- 人を自殺させるだけの簡単なお仕事です
185 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 00:07:31.37 ID:H0TWczxL0 - 「さて、そろそろ解散といくか」
青空の顔を見つめながら、僕は言います 「なんだかお前、いきいきしてきたからな」 青空は痛いところをつかれて 慌てて緩んでいた表情を引き締め 「別に、そんな」と言いながら顔を赤くします ”実は人と話すのが好き”などと思われるのは 青空のような者にとっては最も苦痛なことなのです
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188 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 00:27:30.12 ID:H0TWczxL0 - タダイマー
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189 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 00:29:14.69 ID:H0TWczxL0 - 「さようなら、くもりぞらさん」
青空は公園を出て行きました 逃げるように早足で出て行ったので 公園の前にいた人に気づきませんでした 青空のクラスメイトの男は 公園から出てきた青空を見たあと その手に抱えられた植木鉢を見て 見てはいけないものを見たように目を逸らしました すかさず僕は青空の体をのっとります 感じの良い笑顔で「こんばんは」と言います 相手の男は、とても困った顔をしましたが 「ちわっす」と頭を軽く下げました
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190 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 00:43:27.62 ID:H0TWczxL0 - クラスメイトの男が去って行くと
青空は僕のところまで戻ってきて言います 「いったい、なにがしたいんですか?」 よほど恥ずかしかったのか、涙目になっています 「お前がしたくないことをお前にをさせたい。 お前がしたいことはお前にさせたくない」 「変な人と思われたじゃないですか、 公園から植物盗んだ人みたいじゃないですか」 「いいじゃないか、どうせ死ぬんだろ?」 「確かにそうですけど、それでも、死ぬ直前まで、 死んだ後の自分を想像する自分はいるんですよ」 「いいことを言う、その通りだ。だからやりがいがある」 呆れたような顔で青空が僕に言います 「女子高生に嫌がらせして楽しいですか?」 「楽しいぜ。今度やってみな
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204 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 13:05:48.39 ID:H0TWczxL0 - それからも毎日、僕は青空が知人と出会うたびに
礼儀正しく挨拶させ、時には会話までさせました 周りが少しずつ、青空が口を開いても 違和感を覚えなくなってきたところで、 惜しくも課外授業が終わってしまいます 最期の授業が終わった後、 青空はまっさきに教室を出ると思いきや、 ノートの隅に、おそらく僕に向けた メッセージを書きはじめました
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205 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 13:14:34.69 ID:H0TWczxL0 - 青空は、以前僕がそうしていたように、
ブランコに腰掛けて待っていました 「こんばんは、くもりぞらさん」 真夏日の昼間で、ブランコの椅子は ひどく熱を持っていました カーティシーの育て方について、 今のやり方で合っているのか確認したい、 というのが青空の要望でした 話を聞く限り、青空の育て方に 特に間違った点はなさそうでした
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207 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 13:19:49.56 ID:H0TWczxL0 - 「こんばんは」じゃなくて「こんにちは」だね
俺あたまおかしい
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208 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 13:21:41.16 ID:H0TWczxL0 - 「糞暑いな」と僕は汗を拭います
「落としてあげましょうか、川とかに。涼しげですし」 僕は無視してシーブリーズを体に塗ります 「いつか落としてやりますからね」 青空は僕に小石を定期的に投げてきます 僕は青空の体をのっとり、水飲み場で おでこで水を飲ませてやります 制服までびしょ濡れになった青空は、 「涼しげでいいです」とブランコに座って言います
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209 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 13:34:42.99 ID:H0TWczxL0 - 「お前はもう夏休みか。残念だな」と僕は言います
「もっと色々やらせようと思ってたんだが」 「夏休み大好きです」と青空はばんざいします 「人と会わなくて済むし、家にいられるし。 お酒は誰かが捨てたから飲めませんが」 「人と会うのも、外に出るのも嫌なのか」 僕がそう聞くと、青空は「しまった」という顔をして、 「ええと……どちらかと言えば」と濁します 青空の体をのっとり、僕はポケットをまさぐります ところが目当てのものは見つかりません しかたなく、操作をいったん解除します
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210 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 13:43:03.33 ID:H0TWczxL0 - 「お前」僕は聞きます、「携帯はどうした?」
「携帯? 持ってませんよ、そんなもの」 「携帯電話を持ってない? 今時の女子高生が?」 「必要ないことくらい見ればわかるでしょう。 いままで気付かなかったんですか?」 前髪をしぼりながら青空は言います 確かに、青空が携帯電話を持っても、 目覚し時計と化すのが目に見えています
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211 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 13:49:30.24 ID:H0TWczxL0 - 「なにをするつもりだったんですか?」
「知人に連絡して、遊びに誘ったりするつもりだった」 「断られますよ、そんなの」 「そうなれば尚良かった。お前傷つくだろうし」 「……そうですね。効果覿面でしょう」 「お前が人に会いたくなくて外に出たくないなら、 俺はお前を人に会わせて外に出そうと思ったんだ」 「間に合ってます。もう外に出てますし、 現にこうしてくもりぞらさんと会ってるんです」 「じゃあそれを継続しよう」と僕は提案します 提案と言うか、もう決定なのですが
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217 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 18:51:20.89 ID:H0TWczxL0 - 青空はお酒が飲みたいそうなので
僕は青空を喫茶店に連れて行きました エスプレッソをふたつ注文します 「私コーヒー苦手なんですよ。にがいから」 「知ってる。ウィスキーは飲めるのに、変な話だ」 「コーヒー、毒みたいな味するじゃないですか」 「毒を飲んだことがあるような口ぶりだな」 「ええ、他人の体を使って、ですが」 僕が何も言わずにいると、青空は 「冗談でしたー」と言って微笑みます 冗談にしても分かりにくいし、何より面白くありません
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218 :名も無き被検体774号+[]:2012/07/27(金) 19:01:00.18 ID:H0TWczxL0 - 僕が机の上に広げた参考書をのぞきこみ、
青空は不思議そうな顔をします 「勉強するんですか?」 「ああ。試験が近いんだ」 「そっか……そうなのか。私も勉強しよう」 青空は鞄から速読英単語を取りだします それを見た僕は、なんだか懐かしい気分になります 運ばれてきたコーヒーに、砂糖をたっぷり入れ、 おそるおそる口をつけた青空は、「にがいー」と顔を歪めます
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