- 忍法帳lv確認
973 : 忍法帖【Lv=2,xxxP】(1+0:8) []:2013/03/29(金) 00:23:48.07 ID:50PIhiUx0 - test
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- 忍法帳lv確認
976 : 忍法帖【Lv=2,xxxP】(1+0:8) []:2013/03/29(金) 00:28:01.24 ID:50PIhiUx0 - test
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- 忍法帳lv確認
999 : 忍法帖【Lv=2,xxxP】(1+0:8) []:2013/03/29(金) 01:27:25.29 ID:50PIhiUx0 - てすと
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- 住所晒して近かったらセクロス
718 : 忍法帖【Lv=40,xxxPT】(1+0:8) [sage]:2013/03/29(金) 02:27:54.56 ID:50PIhiUx0 - 中野
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
1 :名も無き被検体774号+[sage]:2013/03/29(金) 02:29:21.09 ID:50PIhiUx0 - 立ったら書くよ。
もうずいぶん前の話だけどね。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
2 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:31:34.85 ID:50PIhiUx0 - その時僕は19歳で、とにかく気が滅入っていた。
第一志望の大学に落ちて、滑り止めで受けた大学に入学して、そこに馴染めず結局夏がくる前に辞めた。 7月と8月はずっと部屋に引きこもって、これからの事を考えていた。 学校を辞めたことによる、俺はもう自由だ!という万能感と、 学校にも行かず働きもせず、この先いったいどうやって生きていこう?という閉塞感を行ったりきたりしていた。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
5 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:34:35.09 ID:50PIhiUx0 - 9月に入り、このままじゃいけない、と思い、とにかく何かをする事にした。
といっても僕にはやりたい事もなければ、将来に対する夢もなかった。 しかし何かをしなければいけない。 そう思った僕は、手っ取り早く旅に出る事にした。 昔から地図を眺める事が好きだった。 それだけでどこか遠くに行ける気がしたから。 それを実現しようと思い、僕は小学生の頃から貯めていた貯金を全額引き下ろし、どこか遠くに行くことにした。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
6 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:36:37.08 ID:50PIhiUx0 - 行き先は決めていた。
東北。岩手の遠野。 もともと北国に興味があり、ちょうどその頃柳田國男の「遠野物語」を読んでいた事もあって、そこに行くことにした。 時期的に青春18きっぷが出ていたので、それを使って鈍行列車で東京から、北へ北へと向かっていった。 12時間くらいシートに座りっぱなしなので、途中で尻が痛くなった。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
7 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:39:10.63 ID:50PIhiUx0 - 始発の電車に乗って自宅から出発し、遠野に着いたのはその日の夕方だった。
駅に降り立った瞬間、真っ赤に燃える美しい夕焼けが目に入って、 それを見た瞬間、ここに来てよかったなと思った。 宿は駅から歩いてすぐの民宿を予約していた。 素泊まりで一泊2000円という破格の安さだ。 かと言って部屋がめちゃくちゃに汚いというわけでもなく、和室造りの、どこにでもあるような宿だった。 これで2000円は安い。
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9 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:41:13.38 ID:50PIhiUx0 - その日は近くの銭湯に行って旅の疲れを洗い流し、近所のスーパーで弁当と酒を買って、休む事にした。
夜の遠野を歩いて驚いたのは、まだ19時を回ったばかりだというのに、店がほとんど閉まっていて、町が真っ暗だったこと。 都会の生活に慣れた僕にとっては、外に行っても時間を潰せるところがどこにも無いという事は衝撃的だった。 そういうわけで、さっさと酒を飲んで眠ってしまおう、と思ったのだ。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
10 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:43:45.10 ID:50PIhiUx0 - 酒もロクに飲めないくせにビールを買ったのは、旅行のためテンションが上がっていたからだ。
弁当を食べ、ビールを飲み、一息つく。 それを繰り返しているうちに、だんだん酔いが回ってきて、頭がクラクラしてきた。 それと共に、再び頭の中に暗い予感が首をもたげた。 「これからどうしよう?」 勢いで遠く離れた東北の地に来たものの、今後の予定はまるで立っていない。 これから先何をしていいのかもわからない。 どう生きていけばいいのかも。
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11 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:46:02.24 ID:50PIhiUx0 - 思えば昔から何も考えていなかった。
友達が通っているから塾に通い、教師の進める高校に進学し、 妥当な大学を受験し、落ち、滑り止めの学校に通い、そこを辞め……。 周りの級友が目的を持って勉強をし、目的のために大学に入り、あるいは就職し、 という手続きを踏んでいる中、僕のやっていることはあまりに幼かった。 ただ行き当たりばったりで、目の前の事を無難にこなすだけだった。 そのツケが今回ってきているといえる。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
12 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:48:07.43 ID:50PIhiUx0 - そういった思いを飲み込むかのようにして、ビールを流し込む。
さらに酔いは回り、だんだん思考がおぼつかなくなってくる。 とにかく今日は寝てしまおう……。 そう思って僕は、ロクに着替えもしないまま、布団に倒れ込んだ。 朝起きると、頭がガンガンする。 飲めない酒を無理して飲んだからだ。これが二日酔いというやつか。 それにしてもあまりに酒に弱すぎる。たかが缶ビールを一缶開けただけだというのに。 こんな事じゃこの先やっていけないぞ、と思う。 何がどうやっていけないのかよくわからないけど。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
13 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:51:10.33 ID:50PIhiUx0 - 素泊まりなので朝食もない。
僕は昨日買ったおにぎりをかじり、ついでに予め持ってきた頭痛薬も飲む。 薬の効果はすぐに現れ、程なくして頭痛は治まった。 時計を見ると朝の9時。 僕は、せっかく遠野に来たんだから、という事で、観光に出かけることにした。 玄関で靴を履いていると、民宿のオーナーが声をかけてきた。 どうやら裏の自転車屋に話をつけてくれたらしく、タダで自転車を貸してくれるという。 その好意に甘え、僕は自転車を借り、それに乗って町を回ることにした。
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14 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:53:31.82 ID:50PIhiUx0 - よく旅行好きな人が「旅先での現地の人との出会いを楽しみにしている」というが、
その気持ちが僕にはまるでわからなかった。 人見知りがひどく会話も下手くそという典型的なコミュ障なので、 旅に出て誰かと会話をしようとは思わなかった。 むしろ1人で静かに町を回りたい。そう思っていたので、僕は無難に、町の観光名所を回ることにした。 博物館、お寺、僕でも知っていたカッパ淵……そういった有名なスポットを自転車で回った。 夏も終わりかけた時期だったので、観光者が少ない事が僕にとっては幸いだった。 誰とも関わらず、マイペースに遠野の町をふらふらと回った。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
15 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:55:55.99 ID:50PIhiUx0 - あちこちを巡っていたら、あっという間に時間は過ぎた。
気づけばもう夕方。再び空の色が赤く染まり始めた。 自転車を一日中乗り回していたので、僕の足は疲労でパンパンだった。 さっさと民宿に帰ろう。 そう思って帰路についていたのだが、途中に鳥居の立っている山道があった。 鳥居の奥は長い階段になっている。 どうやらこの階段を登った先に神社があるらしい。 せっかく来たことだし、行ってみるか。 そう思った僕は、自転車を止め、長い階段を登りはじめた。
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16 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 02:58:06.98 ID:50PIhiUx0 - それが間違いだった。
階段を登った先は山道になっており、足元がひどく悪い。 おまけに歩いても歩いても神社は見えてこない。 もはや疲労は限界に達している。 へとへとになった僕の目の前に、木でできたベンチが現れた。 天の助けとはこの事だ。僕はそこに座り、束の間の休息を取ることにした。 東北の9月は肌寒い。なのに僕の額には玉のような汗が浮かんでいた。 足は鉛のように重い。 とにかくその時僕は疲れきっていたので、僕のそばに近づいてくる足あとにも気づかなかった。 「あの……」
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18 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:00:51.13 ID:50PIhiUx0 - 突然話しかけられて、僕はギョッとした。
慌てて顔を上げると、そこには女の子が立っていた。 歳は16,7歳くらい。白いワンピースを着ており、黒髪を肩まで伸ばしている。 僕のイメージする「田舎の女の子」が具現化したような姿だった。 しかし元からのコミュ障と、しばらく人とまともに会話をしていなかったので、 僕はどう反応していいのかわからなかった。 そのため、 「……はい?」 というのが精一杯だった。
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19 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:03:08.35 ID:50PIhiUx0 - 「具合、悪いんですか?」
彼女は心配そうに僕に尋ねた。 どうやら僕を急病人と勘違いしているらしい。 「いや……ちょっと疲れただけだから……」 「そうですか……」 沈黙。 僕はそこからどう会話を繋げていいかわからず、曖昧な表情をしていた。 しかし女の子はそこから動こうとせず、じっと立ちつくしたまま、僕を見ている。 一体彼女はどうしたいのか?
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20 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:05:52.59 ID:50PIhiUx0 - 「観光の方ですか?」
「……うん」 「どちらから?」 「東京からです」 「ああ」 彼女は、納得がいった、というような顔をした。 「この辺りでは見かけない顔だったから」 と、彼女は言った。 それに対して、僕は無言。 こういう場合どう反応したらいいのかわからなかった。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
21 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:07:57.48 ID:50PIhiUx0 - 「隣り、座っていいですか?」
「……どうぞ」 僕が返事をすると、彼女は僕の隣りに腰掛けた。 再び沈黙が続く。 「どこか行ったんですか?」 「博物館と、お寺と……あとカッパ淵に」 「ああ、あそこは観光の方がよく行きますよ」 「静かでいいところだったよ」 「そうですか……」 また黙る。 一体この女の子は何をしたいんだろう?
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
22 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:10:01.43 ID:50PIhiUx0 - 「……高校生?」
今度は僕から尋ねた。 「はい。この山の、裏側が学校なんです」 「そうなんだ」 「どうしてここへ来ようと?」 「鳥居が立ってたから、奥に神社があるのかなと思って」 「ああ」 と言って彼女は薄く笑った。 「神社はありますが……大したものではないですよ。この先を歩いて、もっと歩いて、ようやく見えてくるんですが」 「ですが?」 「本当に小さな神社で、皆さんがっかりして帰ります」 「そうなんだ」 僕も笑った。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
23 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:12:02.78 ID:50PIhiUx0 - 「なんで遠野に来ようと思ったんですか?」
「東北には前から来たかったんだ。それに柳田國男の本も読んでたし」 「ああ、遠野物語」 「そう」 「……遠野は、お話みたいにいいところじゃないですよ」 「えっ?」 僕は思わず彼女の顔を見た。 彼女は少し、悲しそうな顔をしていた。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
24 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:14:05.23 ID:50PIhiUx0 - 「身体、大丈夫ですか?」
「え……ああ、うん」 なんだか話をはぐらかされたようだった。 「だいぶ疲れも取れてきたし、大丈夫」 「そうですか。それはよかった……もう陽も落ちますし、そろそろ戻ったほうがいいですよ」 そう言われて辺りを見渡すと、もう薄っすらと暗くなり始めている。 「そうだね。そうするよ」 僕は立ち上がって、そういった。 「神社はまた今度来るよ」 「それがいいです。……それでは」 彼女も立ち上がり、僕たちはお互い反対の方向に歩いた。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
25 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:16:19.36 ID:50PIhiUx0 - 帰りにスーパーに寄って、昨日と同じようにご飯と酒を買って民宿に帰る。
部屋に戻った僕は、半額で買ったカキ弁当を食べながら、今日の事を思い出す。 あちこちを巡って楽しかったが、やはり一番印象に残っているのは、帰り際に会った女子高生だ。 初対面だというのに僕のことを心配し、話しかけてくれた。 田舎の人は親切だとは話に聞いていたが、それは本当だった。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
29 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:18:44.89 ID:50PIhiUx0 - そういえばお礼を言いそびれた。
また会えたら、その時にお礼を言おう。 また会えたら。 もうそんな機会はないかもしれないけれど。 そう思うと、急に後悔の念が湧いてきた。 こういう時自分のコミュ障っぷりに腹が立つ。 もっと色々な話をしておけばよかったと。 しかしその頃には、買ってきたビールを飲み終えていたので、 再び酔いが回り、フラフラした頭のまま布団に潜り込んだ。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
31 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:20:46.57 ID:50PIhiUx0 - 遠野に来て2日目。
今日はどこへ行こうかと思うも、めぼしい所は昨日全て回ってしまった。 民宿のオーナーに聞いてみても、 「うーん、遠野は小さい町だからねえ。あとは車じゃないと行けないよ」 と芳しくない返事を頂いた。 「あ、温泉はもう行った?」 「いえ、行ってないです」 「ちょっと遠いけど、駅を越えて、山道をずっと登ったところに温泉があるんだよ。 よかったらそこに行ってみたら?」 と言われた。 どうせ他に行くところもないだろうし、僕は温泉に向かうことにした。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
32 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:23:04.98 ID:50PIhiUx0 - 長い長い坂道を、息を切らして自転車で登る。
坂道だとは聞いていたが、まさかこんなに急な道だったとは。 車ならスイスイ行けるだろうが、自転車では一苦労だ。 身体中が汗でじっとりと濡れ始めた頃、ようやく温泉らしい建物が見えてきた。 山の中にある温泉は、規模こそ小さいものの、来てよかったと思えるところだった。 木々に囲まれた露天風呂に浸かりながら、僕はそう思った。 疲れた身体をお湯で癒し、人心地つく。 遠くから聞こえる鳥の鳴き声が耳に優しい。 昨日は色々なところをめまぐるしく回っていたので、ようやく一息つけたといったところだ。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
33 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:26:03.27 ID:50PIhiUx0 - そういえば、と、昨日の事を思い出す。
昨日山の中で会った女子高生は、元気だろうか? 温泉に浸かった事で、凝り固まった心までほぐれてきたようで、 今にして色々と話したい事が頭に浮かぶ。 観光の人はよく来るの? 学校生活はどう? 遠野の生活は楽しい?
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
34 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:28:49.29 ID:50PIhiUx0 - と、ここまで考えた時、昨日彼女がぽつりと言った言葉が蘇る。
「……遠野は、お話みたいにいいところじゃないですよ」 あれはどういう意味だったんだろう? いや、しかし彼女の言ってる事はよく分かる。 その土地に住むという事は、そこで生活をするという事だ。 生活は決して楽しい事ばかりではない。むしろ苦しい事が大半だ。 観光者である僕は、そういった事を全くわかっていない。 それを苦々しく思っての言葉だったんじゃないか。 そうだよな、生きていくって事は、大変だよな。 遠くでまた鳥が鳴く。 なんだか無性に僕は、彼女に会いたくなった。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
35 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:31:33.14 ID:50PIhiUx0 - 昨日と同じ山道をへとへとになりながら歩く。
温泉で取れた疲れが再び身体中に広がっていく。 一体僕は何をやっているんだろうと思うが、それでも足は止めない。 昨日の場所へ。 昨日彼女と会った場所へ。 そこへ向かうために、僕は歩き続ける。 しばらく歩くと昨日座ったベンチが見えてくる。 当たり前だけれど、そこには誰もいない。 「まあ、そりゃそうだよなあ」 と、僕は誰に言うわけでもなく、つぶやく。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
37 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:34:15.55 ID:50PIhiUx0 - そりゃそうなのだ。
昨日彼女と会ったことは偶然なのであって、そんな偶然が何度も続くわけがない。 なのにも関わらず、僕は一縷の望みに縋るように、山道を歩いた。 その結果がこれだ。当たり前の話だけど、それでも身体から力が抜けていく。 ここで少し休んで、民宿に帰ろう。 そう思った時、向こうから足音が聞こえてきた。 顔を上げると、そこには、まさしく昨日であった女子高生がこちらへ向かって歩いていた。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
38 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:36:17.75 ID:50PIhiUx0 - 「あっ」
僕は言う。 向こうも僕に気付いたらしく、 「あっ」 と言った。 そして彼女は、少し嬉しそうな顔をして、僕の元へ近寄ってきた。 「……こんにちは」 彼女は言う。 「こんにちは」 僕も言った。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
39 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:39:13.61 ID:50PIhiUx0 - 「昨日はありがとう」
彼女は首をかしげる。 「初対面なのに僕を気遣ってくれて。そのお礼を言いたかったんだ」 ああ、と彼女は言い、 「どういたしまして」 と言った。 そして昨日と同じように、僕の隣りに座る。 昨日は薄暗くてよくわからなかったが、こうして明るい所で見ると、 美少女とまでは行かないが、均整のとれた顔立ちをしている。 そして、今日は制服を着ている。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
40 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:41:20.83 ID:50PIhiUx0 - 「今日は学校だったの?」
「ええ。今から帰るところです」 「学校は楽しい?」 と言うと、彼女は複雑そうな顔をして、 「……あまり」 と言った。 「そうか。そうだよな。俺も学校楽しくなかったもん」 「そうなんですか?」 彼女は少し驚いたような顔をして、僕に向き直った。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
41 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:43:51.88 ID:50PIhiUx0 - 「そうだよ。勉強もできないし、部活もやってなかったし、
友達も少なかったし。大学もすぐ辞めちゃったし。俺は学校に向いてなかったんだな」 「向いてない、ですか……」 「そうだよ、何事にも向き不向きがある」 「そうですか」 彼女は少し笑った。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
42 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:46:12.03 ID:50PIhiUx0 - 「でも学校だけが全てじゃないからね。学校以外に楽しい事があれば、それでいいんだよ」
「学校以外にですか」 「そうだよ」 「何か楽しい事、ありますか?」 そう言われて、僕は気付いた。 楽しい事なんて、ない。 「うーん、それは難しい質問だ」 「そうですか」 「だから答えはまた今度にしよう」 「なんですかそれ」 彼女は笑った。 ここにきて、ようやく彼女の笑顔が見られた気がした。
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44 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:48:54.70 ID:50PIhiUx0 - 「今何年生?」
「2年生です」 「そうか、卒業まではまだ少しあるな」 僕は一度言葉を切り、また言った。 「今は楽しくないかもしれない。でもあと1年我慢して、卒業したら、 もう君は自由になれる。学校も行きたくなければ行かなくていいし、 働きたくなければ働かなくてもいい。全ての事が自分で決められるようになるんだ」 「はあ」 何か釈然としない顔をしている。 僕も自分で何を言っているのかよくわからない。 何かいい事を言おうとしている、という事はわかる。
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46 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:51:10.51 ID:50PIhiUx0 - 「だから、今が悪くても、きっといつかよくなるよ」
とだけ言って、僕は力なく笑った。 僕が言っても、何の説得力もないからだ。 学校から逃げて、家から逃げて、ようやくたどり着いたこの地で出会った、 何も知らない少女に、一体僕は何を言っているのか。 「てめえのツラでよくそんな事言えるな!」 と、心の中で僕は自分を戒めた。
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47 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:54:14.41 ID:50PIhiUx0 - 再び沈黙が辺りを支配する。
彼女は、この見知らぬ旅人の言う事を、どう思っているのか? そう思っていると、彼女が口を開いた。 「ご飯、どうしてるんですか?」 「えっ?」 「晩ご飯。泊まっているところで出るんですか?」 「いや、素泊まりだからね。いつも近くのスーパーで弁当を買ってる」 「だったら、うちに来て食べませんか?」 「えっ?」 僕は彼女の顔を見た。 彼女は僕を見ている。
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50 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:56:51.41 ID:50PIhiUx0 - 「うち、両親も帰りが遅いんで、いつも1人でご飯を食べてるんです。たまには誰かと食べるのも、いいかなって」
「いいの?」 「大したものはできないですけど……」 「いや、そんな事は全然構わないんだけど、いいの?知らない人を家に上げて」 「だって」 と、彼女は僕の顔を見て言った。 「もうこうして、知り合ってるじゃないですか」 彼女は笑顔だ。僕もその笑顔につられ、笑顔になる。 「そしたら、お邪魔しようかな」 「ぜひ!」 そうして僕たちは、彼女の家に向かう事になった。
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53 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 03:59:03.09 ID:50PIhiUx0 - 彼女の家は、山を下って少し歩いたところにあった。
正に「田舎の家」といった風な建物で、門と庭のある古めかしい木造の家だった。 玄関を開け、 「お邪魔します」 といい、家に上がる。 畳敷きの居間に通され、僕はテーブルの前に座る。 「今から作るんで、ちょっと待ってて下さいね」 と言い残し、彼女は台所に姿を消す。 僕は今更少し後ろめたい気持ちになり、どうも落ち着かない。 いくら話の流れとはいえ、ほぼ初対面の人の家に上がるのはどうなのか?
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55 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 04:01:45.23 ID:50PIhiUx0 - などというような事を考えていると、彼女が両手に皿を持って、姿を現した。
「おまたせしました!」 といい、テーブルの上に料理を広げる。 ご飯に肉じゃが、副食としてサラダもある。 今まで出来合いの弁当を食べていたので、久しぶりのちゃんとしたご飯の登場に胸が踊る。 「いただきます!」 僕はあっという間にご飯を平らげた。 その速さには彼女も目を丸くして、 「今まで何を食べてきたんですか……」 と、少し悲しそうに言う。 「こんなまともなご飯は久しぶりだよ。ありがとう」 「そう言って頂けると嬉しいです」 彼女はご飯を食べながら、そう言った。
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56 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 04:03:58.13 ID:50PIhiUx0 - 「そういえば」
と、僕は満腹になったお腹をさすりながら言った。 「まだ聞いてなかったけど、名前はなんていうの?」 「佐知子(仮名)です」 「そうなんだ。俺は智和(仮名)。今更だけど、よろしくね」 そう言って頭を下げる。 「こちらこそ」 彼女も慌てて頭を下げる。 なんだか滑稽な姿だ。 そう思うと笑いがこみ上げてきた。 笑う僕を見て、彼女もつられて笑顔。
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59 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 04:06:04.44 ID:50PIhiUx0 - 「そういえばさ」
「はい?」 こういう質問をしていいのか一瞬ためらったが、思い切ってぶつけた。 「昨日、学校が楽しくないって言ってたけど、なんで?」 「……」 彼女の笑顔がにわかに曇る。
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60 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 04:08:16.79 ID:50PIhiUx0 - 「学校が楽しくない理由って、色々あるじゃない。俺みたいに、勉強ができないとか、部活をやってないとか、友達がいないとか」
「……全部です」 「全部?」 「はい」 「うーん、そうか」 「私バカだから勉強できないし、部活もすぐ辞めちゃったし、友達もできないし……」 「そうなのか」 「だから私も、学校に向いてないんだと思います」 彼女は言った。
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62 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 04:10:17.93 ID:50PIhiUx0 - 「そうか……何か好きな事はある?」
「好きな事?」 「そう。その事を考えれば、少しは楽しくなるんじゃない?」 「好きな事……そうですね……」 彼女は少し考えて、言った。 「音楽が好きですね」 「音楽」 「はい。父も母も音楽が好きで、私もそれに影響されて、 音楽を聴くようになりました」
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63 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 04:13:05.83 ID:50PIhiUx0 - 「そうなんだ。どんなの好きなの?」
「それは……古い音楽なので、言ってもわからないと思います」 「まあ俺もあんまり音楽詳しくないからね」 「同級生に勧めても、古いとか暗いとかって言われます」 「それはつらいね」 「はい……」 また彼女は悲しそうな顔をする。
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64 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 04:15:07.26 ID:50PIhiUx0 - 「音楽が好きなら、何か楽器とかやってるの?」
「ギターを練習してます。下手くそだけど……」 「おお、いいじゃない。それ聞かせてよ」 「ええっ!恥ずかしいですよ」 「弾き語りとかできるんじゃないの?」 「本当に練習中なんで……」 「人に聴かせるのも練習だよ。ほらほら」 「ええー……」 といって僕は、無理に彼女にギターを持ってこさせる。
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- 遠野で会った女子高生と心中しかけた話
66 :名も無き被検体774号+[]:2013/03/29(金) 04:17:22.22 ID:50PIhiUx0 - 「なかなか様になってるじゃない」
ギターを抱えた彼女は、なるほど、昔のフォークシンガーのようだ。 「何か弾いてよ」 と、雑な注文をする。 「じゃあ……今練習している曲を」 と言って、彼女はギターを爪弾き、そして歌う。 その曲は僕も知っているものだった。 確か昔のフォークソングで、教師と女子高生の恋愛を描いたドラマの主題歌にも使われていた曲だ。 ギターの腕前はおぼつかないが、しかしなにより、その歌声を聴いて僕は驚く。 音程もしっかり取れていて、何より声質が良い。 透明で儚げな声。 その声に魅了されて、僕は曲が終わっても、しばらくぼうっとしていた。
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