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63 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:37:10.14 ID:+f+v9oqV - 「それより今、『君だって好きだろ』って言いましたよね。それってつまり、自分も好きってことですよね?」
彼女がさらに追い討ちをかけてきた。 こんなひどいこと人間にできるとは思えないよ。 彼女がこんな風にあっさり認めたのに、俺だけ必死になって否定するのは負けたみたいで嫌だった。 いや、実際こんなこと思わされてる時点で負けてるんだろうけどさ。
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64 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:37:30.97 ID:+f+v9oqV - 「そうだな、普通の人はこの感情を恋と呼ぶのかもな」
「すごい面倒くさい言い回ししますね。というか面倒くさい人ですね」 自分でだってそんなことわかってる。 そもそも、元々誰かを好きとか恥ずかしいことを言わなきゃいけないんだから、言い回しが恥ずかしくたって大して変わらないだろ。
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65 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:37:51.56 ID:+f+v9oqV - 「でも、とりあえず好きってことですよね。そうですか」
多分、彼女はニヤニヤしてるんだろうな。 結局負けた気がするよ。
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66 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:38:08.58 ID:+f+v9oqV - 「それで告白とかしないんですか?」
「なぁ、もういいだろ。この話やめにしようよ」 これ以上話を続けたら本当にいたたまれなくなる。 「えー、いいじゃないですか。女の子は恋バナが好きなんですよ」 「そんなに言うなら、そっちこそどうなんだよ。告白とかしないわけ?」 言い終わってから気づいたけど、これはマズイな。 完全にさっきと同じパターンだ。
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67 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:38:25.12 ID:+f+v9oqV - 「したいですけど……怖いじゃないですか」
彼女の声は急に弱々しくなっていた。 「意外だな。怖いとか思うんだ君でも」 てっきりまたさっきみたいにあっさり言われると思っていたので驚いた。 「ひどいですね。なんだと思ってるんですか私のこと」 「人の痛いところをついてくる悪魔?」 「なんですかそれ、むしろ天使でしょ」 「それはないな」 「あー、今のは傷ついたなー」 彼女の声はまた今までの明るい声に戻っていた。
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68 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:38:49.71 ID:+f+v9oqV - 「わかりました。じゃあ、こうしましょう。私は女の子の目線であなたの相談に乗ります。その代わりあなたは男の子目線で私の相談にのってください。そして二人で告白を成功させましょう」
彼女の声は「いいアイデアでしょ?」とでもいうように自信満々だった。 こんなにコロコロ声の調子が変わるなら、表情はもっとコロコロ変わるんだろうな。 「どうですか、これなら天使でしょ? 恋のキューピッドになってあげますよ」
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69 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:39:21.19 ID:+f+v9oqV - 「なんでそうなるの? 俺、一言も告白したいなんて言ってないんだけど?」
「しないんですか? しないと何も始まりませんけど?」 その言葉に俺は少しドキッとした。 なんでさっきまでふざけてたくせに、急に本質をつくようなことを言うんだろうか? 苦手だ、こういうタイプは。
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70 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:39:43.22 ID:+f+v9oqV - 「わかったよ。よろしくお願いします、天使さん」
少しふざけて言ったのは精一杯の強がりだ。 本当はそんな余裕なんてどこにもないのにさ。 「決まりですね。『さくらんぼ作戦』始動です」 「さくらんぼ? 何それ?」 「知らないんですか? 大塚 愛」 「知ってるけど。古くない?」 「二年くらい前ですかね」 そういえば、彼女は十年前にいるんだったな。くだらない話をしすぎて忘れてた。
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71 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:40:04.16 ID:+f+v9oqV - 「好きなの? 大塚 愛」
「まぁ、それなりには。それに『さくら』は私にとって特別なんです」 「どういうこと?」 「秘密です。女の子に秘密はつきものでしょ?」 ただの想像なんだけどさ、きっと彼女は今人差し指を口に当ててると思うんだよね。 得意げな顔でさ。 うん、絶対そうだと思う。
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73 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:40:22.64 ID:+f+v9oqV - 「それより、2016年ってどんな曲が流行ってるんですか? すごい気になるんですよね」
「昨日も言ったけどさ、そういうのは言っちゃうのマズいだろ? ほら、歴史とか変わっちゃたら困るでしょ?」 だから俺たちは名前すら名乗らないまま恋愛話までしているわけで、よくよく考えるとかなり変な状況だな。 「えー、ケチ。少しくらいいいじゃないですか」 「ダメだって。そうだ、そっちはどんなのが流行ってるの? 音楽だけじゃなくて、他にもいろいろ」
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74 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:41:07.22 ID:+f+v9oqV - 「うーん、そうですね、さっきも言いましたけど、大塚愛だったら『プラネタリウム』ですよね。『さくら』だったらケツメイシかな。あとは『粉雪』とか『青春アミーゴ』ですかね」
聴いたことある曲がたくさん並べられた。 「音楽以外だったら、『オリラジ』が最近ノッてますね。ドラマは『1リットルの涙』ですね。後『電車男』も」 彼女は次々と懐かしい言葉を羅列していった。 懐かしい言葉のオンパレードだな。 彼女と話してるとタイムスリップしてるみたいだよ。 まぁ、半分してるようなもんだけどさ。
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75 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:41:23.60 ID:+f+v9oqV - 「あー、あと、あれも好きです。ほら、なんかアニメの、『一万年と二千年前から愛してる』ってやつ。なんでしたっけ?」
「『創世のアクエリオン』?」 「それです、なんかいいですよね響きが」
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76 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:41:56.51 ID:+f+v9oqV - 「なんか、すごい懐かしい気持ちになれたよ。ありがとう」
「そうですか、だったらそっちのことも少しくらい教えてくれてもいいと思うんですけどね」 また勝手な想像だけど、今度はきっと口をとがらせていると思うな。 「そうだな、じゃあ一つだけ、『PERFECT HUMAN』を覚えておくといいよ」 これだったら歴史に影響はそれほどないだろうし、言っても問題ないだろう。 「なんですか? それ。完璧人間?」 「うん、完璧人間。覚えといて」 「わかりました」 彼女は不思議そうな声で応じた。
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77 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:42:14.61 ID:+f+v9oqV - そんな話をしているうちに時間は過ぎていき、もう今日は遅くなってしまったので、続きは明日にすることになった。
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79 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:42:37.81 ID:+f+v9oqV - *
「まず、あなたは二つのハンデを背負っていることを理解してください」 「ハンデ?」 次の日、夜になったので彼女に電話すると、『さくらんぼ作戦』の恋愛講義が始まった。 「はい。まず、その美容師さんとあなたが会うときはどんなときですか?」 「どんなって、髪を切りに行った時だろ?」 美容師なんだから当然といえば当然だ。 「それが一つ目のハンデです」 「なんで? むしろ、会う理由があるんだからいい方のハンデじゃないか?」 世の中には好きな人と会う理由を必死で考えている人なんてごまんといるしな。 そう考えたら、会う理由が簡単につくれるのはプラスなはずだ。
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80 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:43:10.80 ID:+f+v9oqV - 「あなたが髪を切るときは、言い換えればその美容師さんが仕事中のときということです。仕事が絡むと恋愛は難しくなると言われているのを知っていますか?
仕事中は頭がそっちに集中していて、異性のことを深く意識しないようになるからです。 美容師のような技術職では尚更そうなります」 確かにそうかもしれないと思ったが、これくらいなら別にたいした問題じゃ―― 「『たいした問題じゃない』そう思いましたか?」 俺の思考を先読みしたかのように彼女は口にした。
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81 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:43:38.63 ID:+f+v9oqV - 「そうですね、確かにこれはそこまで大きな問題ではありません。大事なのはもう一つの方です」
もう一つの問題。 それは、多分俺もわかっていた。 俺と美咲さんの間にある大きな壁。
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82 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:43:54.32 ID:+f+v9oqV - 「もう一つのハンデは、年齢です。あなたは学生で、美容師さんは働いている。同じ学生の私が言うことじゃないかもしれませんが、社会人と学生では価値観も話題も時間だって違います。一つ一つは小さな違いでもそれがたくさんになれば、それは埋められない差になります。
これを埋めるのは相当難しいことだと思います」 年齢、それが大きな障害になることはわかっていた。 仕事中だとかそんなことは頑張ればなんとかなるんだろう。 だけど、年齢の差はどう頑張ったって埋められない。 俺が歳をとることも、美咲さんが若返ることも絶対にできない。
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83 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:44:22.08 ID:+f+v9oqV - 「要するに望みはほぼゼロってことだな……」
そうだ、最初からわかってたんだ。 それなのに彼女と話して、もしかしたらと思ってしまった。 そんなわけないのに。
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84 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:44:44.32 ID:+f+v9oqV - 「無理だってわかってたはずなのにな、ちょっと舞い上がってたみたいだ…… もう、終わりにしよう。そっちの話聞くよ、磯崎先輩だっけ?」
「なんでですか?」 彼女は刺すような声で聞いてきた。 「あれ、磯崎じゃなかったっけ?」 確か磯崎だったはずなんだけど、記憶力にはわりと自信がある方なんだ。 「そうじゃなくて、なんで諦めるんですか?」
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85 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:45:05.97 ID:+f+v9oqV - 「なんでって…… 君も言ってたろ、難しいってさ。結局、最初から無理だったんだよ。俺とあの人には違いが多すぎる。君の言う通りだよ」
そう、わかってた。 「それだけで諦めちゃうんですか?」 「十分だろ、不可能に近いんだ。普通なら諦める」 「不可能に近いだけで不可能ではないですよね?」 彼女の言葉の一つ一つが俺の心に刺さった。 諦めたくない俺の心を刺激した。 だからそれを認めないために、彼女の言葉を必死で否定する。 「そんなの詭弁だろ。世の中無理なものは無理なんだ」
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86 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:45:21.50 ID:+f+v9oqV - 「たとえそれがどんなに難しくても諦める理由にはなりません」
彼女ははっきりとした声でそう言った。 俺は昨日まで、彼女は天然でこういう本質を突くようなことを言っているのだと思っていた。 でも、今わかった。 彼女はわかってて言ってるんだ。 俺がいま諦めたら絶対後悔すると、俺が本当は諦めたくないと、全部わかってて言ってるんだ。 現に俺は彼女と話してまた、諦めたくないと思わされている。
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87 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:45:42.10 ID:+f+v9oqV - 「それで、どうしますか? 『さくらんぼ作戦』やめますか? 続けますか?」
少し時間をおいて彼女は聞いてきた。 俺の返事はもう一つしかなかった。 「続けるよ、『さくらんぼ作戦』」 「わかりました。これからもよろしくお願いします」 その声はさっきまでの刺すような声と打って変わって明るいものになっていた。
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88 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:45:58.42 ID:+f+v9oqV - 「まず一つ目の問題ですが、これはまあ簡単ですね。美容院以外で会う理由を作りましょう。どこかでばったり会ったとかそんな感じで」
「それ、ストーカーしろってことか?」 「人聞き悪いですねー、別にそういう意味じゃないですよ。ただ、ちょっとつけてみたりするだけです」 「それをストーカーっていうんだよ」 さすがに犯罪者にはなりたくない。
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89 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:46:14.95 ID:+f+v9oqV - 「じゃあ、お店から帰るときにたまたま会ったとかでいいんじゃないですか」
それなら少しは犯罪臭は減ったが、それでもまだグレーゾーンだ。 「とにかく、重要なのはそっちじゃありません。もう一つの方をしっかり考えないと」
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90 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:46:35.01 ID:+f+v9oqV - 恋愛講義はそれから二時間ほど続き、「じゃあ今日はここら辺で」という彼女の合図で終わりを迎えた。
彼女の講義は本当の講義みたいで、学校で授業を受けているような気分だったよ。
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91 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:46:52.66 ID:+f+v9oqV - 「そういえば、結局そっちの話を聞けてないけどいいのか?」
この二時間、俺の方の話ばかりで、磯崎先輩の話は一切できなかった。 「はい、そっちは私がなにか聞きたいことがあったら聞くので大丈夫です」 「それならいいけど」 俺には彼女みたいに誰かに教える技術なんてないので、正直助かった。
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92 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:47:26.79 ID:+f+v9oqV - 「また、明日」といつもの言葉を言って電話を切ると、そのまま眠りについた。
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93 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:47:42.39 ID:+f+v9oqV - *
「助けて!」 午前二時、携帯の着信音で起こされ、耳に当てると彼女の大きな焦った声が聞こえた。 どうしたのかと急いで聞いても返事はなく、しばらく息切れのような音だけが響いた。
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95 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:48:02.39 ID:+f+v9oqV - 「すみません、夜遅くに」
少しするとまだ多少息は荒かったが、さっきよりは落ち着いた声で彼女が話した。 「大丈夫か? どうしたんだ?」 彼女のあんなに焦った声は初めて聞いた。 いったい何があったのか、そう思って聞くと、 「いや、あの……で……すね」 彼女は言いにくそうに口ごもった。
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97 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:48:41.30 ID:+f+v9oqV - 「実は…… 電話を切った後、テレビを見てたら心霊特集やってまして、それでそれを見た後寝たら夢を見まして、 それがすごくて怖くて、それで今日は親が出かけてまして、いなくて、怖くて、
その…… 誰かいないかなと思ったら、あなたが思い浮かびまして…… 電話しちゃいました」 さっきまでの講義のスラスラとした話し方からは想像もつかないほど、しどろもどろといった感じでそんなことを話すので、思わず笑ってしまった。
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98 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:49:01.66 ID:+f+v9oqV - 「ひどくないですか、こっちは本当に怖くて……」
「いやごめん、なんかあれだよね、君ってさ、話すたびにイメージが変わるんだよね」 笑ったり、怒ったり、不安そうだったり、からかってきたり、彼女は本当にいろんな顔を見せてくる。 顔を見たことないのにおかしな話だけどさ。
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99 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:49:23.49 ID:+f+v9oqV - 「バカにしてます?」
そう聞く彼女の声も、泣きと怒りが混ざったような声で、またおかしくなる。 「いや、違うよ。ただ君に会ってみたいなと思ってさ。電話じゃなくて、実際に会って話してみたいなって」 彼女がどんな顔で、どんな風に笑うのか、どんな風に怒るのか、どんな風に泣くのか見てみたい。そう思った。 「私もあなたに会ってみたいですね。まぁ、そんなこといってもしょうがないんですけどね」
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100 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:50:15.25 ID:+f+v9oqV - 「それで、その…… もう少しだけ……」
彼女はまた口ごもりながら小さな声を出した。 それが何を意味するのかなんとなくわかったから、今日は少しだけ優しくなろうと思う。 「ああ、わかってる。そっちが切るまで電話してていいから、少し話そっか」 「ありがとうございます」 彼女は少し驚いたようだった。 俺が優しいのはそんなに珍しいんだろうか。 まぁ、それでもいいか。
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101 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:51:02.45 ID:+f+v9oqV - その後、いろんな話をした。
その話の中でも彼女はまたいろんな顔を見せてくれた。 本当に会ってみたいなと思うよ。
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102 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:51:25.67 ID:+f+v9oqV - 結局、俺たちは朝まで話し続けた。
途中からはきっと、怖いとかそういうのは忘れてただ話したいから話してたと思う。 俺の勝手な想像だけどね。
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103 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:51:40.66 ID:+f+v9oqV - *
それから、毎晩彼女に電話をかけて恋愛講義を受けた。 そして初めて電話が繋がってから八日がたったある日、彼女がついに決定的な言葉を口にした。
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104 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:52:13.06 ID:+f+v9oqV - 「明日、告白しましょう」
満を持してというような感じでされたその提案に俺はただ従った。
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105 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:52:45.50 ID:+f+v9oqV - 「いよいよだな」
「はい、私は明日から学校が始まるので先輩に会えますし、あなたは明日が春休み最後の日です。決着をつけるなら明日が一番です」 「そうだな」 ただ、バカみたいに肯定した。
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106 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:53:03.89 ID:+f+v9oqV - 「どうしました? 声、暗いですよ。怖いんですか?」
ふざけたふりをして彼女が聞いてくる。 「うん、怖いよ。君もだろ?」 「そうですね、怖いです」 わかってる、お互い怖いんだ。 断られたら、気まずくなったら、覚悟は決まっててもやっぱり怖いものは怖い。
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107 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:53:19.34 ID:+f+v9oqV - 「そう、怖いです…… 一人だったら多分決心できなかったと思います。でも、あなたがいたから、あなたが一緒だから、だから大丈夫です」
彼女はしっかりした声でそう言った。 いや、言ってくれた。 そしてそれは俺も……
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108 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:53:36.60 ID:+f+v9oqV - 「ああ、俺も一緒だ。君がいたから、君のおかげで決められた。本当にありがとう」
そうだ、彼女だから俺は前に進もうと思った。 彼女じゃなきゃ多分ダメだった。 だから、これは本心。 ただ、心からの感謝。 他意は、ない。
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109 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:54:10.08 ID:+f+v9oqV - 「なんか照れますね。でも、私もです。ありがとうございます」
一人じゃないから、二人だから、だから前に進める。 それはきっと、とても尊いことなんだろう。
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110 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:54:27.10 ID:+f+v9oqV - 「そうだ、こういうとき何て言うかわかりますか?」
そろそろ電話を切ろうかという雰囲気になったとき、彼女が聞いてきた。
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111 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:54:43.56 ID:+f+v9oqV - 「ああ、わかるよ、多分」
うん、何となくわかる。 かといってそれを恥ずかしげもなく、平気で言えるほど俺の心は強くないわけだけど。 まあ、でも彼女だからいいか。 俺たちの勝負前夜にはこの言葉が一番なんだろうしな。
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112 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:55:06.27 ID:+f+v9oqV - 「そうですか、じゃあ」
彼女のこの声を合図に二つの声が重なった。 「健闘を祈る」 そうして電話が切られた。
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113 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:55:24.03 ID:+f+v9oqV - *
眠れない。 電話を切ってからかなり経ったけど一向に眠れる気がしなかった。 やっぱり不安なんだろうか?
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114 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:55:39.66 ID:+f+v9oqV - 気分転換に外の空気を吸いに出ることにした。
夜の街はとても静かで、今のぐちゃぐちゃした気持ちを全部受け入れてくれるような気分だ。 草木も眠る丑三つ時って言うけどさ、本当に幽霊でも出そうなくらい静かで真っ暗だよ。 まあ、今は幽霊でもいいから出てきて、話し相手になって欲しいけどな。 いや、本当に話したいのは……
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115 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:56:23.03 ID:+f+v9oqV - 俺の思考を遮るように、違うな、心を見透かすかのように携帯が鳴った。
彼女からだ。 俺はこの電話に出ていいんだろうか? もし出たら……
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116 :名も無き被検体774号+@無断転載は禁止[]:2016/05/31(火) 22:56:41.50 ID:+f+v9oqV - 結局出ることにした。
出るしかなかった。 そうだ、仕方がないんだ。 何を悩むことがある。 ただ電話に出るだけだ。 それだけだ……
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