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ワールドトリガーやっと連載再開か
悪党が破綻した日

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悪党が破綻した日
50 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:51:55.762 ID:J7EFiUnL0
凄いドライビングテクニックだと跳び跳ねる俺。

「カーズみたい」と呟きながら紫メッシュの女は、待田を肩に抱えつつおっさんに軽くキスして車内に上がり込む。

俺も遅れてテトテトとペンギンみたいに可愛らしく車に乗り込んだ。

チャクスウェルの隣しか空いてなかったので、急いでこのクソ犬を座布団にするみたいに座ってやる。

すると何故か思いっきり噛みつかれてしまった。


「ッッッ!!この野郎!!」

「ぐるるっ!!バウッ!!」


逃走する車。

警察署を出る途中、来たときと同じようにあの男とすれ違ったが、
男は悔しそうな様子でも怒った様子でもなく、ただ称賛するみたいに笑っていた。

次は確実に潰すという意味も含めた笑みで……


「……なんとか逃げきれちゃけでょ……」


アドレス帳にある限りアガツマのメンバーは残り6人らしい、恐らく今後は本気で俺達を消しに来るだろう。

俺はこの次は逃れられないという恐怖を感じつつチャクスウェルに噛まれた首もとを擦った。


〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
51 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:52:58.372 ID:J7EFiUnL0
逃走後、俺達はファッションセンターへと侵入していた。

警官相手に問題を起こしたので変装をする必要が出たためである。

ちなみに侵入という言葉を使ったのは、もうこの店は閉店していたからだ。

今の時刻は夜の1時。

こんな時間にやっている服屋などないから、侵入するしかなかったのだ。

だが、これは俺達の都合だし、
こっちの都合で店に迷惑はかけたくない。

なのでこんな事をしてなんだが、最小限の被害に抑えるようには努力したい。

そう思いながら入り口のバラバラになったガラス片を踏み鳴らしながら、奥のバックルームまで一気に車を突入させる。


「売り場の物にゅは手を出しゅな!バックルームの在庫を根こそぎ車にちゅめこめぇっ!!」


そう発破をかけると動き出すおっさん。
しかし、意味は通じてないのか服をかじったり店内をおもいっきり走り回ったりしているだけだった。

紫メッシュの女の方は服にたいして興味がないのか適当に選んでその場で着替えだす始末。

誰も俺の言うことを聞かないのに腹立ちながら、お前だけは違うだろうと古き友人、待田の方をいやらしい目で見るが奴はまだ落ち込んでいるようだった。
悪党が破綻した日
52 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:54:03.905 ID:J7EFiUnL0
「まちゅだ!!いちゅまでも落ち込んでんにゃ!」

「……」

「……ほらっ!」


待田の頬にキスをする。


「っ!……お前……」

「んっ……」


べとぉっという緑色の液を足らしながら頬から唇を離した。


「……なっ?」

「…………あぁ」


待田は少し元気になったようだ。


「よしゅ、じゃあ……」


そこからは全員思い思いのコーディネートをしだす。


俺はピンクのカーディガンに赤いスカート、その上に白い透け透けのスカートを履いて濃いピンクと二重のフリルを演出する。

待田は黒いTシャツとジーンズに着替え、
紫メッシュの女は黒いパーカーに黒いホットパンツ。

チャクスウェルには犬用のインディアンみたいな服を着せて、
知らないおっさんは最初に出会った時と同様に裸でいてもらう事にした。
理由は簡単、その方が目立たないからである。

こうして一新した俺達はファッションセンターで一夜を明かし早朝出ていく予定を立てたのであった。


〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
53 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:55:40.352 ID:J7EFiUnL0
不安な夜を明かして車は道の駅あがつま峡へと辿り着く。

アガツマとの戦いは避けられない以上、準備をするしかない。
戦いの準備をするには俺達みたいな裏世界の人間には常識だが道の駅が一番だ。

だからここに寄った次第である。

しかも丁度いい事にこの道の駅には温泉があったので、
草津ではゆっくり出来なかった分、俺達は体を癒すため温泉に浸かってリフレッシュもはかる事も出来、体調も万全の状態となった。


「ひゃ〜〜〜!」


今は、湯上がりの一番気持ちいい状態で外の風に当たっている真っ最中である。

待田と紫メッシュの女は昨日レジからいただいた金で買い物をしにいっていて、俺の方はおっさんと待機している場面だ。


「あーーー!」


するとおっさんが突然大声を出す。

どうしたのかと見てみると、どうやらおっさんは大きなオオムラサキを発見した様子。

興味深そうにじっと見つめている。


「ひゃ?」


しかし、このオオムラサキ飛び方が下手くそだ、
人間でいうならびっこひいていると言ったような感じ。

何故だろうとよく観察してみると羽根が少し欠けているようで、そのせいで空気の渦を十分に作り出せていないのだろうか。
悪党が破綻した日
54 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:56:53.511 ID:J7EFiUnL0
その少し羽根の欠けたオオムラサキは頼りなく休むように一輪の花へと止まる。


「うーーー」


おっさんが唸りだす、それはすぐ近くにカマキリがいて今にも襲いかかりそうだったからだろう。

おっさんはあたふたとしていたが、
ここでカマキリに食われるならそれも自然の摂理だ、俺達にはどうすることも出来ないよと肩を叩いた。

次の瞬間、カマキリの手がオオムラサキを捕らえる。

口に手を当てるおっさん、そのおっさんの肩を慰めるように抱いてやる俺。

もがくオオムラサキ。

カマキリは必死に押さえつけている。

しかし、体格差が大きいだけあってカマキリは情けなく力負けしオオムラサキを離してしまった。

歓喜の声を漏らすおっさん。

しかし、一旦は上手く逃げ切れたかに思えたが、
オオムラサキの頭は左半分が少し食べられた状態になっていて、しばらくはフラフラになりながらも飛行していたが、やがて力尽きたように地面に落ちてしまった。

しかも、運が悪いことに落ちた先は蟻の行列。

突然現れた獲物に群がる蟻達、オオムラサキの右羽根に一斉に集りだした。

絶望するおっさん、目を覆ってやろうか悩む俺。
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55 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:57:57.990 ID:J7EFiUnL0
今度こそ終わりかと思われたがオオムラサキは最後の力を振り絞るように大きく羽ばたくと高く宙に舞い蟻達を振り落とした。

必死に空を飛んで外敵のいない場所を探すように飛び回る。

しかし、オオムラサキは時が止まったように突然、空中でその動きを止めてしまう。

どうやら蜘蛛の巣に捕らえられてしまったらしい。


「あぁーー!」


もう蝶に動く気力はない。

今度こそ本当に終わりだ……

そんな光景を目の当たりにして、ショボくれるおっさん。

俺の方はこの楽しい見世物を見て、
ついこの前、気まぐれでオオムラサキの幼虫を助けた事を鮮明に思い出した。

助けたと言ってもアリジゴクの巣に落ちていたから取り出して適当な葉の上に乗せただけだが。

アリジゴク自体もあまりに大きな獲物に困っていたようだったし、
1ヶ月餌がなくても平気な虫なので誰も困りはしないだろうという軽い気持ちで助けたのだが。

しかし、もしあの時、助けた幼虫がこんな風に痛め付けられて死んでいく定めだったとしたら、
助けたことは間違いになるのだろうか?

俺はそんな考えを抱きつつ、悲しむおっさんを抱き寄せた。


〜〜〜〜〜
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56 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:59:46.270 ID:J7EFiUnL0
「昨日は悪かった」

「はぁ?なによ急に」


ゲイの待田くんがいきなり私に謝ってくる。


「取り乱してキミに迷惑をかけてしまった」


昨日の警察での話かしら?


「あー、別に気にしてないわよ」

「あんな反応して、変だよなオレ」


変……ね。

それでも私達の中では一番まともだけどね、貴方。


「うーん、まぁ好きな人が傷つけられたら誰だってああなるんじゃない?」

「好きな……人……?」

「ん?そうなんでしょ?」


突然顔を真っ赤にする待田くん。


「な、なにを言うんだ急に」

「あら違った?」

「違う!」

「ふーん」


違うわけないだろうけど、誤魔化したいみたいだし逃げ道は用意してあげましょうか。
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57 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:00:50.741 ID:J7EFiUnL0
「そうなの?」

「……あぁ」

「じゃあ、ごめんなさいね?勘違いして」

「……信じてないな?」

「そう見える?」

「あぁ」

「うーん、本当に信じてるわよ?」

「……口だけならなんとでも言える」

「……」


じゃあ、どうしてほしいのよ。


「アイツはただの……大事な友達だ」

「そう」


大事な友達ねぇ……


「あと、これだけは言っておく」


手に持っていた本を書棚に戻しながら指を差してくる。
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58 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:01:52.983 ID:J7EFiUnL0
「なに?」


私は待田くんがさっきまで手にしていた、
小麦色に焼けたムキムキのマッチョが2人、お互いの片胸をくっつけ合いながら笑顔でこっちを向いてる、
そんな表紙の雑誌を見ないようにしてあげつつ首を傾げた。


「まだ疑ってるみたいだけど俺はゲイじゃない」

「……えぇっと」

「断じてな」

「……うん」


信じるわと言って適当に話を切り上げる。

今はこんな事よりする事があるからね。

 

〜〜〜〜〜
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59 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:02:57.314 ID:J7EFiUnL0
身支度を済ませた俺達は近くの公園へと車を止めていた。

その訳はサッカーをしている若者達に目を奪われたからに他ならない。


「ひゃ〜楽しそうだじぇ」

「はぁ?」


「遊んでる場合じゃないでしょ」と紫メッシュの女は言う。


「昨日の奴等が追ってきてんのよ?」

「わかっちょる!でみょ……」


混ぜてほしいんだもん……と小さく呟いた。
隣で知らないおっさんも指をくわえていて、どうやら俺と同じ気持ちの様子。

こうなると俺達はテコでも動かないぞ。

しかし、女は急かすように「ほら、早く行くわよ」と俺の手を引いてきた。


「……いやじゃ!!」


だから俺はそこを立ち去ろうとする女の足に必死でしがみつく。


「お願いじぇ!遊ばせてくれぇ!!」

「だから、そんな場合じゃないんだってば」

「頼みゅよぉっ!!」


そうこうしてると試合終了のホイッスルが鳴り、選手達は熱い握手を交わし合っていた。


「ひゃあ!次は俺達のばんだ!」

「はぁ?」

「申し込んでくりゅ!」

「ちょっと、そもそもサッカーって少人数制でも7人以上じゃなきゃ試合してくれないわよ?」


ペラペラ何か言っていたが女なんかの言うことは無視してやる。

俺は無邪気に試合を申し込みにいった。
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60 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:04:01.503 ID:J7EFiUnL0
「俺達とサッカーをしちぇくれ!」

「はい?……ぐぅっ!」


キャプテンらしき人をいきなり銅の義足で蹴り飛ばして、自分の能力を誇示してやる。


「キャ、キャプテン!!」


ほら、やっぱりキャプテンだ。


「なにすんだよ!あんた!」

「試合をしちぇくれ!」

「いきなり何を言ってるんですか?」

「頼みゅ!!」


そう言ってもう一度キャプテンを蹴りあげてやった。


「がはっ……!」

「ちょっと!!」

「やめろよっ!!」

「頼みゅ!頼みゅよぉ!!」


キャプテンを踏みつけながら手を合わせて懇願する。


「いや……頼まれましてもね?」

「……突然なんなんだよコイツ」

「するにしても俺達これから予定あるしな……」

「というか関わんない方がいいよ……ヤバイ人だって……」


ひそひそとそんな話をしだす弱小チームのメンバー。

その様子はこっちの要求を断ってきそうな雰囲気をあり得ないほど醸し出していた。
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61 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:05:04.912 ID:J7EFiUnL0
「……ましゃか、しないちゅもりか?」


声色が変わったのに自分でも驚く。

俺は今、怒っているのかもしれない。


「……にゃあ?しないちゅもりなのか?」


背後ではおっさんがリボルバーを取り出しながらこちらを見ていた。

そんな状況の中でもう一度、聞いてやる。


「しないちゅもりなのきゃ?」

「…………わ、わかりましたよ」


どうやらもう意地悪する気はなくなってくれたようだ。

こちらの要求通りにしてくれる様子で俺は満足気な気持ちになる。

やはり人間同士は仲良くしないとな。

俺は笑顔で感謝を述べつつ、
早速皆を呼んで試合を始めようとした。


「あしょんでくれるって!!みんなぁー!」

「あ、あれが貴方達のチームですか?」

「しょうだ!」

「……人数が足りませんけど?」

「ひゃあ?」

「最低でも7人はいないと……」

「……」


なんだか訳のわからないことを言い出したが、
ようはもう1人いれば良いという事だろう。

俺はちょうど近くをジョギングで走っていた男を銃で脅し仲間に加える。
悪党が破綻した日
62 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:06:15.211 ID:J7EFiUnL0
「これで7人でゃ」

「……えーと」


それでも何か足りなそうな顔をする。


「7人でゃろ?」


俺がそう言うと、てんとう虫が自己主張するように飛んだ。


「えぇっと……そうですね」

「よしゅ!やるじょみんなぁ!」


そして、試合開始のホイッスルが鳴る。

早速、俺は銅の左足でボールを蹴り飛ばす。

それは弾丸のように飛び、刺すように相手チームの1人に突き刺さった。


「ぐあぁぁぁっ!!」


まずは1人……


「おっしゃん!!」


そう声をかけると、知らないおっさんはリボルバーで他の選手を撃ち抜いていく。


「うわぁぁあっ!!!」


サッカー中だというのに相手チームはボールには目もくれずに明後日の方向へ走り出した。

弾丸に沈んだのは1人の選手。

4人はフィールド外に逃走。

これで残りはキャプテンの1人だけになった。


「こんもんサッカーじゃねぇ!!」


キャプテンは何か喚いているが負け犬のなんとやら。
俺は気にせずキャプテンを仕留めるため走り出した。
悪党が破綻した日
63 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:09:02.104 ID:J7EFiUnL0
その間に、うちのチームのてんとう虫が銃弾に仕留められた1人の選手にたかり血を吸っている様子が垣間見える。


「うわぁっ……!気色悪っ!」


それを見てゾッとしたように顔を強張らせるキャプテン。


少し離れた場所では待田と女が、あの犬の毛を整えながら、


「この犬、ノミついてるわね」

「チャクスウェルな」

「どうりで車の中が痒いわけだわ」


というやりとり。


「昨日風呂にいれたばかりなんだけど」と首を傾げる待田を横目に、俺はキャプテンに2度目の蹴りをかましてやろうとした。

しかし……


「くそっ!異常者共が!!」


それを軽いフットワークで避けて、俺のケツを蹴りあげる。


「ひゃんっ!」


思わずいやらしい声が漏れるが、すかさず反撃にと右足を軸にして背後にいるキャプテンへ回し蹴りをかます。


「おっと」


しかし、それも軽いフットワークで避けられ腹に1発するどい蹴りを喰らってしまう。


「やんっ!」


俺は可愛く尻餅をつく。
悪党が破綻した日
64 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:10:04.722 ID:J7EFiUnL0
俺のピンチにもかかわらず、ここまで目立った活躍のないジョギング男はずっとポカーンと立ち尽くしているだけだった。

何やってんだと呆れつつ、そんな俺の前に立ち塞がるキャプテンを見上げる。


「っ!!いやぁぁっ!!!」


俺は犯されると思い自分の体を守るみたいに抱いて悲鳴を漏らす。

そこに覆い被さってくるキャプテン。

「あっ……」という声を漏らし俺は少し諦め気味に空を見上げたが、キャプテンの汚らわしい手が俺の体を弄ぶことはなかった。


「ひゃ?」


見るとキャプテンの額には風穴があいている。

どうやら寸前の所でまたおっさんに助けられたらしい。


「おっしゃん……ありがちょう……」


キャプテンの重い体をどかしながら試合の結果を見る。

4人は逃走、2人は死亡、1人はまだうずくまっているが戦闘不能状態だ。


「勝っちゃな……」
悪党が破綻した日
65 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:12:21.280 ID:J7EFiUnL0
文句なしの大勝利だ、実はサッカーをやる事自体初めてだったのだが、ビギナーズラックというやつか勝ててしまった。


「みんなぁ!」


俺は喜びを共有しようと仲間達に駆け寄る。

この試合で唯一のお荷物だったジョギング中の男は無視して互いを称えあう事にした。


「よくやっちゃ!みんなぁ!」

「あっもう終わったの?じゃ早いとこ行きましょうよ」

「チャクスウェルもう一回風呂入ろうか?」

「……ばぅ」

「本当によくやっちゃよ!みんにゃぁ!」


ちなみにあのキャプテンはアガツマの人間だ、国旗男のスマホに登録されていたので俺にだけは一目でわかった。

どうやら向こうは俺の事に気付いてなかった様子で、情報があいつまで回っていなかったらしい。

そんな幸運も味方したのだろう今試合の結果を噛み締めながら、俺達は次の地へ向かう事にする。

 

〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
66 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:13:44.664 ID:J7EFiUnL0
サッカー終わりの俺達は古いデパートで少しトイレ休憩を挟んでいた。

今は待田とおっさん待ちでよくあるエレベーター前にある椅子に、女と腰掛けている所だ。


「もー早いところ行きましょうよ」


しかし、この女はトイレに寄ってやったのに化粧直しもしないのか?

俺は信じられないといった気持ちを抱えつつ、ノーメイクの女を横目に頬へチークを塗った。

そうこうしてると作業服を着た男に話しかけられる。


「すいません」

「ひゃあ?」

「んー?」

「少しお願いしたい事があるんですけど」

「にゃんだよ?」


突然なんなんだと思いつつ、
俺は口紅を薄く塗り「ん〜まっ」としながら返した。


「今、エレベーターの点検中なんですけど、このエレベーター古いタイプなんで危ないんですよね」

「ひゃあ」

「今から下の点検をするんですけどこのエレベーターが1階にいかないように見ててもらってもいいですか?」


初対面相手に説明口調でぺらぺらとうるさい奴だ。
少し不快な気持ちになったが待ってる間どうせ暇だし、先の試合のおかげか機嫌も良かった俺は引き受けてやろうかという心持ちになる。


「まぁ、べちゅにいいけど」

「ありがとうございます」
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67 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:15:08.785 ID:J7EFiUnL0
その後もペラペラと説明口調で語り出したので少しうんざりしたが要約すると、
どうやらこのエレベーターは相当古いタイプのもので、安全装置のような物もついてなければドアも手動で開けるようだ。

こんな古いエレベーターは作り直さないとデパート的にも営業すべきではないというか、そもそも法律上出来ないんじゃないかと思ったが、
よく考えたら俺達はバックルームにいる。

エレベーターは荷物搬入用みたいだし営業的に問題はないのかもしれない。
 
あの作業員もさっきから馴れ馴れしかったが、俺達をオシャレショップの店員か何かだと思ってお願いしてきたんだろう。
普通、客にそんなお願いしないからな。


「……ひゃあー」


そんなわけであの作業員の頼み通り俺達はエレベーターを見守る事になる。

今、丁度下に入って点検してる真っ最中なのだろうか。
このタイミングでエレベーターを下に向かわせたらきっとあの作業員はぺちゃんこになって、ペラペラの姿で「もぉー何やってるんですかー」と言いに来る事だろう。


「……」


体がうずうずする。

人間ダメだと言われるとしたくなるものだ。
エレベーターの下に行くボタンが今ほど妖艶で甘美に見えることも人生でそうあるまい。


「ダメよ?」

「ひゃあ?」


そんな俺の考えが読めたのだろうか、女が警告するようにいう。
悪党が破綻した日
68 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:17:11.367 ID:J7EFiUnL0
「にゃにがだよっ!」

「それ下に向かわせたら大変な事になっちゃうじゃない」

「しょんちゅもりねぇよ!」


俺はボタンに指をかけながら憤る。


「言い掛かりはよしちぇくれぇ!」

「ちょっと、ダメだってば」

「俺がしょんな事にするように見えるのきゃ?」

「いや、今しようとしてるじゃない」

「っ!!あったまきたっ!押してやる!」

「あー……まぁ、別に私は構わないんだけどね」


そこに現れる作業員。


「ありがとうございます」

「ひゃっ!」

「あら」


その瞬間エレベーターは下に向かっていた。
これではこいつをぺちゃんこに出来ないではないか、俺は落胆し、
作業員は下に向かうエレベーターを見て少しぎょっとする。


「え……えぇっと……今度はこのエレベーターを下にやってまた上に戻したいんですが……」

「下にはもういっちょる」

「はい……そうですね……それで、また他の人がこのエレベーターを利用しないよう引き続き見ててもらいたいのですが…いいですか?」

「いいひょ」

「ありがとうございます……ついでに工具を上に上げるんでエレベーターが来たら外に出してもらってもいいですかね?」

「図々しいにゃ」

「すいません……あいにく僕一人だけでやってるもんで」

「まぁ、しぇっかくだしやってやるよ」


「な?」と紫メッシュの女に声をかけると、奴は「は?」と返してくる。
どうやら同意見の用だ。
悪党が破綻した日
69 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:19:27.966 ID:J7EFiUnL0
そうしてまたエレベーターを見守る事になる俺達。


「待田くん達まだかしら」

「待田はトイレに時間がかかるんだ」


小さい方でも待田は10分くらいかける。

まだ出るかもという思いから2回は出さないと安心できないらしい。


「ふーん」


そんな他愛のない会話をしているとエレベーターが到着した。


「しゃてと……」


俺は立ち上がり作業員のいう通り……にはせずに、
本来手動式のドアに手をかける予定だった指を下に向かわせるボタンへとかけた。

紫メッシュの女はそれを見て何か言いたげだったが、めんどくさくなったのか口を閉じてポケットから菓子箱を取り出す。

そんな女の隣にゆっくり座り直しながら、
恐らく本来なら俺達が工具をおろしたくらいのタイミングであろうか、
そんなタイミングで大きな爆発が下で巻き起こった。
悪党が破綻した日
70 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:20:33.466 ID:J7EFiUnL0
「……」


その音を聞いて紫メッシュの女は少し眉を上げて驚いた風だったが、なにか合点がいったように納得して細長いチョコ菓子を食べだす。

実はこれは俺しか知らない事だったのだが、
あの作業服の男はアガツマの人間なのだ。

恐らく小癪な手を使って俺達を消そうとしたのだろうがメンバーの顔がバレているのに気付いていなかったのであろう。
そんな状況では上手く行くわけがない。

今頃、あの作業員は下で俺達を仕留めるための爆弾に仕留められているところだろうか。

アガツマのメンバーをまた一人潰した事を実感しながら、
しかし、今後はこう上手く行かない事も感じる。


ここに攻めてきたということは奴等は俺達の後をつけてる可能性が高い。

そしてあいつがやられたということは俺達にメンバーの顔が割れているのでは?という可能性に辿り着かれるかもしれないからだ。

今後は極力無駄な寄り道などしない方がいいかもしれないな。


「食べる?」


女から差し出されたチョコ菓子を口で受け取りリスみたいに食べながら、俺はそんな事を思っていた。

 

〜〜〜〜〜
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71 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:24:44.087 ID:J7EFiUnL0
そんな訳で車は群馬県吾妻郡東吾妻町へと到着している。

理由はもちろん観光のためだ。

どうやらここはハート型土偶の出土地らしく、町中にはそれを押し出した土産物で溢れ返っている。

俺は今しがた土産屋で購入した小さなハート型土偶をかじりながら優雅に観光を楽しんでいる真っ最中だ。

昔情緒を感じさせる街並みに、いい街だなと思いながら一口二口と土偶にかじりつき、
口中に広がる土の味が風味豊かで、
これが東吾妻の味なのかと思いながらゆっくりと噛み締める。


「おっ、お客さん!それ食べ物じゃありませんよ!!」


これを買った店の主人がさっきからそのような事を言っているが、いったい誰に向かって言っているんだろう。

食べ物と飾り物の区別もつかない奴が世の中にはいるもんなんだなぁと驚愕しつつ、ハート型土偶を味だけじゃなく見た目でも楽しもうと今更ながらじっくりと見た。

この土偶は元の物より大分デフォルメされたデザインになっていて、手でハートの形を作ってる猿みたいなポーズをとっているのだ。
今し方、腕の部分を全部食べ終わった所なので、
もうハート型土偶ではなく両腕なし土偶なのだが、それでも女子高生にウケそうなデザインなのは相変わらず。

色味は地味で粘土だけで作ったみたいだが、女子高生なら好きなようにデコるだろうし、
こんくらい地味でも問題ないのだろう。

ひとしきり観察し終えて俺は再び味わうように、両腕のなくなった土偶を男性器でもしゃぶるみたいにしながら、口の回りを泥だらけにし辺りを散策し直した。
悪党が破綻した日
72 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:26:19.430 ID:J7EFiUnL0
「ひょっ?」


すると、寂れたゲームセンターを見つける。

こういう観光地のボロいゲームセンターは独特の雰囲気があって好きなのだ。

俺はしゃぶった事で溶けて焼けただれたみたいになった土偶を気持ち悪くなったという理由で捨て、口直しにその辺に落ちてた十円玉を飴玉みたいに舐めながらご機嫌で中に入っていく。

店内に入ると中には3人の店員がいた。

だが、その全員が俺が入るなり怪訝そうな顔で見てくる。

少し不快に感じたがこんな仕打ちを受けるのも田舎ではそう珍しくない。
田舎特有の排他的な店員なのだろう。

よそ者が来たという視線、
万引きでもするんじゃないかという視線、
都会の人間が派手な格好で来やがったという視線。


その3つの視線を感じながらも俺は、
この田舎者がという視線、
ゲーセンで万引きするもんなんてねぇよという視線、
都会では珍しくないファッションですという視線を込めながら、
義眼である右目を光らせ奥へと進んだ。


ゲームセンターの方は無駄に広いが機体は少なく、
よくある忍者のメダルゲーだとか無抵抗のワニを袋叩きにするゲームだとかお馴染みのバスケットもどきだとかしかない。

さらに奥にいってみるとUFOキャッチャーがあったが景品はどれもショボいものばかり。

強いて良いものがあるとしたらルイヴィトンのバックくらいだろうか。

俺は景品を入れる袋を1枚無意味に貰いながら、レベルの低い店だと十円玉を吐き捨てる。
悪党が破綻した日
73 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:27:50.093 ID:J7EFiUnL0
「んっ?」


そんな冷めた目でUFOキャッチャーを眺めていると見知った顔に出会った。


「おっしゃん」

「うー……」

「どうしちゃ?」


知らないおっさんは物欲しそうにUFOキャッチャーの中を見つめている。

視線の先を追ってみると、そこには安っぽいフェルト地の赤いズボンがあった。

糸は緑で縫われていて地味にクリスマスカラーになっているが、それが猛烈にダサい。

こんな物が欲しいのかとおっさんの方に視線を戻すも、
おっさんはまだ目を輝かせている。


「欲しいのきゃ?これ」

「うー」


子供みたいに頷くおっさん。


「しょうがないじぇ」

「うーー?」

「一肌にゅいでやるきゃ」


俺は腕捲りしてUFOキャッチャーを思いっきりぶん殴った。

すると耐久性に難があったのか簡単に穴が空いてしまう。


「よしゅ!」


しめたとズボンの方へと左腕を伸ばしていく。


「むぅ……!」


指五本だと中々難しい位置にあったが、多指症の左手のおかげでなんとか取れた。
悪党が破綻した日
74 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:28:56.316 ID:J7EFiUnL0
「と、取れたじぇ!」

「うーー!」


はしゃぐおっさん。

しかしその時、突然の大地震に見舞われた。


「ひゃあっ!!」

「あぁーー!」


激しい縦揺れだ。
俺はUFOキャッチャーごと地面を跳ね。
おっさんはいろんな所が縦に揺れている。


「おっしゃん!テーブルの下に隠れるじぇ!」

「うぅーー」


ゲームセンターの壁に亀裂が走る。


「やべぇじょ!!」


俺は片腕にUFOキャッチャーをくっつけた状態で急いでその壁を蹴りつけた。

内側に崩れてきては大変だからせめて外側に崩れるように何度も何度も壁を叩きつける。

おっさんの方は丸い小さなテーブルにケツを出して隠れていた。

そのままでいろよと思いながら俺は無我夢中で壁を殴り続ける。

パニックになる店内。

崩れていく壁。

迫りくる天井。

俺は最後の最後まで壁を殴るのをやめなかった。

 

〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
75 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:30:30.208 ID:J7EFiUnL0
皆とは別行動をしている中、オレはどうやらアガツマの人間に出くわしたらしい。


「ほら、どうだい?私のハンマーの威力はっ!!」


髭面のマッチョはオネェ口調でハンマーを振り回す。


「ぺしゃんこにしてやるわよ!」


地面に叩きつける度に凄まじい震動が周囲の人間や建物に見えないダメージを刻んでいく。

それはまるで地震のようだった。


「やめろ!関係ないヤツを巻き込むな!」

「他人の心配なんてしてる場合かしら?イケメンさん!!」


凄まじい跳躍力でオレの懐に飛び込み、横振りのハンマーを喰らわそうとする。


「くっ……!」


なんとか直撃を避けるも後ろに転けてしまい隙だらけの状態になってしまった。


「ふふ、隙あり〜!」


男は振りかぶって強力な一撃を浴びせようとしてくる。

オレは汚い地面をゴロゴロと転がって避けるが、
避ければ避けるほどこちらの好機は減り、相手はどんどん優位に立っていく。

そんな劣勢の中、チャクスウェルが加勢にやってきた。


「ワン!ワン!」

「なっ」


アイツの頭に乗ったてんとう虫が発破をかけるように不気味な羽音を奏でている。
悪党が破綻した日
76 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:31:49.044 ID:J7EFiUnL0
「なぁに?この犬っころ」

「っ!!やめろ!チャクスウェル!!」


オレが制止するもチャクスウェルは狼のように男へと噛みついた。


「いった!!このクソ犬!!!」


ヤツのキバはあの男の太股に大きな傷をつくったが、
すかさず反撃で放たれたハンマーの打撃によって宙に打ち上げられてしまう。


「チャクスウェルッ!!!!」


何メートルも空を舞うチャクスウェル。


「お前っ!!!」


オレは男の方を睨み付けるが、いつの間にか至近距離まで詰め寄ってきていたヤツのハンマーを、ついに喰らってしまった。


「あんたもいい加減、喰らっときなさい!!」

「─────っっ!!!」


後ろに吹っ飛ばされ、地面を何バウンドもし、電柱に背中を叩きつけられてようやく止まる。


「がっ……っ!」


息が出来ない、弓なりになった状態で何とか立ち上がろうともがくも、それより先にハンマー男の射程に入ってしまう。


「終わりよぉ?」

「っ……」


ハンマーを高く振り上げてオレの頭に狙いを定めてる。

数秒後には署内で見たあの忌々しい刑事と同じ末路を歩むことを覚悟した。

最後の脳裏に過ったのは今までの人生ではなく、ただアイツの事だった……

 

〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
77 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:34:57.655 ID:J7EFiUnL0
アイツと初めて出会ったのは中学二年の頃。

うちの学校にアイツが転校してきたのが全ての始まりだった。

「新しいクラスメイトだ」と担任に紹介されて入ってきたのは当時30才くらいのアイツ。

見た目はそれよりもっと年老いていて、あれで30才?と逆に驚いたものだが、担任の言葉を思い返し冷静になる。

一回り以上も年が違うあの男を新しいクラスメイトと言わなかったか?


「よろしくだじょ」


新しい担任だとか、転任してきた教頭や校長ではなく、
新しいクラスメイト?


「……」


空気的に詳しく聞くことは憚られる気がして、深く考えないようにする。

それにどうせオレには関係のない事なのだから。


「よし、じゃあ待田の隣な」


関係がないと思っていた矢先に、担任が信じられない言葉を放つ。


「どいつじょ?」

「あいつだあいつ」


やめろ、オレを指差すな。

教科書で咄嗟に顔を隠した。
悪党が破綻した日
78 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:38:03.367 ID:J7EFiUnL0
「あにょ英語の教科書の奴じょ?」

「そうだ」

「りょーかいじょ!」


スキップしながらこちらに駆け寄ってくる。


「勘弁してくれよ」


聞こえるか聞こえないかの音量でオレは呟く。


「よろしくじょ!」


ヤツはオレに手を差し出してきた。


「……」

「んっ!」


握手か?

したくないけど拒むのもマズイ。

オレの皆への印象が悪くなる。

ただでさえクラスで浮いているのだから、嫌な奴と思われるのだけは避けなければ……


「おう」


だから、仕方なくオレはヤツの手をとる。


「うっ……」


中年特有のぬるぬるした感触がオレの手を汚染した。

ウゲェッ……と思いながらもガチガチの愛想笑いで「よろしく」と答えた。


「よろしくじょ!!」


何回も言うなと内心毒づきながら、早く席につくよう促す。

正直あまり関わりたくない人間だ。

幸いな事に再来月には席替えがある。

それまでの辛抱だと自分に言い聞かせた。
悪党が破綻した日
79 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:39:35.572 ID:J7EFiUnL0
『あぁぁんっ!!!』


走馬灯のように過る、アイツとの出会いを克明に思い出していたが、
ハンマー男の気色悪い悲鳴によって現実世界へと戻される。

見るとオレの頭蓋を砕く予定だったハンマーは逆に粉々になり、ヤツの腹には風穴が空いていた。

何が起こったのか理解できなかったが、地面に全身が真っ赤になったてんとう虫が転がっているのを見て合点がいく、
恐らく宙に舞ったチャクスウェルから弾丸のように放たれたのだろう。

オレはチャンスだとすかさず立ち上がり、その勢いを利用してハンマー野郎の懐に体当たりをかました。


「いやぁぁんっ!!」


その後、まだ宙を舞うチャクスウェルを受け止めるために落下するであろう場所に走りだす。


「チャクスウェル!!」


地面に叩き付けられる寸前の所でなんとかキャッチした。


「大丈夫か?チャクスウェル」


チャクスウェルは大丈夫と伝えるように目をあわせてくる。


「痛いわね……やってくれるじゃない!」


後ろでは先程突き倒した男がムクリと立ち上がりオレ達を睨み付けていた。


「仕返しよ!!」


武器をなくした男は鍛え上げられた腕を構え迫りくる。
悪党が破綻した日
80 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:42:41.763 ID:J7EFiUnL0
スピードでは勝てないのはここまでの戦いでわかっていた、だから逃げたり避けたりするよりもカウンターを狙うしかない。

オレも覚悟を決めて構える。


「挽き肉にしてやるっ!!」


丸太のような腕から繰り出される強力なパンチは俺の腹に刺さり内臓を貫くような衝撃を与える、あまりの威力に意識が飛びそうになった。

だが、なんとか歯を食いしばって耐え抜き、
今度はこっちの番だと力を振り絞って、全体重をかけた掌底をヤツの鼻に喰らわせる。


「ヴッ!!」


急所を突かれた男はよろめき隙が生まれる、
オレはそこに全てを賭けて、捨て身の回し蹴りをヤツのこめかみ目掛けてぶち込んだ。


「ガァッ……!」


男の巨体は地面転がる。


「はぁ……はぁ……」


踵にはカタイ物を砕いた嫌な感触が残っていた。

その感触は目の前に転がる男に致命傷を与えたという証拠でもある。


「最悪だ……やっぱりアイツに出会ってから」


死の間際に思い出す程、一番大事な友人を思いながら、オレは忌々しく呟いた。

 

〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
81 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:44:10.947 ID:J7EFiUnL0
〜キャラクター紹介〜


カブトムシ大のてんとう虫

日本に幅広く分布する吸血てんとう虫。
主にペット等の愛眼動物に寄生し人間の血肉を食らうことで生存している。

その中でも規格外の大きさを誇るチャクスウェルの寄生虫。

 

〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
82 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:45:45.405 ID:J7EFiUnL0
車は群馬県吾妻郡高山村に到着。

東吾妻では各々いろいろあったらしいが、
俺はゲーセンからなんとか這い出し、待田も少し怪我をしていたがアガツマのメンバーを1人消したらしい。

ということは残るメンバーは3人、得体の知れないグループだがこの地でケリをつけないと何処まででも追いかけてきそうだったのでいい加減決戦の覚悟を決める。

俺達は最後の戦いとして誰の迷惑にならないようにと、大理石村ロックハート城という大人気の観光スポットに来ていた。

ここを最終決戦の舞台にするためだ。


「ふーん、結構しっかりしてるのね」


紫メッシュの女は全く知らないおっさんとキャリーケースに乗りながら、楽しそうに笑っていた。


「本当にスコットランドへ来たみたいだ」


待田の方はチャクスウェルを小型犬でも抱くように抱えながら目を輝かせている。

そう言われてたしかに、アメリカ村とかフランス村みたいな観光地に行くと感じる違和感……

全体的に作りがチープだとか、日本気候のせいで外国の建物なのに日本の建物みたいな風化具合だったりという違和感がない。

所々吊るされてるハートの絵馬が景観を損ねてる気はするが、この類いの観光地では悪い方ではないのでは?

流石、ドラマ等のロケ地にされてることもある。
悪党が破綻した日
83 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:47:51.079 ID:J7EFiUnL0
「なぁ!あそこいかねぇか?」

「ひゃあ?」

「ほらっあそこ!」


待田が指差したのは城の前にある塔。


「行こうぜ!」


待田は俺の手を握って指同士を絡ませあうと強引に引っ張って行く。

俺は左手の指が1本余っているのを少し寂しく感じながら引きずられていった。


「ま、まちゅだぁ!!」


あまりの強引さに悲鳴混じりの声も漏れるが、当然満更でもない俺は待田と歩調を合わせたのだ。

待田に連れられロックハートスプリングベルという塔へと連れられた俺は、
門の前にいたおびただしい数のハート型絵馬が吊るされた甲冑を見て、そいつを少し哀れに思いつつ塔内へ入っていく。

中は螺旋階段で下から見上げてみると、ここにもハートの絵馬が張り巡らされていた。


「ハートだらけだな」と呆れていると待田は手を引っ張ってきて「ほら、登ろう」と言ってくる。

今日の待田はなんだかいつもと違うなと思いつつ、俺も歯を剥き出して頷いた。

螺旋階段を二人で仲良く登り、最上階についた俺達は穴の空いた台座を見つける。


「なんじぇこれ?」


周りを見てみると、どうやらこの穴は一番下の階まで続いていて、
そこにコインを投げ入れ落ちた音が聴こえたのなら二人の愛は永遠の物となるらしい。

まぁ、よくあるおまじないみたいな物だな。


「やってみようぜ」


待田はポケットから500円玉を取り出し俺の手を引く。

なるほど、これがしたかったのかと納得しつつ俺は問題が1つあることを言う。
悪党が破綻した日
84 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:49:39.590 ID:J7EFiUnL0
「俺、耳がわりゅいんだけでょなぁ」

「いいから!」


どうやらお構い無しらしい。

ならばと俺も500円を握り締め願い事でもするみたいに拝んでから投げてみた。

20メートル下に落ちていく硬貨。


「聴こえたっ!」


嬉しそうにはしゃぐ待田


「お前は?」


本当は聴こえないが……


「……聴きょえた」


待田のあの顔を見れば聴こえなかったとは言えない。

俺がそう答えると待田は嬉そうに笑っていた。

 

〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
85 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:51:23.158 ID:J7EFiUnL0
「ふふ」


待田くんは嬉しそうに笑っていた。

塔から戻ってからずっとこんな調子。

まぁ私も女の子だし、あの塔に何があるのかは知ってるからご機嫌な理由は大方想像はつくけどね。


「誓ったんだ?二人の永遠」

「へっ?な、なんの事だ?」

「さぁ?なんの事かしらね」


まぁ、とぼけるなら別に良いけど。


「……」


待田くんは少し考えた素振りをして私の方を真っ直ぐ見てくる。


「正直にいうよ」

「なによ?」

「オレはアイツに惚れてる」

「……そう」


知ってたけど。


「だが、誤解しないでくれ」

「んー?」

「男だから好きになったんじゃない」

「うん」

「オレは、アイツだから好きになった」


すれ違ったガタイのいい男を横目でチラッと見つつ……


「人としてアイツに惚れたんだ」

「……」


私は適当に「素敵ね」と答えて城内を見物する。

実は前から来てみたかったのよね、ロックハート城。
悪党が破綻した日
86 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:53:05.325 ID:J7EFiUnL0
〜〜まいごのおじさん〜〜


「うーー」


今、おじさんは知らない人達に連れられて、とってもおおきなお城に来ています。


「うーー?」


でも、今はその連れてこられた人達と離れちゃったみたい。

おじさんがクレープなんかに目を輝かせていたせいかな?


「うーーっ!」


あっ、おじさん。

走っちゃ危ないよ?

いきなり走り出しちゃって、いったいどうしたんだろう?


「うぅっ!うぅっ!」


おじさんは一人のお婆さんの前に立ってピョンピョンと跳ねています。

お婆さんの手にはスイカが、
おじさん、それが食べたかったんだね?


「うぅ!」


でも、お婆さんは分けてくれるでしょうか?


「うぅ……」


おじさんがいくら物欲しそうな目をしても、お婆さんはぐったりしたっきりです。


「うぅっ」


きっと、このお婆さんは家族旅行に連れてこられたんだろうけど、
途中で足手まといと判断されてここに放置されてしまったのかな?


「うーー……」


おじさんはそんな哀れなお婆さんを励まそうと、園内にあるお花を摘みに行きました。
悪党が破綻した日
87 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:54:52.571 ID:J7EFiUnL0
「うーっ!!」


あっ、それはオダマキだね。

綺麗な白と青の可愛いオダマキです。


「うぅ?」


お婆さんは喜んでくれるでしょうか?

ちなみにオダマキの花言葉は『愚か』。

あのお婆さんにピッタリのお花かも?


「うぅ!」


おじさんはドキドキしながらお婆さんにお花を渡しました。


「うぅっ!!」

「……」


でも、お婆さんはぐったりしたっきり。

それもそのはず、だってお婆さんはもう息をしてはいないのですから。


「うぅ……」


おじさんがドキドキしながら渡したこのお花も、お婆さんは見ることはありませんでした。

何故ならお婆さんはもうドキドキすることもないのですから。


「うぅ……」


おじさんはお花を供えて、代わりにスイカを二切れ貰います。

もうドキドキ出来ないお婆さんには必要のないものだから。


「うぅっ!!」


おじさんはスイカを貰えてご満悦。

一切れは種も皮も綺麗に食べて赤いところだけ吐き捨てました。
悪党が破綻した日
88 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:56:27.992 ID:J7EFiUnL0
「うぅっ!!」


もう一切れは食べないの?


「うぅ」


あのワンちゃんにくっついてる虫さんにもあげたいのかな?

おじさん、あの子はカブトムシじゃないよ?


「うぅ?」


あれ?

そんなことをしていると、あの気色悪いお兄さんが近づいてきました。


「おっしゃん、なにしてんだじょ?」

「うぅぅ!」


はぐれちゃった仲間と再会できてよかったね。

おじさん。


「うぅ!!!」


でも、他の皆は?


「うぅ?」

「ん?あぁ、あいちゅらは城の方にいったじょ。お土産でみょ買いにいったのきゃな?」

「うぅー?」

「まったく緊張感のないやちゅらだよにゃ、不安の種でゃよ、あいちゅらは」

「うぅっ!」


おじさんにはこのお兄さんが何語を話してるのか理解できません。

今はそんな事より、お腹がゴロゴロしてるのが気になるみたい。
悪党が破綻した日
89 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:57:31.406 ID:J7EFiUnL0
「うぅ……」


さっきのスイカのせいかも?

そういえばスイカの種を食べると、おへそから芽が出ると聞いたことがあります。


「うぅぅぅっ……!」


もしかしたらお腹がスイカになっちゃうかも?


「うぅーーー!」

「どうしだんだじょ、おっしゃん」


おじさんは不安になってきました。

おじさんにとっての不安の種はどうやらこれのようです。



〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
90 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 03:58:56.775 ID:J7EFiUnL0
待田と女は城の方へと向かっていった。

俺の方は正直興味がなかったのでおっさんと一緒に池を眺めたりして時間を潰している。

おっさんは水面に映る自分の姿が不思議なのか手を振ったり威嚇したりしていて、たいへん微笑ましい。

指を水につけて離し、滴り落ちる雫で水面が揺れぐにゃぐにゃに変化していく自分の姿を楽しんだりもしていた。


「ひゃひゃっ」


俺は池にいた鯉を踊り食いしながら、そんなおっさんの様子を親のように見守る。

今は水面に映る自分とジャンケンしたりして遊んでいる最中で、
三回あいこになった後に、グーとチョキで水面の自分に負けた所だ。

水面のおっさんは不気味に笑っている。


「ひゃあ〜平和だにゃ〜」


そんな風にのんびり過ごしてると、一人の人影が背後に一歩一歩、迫りよってきているのを感じた。


「……ひゃあ」


俺は奴等だと思い覚悟したようにゆっくりと振り返ったが、
そこにいる人間はアドレス帳には登録されていない顔で驚く。

年は高校生くらいだろうか?
男のくせにポニーテールにして、腰には保冷性の高そうなポーチをたくさん巻いている。
そして周囲には謎の白い煙を纏っていた。

向こうも俺の顔を始めてみたようなリアクションで腰を抜かしながら叫びだす。
悪党が破綻した日
91 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 04:00:15.318 ID:J7EFiUnL0
「うわぁっ!!化け物!!」

「にゃんだと?」


俺の顔を見るなりとんでもない言葉を浴びせてくるガキに掴みかかるが、ポーチから取り出した何かで頭を殴られた。

何か割れる音がして、その後冷たさに襲われる。
どうやら氷で殴られたらしい。


「あああぁぁーーーっ!!」


俺が攻撃されたことに過剰に反応するおっさん。

俺は大丈夫と片手をあげながらガキを睨み付けるも、
さっきの衝撃で掴んでいた手を離してしまいガキは一気に俺から遠ざかっていた。


「待ちぇ!!」


俺はそのガキを追おうとするが、ガキはバックステップを繰り返しながら、またポーチから氷を取り出しいくつも投げつけてくる。


「ひゃあっ!!」


辺りに氷の割れる音が響いた。

俺はそれ避けるも地面に直撃し砕けた破片までは避けきれずジワジワと体を傷付けられていく。

初撃は身を守るために咄嗟にした行動と思うことも出来たが、今回の攻撃は明らかに殺意があっての行為だ。

どうやらこのガキ、俺の命を狙っているらしい。


「んちゅっ……!」


俺は忌々しいと舌打ちをする。

恐らく国旗男の携帯には登録されていないアガツマのメンバーなのだろう。
もしかしたら組織の末端か、俺を油断させるために金で雇った子供の殺し屋かもしれない。

だとしたらやられたな、
流石の俺も子供相手に本気は出せないではないか。

なんとかあのガキを傷つけないように手加減しつつ無力化しないといけないわけだが、これには少し骨が折れる。

あのガキも決して弱くはないだろうから。
悪党が破綻した日
92 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 04:01:31.258 ID:J7EFiUnL0
「よしゅっ!」


俺は覚悟を決めて、おっさんから生温いリボルバーを受け取りガキの頭目掛けて何発も撃ち込んだ。


「うわぁっ!!」


ガキはまぬけな声を出して床を跳ね回り銃弾を避けていた。

銃弾を避けるなんてやはりただ者ではないガキだ。

装填されている弾を全て撃ち尽くして、おっさんにリボルバーを返すと、
地を転がっているガキに駆け寄って得意のサッカーでもやるみたいに頭を蹴り飛ばしてやった。


「うぅっ!!」


しかし、両手でガードされたので今度は髪の毛を掴んで無理矢理立たせ、ゲームセンターの袋を頭に被せてボコボコに叩き回してやる。

ガキは抵抗してくるが、みぞおちに拳を埋めておとなしくさせる。
怯んだガキを何度も執拗に踏みつけてやり、ズタボロでフラフラになった所でこいつを池に投げ捨てて、おっさんから全弾装填し直してくれたリボルバーを受け取り、その池に向けて撃ち尽くす。

8発の銃声を園内に響かせて俺は汗を拭った。

一応、念のため近くにあった頭部大くらいの岩は全て池に投げ込んでおきながら。


「うーー」


当然、おっさんも手伝ってくれながら。


「はぁ……はぁ……」


俺はやっと一息吐く。

これでなんとか無力化出来ただろうか?

被害も考えうる限り最小限に抑えられている。

誰の血も流れてない戦場を見てホッと溜め息を溢した。

しかし……
悪党が破綻した日
93 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 04:02:37.552 ID:J7EFiUnL0
「ぶはっ!!……クソォッ!!!ふざけんなよ!変態ども!!」


池から聞こえる絶叫。

振り替えると牛乳缶のような見た目の物が投げつけられているのに気付く。

咄嗟におっさんから1発だけ弾を貰い装填。
それを撃ち落とすが、弾丸が触れた瞬間中に入っていた液体が周囲に飛び散った。


「ひゃあっっっ!!」


液体の一部が服にかかる。

一瞬の冷たさに襲われ、
その後、その部分はジワジワと凍っていく。


「こりぇは……液体ちっちょ!」


急いでその部分を剥がそうとするが皮膚とくっついて取れない。


「このガキっ!やっちぇくれたにゃ!!」


ガキは池から這い上がり、さらにもう1つ缶を取り出す。

その缶は密封性は高くないのか冷気が所々から漏れている。

奴の周囲を纏っていた正体はそれのようだ。


「氷やりょーが!!つめてぇぢゃねぇきゃ!!」

「そのまま凍ってろ!!クソジジイども!!」


また缶を投げつけてくる。

今度はスピンするように投擲してきたため、液体がスプリンクラーのように散水しながら向かってきた。
悪党が破綻した日
94 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 04:03:51.956 ID:J7EFiUnL0
「このガキ!!!」


液体窒素は短時間なら皮膚に直接当たっても問題ない。
まずいのは目にかかることと、服にかかることだ、
それを踏まえて現状で最適な防ぎ方を考える。


「っ……!おっしゃん!頼む!!」


たどり着いた最適解は裸のおっさんを盾にすることだった。


「うーーーっ!!」


液体をもろに浴びるおっさん。

ムダ毛の生えてない赤ちゃんみたいなおっさんの肌を滑らかに滑る液体。

俺はそのままおっさんを盾にしつつ、ガキの方へと走り寄っていく。


「来んじゃねぇよ!!変態ども!!」

「うーーーっ!」

「ひゃあぁぁぁあっ!!」


絶叫の後、そこで3人の男達が激突した。

 

〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
95 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 04:05:06.382 ID:J7EFiUnL0
あれからガキとの交戦は続き、逃げ回りながら俺達に攻撃を繰り出してくるヘタレ氷野郎を追いかけ、城内へと戦場を移していた。


「鬼ごっこはみょう終わりじぇ!」

「はぁ……はぁ……ちっ……」


城内のある一室でついにガキを追い詰める。


「ここで始末しちぇやりゅ!」


俺は途中で甲冑から奪った槍を手にガキへと襲いかかった。


「ちねぇ!!くしょガキぃ!!!」

「テメェが死ね!!!」


ガキは懲りずに液体窒素を取り出す。
しかし、この距離なら槍で簡単に叩き落とせる、無意味な行動だ。


だが……


「っ!!」


ガキは投擲せずに缶の蓋を右回しにする。

すると漏れ出ていた煙は消えた。

缶の中が密閉された瞬間である。

さらに中では何かポコポコと音が発生しているようだ。
恐らく右回しにした時、他のギミックがあったのだろう、例えば回した拍子に何か別の物質が液体の中に落ちるとか……


缶の内部からは沸騰したような音が響く。

それは今にも爆発────────


「がぁっっっ!!」

「あーーーーっ!!」

「っ!!!」


爆発しそうだ……そう思う前に缶は破裂し、この部屋にいた3人を激しく傷つける。

とても激しくだ。

それは例えるなら……
悪党が破綻した日
96 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 04:06:10.957 ID:J7EFiUnL0
『まゆみ……さっきの男だれだよ』

『えっ?昔の友達だよ?』

『昔の……?』


まゆみは昔からこうだ、俺の知らない男と……よく会う。


『うん。……あっ、ただの友達だからね?』


そんな一言を、こちらの心配を晴らすように付け加えるが、
そんなもの逆効果でしかない。


『その割には随分楽しそうだったな』

『えぇ?そりゃ仲良しだったからね』

『仲良し……』
 
『うん』


まゆみ……

俺がいるのになんで他の男と会えるんだ?話が出来るんだ?仲良く出来るんだ?

しまいにはその楽しかった思い出話までしてきそうな程にあっけらかんとしているまゆみに、俺は酷く腹が立つ。


『……まゆみ』


だから、俺はまたしてしまう。


『痛っ……ケンちゃん?どうしたの……』

『まゆみは俺の物だ……』


恋人なのにまるで犯すみたいにまゆみを……


『痛い……!痛いよケンちゃん……!』

『まゆみ!』

『やだっ……やめて!』
悪党が破綻した日
97 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 04:07:32.449 ID:J7EFiUnL0
……これくらいの激しさで、俺達の体を痛め付けた。


肌には冷却された鉄の破片が突き刺さり、液体窒素によって周囲は凍りつき、室内の酸素濃度は一気に減る。

死の空間が広がる瞬間だ。

 

「がぁぁぁあっ!!!!」


窓を突き破って外に出る俺。
小脇には知らないおっさんを抱えてだ。


「げほっ……げほっ!げほっ……しっきゃりしろ!おっしゃん!」


爆発の瞬間、おっさんは盾になってくれたらしい。
とんでもないダメージを受けたうえに、酸素濃度の低い空気を吸ったせいか意識もない。


「目ぇしゃませよ!おっしゃん!!」


おっさんの肩を必死に揺するが反応がない。
それでも何度も揺すり続けていると手の甲に氷柱が刺さる。


「ぐぅっ!!っ!!このっっ!!」


引き抜いて氷柱が飛んできた方を向くと、そこには俺達よりも間近で爆発を喰らいボロボロになったガキが窓から這い出てきていた所だった。


「邪魔すんにゃ!!お前もその傷じゃしにゅぞ!!」

「うるせぇ……!どのみち……お前ら殺さなきゃ死ぬんだよ…!俺はぁっ!!」


再び氷柱を取り出す。

先は細く鋭利に尖っていた。
悪党が破綻した日
98 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 04:08:37.602 ID:J7EFiUnL0
「消えろぉっ……!!化け物!!」

「クソガキがっ!!」


クナイのように投げられた氷柱。

避ければおっさんに当たる。

だから、俺は避けずにそれを発達した右中切歯で受け止めた。


「ふぅんっ!!」


それを投げ捨ててガキの方へと駆け寄っていく。


「ちっ……やってやる……!」


ガキはフラフラになりながらも構える。

俺を拳で迎え撃つつもりだ。

ならばこちらもと正々堂々ぶつかりにいく。


「うぉぉぉぉっ!!」


ガキの最後の力を振り絞ったパンチ。

それを俺は後ろに下がって避け、左の義足で顔面を思いっきり蹴りつけた。

たったそれだけの行動でガキは再起不能となり立ち上がらなくなる。

力尽きたように、眠るみたいにガキは地面に突っ伏して動かなくなった。

 

〜〜〜〜〜
悪党が破綻した日
99 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 04:10:00.378 ID:J7EFiUnL0
「おっしゃん……しっきゃりしろ……」


おっさんを担ぎながら車へと向かう。

とりあえず今すべき事は車を回収して皆を集めないといけない。

急がなくては……


「……っ!」


そう思った矢先、前方に可憐な少女が立ち塞がるように佇んでいた。

その子は幼い顔立ちで年は10にも満たない風貌、金色の髪は後ろでまとめていて、どこの国の子供だろうか。

しかし、多国籍化が進んだ今、外人の子供なんて特別珍しくともなんともない。

パッと見れば、家族とはぐれてしまった迷子にしか見えないのだ。

だが、雰囲気はその辺にいる子供達とは確実に違う……

何か禍々しいオーラをまとってるようで、
俺が国旗男のアドレス帳にあの子の姿を見ていなかったとしても警戒した事だろう。

その子の回りだけ空気が淀んでるようにも見えた。

ただの子供じゃない……

回りにいる観光客もただ者ではないオーラを感じてか少女を避けて歩いていく。


「……」


しばらく見つめあった後に、先に動き出したのは少女の方だった。

全身に金粉を塗りたくった、その少女は鉤爪を装着した右手をいつでも振り下ろせるよう構えながら時速40キロ……自転車をノーブレーキで坂を下るくらいの速度で一気に駆け寄ってくる。


「なっ!!」


あまりの速さに驚いて隙が生まれてしまう。

少女はその隙を見逃さなかった。
一撃で仕留めるように俺の首を切り落とそうと鉤爪は一直線に振り下ろされる。
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