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1 ◆Vwu55VjHc4Yj
魔王「真に美しい世界を望む為だ」

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魔王「真に美しい世界を望む為だ」
618 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 10:24:02.57 ID:gjEhcpBoP
>>611
お義理てなんだ、お義父な(・△・)
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
619 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 10:33:03.99 ID:gjEhcpBoP
癒し手「あ……この道、ですよね」
側近「ああ……大丈夫か?」
癒し手「お散歩ですよ。平気です」
王子「……結婚式以来、か」フゥ
側近「親父も大丈夫か?息が上がってるぞ」
王子「俺はまだまだ元気だ……と、言いたいが」
王子「……休み無く往復するのは流石に堪える、な」
癒し手「ご無理なさらない方が……」
王子「癒し手もいるし、ゆっくり行ってくれるなら大丈夫さ」
王子「……今生の別れ……とは、思いたく無いが」
側近「…… ……」
癒し手「…… ……」
側近「泣き止んだな。癒し手、青年をこっちへ」
癒し手「あ、は、はい……」
青年「…… ……」
側近「ん、どうした?」
王子「……急にご機嫌になったな」
癒し手「嬉しい、んでしょう。いえ、心地良い……のかな」
王子「エルフの加護……か?」
癒し手「……薄れてしまったとは言え……私も、気持ちいいです」
癒し手「この空気」
王子「そうか。青年も……解るんだな。俺にはさっぱりだが」
側近「草花しか無くて、気持ちいい風が吹いてて」
王子「?」
側近「海が望めて、美しい……何も解らない人間でも、俺達でも」
側近「それだけで、気持ちいいと思うモンだろう?」
王子「……そう、だな」
側近「俺は……魔に変じても。魔法だなんだ、良く解らないからな」
王子「……あえて突っ込まなかったのに、お前は」
癒し手「……この『世界』は、何なんでしょうね」
側近「ん?」
癒し手「何の為にあるんでしょう。人間、魔族、エルフ……」
癒し手「どこで、どうやって……別れてしまったのでしょう」
王子「…… ……」
癒し手「加護、とか。それが優れてるとか、優れてないとか……」
癒し手「……『個』は以上でも以下でも無い筈ですのに」
側近「…… ……」
癒し手「何かと比べ、それに優劣をつけるだなんて……下らない事です」
王子「だが、そうで無ければ生きていけないのも『命』だ」
側近「親父?」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
620 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 10:39:59.92 ID:gjEhcpBoP
王子「……弱肉強食、だ。食物連鎖と言うべきか」
癒し手「…… ……」
王子「全てが等しく、どれも同じ……だなんて事は」
王子「あり得ない、決して」
癒し手「…… ……」
側近「…… ……」
王子「行こうか」
癒し手「あ……すみません」
王子「否、時間は良いんだ。船だって……待ってくれる。だが」
王子「……青年、寝ちゃったみたいだ。今のうちに船に乗せた方が良いだろう」
側近「ああ……そうだな」
癒し手「……後、少しだけ」
王子「?」
癒し手「もう……見れるとは限りません。だから」
癒し手「……だから」
王子「…… ……」
癒し手「皮肉ですね。確かに景色も良くて、本当に美しい場所なのに」
癒し手「……この丘自体が、強大な墓、何ですね」
側近「…… ……」
癒し手「私達は、犠牲の上に立っている。そうして、未来を紡いでいく」
側近「癒し手……」
癒し手「『過去』……死者は土へ……否、空へ還り、世界へ孵っていく……んです」
癒し手「……何れ、私達も『過去』になる。それが……『世界の理』なんですね」
王子「…… ……」
側近「…… ……」

……
………
…………

キィ、パタン

少女「おかえりなさ…… ……衛生師?」
衛生師「王様を待っていた、のかい」
少女「……そういう訳では無い。此処は彼の部屋だからな」
少女「主が何時帰って来ようが……どうした?」
衛生師「…… ……ん?」
少女「珍しく、元気が無い様に見える」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
621 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 10:47:06.83 ID:gjEhcpBoP
衛生師「僕はそんなに、何時も何時も元気いっぱい!ってタイプじゃ無いと思うけど」
少女「……何かあったのか」
衛生師「……王様から伝言だ」
少女「…… ……死んだ、のか」
衛生師「…… ……」
少女「言い淀む何て珍しい」
衛生師「……悲しくないのか、てのは愚問だね」
少女「覚悟はしていた……否」
少女「寧ろ、今まで生かされていたのだと思う方が不思議……だと」
少女「良く、考えて見ると……思う、のかもしれない」
衛生師「歯切れが良くないね。その方が珍しい」
少女「……良く解らないんだ。忘れてしまえる事では、無いだろうに」
衛生師「いよいよ本当に毒を抜かれたのか」
少女「…… ……」
衛生師「王様は、地下牢に行った、けど」
少女「…… ……」
衛生師「……弔いが済めば、壁を塗り込めてしまうらしい」
少女「え?」
衛生師「もう牢など必要無いだろう、とね」
少女「……早計じゃ無いか?」
衛生師「さてね……君は、必要だと思う?」
少女「…… ……」
衛生師「それが済めば……君の部屋を用意すると言っていたよ」
少女「え!?」
衛生師「城の中に限る、けれど。自由に出歩いて良い、てさ」
少女「……王は、どうしたんだ?」
衛生師「喜ぶ所じゃないのか」
少女「…… ……」
衛生師「……まあ、良い。食事にしようか」
少女「最近、貴方とばかりだな」
衛生師「……王様に一緒に食事が取りたいって言えば」
衛生師「飛び跳ねて喜ぶと思うけど」
少女「……寝て、と言うか横になってばかりだろう」
衛生師「僕も回復魔法は使える。まあ、王ご自身も、だけど」
少女「……心のケアは魔法では出来ない」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
622 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 10:55:33.60 ID:gjEhcpBoP
衛生師「とうとう狂った、とでも?」
少女「そうじゃ無い!」
衛生師「…… ……」
少女「……共に眠ると魘されている。否……それすら、最近は減った」
衛生師「…… ……」
少女「私を抱く事もだ」
衛生師「部屋には、戻ってるんだろう?」
少女「……私が寝入った頃に戻って来てはいる様だ」
少女「気配で一瞬目を覚ます。だが……まあ、すぐに寝てしまうから、私も」
衛生師「……随分慣れたな」
少女「…… ……」
衛生師「別に嫌味じゃ無いよ」
少女「今更だな……適応してしまえば平穏に暮らせるんだ」
少女「……気がかりも、消えた」
衛生師「……秘書?」
少女「青年を見に行く前に、書の街の新しい代表者、の話を聞いたことが大きい」
衛生師「……ああ、成る程」
少女「……複雑だった、が。勿論……姉の事もある。だけど」
少女「私が死ねば、終わるのだなと言う安堵の方が大きい」
衛生師「!」
少女「そんな顔をするな……自ら命を絶つ気等無い……王を、放っては置けない」
衛生師「そう言って貰えるのはありがたいけど。何、情にでもほだされたの」
少女「……そう、じゃない。私は…… ……本当に、何なのだろう」
少女「心配には、なる……彼は酷く不安定だ」
衛生師「……まあ、そう、だろうな」
少女「貴方が言っていた事だ。彼を歪んでいないと思うのか、と」
衛生師「…… ……」
少女「……私がこの国に、王子様に連れてきて貰って」
衛生師「?」
少女「正式に『新王』と対面したときだ」
少女「……秘書を牢にぶち込んだとき、と言えばいいか」
衛生師「……報告は聞いてるけど」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
623 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 11:04:44.48 ID:gjEhcpBoP
少女「王子様の気遣い……と言っていいのかは解らないが」
少女「地下の、あの牢屋へ案内してくれた騎士が」
少女「……魔導国との船団同士の争いで、弟が死んだのだと言っていた」
衛生師「誰、かは解らないけど」
少女「名は聞いていない。若い騎士だった。彼は……」
少女「……否。彼に、私は、どうして王に従うのだと聞いた」
衛生師「…… ……」
少女「彼はそれが『仕事』だからだと」
少女「『王を守りたい』かどうかは解らないが、『仕事だから』従うのだと言っていた」
衛生師「……何が言いたい?」
少女「貴方もなのか?」
衛生師「…… ……」
少女「言い方は悪いかも知れないが、私は……此処で自分の心に波風が立たないよう」
少女「……楽に、安らかに過ごしていく方法は、慣れてしまうことだと思った」
少女「それが情かどうかは解らない。愛では無いと思う、が」
少女「……良く、解らない不思議な感情だ。放って置けない」
衛生師「…… ……」
少女「貴方は、自分が仕える主を『歪んでいる』と言う。だけど……」
衛生師「僕、は」
少女「…… ……」
衛生師「……君と同じなのかもしれないな。その、若い騎士とも」
衛生師「『仕事』だ。守る家族も、大事な人……恋人も別に居ないけれど」
衛生師「……ま。放って置けないね、彼は」
少女「…… ……」
衛生師「…… ……」ジッ
少女「…… ……」ドキ
衛生師「……戦士君達が旅立ったというのは、聞いている?」
少女「え……あ、ああ。今朝だろう」
少女「王が、見送りに行くと言っていた」
衛生師「……王様を良く見ておいた方が良いと、僧侶さんが言ってたそうだ」
少女「え?」
衛生師「随分顔色が悪かった、とね」
少女「……あれだけ魘されていれば、まともな睡眠も取れないだろうな」
衛生師「……具体的な内容は?」
少女「…… ……」
衛生師「言えない?」
少女「そう言う訳じゃ無いが……何と言うか」
少女「殆どが悲鳴だ」
衛生師「……悲鳴」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
624 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 11:10:21.24 ID:gjEhcpBoP
少女「最初は悪い夢を見ているんだろうと思っていたが」
衛生師「…… ……」
少女「……心当たりがあるのか」
衛生師「……否? 別に」
少女「…… ……」
衛生師「ああ、御免。食事にしよう」クルッ

スタスタ、パタン

少女(…… ……)フゥ
少女(そう、か。死んだか)
少女(……実感が無い。否……良く解らない)
少女(私は悲しいのか?)
少女(……悲しむ、べきなのだろうか)
少女(これで……私が、死ねば)
少女(『劣等種』だの『出来損ない』だの)
少女(……『優れた血』だの)
少女(全て、闇に葬り去られてしまう……のだろうか)
少女(……それを喜ばしいと思うのは)
少女(駄目な事ではない筈だ……お姉様)
少女(我らの罪は重い……心安らかに逝けなかったではあろうが)
少女(……因果応報だ)
少女(甘い汁……か)フッ
少女(……怨んでいる、怨んでいた……のだろうな)

……
………
…………
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
625 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 11:27:05.44 ID:gjEhcpBoP
后「…… ……」ブツブツ

コンコン

后「……んー……」

コンコン!

后「は、はい!?」

カチャ

剣士「……物音がするから起きているとは思っていたが」
后「ああ、剣士……」
剣士「あんまり根を詰めると身体に触るぞ」
后「平気よ、本を読んでるだけなんだもの」
剣士「まあ、それは……そうだが」
后「……検証を始める!なんて魔王が言ってたけど」
后「これを読まなきゃ始まらないんでしょ」
剣士「だが、そこに全ての答えが乗って居る訳でもあるまい」
后「まあ、そうだけどね……」
剣士「使用人が心配していた。ちゃんと寝ているのかと」
后「私より魔王の心配した方が良いと思うけど?」
剣士「……殺してもしなんだろう、今は」
后「…… ……」
剣士「…… ……」
后「時間が無いのよね、彼には」ハァ
剣士「……まだ腹が目立ってる様には見えん、が」
后「そりゃね……だって、この子は……『人間』だもの」
剣士「…… ……」
后「あと数日あれば読み終わるわよ」
剣士「……時間が無いとは言え……産まれてからも」
剣士「すぐに、と言う訳では無いんだろう?」
后「……一ヶ月ぐらい、って言ってたかしらね」
剣士「『光を集めて瓶に詰めるような物』か」
后「……足りないわ。否、永遠の時間があったって」
后「全ての絡繰りを、私達が知れる訳では決して無い」
剣士「…… ……」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
626 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 11:37:25.26 ID:gjEhcpBoP
后「……癒し手達、今どの辺なのかしら」
剣士「文が何時出され、どれぐらいの時間をかけて届いたのか」
剣士「解らんからな」
后「……南、か。貴方は行ったことあるの?」
剣士「船長の船に乗って居る時には……その方角に、ならばあるだろうな」
后「ああ、そうか……船長、さんって」
后「……私を、始まりの国まで連れて行ってくれた人、なのよね」
剣士「大会の時か」
后「そう…… ……ご大層よね。小娘一人に」
剣士「…… ……」
后「娘を大事にしてた訳じゃ無いって位じゃ、もう傷付かないわよ」
剣士「……不思議な縁だ」
后「そうね。世界はこんなにも広くて、こんなにも謎だらけなのに」
后「……どこかで、誰かが繋がっている」
剣士「俺とお前もだな……初めて見たとき……お前はまだほんの子供だったのに」
后「貴方は今と変わらないものね……ねえ」
剣士「?」
后「あの時……どうして助けてくれたの」
剣士「……忘れた」
后「…… ……」
剣士「…… ……気まぐれ、だろうな」
后「……そう、か」フフ
剣士「何故笑う」
后「不思議ね。私は貴方に生かされた……で、今、ここに居る」
剣士「…… ……殺されはしなかっただろう」
后「そうね。有効に利用する為にね……死んだ方が、マシだったでしょうけど」
剣士「…… ……」
后「その私が……今は魔王の妻で、次期勇者を産むのよ」
后「……お母様とお父様が……お爺様が生きてたら」
后「どんな顔をしたのかしらね?」
剣士「……后」
后「……生きてるのかしら」
剣士「魔王も言っていたのだろう。王の事だ。手荒なまねは……」
后「私は、今の『王様』を知らないもの」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
627 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 11:50:02.73 ID:gjEhcpBoP
剣士「だが……あの国王の息子なのだろう?」
后「……私もあの人達の子供よ」
剣士「…… ……」
后「疑う訳じゃ無いけど。わからないわよ。何も」
后「『過去』も『未来』も……全てを確実に、知れる者なんていないのよ」
剣士「……だが、可能な限り、知らねばならん」
后「……そうね。私達にはその義務がある」
剣士「今日はもう休め……無理だけはするな」
后「書庫に居る魔王にも伝えて置いて頂戴。行くんでしょ、貴方も」
剣士「……使用人にも、だな」
后「使用人も居るの?」
剣士「魔王がそこら中に本を散らかすからな」
后「……殴って良いわよ、って言っておいて」
剣士「必要無いだろう」
后「……御免って言っておいて」
剣士「承知した」

スタスタ、パタン

后「全く、あの馬鹿は……」ハァ
后(…… ……)ペラ
后(『可能な限り紐解く』か…… ……限界はあるわよ、魔王)
后(それに、その事実が……この子)ナデ
后(勇者に……伝わるのは……)ハッ
后「……次で終わるのなら、どうやって伝えるのよ!?」
后(『勇者』が『魔王』を倒してしまえば、魔王は愚か)
后(私達も……『魔』その物が居なくなる……!?)
后(……否、それすら確証の無い話……でも……)
后(『魔の王』に命を与えられた者……使用人も……!)
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
628 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 11:56:05.24 ID:gjEhcpBoP
后「……あ」
后(そうだ。前にも話し合ったじゃないの)
后(……『紫の魔王』はもう居ない。『紫の魔王の側近』も)
后「違う!」
后(『紫の魔王の側近』に魔としての命を与えたのは、『赤の魔王』)
后「……でも、役割が……そうよ。やる事が残ってた、から」
后(『金の髪の勇者』を育てる? それ以上に……『紫の魔王の瞳』を吸収したから)
后(役割……使用人は『血を受け継ぐ者』)
后「…… ……誰に?」
后「検証だけならば、全てを私達が受け取れば、彼女の役目は終わる!」ガタッ
后「…… ……私達が、今からやろうとしている事」
后「『知ろう』としている『知』は」
后「……誰に、繋げるの……ッ !?」
后(……ま、さか……ッ)

バサバサッ ガタンッ
タタタタ……ッ

バタン!

……
………
…………
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
629 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 12:08:23.63 ID:gjEhcpBoP
ピィ……ッ 
チチチ…… パタパタ……

カチャ

側近「癒し手?」
癒し手「ああ、おはようございます側近さ……ッ」

ビュゥ……ッ

側近「……ッ 窓が、空いてるのか」
癒し手「きゃ……ッ す、すみません!」

パタン

側近「否、良いんだが……どうした?」
癒し手「魔王様と王子様に、小鳥を飛ばしたんです」
側近「……もう?」
癒し手「……確かに、始まりの国を出て一週間、ですけど」
側近「…… ……」
青年「あー。あー」
側近「……まあ、な」
癒し手「御免ね、お待たせ、青年」ギュ
青年「まー ……ァ」
側近「……生後半年、位に見える……か?」
癒し手「比較対象が居ないので、何とも……」
青年「あー!」ヨチ、ヨチ
側近「!?」
青年「あー♪」ギュ
側近「…… ……」ギュ
癒し手「……産まれて、三ヶ月ほどで、あの国を出る決断をしたのは」
癒し手「ギリギリ、だったのかもしれません」
側近「おはよう、青年」ダッコ
青年「キャッキャ」
癒し手「……流石に、半年じゃ歩きません……よね」
側近「お前は、どうだったんだ」
癒し手「人の子に比べると、随分成長が早かった、としか……多分」
側近「……まだ、抱いて出れるな」
癒し手「殆ど、港街の中……見れませんでした」ハァ
側近「……毎日毎日、俺達が驚いている位だ」
側近「行ってくるか? ……遊んでいるが」
癒し手「いえ……ある程度側近さんが教えて下さいましたし」
癒し手「……此処は、私達の顔も随分、知っている人が多いです、から」
側近「そうだな……」
癒し手「でも、船で着いた夜に、三人でご飯食べに行けましたし」
癒し手「……充分ですよ」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
630 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 12:16:18.59 ID:gjEhcpBoP
側近「教会は……残念だった」
癒し手「……仕方ありません。思い出は詰まっていますけど」
癒し手「娼婦様の像も、お墓を移して貰うときに……一緒に埋めて頂きましたし」
側近「……立ち入り禁止、とはな」ハァ
癒し手「……それより、私は……まだ、未だに」
癒し手「魔除けの石が販売されている事に驚きました」
側近「観光みやげの様な物だろう。魔導の……否、書の街では」
側近「流石に、生産も禁じられて長いと聞いたしな」
癒し手「定期便も復活したんですよね?」
側近「ああ。図書館も建て直ったそうだしな」
癒し手「では……早い内に行きましょうか。長居はできそうにありません」
癒し手「できる限り、知識は仕入れたかったのですけど……」
側近「……大丈夫だ。剣士が居る」
癒し手「…… ……」
側近「あ、否……自分の目で見てみたい、と言うのは、勿論……解る、んだが」
癒し手「いえ……良いんです」
側近「…… ……すまん」
癒し手「あ……こ、こっちこそご免なさい!」
側近「ぐずり出す前に出よう。船の時間ももうすぐだ」
側近「……朝一の便なら、人も少ないだろうし」
側近「一泊したら……否。出来るのならもう少し……」
癒し手「昨日ヨチヨチ歩いてたと思ったら、明日には喋ってる、なんて」
癒し手「洒落にもなりません……大丈夫です」
青年「あーあー」ムニ
側近「いてっ ……抓るな、青年」
青年「キャッ」
側近「…… ……?」
癒し手「側近さん?」
側近「否…… ……」
側近(……気のせいか。随分と……瞳が、蒼く見える……?)
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
631 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 12:26:06.98 ID:gjEhcpBoP
おひるごはーん
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
633 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 13:30:05.04 ID:gjEhcpBoP
>>632
今日はミートソース作ったよん
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
634 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 14:14:59.02 ID:gjEhcpBoP
側近「……せいれんろひろひが」ムニー
側近「…… ……」
青年「あー♪」
癒し手「青年、ほら……お父さんのほっぺた離して」プッ
側近「こいつの瞳、こんなに蒼かったか?」
癒し手「え? ……ああ、船でも思いましたけど……光の加減じゃ無いですか」
癒し手「加護は、何れ解りますよ……気になりますか?」
側近「……いや、気にしても仕方無いことは解ってる、んだが」
側近(何だ……? この、違和感…… ……?)
癒し手「緑なら……貴方。蒼なら私……」
癒し手「……優しい子に、なってくれれば、それで良いです」
癒し手「加護なんて……どちらでも」
側近「……ああ」

……
………
…………

王「……ん、ぅん……ッ」
王(真っ暗だ……随分と、息苦しい……)
王(……これは、何だ。此処は……何処だ?)

ボコボコボコ……ッ

王「!」
王(地面から、何かが……ッ)

ズル……ッ ザァッ

王「ひ、ィ……ッ !?」
王(手……、朽ちた、腕……ッ!?)

ガシッ

王「うわああああああああああああああああああッ」
王「は、離せ!離せぇえええええええええええええええええええ!!」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
635 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 14:21:11.76 ID:gjEhcpBoP
秘書「おぉ、ううぅ……王……ッ」
王「ヒ……ッ」
秘書「……う、して。どうして母親様を殺した!」
秘書「旧貴族達を、私を……ッ」
秘書「どうして殺したんだ!!」
秘書「……どうして。どうしてえぇぇええぇ……」

ズルズル……

王「ち、違う! 母親は勝手に死んだ!」
王「あの狂人は、僕が殺したんじゃ無いッ は、はなせ……ッ」
秘書「なぁんでぇ……殺した……ッ」
王「僕じゃ無いって言ってるだろう! そ、それに、旧貴族、達は……ッ」
王「あれは、僕じゃ無い! 手を下したのは、僕じゃ……ッ」

ボコボコ……ッ ズルズルズル……ッ

見張り「じゃあ…… だれ、なん……で、す……?」
王「うわああああああああああああああ!」
見張り「……見て、ください。手……」
見張り「びくとも、しない……堅い扉……」
見張り「叩いて、叩いて……ッ もう、骨が見えて……ッ」
王「…… ……ッ や、やめろッ やめてくれ……ッ」
見張り「……飢えて、渇いて、喉が、ほら!」

ガバッ

王「! や、やめろ、離せッ 抱きつくな……ッ」
見張り「見てくださいよぉおおお…… 喉、かいてかいて……爪が、もう……」
秘書「人殺し! ひぃとぉごろしぃいいいい!」
王「違う!違う! 僕じゃ無いんだ!僕じゃ……ッ」
王「……ッ 助けてくれ、衛生師……ッ」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
636 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 14:34:19.50 ID:gjEhcpBoP
チカチカチカ……ッ
シュゥ……

衛生師「……命令、ですから」
王「衛生師……ッ」ホッ
衛生師「『不必要な力に訴える事はしない』って少女に約束したから」
衛生師「僕に、貴族達を煽るように命令したんでしょ?」
王「え、衛生師…… ……?」
衛生師「結局、捕らえて牢に入れる時には、みんな」
衛生師「……貴方の命令で、死体だったんだ。王様」
衛生師「ずっとあの中に居た狂人と、秘書は気がつかなかったかもしれないけど」
衛生師「……凄い匂いがしてたんですよ。地下牢」
王「や、やめろ……ッ」
衛生師「確かに、貴方はご自分の手は汚されていない」
衛生師「身寄りの無い見張りを近衛兵団の一員に迎えたのも」
衛生師「怨みを吐く貴族達の息の根を止めたのも、僕だ」
衛生師「……『君にしか任せられない』って、当然だよね」ハァ
衛生師「僕と貴方しか、知らないんだ」
見張り「ひとごろし……ひとごろしぃ……ッ」
秘書「そうして最後は、場所毎隠蔽し満足かッ」
秘書「人殺し!」
王「や……ッ やめろぉぉおおおおおおおおおおおおお!」
秘書「呪ってやる!怨んでやる!」
秘書「健やかに歩んでいけると思うな、『最後の王』よ!」
王「な……ッ  に……ッ!?」
秘書「少女とお前に、幸せなど訪れやしない」
秘書「末代までも、祟ってやる! 呪ってやる!」
秘書「忘れるな!王ッ!」

……
………
…………

王「うわあああああああああああああああああああああああ!!」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
637 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 14:41:15.70 ID:gjEhcpBoP
少女「王様!」
王「……ッ」ハッ
少女「……大丈夫、ですか」
王「…… ッ ひ……ッ …… ……あ、ァ……ッ」
王「……少女、か」ハァ
少女「また、酷い夢を?」
王「……いや……あ、ううん。大丈夫……です」フゥ
少女「……水をお持ちしま……ッ」
王「…… ……」ギュッ
少女「痛……ッ」
王「…… ……」
王(毎晩……同じ、夢を……見る)
王(……『最後の王』って、何だ)
王(僕は……ッ)
少女「……王様?」
王「……もう少し、こうしてて」
王(暗い中で見ると……少女の顔が……瞳の色が、一瞬)
王(……茶色く、見えるときがある)
王(表情も、何もかも似ても似つかないと言ったのは、僕なのに……ッ)
少女「……それは構いません、けど。何時戻られたんです」
王「……黙ってて」
少女「…… ……」
王(呪い等……ッ 祟り等、あるものか! 信じる物か!)
王(……秘書は、もう死んだんだ。死んだはずだ)
王(衛生師だって……僕に、あんな感情を、言葉を向けたりはしない)
王(……王、だ。僕は、王なんだッ)ギュッ
少女「…… ……ッ」
王(『最後の王』だと!? ふざけるな……ッ)
王(僕は、少女と……子供を……ッ 次の、王を……ッ)グイッ
少女「きゃ……ッ」ドサッ
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
638 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 14:45:37.02 ID:gjEhcpBoP
少女「お、うさ……ッ ……んッ!」
王「少女、少女……ッ」チュ、チュ……ッ
少女「ん……ゥ」
王「……ッ 少じょ…… ……!?」

秘書『呪ってやるぞ、最後の王よ……!』

王「うわああああああああああああああああああ!」

ドンッ

少女「きゃッ !?」
王「……あ、ァ……ッ」

バタバタ……ッ バタン!

少女「…… ……? ……ッ」ズキッ
少女(打った、か…… ……ッ)

コンコン

衛生師「僕だ、少女」
少女「……衛生師、様?」
衛生師「王様は居ない……入るよ?」
少女「あ、ああ……」

カチャ

衛生師「……酷い顔色で、王が自室に駆け込んでいったから」
少女「……ああ、そうか」
少女(此処は……私の、部屋……だ)
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
639 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 14:56:26.95 ID:gjEhcpBoP
衛生師「……適応は得意だと思ってたけど?」
少女「……王の悲鳴で目が覚めた、からな」
衛生師「今日は珍しく君の部屋を訪ねると言って玉座を立たれたからね」
少女「……見に行かなくて良いのか」
衛生師「屈強な近衛兵二人がかりで暴れる王様を押さえ込んだんだ」
衛生師「……医師に鎮痛剤を打たれて、今頃眠ってる……と」
衛生師「思いたい、けどね」
少女「……酷くなっている、な」
衛生師「…… ……」
少女「しかるべき治療を受けさせる必要があるんじゃないのか」
衛生師「……本人が嫌がるんじゃ、仕方が無いだろう」
少女「『命令』が無いと……動けないか」
衛生師「珍しいな。嫌味か?」
少女「……ご免なさい」
衛生師「…… ……否。僕こそ済まない。君の言う通りだ」
少女「もう、随分になる」
衛生師「何が?」
少女「……何もかも」
衛生師「…… ……」
少女「城を許可無く立ち入れなくしたのも。私が部屋を与えられたのも」
少女「……広すぎる鳥籠の中の、自由をてにしたのも」
衛生師「……今日の君はやっぱり、少し皮肉めいているな」
少女「一つも言いたくなる……さっき、酷い顔色をしていたと言ったが」
少女「……鏡を見たか? 貴方も、王の事等言えない程だ」
衛生師「心配してくれているの」クス
少女「…… ……」
衛生師「……明日、王子様が城に来る」
少女「?」
衛生師「『広すぎる鳥籠の中は自由』何だろう?」
少女「…… ……私に、王子様に会えと?」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
640 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 15:10:11.27 ID:gjEhcpBoP
衛生師「……黒い物が見えた、んだそうだ」
少女「黒…… ……?」
衛生師「僧侶さん曰く、ね」
少女「……彼女は、何者だったんだ」
衛生師「え?」
少女「……人間離れした美しさだった」
衛生師「まあ、それは認めるけど……何、急に」
少女「青年の瞳が『蒼』に見えると言ったとき、王はほっとした顔をしていた」
衛生師「……?」
少女「金の髪に緑の瞳だと聞いていたんだ」
衛生師「……僕も、そう聞いているけど」
少女「……戦士の瞳は、緑だったな」
衛生師「青年は僧侶さんにそっくりだったよ?」
少女「それは私もそう思う……否、何が言いたいのか解らなくなった」
少女「……王は。戦士と仲が良くなかった、のか?」
衛生師「さあ……そもそも殆ど接点が無い、だろう」
少女「…… ……」
衛生師「どうした。君らしくないな……要点を得ない」
少女「……上手く説明出来ん。が……」
衛生師「ばったり会う可能性が無いとは言えないかもね、って」
衛生師「……それだけ、言っておこうと思っただけだ」
少女「…… ……」
衛生師「戦士君達が旅立って、城の改修も終わって」
衛生師「…… ……魔物も、強くなってきた」
少女「?」
衛生師「また、醜い戦争が起こるとは思わない。思いたく無い。だけど」
衛生師「…… ……」
少女「…… ……」
衛生師「……戻るよ。施錠はしっかりね」

カチャ、パタン
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
641 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 15:24:18.39 ID:gjEhcpBoP
少女「……施錠、ね」フゥ

カチャ

少女(この部屋に用事があるのは、王と衛生師しかいないだろうに)
少女(……始まりの国の国民が、自由に城に入れない以上)
少女(王の傍仕えは、少数精鋭の近衛兵のみ)
少女(……私に、誰が用を覚えると言うんだか)
少女「王子様、か……」
少女(……私に、何をさせようとしているんだ、衛生師は)

……
………
…………

カチャ、バタン

剣士「すまん、待たせたな」
使用人「いえ……あら、魔王様は?」
剣士「…… ……」
后「? どうしたのよ」
剣士「……これを」カサ
使用人「手紙……ああ、癒し手様からですか?」
后「小鳥は? また魔王突っついてるの」クス
剣士「……否。死んだ様だ」
使用人「え!?」

カチャ

后「魔王!? ……癒し手の小鳥は……!」
魔王「……霧散したよ。何時もみたいに水をやったら……急に、苦しそうにして」
魔王「…… ……そのまま」
剣士「魔王の魔力の及ぶ範囲にある水を、ハーフエルフの力の具現でしかない小鳥に与えたから、か?」
后「待ってよ、今までも何度もこうして」
后「癒し手の蒼い小鳥で文のやりとり、したじゃないの!」
使用人「勇者様が……宿られた、から」
后「……そ、んな……」
剣士「……あれは、癒し手に戻るのだろう。魔力として」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
642 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 15:55:27.54 ID:gjEhcpBoP
后「け、けど……ッ ついこの間、は何とも無かったじゃ無いの!」
后「子供が……青年が産まれた、って……金の髪に、緑の瞳の……ッ」
使用人「……状況は、毎日変化していくんでしょう、后様」
使用人「貴方のお腹の子……『次期勇者』様の……成長も」
使用人「……止まりは、しません」
后「…… ……」
使用人「………恐らく」
使用人「后様の中で新しいお命……勇者様が育ち行くに連れ」
使用人「……魔王様の身、そして力に変化が現れたのでしょう」
魔王「…… ……」
使用人「『もしくは』……癒し手様の身に、何か」
魔王「……あんまり不吉なこと言わないでくれ、使用人」
后「側近が付いてる限り……何も無いと思うんだけど」
后「二人には……子供も居るのだし、無茶はしないはずよ」
魔王「……そうだな」
魔王「何にしても……もうすぐ、だ」
后「そうね……もう、すぐ」ナデ
魔王「喜ばなくちゃいけない……んだ、后」
后「ええ……新たな、命の誕生」
魔王「勇者の、誕生。光に導かれし……運命の子」
剣士「『勇者は、必ず魔王の子』」
魔王「……おかしな話だよな……本当に、腐った話だ」
后「ええ……腐った世界」
魔王「腐った世界の、腐った不条理、か」
魔王「誰が……言ったか知らんが……よく言ったモンだよ」
使用人「……時間が無い、です」
使用人「さっそく本題です……后様、先ほどお話しされていた話を」
后「あ……ええ。そうね」ドサッ
剣士「……読んだのか、もう!?」
后「寝てる場合じゃ無い、って思ったの。大丈夫よ」
后「……続きが気になって一気に、ってのもあるけれど……」
使用人「……『誰に何を受け継ぐのか』」
使用人「私の役目は……まだ、終わらない、ですね?」
魔王「え?」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
643 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 16:04:56.61 ID:gjEhcpBoP
剣士「待て……手紙に目は通したのか」
后「……あ」
使用人「あ、ああ……そうでした」
魔王「この間の手紙は、青年が産まれた、と言う事だった」
剣士「……港街を経て、魔導国……じゃない。書の街を駆け足で巡ると書いてあった」
后「…… ……!?」カサ
使用人「后様?」
魔王「……書の街には、始まりの国に保護された少女の代わりに」
魔王「新しい代表者が立ち、図書館を新しく建て替えた」
剣士「……で、今から見に行くが『時間が無い』」
使用人「……時間が、無い……や、やはり、癒し手様の身に何か!?」
后「……違うわ。青年の方よ」カサ
剣士「図書館は……必要があれば、俺が行けば良いだろう、ともあったな」
使用人「青年様……に?」
魔王「……親である二人が驚くほどのスピードで成長している、んだそうだ」
后「エルフの血を引いてるんだもの。それほど……驚く事じゃ無い様な気はするけど」
后「……まあ、確かに何処にも、長く滞在は出来ないでしょうけど」
后「私は……こっちの方が気になるわ。はい……使用人」
使用人「え……し、失礼します」カサ
使用人「…… ……!?」
魔王「王……国王の息子だな。の顔色が悪い」
魔王「……何か、黒い物が見えた、とな」
剣士「国王自身も、それほど身体が強い方では無かったんだろう」
使用人「……しかし、これだけではどうとも判断が……できませんね」
使用人「癒し手様が何かを感じられた……と言う事は、気のせいでは無いのでしょうが」
后「……うん、そうよね」
魔王「書の街の問題は解決したのか?」
后「それこそ、手紙だけじゃわかんないわよ」
剣士「……あいつらが戻れば、俺が様子を見てくる」
剣士「俺ならば、何かあってもすぐに戻れる……だろう」
后「……そうね。どうしようも無い事を思い悩んでも仕方無い……じゃあ」
后「改めて。本題……これ」トントン
使用人「……本当にもう読んでしまったんですね」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
644 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 16:14:42.67 ID:gjEhcpBoP
后「確かに、何処にでもある『善と悪』……『勇者と魔王』の物語」
后「……類似点が多くある様な気がするのは、事実に基づいているから?」
魔王「まあ、『発想』てのはそんなモンかもしれんけども」
使用人「『物語』を真似たのが『私達の生きる世界』だと言うよりかは納得出来ますが」
使用人「それが『真実』だった保証はありませんよ」
剣士「繰り返されている、と言う事実とイコールでも無い」
后「繰り返されている?」
剣士「物語が先であるのならば、そうだろう? ……随分古そうな本だ」
魔王「まあ、どっちが先でも後でも良いけど」
魔王「……矛盾だらけなんだよな。似すぎてる」
后「あれ、持ってきた? 魔王」
魔王「ああ……なんちゃらっつー古詩な」
后「見せて…… ……」ペラ
使用人「……剣士は、人魚には会っていないのよね?」
剣士「? ……ああ、船長の父親を喰らった、て言うあれか」
后「側近……は期待できないな。癒し手が戻ったら、見てもらいましょう」
魔王「ん?」
后「魔王……覚えてる?」
魔王「最果てに着くまでに襲われた奴だろう? ……ああ、そう言えば妙な夢を見たな」
魔王「話した事の無い会話。覚えの無い状況……だけど、知ってる気がした」
使用人「魔導将軍と……北の塔で対峙した、と言う奴ですか」
后「……そう。泣いてる癒し手……僧侶を、私が慰めた」
后「『貴女、戦士が好きなのね』だったかしらね……」
魔王「そうそう。俺が側近を説得してた」
剣士「……似ている、な。前にも思ったが」
使用人「キーワードが同じですよね。『北の塔』」
魔王「え?」
使用人「此方は現実ですけど……剣士さんが鍛冶師の村に居る時に」
魔王「ああ……北の塔を訪ねてた側近と癒し手の様子を覗き見してたって奴な」
剣士「……不可抗力だ」ムッ
后「喧嘩しないの……そう、それでね」
魔王「それが何だ? 『北の塔』と『人魚』。『人魚』と『夢』が繋がってるてのは」
魔王「……ちょっと強引だぜ?」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
645 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 16:28:01.65 ID:gjEhcpBoP
魔王「しかも、この古詩……」
后「最後まで聞きなさいよ! ……『詩』よ」
使用人「詩…… ! 人魚の『魔詩』!?」
后「……流石ね使用人。そう。彼女たちの魔詩の『詩』よ」
后「この古詩を読んだとき、覚えがあると思ったの」
后「……旋律はともかく。内容は、これよ」
剣士「……偶然……では、無いな」
魔王「お、覚えてるのか? 確かなのか!? 俺にはほにゃほにゃとしか……」
后「だから癒し手に確かめるの!」
后「……魔王も、側近と同じぐらいアテにならないでしょ、その辺は」
魔王「お前、酷いな……」
后「反論できる?」
魔王「……」ショボン
剣士「最後まで読んだんだな?」
后「ええ。だから持ってきて貰ったのよ。これも」ポン
后「……ねえ、使用人は随分前だって言ってたわよね? 読んだの」
使用人「え、ええ……うろ覚えなので、もう一度后様が読まれたら、とは思って他のですが」
后「取りあえず、一番最後。見て」
使用人「……?」ペラ
后「……逆さまになってるだけなのよ。この古詩」
使用人「あ……!」
魔王「それは、俺も剣士も気がついた」
剣士「まずがこの『名も無い古詩』で、『顔色の悪い蒼空』と名付けられたこの神話……童話?だ」
使用人「…… ……どう、して……気がつかなかった、のでしょう……」
后「……『表裏一体』よ」
魔王「実は『この世界は、小説でしたー』なんて落ちだったらなぁ……」
后「あのね……」ハァ
使用人「……『繰り返される運命の輪』」
剣士「?」
使用人「そこから、はじき出された者は……存在するんでしょうか」
后「え?」
使用人「あ、いえ……『世界』がこうして、『勇者と魔王』を繰り返して……」
使用人「……いえ。紫の魔王様が出発点である以上、まさか、あり得ませんね」
使用人「終わりはともかく、始まりは確実にあるんです」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
646 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 16:39:18.50 ID:gjEhcpBoP
剣士「何でも良い……思いついたことは、言ってみろ」
使用人「……運命の輪が回り続けている、と仮定して」
使用人「『世界』その物が、何度も何度も……と……いえ」
使用人「……いくら何でも、荒唐無稽、です」
魔王「良いから!」
使用人「……ッ そ、その、『運命の輪』からはじき出された者が」
使用人「もし、何らかの方法で居た、としてです」
使用人「……著者が、そう言う者であったなら、と」
后「……まあ、論理も糞も無い」
使用人「すみません……」
魔王「后……」
后「あ、ご、ごめんなさい! 馬鹿にしてる訳じゃ無いのよ!」
后「……余りにも使用人らしくないな、と思ったから……」
剣士「……何故、そう思うんだ?」
使用人「……『夢』です」
魔王「夢?」
使用人「ええ……魔王様と、后様、側近様……癒し手様が見た、夢」
使用人「……それが『以前の運命』の一部分だったら、と……」
使用人「…… ……」
使用人「……すみません」
魔王「謝る事じゃ無い……確かに、矛盾が解消された訳じゃ無いけど」
魔王「……成る程。『前』の俺達……か」
后「……まあ、嘘だ! ……とは言えない、かな」
剣士「だが『始まり』は確かにあったんだろう?」
使用人「それが『紫の魔王様』と仮定して良いのなら、です」
使用人「……あれも、その一部であったのなら?」
剣士「ん……」
后「……まあ『勇者と魔王』だけが繰り返す、とは」
后「名言されて無いもんね……」
剣士「……さっきの、使用人の役目が終わらない、と言うのは?」
后「ああ……そうそう。前にも話したかもしれないけど」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
647 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 16:48:35.62 ID:gjEhcpBoP
后「紫の魔王の側近が、赤の魔王のが死んでも、居なくならなかったのは何故?」
后「……紫の魔王の瞳を与えられたのは、随分後、よね?」
使用人「私も、ですね。紫の魔王様はもう、いらっしゃらないのに」
魔王「……役目があったから、って言ってなかったか」
后「そう。そこよ!」
剣士「……『知を受け継ぐ者』……そうか『誰に』だ」
后「もしかしたら……この子、が」ナデ
后「魔王を倒したときに、使用人は…… ……」
使用人「はい。消えてしまう可能性は高いでしょうね」
后「それなら、私達が『受け継ぐ』のかもしれないわ」
后「……でも。こうやって、推測するだけ……よ。もう」
魔王「……まさか、何か隠してる……なんて事は無いわな」
使用人「当然です!」
剣士「責めている訳じゃないだろう」
使用人「…… ……」
后「まだ、受け継ぐ者が……そうしないといけない必要があるのかもしれない」
后「……だ、とすればよ?」
魔王「! ……終わらない可能性が高い、のか!?」
剣士「倒した後に、勇者に伝えなくてはいけない、と言うのは」
魔王「可能不可能はともかくとして、だ」
魔王「……勇者の物心がついたときに、告げたって一緒だぜ、それだと」
后「……言い方、悪いけど。生き残っているのは使用人だけなのよ」
后「……貴女、も。『特異点』の一つなのでは無いの……かしら?」
使用人「私が!?」
剣士「そもそも、特異点って言う物の意味が曖昧すぎる」
剣士「以前の『勇者一行と違う』と言うだけであれば」
剣士「確かに……『エルフの娘』はそうだろうが」
魔王「……三人、魔に変じてるからな。今回は二人……」
剣士「それに……『大海の大渦の島』の三人」
剣士「あれも『勇者一行』と取る事もできる」
使用人「え?」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
648 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 16:57:43.96 ID:gjEhcpBoP
后「……まあ、確かに魔王を倒しに旅立ってる、わよね」
魔王「光の加護を持つ『勇者』は居なかったが」
魔王「……成し得ていたら『勇者になっていた』んだもんな」
使用人「そんな事言ってしまえば、言葉遊びの域になりますよ」
使用人「そもそも、勇気のある者、英雄……でしょう、『勇者』って」
后「まあ、そう言う『種族』じゃないもんね」
剣士「……この、神話……童話、の勇者一行も……三人だ」
魔王「こじつけすぎ……ってのは、早計なんだろうな」ハァ
剣士「しかも、一人ずつ……死んで行く」
后「……最後、読んで吃驚したわよ」
魔王「俺もだ」
使用人「……繋がりますよね。古詩と」
剣士「…… ……検証、か」ハァ
魔王「ん?」
剣士「否……今更、だが。意味はあるのか、と」
后「アンタ、そんな事いったら……」
使用人「……本当の真実なんて、わかりません。確かに」
使用人「過去に戻る事なんか、誰にも出来ないんですから……」
后「使用人まで!」
魔王「……まあ、な」
后「魔王!?」
魔王「……いや、そりゃさ。出来るだけ紐解いてやりたいよ」
魔王「次、の為に。『勇者』の為にさ……でも」
魔王「まさか、俺達が今知り得る事全てを」
魔王「……最初っから最後まで、伝えてやる事は……出来ない、だろう?」
后「……そ、りゃ…… ……そう、だけど」
剣士「何もしないよりは良い……こういう、話し合いに」
剣士「……もしかしたら意味は無いのかも知れないと言う事には」
剣士「少なくとも、気付けた」
魔王「……なんか、すまん。俺から言い出しておいて」
剣士「……だが、知りたいと思う事は事実だろう」
后「そうね」
使用人「…… ……あ、の」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
649 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 17:08:12.69 ID:gjEhcpBoP
魔王「ん?」
使用人「……三代分の物語、でしたよね」
后「え?」
使用人「矛盾とか、ちょっと置いといて」
魔王「あ、ああ……そうか。それで俺、勝手に次で終わりだとか思ってたんだ」
后「あ……この本ね」
使用人「はい。魔王様は確か『金の髪の勇者』『黒い髪の勇者』……現魔王様ですね」
剣士「で、産まれて来る子……で『三』か」
使用人「もし、全てが『繋がっている』……全てが『三』だとするのなら」
使用人「……『名も無き古詩』『顔色の悪い蒼空』 ……もう一つ、ある筈です」
后「それこそこじつけも……まあ、良いわ。でも三冊あるじゃない?」
剣士「……これは『三』に数えて良いのか?」
魔王「まあ……前後編、だもんな」
使用人「……エルフの話、出て来ましたよね」
后「え? ……ああ『地上であり地上でない、この世の物とも思えない楽園』……ッ」ハッ
使用人「……癒し手様は、この本から引用された、のですか?」
剣士「! ……ッ 違う!」
魔王「え?」
剣士「……遙か南の小さな島だ。船長と訪ねた事がある」
剣士「癒し手にそっくりの……エルフの娘の像だという、ものを見た」
剣士「……何かが引っかかると思っていたが、俺が紫の魔王の欠片ならば」
剣士「俺が…… 何かを『知っている』と思ったエルフは『姫』だ」
后「…… ……」
剣士「その時にその言葉を、聞いた」
使用人「……ならば、これが『三冊目』かもしれません」スッ
后「エルフのお姫様のお話……でも、これ……紫の瞳の魔王が書いたんでしょう?」
使用人「……紫の魔王様も、この運命の輪の一部であるのなら?」
魔王「……それすら、必然だと?」
剣士「……この腐った『世界』を作った『神』とやらは」
剣士「随分と酔狂な…… ……『奴』だな」
使用人「……今、思い出しました」
后「え?」
使用人「ご本人から聞いたのか……姫様か誰かに言われて」
使用人「それを、人様の口から耳に入れたのか、忘れてしまいましたが」
使用人「……紫の魔王様が、口にされたのは、確かです」
魔王「……何を?」
使用人「……『顔色の悪い蒼空』だと」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
650 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 17:19:44.04 ID:gjEhcpBoP
后「…… ……」
魔王「…… ……」
剣士「…… ……」
使用人「……それに」
后「?」
使用人「『三代』の初めが、『金の髪の勇者様』とは限りません」
魔王「え!? でも……」
使用人「……彼も確かに『始まり』とも取れます……でも」
剣士「……人の命の理において……産まれた者では無い、な」
后「!」
使用人「『勇者が魔王になり、それを倒した者』は……」
魔王「……俺が『始まり』か。それで行くと」
后「それは流石に考え過ぎよ!」
使用人「でも確実な『繰り返し』は貴方からですよ、魔王様」
使用人「……次代があり、その次もあるとするのなら」
使用人「確かに私は、まだ死ねません」
剣士「……否定はできん、な」
后「そ……んな……ッ」
使用人「…… ……」
剣士「……書の街へ行く」
魔王「あいつらが帰るまで待つんじゃ無いのか」
剣士「此処にある本もあらかた読んだ……これ以上、話しても」
剣士「答えなど出ないだろう」
后「……何時でも戻れるわ。剣士なら」
使用人「……新たなキーワードも手に入れたんです」
使用人「私は、賛成です……違う目で、外を見られるのも良いんではないでしょうか」
魔王「使用人……」
使用人「……それに、正直……癒し手様に接触しない方が良いと思います」
后「……そうね。勇者を宿したことで、私の力も強くなっていくんでしょうし」
魔王「……母さんがそうだったから、か?」
后「そう……それに、魔王もね」
剣士「……勇者が産まれてしまえば、お前こそが俺の『脅威』になるかもしれん」
魔王「…… ……」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
651 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 17:31:12.20 ID:gjEhcpBoP
剣士「文の……小鳥のタイムラグを考えれば」
剣士「……今発っても、あいつらとぶつかることは無いだろう」
后「戻って……来る、わよね?」
剣士「…… ……」

シュゥン……ッ

魔王「…… ……」
使用人「……魔王様?」
魔王「いや……『三人』か、と……思ってな」
后「……捕らわれ過ぎよ」
魔王「なら良い……否、そうだよな」
使用人「……そこに私を含めるのが、そもそも間違えて居ます、魔王様」
魔王「……『傍観者』」
后「え?」
魔王「いや、さっき使用人が言ってただろう」
魔王「……もし、弾かれた奴が居るのなら」
后「…… ……」
魔王「案外、使用人だったりしてなーって……」
使用人「……だったら、どうして私が此処に居るんですか」
后「ね」
魔王「……そ、っか」ハァ
后「そんなに落ち込まないの。意味はあったわ」
魔王「……だと、良いけどな」
使用人(皆、何かを『産みだしている』)
使用人(……確かに、私には役割はある……だけど)
后「……使用人?」
使用人「!」ハッ
使用人「疲れたでしょう……お茶にしましょうか」
后「そうね。なんか食べないと気持ち悪くなってきた」
魔王「……食えるのか?」
后「『食べづわり』って奴よ……食べてるとマシになるの」
使用人「すぐに何かご用意しますね」

スタスタ、パタン
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
652 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 17:41:31.07 ID:gjEhcpBoP
使用人(……私、だけ?)
使用人(違う……何か、忘れてる)
使用人(……なんだろう。違う……筈、なのに)
使用人(…… ……)ハァ
使用人(私は、何時まで生きれば良いのですか、紫の魔王様)
使用人(……もう、悠久の空へ。世界へ……還られた、のですか)
使用人(否。それで良い……それが、彼の幸せならば)
使用人(……永年に近い『生』終わる迄貴方の傍にと)
使用人(『全てが終わる迄見届ける事』……それが、貴方の望みであるのならば)
使用人(喜んで従います。ですが……)
使用人(……私だけ、繰り返さない?)
使用人(私が、特異点…… ……まさか)
使用人(……特異点。どう言う、意味なのだろうか)ハァ

……
………
…………

王子「成る程」ハァ
少女「…… ……」
王子「許可の無い者の城への立入禁止……なんて言うから、病気かと思ったら」
少女「……病気です。ある意味……と、言うか。立派な」
王子「偶に、ね」
少女「?」
王子「ふらっと衛生師が来るんだよ、家に」
少女「え?」
王子「まあ、街の視察なんか兼ねて、何だけど」
少女「……彼は、何を」
王子「俺には良く解らない、取り留めの無い愚痴をこぼしてくだけだ」
少女「……あ、の」
王子「ん?」
少女「王子様、は城では……生活されないのですか」
王子「……まあ、王のそんな様子を聞いたら、ね。気にはなるけど」
王子「でも、俺が傍に居ると……余計こじれる気がするよ」
少女「…… ……」
王子「……今になって、やっと女剣士様の気持ちが少し、解った気がする……なぁ」
少女「え?」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
653 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 17:46:38.38 ID:gjEhcpBoP
王子「……血が繋がってる。俺の大事な……弟の、息子。甥っ子だ」
王子「助けてはやりたいよ。でもな」
王子「……近くにいると、やっぱり過保護になるんだよな」
少女「…… ……」
王子「駄目だ、と思いつつ……だから」
王子「少し、離れて居る方が良い、とも思う。けど」
王子「…… ……」
少女「あまり……その」
王子「ん?」
少女「……仲が良い風には、見えませんでした」
王子「……うん、そう、だな。そうかな」
王子「せめて……あいつからは逃げないようにしようと思ったんだけどな」
少女「え……」
王子「……否。それより」
少女「? ……はい」
王子「……最近、あんまり良くない噂が、ね」
少女「王、の事ですか」
王子「まあ、急に立入禁止、になんてなっちゃったから……病気じゃ無いのかってのも」
王子「勿論あるんだけどね……」
少女「……? 何です」
王子「……まあ、その。知人から聞いたんだ」
少女「?」
王子「書の街での噂、なんだけどさ」
少女「……ッ 私、の事ですか」
王子「……一向に、少女と王の結婚話が聞こえないのは」
王子「君が死んだからじゃ無いか、とね」
少女「…… ……そ、れは」
王子「……御免」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
654 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 17:52:40.60 ID:gjEhcpBoP
少女「仕方ありません」
王子「え?」
少女「……戴冠式へと言い出て行った途端」
少女「私と姉……秘書と揃って帰って来ず」
少女「しかも、旧貴族達は捕らえられた」
少女「……言い方は悪いかもしれませんが、処刑されたのではないか、と言う」
少女「噂で無い事に……驚きました」
王子「……半々、かな」
少女「でも、正直……誰も悲しんでいないでしょう?」
王子「少女……」
少女「私も秘書も含め、『旧魔導国の貴族達』です」
少女「……平和に安堵こそすれ」
王子「…… ……」
少女「ありがとうございます」
王子「え?」
少女「……もう、未練は無かったけれど……ほっとしました」
少女「街の様子も、ご存じですか?」
王子「聞いただけ、だけど」
少女「差し支えなければ、聞きたいです」
王子「……一日だけの滞在だったらしいけれど」
王子「定期便も復活したそうだし……図書館を訪れる人も多いのだそうだよ」
少女「そう……ですか」
王子「残念ながら、鍛冶師の村との直通便は無くなったままだけどね」
少女「ですが、港街を経由していけるのでしょう?」
王子「みたいだよ」
少女「……広く、誰もが気楽に利用できる図書館ならば」
少女「本も喜びます」
王子「……領主の館にあった古書なんかも、あるらしい」
少女「え……」
王子「……流石に、持ち出しは禁止みたいだが。まあ、価値のある物だろうしね」
少女「……無事、だったのですか?」
王子「無事だったものを避けて置いたんだそうだ。衛生師がそう言ってた」
少女「彼、が」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
655 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 17:59:48.07 ID:gjEhcpBoP
王子「……後、あ、いや……」
少女「……?」
王子「さっきの話に戻るけど」
少女「? はい」
王子「……噂の話を衛生師に伝えたら」
少女「ああ……母親様と……秘書が死んだと言う話、ですか」
王子「…… ……」
少女「王は、地下牢に続く廊下の扉を、塗り込めてしまいました」
王子「え!?」
少女「……もう、牢など必要無いだろうと」
王子「…… ……そう、か」
少女「王子様。私も聞きたい事があります」
王子「何だろう」
少女「……王に子供が出来なければ、この国は……青年が継ぐのでしょうか」
王子「……何、急に」
少女「何時からか……ああ、戦士さん達が旅立たれた位から」
少女「……王は、私を抱かなくなった」
王子「……ッ」
少女「露骨な話で申し訳ありません。ですが」
少女「……何と言うのか。その。途中で……駄目になったり」
少女「どこか……怯えた顔で、私を見るように……その、避ける様に」
王子「……まあ、うん。さっきの……病気の話、だな」
少女「……はい」
少女「あれでは、相手が私で無くても、多分…… ……」
王子「…… ……」
少女「青年の瞳が蒼に見えると」
王子「え?」
少女「……私がそう言うと、随分とほっとしておられた」
少女「戦士さんには全く似ていない。僧侶さんにうり二つだ、とも」
少女「……嬉しそうに」
王子「固執……していた、のか」ハァ
少女「何か……あったのですか」
王子「うん……まあ、否」
王子「……大丈夫だ、間違い無く……彼が『王』だよ」
少女「え……?」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
656 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 18:10:12.34 ID:gjEhcpBoP
王子「しかし……そうか」
王子「……『国』を考えると、世継ぎ問題どころか」
王子「まあ……その、婚姻そのもの、もな」
王子「問題にはなってくる、んだろうけれど……」
少女「……『血』に拘るの……ですか? やはり」
王子「…… ……君達に言われると、重いね」
少女「すみません」
王子「謝る事じゃ無い……だが、『王』を絶やす訳には行かない、んだ」
少女「え?」
王子「……否、何でも無い」ハァ
少女「私の問題か、彼の問題か……」
少女「……今の彼は、解らない。だけど」
王子「?」
少女「以前の……『今と比べてまだまともだった』彼と私に」
王子「…… ……」
少女「子を授からなくて、良かったのでは無いかと……私は思います」
王子「それは……何故?」
少女「解りませんか……?」フッ
少女「……きっと、私を独り占めできなくなると……」
王子「!」
少女「同じように狂っていただろうと……思います」
王子「…… ……」
少女「あの人は、無条件で妄信的に……狂おしいほどに」
少女「自分だけを愛して欲しいのだと、言っていました」
少女「……彼は、子供だ。確かに頭は良いのだろう。優しいだけでは……と」
少女「王にはなれない。衛生師もそう……言っていました」
少女「彼の純粋さは残酷だ。子供や……魔物のそれとは……また、違う意味で」
王子「…… ……」
少女「……『知』を持つ者の残酷さは、恐ろしいです」
少女「確かに彼は『王』だろう。だけど……」
王子「……もう、良いよ」
少女「! ……す、すみません!」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
657 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 18:16:38.89 ID:gjEhcpBoP
王子「否、違う……君を責めたい訳でも……反論とか、したい訳でも無いんだ」
王子「……酷く不安定なところがあるとは思っていた」
王子「だけど……どうして、ああまでなってしまった、のか」
少女「会った、のですか」
王子「……ああ。ちらっとだけ、ね」
少女「……わかりません」
王子「君の所為では無い……これは、国王とか、俺とか……」
少女「…… ……」
王子「『大人』の所為だ」
少女「……しかし」
王子「勿論、彼自身にそう言う因子があってこそであろう事は……ね」
王子「だけど……俺達は、意図して彼を……『王』から遠ざけていた」
王子「……なのに、結局は『血』だと、強引に押しつけた」
少女「…… ……」
王子「君達を……下らないと、蔑んだのも、俺達だ」
王子「……身勝手な、大人だ」
少女「……選ぶのは、彼自身です」
少女「彼は何かに……負けてしまった。多分……」
少女「……自分の弱さに」
王子「…… ……」
少女「だけど、それは責められない」
王子「……ああ。選ばしてしまった一端は……」
少女「…… ……」
王子「ああ、そうだ」
少女「え?」
王子「……旅立つ前の僧侶に言われたんだ」
少女「黒い物?」
王子「聞いてたのか」
少女「……はい。衛生師から」
王子「イメージだ、とは言っていたが……」
少女「勘の鋭い方、何でしょうね、僧侶さんは」
王子「……なの、かな」
魔王「真に美しい世界を望む為だ」
658 :1 ◆Vwu55VjHc4Yj []:2014/01/13(月) 18:17:36.68 ID:gjEhcpBoP
おふろとごはんー!


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