 」 正直もう、いい加減にして欲しかった。
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35 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:23:37.90 ID:9FeM9uJP - 「そうだな、具体的に言うとタイムカプセル探しだな」
「タイムカプセル?」 「そうだ」 「タイムカプセルなんて埋めた覚えないんだけど?」 言葉の通り、そんな青春の塊みたいなものを埋めた覚えは一切なかった。 「ああ、俺もないぞ」 きっぱり言い切るその姿はいっそ清々しかったが、本格的にわけがわからなくなってきた。
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36 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:24:12.60 ID:9FeM9uJP - 「お前大丈夫か? 埋めてもないタイムカプセルを探せるわけないだろ?」
至極まっとうな意見のはずだ。 埋めてもないものは掘り出せない。 「俺たちじゃなくて、昔の卒業生が埋めたらしいんだよ。それを掘ろうってことだ、わかっただろ?」 「もっとわからなくなったな。なんで他の人が埋めたタイムカプセルを俺たちが掘るんだよ?」 俺はわからないを何回言えばいいんだろうか?『わからない』がゲシュタルト崩壊しそうだ。
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37 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:24:27.80 ID:9FeM9uJP - 「実はさ、今年タイムカプセルを埋めて10年たったから掘り出す予定だったらしいんだ。でも、人数が全然集まりそうになかったから中止になったらしい。それを俺たちが掘り出そうってことだ」
「だからなんでそうなるんだよ? 俺たちにはそのタイムカプセルになんの思い出もないだろ? そもそも何でお前そんなことを知ってるんだ?」
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38 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:25:16.50 ID:9FeM9uJP - 「櫻子ちゃんに聞いたんだよ。昔タイムカプセルをうめたってな。あの人うちの学校の卒業生らしいぞ」
「櫻子ちゃん? 誰?」 聞いたことない名前が桐島の口から出ていた。 さっきから俺の言葉には何回クエスチョンマークが使われているんだろうか?
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39 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:25:54.09 ID:9FeM9uJP - 「お前知らないのか? うちの学校の音楽の先生だよ。すごいかわいいって有名だぞ」
「知らないよそんなの、音楽の授業とってないし。そもそも、お前も選択音楽じゃないだろ?」 受けてない授業の教師になんて知ってるわけがない。そもそも俺は、隣のクラスの担任の名前すら知らない。
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40 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:26:09.97 ID:9FeM9uJP - 「俺は、かわいい人のことは誰だって知ってるんだよ。まぁ、俺だってことを抜きにしても、あの人は結構有名だぞ。知らないお前の方が珍しいからな」
「あっそ」 もう俺はこの話から興味を失っていた。 つまるところ、桐島の目的はそのタイムカプセルを掘り出して、その人の機嫌を取ろうというところなんだろう。 そんなことに、貴重な春休みを割くつもりは一切なかった。 その旨を桐島に伝え「一人でやれよ」と言って電話をきろうとした。
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41 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:26:46.83 ID:9FeM9uJP - 「待てって、櫻子ちゃんのこと知らないならちょうどいいじゃん。これを機会に仲良くなろうぜ」
調子のいい桐島の声が聞こえた。
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43 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:27:12.26 ID:9FeM9uJP - 「仲良くなりたいのはお前だけだろ。俺は一切興味ないから。だから一人で頑張れ」
「わかったよ。後で後悔しても知らないからな」 「絶対にないな」 そう言うと今度こそ電話をきった。
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44 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:27:30.46 ID:9FeM9uJP - しかし、あいつもよくやるよなと思う。
その先生がどんだけ綺麗なのかは知らないが、あいつのルックスや性格だったら、別にその先生じゃなくてもたくさん相手がいるだろう。 唯一の問題は自由奔放なところくらいかな。 あれだけにはついていけない人がいるかもしれない。
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45 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:28:07.34 ID:9FeM9uJP - まぁ、そんなことはどうでもいいか。
俺にだってやることはあるからな。 やることといってもただ髪を切りに行くだけだけど、それでも他人のタイムカプセル掘りよりは有意義なことだろう。 *
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47 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:28:35.23 ID:9FeM9uJP - そういうわけで、髪を切るために美容院まで来た。
ここは床屋というよりは美容院というべきところだろう。 誤解しないでほしいんだけど、別におしゃれに気を使ってるとかじゃないよ。 ただ子供の頃から髪を切る場所を変えてないだけだ。 そこだけはわかっておいてほしい。
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48 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:29:25.83 ID:9FeM9uJP - 「いらっしゃいませー、カット?」
見知った顔の店員が聞いてくる。 「はい」 「じゃあいつも通り美咲ちゃんでいいよね?」 「はい」 「オッケー、じゃあちょっと待ってて」 美咲とは四年くらい前からこの店で働いている店員のことで、最近はずっとこの人に切ってもらってる。
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49 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:29:43.67 ID:9FeM9uJP - 十分くらいで美咲さんの手はあいたようで、席に案内された。
「今日はどうする?」 席に着くと早々、美咲さんは美容師の定型句を口にした。 どうすると聞かれても、さっき言った通りこだわりなんか持ち合わせてないので「いつも通りで」と答えた。 ちょっと思ったんだけど、『いつも通り』ってなんかこそばゆい感じがしない? ほら、バーで「いつもの」とか「あの女性に一杯」って言ってるみたいで、恥ずかしいよね。 まぁ、どうでもいいんだけど。
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50 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:30:05.76 ID:9FeM9uJP - 「君、いつも同じこと言うよね。たまには冒険しようよ」
美咲さんはいつも通りに少し不満なのか、どこかで聞いたようなことを言ってきた。 だけど、一日に二回も「冒険しよう」って言われると思わなかったよ。 まだ昼過ぎなんだけどね、もしかしたらまた別の人に言われるかもしれないな。
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51 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:30:41.45 ID:9FeM9uJP - 「安心とか安全を好むんですよ、俺みたいなのは」
「つまらないなー、まぁ、いいや。お客様の仰せのままに」 少し笑う美咲さんの顔が鏡越しに見えた。 「それでお願いします」
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52 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:31:01.77 ID:9FeM9uJP - そうして、俺の髪が切られ始めた。
美容師ってすごい話しかけてくる人と、あんまり話しかけてこない人がいると思うんだけど、美咲さんは話しかけてくる方のタイプだった。 俺は本来、どっちのタイプも苦手なんだ。 話しかけてくる人は面倒くさいし、かといって話しかけてこないと気まずくて鏡と自問自答したりしちゃうし、要するにすごい面倒くさい人間なんだけど、でも、美咲さんには何故か話しかけられても平気だった。
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53 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:31:27.22 ID:9FeM9uJP - もちろん初めて切ってもらった時からたくさん話せたわけじゃないけど、それでも他の人よりは全然大丈夫だった。
それで、何回か通っているうちに普通に話せるようになってた。
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54 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:31:44.85 ID:9FeM9uJP - なんでだろうか? 別に好きとかじゃないんだ。
ただ、一緒にいるとなんか心地いい感じがする。 美容師の究極のテクニックかもしれない。 桐島も同じような能力を持っている気もするけどな。 *
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55 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:32:02.55 ID:9FeM9uJP - 「いや、それ絶対好きですよね?」
もう何度目だろうか? 彼女の口から同じ言葉が繰り返される。 「だからそういうのじゃないって言ってるだろ」 俺が何度否定しても彼女は引かなかった。 「いや絶対好きでしょ」 「だから……」
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56 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:32:27.53 ID:9FeM9uJP - とりあえず、なんでこんなことになっているか説明しよっか。
まず、あの後髪を切り終えて家に帰った。 その後はいつも通り適当に過ごして、夜になると約束通り彼女から電話がかかってきた。
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58 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:33:04.55 ID:9FeM9uJP - 最初は過去(未来)につながった電話の謎について割と真剣に話し合ってたんだ。
でも、いくら話しても結局思い当たる節もなくてだんだん話が脱線していき、気づくと今日あったことをお互いにはなしてた。
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