- イケメン同期に振り回された俺の人生について語る。 [無断転載禁止]©2ch.net
116 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:15:39.64 ID:7U2DNARy - こんな時間にすみません!続き投稿します!
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117 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:16:22.60 ID:7U2DNARy - 年が明けて、2011年1月中旬。
お正月気分もすっかり取れ、サバーク博士の仮面も取れたころ、 俺は早苗と待ち合わせをしていた。いや、俺たちは、というべきか。 早苗に新年にあけましておめでとうメールをしたときに、 「白石が早苗に会ってみたいってよ」と口からでまかせを言ったら、 「うそ!会ってみたい!」と思っていた以上に乗り気になってくれたので、 新年早々、白石に頼み込んで口裏を合わせてもらい、三人で会うことになったのだ。
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118 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:17:49.61 ID:7U2DNARy - 白石おすすめのカフェで、三人でお茶をした。
早苗がおしゃれをしているのを見るのは久しぶりで可愛かったし、 楽しそうに話すところを見るのも久しぶりで、懐かしい気持ちになった。 同時に、その笑顔は白石に向けられているという事実が、寂しくもさせた。 昔はこんな風に俺に笑いかけてくれたなぁ・・・もう過去なのか・・・と悲しくなった。 理由はなんであれ、会ってくれるんだからそれにこしたことはない。 そんな軽い気持ちでセッティングしたんだが、少し後悔していた。 まさか、おかしな関係にならないよな?
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119 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:18:39.11 ID:7U2DNARy - 白石を見て、気づいたことがあった。
常に笑顔を絶やさないし、本当に細かいところに気がつく。 そりゃ俺とふたりでいるときも笑顔だしいつも気が利くんだけど、 冗談を言ったりスネたり、子どもっぽい一面も見せることがあるんだが。 そうか、白石のことをよく知るまでは「上っ面」と思っていたけど、 いつも人に気を使って大人な振る舞いをしているんだなと、ひとつ見直した。 そんな男と嬉しそうに話している早苗。 まさか、おかしな関係に・・・ならないよな??
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120 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:19:18.93 ID:7U2DNARy - 俺の不安をよそに、二人の距離は確実に近づいていた。
トイレから戻ったとき、二人が携帯を突き合わせていたのが一番気がかりだった。 俺に気づかなくて、声をかけたときに二人して驚いた顔をしたのも怪しかった。 怖くて聞けなかったが、あれは間違いなくアドレス交換をしている。 まさか、おかしな関係に・・・なるなよ???
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121 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:20:48.63 ID:7U2DNARy - モンモンとした気持ちを抱えて暮らしているあいだに、
ハートキャッチプリキュアは砂漠の使途と決着をつけ、 新番組「スイートプリキュア♪」へと世代交代をしていた。 初回から毎週、変わらず俺の部屋でみる生活をしていたが、 「響と奏がギスギスしてばっかりで、嫌だなぁ。」と 不満そうにこぼしている白石の横顔を見ながら、 (もしかして毎日メールしてるんじゃないか) (すでに二人で会ってるんじゃないか) という疑心暗鬼がたえなかった。
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122 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:21:54.51 ID:7U2DNARy - その疑いが確信となってしまったのは、
スイートプリキュアのエンディングまでのCMの最中、 「そうだ、早苗さんが、また三人で食事行こうねって。」 と、まるで悪びれる様子もなく白石に告げられたからだ。 俺は強烈な危機感を感じて、白石の両肩をがっしりとつかんで、真剣な目で訴えかけた。 「早苗に惚れるのだけはやめろよ!惚れられるのも、だめだからな!!」
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123 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:23:09.81 ID:7U2DNARy - 「ど、どうしたの、急に。」
「お前を信じてるからな!!!」 最初はキョトンとしていた白石だったが、 必死な形相の俺を見て、ぶふっと吹き出した。 笑いながら。 やつは、とんでもないことを言ったんだ。 「女の子を、好きになるわけないじゃない。」と。
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124 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:24:23.72 ID:7U2DNARy - 斜め上の返答に唖然としている俺を見て、再度キョトンとする白石。
「・・・なんだよそれ。突然のカミングアウトみたいな流れやめろよw」 半笑いの俺。 疑問符の白石。 「・・・?」 「・・・??」 そっと肩から手を外す俺。 「まさか、お前・・・ゲイなの??」 その質問に返ってきた言葉は、またしても斜め上だった。 「なんで今更そんなこと聞くの?」
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125 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:25:25.62 ID:7U2DNARy - 『俺、お前の秘密知ってるよ。』
俺たちは、大きな勘違いをしていることに、この半年間、気づいていなかったのだ。 だからか、だからなのか。 プリキュア好きって言っただけで、あんなに動揺したのは。 一緒に寝るの嫌じゃないですかと言って部屋を出て行こうとしたのは。 プリキュア男子で一番可愛いのは木俣くんだと真顔で力説していたのは。 女の話を振っても、いまいち反応が悪かったのは。 ようやく、すべての謎が解けたような気がした。
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126 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:26:49.72 ID:7U2DNARy - 「あんな含みのある言い方、普通しなくない!?」
「俺は、お前がプリキュア好きだという秘密をだな!!」 「なにそれ!プリキュアが好きなの秘密でもなんでもないし!!」 「まじかよ!!?ww」 あまりの衝撃的な展開に、俺は笑いが止まらなかった。 同時に、白石とずっとべったりだったことが急に恐ろしくなり、 「俺ずっと知らなかったじゃんか!!あっぶねーあっぶねーー!!ww」 そう、叫んだ。
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127 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:28:40.95 ID:7U2DNARy - --------
----- --- あの日以来、白石は口を利いてくれなくなった。 たしかに露骨に気持ち悪がったのは反省してるけど、 無言のまま帰って、それから目も合わせようとしないなんて。 そこまで怒ることなくね。たしかに言い方は悪かったけどさ・・・。 そんな葛藤から、会社ですれ違っても素直に謝ることができなかった。 せっかく始まったスイートプリキュアも一人で見るはめになって、 当然ながら朝の放映が終わっても昔みたいに白石からメールは来ないし、 話題の共有ができないのはこんなにも寂しいものなのかと久々に痛感していた。 3月に公開される、プリキュアオールスターズDX3を見にいこうって約束、どーすんだよ・・・。
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128 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:29:31.15 ID:7U2DNARy - そんな白石と再び話せるようになったのは、そう遠くない日だった。
決して、喜ばしいきっかけではなかったが・・・。 もうあれから5年も経ったという事実が一番の驚きだが、 きっかけは、人々の心に大きな爪あとを残した、東日本大震災だった。 そのとき俺は外回りをしていて、白石は事務所にいた。 二人顔を合わせたときの安堵したあいつの顔は今でも覚えている。 もはや口を利かないなんて言っている事態じゃなかった。 気がついたら、何事もなかったかのように、話せるようになっていた。
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129 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:30:30.71 ID:7U2DNARy - 大変不謹慎なことを言うようで申し訳ないんだが、
震災後にオールスターズDX3が無事放映されたことは有難かった。 『諸事情により津波を連想するシーンはカットしてあります』と、 映画館に看板が出ていて、震災の重大さを改めて感じたのも懐かしい。 映画終了後、俺たちはしばらく席を立てなかった。感動で。 近くのカフェに移動してからは、ダム崩壊のように口々に感想を言い合った。 「なぜSplash☆Starのふたりが、手を繋がずにスパイラルスタースプラッシュを出せたのか」 という考察を最後に、2時間近くの、はじめてのプリキュア映画反省会が終了した。
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130 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:31:23.07 ID:7U2DNARy - 駅の改札にたどり着くまで、白石は興奮冷めやらぬ状態だった。
俺と違って、初代からずっとプリキュアを応援し続けていたから無理もない。 「石黒くんと知り合わなかったら、一生この感動を知れなかったかもしれない。本当にありがとう。」 恥ずかしげもなく、よくこんなことがいえるもんだ。 俺は急に照れくさくなって、改札をくぐって「じゃあな」と言った。 「こんな僕と、一緒にいてくれてありがとう。」 白石は、そう付け足した。 自分の電車のホームまで歩き出す。やっぱり、白石といると居心地がいい。 しばらく歩いて後ろを振り返ったら、白石は変わらずそこにいて、嬉しそうに手を振ってきた。 俺も手を振り返す。 あたたかい、春の匂いがした。
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131 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:32:21.06 ID:7U2DNARy - 変わらず夏は暑かった。
プリキュアたちがキャンプで特訓をしているころ、 俺たちも一泊二日のキャンプを計画して旅立っていた。 テレビで見たラフティングをやりたくて、はるばる群馬まで来たのだ。 俺がレンタカーを運転して、白石は助手席で歌っていた。 思えば、ブラック企業にいたときから去年の夏も含めて、 東京に出てきて夏にどこか友達と出かけるのは、はじめてだ。 気分は上々だった。
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132 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:32:57.15 ID:7U2DNARy - ただでさえラフティングは俺の夏を盛り上げたのに、
さらにテンションを最高潮に持っていく出来事があった。 女の子二人グループから、俺たちふたりにお声がけがあったのだ。 女の子側から声を掛けてくれたのは、人生ではじめてだった。 もちろん、白石が一緒だからというのは重々承知していたが、 俺はこのとき出会いに必死だったというか、荒れていたのだ。
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133 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:33:39.17 ID:7U2DNARy - 夏のはじまり、早苗にメールで復縁を匂わせたとき、
「言っとくけど、大地とやりなおす気はまったくないからね。 友達としてじゃないなら、もう会わないし連絡もしないから。」と ストレートパンチの返信で希望を絶たれてしまったからだ。 そのときは冗談で済ませて事なきを得たが、 いい加減、俺も早苗を吹っ切っらなきゃいけない。 新しい出会いを見つけようと、心に決めていたのだ。
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134 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:34:12.18 ID:7U2DNARy - 女の子二人は、同じように近くのコテージを借りていた。
せっかくだからと俺たちの部屋に呼んで、楽しく飲み交わした。 一人は明らかに白石狙いなのがわかっていたが、 もう一人は俺に悪い印象を持っていない様子が感じられて、 ひと夏のアバンチュールを楽しめそうな予感がビンビンしていた。 白石もいつも通りニコニコしていたが、口数は少なかった。
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135 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:34:52.58 ID:7U2DNARy - アバンチュールの予感は的中した。
「2-2で、それぞれのコテージで飲まない?」 酒もだいぶ入ってきたころ、彼女たちのスキンシップが増えてきて、 これは行けると確信して下心丸出しの提案をしてみたところ、 あっさりとOKが出たからだ。 善は急げで、はやる息子を抑えながら用を足し、 はやる気持ちを抑えながらトイレから飛び出すと、 壁にもたれかかって腕を組んでいる白石と目が合った。
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136 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:36:07.28 ID:7U2DNARy - 女の子たちはどうやら、一度自分たちのコテージに戻ったらしい。
白石は何かを言いたげな顔をしていたが、先手は俺が取った。 「わかってるわかってる、言いたいことはわかる!」 顔の前に手を突き出して、STOPモーションをかけた。 「わかるけど、これも経験だって。」 「なんのだよ・・・。」 「ヤったことないから、男が好きって思ってるのかもしれないじゃん。」 そう言いながら、部屋に余ったアルコールやお菓子を袋につめてやった。
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137 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:38:08.56 ID:7U2DNARy - 「旅の恥は掻き捨てだしな、上手くいかなくても大丈夫だって。」
袋を手渡しても、白石は困った顔で立ちすくんだままだった。 「男になってこい!白石健太郎!」 俺は白石の背中をドンッと押して、女の子のバルコニーへと後押しをした。 「ひゃっほーーーい!!」 白石を見送ったあと、俺はベッドに向けて飛び込んだ。 はやくこないかなーー!!
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138 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:38:57.74 ID:7U2DNARy - --------
----- --- 何か月ぶりだろうか。この感触は。 幸せな気持ちに包まれて眠っていた俺の目覚ましになったのは、 バルコニーのドアが、大げさにバタンッ!としまった音だった。 寝ぼけ眼で携帯をみると、時計はまだ6時をさしていた。 どうやら白石が帰ってきたようだ。こんな朝早くかよ・・・。 同じくその音で目覚めた昨晩の相手は、白石に気づいて慌てて服を着て、 「またあとでね」とだけ残して、自分のバルコニーへ帰っていった。
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139 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:39:51.25 ID:7U2DNARy - 「おはよう。」
背中を向けたまま無言で荷物の整理をしている白石に声をかけるも、 白石は何の返事もせずに、俺と目もあわせずに洗面台へ向かった。 パンツ一丁のままベッドからおりて白石を追いかけて、 「よう、昨日どうだった?」 と笑いながら声をかけると、 一瞬だけ俺を見て「何もあるわけないだろ。」と冷たく言い放った。 冷たい言葉と俺を残して部屋に戻っていったところを見て、 さすがの俺も、明らかに白石が怒っていることがわかった。 「もう帰ろう。」 俺が部屋に戻ると、相変わらず目を合わせずに、白石がそう言った。
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140 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:40:54.37 ID:7U2DNARy - 一日目はラフティングで終わっちゃうから、二日目はどこに行こう!
ここに行きたい、あそこにも行きたい、一日じゃまわりきれない!と 出発前から嬉しそうにプラン立てをしていたはずなのに、もう帰ろうなんて。 「せっかくプラン考えたのに、もったいないじゃんか。」 「石黒くんが帰らないなら、ひとりで電車で帰るけど。」 「わかった、わかったから。俺も帰るから怒るなよ。」 整えた荷物を背負いだした白石を慌てて制止して、 俺も急いで荷物の整頓と部屋の片付けに取り掛かった。 その間も、白石は一言もしゃべろうとしなかった。
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141 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:41:39.10 ID:7U2DNARy - 女の子二人にお別れも言えず、俺たちの車は東京へと走り出した。
車内でも白石はまったく言葉を発さず、怒りオーラだけを発していた。 30分もそのままだとさすがに息苦しくなって、 「せっかくの旅行なのに、そんなにカッカすんなよー。」と、 ハンドルを握りながらチラチラ横目で訴えると、ようやく白石が口を開いた。 「石黒くん、僕とキスしよう。」 「はぁ!?」
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142 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:42:28.12 ID:7U2DNARy - 何の冗談かと思ったが、白石はマジな顔でこっちを見ていた。
「いや、できるわけないだろ。」 「どうして?友達だから?」 「友達だからとかいう問題じゃないだろ・・・。」 (お前、男じゃん。) そう言おうとする前に、白石は呆れたように言った。 「その気持ちと同じだって、どうしてわからないのかな・・・。」
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143 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:43:25.16 ID:7U2DNARy - 「努力してできるなら、とっくにそうしてるよ。そうしたいよ。
僕だって普通に女の子に恋をして幸せな人生を送りたかったのに。 それができないから、これまでずっと悩んできたんじゃないか。」 普段の温厚な白石では考えられないくらいのトーンに、 俺は完全に押されてしまって、謝ることしかできなかった。 「ごめん…。」 「せっかくの旅行なのにって、言いたいのはこっちだよ…。」 その言葉を最後に、白石は口を開かなかった。 俺から顔を背けて窓の外を見たまま、何も話さなかった。 行きには気分を盛り上げてくれたCDだけが、ひとり楽しそうだった。
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144 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:44:22.32 ID:7U2DNARy - 「ごめん。」
沈黙を破ったのは、白石だった。 「やつあたりした。ごめん。」さらに、そう続けた。 視線は窓の外に向けたままだったが、声のトーンは落ち着いていた。 やっとふたりの間の緊張が解けてホッとした俺も、 「俺もごめんな。自分勝手だった。」と謝った。 「この二日間の全部、楽しみにしてたから・・・。ショックだったんだよ。」 視線を車内に戻してはくれたものの、白石は悲しそうにそう言った。 その悲しそうな顔を見て、俺はものすごく申し訳なくなった。
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145 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:45:10.41 ID:7U2DNARy - 俺はあえて大きな声で、この空気をかえるために言った。
「よし、じゃあ今日は全部お前に合わせるよ! いまから戻って行きたいとこ全部行ってもいいし、 海でも山でも温泉でも映画でも、何でも付き合う。」 パッと空気がかわった。 白石の怒りオーラがシュンと消えた。 よかった、なんとか元の白石に戻ったようだ。 行きたいところたくさんあるんだろ、というと、 うーんうーんと悩んで、結果、出てきたのはこれだった。 「ねえ、じゃあ、ディズニーシー行きたい。」
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146 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:46:08.46 ID:7U2DNARy - 「おま…。いま、まだ群馬県だぞ…。」
「なんでもって。海でも山でもって。」 「男ふたりでディズニーって・・・。」 「海もあるよ。山もあるよ。ディズニーシー。」 「俺ディズニーシー行ったことないんだけど・・・。」 「ちょうどいいじゃない。夕方から入れる安いチケットあるよ。」 「最初はデートで行きたかったんだけど・・・。」 「デートじゃん、いまこれ。」 「勘弁してくれよぉーー。」 そして俺たちの車は、舞浜行きとなったのだ。
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147 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:47:34.93 ID:7U2DNARy - 道中は、白石のディズニーシー紹介を聞いて少し気分が上がっていたが、
いざシーのエントランスを目の前にすると、急に現実味を帯びて冷や汗が出た。 大丈夫か。男ふたりでディズニーシーなんて大丈夫なのか。 ……ええい覚悟を決めるんだ俺! こちとら、男ふたりでプリキュア映画見に行ってんだ。 いまさら恥もへったくれもあるか。 ウェルカムトゥー東京ディズニーシー!!
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148 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:48:35.26 ID:7U2DNARy - 結論からいうと、ディズニーシーは最高に楽しかった。
抵抗を感じたのは最初だけで、1時間もすれば気にならなくなった。 みんな楽しむことに精いっぱいで、誰もほかの人なんか気にしちゃいない。 男連れだと、次なに行くとか、なに食べるとか、何の気も遣わなくて楽でもあった。 ポップコーンのバケットを首から下げて、キラキラ光るおもちゃを買って、 夜が更けると街並みがライトアップされて、歩いているだけで現実を忘れられた。 昼にはあんなにギスギスしてたとは考えられないくらい、俺たちははしゃいでいた。 やっぱり、俺たちは、こうじゃなくちゃな。
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149 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:49:30.83 ID:7U2DNARy - 夜の水上ショーも終わって、閉園時間まであと1時間もない。
俺たちは薄暗い海賊船の上で、遠くで光るイタリアの街並みを見ていた。 この夜が終わってしまうのがもったいなくて、二人とも口数が少なかった。 「いつかこれ、大切な人に渡そうと思ってたんだ。」 そのときに白石がくれたのは、思い出のクリスタルコミューンだった。 知り合って初めてちゃんと見たプリキュア、Splash☆Starの変身アイテムだ。 俺はフラッピ、白石はチョッピ。 はじめてココロパフュームを見たときはヤバイと思っていたけど、 プリキュアでずっと見ていた変身アイテムが実物として手元にあると、 こんなにも楽しい気持ちになるとは、当時の自分は考えもしなかったな。
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150 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:50:07.41 ID:7U2DNARy - この二日間は、本当にいろんなことがあった。
楽しんだり気持ちよかったり怒らせたり仲直りしたり、 いろんなことがあった中でも、この海賊船の出来事は、 俺の中で、強い思い出となっている理由がある。 白石が、はじめて、俺のことを「大地」と呼んだからだ。
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151 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:52:21.16 ID:7U2DNARy - それまで頑なに「石黒くん」を通してきた白石だったから、
てっきりプリキュア好きとして、いつか初代8話のオマージュでも 仕掛けてくるんじゃないかと思っていたが、あっさり呼んじゃうとは。 その話をしたら、ああーー!!と、 海賊船内に響き渡る声で絶叫した白石。 「なんで思いつかなかったんだろう!!悔しい!!」 そういって本気で悔しがっている姿が何だかおかしくて、 笑いながら、白石の手をひっぱって、冗談めかして言った。 「行くぞ、健太郎。」 大地と健太郎の夏の思い出が、幕を閉じた。 ■つづく■
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152 :@転載は禁止[]:2016/02/20(土) 02:55:33.67 ID:7U2DNARy - つづくばっかりですんません・・・。
当時の日記からひっぱってきてるんですが、 色々端折ってもこんなにまとめるのが大変だとはww ここにきてようやく2/3です。 続きは日曜日に、最後まで必ず!
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