- 男「本当か?それは?」
1 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:03:59.05 ID:sI1xZVMN0 - 「ばれなければ・・・」
狭い部屋の中に響き渡る声。 彼は今から罪を犯そうとしていた。 これさえ成功すれば、自分たちは平和に暮らすことができるんだ。 そう考えていた。 こんな風になってしまった時代。 国が国民のほぼ全員に罰を与えた。 だから、それはあながち間違いではなかったのかもしれない。 ただ彼は気づかなかったのだ。 彼の隠した防犯カメラはダミーであることに。 ・・・・・・・・・・・・・ 「すまないな。」 その男は隣で寝ている妻の顔を見つめそうつぶやいた。 「もうこれ以上は我慢できないんだ。」 枕元には今まで貯めてきた金を記す通帳と印鑑を置いて、 その男は出て行った。拠点を、そして仲間を探すために。
|
- 男「本当か?それは?」
2 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:05:12.23 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・・
男「行ってきます。」 誰もいないワンルームの質素な部屋に向かって言い、 家を出た俺は足早に学校へ向かう。 いつからか吐く息が白くなっていた。 朝もやの中、今日の予定を思い出す。 本当はそんなことをしていられる状況じゃないのに。 まぁどうにかなるさ、金が無くたって。 俺には親がいない。親が死んでから面倒を見てくれていたおばあちゃんも この間死んでしまった。 男「さすがにこんなに早いと生徒も歩いてないな。」 独り言を漏らして、歩き続けるうちに学校に着いた。 急いで生徒会室へむかう。
|
- 男「本当か?それは?」
3 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:06:37.70 ID:sI1xZVMN0 - 男「おはようございます。会長。」
会長「おはよう。時間通りね。」 男「まぁ、小走りできましたからね。」 会長「そう。じゃ早速だけど校内にポスター貼ってきて。」 男「分かりました。」 会長「小走りでね」 俺は少し苦笑いして、にやけている会長の方を見つめる。 会長「あ、そうそう。今日は話があるから、終わったらここに帰ってくること。」 男「わかりました。」 言われた通り小走りで校内を回る。 生徒会主催クリスマスパーティー そうポスターには書いてある。 会長が一人で書ききったのだろうか。 なんだかすごい人だなぁ。 感心しながらも仕事を進める。 ざっと二十枚はあるから、 場所を考えてはらないとな。 外にはもうもやが掛かっていなかった。
|
- 男「本当か?それは?」
4 :名も無き被検体774号+[sage]:2012/11/17(土) 18:08:53.94 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・
今日から学校だ。 なんと表現すればいいのだろうか。 不安に駆られ、少しの恐怖に駆られ、 今時私みたいな人間なんているのだろうか。 とにかく、いろんな思いに支配されていた。 支配されていた頃とは全く別の恐怖。 どっちが本当なんだろうか。 会長「あらおはよう。」 やさしい声がした。 女「はい。おはようございます。」 会長「昨日も見たけど、制服姿かわいいわね。」 女「ありがとうございます。」 会長「まぁ、姉妹なんだから堅苦しい感じは無しにしない?」 女「すみません・・・でも。」 会長「そう・・・何か困ったら言うのよ。私は生徒会長なんだから。」 女「はい。お姉さま。」 会長「さぁ、そろそろ帰ってくるころよ。ここに座って。」 女「はい。」
|
- 男「本当か?それは?」
5 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:10:07.92 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・
雨が降ってきた。 黒い雲に覆われた空が落ちてくるようで、 すこし感傷的になる。 男「ただいま戻りました。」 生徒会室のドアを開けると会長とは違う女の子が座っていた。 セーラー服のリボンからするに俺と同じ高校二年だろう。生徒会役員ではなさそうで、 始めてみる顔だった。 しかし本当に同じ年なんだろうか。 すごく近寄りがたい。俺とは違う人間だ。そう一瞬で分かるほどに、 冷たい空気を纏っていた。 会長「あら、おかえりなさい。」 男「よくあんなにたくさんポスター作りましたね。」 会長「ふふ。この子が手伝ってくれたの。」 女「始めまして。」 少し気の弱そうな、透き通った声だった。 顔立ちも整っていて、髪も綺麗だ。 すこし暗いイメージはあるが・・・ 男「こんにちは。」 会長「紹介するわね。妹の女よ。」 男「!?」 声にならない驚きが俺を支配した。 男「あの・・・妹さんいましたっけ?」 会長「あら、言ってなかったかしら?」 男「聞いてません、ていうかむしろ一人っ子だと思ってました。」
|
- 男「本当か?それは?」
6 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:11:22.10 ID:sI1xZVMN0 - 会長「さ、あなたも自己紹介しなさい。」
男「そうですね。」 男「こんにちは。二年の男です。よろしくお願いします。」 女「女と申します。よろしくお願いします。」 そういって女は深々と頭を下げた。 会長「あなたと同じクラスにしといたから、編入生として入ってくる予定だからよろしくね。」 男「分かりました。」 女「よろしくお願いします。」 女「それとお姉さま。ありがとうございます。色々取り計らって頂いて。」 会長「いいのよ。楽しみなさい。学生生活を。」 女「はい。」 男「では、クラスに連れて行ったほうがいいですかね?」 会長「そうね。お願いするわ。」 男「はい。」 会長「あ、それと放課後もここに来てもらえる?」 男「わかりました。」 男「じゃついてきてもらえますか?女さん。」 女「はい。」 そして俺たちは生徒会室を後にした。
|
- 男「本当か?それは?」
7 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:12:47.14 ID:sI1xZVMN0 - それにしても驚きだ。
会長に妹さんがいるなんて。 男「ねぇ女さん。あのポスター書いたっていうのは本当?」 女「はい。」 いきなり編入の理由を聞くのもどうかと思い当たり障りのなさそうな話題にした。 それにしてもさん付けだとどうも話しづらいな。 女「あの、呼びにくければ私のことは呼び捨てで構いませんので。」 男「う、うん。分かった。」 あれ?口に出てたかな? でもまぁこれで話しやすくなった。 いい子そうだし、それになによりかわいい。 大事にしないとな。 男「お姉さんと・・・つまり会長とは別の学校に行ってたの?」 女「はい。そうです。」 男「そうなんだ〜」 まぁまだ突っ込みすぎないほうがいいか。 初対面だしな。それに嫌われたくない。 それから教室に着くまで他愛のない話で間を持たせた。
|
- 男「本当か?それは?」
8 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:14:01.47 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・
男「お姉さんと・・・つまり会長とは別の学校に行ってたの?」 とても答えづらい質問だった。 初めてできそうな友達に、嘘はつきたくなかったから。 女「はい、そうです。」 結局そう答えた。 だけど男さんはそれ以上は聞いてこなかった。 私の気持ちがわかったんだろうか。 降り始めた雨を眺めながら、男さんと話しながら、教室へ向かう。 学校ってこうなっているんだ。 雨を凌げて、明るくて。 きれいなトイレも水道も部屋もある。
|
- 男「本当か?それは?」
9 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:15:18.07 ID:sI1xZVMN0 - 男さんが教室のドアを開けて、先生に話しかけた。
男「先生。編入生を連れてきました。」 先生「わかった。会長に頼まれたのか?」 男「はい。」 先生「分かった。では女さん。こちらにどうぞ。」 女「はい。」 先生「今日からこの学校に編入してきた女さんだ。みんな仲良くするように。」 その瞬間教室にはいくつもの声が溢れたが、 先生はそれを鎮め、私に自己紹介を促した。 女「女と申します。よろしくお願いします。」 先生「では、男の隣に座ってくれ。」 女「はい。」 先生「頼んだぞ。教科書類も見せてやってくれ。」 男「分かっています。」 本当に優しい人だ。 お姉さまが仲良くしている理由がよく分かる気がする。 ホームルームが終わって別の先生が来るまでの間、 私は質問攻めにあった。
|
- 男「本当か?それは?」
10 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:16:37.67 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・
質問攻めに遭っている女を、俺はどうにもできずに眺めていた。 困っているようだったが正直、みんなを諭したところで、次の休み時間にこうなるのが積の山だからだ。 女には辛抱してもらうしかない。 友「よぉ男!」 男「おはよう。」 友「かわいいな。あの子。」 男「俺もそう思う。」 友「どこで会ったんだよ。」 男「目が笑ってないぞ・・・」 友「・・・」 男「いや、これがなかなか説明しづらくて・・・」 「ちょっと男〜女さんが呼んでるよ〜。」 誰かが俺を呼んだのでそっちのほうに行こうとする。
|
- 男「本当か?それは?」
11 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:18:19.06 ID:sI1xZVMN0 - 友「おい。答えてくれよ。」
男「次の休み時間な。」 何かトラブルでもあったんだろうか。 そうには見えないが・・・ 男「どうしたの?」 女「少しよろしいでしょうか?」 男「いいけど・・・」 そういって女は席を立った。 俺はそれについて行く。 女「申し訳ありません。我侭を言ってしまって。」 男「いやいや。大丈夫だけど、どうかしたの?」 女「・・・みなさんとお話しするのに疲れてしまって・・・」 男「そっか。そうだよな〜あんなに来られちゃな。」 女「はい。」 男「しかも男ばっか。」 女「はい。」 男「転校とかは初めてなの?」 女「はい。」 男「そっか〜」 しかし返事が短い子だ。 必要以上のことには答えてくれない。 始業を告げるベルが、急に鳴り響いた。 女「さぁ。教室に向かいましょう。お付き合いいただいてありがとうございます。」 そう言って教室の方に向いた女の顔が今までとは違っているように見えた。 開いている廊下の窓から吹く風が冷たい。
|
- 男「本当か?それは?」
12 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:19:31.89 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・
なんてことだろう。 私用で、唯の我侭で男さんを連れ出してしまった。 お友達と話していたのに。 嫌われたかもしれない。 そう思うと少し涙が出そうで、 始業のベルがそれを助けてくれた。 男さんを先行して、それでも零れた涙を拭う。 お願い。嫌いにならないで。そう願いながら。 誰もいませんねぇ〜
|
- 男「本当か?それは?」
13 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:20:45.12 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・
放課後になってから、俺は生徒会室へ向かった。 女は他の人と話していたみたいだし、それに俺とばかり仲良くしていてもしょうがない。 会長「授業はどうだった?」 俺のことだろうか?でもいつもは聞かれないから女のことかな? 男「女は普通の生徒でしたよ。」 会長「そう。仲良くなれたみたいね。」 男「何でですか?」 会長「女って呼んでるじゃない。」 男「ああ。」 会長「そうそう。話っていうのはね・・・」 会長「あなた今一人暮らしでしょ?」 男「はい。というか会長の家に助けてもらってますので、ご存知かと思っていました。」 親を亡くした俺のおばあちゃんが死んでしまった後、 俺はどうにか遺産で食いつないでいた。進学するはずだった私立の高校を諦め、 安いワンルームがあるこの町に引っ越してきた。公立高校に行こうと決意したとき、 会長がやってきた。 なぜ俺のことを知っていたのか?なぜ俺を会長の学校に入学させてくれたのか、 それに関しては一切教えてくれない。 会長「お金、大丈夫なの?」 本当にこの人は何でこうも察しがいいのだろうか。 男「一応バイトもしているので・・・」 歯切れが悪くなってしまったが、これ以上会長の家に迷惑をかけるわけにはいかない。 唯でさえいい人なんだ。これ以上困らせてどうする。 会長「そんな稼ぎなんてしれてるでしょ?」 会長「そこで提案。家にきて住み込みで働かない?」 会長「もちろん学校にも通ってもらうけど。」 男「・・・?本気ですか?」 会長「本気よ。」
|
- 男「本当か?それは?」
14 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:22:27.07 ID:sI1xZVMN0 - さて、どうしたもんだろうか。
いくら俺に事情があるとはいえ、会長の家に住むというのは、 なんというか、失礼な気がした。 男「しかし、邪魔になるのでは・・・」 会長「大人でもないあなたがそんなこと気にする必要はないの。」 会長「部屋もたくさん余ってるんだから。ここは素直に甘えなさい。」 会長「それに強がったって分かるんだから。」 生徒会室のドアが開いた。 会長は他の役員も呼んだのだろうか? 女「失礼いたします。」 男「え?」 会長「お帰りなさい。」 男「ここに来る予定だったの?」 女「はい。」 だったら一緒に来ればよかった。 男「そうなんだ。」 会長「男?だから今晩荷物をまとめてここにいらっしゃい。」 男「・・・すみません。お世話になります。」 女「これはいったいどういうことでしょうか?」 会長「すぐ話すわ。男。早く荷物まとめてきなさい。」 男「わかりました。行ってきます。」
|
- 男「本当か?それは?」
15 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:23:40.68 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・
足早に去っていく男さんの姿を見ながら、 お姉さまに視線を合わせる。 会長「男が家に来ることになったの。」 女「!!!!!!!」 言葉がすぐには出てこなかった。 前にもこんなことがあったけど、それとこれとは全く違う。 会長「あなた達は仲良くなれそうだから。」 少し遠い目をして言うお姉さまを見て、本気なんだと思った。 女「そうなんですか。」 できるだけ冷静に。多分こみ上げてきているのはうれしさなんだろう。それをあまり出さないように必死に努めた。 会長「部屋は離れているから安心しなさい。」 女「はい。」 大事な人が三人になった。 友達は、こういう風にしてできていくのだろうか。 会長「さて、クリスマスパーティーの集会をそろそろ開かないとね。」 女「それはどんなものなのですか?」 お姉さまに話を聞きながら、点きっぱなしになったテレビを眺める。 少し露出の多いアナウンサーがニュースを読み上げ、 もう2050年までたったの一ヶ月ちょっとしかないことに改めて驚く。 こうして時は過ぎていき、辺りがすっかり暗くなったころ、 また生徒会室のドアが開いた。 男「お待たせしました。」 会長「荷物はそれだけ?」 男「はぁ。これでも増えたほうですよ。」 そういって男さんが抱えていたのは、大き目のボストンバッグたった一つ。 会長「部屋の後始末は家の者にやらせるから、気にしないで。」 男「申し訳ないです。」 会長「それと部屋はね、実はもう用意させてあるの。」 男「本当ですか?」 女「どちらの部屋を差し上げるのですか?」 会長「秘密よ。」 そう言って、お姉さまはふてきに笑った。
|
- 男「本当か?それは?」
16 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:25:44.75 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・
家が学校に繋がっているとはいえ、こうして改めてみると壮観だ。 どんな仕事が待っているのだろうか。 そしてどうしてこんなにも、会長は俺に優しいのだろうか。 隙を見せてくれない割には、気にかけてくれる。 どうしてだろう。 男「会長。俺の仕事って何ですか?」 会長「主に掃除ね。女と一緒に。」 女「一緒にですか?」 男「なるほど。」 会長「だから教えてあげてね。女。」 女「分かりました。」 男「よろしくお願いします。」 こちらはものを習う身なので、精一杯頭を下げた。 女「こちらこそよろしくお願いします。それと頭は上げてください。」 男「でも、教えてもらうんだから。」 女「いえ、そんな・・・教えるなんて大それたことはできませんけど・・・」 男「まぁいいや。とにかくよろしくね。」 会長「じゃ、部屋に案内するわね。」 そういって潜った玄関の先には、大きなシャンデリアとメイドさんと思しき人物が、 出迎えてくれている。 おそらく俺の先輩であろうこの人に、 これからよろしくお願いしますという意味をこめて頭を下げてから、 会長に用意してもらった部屋へ向かった。
|
- 男「本当か?それは?」
17 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:27:21.10 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・・・
いつになっても頭を下げられるのは慣れない。 私が下げるのに関しては、何の不満もないのだが・・・ 玄関を通り過ぎて、男さんの部屋へと向かう。 相変わらず大きい家だ。 何時になってもここに住まわせてもらっていることが信じられない。 会長「ここがあなたの部屋よ。」 そう言ってお姉さまが男さんを連れてきた部屋は、昨日私達が掃除した部屋だった。 私はベッドメイキングをしただけだから、掃除はメイドさんが主にしたのだけれど・・・ 男「こんなに広い部屋・・・申し訳ないです。一番小さい、 ボロいところでかまわないんですけど・・・」 私もこの家でお部屋をもらうとき、そう言ったのを覚えている。 会長「あら、ここは女が用意してくれたのよ。それでも変わりたい?」 女「いえ、私は何もしてません。」 女「メイドの方がやって下さったんですよ。男さん。」 すると後ろのほうからメイドさんがやってきて、 男さんに伝えた。 メイド「いえ、私こそなにもしていませんよ。女お嬢様がベッドメイキングもなされたのです。どうかここに泊まってください。」 女「ベッドメイキングしかy」 会長「まぁそういうことだからここに泊まりなさい。男。」 男「はい・・・女、メイドさん。ありがとうございます。」 すごく恥ずかしい。 私は何もしてないのに。
|
- 男「本当か?それは?」
18 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:29:12.36 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・
今まで狭い空間でしか育ったことがない俺にとって、 この部屋は王様の城のようだった。 箪笥はこんなに大きいのに、一段目だけで服が収まってしまう。 会長には片付けてからリビングに来るようにと言われたが、 俺はまだどこに何があるかの説明も受けていなかった。 とりあえず部屋から出て、何とかしてみよう。 そう思い俺は部屋を出た。 これからは女と働くことになるのか。 なんだか嬉しいような。 まだ知らないことというか、ミステリアスな部分が多すぎる。 きっと彼女もそう思っているだろうな。 とにかく時間はたくさんあるんだ。 ゆっくり楽しめばいい。 そう思ったところで、部屋を出た廊下の先の方に、女が見える。 男「おーい。女〜」 少し大きめの声で呼んでみると、こちらに駆けてきてくれた。 女「どうかなさいましたか?男さん。」 男「いや〜肝心のリビングの位置が分からなくて・・・」 女「あっ!申し訳ありません。お姉さまに伝えるよう言われていたのに。」 女「すみません。すみません。だから怒らないでください。」 どうしたのだろうか・・・ 男「いや。大丈夫だよ。落ち着いて。こんなことで怒らないよ。」 すると女は少し落ち着いたのか、もう一度だけすみませんと付け加えてから、 俺をリビングに案内してくれた。 道中に、 男「俺のことも呼び捨てでいいよ?さんづけで呼ばれるのは違和感あるっていうか・・・」 女「そんな。滅相もありません。こういう話し方しかできないんです。」 男「そうなんだ・・・」 と言ってみたのだが聞き入れてくれない。何だろう。少し苦しい気がする。
|
- 男「本当か?それは?」
19 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:31:20.32 ID:sI1xZVMN0 - もし見てくれてるひとがいらっしゃるなら、
いいのですが・・・
|
- 男「本当か?それは?」
20 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:33:11.36 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・
会って初日から我侭を言って、そして男さんに迷惑までかけてしまった。 お姉さまに言われていたのに。すこし自分が浮かれていた事に 初めて気がついた瞬間だ。 男さんに呼び捨てで呼んでと言われたけど、 大事な人だから、そんな失礼なことはできない。 ましてや大きなミスを犯しておきながら、こんなことできるはずがなかった。 決してあの人たちと同じ扱いをしたい訳じゃない。 リビングルームに着いた私達は、お仕事の説明を受けた。 私は二回目なのだが、何度聞いても不思議に思う。 こんなに働く時間が短くていいのだろうかと。 会長「二人は今日疲れたでしょう?仕事は明日からにしましょう。」 男「いいんですか?今日からでもいけますよ?」 女「私もです。」 会長「いいのよ。今日は二人でお話したりしなさい。」 会長「せっかく一緒に住んで、一緒に働くんだから。」 男「はぁ・・・」 女「・・・」 何を話せばいいのだろうか。 そうしたい気持ちはあるのだが、どうしていいのかが分からない。 一昨年まではそんなこと考えたことも無かったから。 会長「じゃ、明日は二人とも六時に起きてもらえる?男は初仕事よ。」 男「わかりました。よろしくお願いします。」 女「はい。」 男さんは深々と頭を下げてから、私に顔を向けた。 男「じゃ、行こう。この家のこと教えてよ。」 女「分かりました。」 私はお姉さまに頭を下げてから、男さんにお屋敷を案内した。
|
- 男「本当か?それは?」
21 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:37:30.81 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・
これで足りるのだろうか。 できることは精一杯するようにしている。 それにそうすることも楽しい。 親があまり帰ってこないから、こうして生活することがすごく楽しく思える。 でも自分はそんな立場にいられる人間じゃないんだ。 そう思うとどこかに仲良くなっていくことにおいて、ブレーキをかけてしまう自分がいる。 少なくともこうしなくてはいけない事も、これからどうなっていくかも、 分かっているからだろう。 それとも何?
|
- 男「本当か?それは?」
23 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:38:52.17 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、朝六時に起きた私たちは、お姉さまに仕事の指示を頂いた。 それは至極簡単なもので、メイドさんの指示に従いながら、働くというもの。 会長「でもひとつ、約束してほしいことがあるの。」 男「なんでしょうか?」 女「?」 会長「他人の部屋に入って、無断で掃除するのはやめてちょうだい。」 男「プライベートな空間ですもんね。」 会長「まぁそういうことよ。」 なんだ。私は来たときに同じ指示を受けたことがある。 でもとにかく、今日から精一杯働こう。 殆どメイドさんがやってしまうけれども、 お姉さま曰くこれでいいらしいから。
|
- 男「本当か?それは?」
24 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:40:05.82 ID:sI1xZVMN0 - >>22
それはお大事にしてください! ・・・・・・・・・・・・ 仕事といっても特に難しいこともなく、朝はたったの一時間くらいで開放された。 男「いつもこんな感じなの?」 女「そうですね。だいたいこんな感じです。」 男「そうなんだ。」 謎は深まるばかりだ。 会長は俺たちに何をさせたいんだろうか。 メイド「おはようございます。」 男「おはようございます。」 女「おはようございます。」 このメイドさんは昨日から結構話しかけてくるように思える。 そういえば女と部屋を綺麗にしてくれたのもあの人だっけ? メイドさんが去ってから、俺は女に聞いた。 男「あの人はいつもあんな感じなの?」 女「はい。」 というよりは、こんなに広い屋敷なのにメイドさんはまだあの人しか見たことがない。 そうなのか。まだ会って二日目なのに、女の返事の短さにも慣れてしまった。 今日の天気はどうだろうか。 ふと窓の外を眺める。 昨日と同じ、多分なんら変わりのない風が吹いている。 そんな気がした。
|
- 男「本当か?それは?」
25 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:41:18.92 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・
一度みんなで食堂に集まってから、男さんとお姉さまは学校へ行ってしまった。 クリスマスの準備が忙しいらしい。 今までは一人なんて慣れていたのに、この家に来てからは、 誰かと一緒に居たいという想いが強くなっているように思う。 お姉さまのせいなのかもしれない。 部屋に戻って制服に着替えながら、鏡に映った自分の体を見た。 女「汚い体・・・」 学校に行くまでの三十分で、時間割を合わせることにした。 昨日もらったばかりの時間割。 そこには体育の文字が。 女「体操服もらってない・・・」 今日は仕方がないか。 先生に言えば許してくれるだろう。
|
- 男「本当か?それは?」
26 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:42:31.73 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・
会長の話だと、二時間目の後の休み時間に集会を開くらしい。 珍しく生徒会の役員を集めて、会長はそう言った。 俺たちは体育の後だから、急がないといけない。 そう思いながら教室へ歩いていく。 学校へくる短い道のりでも寒さを感じることができるほどに、 季節は冬へと向かっていた。 そもそも何でこの時期に女は編入してきたのだろう。 まぁそのうち分かるか。 友「おはよう。」 男「おう。」 友「女ちゃんは一緒じゃないの?」 男「何で?」 友「昨日一緒に来てたジャン。」 男「あれは会長に頼まれたから。いつも一緒なわけじゃないよ。」 少し嘘をついた。まぁ面倒くさくならないようにだから 問題ないよな。 友「しかしうらやましいよな〜」 男「何が?」 友「生徒会だよ!俺も立候補すればよかった。」 男「何で?」 友「だってお前みたいにあの会長さんと仲良くなれるかもしれないだろ?」 男「あぁ。会長って人気あるんだ?」 分かってることだが一応聞いてみる。 友「お前も知ってるくせに。好きなんじゃないの?」 男「まさか。」 友「ふ〜ん。」 男「気持ち悪い目でみるな。ほらホームルーム始まるぞ。」 教室のドアが開いて、先生かな?と思ったら、女が入ってきた。 そして席に着いた。 男「遅かったね。」 女「ごめんなさい。ちょっとボーっとしてたら・・・」 男「謝らなくても・・・まだ遅れてないから大丈夫。」 女「すみません。なんか癖になってしまって・・・」
|
- 男「本当か?それは?」
27 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:44:22.90 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・
いつか本で読んだ、癖はなかなか治らないっていうのは本当だった。 たった今それを痛感した。 いつもやめようやめようって思っているのに。 男「授業楽しい?」 徐に男さんが聞いてくる。 女「はい。とっても。」 男「この先生の授業いいよね。」 女「私もそう思います。」 そしてまた二人の間に沈黙が流れる。 昨日から授業が始まって、私はこの時間が大好きだと気づいた。 みんなが静かで、同じものに向かっているのが、私をそういう気分にさせる。 まだ二日しか経っていないけど、男さんと居るときにはあまり緊張しないようになった。
|
- 男「本当か?それは?」
28 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:45:36.93 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・
一時間目が終わって体育の時間だ。 さっさと更衣室に行くか。その前にトイレ行きたいな。 友「なぁ便所いかね?」 男「おっいいよ。」 俺もちょうど行きたかったところだ。 体育とかの前は小便をしないと授業に集中できない。 ただでさえ寒いのに、我慢するなんてのは自殺行為だ。 友「あ、じいちゃん。おはよう。」 清掃員「おお、おはよう。また背が伸びたか?」 友「そうですかね?」 清掃員「わしにはそう見えるぞ。」 友「だってよ男。」 男「お、おう。そうか。」 友「じゃ俺ら便所行くんで。」 清掃員「きれいに使ってくれよ。」 友「は〜い。」 話を終えてトイレに向かう。
|
- 男「本当か?それは?」
29 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:46:49.63 ID:sI1xZVMN0 - 友「誰があの人をじいちゃんって呼び始めたんだろうな?」
男「んなこと知らないよ。会長にでも聞けば?」 友「まぁその方が親しみやすいしいいか。」 トイレを済ませ、更衣室へ向かった。 もう大概の人は着替え終わっていて更衣室に居たのは俺たちだけだった。 友「さて、着替えますか。」 男「そうだな。」 友「まぁ長い付き合いで、こういうこと言うのもあれだけど・・・」 男「?」 友「そのお腹の傷、いつ見てもすげぇな。」 男「あ、これね〜」 友「俺ならみんなの前で着替えるの嫌になってるよ。」 男「そうでもないよ。これを見る度、これのおかげで生きてるんだなって思えるし。」 友「そういうもんなのか。」 男「そういうもんなの。」 友「いつ手術したの?」 男「ばあちゃんの話では生まれてから結構してるらしいよ。」 友「覚えてないのか?」 男「まったく。」 友「まぁ子供の頃だもんな〜」 男「そういうこと。さっ行こう。遅刻したら嫌だし。」 友「OK〜」 少し駆け足で運動場へ向かった。 手術痕なんてあんま気にしたことなかったな。 でもまぁみんなに気を使わせるのは分かっているから あまり見せないようにはしているけど・・・ そんなことよりこの後の集会。 会長はどうするんだろう?俺、何も聞いてないぞ。 そんなことを考えながら、授業を受けた。 相変わらず風が冷たい。
|
- 男「本当か?それは?」
30 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:48:02.61 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・
体育の先生はどこだろう? やっぱ行く先に宛てがなかったので、とりあえず更衣室周辺をうろうろしていた。 歩きながら私は思いついた。 クラスの子に聞けばよかったんだと。 そう思いついたころにはもうみんな大半が着替え終わって、体育館へ向かっていた。 どうしようか迷っていると、男子更衣室の中から声が聞こえ、思わず聞き入ってしまう。 友「そのお腹の傷、いつ見てもすげぇな。」 男「あ、これね〜」 友「俺ならみんなの前で着替えるの嫌になってるよ。」 男「そうでもないよ。これを見る度、これのおかげで生きてるんだなって思えるし。」 友「そういうもんなのか。」 男「そういうもんなの。」 友「いつ手術したの?」 男「ばあちゃんの話では生まれてから結構してるらしいよ。」 友「覚えてないのか?」 ここまで聞いておきながら、きっとこれは盗み聞きしてはいけないことなんだろうと思った。 人の声が聞こえればすぐ耳を立てて聞いてしまう。 直さなくちゃみんなに嫌われるかもしれない。 これからはできるだけ聞かないフリを、そしてこの話は聞かなかったことにしよう。 女友「あれ?どうしたの?みんな探してたよ〜」 女「あの、体操服を買い忘れていまして、先生を探していました。」 女友「そうなんだ。じゃ私が連れて行ってあげる。」 女「ありがとうございます。でも授業に遅れちゃうんじゃ・・・」 女友「そんなの説明すれば先生だって分かってくれるよ。」 女「そうですか。すみません。」 女友「謝らないで〜」 女「すみません。」 女友「フフフ。」 会う人みんなに謝らないでと言われている。 これもきっと直さなくちゃいけないんだろう。 とにかく、今は先生のところに行かなくちゃ。
|
- 男「本当か?それは?」
31 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:49:22.14 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・・・・
暗い部屋で着替えながら、一人考える。 いつか話をするタイミングはあるのだろうか。 みんながみんなそれぞれを嫌いになるかもしれない。 そして互いのことも嫌いになるかもしれない。 話をしたっていい事なんて一つもないのかもしれない。 だからもう少し、 もっと仲良くなってもらって 友達を知ってもらわないといけない。 悲しいことも乗り越えられるように。 潰れてしまわないように。
|
- 男「本当か?それは?」
32 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:50:34.83 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・
体育が終わってすぐ俺は更衣室へ向かった。 早く着替えて体育館に向かわないと、 会長がたぶん待ってるし、他の役員もセッティングをしているだろう。 特に決まった仕事はないが、みんなに迷惑だけをかけるのはよくない。 苦労するなら一緒にしないとな。 男「すみません。遅れました〜」 そういって体育館に入ると、すでに椅子は準備されていて、 俺の仕事は残ってなさそうだった。 ふと体育館を見渡すと、クラスの女子達がいた。 体育館での授業だったのだろう。集会が終わってから着替えるつもりなんだな。 女を見つけたので手を振ってみる。 横の女友も手を振り替えしてくれた。 「おう男。もう終わってるから席着こうぜ。」 役員がそういってくれたので、俺たちは席に着いた。 あとは全校生徒が来るのを待つだけだな。
|
- 男「本当か?それは?」
33 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:51:48.76 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・
女友「よかったね〜予備の服があって。」 女「はい。」 女友「さぁ、私たちはこのまま座っちゃいましょう。」 女「ここの体育館には空調もついているんですか?」 女友「そうよ〜結構リッチな学校なんだから。」 女「そうなんですか・・・」 こんな環境に身を置くと、それが普通になってしまいそうで、 そうならないようにしないといけないように感じた。 今日も、体操服に着替えるときは、すごく寂しかった。 みんな優しくしてくれるのに、 心の中ではみんなが私を嫌いで、それを隠して私に接しているんだ。とか、 考え始めたらキリがないことを考えていた。 今度はみんなと着替えるのか。 暗い部屋じゃなくなるのはいい。 だけど、体を見られるか、寂しい想いに駆られるか、どっちを私は選べるのだろう。 入り口に人影が見えたので、そこを見てみると男さんが入ってきた。 そして、私を見つけて手を振ってくれる。 女友「男、手振ってるよ。」 女「はい。」 女友「女も振ったら?こうやって。」 私も女友さんに従って手を振ってみた。 もしかしたら女友さんに振ったんであって、私じゃないのかもしれない。 そうだよね。私なんかに手を振ったって・・・ 全校生徒が三々五々集まってきたところで、男さんの姿は見えなくなった。 生徒会の人たちは、別のところに座るらしい。
|
- 男「本当か?それは?」
34 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:53:01.81 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・
俺は声が出なかった。 体育館全体は歓声に包まれ俺も騒ぎたい雰囲気だったのだが、驚きのほうが大きかったからだ。 会長「みなさん。今年もクリスマスに、生徒会主催のパーティーをします。」 会長「参加費は必要ありません。但し、一人一つずつクリスマスプレゼントを持参すること。」 会長「全員に参加してほしいと思っていますが、来れない人、また来ることができない人は気にしないこと。」 会長「趣旨はみんなで楽しむことにあります。当日夜六時から、精一杯おめかししてやってくること。」 会長「それと何かしたいイベントなどがありましたら、生徒会役員に伝えてください。」 一通り話し終えた会長を見つめ、改めて驚く。 去年はこんな姿を見たことがないからだ。 サンタのコスプレをした会長。 まさかこんなキャラだとは思わなかった。 会長「忘れていましたが、各クラス二人ずつ、お手伝い要因として実行委員を選出すること。」 会長「以上です。」 そして集会は終わった。 男「会長!どうしたんですか?それ?」 会長「サンタよ。」 男「はい。」 会長「今年で最後だからいいかなって思ったのよ。」 しゃべりはいつもと同じなのに、違和感があった。 男「そうですか・・・みんな来てくれますかね?」 そうすると役員が口々に、 「会長がそんな格好をして頼んだらみんな来ますよ。」 という感じの言葉が飛び交った。 会長「みんな、忙しくなるけど、精一杯働いて頂戴ね。」 俺たちは一斉に返事をし、それぞれのクラスに戻った。
|
- 男「本当か?それは?」
35 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:54:14.54 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・
女友「生徒会長すごかったね。」 女「はい。」 女友「私もあんなスタイルになれたらなぁ〜」 女「女友さんは十分綺麗じゃないですか。」 女友「いいよ〜お世辞なんて〜」 女「お世辞じゃないですよ。」 女友「ありがとね。」 まさかお姉さまがサンタクロースになるなんて、思っても見なかった。 家でもあんな露出の多い格好は見たことがなかったから、珍しいものが見れた気がする。 女友「クリスマスパーティーくる?」 女「はい。お姉さまに来るように言われているので。」 女友「お姉さんいるんだ?何組?」 女「生徒会長です。」 女友「え?」 女「はい。」 女友「うそ??本当に言ってる?」 女「はい。」 そういえばまだ男さんしか知らなかったんだ。 口が滑ってしまった。 また、やっとできた友達に嘘をついてしまった。 でもまぁいつかは分かることだから仕方がない。 口から出た言葉は返ってこないんだから。 女友「じゃあ携帯とかパソコン持ってるの?」 女「いいえ。持ってないですよ。」 女友「そっか〜一回でいいから使ってみたいんだよね〜」
|
- 男「本当か?それは?」
36 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:55:30.99 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・
授業が終わり、生徒会の仕事も終わり、俺は家に帰ることにした。 男「会長。帰りましょう。」 会長「そうね。女はどこかしら?」 男「帰ったんじゃないですか?それか教室見てきましょうか?」 会長「お願いするわ。」 中々にしんどい一日だ。 会長は今までで一番気合が入ってるみたいだし、 何かあったのだろうか。 何か、相談に乗ってあげたい気もするけど、 俺なんかが話を聞いたって仕方がない。 それにもし相談にこられても、その人は慰めの言葉が欲しいだけで、答えなんて求めていない。 人を慰めるのが得意じゃない俺には酷な話だ。 男「何してるの?」 教室の席に一人佇む女を見つけ、俺は声をかけた。 女「男さん。少し考え事をしてたんです。」 男「どうかしたの?」 何だろう。いつもはこんな聞き方はせずに、聞き流すのに。 女「男さんは、忘れたことを思い出したくなりますか?」 男「どういうこと?」
|
- 男「本当か?それは?」
37 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:56:45.78 ID:sI1xZVMN0 - 女「いえ・・・」
忘れたことか。親のこととか、お腹の傷の真相とかかな? 俺は知りたいとは思うけど。 男「無理に思い出すのはよくないんじゃないかな?」 女「なぜですか?」 男「忘れるから人は生きていけるんだよ。」 男「きっと忘れたくないことはずっと忘れない。」 男「自分の名前だとか、誰かと付き合ったとか、誰かに告白されたとか。」 女「・・・」 男「思い出せないのはそれが本当に忘れたかった思い出だからだと思う。」 男「だから無理して思い出す必要なんてないんだ。」 本当にそうだろうか。これこそ慰めになってないか? 辛いことと向き合うのも必要なはずだ。 自分で試して、自分で結論を出そう。 思い出す方法なんていくらでもあるはずだ。 女「ありがとうございます。」 男「これが答えかはわからないよ。俺も。」 女「はい。」 男「もうちょっと考えさして。」 女「そんなに真剣にならなくても大丈夫ですよ。ごめんなさい。悩ませてしまって。」 男「いや、俺も考えたいんだ。」 女「そうなんですか。見つかるといいですね。」 男「ありがとう。女も。何か見つかるといいな。」 女「ありがとうございます。」
|
- 男「本当か?それは?」
38 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:57:58.87 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・
お姉さまと男さんと三人で家に帰る途中、男さんの話を思い出した。 本当だろうか?男さんも疑問を顔に出していた。 少なくとも私は違う。 忘れたくて忘れたくて仕方のない過去を、いつまでたっても忘れることができない。 男さんの理論でいくならば、それは私が忘れたくないと思っていることになる。 どうすればいいのだろうか。 それを忘れるためには。それを思い出せないようにしてしまうには。 会長「今日は学校楽しかった?」 女「・・・」 会長「女?」 男「?」 女「あっ。はい。申し訳ありません。何でしょうか?」 会長「ううん。学校は楽しかったか聞こうと思ったんだけど、何か考え事?」 女「はい。すみません。反応できなくて。」 会長「気にしないで。」 女「後でお部屋に行ってもよろしいでしょうか?」 会長「いいわよ。何かあったの?」 女「今日男さんにも聞いたのですが、お姉さまにも聞きたくて。」 男「あの話か。」 会長「分かったわ。楽しみにしてる。」 女「ありがとうございます。」 メイド「お帰りなさいませ。」 いつも通り、メイドさんがお出迎えをしてくれる。 三人でただいまと伝えてから私たちはそれぞれの部屋へ行き、 私と、たぶん男さんも、お仕事の支度を済ませた。
|
- 男「本当か?それは?」
40 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 18:59:11.50 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・
ずいぶんと暗くなるのも早くなった。 既に夜をむかえてしばらくたってから、俺はそう思った。 今日の女の話が今も心に残っている。 おばあちゃん達の墓参りにでも行って、 住職さんに何かしらないか聞いてみるか。俺の親のことを。 おばあちゃんが死んじゃった時はかなりバタバタしてたから、何か新しい物を探し損ねたかも知れないしな。 なんだかとてつもなく重いものを俺は掴もうとしている。そんな気がした。 広い部屋の片隅で、すこし憂鬱になり、 宿題の存在を思い出して、取り掛かる。 明日も忙しい。とにかく早く寝よう。
|
- 男「本当か?それは?」
41 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:00:24.27 ID:sI1xZVMN0 - >>39
ありがとうございます!! ・・・・・・・・・・・・・ 女「失礼します。」 三回ノックをしてからお姉さまの部屋のドアを開ける。 会長「さぁ、そこに座って。」 バニラの匂いだろうか。 心地よい香りが、ドアを開けると広がってきた。 女「早速なんですが、お姉さまは忘れたことを思い出したくなりますか?」 会長「どういうこと?」 女「何だか最近、昔は覚えていたのに今はもう覚えていないものがあるって思うようになったんです。」 会長「・・・」 女「あの時まではきっと親の顔を覚えていたの、今はもう思い出せない。 覚えていたという事実はあるのに、内容を忘れてしまったんです。」 会長「それはつまり昔体験したはずの、知っていたはずの、 それが当たり前だったはずのことを覚えていないということ?」 女「はい。」 会長「男は何て言ったの?」 私は迷った。男さんが言ったことを伝えれば、 お姉さまが自身の答えをくれないかもしれないから。 でも私はわがままを言える立場にない。 姉妹だけど・・・ 会長「まぁ私の答えを先に言うわ。」 会長「あなたはそれを思い出したい?」 女「わかりません。ただ重い何かに手をかけているような、そんな感じです。」 会長「はっきりと思い出したい、知りたいと思うまで、その重いものを手に入れないほうがいいと思う。」 女「・・・」
|
- 男「本当か?それは?」
42 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:01:37.01 ID:sI1xZVMN0 - 会長「ある程度の覚悟があれば、それが今後の人生に必要になるのなら思い出しなさい。」
女「でも簡単には思い出せません。例えば誰かがそれを知っていて、 話してくれたとしてもピンとこないかもしれません。」 会長「私が手伝ってあげるから。大丈夫。そのときは大丈夫よ。」 何を手伝ってくれるのだろうか。 私の中にしかヒントはたぶんないのに。 それにそもそも質問の仕方がおかしかったのかもしれない。 思い出すと言ってしまったけど、 聞いてそれを思い出せる自信もないのだ。 いわば直感でこんなことを思いついてみて、おもむろにみんなに聞いて、 迷惑をかけて。 会長「まぁでも、面白い話をありがとう。何か私にもいい刺激になったわ。」 女「付き合っていただいてありがとうございます。」 私は男さんの答えを伝えてから、自室へ戻った。 お風呂に入ってまた考え直す。 この汚い体をみて思う。 どうしてこうならなければいけなかったんだろう。
|
- 男「本当か?それは?」
43 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:02:50.00 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もう潮時なのかもしれない。まだ二日しか経っていないのにこの状態だ。 引き合う何かがあるんだろうか。 せめて、クリスマスパーティーまでは、待って欲しい。 最後の想い出を、 みんなで仲良くできるであろう最後を過ごせたなら、 私たちの罪を二人に懺悔しよう。 一番悪いのは私たちでないにせよ、 責任と、ケジメのつけ方はそれしかないんだから。 あのメイドさんも、同意してくれるだろうか。 そしてなにより、お母様にこの事について伝えなければ。
|
- 男「本当か?それは?」
44 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:04:11.27 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・・
俺が女にあの話をされてから、女は変わったように思う。 いつもよりも近づきにくくなったように感じる。 あれから二週間。もちろん俺への話し方は何一つ変わっていない。 ただ言葉から感じ取れるものが無くなっていた。 クリスマスパーティーのときの仕事も、友が女と一緒に実行委員になってくれたのに、あまり協力することができない。 やはりあの時の俺の答えに理由があるんだろうか? 聞こうにも態度は変わっていないからどういう風に言えばいいのか分からない。 今週末だ。墓参りに行って、答えを探そう。 ばあちゃんが何か残してくれているかもしれないし、何か思い出せれば尚いい 準備で忙しいし、週明けにはもう本番だ。 だけどそれより大事なものがある気がする 友「準備ってこんなに忙しいんだな。」 男「そうなんだよ。ありがとうな。」 友「いいよ。女ちゃんと一緒に居れるし。」 男「お前が実行委員になった理由はそれか。」 友「まぁな・・・」 男「別にかっこつけなくても。」 友「雰囲気だよ。」 男「じゃ、俺会長に呼ばれてるから。」 友「う〜い。」 男「適当に帰っていいぞ〜」 友「分かった。」 友にそう伝えてから会長のところへ向かった。
|
- 男「本当か?それは?」
45 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:06:45.55 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・
何だか考え事をすることが多くなってしまった。 人と話すときにもそれが頭から離れないから、 なんとなく素っ気無くなってしまう。 お姉さまが言っていた思い出す覚悟とは何なのだろうか。 私を捨てた両親は今どこにいるんだろうか。 私はどこに居たんだっけ? 何も覚えてないし、何も思い出せないや。 女友「今日も準備?」 女「はい。」 女友「大変だね〜。」 女「そうでもないですよ。」 女友「じゃね〜私は部活だから。」 女「はい。さようなら。」 さてと。集中しないと。みんなに迷惑がかかる。 お仕事の休みを貰って、市役所にでも行ってみようかな。 今までこの学校周辺にしか行ったことがないし、 住民票を見れれば、不安も色々解決するだろう。
|
- 男「本当か?それは?」
46 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:07:58.49 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・
会長「・・・いいわよ。」 しばらくの討論の末、俺は今週末に休みを得た。 今まで何でもさせてくれた会長が、こんなに渋る姿を俺は見たことがなかった。 会長「そろそろ潮時かもね・・・」 すごく小さい声が聞こえた。 男「何かいいましたか?」 聞き取れなかったから聞き返してみる。 会長「いいえ。クリスマスになれば分かるわ。」 男「では、失礼します。」 バニラの香りがする部屋を出て、その部屋の前で女を見つけた。 男「女も会長に用事?」 女「はい。」 今までとは違って、言葉に元気が感じられた。
|
- 男「本当か?それは?」
52 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:16:25.38 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・
2015年 クリスマス 日本政府は、横行するコンピュータ犯罪、主に音楽の違法ダウンロードや、 動画の違法ダウンロード、ゲームのROMダウンロードなどを全て取り締まる強攻策にでた。 それは当時の日本国民ほぼ全員に、処罰を与えるというものだった。 罰に処されない条件は、 ・コンピュータを政府機関に持って行き、違法ダウンロードのログ等が残っていない場合。 ・家にそもそもプロバイダーの類がない場合。 であった。 無論持って行かない人たちには、政府が人を派遣し、 徹底的に調査をするというものだった。 携帯も例外ではなかった。 この政策の結果、日本国民のほぼ全員が、懲役刑を食らうことになった。 ただ政府も未曾有の経済的国難に直面していたため、 罰金を払うことによって、罰を処さないという方法を取ったのだ。 人々が言論の自由、ストレス発散の場所を無くしたのは、このクリスマスからだ。 結果的に人々は携帯電話、コンピューターを持たなくなり、 インターネットを使う場合には、長い長い申請書を書き上げなければならなくなった。 足りない金額を支払うために、人身売買も横行した。 それこそ一度売ってしまえば行き先は絶対に分からないほどの量の人身が取引された。 数多くの奴隷もうまれ、格差社会が一気にできあがったのだ。
|
- 男「本当か?それは?」
53 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:17:38.41 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女父「ばれなければ・・・」 狭い部屋の中に響き渡る声。 彼は今から罪を犯そうとしていた。 これさえ成功すれば、自分たちは平和に暮らすことができるんだ。 そう考えていた。 こんな風になってしまった時代。 国が国民のほぼ全員に罰を与えた。 だから、それはあながち間違いではなかったのかもしれない。 ただ彼は気づかなかったのだ。 彼の隠した防犯カメラはダミーであることに。 途方もない罰金の額。ギャンブルで金を掏ってしまった以上、 会社の金を横領し、自らを、その家族を守るしかなかった。 金庫に入っているであろうその金を、まさに取ろうとしたとき、防犯ベルが鳴り響いた。 女父「くっそ。走らないと・・・」 走り出した彼は、駐車場まで懸命に走り、 そしてそこで捕まることはなかった。
|
- 男「本当か?それは?」
54 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:19:04.25 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・・・・・
女父「どうする・・・どうするっ・・・」 彼は焦っていた。家で焦って酒を煽っていた。 妻は娘と一緒に寝ている。 最低でも自分が助かるためには、懲役を免れるには、 金を用意しないといけない。 娘を捨てるという、苦渋の決断を彼は下した。 娘を売り飛ばし、彼は金を得た。 女母「絶対嫌よ!なんで・・・なんで女を。」 女母「この子は悪くない!あなたが捕まればいいでしょ!」 女父「・・・っ!」
|
- 男「本当か?それは?」
55 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:20:24.07 ID:sI1xZVMN0 - 反対し続ける妻を殴り飛ばし、酒に酔った勢いで、彼は娘を車に押し込んだ。
幸い大きい会社、学校も持っているような大きな会社に勤めていたため、 人身売買について知ってる人を、彼は知っていた。 女父「この女を売って金にしたい。」 買取人「・・・」 女父「頼む、後には引けないんだ。どうしても金が要る。会社には戻れない。」 買取人「でもまだ赤ん坊じゃないか。」 女父「関係ない。臓器売買でもすればいいだろう。」 買取人「後悔はしないのか?」 女父「しない。」 彼の言葉を聴いたその男は、携帯電話を取り出し、 しばらく話し込んだ後に、小切手を渡した。 買取人「これで十分だろう。」 そういわれて持たされた小切手には、十分な金があった。 これで重荷からとかれる。 緊張感をすっかり失った彼は、また車に乗り、 近くの銀行まで走らせようとした。 銀行へ向かう途中のカーブで、 彼は反対車線を走っていた。 そのことにすら気づかず、ただ漠然とトップスピードで車を走らせ、 やがてそこには大きな音が鳴り響き、 サイレンの音が響き渡った。
|
- 男「本当か?それは?」
56 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:21:36.70 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・
俺は役所から戻ってくるなり、 誰にも顔を見せず、女にも結果を伝えずに、 部屋に入り、手紙を読むことにした。 男「・・・よっし。」 適当な気合をいれ、いざ文章を読み始める。
|
- 男「本当か?それは?」
57 :名も無き被検体774号+[]:2012/11/17(土) 19:23:12.05 ID:sI1xZVMN0 - ・・・・・・・・・・・・
幸いにも十分な貯金を施していたその家族は、 政府の厳しすぎる処置から逃れることができた。 物心がつくかつかないか位の男の子を車に乗せたその夫婦は、 家へと車を走らせていた。 男「今日のごはんはー?」 男母「何か食べたいものはある?」 男「なんでもいいー」 男母「あなたは?」 優しい笑顔で問いかける。 男父「じゃ、ハンバーグがいいかな?」 ハンドルを握りなおし、彼は答えた。 このまま家に帰れれば、幸せな、いつもどおりの日常が待っている。 またそれが当たり前だった。 家へと向かう最後のカーブを曲がる辺りで、 大きな音が、そしてサイレンの音が鳴り響いた。 悲鳴を上げる人々。 逆走していた車が、事故を起こしたのだ。
|