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名も無き被検体774号+@転載は禁止
数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話 [無断転載禁止]©2ch.net

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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話 [無断転載禁止]©2ch.net
416 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 03:15:33.63 ID:TczQQdCb
保守ありがとうございます!



俺は考え得る限りの品物をノートに記した。
それから、時間が来るとノートを閉じ、Aの観察に出かけた。

足音を忍ばせて、親の寝室の前を通り過ぎながら、
俺はあと何回、こうして出かけることになるんだろう、そう思った。

筋トレ分、飯の量は増えている。
炊飯器の米がなくなってるんだから、親も俺の変化に気づいてないことはないだろう。

この夜の外出も、気づかれるのは時間の問題かもしれない。

俺は初めて危機感を覚えた。

もし、外出に気づかれたそのあとに、A殺害のニュースが流れたら??
そうしたら、親は俺を疑うだろうか?
疑って・・・・・・どうする?
警察に洗いざらいしゃべるだろうか??
数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話 [無断転載禁止]©2ch.net
417 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 03:20:00.74 ID:TczQQdCb
悪夢のような想像がぐわっと俺を鷲掴みにしようとした。

だめだ、考えるな!

俺はすんでのところで、その凶悪な指先から逃れた。

考えるな。何も、考えるな。

そう言い聞かせながら、窓を開けた。


いつもよりも慎重に、静寂の底を這うように。
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418 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 03:28:41.56 ID:TczQQdCb
それは普段と変わらない闇だったのかもしれない。

けど、俺の心持ち一つで、それは何か恐ろしいものを秘めているように見えた。

『こんな夜中にどこへ行くんだ』

すぐ先の角から親が出てきて、俺を止めるんじゃないか、
警察に声をかけられるんじゃないか、
まさか、俺の魂胆を知ったAがナイフを構えてるんじゃないか。

挙動不審に陥った俺は、
いまでは完璧に見切っていたはずの人感センサーに片足を引っかけた。
ぱっと明るい光が、闇から俺を洗い出した。
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419 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 03:36:37.53 ID:TczQQdCb
やばい。

通りがかりの人がいたというだけだ。
何もやばいことなんてないだろう。

だというのに、俺は思わず小走りになった。
何かに追いかけられるように足は止まらなくなり、そのまま公園まで俺は走った。


日々の筋トレのせいだろうか。

レイと約束をしたあの日、便所サンダルで走った道を、
俺はあのときとは比べものにならないほど軽々と走り抜けた。

けど、その成果を嬉しく思えるような精神状態にはなかった。

怖い。
怖い。
怖い。

何をそう感じるのかわからないまま、俺は走り続けた。
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420 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 03:51:16.57 ID:TczQQdCb
その日は火曜で、Aが塾にいるはずの日だった。

だから、俺は塾の前の通りを歩き、Aの自転車の位置を確認しておこう、
そう思っていたはずだった。

けど、なぜか俺はそうしなかった。

俺は、観察するうちに判明したAの帰路を一通り歩き、
それから引き返して、殺害予定場所に佇んだ。

そこは街灯の切れ間にできた暗がりで、
俺が潜むのにおあつらえ向きなゴミ捨て場から少し進んだ場所だった。
周囲の家は高い壁で囲まれていて、人目も気にならない。

ここで、Aが倒れる。

そのときの想像をし、俺は黒い道路を見下ろした。

俺のナイフが、Aの腹に刺さっている。
Aは仰向けに倒れ、瞳孔の開いた目で俺を見上げている。

お前か? お前に俺は殺されたのか?

そんな、驚いたような表情で。
ぽかんとバカみたいに口を開けて。
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421 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 03:58:09.55 ID:TczQQdCb
そのとき、路地を風か吹き抜けて、俺は身震いをした。

ぬるい春風だ。
だから、寒かったわけじゃなかった。

けど、風に追いやられるように、俺は踵を返した。


角を曲がり、犯行予定地が完全に見えなくなるそのときまで、
死んだAが俺の背中をじっと見ているような、そんな気がした。
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422 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 04:12:26.16 ID:TczQQdCb
足取り重く、俺は家にたどり着いた。

そして、いつもなら始める筋トレをすっ飛ばしてベッドに潜り込んだ。

明日の昼間、ナイフを買いに出かける。

俺はそれをまるで与えられた任務のように頭にたたき込むと、目を閉じた。
それから思いついて、埃を被った目覚まし時計に手を伸ばした。

いつかの誕生日に、親にもらったロボット型の目覚ましだ。

「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝デスヨ」

電子音代わりに、そんな音声の入ったものだ。
不登校になる前は、ずっと使っていた。
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423 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 04:21:18.50 ID:TczQQdCb
俺はこの目覚ましが案外気に入っていた。

親がくれた他の誕生日プレゼントなんて、
何をもらったか、それをどこにやったのか、なんてあまり覚えてもいないが、
これだけは好きで使い続けていた。

だって、

「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝デスヨ」

なんて、なんか夢がないか?

そんなわけあるはずないけど、
このロボットは宇宙と交信ができて、いろんな星々に朝を伝えてるんだ、
俺はそんな想像を膨らませていた。

火星の真っ赤な朝や、木星の煙った朝、
それから、太陽からずっと離れた星の、誰も知らない星の朝・・・・・・
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424 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 04:24:34.12 ID:TczQQdCb
そんな朝が、地球にも来る。
ロボットはそれを俺に教えてくれる。

今日も始まる地球の朝。
輝きに満ちた新しい朝。


目覚ましを午後二時に設定しながら、俺は思った。


俺の朝はいつから来なくなってしまったんだろう。
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425 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 04:29:56.76 ID:TczQQdCb
Aを殺す。

再び目を閉じ、俺は強く思った。

Aを殺して、俺は自由になる。

そして・・・・・・俺の朝を取り戻す。


そのためにはナイフを買いに行かなくてはならない。
できるだけ早く、誰にも気づかれないうちに、事を済ませてしまわなければならない。
Aを殺さなければならない。
Aを殺す、Aを殺す、Aを殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す・・・・・・


つぶやきながら落ちた眠りは浅かった。

けど、それは逆に良かったのかもしれない。
こんなふうに高ぶった神経のままでなきゃ、俺は任務を成功させる自信がなかったから。
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426 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 04:43:21.10 ID:TczQQdCb
「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝デスヨ」

「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝デスヨ」

「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝・・・・・・」


ロボットが三回目の台詞を言い終わる前に、俺は頭のボタンに触れ、目覚ましを止めた。

「火星ハ夜ノ三時デス」

止まったときの音声に、俺は思わずふふっと笑った。

久しぶりに聞いたからってのも、もちろんあったが、
火星が夜の三時って何なんだよ、と思った。

まあ、それを言ったら「地球の朝」って何なんだよ、ってことだけど。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)

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427 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 05:00:48.96 ID:TczQQdCb
よく眠れなかった割には、頭の芯が醒めているような感覚があって、
体中の神経がびりびりと敏感になっているような気がした。

窓の外には、夜には聞こえないさまざまな音が、当たり前のように充満している。
昼間の光に照らし出された町が、ざわざわとうごめいている。

他人だ。

俺はみぞおちがすうっと冷たくなるのを感じた。

この窓の外では、他人が笑って、話して、歩いて、車に乗って、仕事をして、
まるで働きアリみたいに、忙しく動き続けている。

俺が眠っている間に、
俺を置いてきぼりにして。
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428 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 05:03:41.39 ID:TczQQdCb
俺はベッドに腰かけたまま、しばらくそうして固まっていた。

それから、そろそろと立ち上がった。

窓の外にいるあいつらに気づかれないように、
俺の気配を誰も感じられないように。


こんなことで、今日、買い物に出かけられるんだろうか。

不安が頭をよぎった。
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429 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 05:20:28.70 ID:TczQQdCb
いや、出かけられるかじゃない、出かけるんだ。

俺は自分を叱咤すると、錆びて固まったような身体を無理矢理動かし、着替えた。
昼だと、いつものマリナーズ帽は目立つかとも思ったが、
帽子を外すことはどうしてもできなかった。

俺は肩掛けバックに財布を入れると、自転車の鍵を引き出しから探し出した。
近くではなく、少し遠いほうのホームセンターに行こうと決めていたからだ。


こう書き出してみると、俺は冷静で落ち着いているように見えるかもしれない。
実際、俺も何となく上の空ながらも「意外と冷静」だなーなんて思ってた。

いざ出かけようとして、
いつものように廊下に置かれた飯を蹴り飛ばすまでは。

どうやら、完全に地に足がついてないな。

俺は少し反省した。

幸い汁気のあるものはなかったから、
とりあえず部屋の中に飯を入れて、階下に向かった。
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430 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 05:30:33.15 ID:TczQQdCb
そこでも、俺はいつものくせで窓に向かいかけた。

やばいやばい。
今日は玄関から出ないと・・・・・・。

俺は一度深呼吸をして、何とか気持ちを落ち着かせた。

靴を履き、魚眼レンズから外を覗いた。
誰もいないことを確認する、玄関に手をかける、もう一度確認する、
そんな何回か繰り返してから、やっとドアを開いた。

その瞬間、車が通った。

冷や汗が滴るのを、帽子のつばを下げて隠し、
家の横から自転車を引きずり出した。
そして、逃げるようにそれに飛び乗った。
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431 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 05:37:48.70 ID:TczQQdCb
幸い、自転車は軽快に走り出した。

俺はできるだけ顔を上げずに足を動かした。

誰も俺に声をかけないでくれ。
誰も俺に声をかけないでくれ。。。

その願いが通じたのか、俺は無事に危険区域(近所)を抜けた。

よかった・・・・・・

最初の難関をくぐり抜け、ほっとした俺の目に、
そのときピンク色の花びらが映った。

俺は思わず顔を上げた。

桜だ。
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432 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[]:2016/03/15(火) 05:54:45.61 ID:TczQQdCb
それは、終わりかけなのか、それとも咲き始めなのか。

ちらほらと咲いた桜並木の中を、
人目を気にしながらも、俺は自転車を少しゆっくりと走らせた。

こんな俺にも、桜って花は何となく特別で、
見ていると心が洗われるような、前向きになれるような、そんな気持ちになるものだった。

ああ、もう春なんだなあ。

いっとき、Aを殺すことを忘れ、
俺は張り詰めていた心を緩ませた。


前から歩いてきたおばさんに、
すぐに目を伏せざるを得なくなったけど。
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435 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 11:43:04.61 ID:TczQQdCb
保守ありがとう。
なぜ、いまこれを書いているかってのは、ラストにちゃんと書くつもりだ。



俺は明らかに挙動不審な仕草で、おばさんから顔をそらした。

・・・・・・と、その一瞬、ちらっと見えたおばさんの様子に少しギョッとした。
それから、そうか、と思いついて慎重にあたりを見渡した。

バス停のベンチに座ったおじいさん、コンビニから出てきたおじさん、
道の向こうを集団で歩いているどっかの女子中学生・・・・・・

みんながみんな、というわけじゃないが、
結構な人たちが、マスクで顔半分を覆い隠している。

花粉症だ!

俺はとっさに自転車から降りると、コンビニでマスクを買った。

一応、疑われないようにと思ってニセのくしゃみをしたが、
それはどうやら必要なかった。

・・・・・・俺はマスクを装備した!
・・・・・・他人の視線によるダメージが半減されるようになった!!
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436 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 11:49:04.18 ID:TczQQdCb
マスクを装備した俺は、桜並木を颯爽と自転車で駆け抜けた。

そりゃ、花粉症じゃないから言えることだとはわかってるが、
こんなに春という季節に感謝したことはなかった。

マスクをする。
たったこれだけで、こんなにも他人の目が気にならなくなるなんて。

俺はこのマスクが一生顔から外れなくったって構わないとさえ思った。
(飯のことを思いついて、あとで訂正した)
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437 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 11:59:24.14 ID:TczQQdCb
良い想像が幸運を呼ぶ。

そんな話をよく聞くが、それはテンションが上がった状態でも同じらしい。

無事ホームセンターに着いた俺を待っていたのは、
さらにテンションの上がる発見だった。

それは入り口の「本日ポイント5倍サービス!」コーナーにずらりと並んだ、
市町村指定のゴミ袋だった。

・・・・・・もし、洋服に返り血がついても、これで捨てちまえばいいんじゃないか?

俺はとりあえず、ゴミ袋を手に取った。

犯行現場予定近くのゴミ捨て場に捨てるわけにはいかないけど、
もう少し遠いところなら?

事件が発覚して、警察が捜査し出す頃には、
物証は回収されて燃やされちまうってわけだ。
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438 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 12:02:49.64 ID:TczQQdCb
俺の住む地域は、ゴミの区分もそんなに厳しくないはずだし、
都会のように中を検めてどうのこうのって話も聞かない。

凶器の包丁も、もしかして洋服に包んでしまえば、
そのまま回収されて処理場行きだろう。

たぶん。

俺のテンションはさらに上がった。
その勢いで、俺はリストアップされた品物を次々にカゴに入れた。
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439 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 12:11:34.08 ID:TczQQdCb
黒くてすべらない手袋に、千枚通しに、便利なマスク。
それから、一番安い野球帽と、黒っぽい作業着の上下。

野球帽を買ったのは、せっかくのマリナーズ帽を汚したくなかったからで、
そう考えると、洋服も使い捨てが良いだろうと思い、購入した。

そうなると、靴も必要だろう。
けど、予算がどうかな・・・・・・??

そう思いながら靴売り場を覗くと、意外と二束三文の値段で売っていた。

すげえな、ホームセンター。

気をよくした俺は、最後の品物を買いに向かった。

包丁だ。
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440 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 12:18:20.25 ID:TczQQdCb
こんなに包丁って種類があるんだ・・・・・・。

目移りしそうなほど並んだ包丁を見て、俺はひとまず感心した。

ステンレスから鋼、白いセラミック。
四角いのから、幅の細いの。

種類も様々なら、値段も様々だ。

一万円以上の値札が付けられた包丁を見て、
俺は目を丸くした。

よく切れるのかもしれないけど、これはさすがに買えないな・・・・・・。
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441 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 12:30:05.69 ID:TczQQdCb
慌ててカゴの中身を計算する。
すると、なんだかんだで3000円はいっていた。

財布の中身は・・・・・・俺は分かり切ってることを確認する。

使わなかったお年玉や、臨時の小遣い、
そんないままでの分を全部合わせた、計6000円だ。

残りを全額つぎ込むとして、買えるやつはアレとアレとアレと・・・・・・

とりあえず候補は出したが、なかなかどれを買うか決まらない。


包丁売り場で悩んでたら疑われる。

そう思った俺は、隣のまな板を手にとった。
そして誰もいない通路で、「俺が欲しいのはまな板です」アピールをしながら悩んだ。
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442 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 12:36:13.62 ID:TczQQdCb
できることなら、実際に握りを掴んで、その感触を確かめたかった。
そうすれば、どれが目的にふさわしいか、わかるような気がしたからだ。

けど、包丁はどれも箱に収められている。


・・・・・・よし、これでいいだろう。

俺は悩み抜いた末、一本を選んだ。

それは背が黒い色をした、比較的細身の包丁だった。
先がすっと尖っていて、よく刺さりそうだ。
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443 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 12:49:05.46 ID:TczQQdCb
Aの殺害道具一式。

そんな物騒なものが入ったカゴを持ち、俺はレジに並んだ。

レジには、二、三人の買い物客が並んでいた。
俺が並ぶと、すぐそのあとにももう一人が並んだ。
タンスが丸ごとカビたんだろうか。
箱形のでかい除湿剤を山ほどカゴに入れた、おばさんだ。

おばさんは、俺のカゴの中をちらっと見た。

『あら? あなた、誰かを殺すつもりね??』

だなんて、もちろん言われなかったけれど、
俺はいまにもそう言われそうで冷や汗が止まらなかった。

俺がその用途を知っているからだろう。
カゴの中身は殺人道具にしか見えなかった。

俺はレジの順番が来る間中、これが殺人道具じゃないという言い訳を考えることに費やした。
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444 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 13:00:39.92 ID:TczQQdCb
学校の理科の授業で、魚の解剖をするんです。
あ、フナとかじゃなくて、少し大きめの・・・・・・サバ? そう、サバとかで、
それで汚れない服装と、すべらない手袋と、ゴミ袋と、包丁が必要で・・・・・・

・・・・・・という言い訳は、さすがに苦しいだろうか。

というか、全然殺人の方向から離れてないし。
いや、それなら調理実習のほうが・・・・・でもそれならエプロンだろうな?!


いい加減、考えが煮詰まったころ、極めて順当に俺の番が来た。

ピッ、ピッ、ピッ・・・・・・

「5760円になります」

レジのおばちゃんは、俺には一瞥もくれず、品物をレジ袋に詰めた。

俺は黙って、6000円をレジに置いた。
数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話 [無断転載禁止]©2ch.net
445 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 13:07:40.59 ID:TczQQdCb
〈自意識過剰ね〉

レイに言われた言葉を、俺はぐっと飲み込んだ。

「240円のおつりになります」
「どーもありがとうございましたー」

俺の気も知らず、おばちゃんはさっさと釣りを押しつけると、
大量の除湿剤をレジに通し始めた。

俺は受けた衝撃から回復しないまま、出口へ向かった。

それは、俺の〈自意識過剰〉が簡単にいなされた衝撃であり、
それから、殺人道具一式がこんなに簡単に手に入ってしまったことへの衝撃でもあった。
数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話 [無断転載禁止]©2ch.net
446 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 14:51:38.04 ID:TczQQdCb
案ずるより産むが易し。

そうは言っても、これじゃ簡単すぎる。

俺は出かける前の俺に聞かせてやりたいくらいの、
贅沢なつぶやきを口にした。

計画が順調なのは良いことだ。

けど、順調すぎても怖くなるのが、人間の心理だ。
そうだろ?
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447 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[sage]:2016/03/15(火) 14:54:18.07 ID:TczQQdCb
帰ろう。


俺は自転車に飛び乗ると、桜並木の中、力一杯足を動かした。
この正体のわからない焦燥感を、そうすることで紛らわそうとした。

帰ろう。
家に帰るんだ。

春の陽気に汗ばみながら、俺はそれだけを一心に思った。

家に帰って、パソコンをつける。
そしたら、そこにレイがいる。

そして、俺に答えをくれる。
いつものように簡潔に、いつものように少し素っ気なく。
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448 :名も無き被検体774号+@転載は禁止[]:2016/03/15(火) 15:43:58.43 ID:TczQQdCb
桜の花びらが視界を舞う。
ひらひら、ちらちらとうるさく散り続ける。

それを蹴散らすように、俺は家へ急いだ。


なぜだか、少しでも早くレイと話さなくちゃいけない、そんな気がした。


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